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満足度★★★★
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内藤裕子『淵に沈む』を観劇。
昨年の『カタブイ1995』から追っかけている演出家の新作だ。
八王子市の精神科病院・滝山病院事件が元ネタになっている。
あらすじ:
統合失調症の三男を二〇年も精神科病院に預けている母親は、息子の症状が寛解期あると主治医から伝えられ退院を勧められるが、長男、長女は反対し、病院長までもが経営の為か?首を縦に振らない。看護師らの患者への虐待という報告が上がり、精神保健福祉士は自分の身を切るつもりで内部告発をし、病院長に掛け合うのだが…。
感想:
長期間、息子を病院に入れた家族の苦悩、一日も早く退院をさせて社会復帰を願う主治医、病室を満床にして経営を優先にする病院長、患者を虐待してしまう看護師など、様々な視点で目を背けている暗部を見つめることが出来る。90%が民間の精神科病院で成り立っていて、国があまり触れない精神疾患への偏見がおのずと見えてきてしまう。
途中に日本国憲法、障害者基本法、スイス・ジュネーブ障害者権利条約を説明しながら進めていく技法は『カタブイ1995 』でも行っていたが、『人間が生きていく権利とは?』について掘り下げていく。
ややお堅い芝居になりながらも、正義と悪という構図が作られているので、精神保健福祉士が退職覚悟で病院長に切り込んでいくクライマックスに熱いものを感じずにいられない。
決して逃げはせず、理想に向かっていく姿勢こそがメッセージなのだ。
そして患者が吐く最後の一言が、精神疾患を救う最善策だとも思えるのだ。
見応えあり!
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満足度★★★
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青年座『Lovely wife』を観劇。
作・演出 根本宗子が青年座に依頼された作品で、高畑淳子主演ありきのようだ。
売れっ子作家を夫に持つ雑誌編集者・妻の出会いから結婚、終焉を迎えそうな夫婦の顛末記。
同世代の些細な事を描くのが得意な若い劇作家が、枯れていく夫婦の姿をどのように描いていくかが焦点だ。
常にテンションが高く、演技へのエネルギーを一瞬たりとも休ませない演出が持ち味の劇作家の下、老舗劇団の俳優陣はどのように対応していくのだろうか?いやどのように演出されるのだろうか?
過去作では、狭い小屋では収まりきらない俳優たちのエネルギーに何度も圧倒され、劇作家を追いかけ続けたが、今回の厄介な座組で出来るのだろうか?という心配はあり、それを無くしてしまうと全て欠けてしまうのだ。だが俳優たちに狙いをやらざる得ない戯曲を与え、ほと走るエネルギーが劇場に蔓延していた。
ただ圧倒的な劇的な力も、残りの人生を考えなければいけない老年を迎える大人たちを描くには説得力には欠けていた気がする。舞台装置を駆使し、過去から現在、そして若い頃の自分を客観的見れる演出もしていただけに惜しい。小さい劇場なら許されていた表現方法も本多劇場となると観客は納得したくなる終わりも見たくもなるのだと思って劇場を後にしたが、よくよく考えてみるとこの批評は間違っていたと後で気付く。
劇作家は徹底的に男性を罵倒し、女性優位を謳っている過去作を鑑みると、今作も同じような試みがなされている。いつまで経ってもだらしない夫が妻へ投げかけるクライマックスの陳腐な愛の讃歌の場面こそが、劇作家の持ち味を最大限に表している。この箇所に賛否が起こりそうだが、今作の面白さを垣間見れる瞬間と別れ道なのだ。
流石、根本宗子である。
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metro『GIFT』を観劇。
あらすじ:
女優・星影は戦争の夢をたびたび見る。
枯れてしまっている才能を認識しての現実逃避の夢なのか?
