天守物語
少年社中
紀伊國屋ホール(東京都)
2019/08/02 (金) ~ 2019/08/12 (月)公演終了
満足度★★★★★
圧倒的なジャパニーズ・ダークファンタジーの面白さ!
力のある役者陣が、ファンタジー度を上げた脚色で
緊張感溢れるストーリーを繰り広げ、息つく暇もない。
衣装の美しさ、シャープな立ち回り、良く通る美声と
目にも耳にも麗しい舞台だった。
人も妖(あやかし)も何と弱く哀しいのだろう。
ネタバレBOX
舞台は白鷺城の天守閣、ここには巨大な獅子頭を祀る妖(あやかし)が棲んでいる。
殿さまの言いつけで鷹を追って来たひとりの若武者がここへたどり着き
美しい妖の富姫と出会い、恋に落ちる。
人間と妖の交わりは許されず、二人の種を超えた思いは絶望の色濃く・・・。
若武者図書之助の父もまた、かつて富姫に心を奪われ家族を捨てた過去がある。
妖は人間を殺すと鳥になる、鷹もまたかつて憎い人間を殺めて鳥になった。
もがきながらも心のままに生きたいと願う図書之助の弟の存在。
といったエピソードが自然な流れで組み込まれており
ストーリーに膨らみを持たせている。
しがらみに捉われてもがく人間と、心のままに生きる妖。
天変地異を妖のせいと思い込んで、妖を目の敵にする人間の愚かしさ。
それらがくっきりと浮かび上がってとても解りやすく感情移入させる。
登場人物のキャラに奥行きがあるのは役者陣の力だろう。
群舞の力強さ、衣装の美しさも楽しませてくれる。
富姫役の貴城けいさん、きりっと伝法な一面と恋する女の艶、
両面を鮮やかに演じ分けて大変素晴らしい。
図書之助を演じた廿裏裕介さん、久しぶりに涼やかな若侍を観た感じ。
誠実な、それゆえに禁断の恋に突き進む姿が清々しい。
薄役の堀池直毅さん、美しい姿勢で硬軟併せ持つ魅力的なキャラを表現。
鷹役の納谷健さん、素晴らしい動きで強靭な意思を持つ鷹を演じた。
舞台上にいる間は、常にこの鷹の動きに目を奪われた。
ラスト、「視力を失って生きていても苦しいだけ」と嘆くふたりに
獅子頭の化身のような、飲んだくれの近江之丞桃六(北村諒)は
「生きることは苦しむことだ」と目を治して背中を押す。
なぜ生きるのか、なぜ苦しいのに生きるのか、それに対する明確な答えを
2人に告げ、その結果二人は苦難の道を共に歩む覚悟を決める。
この舞台の強いメッセージとなって心に残る。
Vol.1「Beautiful Losers」
劇団マリーシア兄弟
Geki地下Liberty(東京都)
2019/07/25 (木) ~ 2019/07/28 (日)公演終了
満足度★★★★
アイドルのライブが行われる劇場の控室に、マネージャーや社長、
プロデューサーや次の脚本を依頼する作家などが集まって来る。
そこは、叶わなかった夢や、いまだ追い続ける夢、そして新しい夢の
交差点でもあった・・・。
脚本・演出がいつものマリーシア兄弟の三三三三ではなく大浦力になっている。
それが意味することは定かではないが、今までの脚本の中で一番良かった。
劇中、作家が目指す演劇を語る台詞は、そのまま大浦氏の目指すところだろう。
不器用な男たちのぶっきらぼうな“仲良しぶり”が嫉妬するほどいいなと思う。
ネタバレBOX
いつもながらテーブルと椅子が数脚のさっぱりした舞台。
ここはアイドルのライブが開かれる劇場の控室。
アイドルグループのメンバーたちはひとつの事務所に所属しているのではなく
いくつもの事務所が何人かずつアイドルを出し合って構成されている。
その事務所のマネージャーや社長たちの中に、元役者が2人いた。
アイドルグループのプロデューサー(狩野健太郎)は
劇作家の国定(大浦力)に脚本を依頼している。
アイドルグループのメンバーに芝居をさせたいと考えているのだ。
訪れた国定を見て驚きの色を隠せない元役者の友哉(佐々木祐磨)と真人(森山匡史)。
かつて2人は国定が主宰する劇団のメンバーだったのだ。
あるとき国定は誰にも相談しないままフランスへ旅立ち、
後は鷲尾(竹田茂生)が引き継いだものの、その後劇団は空中分解してしまった。
ギクシャクする国定と2人、間に入る鷲尾・・・。
不器用な男たちが素直に自分をさらけ出して再び共に転がり出すまでの物語・・・。
大所帯になっても男だらけ、今度もやっぱりマリーシア!
“変人”大浦、じゃなくて国定の演劇論がアツい。
フランスで喧嘩を売って仕事を干され、日本に戻って来た、という
いきさつからも解るように、淡々と語りつつその演劇論はある意味過激だ。
それがマリーシアの主宰としての大浦氏の信念と重なって超リアル。
伝えたいことが明確な分、無駄を省いた台詞が効果的に刺さる。
“日常の一部”を芝居にするのは実は最も難しい。
何でもない普通の会話をそぎ落としてメッセージを伝えるには
リアルなぐだぐだと鋭いキメの台詞の両方が必要で、
今回そのバランスがとても良かったと思う。
また客演の竹田茂生さんが持つこなれた雰囲気が業界らしさをアップ、
この方の台詞で出入りの多い舞台が落ちつく。
だんだん飛び道具的領域に達して来たキヒラさん、
今回も困ったファンクラブ会長がドンピシャで噛んでも噛まなくても面白い。
キャラの面白みが存分に活かされていた。
いつもと違う、と思って良く見たら佐々木祐磨さんの髪が黒い!
