しのぶの観てきた!クチコミ一覧

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東京ノート

東京ノート

ミクニヤナイハラプロジェクト

吉祥寺シアター(東京都)

2016/03/24 (木) ~ 2016/03/28 (月)公演終了

満足度★★★★

東京そして人間を見下ろす
 岸田國士戯曲賞受賞作である平田オリザ作『東京ノート』(1994年初演)は、青年団などの上演で私はこれまでに複数バージョンを観たことがあります。物語の舞台がソウルだったり、日中韓3ヶ国語上演だったり、広い劇場ロビーでの上演だったり。東京デスロック版では俳優が観客の中に居る状態での上演でした。

 ミクニヤナイハラプロジェクトの演劇作品はたぶん過去に2作ほど拝見していて、俳優が早口で怒鳴るためにセリフが聴こえづらいことが、私にとってはストレスでした。でも今作は予想していたより遥かにセリフが聞きやすく、演出家の矢内原美邦さんが『東京ノート』を通じて示す今の東京、および人間社会を味わうことができたように思います。言葉の意味と激しく動く肉体、強烈な音響、視覚効果が相まった、独特のステージでした。

 出演者は21人と大人数ですが、パっと見ただけでも違いがはっきりしていて、それぞれに違う人間であることが認識できるほど個性的でした。なのに作品全体の印象は全く異なり、彼らはすっかり没個性化され、人間の集団、生命の集合体といった風に十把一絡げに扱われます。変化のスピードがとても早く、客席にいる観客も物語の当事者も、おそらく追いつけないし、その姿を把握できない。でもその渦中にいる…。それが現代の東京なのだと体感しました。

 ロビーの物販コーナーでは過去作品のDVDが充実しており、原作の文庫本(700円)も購入できました。ロビーで写真展も開催されていたようですが見つけられず。上演時間は約1時間15分と短めでしたが、舞台で起こる現象にあてられて、終演後はボーっとしていたかもしれません。

ネタバレBOX

 ほぼ何もないと言っていい空間で、白い床には動画が映写されます。俳優は白い長ズボンを履いており、上半身は色違いのシャツで、役割によってシャツを着替え、複数役を演じます。1役を複数人で演じたり、女性役を男性が演じたりして、俳優の交換可能性が明快でした。天井から四角い枠が3つ降りてきたり、赤く丸い映像(証明も?)が天井から舞台と人々を照らしたり、高度な技術があってこそ成立する緻密な演出効果に目を見張ります。無機的でシャープな美しさがあるものと、有機的でちょっと泥臭い人間存在との組み合わせから、様々な想像ができました。

 『東京ノート』の世界ではヨーロッパで大きな戦争が起こっていて、絵画がアジアに避難してきています。舞台となる美術館のロビーでは反戦運動を行う人、志願兵としてヨーロッパに向かう若者、軍需景気に沸く会社員たちがすれ違います。美術館のロビーで静かに語られる遠くの戦争が、今作では前面に、直接的に表れていました。個人的に、日本が戦争に近づいている実感があるため、掛け声のように機械的なセリフ回しや、足取りを合わせて同じ方向に進む群舞から、運動会、軍隊を連想しました。福島、ブリュッセルという地名は原作にあるもので、新しく追加されたわけではありません。東京電力福島第一原発事故や、ベルギー連続爆破テロを予言しているかのようです。

 俳優は先述のとおり皆、個別の魅力のある方々だったと思います。課されたタスクの膨大さ、難易度の高さは想像もつきません。稽古どおり、ルールどおりに全員で動くためには、俳優同士が慎重にコミュニケートし続ける必要があるでしょう。ただ、密な交流はあくまでもステージ上に収まっており、客席へは向いておらず、何かを伝えようとするエネルギーは感じ取れませんでした。お芝居が好きな私には少々退屈でしたが、高密度のインスタレーションだと思えば不満はありません。

 数年前に肉体関係があった女子大生(稲継美保)と元家庭教師(沼田星麻)の場面が特に面白かったです。私が今までに観た『東京ノート』とは異なる解釈が示されたようで、女子大生の怒りの表出のさせ方が直接的で、スカッとしました。誇張された動きは滑稽でもあるし、ちぐはぐなところに悲哀も感じました。
赤い竜と土の旅人

赤い竜と土の旅人

舞台芸術集団 地下空港

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2016/03/03 (木) ~ 2016/03/13 (日)公演終了

満足度★★★★

原発、難民問題などを力強いファンタジーに
 ある田舎の島に漂着した旅人が持っていた“釜”の不思議な、巨大な力が、人々の暮らしを一変させます。釜の力の由来や、それを利用しようとする勢力、やがて起こる大きな災害…。物語に日本の原子力政策や東京電力福島第一原発事故、そして事故後の世界を映していることは明らかです。

 そんな社会派と言い切っても問題ないお芝居ですが、オリジナルの楽曲とイスを使った表情豊かなステージング、工夫を凝らした身体表現によって、躍動感のある娯楽作に仕上がっていました。衣装とヘアメイクが凝っていて、役の区別もつきやすく、デザインも良かったです。

 ドローンを用いた予告編ミュージック・ビデオのクオリティーの高さに驚きました。クラウドファンデイングで資金を得て、3/12(土)19時の回は英語字幕付きで、Ustreamで無料中継されました。この作品が生まれるきっかけとなったイギリス・ウェールズ国立劇場のスタッフもご覧になったようで、国境を超えたアーティスト同士のつながりを維持する努力が素晴らしいと思いました。

 本番直前に病気降板になった俳優に代わって、奥田努さんがタンレ役で出演されていました。タンレはいわゆる悪者として物語を引っ張っていく主要人物です。奥田さんが所属されている劇団Studio Lifeは中劇場ツアーも行っている、数十年の歴史がある劇団です。奥田さんは大勢の俳優を抱える同劇団で主役も経験されています。中堅舞台俳優の底力を見せていただけたように思いました。

ネタバレBOX

 片足の少年(村田慶介)、赤い竜(田代絵麻)、土の旅人(野田孝之輔)に込められた意味を探ろうとしたら、便利で危険な釜が登場し、必死で謎に食らい付いていこうとしたのですが、“釜と人間との契約”のところで頭がこんがらがってしまいました。テーマを盛り込み過ぎではないでしょうか。複雑なことも敢えてファンタジー、寓話として楽しむのも方法かもしれませんが、私は“とことん意味を知りたい病”を発症してしまいました。そして快癒できず…。

