土反の観てきた!クチコミ一覧

441-460件 / 1019件中
芸術祭十月大歌舞伎

芸術祭十月大歌舞伎

松竹

新橋演舞場(東京都)

2012/10/01 (月) ~ 2012/10/25 (木)公演終了

満足度★★★

夜の部鑑賞
ドラマチックな『曽我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)』と、様式性の高い『勧進帳』の2本立てで、どちらもケレンの効いた派手な演出はないものの、伝統芸ならでは芯のある演技に引き込まれました。

『曽我綉侠御所染』
腰本との不義を密告されて為に侠人となった男が周りの厚意を裏切りだと勘違いして関係のない人を殺してしまい、後に真実を知って妻と共に自害するという悲劇的な物語でした。
敵対する5人ずつのグループがシンメトリックに七五調の台詞をやりとりする趣向の冒頭場面が楽しかったです。誤解が解けて、尺八と弧弓で合奏しながら息絶えるラストがドラマチックでした。
悪役に見えて実はそうではない男を演じた尾上松緑さんの眼光の鋭い表情が印象的でした。

『勧進帳』
言わずと知れた作品で、舞台奥に2列にずらっと並んだ出囃子や、古めかしい台詞の言い回しが格調高く(その代わり何を言っているのかは分かり辛かったのですが…)、様式美と華々しさに溢れていました。
松本幸四郎さんの弁慶と市川團十郎さんの富樫のやりとりが見応えがありました。弁慶の舞も迫力と優雅さがあり素晴らしかったです。
昼の部では弁慶と富樫の役を入れ替わりで演じているので、そちらの組み合わせも気になりました。

音楽劇「ファンファーレ」

音楽劇「ファンファーレ」

音楽劇「ファンファーレ」

シアタートラム(東京都)

2012/09/28 (金) ~ 2012/10/14 (日)公演終了

満足度★★★

楽しさ溢れる音楽劇
傑作『わが星』のスタッフが再び集結して作った音楽劇で、3人の共同演出だった為か、良くも悪くもエッジが取れてリラックスした雰囲気が感じられました。

両親が分からないまま育った主人公が真実を知るという、文章で書くと数ページで終わってしまうような内容の可愛らしいファンタジーで、田舎町の劇場を思わせる温もりが漂うセットの中で、ダンスと音楽によって物語が豊かに彩られていました。
当初は『魔笛』という仮タイトルでしたが、物語としてはモーツァルトのオペラとは全く別物で、共通しているのはメルヘンチックな雰囲気と変ホ長調を主調にしている程度でした。

柴さんならではの、日常的スケールが人生や宇宙といった壮大なスケールに重なる緻密な構成を期待していたのですが、今回はストレートな物語の力に重点を置いていて、凝った構成は控えめだったので、少々残念に思いました。
物語のフレームの外へ出入りする登場人物がいたのですが、その設定が有効に使われていないように感じました。
個人的に苦手な、ワイワイと子供っぽく振る舞い、笑いの取り方もベタな学芸会のようなテイストでしたが、エンターテインメント性に富んだ、バランスの良い作品だったと思います。

ドレミファソ…の音名を歌詞に落とし込み、その音名の通りの音高で歌うことによって旋律が形作られたり、ベースとなる歌詞の間にアクロスティック的に言葉を埋めていって徐々に歌詞が発展したりと、言葉と音の関連付けた手法が独特の効果を生んでいました。
金管楽器や弦楽器の柔かい響きが印象的な生演奏も素敵でした。

K.ファウスト

K.ファウスト

まつもと市民芸術館

世田谷パブリックシアター(東京都)