金髪が多いこの方が黒い髪にしたら、無理して自分らしさを押し殺している
友哉というキャラにぴったりと重なり、効果絶大。
キレの良い台詞も相まって真人役の森山さんと実に良いコンビネーション。
狩野健太郎さんが衣装のスーツ姿で客席への誘導をして下さってびっくりした。
実は物わかりの良い人間味あふれるプロデューサー役がとても合っている。
アテ書きの良さもあるが、職業に自分を落とし込むのは役者の作業、
それがとても上手くいって“らしさ”が自然に出ていた。
あとはせっかくの厳選した台詞を役者がどこまで咀嚼するかだろう。
日常会話だけに、細部を伝えられなければメッセージ力は半減する。
台詞量に負けず、より“メッセージを伝える”精度を上げて欲しい。
照明や音響に頼らないということは、役者だけが頼りということだ。
脚本のレベルが上がり、観客の期待度も上がる。
高くなったハードルを越えるには、作家と役者が
同じ高さまでジャンプする必要がある。
マリーシア、これからもっと面白くなる劇団だと思う。
次も楽しみにしています。
「明日も頑張ろう」と思えた舞台でした。
大洗にも星はふるなり
ブラボーカンパニー
駅前劇場(東京都)
2019/07/17 (水) ~ 2019/07/23 (火)公演終了
満足度★★★★
再演を重ね映画化もされた、今や売れっ子福田雄一氏脚本・演出の作品。
クリスマスイブの日に、かつてバイトで一緒に働いた男たちが海の家に集結。
個性あふれる7人が魅力的で、予想の展開も心地よい安定感になる。
最後はちょっと予想外で、これまた温かくほろりとさせるあたり巧い。
大洗の海の家は、毎年帰りたくなる“みんなの家”だった・・・。
ネタバレBOX
8月31日を以て終了、取り壊すはずの、大洗にひとつポツンと残る海の家。
ここにクリスマスイブの日、かつて共に働いた6人の仲間たちが集まってくる。
彼らは全員、同じ女性からの手紙を手に期待を膨らませていた。
その女性、エリカちゃんと、クリスマスデートこぎつけるのは一体誰か?
取り壊し手続きのために現れた弁護士も加わって
誰が一番「好きか」「好かれているか」の検証が始まった・・・。
想定内の展開ながらその安定感が心地好いのは、丁寧なキャラ設定のおかげ。
誰もがエリカちゃんとの幸せなエピソードを持ち、
だけど一歩踏み出せなかった後悔を持ち、
だから今度こそはという意気込みを持って来ている。
最終的に一人に譲る優しさを持った男たちが清々しい。
皆さん熱演でこなれ感もあり、安心して観ていられる。
前回公演にはいなかったという保坂聡さん、後半登場して
一気にストーリーを動かす美味しい役だが
朴訥な感じが功を奏して好感度がぐんと上がる。
来年もここ大洗で、彼らが集結してひと夏を過ごせますように。
その時一人も欠けることがありませんように。
そう祈りたくなる舞台だった。
あんたのことなんて誰も見てないツアー2019
MCR
OFF OFFシアター(東京都)
2019/07/16 (火) ~ 2019/07/17 (水)公演終了
満足度★★★★
劇団員、元劇団員と客演の皆さんが劇団の歴史を語り、再現しながら
劇団員の秘密をばらしまくる、という
罵詈雑言飛び交う実にMCRらしい25周年特別公演だった。
個人的には、本番前に緊張のあまり泣いてばかりいた伊達さんが
こんなに櫻井さんを罵詈雑言でいたぶることが出来るようになったなんて
本当にその成長ぶりが頼もしく嬉しい(^^♪
ネタバレBOX
劇団結成のいきさつや存続の秘話、黒いつながり、修羅場、などが
「私小説風」に語られて行く。
挨拶で「SNS等で拡散しないでください」と呼びかけるような暴露話の中には
時の流れが解決してくれたこともあっただろうが
結構大変だっただろうと思われることも…。
リアルで爆笑連続のエピソードの数々を超えて
いまだにメンバーとして活動しているのは
ひとえに「演劇が好き、櫻井さんが好き」という事なんだろうな。
だってそうとしか思えないんだもの。
櫻井さんのいい加減でちゃらんぽらんな人となりが見られて楽しかった。
これは大切なことで、真面目なきちんとした人なら公務員にでもなればいい。
アブナイ橋を渡って来たからこそ書ける芝居があるはずで
それがあのピリッとした緊張感が走る台詞と間になるんだなあと思った。
おじいさんになった櫻井さんが書くものを観てみたい。
伊達さんも堀さんも観たい!
25周年、おめでとうございます、これからもっずっとMCR。
男女逆転〈マクベス〉
ワンツーワークス
赤坂RED/THEATER(東京都)
2019/06/20 (木) ~ 2019/06/30 (日)公演終了
満足度★★★★
逆転するのは性別ではなく、その役割。
つまり女が戦い、男は家を守る。
冒頭から武器を手にした女性たちが登場、斬新な感じはするが
若干の物足りなさは、いかんともしがたい線の細さから来るのかも。
魔の者の動きなど演出が面白く、目が離せないシーンが多い。
ネタバレBOX
言わずと知れたシェイクスピアのマクベス。
スコットランドの将軍マクベス(関谷美香子)とバンクォー(小山萌子)は、
ノルウェー軍を討伐してダンカン王(有希九美)の陣営へ戻る途中、
魔の者たちから予言を受ける。
「マクベスはコードーの領主、ついで、スコットランド王となる」
「バンクォーの子孫が王になる」
その直後王よりの使者が、マクベスがコードーの領主に格上げされたことを
伝え、予言が現実味を帯びる。マクベスは王位への野望を抱き始める。
予言に導かれるようにマクベスはダンカン王を殺害して王位に就くが、
バンクォーの子孫が王になるという予言が恐ろしく不安に駆られる。
やがてバンクォーをも殺害したマクベスは、彼女の幻影に苦しめられ、
気弱なマクベスをさんざん唆して来た夫(奥村洋治)もまた狂気の果てに死ぬ。
ダンカン王の2人の子どもはそれぞれイングランドとアイルランドへ
逃亡していたが、イングランドの援軍を得て、
マルカム(北澤小枝子)が復讐に立ちあがる。
そして魔の者の予言に踊らされたマクベスはついに討ち取られる・・・。
ストーリーが面白く、テンポも良いのでやはり引き込まれる。
戦う女たちは凛々しく威厳もあるが、どうしても線の細さが頼りなく
舞台全体が華奢になった印象を受けるのは私だけだろうか。
戦い慣れ、殺陣慣れしていないせいかもしれないが。
マクベスの夫の、強気だが次第に壊れていく様や
魔の者たちの邪悪な表情が良いスパイスで全体を引き締める。
魔の者たちの動きがとても効果的な演出で目が離せなかった。
アフタートークの「公開ダメ出し」で古城氏の言うことが良く理解できた。
キャストと演出家の信頼関係が出来ているからこそできるのだろうが
チームの雰囲気の良さも伝わって来て面白かった。