 釜に物を入れると新品になり、人間を入れると若返って元気になります。役人や豪商がその利権を独り占めしようとしますが、釜から出た人間に穴が開くことがわかります。昔、旅人は自分の故郷を破壊した黒い竜をしとめ、釜に閉じ込めました。そして黒い竜と、「釜に入れた物・人で、旅人の故郷を元に戻していく」という契約を結んだのです。釜に入った人間は元気になりますが、旅人の故郷の穴を埋める代わりに、その人間の体に穴が空くという設定でした。

 旅人の故郷は原爆が投下された街(広島もしくは長崎)だったとわかったところで、黒い竜の正体は原子力爆弾、原子力発電の材料となるウランであると予想がつき、日本が原爆をいつでも作れるように、原発関連施設を保持していることとつながります。
 キャパオーバーになった釜は黒い竜が焼き尽くして爆発。土の旅人の故郷と同じように、ロイの故郷も破壊されました。原子力発電所の輸出や放射性廃棄物の再処理工程を想像してしまいます。それは日本とウェールズをつなぐものでもあります。

 黒い竜がウランで、赤い竜が島に住まう神だとすれば、両方とも土から生まれたものです。私たちの故郷(地球)には常に善悪の種があり、どれも使い方次第。2つの竜のパペットがぶつかりあう戦闘場面は、不思議な感触のクライマックスでした。竜を操る複数の俳優(=人間)の懸命の演技は胸を打つものがありました。

 ほぼ何もない舞台で、俳優は両袖にスタンバイし、舞台に出ていない時も観客の目にさらされます。そういえば俳優は開場時間からステージに居て、それぞれ自由に発声、体操などのアップをしていました。開演まで30分あったのでしょうか。私には長すぎましたね、観ていてちょっと疲れてしまいました。

 俳優の中では、主人公ロイを演じた村田慶介さんの歌声が素直でいいなと思いました。ロイのおば・ミシェ役の野々目良子さんも声に説得力があり、力強い存在感でした。あとは先述の奥田努さんが印象に残っています。
しんじゃうおへや

しんじゃうおへや

yhs

in→dependent theatre 1st(大阪府)

2016/03/12 (土) ~ 2016/03/13 (日)公演終了

満足度★★★

当事者と現場を題材に描く日本の死刑
 南参さんの前説が非常に微笑ましくてつかみはバッチリ!客席もちょうどいい感じの満席でした。開演前にin→dependent theatre 1stの広いロビーでもいい時間も過ごせていましたので、私にとってとても幸せな小劇場観劇になりました。

 ある死刑囚の男性を中心に、刑務官や謎の女性を登場させ、死刑にまつわる人々の思いをドラマティックに描きます。シンプルな舞台美術が、拘置所内の死刑執行室、死刑囚の独房、誰かの部屋へと、境目なくスムーズに変化していきました。夢と現実、過去と現在の境目を曖昧にさせるのも巧みです。死刑がテーマですから、どうしても空気が重たく、暗くなりがちなところ、ちょっとトリッキーな劇中劇や、電気屋の3人組を登場させて笑いを取るシーンが挟まれていました。残念ながら私には笑えなかったんですが…。

 死刑囚を描いたお芝居だと風琴工房『ゼロの柩』が強く印象に残っています。死刑囚は刑務所ではなく拘置所の独房に収監され、弁護士や親戚などのごく身近な人としか面会できないし、基本的にずっと一人きりなので会話もできません。それが何年も続く、そしていつ終わるか(死刑の日が来るか)は、全く知らされない…。セリフでは死刑囚の三塚(小林エレキ)と刑務官の小栗係長(能登英輔)がそれぞれに1度話す(解説する)程度だったので、お芝居の前半でもっと詳しい説明があっても良かったのではないかと思いました。

 演技については残念ながら拙さが気になりました。私の勝手な考えですが、俳優の演技とは人と人との間に生まれるもので、セリフをしゃべっていても、いなくても、常に他者から何かを受け取っている状態で、起こるものだと思っています。このお芝居では、自分の中で想像して作り出した演技を、ただ披露しているだけの人が散見されました。

ネタバレBOX

 刑務官たちが死刑執行の予行演習をする場面から始まりました。実際の執行方法がわかりますし、「執行のボタンを押す刑務官もまた人殺しなのではないか」というテーマに、早くから目を向けさせる効果もあったと思います。また、妹をストーカーに殺された刑務官がいることで、被害者家族の視点も描いていました。

 死刑囚の三塚は大人しいので最初は“悪人”には見えないのですが、彼がある部屋で謎の女性(被害者の幽霊または幻)と出会う場面が少しずつ挿入され、3人の女性を無差別に殺傷した“非人道性”が明らかになっていきます。終盤の教誨師との会話では、三塚の不幸な生い立ちがわかってきて、死刑囚の“人間らしさ”もまた際立ってきます。三塚と長らく接してきた刑務官は、罪人とはいえ彼は人間だと思うしかなく、そうなると自分たちが殺人者であると認めることになります。死刑という制度の矛盾と問題点が、当事者の心情を描くことでわかりやすく示されていたと思います。

 三塚が女性殺しを具体的にやって見せて、自白しながら心情を吐露している時に、唐突に電気屋3人が登場する…というのが最後の場面でした。あの世とこの世が重なる趣向が面白かったです。

 電気屋3人がいたのは死刑執行室の直下にある地下室。床と天井に四角い白い枠を設置して、上の階と下の階の両方を想像させる工夫がいいですね。
 電気屋のシーンで特に感じたのですが、女性(女優)の扱いが少々乱暴すぎる気がしました。物語の中の職場では男性から女性へのパワハラ、セクハラが横行しているようです。

 小林エレキさんが演じた三塚は“無差別殺人犯の死刑囚”という、演じるハードルが非常に高い役柄。自分の殻に閉じこもって自問自答するタイプで、他者と関わるのがとても下手な人物です。過去と対峙する恐怖や、それゆえ曖昧になる記憶、突然あらわれる幻想、常に襲ってくる孤独…。一人の人間に背負わせるには重すぎるものを表しながらの熱演でした。
 小栗を演じた能登英輔さんは、相手とその場でコミュニケーションをしているように見え、刑務官の葛藤にリアリティを感じられました。
緑茶すずしい太郎の冒険

緑茶すずしい太郎の冒険

(劇)ヤリナゲ

王子小劇場(東京都)

