赤い竜と土の旅人 公演情報 舞台芸術集団 地下空港「赤い竜と土の旅人」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    原発、難民問題などを力強いファンタジーに
     ある田舎の島に漂着した旅人が持っていた“釜”の不思議な、巨大な力が、人々の暮らしを一変させます。釜の力の由来や、それを利用しようとする勢力、やがて起こる大きな災害…。物語に日本の原子力政策や東京電力福島第一原発事故、そして事故後の世界を映していることは明らかです。

     そんな社会派と言い切っても問題ないお芝居ですが、オリジナルの楽曲とイスを使った表情豊かなステージング、工夫を凝らした身体表現によって、躍動感のある娯楽作に仕上がっていました。衣装とヘアメイクが凝っていて、役の区別もつきやすく、デザインも良かったです。

     ドローンを用いた予告編ミュージック・ビデオのクオリティーの高さに驚きました。クラウドファンデイングで資金を得て、3/12(土)19時の回は英語字幕付きで、Ustreamで無料中継されました。この作品が生まれるきっかけとなったイギリス・ウェールズ国立劇場のスタッフもご覧になったようで、国境を超えたアーティスト同士のつながりを維持する努力が素晴らしいと思いました。

     本番直前に病気降板になった俳優に代わって、奥田努さんがタンレ役で出演されていました。タンレはいわゆる悪者として物語を引っ張っていく主要人物です。奥田さんが所属されている劇団Studio Lifeは中劇場ツアーも行っている、数十年の歴史がある劇団です。奥田さんは大勢の俳優を抱える同劇団で主役も経験されています。中堅舞台俳優の底力を見せていただけたように思いました。

    ネタバレBOX

     片足の少年(村田慶介)、赤い竜(田代絵麻)、土の旅人(野田孝之輔)に込められた意味を探ろうとしたら、便利で危険な釜が登場し、必死で謎に食らい付いていこうとしたのですが、“釜と人間との契約”のところで頭がこんがらがってしまいました。テーマを盛り込み過ぎではないでしょうか。複雑なことも敢えてファンタジー、寓話として楽しむのも方法かもしれませんが、私は“とことん意味を知りたい病”を発症してしまいました。そして快癒できず…。

     釜に物を入れると新品になり、人間を入れると若返って元気になります。役人や豪商がその利権を独り占めしようとしますが、釜から出た人間に穴が開くことがわかります。昔、旅人は自分の故郷を破壊した黒い竜をしとめ、釜に閉じ込めました。そして黒い竜と、「釜に入れた物・人で、旅人の故郷を元に戻していく」という契約を結んだのです。釜に入った人間は元気になりますが、旅人の故郷の穴を埋める代わりに、その人間の体に穴が空くという設定でした。

     旅人の故郷は原爆が投下された街(広島もしくは長崎)だったとわかったところで、黒い竜の正体は原子力爆弾、原子力発電の材料となるウランであると予想がつき、日本が原爆をいつでも作れるように、原発関連施設を保持していることとつながります。
     キャパオーバーになった釜は黒い竜が焼き尽くして爆発。土の旅人の故郷と同じように、ロイの故郷も破壊されました。原子力発電所の輸出や放射性廃棄物の再処理工程を想像してしまいます。それは日本とウェールズをつなぐものでもあります。

     黒い竜がウランで、赤い竜が島に住まう神だとすれば、両方とも土から生まれたものです。私たちの故郷(地球)には常に善悪の種があり、どれも使い方次第。2つの竜のパペットがぶつかりあう戦闘場面は、不思議な感触のクライマックスでした。竜を操る複数の俳優(=人間)の懸命の演技は胸を打つものがありました。

     ほぼ何もない舞台で、俳優は両袖にスタンバイし、舞台に出ていない時も観客の目にさらされます。そういえば俳優は開場時間からステージに居て、それぞれ自由に発声、体操などのアップをしていました。開演まで30分あったのでしょうか。私には長すぎましたね、観ていてちょっと疲れてしまいました。

     俳優の中では、主人公ロイを演じた村田慶介さんの歌声が素直でいいなと思いました。ロイのおば・ミシェ役の野々目良子さんも声に説得力があり、力強い存在感でした。あとは先述の奥田努さんが印象に残っています。

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    2016/05/18 22:25

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