2012/10/06 (土) ~ 2012/10/14 (日)公演終了

満足度★★

祝祭感溢れる『ファウスト』
サーカスや楽隊が入り乱れて祝祭的雰囲気を盛り上げる、いかにも串田さんらしい演出で描かれた『ファウスト』でした。

串田さんの前口上に続いて、ファウストの物語が始まり、最初は中世の設定だったのが途中からは何故か舞台が現代に移り、ハンバーガーとコーラを食べながらヒッチハイクをしたりとファウストとメフィストフェレスの旅路がユーモラスに描かれていました。終盤はシリアスな雰囲気になり、真実を知って打ち拉がれて立ち尽くすファウストと空中ブランコの対比が印象的でした。

足早に物語が展開する部分と、しつこく引っ張るギャグ的な部分のバランスが悪く、もう少し物語を描いて欲しかったです。ホムンクルスにまつわるエピソードを端折り過ぎていて、わざわざそのエピソードを入れた意図が分かりませんでした。
個人的に子供っぽくおどけた感じの演技が苦手なので、劇中劇として演じられる人形劇のシーンや、全員で歌って踊る盛り上がるシーン等では入り込みにくかったです。

笹野高史さん、小日向文世さん等、元・自由劇場のベテラン達の余裕のある演技が楽しかったです。メインキャスト的に名前が記されている雛形あきこさんがあまり活躍していなくて残念でした。
空中ブランコやジャグリング等のサーカスの技自体はスリリングで楽しめましたが、心情の象徴としてもっと物語と深く関わった表現が観たかったです。
cobaさんを中心とした5人の生演奏はロマ的な仄暗い情熱を感じさせ、良かったです。

季節のない街

季節のない街

あうるすぽっと

あうるすぽっと(東京都)

2012/10/04 (木) ~ 2012/10/08 (月)公演終了

満足度★★★

シュールで味わいのある下町群像劇
黒沢明の映画『どですかでん』の原作でもある山本周五郎の小説を舞台化した作品で、よくある下町人情喜劇からベタに泣ける部分をなくして笑いもシュールにしたような、不思議な雰囲気の群像劇でした。

一日電車ごっこをする知恵遅れの男、2人の建築工事の職人とそれぞれの妻、新しく引っ越してきた夫婦、口では国の将来を憂いつつ何もしない男といった、どこか変な所のある人々が生活する様子が物語的に盛り上がることもなく、あたかも同じ日がループして繰り返されるように淡々と描かれ、物悲しさと逞しい生命力が感じられました。
所々で起こる、突拍子もない台詞のやりとりや行動が笑えました。

6つのバラック小屋と、うなぎ屋のインテリアのセット、共同の水道を動かして場面を変えていく、ダイナミックな美術が面白かったです。終盤、地震が来たかのように小屋がガタガタ震え出すシーンが印象的でした。

個性的な役者が多く出演していて、ドラマ性がないにも関わらず楽しかったです。特に放浪する老いた男(飯田孝男さん)と幼い息子(池袋遥輝くん)のコンビのやりとりにしみじみとした味わいがあって魅力的でした。

不破大輔さんによる音楽(演奏は渋さ知らズ)は哀愁とエネルギーに充ちていて、作品の世界観に合っていました。

橋からの眺め

橋からの眺め

Artist Company響人

テアトルBONBON(東京都)

2012/10/04 (木) ~ 2012/10/10 (水)公演終了

満足度★★★

家族の崩壊
家族が愛憎の果てに悲劇的結末を迎える物語を特別なことをしないオーソドックスな演出で丁寧に描き、やり切れない苦々しさが伝わってきました。

1950年代のブルックリンが舞台で、妻と姪と一緒に暮らす男の所にイタリアから出稼ぎに来た兄弟を住まわせることから、潜在していた家族関係の不和が露呈し崩壊してしまう物語でした。

役者陣が熱演で、格闘のシーンでは痛しさが伝わってくるような緊迫感がありました。
ストーリーテラー的な存在の弁護士訳を演じた中嶋しゅうさんの渋い佇まいが素敵でした。

出捌け口を5つ設けて導線を工夫することによって同じ空間を隣接する部屋のように見せる演出が、狭いステージを有効に使っていて良かったです。
ステージ上にも客席を設け、役者は両側から見られながら演技をするステージプランになっていましたが、そうすることの意図があまり感じられませんでした。ステージ上の席から観たのですが、通常の客席から観たら異なった印象を受けたかもしれません。