2016/03/24 (木) ~ 2016/03/28 (月)公演終了

満足度★★★

現代人の日常を神話のごとき不条理世界に
 王子小劇場に入って右側が客席、左側が演技スペースになっており、横幅の広い舞台でした。ロフト部分も活用して劇場の高さも生かしています。王子小劇場での公演は4回目だそうで、空間の特性をよくわかっていらっしゃるのでしょうね。下手には本棚、上手には衣服が掛けられたハンガーラックがあり、ロフト壁面にはカジュアルな現代服が多数、貼り合わされていて、下手床にもトレーナー等が雑然と散らばっていました。中央には簡単な机とイスが数脚あり、場面転換の際に俳優が移動させます。正面奥には白いスクリーンが用意され、時々映像が映されました。

 胎児(岡本セキユ)が登場して語り部となり、自分を宿す母とも、別の胎児とも会話をするファンタジー仕立てですが、先天性障がいや不妊、中絶、出生前診断等がテーマですので、上演時間は約1時間20分と短めですが、内容は濃厚でした。

 開演前に主人公が舞台上に居る時から、俳優の舞台上での存在の仕方、すなわち観客に対する態度、姿勢に違和感を禁じ得ませんでした。色んな選択肢を試した末に選んだ演技方法には見えなかったからです。自分たちの在り方について問題意識を持っていないというか…。まだタスクをこなすのに必死な状態の方が、冷静に観ていられます。

 俳優の顔に髪の毛が被さって表情が見えないことも問題でした。「ウーロン茶楽しい太郎」(主人公の弟)などを演じた浅見臣樹さんは、長い前髪が眼鏡の上にかかり、目元の表情が伝わってきませんでした。主人公である「ウーロン茶熱い花子」を演じた三澤さきさんは、両サイドの長い髪が頻繁に顔全体を覆い、正面からでも顔がほぼ半分しか見えないし、横顔だと鼻の頭しか見えないという状態でした。俳優重視の私にとっては、ものすごいストレスでした。敢えて顔を隠しているのだとしたら、その効果は何だったのかしら…。終演後に作・演出の越寛生さんとお会いできたのに、聞き忘れて無念。

ネタバレBOX

 タイトルの「緑茶すずしい太郎」とは登場人物の名前です。主人公の女性は「ウーロン茶熱い花子」で、「ウーロン茶」が名字に当たります。「太郎」は男、「花子」は女を意味するようですので、「すずしい」や「熱い」が個別の名前になるのでしょう。俳優が名前を口にする度に海外古典戯曲を思い浮かべたり、見知らぬ異国を想像したりして、現代日本のお話を俯瞰できました(たとえばチェーホフ作『かもめ』に登場する若者の名前は「コンスタンチン・ガヴリーロヴィチ・トレープレフ」と長い目です)。

 名字が「ウーロン茶」である主人公の女性の家族は、頭上にウーロン茶の小さなペットボトルを載せています。なかなかに滑稽で愛らしいし、ペットボトルが消費社会を象徴しているようにも思えました。主人公の不倫相手で妻のある男性教師「緑茶かなしい太郎」(四柳智惟)の頭上には、白い急須が載っていました。2人が校内でこっそり睦み合う場面は、ペットボトルと急須を性器と見なして互いに触り合い、露骨にエロティックだけども笑える、微笑ましい見せ場になっていました。

 「ドーナツ化症候群」という先天性疾患がある主人公の姉(伊岡森愛)の頭上には、大きなドーナツが載っています。例えばダウン症のような目に見える障がいを表しており、障がいを持つ家族がいる人々の日常も描かれました。
 主人公は男性教師と不倫の末、「緑茶すずしい太郎」(岡本セキユ)を妊娠します。男性教師は妻(中村あさき)との間に長らく子供ができなかったので、最初は妊娠を喜んで主人公にプロポーズしますが、子供がドーナツ化する可能性が大きいことを知り、手のひらを返します。

 男性教師をめぐる妻と主人公との対決は、妊娠したくてもできない女性の苦悩、そして差別的な世間の目がよくわかる構造になっていました。男性教師の妻の「堕ろせー!」という叫びに込められた嫉妬と殺意に納得できます。人の弱みに付け込むセミナー商法をコミカルに表す場面も、皮肉が効いていて良かったです。
 主人公の弟の娘ジゾ美(伊岡森愛)と「緑茶すずしい太郎」が胎児同士で語る場面は、言葉ではない何かを通じて人間が会話する、つまり、体がなくても意識(心)でコミュニケーションできる可能性を示すもので、生前、死後の世界を空想できました。胎児とその母が語る以上に胎児の存在を強く示す効果もあり、出生前診断や中絶の是非について考えさせられます。

 主人公の弟の恋人の名前は「笠野ジゾ子」(國吉咲貴)、つまり「笠地蔵」で、義姉(=主人公)への恩返しに「緑茶すずしい太郎」のドーナツ化を治すという奇想天外な出来事が起こります。主人公はすぐに男性教師とよりを戻し、なぜか男性教師の妻も参列して、皆に大いに祝福される、茶番劇のような結婚式へとなだれ込みました。なりふり構わず進む怒涛の勢いと、ふざけた喧噪が良かったです。
 しかし、結婚式が終わって帰宅した主人公には、ドーナツ化症候群の姉にお腹を蹴られて流産するという過酷な運命が待っていました。「緑茶すずしい太郎」は倒れて動かなくなります。「笠地蔵」の登場から、この残酷な結末までは本当にあっという間で、その転落っぷりは心地よいほどでした。

 子供がドーナツ化していても産もうと決心していた主人公が、ドーナツ化した姉に子供を殺され、ドーナツ化していても生まれたいと思っていた「緑茶すずしい太郎」も、ドーナツ化した先輩(=主人公の姉)に命を奪われます。どんな努力も善意も無に帰すような、カラっとした冷酷な着地点に、ギリシア悲劇のような荘厳さを感じました。フィクションならではの遊びと利点を踏まえつつ、物語に古典の重みを備えた面白い戯曲だと思います。

 主人公が歌いながら悩みを吐露するカラオケのステージングや、「緑茶すずしい太郎」が胎内から優しく主人公のおなか蹴る場面の演出は、演劇ならではの手法だと思います。アイデアとしては面白いですし見栄えもしましたが、私は俳優の在り方に不満があったので楽しめませんでした。
保健体育B【終演しました!ご来場ありがとうございました!】

保健体育B【終演しました!ご来場ありがとうございました!】

20歳の国

駅前劇場(東京都)