時代を跨いで、様々な人物を演じている中、才能は神様から貰ったただのGIFTに過ぎなかったのか…。
感想:
早川雪洲、太宰治、ブルース・ウェインなど時代と場所を飛び越えながら、女優・星影は旅をしているのだが、「何の脈略があるのだ?」と毒づきながらも、唐十郎とスタニフラフスキーの演劇論が始まった瞬間、「なんて面白いのだ!」と思わず声を上げてしまったのだ。彼らを演じた俳優が汗と怒号を上げて、観客席に迫ってくるのだ。
本来は女優・星影の旅を楽しむのが見所で、演劇論で喜んでいるようでは観客失格なのだが、年配客が多いせいか?あの時代の知っているのは、どうやら私だけではないようだ。
『夢の遊眠社』『第三舞台』『第三エロチカ』『3○○○』などが疾走していた80年代小劇場から現在の『青年団』『城山羊の会』まで、今作のような作劇は貴重で、もう誰も作れないだろうとも思っていたら、暗く、狭く、見ずらい地下劇場で細々と作っている劇作家がいたのが驚きで、観る価値十分ありと言っても良いだろう。
女優・星影を見ているとタイトルは『GIFT』ではなく『GIFTED』にしてくれれば、「彼女の苦悩の旅に一緒に寄り添えたのになぁ〜」と思っただけに残念だった。
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北区つかこうへい劇団の熱海殺人事件・売春捜査官を観劇。
かれこれこのシリーズは5回目だ。熱海は出演者全員(4人)の役者のレベルが一人でも劣ってしまうと失敗作になるが、今作は皆が高いレベルで演じていたので、作品の出来も良かった。そして木村伝衛浜役の女性の弾けまくりが素晴らしかった。それに少し秋山菜津子にで綺麗だし。名前は分からないが、彼女には今後売れてほしい役者の一人だ。しかしこんなに面白い芝居に空席が目立つのは何故だ?このコメントを読んだ君!彼!彼女!俺?まだまだつかこうへの公演は観れるので是非、劇場へ!
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北区つかこうへい劇団の解散公演・飛龍伝・80年版(初級革命講座)を観劇。
飛龍伝は初演版・初級革命講座から改訂を重ねて、重ねて、様々なバージョンがある。その内に観たのは飛龍伝・90年版、飛龍伝・2000年版だ。ただ内容的には極端には変わってなかったので、今作の初演版も内容的には同じだろう?と高をくくっていたら、まるで違っていた。90年版、2000年版は革命家と機動隊長と革命女史・神林美智子(実在した樺美智子をモデル)の恋愛物であったが、今作は、落ちぶれた革命家を戦いの場に引き戻す機動隊長との二人の話であった。どちらかというと90年版、2000年版の後日談に近い感じであった。そして落ちぶれた革命家を戦いの場に戻した機動隊長との対決が大音響と共に始まるか?と思わせといて、突然の幕で終わってしまった。なんともいえない消化不良だ。これは明らかに戯曲の段階では良かったのかもしれないが、演劇公演としては失敗作に違いない。明らかにつかこうへい自身が気が付いていたに違いない。だからそれ以降の改訂版は革命家、機動隊長、神林美智子の3人の話に変わったいったのだ。そして3人の話に変わっていった公演を20代の僕は銀座の劇場で体感出来たのだ!それが飛龍伝・惨殺の秋(90年版)。出演が富田靖子、筧利夫だった。
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袋芸術劇場主宰で毎年行われる期待の若手の演劇公演。
今回は20代の劇団の25分の短編公演。マームとジプシー、ロロ、範宙遊泳、ジエン社、バナナ学園純情乙女組の5劇団だ。流石に20年安泰というタイトル通り、30代、40代の演劇人を脅かすほどの実力の持ち主ばかりだ。特に今回選ばれた劇団には演劇というの概念が全くないの?というぐらいに誰にも真似を出来ないオリジナリティに溢れていて、唐十郎、つかこうへい、野田秀樹達が越えようとしていた演劇というジャンルのボーダーラインを簡単に越えているという点だ。そして彼らの興味は社会の外に目を向けている点も見逃せない。きっとこれからの演劇界は変わっていくだろう!それを期待する。そして今作もバナナ学園純情組に圧倒されてしまい、あの狂乱ライブに涙してしまった。
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劇作家・早船聡の鳥瞰図を観劇。
かなり綿密に練られている戯曲であり、再演されるのは納得できるほどの完成度の高い戯曲。それを主演の渡辺美佐子がまるで舞台は初めてよ!と言わんばかりの初々しい演技で、共演者、観客、そして戯曲をも飲み込んでしまうほどの演技をさらりと行ってしまう。松たか子、宮沢りえが舞台に立つと男性に変わってしまうなら、渡辺美佐子は子供に変わってしまうほど魅力的な芝居をする。これは必ず見なければいけない芝居の中に入るだろう!