服装に当時のアメリカの労働者の雰囲気が出ていて、さらに劇中で日が変わるごとに異なる服に着替えたりと、衣装が芝居のリアリティーを強化していました。

エッグ

エッグ

NODA・MAP

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★

音楽とスポーツ
リニューアルした東京芸術劇場のオープニング公演で、エンターテインメント性がありつつシリアスなテーマが浮かび上がる作品でした。

東京芸術劇場の改修工事現場で寺山修司の未発表戯曲の原稿が発見されるところから始まり、その戯曲を劇中劇的に上演するという形で進行し、次第に時代や場所、そして「エッグ」という競技の由来が明らかになるという凝った構成の物語でした。
現在と史実とフィクションを巧みに組み合わせ、負の歴史を記録から抹消して、無かったことにしてしまってはいけないというメッセージが表現されていました。

ロッカーとカーテンを用いたトリッキーでスピーディーな場面転換が楽しかったのですが、使い方のバリエーションが少なく、2時間ちょっとの上演時間中にその手法に飽きてしまいました。

ロック歌手役を演じた深津絵里さんが椎名林檎さんによる曲を何曲か歌い(口パクのもありましたが)楽しめましたが、音楽やスポーツをモチーフに扱うということから期待していた、熱狂する集団の怖さがあまり描かれていなかったので、音楽にまつわるエピソードにあまり必然性が感じられず、歌うシーンが浮いて見えました。

脚本、演出、役者ともクオリティーが高いのに、何故かグッと引き付けるような魅力があまり感じられず残念でした。

ピーター・グライムズ

ピーター・グライムズ

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2012/10/02 (火) ~ 2012/10/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

コミュニティーからの疎外
新国立劇場オペラ部門の2012/2013シーズンのオープニングを飾る作品ですが、それにふさわしい華やかさや娯楽性が全くない、陰鬱な後味が残る作品で、話題性ではなく内容で勝負しようとする劇場の意気込みを感じました。
音楽的にも演劇的にも満足出来る、素晴らしいプロダクションでした。

美術がシンプルで抽象的であること以外は設定の読み替えや派手な効果もないオーソドックスな演出で、救いようのなさが強烈に伝わって来て、最後まで緊張感が途切れることがなく、観た後の疲労感が凄かったです。

イギリスの漁村で、ある漁師が若い徒弟を事故で死なせてしまったことから良からぬ噂が立って村八分状態になり、そのことによって更に悲劇が連鎖する痛ましい物語で、音楽も暗い雰囲気が支配的で、楽しい曲調の部分も逆にシニカルで恐ろしく聞こえました。
主人公の転落していく人生を表すような急勾配の床と、コミュニティーの閉塞感を象徴するような2枚の大きな可動壁と荒波を描いた背景画だけの真っ黒な空間の中で、現代にも通じる閉じたコミュニティーが持つ暴力性が描かれていました。
主人公のことを信じて助けていた2人も最後には仕方なく多数派に回ってしまうことを、わずかな動作だけで示していて、静かながらも衝撃的な幕切れでした。

黒・白・赤に限定した色彩設計が物語に合致していて効果的で、見た目もスタイリッシュでした。影を壁に映し出す演出が印象的なビジュアルとなっていて美しかったです。
大勢の合唱隊の扱いもスマートで、オペラの合唱にありがちな小芝居感や段取り感のない自然な立ち振る舞いで、ドラマに引き込まれました。

2つのシーンを表す楽想を交互にまたは同時に響かせたり、緊張感のある持続音や長い沈黙を用いた、演劇的表現力のある音楽が恐ろしくかつ美しく、魅力的でした。
旋律や和音の音を持続させながら次の音を重ねるベルトーンの手法を多用していて、ひんやりとした神秘的な寂寥感がありました。
ソリスト、合唱、オーケストラも非常にレベルの高い演奏で素晴らしかったです。