2016/04/27 (水) ~ 2016/05/01 (日)公演終了

満足度★★★★

幼い恋と性を描く群像劇に、直球のメッセージ
 劇場ロビーが照明でピンク色に染められていて、駅前劇場が何やらちょっと怪しいムード。物販ブースでは過去公演のDVDを販売中。売り子さんも客席案内の方々もガクランとセーラー服を着て、雰囲気を盛り上げてくれていました。
 劇場に入ると奥と手前に客席があり、ステージを二方向から挟む舞台美術でした。私は劇場入り口に近い方に着席。聞き覚えのあるJ-POPが流れ、ミラーボールが回り、ピンク色と青色の照明がステージを照らします。ステージには段差があって、なんだかお立ち台があるクラブみたい。

 高校生同士、教師同士、高校生と教師の恋愛、高校生と社会人との不倫などを描く元気いっぱいの恋愛群像劇でした。ピロートークは本音がモロバレするから(笑)スリリングで面白いし、覗き見の楽しさもあります。雰囲気に甘えて濁したりせず、浮気がばれた時の修羅場もしっかり描き、会話も結末まで書き込んでいることに感心しました。“恋人に会えない寂しさを紛らわすために他人と寝る”という安っぽい恋が、ただの愚行ではなく、愛らしく見えるのも魅力です。ただ、テーマを恋愛に限定しているからか、遠い過去や未来、さまざまな人生などを想像させるような、底力や飛躍力のある戯曲ではありませんでした。

 昔、シャ乱Qの「シングルベッド」がヒットした時に、あるベテランのミュージシャンが「シャ乱Qのような風俗っぽい路線は売れる」といった意味の発言をしていたんです。演歌と流行歌の間というか、軽いノリとウェットな感覚が、幅広い層に受け入れられるのかもしれません。『保健体育B』というタイトルも、男女の甘酸っぱい恋愛ドラマも、そういう親しみやすい路線を狙ったゆえなのかなと思いました。ただ、エッチさはとんがってました(笑)。乱暴な言い方かもしれませんが、“青臭い、愛のある、ポツドール”という印象を持ちました。

 作・演出・出演、そしてプロデュースをされている竜史さんは、範宙遊泳の山本卓卓さんやロロの三浦直之さんとほぼ同世代だそうです。「好きなものを作る」だけでなく、周囲を見て作戦を練って、どんな演劇を作るのかを選んでいらっしゃいます。やはり若い世代には賢い方が多いと思いました。インターネットがインフラ化し、手のひらにある端末でいつでも世界にアクセスできるようになったからでしょうか。これからも若い方々からどんどん学んでいきたいと思います。

ネタバレBOX

 ※引用したセリフは正確ではありません。

 性描写が生々しい現代劇で、俳優が舞台でそれを披露するところが、ポツドールに似ていると思います。たとえば暗転して劇場全体を真っ暗闇にして、複数カップルのいわゆる愛撫から絶頂までのセックスを、たっぷりと聴かせるシーンがありました。明転したら、暗転前の相手とは違う相手と睦み合っているのも、作風としてはポツドールと重なるかもしれません。でも、セックスを“虫の交尾”のように本能的、動物的なものではなく、人間同士が一対一で心を通い合わせるものとして描いているのは、ポツドールとは大きく違いました。

 抱きしめてお互いの存在を確認する場面(育美「タケルだー」タケル「俺だよ」)ではプラトニックなスキンシップとしてのセックスが描かれていました。親が赤ちゃんをだっこするのと同じですよね。「好きって言うことも、言われることも、最高のことだよ」という女子高生のセリフは、嘘のない本気の愛の告白の喜びを肯定しています。「ちゃんと人に踏み込まないと、幸せになれない」と気づいた教師が、「旦那さんと別れて僕と一緒になってください」と同僚の女性教師に告白する場面は、正直な気持ちをあらわした言葉の力を信じる、ストレートな人間賛美とも受け取れました。私は人間が変化する瞬間を描く演劇が好きなので、この場面は特に印象に残りました。

 舞台でなぜか突然踊り出すのは、第三舞台(今は虚構の劇団でしょうか)や演劇集団キャラメルボックスみたい。ちょっと懐かしくもあるし、微笑ましくもありました。ラジオ体操をハード目にしたダンスは観ていて楽しかったです。
 劇中で使われたBARBEE BOYS「目を閉じておいでよ」、モーニング娘。「抱いて HOLD ON ME!」は私(40代)が昔、カラオケでよく耳にした曲です。今はネット検索で時代や地域を超えて音楽と出会えるので、最新のヒット曲と同列に扱われるんですね。私が親しんだ“ナツメロ”という言葉は死語なのかもしれません。勉強になります!

 高校生役を演じている俳優は20代以上の大人ですから、到底17歳とは思えないこともありました。例えばタケル(斉藤マッチュ)の「俺ら17だよ、そりゃ他の誰かを好きになったりするよ。お前(育美)はどうしたいんだ?」という意味のセリフ。あんなに冷静かつ真剣に恋人と向き合って、それでいて彼女を優しく包み込むように話せるのは、17歳男子じゃできないよなぁ~(笑)。10代の男子ってたいてい同年齢の女子より幼いものですしね。でもそれがおかしい、悪いとは全く思いませんでした。演劇の嘘をあえて楽しむこともできますし、高校生の恋愛を大人の恋愛と重ねて二重に味わうのも面白いです。

 ただ、大人の俳優が制服を着ることで高校生だと観客に示す演出なので、教師たちの年齢がわからなかったのが残念。たとえば20代中盤なのか、40代なのかで、夫婦の関係性や、女子高生と男性教師の年齢差などから見えてくるドラマが変わります。「観客がどのように受け取ってもいい」という意図で敢えて余白を残したつもりが、伝える情報が足りないせいで誤解を招いてしまう(真意が伝わらない)という結果になるかもしれない。そこのところは脚本も演出も、もう少し詰めていただきたいと思いました。

 開演直前に3人の学生服姿の俳優さんたちが、マイクを持って元気に歌を歌いました。あれは“カラオケ”だったのかしら…。私は下手な歌はなるべく耳にしたくないタイプの観客なので、人前で下手でも歌うなら、下手だからこそ成立するように演出してもらいたかったです。もしかしたら前座的な、力を抜いた余興だったのかもしれませんが、私は装飾されたロビーからつながるお芝居の導入部として、重要な場面だと思いました。俳優がうつむいて歌う意味もよくわからないくて…観客の顔を正面から見られない未熟な俳優だからなのか、そういう演出意図なのかと、歌が終わるまでずっと考える時間になってしまいました。