それにしてもやはりシェイクスピアの台詞は素晴らしい。
色々な人がいろいろな演出で口にしてみたくなる台詞なのだろう。
THE NUMBER
演劇企画集団THE・ガジラ
ワーサルシアター(東京都)
2019/06/18 (火) ~ 2019/06/23 (日)公演終了
満足度★★★★
導入部分が判りにくいので、入り口が見つからずに周囲をうろうろする感じ。
だが一旦入り込めば、途切れない緊張感と迫力が素晴らしい。
自由と引き換えに「幸福」を手にしたはずの集団「われら」の中に
少しずつ疑問を抱くものが現れ、周囲に影響を及ぼしていく。
その葛藤と疑心暗鬼が強い緊張感を呼ぶ。
田村真帆さん、ステージごとに疲労困憊じゃないかというほどの熱演。
緩急自在の千葉哲也さん、およそ管理社会に不似合いな
得体のしれない男にドンピシャでハマりすぎ。
コントロールしようとすればするほど、本能は頭をもたげるものだ。
ネタバレBOX
客席に入ると、舞台上、既に一人の女性が椅子に座っている。
目隠しをされ、長い鎖に繋がれているその手には1冊の手帳。
この手帳に書かれた内容、つまりこの女性が見聞きした事実が
これから再現されるのだ。
200年戦争で人類の大半が死滅した世界、優勢遺伝子のみを残すため
グリーンウォールと呼ばれる壁で囲った世界で生きる人々。
ナンバーで呼ばれ、ホルモン注射で老いを知らず、体外受精で子孫を作る。
そしてこの女性D503は、ジャッジメントと呼ばれる裁判の判決を待っている。
壁の外にいる“古代人”と同じように“本能”に従って行動した罪で・・・。
もう1000年も壁の内側で生き続ける管理社会の人々。
安全と進化を優先した管理社会では「個」は罪であり、反論する者は排除される。
インテグラルと呼ばれる管理システムとその中枢は神の如く絶対だ。
モニターをOFFにすれば大丈夫と信じて本音をさらけ出していたのに、
実はOFFにしてもインテグラルに筒抜けだったという衝撃は、
そのまま当局が“古代人の本能”をいかに恐れているかを物語る。
信頼と裏切り、進化と古代人、そして「自由」と「幸福」。
共存できないもの同士がせめぎ合う様は緊張の連続だった。
D503(科学局)役の田村真帆さん、緊張と警戒心でいっぱいの台詞が
この社会の息苦しさを体現している。
S4711(幸福局)役の岩野未知さん、柔らかさとしたたかさを併せ持つ
一筋縄ではいかないタイプを魅力的に演じている。
そしてI330(宇宙局)役の千葉哲也さん、本心はともかく
本能的にサバイバルしながら生き抜く強烈な男が印象的。
「原子レベルから消滅」か、「両眼を失って老いて行く」か、
私ならどちらの罰を選ぶだろう?
ONとOFFのセレナーデ
ことのはbox
阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)
2019/06/05 (水) ~ 2019/06/09 (日)公演終了
満足度★★★★
チャットの会話のテンポと、テーマのある種“薄暗さ”が実に好対照。
次第に明らかになる「ヤリタイ」の仕事、そして彼のキャラの意外な激変。
切なく下世話なONとOFFのバランスの上に
自分も立っているのだと考えさせられた。
最後に役者が挨拶を終えて舞台を降りる時まで、物語は続いていた・・・。
ネタバレBOX
下手側、ひとりの男が、デスクのパソコンモニターに向かっている。
舞台正面には二つの窓。
チャットの相手が二人、こちらを向いてキーボードを打っている。
暗闇の中、3人だけが浮かび上がって
カタカタという軽く切れの良いキーボードの音、
打っている内容が台詞になってポンポンと会話が弾む。
今度オフ会で初めて会おうという計画を立てる3人。
最近参加してこない「シタイ」がオフ会に来るかどうかを気にしている。
ここは、デスクに向かっている男、ハンドルネーム「ヤリタイ」の職場。
彼は、病院と契約している葬儀社のスタッフとして院内の一室で待機している。
次に死にそうなのは誰か、リストを見ながらただ待ち続ける。
だがよりによってオフ会の日、葬儀が入り「ヤリタイ」は会場に向かう。
そこで彼が目にした光景は・・・。
オノ・ヨーコの歌の歌詞がヒントになるミステリー仕立ての展開が巧い。
次第に明らかになる緊張感と、差し込まれるチャットの軽やかさが対照的。
ちょっと他人のプライバシーに踏み込み過ぎるキライはあるが
知りたがり屋の本性を隠さず行動すればこういう事か、とも思う。
「ヤリタイ」のクールで人間関係に距離感を置くキャラ、
「人の死」が利益をもたらすことに対する後ろ暗さも感じるが
並行してマージンのための交渉を持ちかけるしたたかさもある。
それらとチャットでの明るく率直な一面とのギャップがとても面白い。
ここには、ひとの心の二面性、現実と仮想空間、表と裏、生と死、
全てのものが背中合わせに共存する、私たちの日常が描かれている。
観ている私も、「ヤリタイ」のバックグラウンドが明らかになるにつれて
彼の思考に近づいて行くのが不思議だ。
ただラスト、「ヤリタイ」の選択の急激な転換には若干“力技感”を覚えた。
だからと言ってどうすればいいのかはわからないけれど。
「ヤリタイ」と「シタイ」の舞台挨拶後のハケ方が心に残る。
そんなの俺の朝じゃない!~再び~
ライオン・パーマ
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2019/05/15 (水) ~ 2019/05/19 (日)公演終了
満足度★★★★
定年を迎える火山火山(ひやまかざん)はその名の通り
火のように熱い思いを持つ男。
人生無遅刻で生きてきた彼が定年を迎え、最後の出勤の朝となる。
スケールの大きい家族愛と、スケール大きすぎる出勤手段。
それをアナログ感満載で表現するこの劇団のテイストが楽しい。
もはや飛び道具の域を超えているヅカが最高!
ネタバレBOX
その昔、女が自分でなく火山(橋本一郎)を選んだことを恨み、
火山の無遅刻記録達成を阻止しようと暗躍する男(加藤岳仁)。
彼の息子(瀬沼敦)や火山の行く先々に現れるオジサンの妨害にもめげず
火山は最後の無遅刻出勤へと出発する。
父の偉業を応援するべくはせ参じた4人の子どもたち、
そして「真面目なだけじゃダメ。先が読めない男がいいのよ!」
という理由で火山を選んだ妻(まじまあゆみ)や、
謎のキオスク嬢とその一家の応援を背に受けて、火山は行く・・・。
3人の息子と1人の娘(美那瀬)、その娘のヅカ度が高くて素晴らしい。
かねてヅカぶりは定評があったが、一層進化を遂げている。
出て来るだけで楽しいし、振り切れ具合が半端ない。
美那瀬さん名前、「オスカル」に変えてもいいんじゃないか?