倒木図鑑

倒木図鑑

悪魔のしるし

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2012/09/27 (木) ~ 2012/09/30 (日)公演終了

満足度★★

結婚式と葬式
脱力感のある笑いの中に劇場や演劇に対しての皮肉が込められた作品でした。

転落死亡事故があって以来、KAATは劇場ではなく結婚式場として使われているという設定で、そこで行われる(予定であった)悪魔のしるしとKAATの結婚披露宴の様子を描きながら、転落の瞬間を何度も繰り返したり、他のエピソードが挿入されながら展開する物語でした。

座・高円寺、シアタートラム、そしてKAATといった公立劇場や、KAATの芸術監督である宮本亜門さんを茶化したり、演劇では食べて行けず、世間にはチケットが高いと思われていることが自虐的に描いたりしていましたが、そこから表現したいことが伝わってこず、内輪受けな内容に感じました。

巨大なKAATの模型や靴を並べて作った家系図や舞台上手の3席の特別席(チケット代は5円)等、ひとつひとつのアイデアは面白い所もあったのですが、舞台作品としてのまとまりがなく、ただネタを並べて笑いを取ろうとしているだけのように見えてしまって残念でした。

この公演に向けて作られた『週刊倒木図鑑』が充実した内容で良かったです。

マイサンシャイン

マイサンシャイン

Utervision Company Japan

座・高円寺2(東京都)

2012/09/28 (金) ~ 2012/09/30 (日)公演終了

満足度★★

高田百合絵バージョン鑑賞
ノゾエ征爾さんの書いた戯曲を5人の演出家がそれぞれ上演するという興味深い企画で、快楽のまばたき主宰の高田百合絵さんが演出した公演を観ました。

2つの世界を繋ぐ穴に詰っかえてしまって身動きが取れなくなった女性とそれぞれの世界の人の計3人のユーモラスなやりとりから、立ち位置によって変化してしまう価値観の不確定さが浮かび上がってくる寓話的な物語でした。

赤いワンピースを着た主人公の女性以外は真っ白な衣装で顔を白塗りにした者もいるというアングラ感が漂うビジュアル表現ですが、ポップな感覚もあり、おどろおどろしい雰囲気はあまりなくて、寧ろ児童演劇の様なテイストが感じられました。

20人近くの出演者の内の3人以外はほとんど台詞のないアンサンブルとして扱われていて、時には群衆、時には美術となるスズキ拓郎さんの振付による身体表現が印象的でした。終盤は少ししんみりとした話になり、逆光の照明に照らされる姿が美しかったです。
演出の方向性は興味深く感じましたが、表現としての精度が低く中途半端な印象が残りました。

この回の前の堀川炎さんの演出版の様子がロビーのモニターで流れていたのですが、髙田さんのとは異なる雰囲気で、他の演出家のバージョンも観たくなりました。

浮標(ぶい)

浮標(ぶい)

葛河思潮社

世田谷パブリックシアター(東京都)

2012/09/20 (木) ~ 2012/09/30 (日)公演終了

満足度★★★

「生」への執着
10分の休憩2回を含めて4時間かかる、かなりの長編ですが、途中で退屈する間もない、密度の高い作品でした。

開演すると出演者全員が並んで登場し、長塚圭史さんの短い挨拶があってリラックスした感じで始まるものの、内容は笑う箇所がほとんどない(あっても切なさや痛々しさが伴っていました)、かなりシリアスな内容でした。
以前は売れっ子だったものの現在は困窮する画家が病気の妻の世話に身を捧げつつ、周囲の人達と生きることの意味や、生活、芸術、宗教について対話を繰り返す物語で、話の流れとしては大きな事件もない静か展開ですが、美しく力強い台詞が魅力的で引き込まれました。