 私は近年、特に俳優を重視するようになっています。今作では舞台上にいる人たちの姿勢が悪いことが気になりました。役人物の姿勢が悪いのは、俳優自身の背中が曲がっているからであって、演じる役柄の個性として、あえて背中を丸める演技をしているようには見えませんでした。俳優さんには普段から心身の訓練をしてもらいたいですし、演出家にも意識的になっていただきたいです。服を脱いだ男優の体が鍛えられていたのにはホっとしました。「だらしない体はダメだ」なんて一刀両断するつもりは毛頭ありませんが、作り手の方々には“俳優の身体は観客に見せるものである”という自覚を常に持っていて欲しいと思います。
レドモン

レドモン

カムヰヤッセン

吉祥寺シアター(東京都)

2016/04/06 (水) ~ 2016/04/10 (日)公演終了

満足度★★★

宇宙人との共生を描くSFに現代を映す
 地球にやってきた宇宙人“レドモン”と人間、そしてその混血(マジリ)との共生の可能性を、ホットかつウェットな人間ドラマで探っていく近未来ファンタジーでした。地球人の体制側がレドモンを母星へと強制送還させようとすることで、人々の暮らしに大きな亀裂が生まれます。初演は2007年ですが、今、まさに起こっているヘイトスピーチなどの人種差別や難民問題と、ヴィヴィッドに重なっていきました。

 ガランとした天井の高い空間に、鉄骨のような背の高い柱がそびえたつ舞台美術でした。柱と柱の間をつなぐ透明のホースが、目には見えない境界線を示すかのようで、俳優がホースを外したり、つなげたりして場面転換をするのも含意があって良かったです。

ネタバレBOX

 冒頭の、レドモンと人間の歴史について説明する群舞がとてもわかりやすく、絵的にも見栄えがする場面になっていました。赤いスカーフをレドモンの赤い尻尾に見立てて踊るのもきれい。暗黒舞踏にたとえるギャグも可笑しかったです。

 新聞社という企業の中の人間関係や、サラリーマン家庭の普段の暮らしを描くので、観客は「自分がもしレドモンだったら…」と想像しやすかっただろうと思います。目の前で起こるフィクションを通じて自分自身について考えるのは、観劇の醍醐味です。私は特に通称レドモン法(純潔維持法)の賛否の議論や、施行後のことを想像できて面白かったですね。レドモンは強制送還されるけれど、人間の血が通っているマジリは地球にとどまることができます。つまり家族は引き裂かれてしまう。血って一体何なのか、そんなに価値があるのだろうかと、自分のルーツである日本や地球の歴史について振り返って考えられました。

 ただ、脚本および演技には疑問点が多く、それらが喉に刺さった小骨のように引っかかったまま、最後まで観劇することになってしまいました。
 主人公の立川(辻貴大)は新聞社に勤める30代ぐらいの男性です。彼はレドモンの妻(穴泥美)とその間に生まれた14歳の娘ルルカ(ししどともこ)と三人暮らしですが、会社では独身だと偽っています。大手新聞社で家族構成を隠せるわけがないから、彼は非正規雇用の人材なのかも…なのになぜ、あんなに上司に対して自由に発言できるのだろう…などと余計なことを考え続けてしまいました。

 ルルカは尻尾を脱色する事件を起こします。それが原因の親子ゲンカは腑に落ちませんでした。立川はルルカに対して「(親の気持ちも)ちょっとは考えてくれよ!」と言い放ちます。それは娘のセリフですよね。混血として生まれて尻尾が生えてきたばかりの思春期の娘の方が、地球人の父よりもずっと複雑な状況を生きています。なのになぜか母(=立川の妻)までもが自分のことを棚に上げ、ルルカに「(お父さんに)謝りなさい」と言い出す始末…。立川はその後の場面で「反抗期だから、(ルルカは)聞く耳なんか持ちませんよ」とも言っていました。ここまで幼稚で身勝手な親なら、娘は最後に離れ離れになって良かったなと思いました。私のこの受け取り方は、脚本の意図からはきっと、かけ離れているだろうと思います。

 終演後に関係者から、初演では立川の子供は5歳の男児だったと聞きました。それは大きな変更ですね。単純に考えて子育て経験が約10年も違うことになりますから、立川とその妻のキャラクターづくりは刷新する必要があっただろうと思います。

 出演者の中では厚生労働省の“純潔維持課”で働く女性、成城なつめ役の工藤さやさんが良かったです。仕事の内容も、隠れレドモンの中塚記者(木山廉彬)への恋も信じられたし、おとりになって彼を騙す場面もスリリングでした。
この声

この声

オイスターズ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2016/02/19 (金) ~ 2016/02/23 (火)公演終了

満足度★★★

大きな問いをはらむナンセンス・コメディー
 おっとりした成人男性1人と、彼をいじめる若くて元気な女性3人が登場するナンセンス・コメディーでした。平気で嘘を重ねる小悪魔のような女性たちが男性を追い詰めますが、男性もうっかり調子に乗って作り話をするので、自業自得の滑稽さも際立っていきます。虚構(=物語)の楽しさと豊かな可能性を軽妙に伝えつつ、軽々しい嘘によって起こる事件に空恐ろしさもにじませました。

 終演後に物販コーナーで戯曲(1,000円)を購入しました。読んでみると上演中にははっきりと理解できていなかった箇所があり、他の座組みでも観てみたい戯曲だと思いました。

 終演後に作・演出の平塚直隆さんからお話を伺うことができました。4都市ツアーのうち、東京のこまばアゴラ劇場が空間的には一番小さいそうで、他劇場とはかなり印象が異なるかもしれないとのこと。言われてみれば確かに、大きな劇場にも合わせていたせいか、俳優の声は(こまばアゴラ劇場のキャパに対しては)ボリュームが大きい目だった気がします。その点は気にしないようにしました。

ネタバレBOX

 開場時間には学校などの公的施設でよく聞くタイプのアナウンスが響いていました。選曲も懐かしく、さすがは昭和48生まれの俳優によって結成された劇団だなと思いました(私は同世代です)。平台をそのまま並べた床面が広がり、下手手前にイーゼルと木製のイス、そして絵画用品が置かれているシンプルな空間です。

 暗転後に開幕すると、成人男性がイスに腰掛けてキャンバスに筆で絵を描いていました。上手からセーラー服を着た若い女性が登場し、開演前のアナウンスの効果もあって、すぐに学内の風景だと想像できました。ただ、演技が機械的で空気が固く、もしかすると男性の想像の世界の出来事であって、学校でもないし、劇中の事実でもないのかも…と、しばらく様子見をすることに。その後、特に演技方法などに変化がなかったので、こういう作風なのだろうと、細部にはこだわらない見方に落ち着けることにしました。

