レドモン 公演情報 カムヰヤッセン「レドモン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    宇宙人との共生を描くSFに現代を映す
     地球にやってきた宇宙人“レドモン”と人間、そしてその混血(マジリ)との共生の可能性を、ホットかつウェットな人間ドラマで探っていく近未来ファンタジーでした。地球人の体制側がレドモンを母星へと強制送還させようとすることで、人々の暮らしに大きな亀裂が生まれます。初演は2007年ですが、今、まさに起こっているヘイトスピーチなどの人種差別や難民問題と、ヴィヴィッドに重なっていきました。

     ガランとした天井の高い空間に、鉄骨のような背の高い柱がそびえたつ舞台美術でした。柱と柱の間をつなぐ透明のホースが、目には見えない境界線を示すかのようで、俳優がホースを外したり、つなげたりして場面転換をするのも含意があって良かったです。

    ネタバレBOX

     冒頭の、レドモンと人間の歴史について説明する群舞がとてもわかりやすく、絵的にも見栄えがする場面になっていました。赤いスカーフをレドモンの赤い尻尾に見立てて踊るのもきれい。暗黒舞踏にたとえるギャグも可笑しかったです。

     新聞社という企業の中の人間関係や、サラリーマン家庭の普段の暮らしを描くので、観客は「自分がもしレドモンだったら…」と想像しやすかっただろうと思います。目の前で起こるフィクションを通じて自分自身について考えるのは、観劇の醍醐味です。私は特に通称レドモン法(純潔維持法)の賛否の議論や、施行後のことを想像できて面白かったですね。レドモンは強制送還されるけれど、人間の血が通っているマジリは地球にとどまることができます。つまり家族は引き裂かれてしまう。血って一体何なのか、そんなに価値があるのだろうかと、自分のルーツである日本や地球の歴史について振り返って考えられました。

     ただ、脚本および演技には疑問点が多く、それらが喉に刺さった小骨のように引っかかったまま、最後まで観劇することになってしまいました。
     主人公の立川(辻貴大)は新聞社に勤める30代ぐらいの男性です。彼はレドモンの妻(穴泥美)とその間に生まれた14歳の娘ルルカ(ししどともこ)と三人暮らしですが、会社では独身だと偽っています。大手新聞社で家族構成を隠せるわけがないから、彼は非正規雇用の人材なのかも…なのになぜ、あんなに上司に対して自由に発言できるのだろう…などと余計なことを考え続けてしまいました。

     ルルカは尻尾を脱色する事件を起こします。それが原因の親子ゲンカは腑に落ちませんでした。立川はルルカに対して「(親の気持ちも)ちょっとは考えてくれよ!」と言い放ちます。それは娘のセリフですよね。混血として生まれて尻尾が生えてきたばかりの思春期の娘の方が、地球人の父よりもずっと複雑な状況を生きています。なのになぜか母(=立川の妻)までもが自分のことを棚に上げ、ルルカに「(お父さんに)謝りなさい」と言い出す始末…。立川はその後の場面で「反抗期だから、(ルルカは)聞く耳なんか持ちませんよ」とも言っていました。ここまで幼稚で身勝手な親なら、娘は最後に離れ離れになって良かったなと思いました。私のこの受け取り方は、脚本の意図からはきっと、かけ離れているだろうと思います。

     終演後に関係者から、初演では立川の子供は5歳の男児だったと聞きました。それは大きな変更ですね。単純に考えて子育て経験が約10年も違うことになりますから、立川とその妻のキャラクターづくりは刷新する必要があっただろうと思います。

     出演者の中では厚生労働省の“純潔維持課”で働く女性、成城なつめ役の工藤さやさんが良かったです。仕事の内容も、隠れレドモンの中塚記者(木山廉彬)への恋も信じられたし、おとりになって彼を騙す場面もスリリングでした。

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    2016/05/17 11:57

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