大きな砂のプールの両脇に黒い椅子が5脚ずつ置かれているだけのセットの中で屋内・屋外全てのシーンが演じられ、砂の上に着物や水着で立つ姿が植田正治の有名な写真作品の様で美しかったです。
抽象的なセットと、出番でない時に両脇の椅子に座っていること以外の演技や音響に関してはリアリズムに則り、BGMも用いないストイックな演出で、違和感なくドラマに浸ることが出来ました。

主人公の生きることに対する執着心は理解は出来るのですが、性格が実直過ぎてすぐに人とぶつかってしまう様にはあまり共感出来ませんでした。
むしろ、そのような主人公に助けの手を差し伸べる、周りの人達の優しさに心を打たれました。

満月の人よ

満月の人よ

トム・プロジェクト

紀伊國屋ホール(東京都)

2012/09/22 (土) ~ 2012/09/30 (日)公演終了

満足度★★★

優しさに溢れた物語
ストーリーも演出もオーソドックスで分かり易いものでしたが、直接的に感情を出すのではなく、台詞の奥に秘められた思いが、柔らかく伝わって来るような、丁寧に作られた作品でした。

1970年代の天狗伝説が残る九州のとある町が舞台で、27年前に他の男と失踪して世間的には神隠しにあったとされていた妻が戻って来て、事業に失敗し妻にも逃げられた息子も戻って来て、さらに曰くありげな若い女性もひょんなことから転がり込むところから始まる数日間を描いた、悲喜こもごもな物語でした。
人生が上手く行かなくても前向きに行きて行こうというメッセージが押し付けがましくなく表現されていて、気持ち良く観ることが出来ました。お互い嘘だと分かっていながら信じている振りをするシーンが印象的でした。

4人の出演者の内、3人は実際に九州出身の方で、「ばってん」「~っち」といった九州弁が優しく響いていました。
村井國夫さんと岡本麗さんの仲の良い老夫婦っぷりが可愛らしく、とても魅力的でした。悪態を突きつつも内心では両親のことを思っている息子を演じた池田成志さんも芸達者で楽しかったったです。

重要な台詞の前まで環境ノイズ音を流すことによって、台詞を言う時の静けさを際立てたり、暗転時に背景を光らせて視線を誘導する等、地味ながら効果的な演出が作品の雰囲気に合っていて良かったです。

阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐ

阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐ

アミューズ

本多劇場(東京都)

2012/09/21 (金) ~ 2012/09/30 (日)公演終了

満足度★★★

不安を抱えて生きる人達の群像劇
若手イケメン俳優をメインに打ち出しているものの、良くあるような恋愛モノやコメディータッチの賑やかな雰囲気ではなく、シニカルで重い雰囲気が支配的な作品でした。

ある田舎町で起きた連続殺人事件を介して繋がる人間関係から、人の自己中心的な面が見えてくる物語で、どの登場人物も人の話を聞かずに感情的に捲し立てたり、1人で笑い続ける場面があり、誰もが心の奥に持っている狂気を感じさせました。
楽しいとか悲しいといった明快な感情ではない、不穏なモヤモヤとした閉塞感が漂い、後味の良くない終わり方でしたが、人との関わり方を考えさせられました。

台詞が別のシーンで他の登場人物によって繰り返されたり、雨や海など水に関連するモチーフが所々に散りばめられていたりと、全体に関係性を持たせた構築性のある脚本が良かったです。
最初の方で繰り返すのは良くないというような台詞が出てくるのに、繰り返しで笑わせる場面が多いという自虐的な感じが可笑しかったです。

個人的に大声で叫ぶのが続く芝居は好きではないので、そのような場面が多くて辟易気味でしたが、吉本菜穂子さん次第に高ぶって絶叫するシーンは強く印象に残りました。

ステップ状にそれぞれのシーンのセットが組まれた美術が照明と合わさって効果的に使われていて印象的でした。

We dance 横浜 2012

We dance 横浜 2012

Offsite Dance Project

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2012/09/22 (土) ~ 2012/09/23 (日)公演終了