 安易な思い込み、軽率なレッテル貼り、間違いだらけの伝言ゲーム、悪意の噂やデマの流布などは、インターネットがインフラ化してスマートフォンやSNSが進化した現代において、頻繁かつ容易に可視化されるようになりました。それらの行為がシンプルな会話劇にギュっと凝縮されている、面白い戯曲だと思います。喜劇だからニヤリとしてやり過ごせますが、実際に起こったなら、笑いごとでは済まされないことばかりです。

 男性教師は自分を翻弄する女生徒3人が顔見知りの仲間だと思っていましたが、終盤で、顔も見たことのない他人同士だったとわかります。匿名のチャットのグループで男性の情報を共有をしていたのでしょうか。LINEやtwitter等を日常的に使っていれば、そういったことは可能で、自分の身にも起こり得ると想像できます。バーチャル(虚構)の虚言がリアル(現実)に影響を及ぼしたなら、その虚言は現実のはず。じゃあその虚言を発した声は実在するのか?その声の主は生きている、リアルな、人間なのか?…という具合に、一見くだらなくて軽々しいやりとりの中に、大きな問いを含んでいるのが巧みだと思いました。

 彼らは死体となった人間が動き出し、生きた人間を襲うという有名なバケモノの“ゾンビ”の話をしていました。ゾンビは死体だが動く、だとしたら生きているのか? 息をしていることが生きている証だと思っていたが、そうでないなら人工知能も生命ではないか? やがて「生きているって何なのかしら」(16ページ上段の女2のセリフ)という風に、生きていることについて直接的な問いかけをしていきます。18ページ上段ではより具合的になります。
 女3:そうですよね、死んでたら、その人の声は届かないですもんね。
 女2:今私達は、生きている事と死んでいる事の違いについて考えているのです。
 
 人間が生きている事とは何なのか。自分の存在を確かめるには他者の存在が不可欠です。そのかけがえのない他者と真実の言葉でつながらず、嘘で誤解を重ね続けることは不毛、つまり死を意味するかもしれない。それなら息をしていたって死んでいるも同然。生きながらにして死者にもなれる…などと考えを巡らせました。

 俳優の演技については劇団独自の方針や方法論があるのだろうと思います。私は舞台上で生まれる俳優同士の交流を味わいたいと思っているので、振付どおりに進むように見える会話には興味が持続しませんでした。たとえば、自分が相手に向かってセリフを言っている時は言うことだけに意識を集中し、言い終えたとたんに息をつき、相手が話しかけてくる時間はただ休憩をして、自分の番を待つ…といった演技には惹かれません。

 教師と生徒の日常会話と見せかけて、実はあり得ないような演技で構成されていました。もっと挑発的な試みを加えてもいいんじゃないかと思いました。たとえばジャンプするとか踊るとか、観客に向かって堂々と話しかけるとか。そういった飛躍を包容できる戯曲だとも思います。

 女1(横山更紗)が勝手に1人で歌い出す歌が楽しかったです。下手奥でネジのように回転しながら、奈落に刺さって履けていく場面は印象に残りました。
 女2(川上珠来)は髪の毛が顔に広くかかっていて、横顔の表情が見えなかったのが残念でした。
 教師を演じた田内康介さんは愛嬌たっぷりなので、サンドバック状態が苦になりませんでした。終盤の長い一人語りは見どころでしたが、床に寝転んでじたばたしながら叫ぶだけでなく、声にも動きにも、もっと変化が欲しいと思いました。
SQUARE AREA【ご来場ありがとうございました!】

SQUARE AREA【ご来場ありがとうございました!】

壱劇屋

王子小劇場(東京都)

2016/04/06 (水) ~ 2016/04/10 (日)公演終了

満足度★★★★

サービス満点!体験型の娯楽演劇パッケージ
 真四角の謎の閉鎖空間“SQUARE AREA(スクエアエリア)”に閉じ込めらた、見知らぬ人々の攻防を描くSFサスペンス・ドラマでした。壁のない舞台の四方に客席があり、床の高さは60cm。角には4本の支柱が建っていて、最上部に全支柱を横につなぐ四角い枠があり、柱だけの立方体になっています。

 作・演出・出演の大熊隆太郎さんはパントマイマーのいいむろなおきさん、小野寺修ニさんに師事し、京都でロングラン中のノンバーバルパフォーマンス『ギア-GEAR-』にも出演されています。シンプルな抽象舞台と伸び縮みする紐を使った身体表現が見どころで、パントマイムの群舞による空間の七変化もスリリングです。通路を走る役者さんから風が届いて、小劇場ならではの臨場感も味わえました。

 私は関西出身ですが東京に住んで20年以上になります。普段は耳にしない関西弁の方がフィクションの世界に入りやすいだろうと思い、全編関西弁のスペシャルステージを選びました。それが功を奏したのかどうかは確認できませんが、終演後のワークショップも含めて、サービス満点の娯楽イベントとして楽しむことができました。

 上演が1時間30分で、終演後に約30分のイベント(ワークショップなど)があり、計2時間の娯楽パッケージにしているところが素晴らしいです。劇場入り口の壁には俳優の名前ののぼりが何枚も貼られていて、導入部からわくわくしました。劇場階段の踊り場には、観客が自由に感想を書き込める色紙とカラフルなペンが置かれていて、なんと色紙は6枚貼り合わせた立方体(=SQUARE AREA)になっていたんです。観客が作り手とともに作品と公演に参加して、一緒に楽しめる仕掛けをたくさん準備してくださっていることに感動しました。

 東京公演は3都市ツアーの最終地でした。東京公演専用のチラシを作成し、劇場への折り込みも活発に行っていました。劇場に入ってすぐ突き当りにあった黒い壁には、愛知公演、三重公演を観たリピーター観客が違う角度の客席を選べるように、ステージの向きを明記した各地の座席表が掲示されていました。なんて親切なんでしょう!