「釣りはいらん、取っておけ、平民!」とか
私もいっぺんタクシーの運ちゃんに言ってみたいわ。
男の価値観とこだわり、そのレベルと表現方法は数々あれど
大切なものを傷つけてまで貫きたいとは思わない、という
火山の潔さは観ていて小気味よく、爽快。
「そんなの俺の朝じゃない」という彼はとても魅力的だ。
ところどころに差し込んでくるギャグも効いている。
加藤さんの転がるような(?)台詞回しも相変わらずで
この劇団の安定した実力を堪能した。
死んだら流石に愛しく思え
MCR
ザ・スズナリ(東京都)
2019/05/09 (木) ~ 2019/05/15 (水)公演終了
満足度★★★★★
初演も観たがやっぱりすごい芝居だ。
あの目、あの迷いの無い台詞、殺人鬼の2人が素晴らしくて
思わず感情移入しそうになる。
刑事とのやり取り、一体どんな風に稽古するんだろう?
たたみかける櫻井刑事の罵詈雑言と
私の好きなほっぺぶるぶるさせる熱い堀さんにしびれた。
ネタバレBOX
自宅で売春しながら女装させた息子にそれを見せるという
そんなクズ母の元で子どもがすくすく育つわけがない。
どんな風に育つかというと、川島(川島潤哉)のようになるんだな。
その母親を皮切りに、川島は殺人を重ねていく。
一方奥田(奥田洋平)は快楽殺人タイプ。
天使のように純粋な奥田の妹(後藤飛鳥)と2人の殺人者は
町から町へ、人を殺しながら旅をする。
だがやがてそれが崩壊する日が来る・・・。
同じ殺人者でも全くタイプの違う2人。
登場しただけですべてを語っているような、奥田の目つきが素晴らしい。
思考を素通りして、殺人という行為に直進する異様さを見せつける。
さらにそれを隠そうともせず、刑事らと会話する姿にハラハラする。
直接的な場面よりもはるかに緊張感がある。
川島の悲惨な生い立ちと、歪んだ価値観には大いに同情する。
怒りと失望の行き場が「殺す」ことにしか見いだせない川島は
大切な人までも手にかけてしまう。
彼が思いとどまって殺さなかったのは、友人堀(堀靖明)だけだ。
今回改訂版として“ほぼ新作”のよう、と謳っているが
あまり根本には影響していないと思う。
元が強烈なので、周囲をいじっても根幹に変化はない感じ。
唯一、殺されなかった堀が面会室で川島と向き合う場面、
あれは良かったと思う。
「どうして俺を殺さなかったんだ?」と尋ねる堀に川島は答える。
「堀君の中の自分を殺すような気がしたから」
堀はただ一人、異常な自分の中に残された「普通の、健全な部分」を見ていた。
もはや「普通の自分」は、堀の心の中にしか存在しない。
堀を殺すことは、その自分までも殺してしまうことになるのだ。
奥田と川島が二人で、大きな包みをテーブルに置いたとき、
中から人間の首がたくさん出て来るような気がした。
が、転がり出てきたのは、大量のグレープフルーツだった。
ふたりはそれを片っ端から貪り食う。
享楽の果ての結末が、果実の苦味に重なる印象的なシーンだった。
川島が奥田と決定的に違うのは、殺人に喪失感を伴う事ではないか。
殺人者としては致命的な弱点かもしれない喪失感は、そのまま孤独につながる。
それはラストシーンに端的に表れている。
ハッピー・new・メリークリスマス
劇団マリーシア兄弟
Geki地下Liberty(東京都)
2019/05/09 (木) ~ 2019/05/12 (日)公演終了
満足度★★★
罪状も理由も違う6人の囚人たち。
そのうち4人が、会いたい人に会いに行くため脱獄を計る。
でもだからって穴を掘るとは・・・とってもクラシック(笑)
伝説の大泥棒の謎解きと、テンポ良く繰り出される台詞が魅力。
あと少し台詞を絞ったら、もっとキャラが立って
光る台詞がいくつもあったのが惜しい。
ネタバレBOX
真黒な布団と枕が並んだ大人の修学旅行のような部屋。
どこか古風な名前を持つ6人の囚人のうち、
4人は今日も脱獄目指して穴を掘っている。
中でもスリ(佐々木祐磨)は、毎年4月1日には
脱獄してママに会いに行くと決めている、リーダー格。
彼に従うのは逃がし屋(キヒラユウキ)、結婚詐欺師(貝原伶)、
こそ泥(土屋洋樹)、と若干小物感漂うちょっと危うい3人。
そこへサンタの格好をした模範囚の空巣(大浦力)が登場。
冷やかに見守る金庫破り(森山匡史)は「やめとけ」と言うが
果たして脱獄は成功するのか・・・?
佐々木祐磨さんの台詞はテンポもキレもあって説得力がある。
強いキャラが中心になって周囲が絡みやすくなっているのを感じた。
伝説の大泥棒の存在がとても面白かった。
映画「ユージュアル・サスペクツ」の絡みも効いている。
足を引きずっていた彼が次第に普通に歩いて行くラストは
広いスペースでゆっくり魅せて欲しかった気がする。
愛すべき6人の囚人たちが、何故犯罪者になってしまったのかを
ニックネーム→罪を犯した理由→捕まった理由→脱獄の理由・・・みたいに
ストレートなプロフィール紹介の方が、一人ひとり印象に残ると思う。
囚人たちの一つひとつのエピソードに、何らかの形でカイザーが関与しており
彼らの人生を狂わせてしまったという贖罪の気持ちから
“脱獄できるのにしない”で彼らを見守っているのだとしたら、
これはもうホロリどころか号泣ものだ。
金庫破りの森山匡史さんがキャラにはまって面白かった。
マリーシアはどんどん面白くなっている劇団で、最新作がいつも一番面白い。
再演するからにはバージョンアップが期待されるような劇団になっている。
ハードルが上がったことを楽しんで、面白いものを書いてください、三三さん!
次の作品も楽しみにしています。
背中から四十分
渡辺源四郎商店
ザ・スズナリ(東京都)
2019/05/01 (水) ~ 2019/05/06 (月)公演終了
満足度★★★★★
吐露する男、吐露する女、見ず知らずの二人が
背中でつながるまでの謎解きに惹きつけられる。
斎藤歩と三上晴佳、まったくなんて役者だろう!
癒されていくのは彼の背中か、私の背中か・・・?