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神奈川芸術劇場で宮本亜門のブロードウェイ・ミュージカルを観劇。
日本が黒船来航によって開国していき、変わっていく様をアメリカ目線で描いている。エキゾチックな日本の描き方が外国人特有の勘違いの日本?という感じで、観ている観客はやや冷やかだった。でも舞台ならではの表現方法は抜群で、観客を魅了させてくれる。ただこれが宮本亜門かぁ?とがっくりしながら前半を終了。
期待せずに後半を観ていくと、開国した日本は明治時代に入ってから、舞台は突然アクセルを吹かしたかのように、大正、昭和、現代と一気に日本が変わっていった様子を戦争、原爆、宗教・・・を背景に怒涛の如く、ミュージカルの醍醐味で観客に迫ってくる。そして最後に宮本亜門の鋭いメッセージで締めくくる。前半はアメリカ目線、そして後半は宮本亜門目線で描いていくというのが狙いだったとは。これは非常に演劇的であり、非常にミュージカル的でもあった。そして明らかに傑作中の傑作。
チケット代金は高い、劇場は遠い・・・。でも観なければいけない舞台だと思う。
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面白い演劇はドラマチックな展開、生舞台でしか見れない表現方法、そして劇場体験とこの三大要素が備わっていれば、ほぼ面白い舞台になりえるのだが、本日観劇した劇団・青組は、その三大要素が全て取り払われていながら、2時間を堪能させてくれる舞台だった。港町での戦後の混乱期から70年代までの2世代の家族の苦悩の物語を静かに、繊細に描いていく。話の展開自体はそれほど目新しくないのだが、作・演出・吉田小夏の多面的に描いていく人間像には新鮮さを感じた。グッドジョブ!という感じ。
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王子劇場にて元・劇研(早稲田演劇研究会)所属の劇団・犬と串を観劇。
あの浪速のボクシングの亀頭(亀田)三兄弟の試合中の失態で、マスコミでのバッシングを受けて、矯正施設に送り込まれて更生していく話。だが何故彼らがバッシングを受けたのか?実は彼らはマスコミに操られたのではないか?それを操っている黒幕がいるのではないか?という展開で、亀頭三兄弟と黒幕の戦いを描いている。馬鹿馬鹿しい展開、ギャグ、エロで舞台は進行していくが、その中で日本の管理社会を批判しながら見せていく辺りは抜群だが、それ以上に徹底したぐだらない演出方が少しづつテーマをぼかしていき、見ている観客はただ楽しんでしまう境地に入ってします。そしてぐだらなさの最大のクライマックスは、10人のフルヌード男優と裸同然の女優VS黒幕との対決があまりにも驚愕?唖然?最低?涙?で締めくくる下りは爽快!
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世田谷パブリックシアターにて前川知大(劇団・イキウメ)の奇ッ怪~其の弐を観劇。
前作の奇ッ怪~小泉八雲から聞いた話の続編。
寺の住職の息子が、廃墟家した実家の寺を訪ねてみると、そこにはホームレスが住みついていて、その彼から語られる怪談話し。ホームレスが語り始めると、素の舞台と俳優が一瞬にして異次元に移動して、恐怖の世界へ導かれる。それも舞台美術の展開もなく、あくまでも俳優の演技で場面展開する辺りが、前川知大の18番である。上手い役者の使い分けと戯曲の巧妙さ、そして無骨な芝居をする仲村トオルの扱いが抜群で、もしかしたら舞台向き?と思ってしまうほど仲村トオルの芝居は前川知大の下だと実力を発揮する。そしてこれだけの役者と戯曲が揃ってしまえば、後は前川知大の世界観を楽しむだけである。2009年の傑作舞台と言われている前作に劣らずに、今作も全く期待を裏切らない舞台だった。
大好きな内田慈の活躍も嬉しい。
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五反田団の前田司朗の新作は円との共作だ。
おとぼけ前田司朗は円をめった切りにするだろうか?それとも円の俳優人はこんな演劇を演じた事がない!と行って劇団を辞めてしまうだろうか?
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そして遂に演劇界の新しい天才に出会ったのです。歴史に名を残している演劇人は寺山修司、唐十郎、つかこうへい、蜷川幸雄、野田秀樹ですが、その新しい天才とはバナナ学園純情乙女組の演出家・二階堂瞳子。寺山修司の観客参加型の演劇、唐十郎の劇場体験、蜷川幸雄の群集劇、つかこうへいの汗と唾、野田秀樹の走り回る演劇。天才が行ってきた事を全て網羅しすぎているほどの芝居が行われているのです。誰にも決して真似できない、誰にも決して考え付かないほどオリジナリティーに溢れているのです。その二階堂瞳子の演劇とは、革命に燃えている学生か?文化大革命の紅衛兵か?トチ狂った宗教団体か?秋葉アイドルに熱中しているオタクか?ネット依存症の集団か?人間が狂喜に走っていて、もう誰にも止められない姿を、常に50人近い俳優が狭い劇場を90分間休まず狂乱しているのです。野田秀樹の迷言?演劇とはスポーツだ!なら、二階堂瞳子にとって演劇とは?????だろうか?
