劇団B級遊撃隊
採点【劇団B級遊撃隊】
★★★名古屋の名優たちの共演

第53回岸田國士戯曲賞受賞作を、佃典彦自身による演出での初上演。開場直後から長蛇の列が出来て、長久手文化の家の客席が地元の人で満員になっていくさまを見るのは、東京から来た観客としては興味深かった。香港の団体の上演も観てみたいと思ったが、日程上断念せざるをえず、残念だった。

脚本に関しては、すでに戯曲賞を受賞しているので一定の揺るぎない価値が付されたものであるとの認識だ。10年近く前の作品だけあって、描かれている年代などは少し古いが、鑑賞の妨げには全くならない。それは作品が時を超えての上演に耐える、古典としての風格と実績を兼ね備えていることの証である。名古屋の名優たちが多数出演しており、次々登場する父親役の俳優たちが本当に素晴らしかった。特に、小熊ヒデジ(てんぷくプロ)の縦横無尽ぶりは、観ていて本当に引き込まれ、尊敬の念がわいた。

だが、名優たちを集めて上演しても、その上演から何を巻き起こしたいのかが見えづらい。仮に名古屋以外の場所でこれを上演できたとしても、パッケージングされた演劇を持ち運ぶだけになるのではないか。観劇体験として、これを観た人がいつか「あの時いいお芝居観たなあ」と思い出す、芝居のお手本のような存在になることを目指すのであれば満点だが、演劇の未来を刷新していくことが出来るかという点ではどうしても疑問が残ってしまう。

★★★★現在を奮い立たせる記憶

 次々と脱げて、若返っていく父たちのそれぞれにトボケた味わいと、ダメ?な息子のやりとりを微笑ましく、けれど、どこか身につまされる思いで見守りました。また終盤、それまで一見、リアルな日常性に根付いていた舞台空間(内容はまさしく不条理ですが)が、飛行機(爆撃機)の音と共に歪む瞬間に胸を突かれもしました。これはダメ男が立派な中年として立つための物語であると同時に、たくさんの時間=歴史についての物語でもあるのだな、と改めて感じ入りました。
 名古屋で活躍中の実力派キャストを集めた公演は、満員御礼。全体的に「手堅い」感もありましたが、目標の一つであった「地元の演劇を盛り上げたい」という思いは充分実現したのではないでしょうか。チャーミングな父たちはもちろん、今ひとつピリッとしない主人公を演じた平塚直隆さんのヨレっとしたムードも忘れられません。

★★★★若返る父とともに戦後の日本を振り返る

 岸田國士戯曲賞を受賞した9年前の初演は、文学座の松本裕子さんが演出されていました。今回は作者である佃典彦さんが初めて演出されます。

 しっかり建て込まれた具象の美術に嬉しくなりました。主人公卓也の年齢から考えると、築40年以上の集合住宅の一戸でしょうか。下手面側に玄関のドア。ドアを開けて家に入ると下手上部には父の部屋があり、手前にベッド、奥に仏壇があります。父の部屋のすぐ右、舞台の中央上部の奥にはトイレのドアがあり、その右側には洗濯機。続いて上手袖までは台所です。トイレから2段ほど降りて、舞台下部中央から下手は廊下。上手面側にかけては居間があり、その真ん中に丸いちゃぶ台。居間の上手奥には大きめの冷蔵庫があり、上手端はベランダへと続く引き戸になっています。

 ぎっしり満員の客席で、どんどこと笑いが起こりました。劇団や出演者のファンも多かったようですが、私も大いに笑わせていただきました。笑い声に交じって鼻をすする音も聞こえていたんです。登場人物の置かれている状況は悲惨で、笑ってる場合じゃないんだけど、それでも人間は笑うんですよね。3.11の大震災の時も私は怒って泣いて笑っていたし、きっと戦時下の日本人もそうだったのだろうと想像しました。同じものを観て笑う人もいれば、泣く人もいる。演劇作品に大切なことだと思います。

 『ぬけがら』を観るのは横浜未来演劇人シアターでの上演(演出:寺十悟)、文学座での再演に続いて3度目でした。佃版はアットホームでべたっとした温かい雰囲気があり、ごく普通の家族の、身近な話だと感じられました(たとえあり得ない事件が起こるとしても)。登場人物はどうしようもなく情けなくて、滑稽で、でも可愛げがあります。俳優の個性を生かし、会話のとぼけた間(ま)に独特の味わいがありました。名古屋を拠点に活動してきた演劇人が集結し、その土地ならではの空気が生み出されていたのではないかと思います。

 暗転中に懐かしい音楽やニュースの声が流れ、私が聞き覚えがあるのは30年前まででした。それより昔になると大河ドラマのようなフィクション性を帯びていき、自分の記憶の限界に気づきました。約10年前の戯曲なので、携帯電話は出てくるけれどスマホもタブレットも出てきません。でも、これからも色んな世代の観客に幅広く通用する戯曲であり、演出だと思いました。

 大きくてきれいな劇場ですが、整理番号順でもない全席自由席でした。劇場入り口に長い列が出来ていて、入場するまでにかなり並ぶことになりました。できれば指定席にして欲しかったです。

★★★レベルは高い、でも満足はできなかった。

岸田戯曲賞を取ったというシナリオに少し期待しすぎたか。役者も個性的でレベルが高くなんら遜色はないのだが、満足はできなかった。どうせなら、最後はハッピーにまとめてしまうような、そんな物語性を期待してしまったのは事実。ただ、それはターゲットの問題かもしれない。地元の皆さんはとても楽しそうにしていた。幅広い世代が見に来ていた。それは事実だし、ローカルにこだわる姿勢があるのであれば、応援したい。

★★★★★完成度の高い名作

名作の再演はやはり名作。
名古屋の魅力的な役者がそろってたっぷりと楽しませてもらった。

特にお父さん一人一人が全く違う個性で、その統一感のなさにもおもしろみを感じた。スタートシーンから衝撃的で演劇の面白さをいっぱい味あわせてもらった。

長久手市文化の家 風のホールが素敵だったことも付け加えておきたい。

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