私の両隣の男性客がボロ泣きしていた。
深い揺さぶりに浸った1時間35分。
ネタバレBOX
東北の場末の温泉地、ホテルの最上階8階の部屋が舞台。
案内されて部屋に入って来た中年男(斎藤歩)は、やたら金払いが良く、
ここで待ち合わせている誰かと頻繁に電話でやり取りしながら
連れの到着を待っている。
やがて待ちくたびれた男がマッサージを頼むと
女将(天明瑠璃子)やスタッフ(山上由美子)が止めるのも聞かずやって来たのは
大いに“ワケアリ”気味なマッサージ師、せつこ(三上晴佳)だった。
ここから命がけのマッサージが始まる・・・。
ホテルの部屋に入って来た時から、中年男の落ち着きの無さ、
自棄になったような金の使い方、無理難題を吹っ掛ける傍若無人ぶりなど
本来の彼とは違うキャラになっているような不自然さが目に付く。
それらが“絶望の果ての決断をした人間”に特有のテンションであることが
終盤、彼が心情を吐露して初めてすとんと腑に落ちる。
これはせつこも同じで、男の吐露に応えるように
せつこもまた問わず語りに心情を吐露する。
今日初めて出会った二人が、互いの絶望に共感した結果
誰にも言えなかった胸の内を吐き出し、共有する。
強烈な共通点が、時間を超えて人を結びつけることを見せつける。
洗練された役も似合いそうな斎藤さんが、
歩き方や姿勢に絶妙なくたびれ感を醸し出していて秀逸。
客と話しながらマッサージするのが身についているかのような
三上さんの自然な台詞回しが素晴らしい。
一体何があったのだろう、という興味が途切れることなく、
というかどんどん大きくなっていく展開の巧さは
畑澤氏ならではの台詞の面白さ、エピソードのリアルさ。
どんなに傷んだひとでも、きっと誰かに救われる。
誰かを救うと自分が救われる。
今日、マッサージしてもらったのは私だ。
背中から癒されたのは、私だったのだ。
ありがとうございました。
疾風のメ
くちびるの会
吉祥寺シアター(東京都)
2019/04/17 (水) ~ 2019/04/22 (月)公演終了
満足度★★★★
気弱な男が、自分の能力と向き合い成長していくストーリー。
ラスト、回収しきれないまま終わってしまった感が残念。
たとえ解決できなくても、関わったすべてのエピソードそれぞれの
“その後”が知りたいと思った。
役者さんの隙の無い布陣は素晴らしい。
ネタバレBOX
楠(野口オリジナル)は誰かを傷つけることを怖れて
煮え切らない事なかれ主義になり、そのおかげで
彼女に去られたり、池袋でカツアゲに遭ったり、
介護の職場で損な役回りをさせられたりしている。
その根本には「相手を睨むと風を起こす」という彼の特殊な能力があった。
時に人をひどく傷つけるこの己の能力を、彼は怖れていたのだった。
しかしある日、彼はその力を「誰かを守るために」使うことになる・・・。
華奢な色白王子、野口オリジナルさんが最初から最後まで
きちんと服を着ていることが新鮮!
優柔不断で曖昧な着地点ばかり探っていた彼が、
自分の力と正面から向き合うことで、否定から肯定へと変化していく。
野口オリジナルさんのキャラによく合って
その変化のプロセスがとても面白かった。
落ち度もあったが、誤解も受けて介護の職場を追われる坪井役の
藤尾勘太郎さんが強烈な印象を残した。
リアルな佇まいと、コンビニ店員に転じたのちのクールな言動が
そのキャラをとても魅力的にしている。
すごいんだか困った人なんだか、よく判らない(たぶん両方)
門倉を演じた丸山厚人さんが濃いキャラでこれもまた強烈な印象。
うまくいかない人生の果て、すべてを吹き飛ばす強風を起こす崖っぷちの楠。
自分の目が起こす風に意味など要らない、吹かせればいいのだ。
ラスト清々しい気持ちで風を起こすが、自分の頭と背中に看板が刺さる。
自分の能力のために、結局重い十字架を背負う楠がキリストに見える。
特殊な力と同時に十字架を背負った楠の日常はどうなったのか。
彼女は戻ったのか?職場は変化したのか?
知りたいことはたくさんあるのに「想像してください」かな?
若干消化不良で、「タカさんの結末を見せて下さい」と思った。
どこかポップンのテイストも感じた今回の作品、
なかなか力強いファンタジーであったと思う。
Speak of the devil『DJANGO Ⅴ』
劇団S.W.A.T!
「劇」小劇場(東京都)
2019/04/11 (木) ~ 2019/04/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
初めての劇団、フライヤーからもう少し
“ゴシック・ホラー”テイストを想像していたら、
見事に裏切られてとても楽しかった!
ちょっと昭和でレトロな笑いが温かく、大いに笑った。
ジャンゴのキャラが素晴らしく魅力的でいっぺんにファンになった。
難易度の高い笑いを成立させているのは良く鍛えられた役者の振り切れた演技だ。
ネタバレBOX
老人ホーム「おだやかな郷」では日々老人たちがバトルを繰り広げている。
麻雀パイを取り合い、取り合っていたことを忘れ…を繰り返しながら。
その争いの中で一人の老人が呼んでしまったのだ、彼を。
「悪魔に魂を売ってもいい!」と叫んで。
呼ばれた悪魔ジャンゴ(瀧下涼)は、契約書を持ってサインを迫るが
老人たちはいざとなると怖気づく。
そんな中、ジャンゴより格上のライバル悪魔が現れ、契約を横取りしようとする…。
老人役の役者さんがとてもうまく老けていて自然。
こういうところはリアルでないと、全体の説得力が弱くなるから大事だと思う。
笑いのツボも楽しめた、「野グソ」とか。
麻雀の卓から出てきたのには笑った。
閣下が出てきたときも笑ったなあ!
一瞬本物かと思ったわ。
役者陣が皆、迷いなく振り切れていて素晴らしい。
隙のない布陣でシラケる余地がないのもすごい。
とても鍛えられた劇団なのだと感じた。
悪魔のくせに「人助け」
悪魔のくせに「人情家」
悪魔のくせにいいヤツでまた会いたくなる。
ジャンゴ、また冷蔵庫から出てきてね。
あくまでも悪魔として。
R.U.R.