満足度

『不本意ラウラ』(村本すみれ)
旧作をダンサーではない人を多く含んだ10人ヴァージョンとして再構成した作品で、ヴォイスやクラッピングを用いた音楽的要素が印象的でしたが、全体として中途半端な感じがありました。

開場時刻を過ぎた頃に1階のアトリウムにパフォーマー達が声を伸ばしながら徐々に現れ、歌いながら3階の中スタジオのステージに移動して始まり、音楽パフォーマンス的なシークエンスの後、1人の男をいじる(あるいはいじめる?)シーンが続き、後半はユニゾンの伸びやかな群舞が長く繰り返される構成でした。

全体的に暗い殺伐とした雰囲気がありつつもコミカルなシーンもあり、シリアスなのかシリアスっぽさをネタにして笑いを取ろうとしているのかが不明瞭な不思議なトーンが感じられました。

ダンサーと共に役者も出演していたのですが、特にダンサーと役者の使い方に差があるわけではなく、かといって同じ動きをすることによって両者の身体性の違いを強調しているようにも感じられず、村本さんがキャスティングに関わっていないとはいえ、このメンバーで何を表現したいのか伝わって来ませんでした。

また音楽や振付が古臭く感じられ、レトロ感を狙っているようにも思えず、魅力を見い出せず残念でした。

We dance 横浜 2012

We dance 横浜 2012

Offsite Dance Project

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2012/09/22 (土) ~ 2012/09/23 (日)公演終了

満足度★★★

『杏奈(俺)』(神里雄大)
岡崎藝術座の神里雄大さんがダンサーの入手杏奈さんに振付した作品で、入手さんは台詞を言ったり大袈裟に感情を表すようなダンスを踊るわけではないのにも関わらず演劇性が強く感じられ、興味深かったです。

下手に入手さん、上手に神里さんが現れて同じ振付を踊って始まり、曲が終わると神里さんの「杏奈、俺の話を聞いてくれ」という台詞から始まるストーカーの物語が展開しました。
出したゴミ袋を開封したり、一方的に思いを語ったりとストーカーの行動が気持ち悪く、かつ馬鹿馬鹿しさもあっておかしかったです。

入手さんが一昔前のヒット曲に乗せてキレのあるダンスを踊る姿がキュートでした。水を頭から被ったり、下着姿になっても嫌らしさがなく、健康的な雰囲気がありました。

神里さんはあくまで演出家という立場でダンス作品を作ったように思われ、動きにオリジナリティを持たせようとはせずに、入手さんが自分自身の役として踊ることによって、ダンサーと振付の関係が普通とは異なって見えるようにしていると感じました。

We dance 横浜 2012

We dance 横浜 2012

Offsite Dance Project

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2012/09/22 (土) ~ 2012/09/23 (日)公演終了

満足度★★

『旅居vol.03 』(鳴海康平+阿竹花子)
ダンサーの阿竹花子さんと第七劇場の演出家の鳴海康平さんのダンスユニットが、モモンガ・コンプレックスの作品で発明された、舞台美術として扱われる「舞台美術男子」を用いた作品で、ユーモラスな雰囲気が漂っていました。

この公演の前に行われた公演の客席をそのまま舞台美術として用い、舞台美術男子の面々がウォーミングアップや談笑している所から始まり、阿竹さんが踊り始めると、それを見た舞台美術男子達が相談して色々な美術を試してみるという展開で、舞台美術男子があたふたと試行錯誤している中を阿竹さんは何事もないように淡々と踊っているというギャップが楽しかったです。
後半は舞台美術男子が横一列になって話しながら舞台を左右に往復し続けるのを、阿竹さんが前に立ちはだかって1人ずつ止めていくシークエンスが続いて終わりました。

ダンサーと舞台美術男子の関係性の変化を見せる構成を期待していたのですが、お互い自分の役割を演じ続けていて、最後以外はあまりそのような要素がなかったのが残念でした。