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劇団・少年社中の天守物語を観劇。
劇研(早稲田演劇研究会)に所属していたので、初見ながら期待をもって観ました。
物語は人間と妖怪が共栄共存出来るか?という話をエンターティメントにもっていき、派手な衣装、凝った照明、すごいセット、アクションと最近の若手劇団にはない演劇構造を元に、しっかりと面白さを追求している。俳優も声音、肉体が訓練されていて見ていてうっとりする。だが残念だったのは、市川猿之助のスーパー歌舞伎や劇団・新感線と全く同じ路線をたどっていて、物足りなさを感じた。演出家が映画から受けている影響が強いのか、映画の舞台版を観ているようで、生舞台での体感をさせてくれなかったのがもったいない。見た事のないエンターテイメントを作りだすのは難しだろうが、今作は脚色でオリジナル戯曲ではなかったので、次に期待しよう。この劇団は実力はありと見た!
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岸田戯曲賞を取った松井周の劇団・サンプルのゲヘナにてを観劇。
自称・太宰治に翻弄される人達の話だったようだが、さっぱり理解出来なかった。どんな内容か?とも説明出来ない舞台だった。訳の分からない観念的な舞台ならそれはそれで良いのだが、観念的ではなく、太宰治を読んでいれば理解出来るのか?というとまた違うようだ。終了後の岩井秀人(ハイバイ)と松井周のトークショーで、実はお客のほとんどが理解出来てない事が判明。その辺りを岩井秀人が突っ込んで聞いてくれて、何となく理解した気がした。でも人には内容を出来ない状況は変わらず。
お勧め出来ないが、世間では期待の劇作家と思われているのは間違いないようだ。
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城山羊の会のメガネ夫婦のイスタンブール旅行記。
タイトルからすると旅の話と思いきや、一匹の猫の死から、夫婦、隣人の関係性へ繋がっていく。そしてシリアスな展開から入って行き、不条理、笑い(クスクス~ゲラゲラ)と狙ったような大笑いの芝居になっていく。上手い展開の見せ方で、別な意味での起承転結という言葉がピッタリとハマりそうだ。やや五反田団に似ているか?と思われるが、五反田団はおとぼけ、クスクス、まるで偶然に芝居が出来あがったように見せる上手さがあるが、城山羊の会は、作られた笑い、狙った笑い、生芝居でしか得られない笑いで上手く見せている感じだ。作・演出の山内ケンジはCMディレクターだ。僕がアシスタントの頃に一本だけ仕事をした事があるがまさか?その方だとは思わなかった。この芝居を観て損はしない。
かなりお勧め!
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三軒茶屋のシアタートラムで劇団・阿佐ヶ谷スパイダースの新作・荒野に立つを観劇。
長塚圭史がイギリス留学後の劇団での2作目の新作。
精神に不安を抱えている女性がある日、探偵から貴女の目玉、片方無くしてませんか?という問いかけに自分の目玉を探しに行く話である。彼女の生活と目玉を探しに行く彼女の旅を二重構造で描いていく。断片的な展開の羅列や、別々に描いていた二重構造の世界が簡単に繋がっていたり、これは何かの比喩か?と思わせぶりで全く関係ない構成で舞台は進行していく。見ている観客は明らかに混乱していくが、観客は見ながらフルスロットルで想像力駆使していき、勝手に展開を繋ぎ合わせる行為を楽しみながら舞台を観ていく。これこそ長塚圭史にしか出来ない舞台でしか味わえない演劇での楽しさを満喫させてくれる。どうみてもこれは明らかに玄人向けの芝居。今までの長塚ファンは間違いなく離れていくだろうが、演劇の新しい表現方法と長塚圭史の枯れない才能に喜びを感じる。そしてこれを楽しめないようじゃ演劇を観る資格なし!
