木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談ー通し上演ー』 公演情報 木ノ下歌舞伎「木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談ー通し上演ー』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2017/05/30 (火) 14:00

    鶴屋南北の作品における「お岩さん」の怪談話はエピソードのひとつであり、
    実は当時の社会の縮図のような、濃密な世界を描いた作品であることがよくわかる。
    登場人物の個性が、それぞれの出自と生育環境の違いもあって鮮やかに描き分けられ
    その結果としての悲劇が際立つ。
    原作に忠実な現代語の台詞が的確で、普遍的な人の心情がストレートに響く。
    6時間の長尺にも拘わらず、アフタートークに残った人数が満足感を示している。
    いつもながらこれほど面白く、内容の濃いアフタートークを、私はほかに知らない。
    江戸の歌舞伎の時代性と勢いを、新しい装いで蘇えらせてくれてありがとう!

    ネタバレBOX

    おなじみ客席に向かって傾斜した舞台は、汚しの入ったような定式幕柄の床。
    もしかして役者さんは歩きにくいかもしれないが、
    この傾斜は本当にどこからも見やすく、奥行や距離感が解って好きだ。

    第一幕
    浅草寺境内で“ことの発端”がいくつか描かれる。
    伊右衛門は妻のお岩と復縁したいのだが、義父の左門は彼の素行の悪さを理由に拒む。
    お岩の妹お袖は、許婚の与茂七が主君の仇討ちの為、今は離れている。
    そのお袖に横恋慕する直助は、お袖と再会した与茂七の後をつけて殺害、
    伊右衛門も、激しく叱責されて左門を切り殺してしまう。
    お岩は父左門を、お袖は与茂七の亡骸を発見して悲嘆にくれるが
    犯人の二人はそれぞれ「敵を討ってやる」と持ち掛け夫婦として暮らすことになる。

    第二幕
    仇討ちを口実に復縁した伊右衛門とお岩、生活は困窮しお岩は産後の肥立も良くない。
    二人に仕える小平は伊右衛門の家に伝わる秘薬を盗んで伊右衛門に惨殺される。
    裕福な伊藤家からは度々見舞いの品などが届けられ、今日は薬がお岩に届けられた。
    が、その薬を飲んだお岩は突然苦しみ始める。
    一方伊藤家でもてなしを受ける伊右衛門は、大金を積まれて
    「孫娘の梅と結婚してほしい」と乞われるが、一度は妻があるからと断る。
    しかし、お岩に毒を盛ったこと、顔が変わるであろうことを聞いて決心する。
    お岩は失意のうちに命を落とし、伊右衛門は梅を妻とする。
    ある日、伊右衛門が釣りをしていると戸板が流れつき、そこには
    お岩と小平が打ち付けられていた。

    第三幕
    与茂七の仇討ちの為、直助と仮の夫婦になっているお袖は、
    ある日家にやって来た按摩からお岩の死を聞かされる。
    その夜お袖を訪ねて来た与茂七を見て、殺したはずなのにと、直助は驚愕する。
    与茂七を亡き者にしたい直助と、仇討ちを知る直助の口を封じたい与茂七。
    お袖は二人別々に策を持ちかけ、二人は隠れているのがお袖とは知らずに襲撃する。
    お袖は二人に詫びながら死ぬ。
    伊右衛門に惨殺された小平は、かつて仕えた又之丞が病のため歩けないのを
    何とか救いたい一心で伊右衛門の家から高価な薬を盗んだのだった。
    その薬を飲んだ又之丞はたちまち歩けるようになる。

    七夕の夜伊右衛門は美しい女と出会い、恋に落ちる。
    身を隠していた庵でその夢から覚めた伊右衛門は、ついに与茂七の手にかかる…。


    スピーディーな場面転換、ヘリの轟音でいや増す不穏な空気、観ている私も
    ロックとラップのテンポに巻き込まれながら登場人物と共に奈落の底へと転げ落ちる。
    忠臣蔵をバックに、凋落した一族と栄華を誇る一族の対比も鮮やかな人間模様。
    現代の比ではない格差社会の、やり場のない鬱積したエネルギーが
    負の方向へと向かっていく様がとてもリアル。
    登場人物はみんな少しズルくて少し依存して、でも優しいところもある。

    お岩(黒岩三佳)お袖(土居志央梨)の姉妹がたおやかで声も良く品がある。
    武家の娘である故の“仇討ち”に縛られる人生の哀しみが伝わって来る。
    按摩(夏目慎也)の、土壇場でお岩に対する態度の豹変ぶりがリアルで説得力あり。
    エネルギーがほとばしるような本音の台詞が迫力満点。
    第一幕で一瞬登場する按摩の妻を演じた小沢道成さんの
    「どこの女優さんか?」と思うなめらかな女っぷりに目を見張った。
    難病の浪士役にも色気があって、実に魅力的。

    出世のために愛する女を裏切り、結局すべてを失ってひとりになった男。
    「お前は何がしたかったんだ?」という問いかけが本当に虚しく響く。

    アフタートークでも語られたが、原作の台詞を忠実に現代語訳する
    卓越したセンスがこの作品のキモだろう。
    古典の持つ品格と下世話な猥雑さと、庶民の行き場の無いエネルギーの放出。
    それらを今に再現する木ノ下歌舞伎の底力を見た思いがする。
    杉原氏はキノカブを卒業とのことだが、また次の作品を見るのを楽しみにしている。
    何たって最強タッグにちがいないのだから。
    半日コース、楽しかった、ありがとうございました!








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    2017/05/31 15:15

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