阿竹さんのダンスは流れるような動きが美しかったです。動きのボキャブラリーが少なく、後半になると単調に感じて来て、少し飽きてしまいました。

We dance 横浜 2012

We dance 横浜 2012

Offsite Dance Project

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2012/09/22 (土) ~ 2012/09/23 (日)公演終了

満足度★★

『井上大輔の果敢なる挑戦 ソロダンス〈百年の身体〉 シリーズ リ・クリエーションズ』
井上大輔さんが継続して作っているソロダンスのシリーズ『百年の身体』の2つのソロバージョンの同時上演と、トリオ作品に再構成したものの2本立てでした。

『井上大輔ソロ編+斎藤栗子ソロ編』
綾小路きみまろさんの漫談の録音が流れる中、井上さんは録音に入っている観客の笑い声に合わせて体を震わせ、次第にダンス的な動きになって行き、途中で斎藤さんが上手から倒れ込んで登場し、その後も静かな展開が続き、後半には同じ振りが作品でした。緊張感のある中に間の抜けた感じのポーズが入り、独特の雰囲気がありました。
斎藤さんの鬼気迫るような存在感が印象的でした。

『トリオ編』
下手手前から上手奥に向かって3本のマイクスタンドが立ててあり、3人のダンサーがお互いに干渉せずにそれぞれの前で踊る作品で、山下残さんの無気力感と斎藤さんの緊張感と武田幹也さんの躍動感の対比が印象的でした。
後半は男性2人がマイクを口にくわえて踊ったり、マイクで床や頭を叩き続けたりし、斉藤さんはマイクを指でなぞったり、エロティックな雰囲気がありました。
人を食った感じが魅力的でした。

両作品とも音楽に合わせてダイナミックに踊るわけでも、感情を表現するように踊るわけでもなく、空間に身体が存在していること自体を意識させられました。

Abstract Life 《世界の仕組み/肉体の条件》

Abstract Life 《世界の仕組み/肉体の条件》

contact Gonzo

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2012/09/20 (木) ~ 2012/09/23 (日)公演終了

満足度★★

音から立ち上がる肉体性
喧嘩のようにも見える身体表現が特徴のカンパニーが、もう1つの特徴である「記録すること」に重きを置いた作品で、出演者は1人もいなくて、観客は録音された音を暗闇の中で聴くだけという特異な形態の公演でした。

フラットな会場の中央に脳の形をしたオブジェが吊られていて、その下に四方に向けられた4台のスピーカーがあり、その周囲に観客席が設置され、さらにその外側をスピーカーで囲い、『シャベル』、『振動01』、『植野さん柔術教えて』等と題された10のパフォーマンスの音の記録が流されました。肉体や物体が暴力的にぶつかる音や荒い息遣いや呻き声が空間内に立体的に鳴り響き、パフォーマンスの光景が目に浮かぶようでした。耳当たりの良くない音響が続きますが、所々にユーモアが感じられました。
パフォーマンスの様子を撮影した写真がロビーに展示されていて、音を聴いて想像したパフォーマンスとの比較をするのが楽しかったです。

実際に行われたパフォーマンスと、その録音や写真との関係性について考えることが興味深かったのですが、コンタクト・ゴンゾの活動を知らない人にとっては、いきなり音だけ聴いても良く分からないまま終わってしまうのではと思いました。
音だけでも楽しめましたが、やはり実際の目の前で行われるパフォーマンスを観たいと思いました。

To Belong —dialogue—

To Belong —dialogue—

北村明子

シアタートラム(東京都)

2012/09/21 (金) ~ 2012/09/23 (日)公演終了

満足度★★★

異文化との対話
インドネシアのダンサーとコラボレーションで、副題に「対話」とある通り、異国の人との身体によるやりとりがクールな質感で表現された作品でした。

インドネシアの民族舞踊とブレイクダンスと格闘技をミックスしたようなスピード感のあるダンスが映像、音響、照明と組み合わさって、流麗で幻想的な世界観が生み出されていました。