ハツビロコウ
小劇場 楽園(東京都)
2019/03/26 (火) ~ 2019/03/31 (日)公演終了
満足度★★★★
100年前に書かれた作品だと思うと、その問題提起のリアルさに驚く。設定を現代に置き換えても違和感無い緊張感。予備知識なしだと冒頭のヘレナのハイテンション不安が唐突に感じるかもしれない。終盤、進化したロボットの哀れさが際立つシーンは秀逸。コンパクトな構成で、上手く強調される個所と状況説明の不足が共存する感じ。
ネタバレBOX
ロボットメーカーの社長とスタッフたちが、固唾をのんで何かを待っている。
ロボットたちが反乱を起こし、次々と主要ライフライン系を占拠していく中、
頼みの綱である船が予定通り港に入って来るのを待っているのである。
予定通り入ってくれば、輸送部門はまだ占拠されていない証拠であり、
自分たちはこの島からその船で脱出できるからだ。
忠実だったロボットたちの突然の変化に不安を募らせる社長の妻ヘレナ(森郁月)。
ロボット製造は神への冒涜であり、罰が当たったのだとするお手伝いのナナ(佐藤紘子)。
ところが港は既にロボットたちに押さえられ、社長たちは助かるために
ロボットたちと交渉するしかないところまで追いつめられる。
交渉の切り札となるのは、その製造方法を記した手書きの古いレポートのみ。
これが無ければロボットは今後製造不可能、20年の寿命が尽きれば全て動かなくなる。
だがそのレポートは、さっきヘレナがシュレッダーにかけてしまっていた・・・。
「人間に子供ができなくなったのは、人間が要らなくなったからだ」という
衝撃的な背景が冒頭に語られる。
人工生命体が主になると不要な生命は淘汰されていくという事か。
この作品のロボットはアトムのような“メカ系”ではなく
アンドロイドのような“有機体系”を指しており、より人間に近い構造を持っている。
終盤で明らかになるが、ガル博士(松本光生)がロボットに感情を持つよう
操作したことが、反乱を招いたことが判明する。
つまり「より優れているロボットが、なぜ人間ごときに使われるのか」という
反発と憎しみを抱くようになってしまったのだ。
そしてそれを博士に依頼したのはヘレナだったことも告白される。
”間違いを犯す人間”を体現するかのようなヘレナの揺れが人間性を強調しているよう。
ロボットのリーダーラディウス(井出麻渡)は、
自分の廃棄処分を救ってくれたヘレナさえも容赦なく殺してしまうが、
そのシーンはない。
力強い演説で仲間を鼓舞し、製造方法を入手しようともがく感情を得たラディウスが、
“恩を感じることは無い”という、残った“ロボット性”を
見せつけるシーンが観たかった気もする。
“労働から解放されて幸福になる”ことを目指してロボットを製造したのに
最後はそのロボットに殺され、生き残った人間は建築士(蒲田哲)ひとり。
その彼の前に人間かロボットか区別がつかないような二人が現れる。
互いをかばい合い、自分が犠牲になると申し出る彼らに、
建築士は豊かな感情を持ったロボットの存在を改めて知ることになる。
“ロボットとは何か”という定義はそのまま“人間とは何か”ということだ。
感情を持ち反感と憎しみを覚えたロボットはしかし、
失われた製造方法を手に入れようと必死にもがくようになる。
「命令してください!」と叫ぶロボットは、創造性を持たないことを示している。
人間もロボットも、誰も幸せになれない。
進化したロボットがこの先どうなるのか、答えも未来も観る人に委ねられる。
全てはカレル・チャペックの想像力・洞察力のすばらしさに尽きる。
様々な演出を観てみたいと思わせる脚本だった。
One Situation Four Texts
舞台企画 斜楽生
萬劇場(東京都)
2019/03/06 (水) ~ 2019/03/10 (日)公演終了
満足度★★★★
「起承転結」という4つの文字を元に、4作家が全く違った作品を創る企画。
カラーの違いを見せて面白いが、強く印象に残ったのは
2作目の劇団マリーシア兄弟主宰、大浦力さんの作品。
なさぬ仲の頑固な師匠と弟子が、周囲の温かいフォローで素直に向き合う話。
落語を題材にしただけあって、ウィットに富んだ会話がクスリと笑わせる。
この劇団の持ち味である“愛あるぶっきらぼう”な人々の世界が生きている。
もう一つは4作目の劇団時間制作主宰、谷碧仁さんの作品。
息が詰まるような日々を送る法学部の学生3人が「自由になる」ために
姉妹を誘拐・監禁するという罪を犯す、その最後の1日を描く。
緊張感溢れる展開が巧い。
ネタバレBOX
起…脚本・演出:居候ユニット7%竹主宰 武藤心平 「アミューズ・ブーシュ」
妻と3人の娘を残して死んでしまった父が、あの世でご先祖様の力を借りて
気に入らない娘の彼氏と対決するため、彼の前に姿を現すというストーリー。
生前、監視カメラで二人を監視していたつもりが、実は家族に気づかれていた。
最後は心優しい家族に見送られてあの世へ戻って行く。
挿入されるダンスの唐突感が否めないのと、妻や娘のキャラが説明不足な感じ。
種明かしした後の妻や娘たちがとても素敵なキャラなので
そこを丁寧に描いたらもっとハートフルになったんじゃないか、という気がする。
それと私の好きなヨシケン改さんの使い方がもったいなくて残念。
“おバカでハートフル”な雰囲気は伝わって来た。
承…脚本・演出:劇団マリーシア兄弟主宰 大浦力 「コミックストーリー」
落語家の二海亭一門を率いる師匠は、独身のまま、
死んだ弟の子を引き取り噺家として育てて来た。
その子の二ツ目昇進を巡り “情で昇進” “身内だから” という声が
兄弟子のみならず本人からも上がって穏やかだった一門に小さな波風が立つ。
弟子たちによる“立体落語”のような出だしが面白く、それでまず状況が把握できる。
昇進を辞退する甥っ子の頑なさをほぐすのは、昇進できない兄弟子。
このあたりの優しく切ないアプローチはマリーシアの得意とするところで
「いいヤツだなあ、昇進できなくても絶対必要な人だ」と思わせる。
ウィットに富んだ会話が効いていて、師匠役のキヒラユウキさんが良かった。
「落語は地に落ちた、落語だからね」…そりゃそうだ、オチがなくちゃね。
「弟子って漢字で書くと弟の子って書くんだよ」…これ素晴らしい!
笑いを求める人がいなくなるような平和な世界が理想、というクールな師匠、
今回はアドリブ少なく(?2回繰り返したところがあったような気はしたが.
違っていたらごめんなさい)
落語だけでなくエンタメの存在感をきっちり語ってキメていた。
せっかく落語界を舞台にしたので、もう少し江戸っぽさが出ると良かったかな。
江戸弁のキレの良さと粋、艶、落語好きとしてはそこが好きでたまらないのだ。
江戸っ子の、“強がって無理してるけど、実は照れくさくて優しく出来ない不器用さ”は
マリーシアの持ち味ととても相性が良いと思う。
最後に甥っ子が「昇進のお話、承りました」ときっちり「承」を決めるところも◎
転…脚本・演出:劇団青色遊船主宰 白井ラテ 「クライマックスに向かってる」
不登校など行き場を失った人々を受け容れるフリースクールを舞台に
それぞれに訪れる転機と、そのせっかくのチャンスを見送って
相変わらずの世界へ戻って行く葛藤を描く。
10代の妊娠、クスリの売人、家族関係などシリアスな場面に説得力がある。
ラスト浴衣のエピソードは泣かせる。
結…脚本・演出:劇団時間制作主宰 谷碧仁 「ツルのハ」
法学部の男子学生3人が、息が詰まりそうな日常への不満を爆発させる。
自由になるんだ・・・親から、勉強から、不安から・・・いったい何から?
