各団体の採点
主宰であり、作者である山田佳奈がティーンだった頃の(それは私もそうなのだけど)90年代後半の音楽、中でもブランキー・ジェット・シティの曲が印象的に使われるのだけど、それは現在の郷愁や感傷を描くために使っているわけではない。 主人公が終盤で、ストーキングされている教え子に向かって「……子どものくせに。」と吐き捨てた台詞にそのことがはっきりわかって、心撃ち抜かれた。この作品は、きちんと「大人」になった作家が書いている。もう戻れない子ども時代を残酷に見つめ、そこから脱皮する瞬間の訪れを捉えようとしている。きっちり、過去の回想の中にパッケージングされ、作者が突き放して描いていることは、とても大切だ。過去の記憶や思い出をモチーフにする場合、作者が「今もその思い出の延長を生きている」と、物語は非常に独りよがりな酔いどれ節になってしまうからである。そうそう、日本全国の「ショウコ」という名前の女の子はあの頃、あの忌まわしくもキャッチーなオウム真理教ソングで囃し立てられたものだった……。
さえない漫画家志望の女子中学生を演じた小野寺ずる、体育教師の日高ボブ美(彼女たちの芸名のセンスもちょっとぶっ飛んでいてすごい。笑)の劇団員ふたりが俳優陣をぐいぐい引っ張る。日高ボブ美の演じた体育教師の彼氏は売れない俳優ということで、またフリーターの彼氏か……と「小劇場演劇あるある」にうんざりしかけたところ、その彼氏がテニミュ(『テニスの王子様』ミュージカル)に出演しているイケメンであるという設定がぽろっと明かされ、大爆笑した。貧乏は仕方ないけど、貧乏くさくないのがすごくいい。素晴らしい。主宰の山田佳奈が演じた、くせのあるハブられっ子も目が離せなかった。
アフターイベントの、チーム対抗カラオケ大会も大変楽しかった。今まで経験したアフタートーク、イベントの中でもダントツに印象深く、本編の余韻は損なわれたが(笑)、時間的にも構成的にもしっかりまとめられたものだった。残って観て良かった! と思った。都合により予約の回を変更したのだが、こちらもとても丁寧に対応いただけて感謝している。全体として、劇団としてのパワーとまとまりを強く感じた。
主人公二人の冒頭のマイクパフォーマンス(?)とそのせりふの(明確に内容は分からないけれど)激しさに、一気に「持っていかれた」気がします。
青春の恥ずかしさは、貼り付いて剥がれない。ここに描かれているほどには、不幸でもなければ、痛くもなくても、「昔のこと」として乗り越えて来たはずのあれやこれはは、ずっと自分に貼り付いている。だから、ここに漂う部室臭さは自分のものなのだ??とつい引き込まれてしまう、力のある舞台だったと思います。あの時の自分を乗り越えるためには、必ず、そこに戻らなければいけない??そんな大人の視点にも共感を覚えました。
物語が進むにつれて、まったく解決しない問題のアレコレに「いったいどうやって風呂敷を畳むの?」と心配にもなりました。結果、やや「力業!」となった終幕には、乱暴さや多少の悪趣味を感じなくもなかったのですが……ともあれ、最後まで息もつかせぬ展開、カラオケシーンのみならず、数々のせりふに込められたロックな魂に唸り続けた2時間弱でした。
女性教師が14年前の中学3年生の頃を回想し、現在と過去の2つの時間を行き来します。いじめ、恋愛、殺人事件などの複数のエピソードが、こじんまりとした人間関係の中にギュっと凝縮されていました。犯人捜しや本音の探り合いにスリルがあり、中学時代の同級生たちの14年後の姿が見られるのも面白いです。それぞれのエピソードの顛末への興味も相まって、最後まで集中して拝見することができました。
込み入ったお話ではあるものの、聞き覚えのあるJ-POPが元気よく流れる中、疾走感を保ちながら進んでいくので、この作品自体がひとつの楽曲であるかのように感じられました。ジャンルはたぶん現代の純日本製ロック・ミュージック。
荒川の近くにある中学校の教室、会議室、そしてカラオケ店の個室という3つの空間が、立体的に建て込まれた舞台美術でした。特に舞台面から上手を通って舞台奥へと続く空間は物語に余白と開放感を与え、用途も多様だったのがとても良かったです。
俳優の演技については、舞台上だけで完結して観客の方には意識を向けないタイプが多く、個人的には物足りなかったです。若いころの主人公役の小野寺ずるさんは、歌ったりしゃべったりしながら体を激しく動かす演技に見ごたえがありました。シンプルな意志が体と調和している状態は力強く、存在に説得力があります。
物語としてのひっぱり、解決感に関しては、若干物足りない感もあったが、序盤から勢いやテンポの良さで飽きずに最後まで見ることができた。シナリオというよりは、演出や出演者の演技力が光っていた気がする。誰かの突出した才能というより、スタッフ、キャスト一人ひとりの役割が重なって、相乗効果が生まれたそのチーム力に拍手したい。
□字ックが公演毎に成長しているのは感じていたが、今回は特に成長を感じた。今までの作品はどちらかというと山田佳奈の思いがあまりにも強く、あまりにも先行しているため、作品が未消化な部分を感じたのだが、今回は見事に仕上がっていた。
作品からはみ出すような個性的な役者を集め、それらを飼い慣らす様子はまさに山田佳奈は猛獣使いと感じた。その中で小野寺ずるの魅力は際だっている。
作品からエネルギーがほとばしり、そのエネルギーが直接心に突き刺さるという作品で、久々に観終わった後に放心状態だった。