今回は、大好きな女優・佐藤みゆきの活躍の場があまりなくて残念。
観客席には多数の芸能人を発見。そして斜め前に行定監督を発見(芝居小屋で見かけるのはこれで5回目)
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長塚圭史・新ロイヤル大衆舎の『花と龍』を観劇。
何度も映画化されている玉井金五郎の物語。
明治時代終わりの北九州・若松港。
港から船へ石炭の積み込み荷役労働者(ゴンゾ)たちは安い賃金でこき使われ不満を抱いている。ヤクザも登場し、派手なアクションや任侠ものになるのか?とも感じたが、長塚圭史なのでなる訳はない。
出世意欲があるでもない玉井金五郎だが、一向に良くならない生活の為に労働組合を作ろうと奮闘する姿と妻・マンの夫婦の物語だ。
話の流れでヤクザの抗争の見せ場もありながら、ゴンゾたちの貧しい生活を描くのを忘れていない。ヤクザ、賭博、遊郭、玉井金五郎の色恋も描かれていて、波乱万丈の物語と錯覚してしまいそうだが、搾取する側(ヤクザ)とされる側(ゴンゾ)が物語の要になっている。
時代背景を鑑みると資本主義と社会主義との対決と看板をあげて描くことも出来るが、仲間のために生活を良くしたく労働組合を作ろうとする純粋な玉井金五郎の生き方に震えてしまう。
その看板を大きくあげて物語を進行していないからか、あの時代にすんなり入れるのは確かだが、背景を感じながら観劇していくと一層深まっていくだろう。
長塚圭史は決してテーマを表に見せない作劇の上手さが阿佐ヶ谷スパイダースでは際立っていて、困惑と面白さを見出すファンは沢山いるが、大衆向けに作られている今作でもそこは外していない。長塚圭史の作品になっているのだ。
開演前に舞台セットに作られた屋台で、焼き鳥やら焼きそば、アルコールなどの飲食が売られていて、客席で観劇しながら飲んだり食べたりしてもよく、試行を凝らしている。値段も安いようである。一般の劇場がこのような試みをするのはないので、お勧めである。
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ONEOR8の『誕生の日』を観劇。
あらすじ:
バーを経営している加寿美の店では様々な客が訪れている。
人生の話し相手として客の悩みを聞いたりして、流行っているようだ。
そこで高校時代の友人たちが、店の10周年を記念してパーティーを開催するが、記念のビデオを作成するフリーディレクターが、加寿美と友人たちの関係を暴露してしまい、混乱を極めてしまうのであった…。
感想:
小さい頃から男性のような成り立ちをしているから、恋愛をすることを諦めてしまい、自我を殺したまま40歳まで生きてしまった加寿美の人生に、疑問を呈する闖入者に唖然とした観客は全員であろう。
誰にでもある淡い高校時代の思い出が挿入されながら、彼女が何故?このような生き方しか出来なかったのかが描かれている。性同一障害の悩みを抱えているからか?と勘繰りながらも、成長と共に生きていく難しさに焦点がゆっくり合っていく。
少年時代から青年、大人になり、自我の成長と共に他者との関係を築きながら、上手くいかない箇所は諦め、都合よく生きてしまった人生。己の生き方を振り返りながら観劇している観客の心理と物語の構成の流れが見事なまでに合致しているからか、闖入者の暴露に加寿美と共に反応してしまう我々はそこにいるのだ。劇作家の狙いに「お見事!」なんて言っている暇はないほど混乱してしまったのは確かだ。
見事な作劇であった。
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劇団た組『ドードーが落下する』を観劇。
岸田戯曲賞作品
あらすじ:お笑い芸人・夏目は相方と日々ネタ合わせを行なっているが、思うように芸人として歩めていないようだ。相方・賢も介護士の資格を取り、将来の先行きを悩んでいる。
そんな中、夏目に神から声が届くようになり、現実と妄想の世界を彷徨ってしまうのであった…。
感想:統合失調症を抱えながら生きていく辛さと彼に関わる友人、知人、家族との軋轢が描かれている。周りには理解されないと知りながら、ひた隠しに生きていく夏目。知らず知らずのうちに周りに迷惑をかけ、彼の行動は仕方ないと理解しつつ、登場人物と観客は落ち着かない。 時間軸が現在から近い過去へ行ったり来たりする手法は過去作でも行なっているが、あまり意味がないようだ。 他者との関わりの居心地の悪さを終始感じさせる展開は気分が悪く、終着点を見出したいが、それすら見えない終わりに向かっている。 ラストで夏目の妄想と現実の狭間いる平原テツの芝居は圧巻で、生々しくて恐怖すら感じてしまう。これを真に感じることが今作の描きたかったこのなのだろうか? 演劇を生で観ることの喜びすら感じる瞬間でもあったのだ。