 終演後に大熊さんと制作の西分綾香さんにお話を伺いました。西分さんからは「CoRich舞台芸術まつり!の最終選考に残ったおかげで東京公演にお客さんが大勢来てくれました」という言葉をいただきました。終演後のロビーでは、売り子の皆さんが観客に対してあまりに熱心に商品をお薦めされていたので、購入して応援したい気持ちになりました。強い意志を伴う行動は実を結びますね。

 ※東京公演では千秋楽の4/10(日)朝10:30開演の追加公演が決まり、ステージ替わりゲストは王子小劇場・芸術監督の北川大輔さん(カムヰヤッセン)でした。「CoRich舞台芸術まつり!2016春」最終選考のライバル同士で、なんと公演期間も丸被りだったにもかかわらず、壱劇屋を王子小劇場に呼んだ劇場職員として一肌脱いだ北川さん…男前!しかも前売り完売という成果を上げました。

ネタバレBOX

 開演前に大熊さんがどしどし観客に話しかけ、そこまでしなくてもいいのでは…と思うほど(笑)和ませてくださいました。でも開幕してからは空気が一転。5分で神妙かつダークな雰囲気の異世界へと連れて行ってくれました。

 見ず知らずの人々が突然“スクエアエリア”に放り込まれ、閉じ込められます。壁にある目に見えないノブを回し、ドアを開いて次の部屋に行くと、また同じスクエアエリアに戻ってしまうなど、観客に劇中のルールをわかりやすく説明し、少しずつ物語へと誘導していくのが巧み。短いセリフの応酬がリズミカルで、ギャグが沢山ちりばめられているので、大仰さや深刻さは控えめになり、軽やかに進行します。「残り50分」「残り10分」などと制限時間をカウントダウンしたり、謎の手紙を降らせたり、スリルを感じさせる仕掛けが周到です。

 スクエアエリアの中で白いゴム紐を使って立方体を作り、人が入ったり出たりして変形させていくパントマイムは、大道芸、群舞として見ごたえがあり、物語とリンクしているのもとても面白かったです。白い紐をスクエアエリアに巻き付ける演出も良かったですね。ただ、俳優の演技およびパントマイム中の表情や動きについては、まだまだ改善、洗練の余地が大いにあると思いました。パントマイムは、役柄を演じたまま、さらりと、華麗に見せて欲しいです。

 登場人物は皆、私生活で何かしらに追い詰められており、その原因が解消されるとスクエアエリアから脱出できますが、全員が脱出できなければ、また元に戻ってしまうという設定でした。彼らをつなぐ接点は病院に入院中の少女、小町(小刀里那)。どうやら入院中にお世話になった人々に恩返しをしたいという彼女の思いが、人々をスクエアエリアに召喚したようですが、そのあたりは上演中にはあまり理解できませんでした。最終的には相互に助け合いをすることで、全員が脱出します。他人を差し置いて自分だけ助かろう、自分だけ得をしようという生き方はみっともないです。誰一人置いてきぼりにせず、全員で幸せを目指す姿を描いたことが素晴らしいと思います。

 強盗役とジャガー役を演じる、ステージ毎に異なるゲスト出演者は、塩原俊之さん(アガリスクエンターテイメント)でした。セリフと演技の両方で下ネタ炸裂…。私はもう40代の観劇オタクですから(苦笑)、慣れたものとはいえ、ドン引きしました。大熊さんに「20ステージ中、“最低”のジャガーでした!」と紹介されていて、さもありなんと思いました。ゲストの当たりハズレは運ですので気にしません(こりっち審査員の余裕をかましておくぜっ)。

 俳優の中で動きにキレがあると思ったのは、幾度となく押し寄せる便意に困りまくる河村役の河原岳史さんでした。
イトイーランド

イトイーランド

FUKAIPRODUCE羽衣

吉祥寺シアター(東京都)

2016/04/14 (木) ~ 2016/04/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

イトイーランド
ベッドで睦み合いながら宇宙、深海の旅へ。最初の場面から落涙。独自の世界が洗練、深化。でもいつも通り全身全霊で何もかも肯定して愛してくれる。約2時間50分、15分休憩込みだがもっと観てたかった。糸井幸之介さん、商業演劇でも活躍して欲しい。
音楽、音響、振付、衣装などもグレードアップしてる。出演者は皆、魅力的。幸田尚子さんの美貌と緻密な演技に感服。兵庫公演あり。

巣穴で祈る遭難者

巣穴で祈る遭難者

一色洋平×小沢道成

Geki地下Liberty(東京都)

2016/03/26 (土) ~ 2016/04/04 (月)公演終了

満足度★★★★

黒のみ拝見
面白かったです〜。カーテンコール込みで約85分。劇場エントランスから作品世界へと誘導する装飾が施されていて、装置も凝っていて、娯楽としての観劇体験ができました。俳優主導の公演で演出も俳優が担当。脚本(作・須貝英)も演技も心がこもっていて良かったです。

ネタバレBOX

自分も信じることが大事だ、と信じているタイプなので、励まされました。
GIFTED

GIFTED

三月企画

横浜にぎわい座・のげシャーレ(神奈川県)

2016/03/24 (木) ~ 2016/03/28 (月)公演終了

満足度★★★★★

野上版「わが星」
作・演出・振付・出演:野上絹代。約75分。傑作過ぎてほぼ全編泣いてた…。端田新菜さんもさすがの好演。いわば野上版「わが星」。子育てと介護の現実がリアルでコミカル。卒園式の稽古という劇中劇で、人間の誕生、宇宙と生命の起源まで軽やかに、ダイナミックに遡る。観客との関係も柔軟で風通しが良い、大人の演劇公演。親子連れOK、むしろ推奨。公立劇場を回る全国再演ツアーはいかがでしょうか。4人芝居で装置や小道具少なくフットワーク軽いはず。レパートリー化希望。

THE GAME OF POLYAMORY LIFE

THE GAME OF POLYAMORY LIFE

趣向

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2016/01/21 (木) ~ 2016/01/24 (日)公演終了

満足度★★★★

THE GAME OF POLYAMORY LIFE
約1時間45分。「同時に複数の人と合意のうえで愛の関係を築く」生活を選んだ人々ならではの問題が起こって面白い。対面客席空間が風通し良い。大内真智&水野小論ペアがスリリング。
恋人がいると自分の時間か減るし面倒とか言う若者像がリアルで可愛い。冷静ぶっても嫉妬に苦しむ大人たちに笑った。ただ10〜20年後が想像しづらかった。ポリアモリーは実在する。観劇後の感想が色んな意味で盛り上がりそう(笑)

ネタバレBOX

オレンジ色の冷蔵庫とか群青色のスツールとか、おしゃれ系空間にしたのはなぜだったのかな〜。
『地域の物語2015 あっちはこっち、こっちはあっち~介助・介護をかんがえる』発表会

『地域の物語2015 あっちはこっち、こっちはあっち~介助・介護をかんがえる』発表会

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2015/03/22 (日) ~ 2015/03/22 (日)公演終了

満足度★★★★

地域の物語2015
介助・介護の現場にいる/いた市民による実体験を聞き書きし読んで伝える演劇。舞台作品の完成度の高さに驚いた。

消失

消失

ナイロン100℃

本多劇場(東京都)