彼らがやったことは、姉妹を誘拐・監禁すること。
やがて犯人3人の関係にほころびが見え始め、それが大きな亀裂となって
終盤の悲劇へとなだれ込んでいく。
被害者と犯人、リーダーと従属者の力関係が目まぐるしく入れ替わり
その度に緊張が一層高まるところが素晴らしい。
ラスト、そもそも3人が空き別荘という空間を手に入れてはしゃいでいた
1週間前のシーンで終わるところが巧い。
アサガオの花でもなく、水をやる人でもなく、ただ棒に巻き付く
ツルの葉っぱに過ぎなかったのだという独白が哀しい。
個性豊かな作家によるオムニバス、観たことの無かった劇団も含め
新しい魅力に出会えたことが楽しかった。
天井の高い舞台も面白く、皆それを活かしていたと思う。
メアリー・ステュアート
ZASSOBU
小劇場 楽園(東京都)
2019/03/06 (水) ~ 2019/03/10 (日)公演終了
満足度★★★★★
下北沢の小劇場楽園でZASSO-BUの「メアリー・ステュアート」を観る。
生涯一度も会うことの無かった二入の女王が、もしも会っていたら・・・、
という想像力の生み出した戯曲が力強く素晴らしい。
二人の女優が切り替えも鮮やかに、4人の登場人物を演じ分ける。
結局44歳で断頭台の露と消えるメアリーの生き生きとした台詞が哀しい。
ネタバレBOX
生成り色のゆったりとしたドレスをまとった二人の女性。
スコットランド女王メアリー(樋口泰子)と乳母のケネディ(江間直子)が、
次の場面ではイングランド女王エリザベス(江間直子)と侍女ナニー(樋口泰子)になる。
場面を入れ替えながら交互に演じるこの形が、二人の人生と価値観を際立たせる。
理知的で冷静、生涯独身を貫き女王として生きたエリザベス。
一方最初の結婚、フランス皇太子が不幸にも早世したために未亡人となったメアリーは、
スコットランドへ帰国後、次々と奔放な恋愛模様を繰り広げる。
そしてついに追われる身となったメアリーは、イングランドのエリザベスを頼るのだが
一向に面会は実現せず、実に19年間の幽閉生活を送ることになる。
立場の違いはあるものの、それぞれが抱える葛藤と矛盾は
現代の女性にも共通するところがあり、普遍性を感じる。
幸せのひとつの形でありたい結婚も、国策や権力、支配欲にまみれて見通しが効かない。
その中で、エリザベスは結婚に価値を見出せず、
メアリーは“間違いだらけの男選び”を繰り返す。
残虐な公開処刑が“エンターテイメント”と化している時代に
常に斬首と隣り合わせで生き抜いてきたメアリーの腹の座り方はすごい。
だが同時にエリザベスを信じて便りを心待ちにする純粋さも持ち合わせていて
このあたりが稀代の悪女と言われながらも魅力的な女王なのだと思う。
演じる二人の女優が魅力的な声と豊かな表情で、台詞が心地よく入って来る。
歴史的背景を知って観ると、二人の崖っぷち感が一層迫って来る。
(私が体調イマイチで集中し切れなかったことが悔やまれる。
ところどころ飛んでしまって自分でも情けない。)
ビョードロ
おぼんろ
新宿FACE(東京都)
2019/02/14 (木) ~ 2019/02/17 (日)公演終了
満足度★★★★★
自らの血でウィルスを創り出す能力を持つ一族、ビョードロ・・・。
人間の欲望に翻弄される彼らの悲劇が5年ぶりにパワーアップして再演された。
サーカスとダンスが投入されたことで、一層ドラマチックな表現になっている。
次の展開も、結末も、わかっているのに泣けてしまう、おぼんろの世界再来。
ネタバレBOX
新宿FACEの7階へは初めて行った。
初演の時より装飾はさっぱりしているようだ。
いつもながら四方から観る舞台、役者が縦横に駆け回る3Dの場内。
初めての参加者には「体験してほしいのでこちらの席へ・・・」と案内し
常連の参加者には「来てくれてありがとう!」と手を取ってくれる。
本番前の語り部たちに物語の重さや緊張感はなく、
本当に来てよかった、と思わせてくれる歓迎ぶり。
ここしばらく、仕事や体調の都合でおぼんろの舞台に行けなかった私だが
久しぶりに行っても覚えていてくれることがとても嬉しい。
この楽しさが、演劇に親しむ要因ともなっていることを実感する。
さて、物語はいきなり悲劇から始まる。
血液から病原菌を創り出す能力を持つ一族ビョードロは、
細菌兵器を作りたい軍に利用された後、危険すぎる、と抹殺されてしまう。
村ごと焼き払われたその日、偶然外へ出ていた少年二人が生き残る。
タクモ(末原拓馬)とユスカ(鎌苅健太)は、森に隠れるように
ひっそりと暮らしている。
ある日、一人の男(さひがしジュンペイ)が二人を訪ねて来る。
彼はユスカの父親だと名乗り、細菌兵器を作ってくれないかと持ちかける。
ためらいながらも、やっと会えた父親を喜ばせたいユスカは
最強の兵器をつくることを約束する。
そして二人の血から生まれたのが「ジョウキゲン」(わかばやしめぐみ)だった。
やがてジョウキゲンは、タクモ達の予想をはるかに超えて強力になっていく・・・。
最強の兵器が誕生するシーンのおどろおどろしさ、不穏な空気や
ジョウキゲンがそれと知らずに人々を死に至らしめる様が
サーカスの驚異的な身体能力を活かしたダンスで表現される。
これから起ころうとしている不吉な出来事を想像させて非常に効果的。
“踊る”というより“身体を使って空気を表現する”ような動きが素晴らしい。
今回もわかばやしさんのジョウキゲンが秀逸。
タクモを喜ばせたいという無垢な思い、
後に裏切られ利用されたのだと悟って息絶えるまで
全ての感情を細やかに台詞に乗せる。
なんと可愛らしく、そして怖ろしく孤独なことだろう。
初演よりもテンションのメリハリがついて、ラストが一層悲しく哀れ。
さひがしジュンペイさん、ここ2年ほどでシャープになり色気が増したと思う。
おぼんろでは悪役が多いが、それも人間の一側面であり、
私たちの中にある欲望を取り出して見せてくれる存在だ。
だから憎めないし魅力的であって欲しいのだが、それを完璧に体現してくれる。
それにしても末原さんが紡ぐ物語はいつも驚きに満ちている。
微妙に時代とシンクロする内容、絶対泣かせるキャラと台詞、
それに何といってもあの演劇スタイルを生み出す自由奔放さ。
表現者と同時に、物語の書き手として、素晴らしいと思う。
次はどんな物語を語ってくれるのだろう。
誰に、どんな台詞を言わせるのだろう。
このおぼんろのチームワークの良さにますます期待したい。
ユスカ役の鎌苅健太さんが透明感あふれる演技で素敵だった。
もうファンの多い方だが、私は観たことが無かったので、
この方の他の舞台も観てみたいと思った。
今回の驚きの座組み、大成功じゃないですか!?