互いに接触したり、見えないエネルギーを受け渡すような動きをしたりと、ダンサー達の身体によるコミュニケーションが強く意識された振付で興味深かったです。
マルチナス・ミロトさんとリアントさんが伝統舞踊を舞う姿が優雅でありながら力強さもあって素晴らしく、歌舞伎の見得を切る動作に似ていてる所もあり、とても印象に残りました。
複雑で激しい動きが多いのですが、精確にコントロールされていて熱さを感じさせず、全体的には落ち着いた雰囲気がありました。

インドネシアの歌手へのインタビューやアニメーション、事前撮りしたパフォーマンスの映像など、凝った映像表現そのものは良かったのですが、パフォーマンスと組み合わさった時に焦点がぼやけてしまって散漫な印象を受けました。

涙目コーデュロイ

涙目コーデュロイ

イデビアン・クルー

十六夜吉田町スタジオ(神奈川県)

2012/09/01 (土) ~ 2012/09/29 (土)公演終了

満足度★★★★

日常的な人間関係を描くダンス
関内に新しく出来た十六夜吉田町スタジオのオープニング公演で、最近は中規模の劇場やミュージックビデオやTVCMでしか観る機会がなかったイデビアンを至近距離で観ることが出来て、キレの良いダンスを楽しめました。

男性2人と女性1人の関係性の変化が動きや立ち位置、表情、視線の向きで表され、無言劇的なシーンも多くあり、うっすらと物語性が感じられました。
緊張と脱力を巧みにコントロールしていて、ビートのはっきりした曲に乗せて踊り、コミカルさと格好良さのバランスが絶妙で引き込まれました。特に、それぞれが個別に踊っていたのがにユニゾンに切り替わる時にカタルシスがあって爽快でした。

スペースの中心に邪魔な柱があるという不利な条件をポジティブに捉え、さらに柱状の物体を3つ配置して、敢えてどの席からも全体を観ることは出来なくしていたのが、逆に想像力を掻き立てさせる効果を生み出していて興味深かったです。

前半は流れに勢いがあったのですが、色々と小道具を用いた中盤辺りからは物の存在感に頼り過ぎていて少し勢いが衰えたように感じられ、残念でした。

コンテンポラリーダンスは公演期間が1、2日だけのことが多く、評判を聞いても終わっていることが多いので、今回のようなロングラン公演だとありがたいです。
会場のウェブサイトからの予約の仕方が分かりにくかったので改善して欲しく思いました。

100歳の少年と12通の手紙

100歳の少年と12通の手紙

アトリエ・ダンカン

東京グローブ座(東京都)

2012/09/12 (水) ~ 2012/09/23 (日)公演終了

満足度★★

ダンスが活躍する朗読劇
病気で余命わずかの少年が毎日神様に手紙を出すという物語をダンスと生演奏を交えた朗読で描いた、静謐な作品でした。

病院のベッドに横たわるオリバーと、その横で丸椅子に腰掛けるボランティアのローズの会話を中心にして展開し、次第に神様に対してのモノローグになって行く物語でした。
実際には短い生涯ながら、1日を10年と思って過ごすことによって擬似的に100歳以上まで生きて人生を全うすることによって、日々のかけがえのなさを感じさせる内容でした。
涙を誘う話だとは思いますが、個人的には好みではなく共感できませんでした。

平山素子さんの振付による中島周さんのダンスはオリバーの胸の内を表現していて美しかったです。特に最後のシーンは神聖さを感じさせる照明の中で魂が浄化されて行くかのようで、素晴らしかったです。

ヴォーカリスト2人とピアニストによる音楽は基本的に歌詞なしで、朗読の邪魔をせず控え目な感じでした。歌だけでなく、声やクラッピングで効果音を担っていたのが印象的でした。

音楽とのバランスを取るためか、朗読者2人のマイクのレベルが高めで、自然な感じに聞こえなかったのが残念でした。

このページのQRコードです。

拡大