2015/12/05 (土) ~ 2015/12/27 (日)公演終了

満足度★★★★

キャストが同じの再演は贅沢
10年前の初演は物語に浸って涙したが、今回は現実が物語に余りに近くて…我がこととして冷静に観ることに。前半はゲラゲラ笑い、後半は遠い過去と未来に思いを馳せた。空想は逃避かもしれない。でも人が生きるには思い出や希望がなければ。

ネタバレBOX

やっぱり「変な奴が威張ってるし」というセリフがすごく好き。
MONOLITH

MONOLITH

頭と口

テルプシコール(TERPSICHORE)(東京都)

2015/12/25 (金) ~ 2015/12/27 (日)公演終了

満足度★★★★

終演後のトークがとても面白かった
山村佑理さんと渡邉尚さんのソロ、各30分ずつ。ジャグリングの域に収まらないダンス。ボールを落とす、転がす、関わる。ボールと組んでコミカルに動物化したり。賽の河原での石積み、修行の印象も。乗越さんとお2人のトークが面白かった。ダンスの本質、舞踏の誕生など変遷をおさらいし、今作とお2人がどういう位置にあるか解説。渡邉さんは床、物のエネルギーの変化で体が動くと。それに共鳴する山村さん。「体が先に知っている。まだ言語化されていない」と乗越さん。見たことのない人間に会えるのは刺激的で面白い。舞台は多様性を実感できる場(鈴木忠志さん、宮城聰さん談)。体に起こるリアルの大切さ、特技は繰り返すという話は俳優と同じと思った。

ただいま

ただいま

劇団こふく劇場

こまばアゴラ劇場(東京都)

2015/12/19 (土) ~ 2015/12/23 (水)公演終了

満足度★★★

ただいま
劇団こふく劇場の作品は2010年「水をめぐる2」以来。

「ただいま」は約2時間弱。全編柔らかな宮崎弁のお芝居。庶民の日常を語りと会話で見せる。些細な出来事を可笑しく、物悲しく。それぞれのエピソードがとても面白かった。

各俳優が持つ短い木の棒は扇子なのか様々な道具に見立てて使われ、基本的に客席を向いて演技する。移動は摺り足。

ネタバレBOX

摺り足は時間の経ち方も見え方も面白いけれど、場面転換に必ず使う、という風にルール化しなくていいのではないかと思った。「水をめぐる2」もそうだったが、やや冗長に感じることがある。
CHAiroiPLIN 踊る戯曲3『三文オペラ』

CHAiroiPLIN 踊る戯曲3『三文オペラ』

CHAiroiPLIN

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2015/10/24 (土) ~ 2015/11/01 (日)公演終了

満足度★★★★

踊る戯曲3「三文オペラ」
CHAiroiPLINのスズキ拓朗さんの卓越した演出力に感服。時々自動の生演奏と可動式の美術、大人数の群舞でアイデア満載の見せ場を連発。今、通用する異化効果も見事。主張もしっかり。踊るメッキーが魅力的で説得力ある!小劇場の傑作がまた三鷹で誕生したのかも♪

ネタバレBOX

終盤のメッキーのソロは歌じゃなくてダンス!
終演後、舞台天井中央に吊られた拡声器に照明が当てられていた。大きな声に扇動され、自分から牢に入っていく民衆を想像。
スポケーンの左手

スポケーンの左手

シーエイティプロデュース

シアタートラム(東京都)

2015/11/14 (土) ~ 2015/11/29 (日)公演終了

満足度★★★★

スポケーンの左手
確かにコメディだけどテロの話だと思った。小さな命を奪うことと、奪われた人の人生が描かれ、悲しくて、やり切れなくて、いたたまれない。ささやかな希望も示して、マクドナー戯曲の真髄をしかと見せてくれた。豪華キャストでも「スター扱い」が全くない、さすがの小川絵梨子演出。美術(松岡泉)は具象と抽象の大胆なバランスが面白い。観客を驚かす手法は娯楽性が高く、かつ上品。

ネタバレBOX

ホテルマン(成河)が語る動物園のテナガザルのエピソードが切ない。たっぷり時間をとった一人語りになっていたのも良かった。
ミュージカル『HEADS UP !』

ミュージカル『HEADS UP !』

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2015/11/13 (金) ~ 2015/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

再演熱望!
 ミュージカルの裏方たちが主役で、幕開けの中川晃教さんの登場シーンから涙だだ漏れ。
 表方、裏方、そして観客がいて初めて成り立つ舞台芸術という儚い奇跡が、素舞台で生まれて消えるまでを描く。観客が劇場内の出来事を共に体験していく劇中劇中劇の構造で、作り手と観客の「共犯関係」が前提であることを冒頭で確認してから進行する。
 異化効果を了解済みで、積極的にそれを楽しもうとする、客席の生き生きとした反応!それが作品に与える影響と来たら!お芝居の幸せってこういうこと!
 歌もダンスも楽しいし、ギャグも笑える。ミュージカルファンも、私みたいな演劇オタクも、お芝居なんか全く観たことがない人も、ノリノリに前のめりになって参加できる作品だと思った。
 再演して欲しい。レミゼみたいにずっと上演されていって欲しい。こんな舞台が公立劇場から生まれたことを心から感謝します。
 詳細:http://shinobutakano.com/2015/11/28/754/

Needles and Opium 針とアヘン〜マイルス・デイヴィスとジャン・コクトーの幻影〜

Needles and Opium 針とアヘン〜マイルス・デイヴィスとジャン・コクトーの幻影〜

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2015/10/09 (金) ~ 2015/10/12 (月)公演終了

満足度★★★★

針とアヘン
約1時間45分。めっちゃ良かった…!!80年代を生きるケベックの俳優と、マイルス・デイビス、ジャン・コクトーという天才たちの愛と苦悩と傷心、そして創作。人の心の大きさは国や宇宙と同じ。そんなスケールを体感。高品質!
回転するキューブ型の装置とプロジェクション・マッピングの技術、そして俳優の演技のコンビネーションが見事です。練度が高く、洗練されていて、上品で、それでいて人懐っこい。心の内側と地球の外側を旅して、そのシンクロニシティを感じられる幸せな演劇体験でした。

ネタバレBOX

作品創作が人間を生き返らせる、共同製作が人間同士をつなぎとめるのだなと思いました。こまつ座『マンザナ、わが町』でも描かれていたことです。人間にはものづくりが必要なんだと思います。

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