稽古場公演2019「野鴨」
無名塾
無名塾 仲代劇堂(東京都)
2019/02/08 (金) ~ 2019/02/17 (日)公演終了
満足度★★★★
初めて無名塾の稽古場公演に足を運んだ。
イプセンの「野鴨」、そのあらすじくらいは聞いたことがあったが
作品を観るのは初めて、無名塾も初めて。
静かな住宅地に、主張しすぎずセンスと個性の息づいた建物外観と
重みのある作品が相性の良さを感じさせる。
哀れな野鴨は飼い殺しにされ、そして本当に死んでしまった・・・。
ネタバレBOX
アクティングスペースには白い椅子が1脚のみ。
重々しいBGMがこれから起こる悲劇を予感させる。
豪商ヴェルレとエクダル老人はかつて共同で事業を行っていたが、
ある不正の罪をエクダル一人が被って投獄、彼は精神に異常をきたしてしまう。
ひとり息子のヤルマールも大学を中退し、一族は没落する。
反対にヴェルレはその後も事業を拡大、成功を収めている。
罪の意識からか、ヴェルレはエクダル一家を金銭的に支援している。
ヴェルレの息子グレーゲルスは、父親のその偽善者ぶった行動が気に入らない。
当然のように恩恵を受けるエクダル一家も、真実を知るべきだと思っている。
ヤルマールの妻が、かつて自分の家の使用人だった
ギーダであると知ったグレーゲルスは、ヤルマールに彼女の過去を告げ
全てを知ったうえで新しい家族としてやり直してこそ「理想」の家族だと
信じて疑わない。
ところがこの「理想」は、エクダル一家を崩壊させる。
ヤルマールは真実を受け容れられず、ヤルマールを慕う娘のヘドウィックは
家を出ていくという父親に絶望して拳銃自殺してしまう。
思いがけない展開になすすべもないグレーゲルスは、ただの罪深い理想論者。
老い先短く、間もなく失明する運命のヴェルレは
何人目かの愛人セルビー夫人と正式に結婚、引退を表明する。
互いにこれまでのことをすべて包み隠さず告白し、その上で決めたと言う。
隠されていた真実によって幸せな暮らしが一瞬にして崩れ去るヤルマール一家と
鮮やかな対比を成している。
グレーゲルスは金持ちの息子としての人生を享受しながら
それを築いた父親を批判している。
運命を受け容れざるを得ない立場への理解が欠落している。
非常にバランスの悪い、机上の空論で他者を追いつめるだけの男だ。
一方のヤルマールも、現実を直視できない、解決も対処もできない幼い男。
対する女性陣は強くしたたかに生き抜く知恵を身につけている。
セルビー夫人は賢く、思いやり溢れる魅力的な女性だし
ギーナも夫の弱さを知り尽くして上手く操ることのできる大人の女だ。
セルビー夫人の世慣れた余裕のあるおおらかな態度がとても爽快だった。
演じる西山知佐さんの容姿と柔らかな声がぴったり。
ヴェルレ役の鎌倉太郎さん、“間違いだらけの”人生を送って来た老人の
渋みが上手く出ていて、これも愛すべき人間の正直な姿なのだと思わせる。
「真実」にいったいどれほどの意味があるのか。
「理想」はひとを幸せにするか。
正しい行いだけが幸せになる道なのか。
ヴェルレの最後の選択がいつまでも残っている。
鳥の市 2018
なかないで、毒きのこちゃん
OFF OFFシアター(東京都)
2018/12/27 (木) ~ 2018/12/30 (日)公演終了
満足度★★★
Aを観劇。
「おせきはん、たく」「そば屋のあつこちゃん」
「ビックリハウスのこと、あの子とのこと、その他もろもろ」の3本。
チカラのある役者陣が熱量全開、ねばるような芝居で引っ張り続ける。
スピーディーな展開で面白かったのは「ビックリハウス・・・」
“古典的定番”のレトロな可笑しさと、文字通りびっくりさせる展開の意外性がベストマッチ。
振れ幅の大きいキャラを生き生きと演じていて楽しかった。
『美少年』
柿喰う客
Geki地下Liberty(東京都)
2018/12/15 (土) ~ 2018/12/30 (日)公演終了
満足度★★★★
フライヤーの美しさと巧さに、どうしても素通りできなかった1本。
怒涛の台詞、その技術と熱量に圧倒されながらの約60分。
だが「幻想怪奇譚」というほどの怪しさ・妖しさは感じられなかった。
むしろからりとしたドライな印象を受けるのは
滑舌は良いが5倍速の台詞のせいか、
4人が同じ衣装で個性際立つスタイリッシュな演出のせいか、
実は肝心な台詞を聴き損ねて一瞬迷子になった私のせいか?
ネタバレBOX
4人が全員赤いジャケットに黒いパンツというファッショナブルないでたち。
この“制服”が個性を際立たせるから面白い。
一人の美少年が行方不明になって、戻って来た時には別人のようになっていた…。
その理由は、「犯人が少年の美しさだけを奪ったから」という
ファンタジーのようなミステリーのような繊細さはなかなかよかった。
つまり「美少年」から「美」を取ったら、ただの「少年」ってことか。
それを突き付けられるのも、ちょっと気の毒なことだ。
台詞は3倍速か5倍速かというくらい巻きで繰り出されるが、
その心地よいスピード感に身を任せていると
大事なところがキャッチできなくて「ん?」ってなってしまう。
ついて来られる奴だけついて来い的な?
大村わたるさんが見栄を切ったとき、木ノ下歌舞伎に出演した時の場面を思い出した。
それにしても演出は躍動感100%、キレのある動きでコンパクトな作品。
アフタートークでは役者さんが普通のスピードでしゃべるのを聞いて
何だかほっとしちゃった。