誰ガタメニ金ハ成・・・ル?
劇団あかぺら倶楽部
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2010/07/21 (水) ~ 2010/07/25 (日)公演終了
満足度★★★★★
笑いのDNA
初見の劇団ですが、レイ・クーニーの息子、マイケル・クーニーの作品ということで、フライヤーに書いてあったあらすじを読んだら面白そうだったので観にいきました。親から子へ、笑いのDNAをしっかり受け継いでいるのが素晴らしい。
上演した劇団あかぺら倶楽部は創立20周年ということで、アフタートークを聞いていると、長年劇団員たちで笑いを練り上げてきたというアンサンブルの強みを感じた。アフタートークも今回初めて実施したそうで、私が観た回は翻訳の小田島恒志さん(こちらも親子で翻訳者)がゲストではなくて残念だったけれど、また企画してほしいと思う。
場内は平日昼にもかかわらず、サポーターが詰め掛けて満席御礼となっており、人気の根強さが伺われる。中にCoRichに情報が載っていたから来た、と話していた人もいたので嬉しかったですね。
公演直前、劇団員の父とも言うべき座付き演出家の水鳥鐡夫氏が亡くなられたそうで、ロビーに遺影と花が飾られ、記帳や寄せ書きコーナーが設けられ、皆さん熱心に書き込んでおられた。劇団の「笑いのDNA」も受け継がれていくことだろう。
ネタバレBOX
電力局のリストラで失業してしまったことをエリック(高木渉)は妻のリンダ(岡田佐知恵)に内緒にしている。また、社会保障省にいろんな手当ての申請をしたら、本来無関係なものまで次々申請が通ってお金が振り込まれ、結果的に多額の金を詐取していることも妻には内緒。ある日、社会保障省の調査員ジェンキンズ(中村伸一)が裏づけ調査にやって来る。新たな関係書類には家主のサインがいるとジェンキンズが言ったことから、エリックは何とかごまかして追い返そうとし、間借り人のノーマン(大西健晴)に協力を仰ぎ、叔父のジョージ(山口登)を巻き込んでいろんな架空人物をデッチ上げて演じる羽目に。エリックは社会保障省から支給された健康器具や妊婦服、カツラ、授乳用ブラジャーなどを病院の清掃員をしているジョージに渡し、ジョージが転売していた(手厚すぎる福祉も考え物ですな 笑)。この女性用品を室内で見つけた妻は夫に女装趣味があると誤解して医師チャップマン(押田浩幸)に相談していた。社会福祉事務所からやって来たサリー(綾倉朋子)がノーマンの父が死んだという嘘を信じ、葬儀会社の社員フォーブライト(池上高史)を呼び、たまたま気絶して寝ていたジョージを死人と勘違い。エリックが伝染病で亡くなったと口から出任せを言ったため、規則で司法解剖をしなくてはとフォーブライトとサリーはジョージを担架で運び出そうとする。部下の調査の遅さに業を煮やした凄腕上司クーパー(今泉文乃)やノーマンと明日結婚式を挙げる予定の婚約者ブレンダ(上之薗菜緒子)がやってきたことから事態は大混乱に陥る。進退窮まったエリックはすべてを話し、刑務所行きを覚悟するが、クーパーは彼こそ「詐取の手口を見抜く調査員に最適」とエリックの雇用を決め、ハッピーエンドに。
3つのドア、2階、屋根と複数の場所に人々が移動するドタバタコメディー。
舞台美術が本格的で、位置によっては観客からはまったく見えないドアの中のチェストがきちんと配置され、終盤に登場する壊れて勝手に動き出す洗濯機までよくできている。
フライヤーのイラストが、話の全容を表現しているのにも感心した。
きっちり作りこんだ笑いで、俳優が役を忘れて独りよがりのウケ狙いの芝居に走ったりしない品の良さに好感が持てた(小劇場系シチュコメ専門劇団の中には品のない笑いで芝居全体を安っぽくしてしまうところをときどき見かけるので)。何度も再演している十八番の演目をいくつも持っているようなので、今後も観ていきたい劇団だと思う。
JUDY
グーフィー&メリーゴーランド
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2010/07/21 (水) ~ 2010/07/25 (日)公演終了
満足度★★★★
誠意のこもった力作
太平洋戦争末期、限られた戦力をフル回転させて戦った帝国海軍・芙蓉部隊の男たちとそれを陰で守り支えた女たちの物語。
資料を読み込みながら当時の隊員にも取材し、時代考証も専門家の協力を仰ぎ、誠意のこもった作品に仕上げている。今後も再演を重ねてほしい力作。
今年もまた八月十五日がやってくるが、改めて戦争と平和について考えさせられた。若い人たちにぜひ観てもらいたい。
ネタバレBOX
徒に感傷を煽るのでなく、史実に真摯に向き合った作品という点で高く評価したい。
それぞれの隊員の人間的葛藤を描く一方、勤労奉仕で隊員たちを支える女学生たちの純真な思いが胸を打つ。
現代のロケ隊のエピソードを冒頭に入れ、責任やトラブル処理を部下のAD中島に押し付けて偉そうに指示するだけのディレクター坂田を描くことで、のちに物語の中心となる指揮官、新渡戸正造の責任感ある行動と対比させる。
血筋からは大叔父に当たる元芙蓉部隊隊員の養父に育てられた中島徹が、養父の遺品を整理していてみつけたある女性からの手紙。養父は女性の手紙に対応する形で返事をしたためていたが、返事の手紙はなぜか出されることなく、養父の手元に残されていた。中島はその女性の消息が知れないものかと思い、祖母が勤労動員女学生だったという地元スタッフの菅野に相談する。
海軍に入隊した川嶋隆晴と女学生、井上良子は川嶋の出征により、離れ離れに。良子は台湾の地で前線で戦う川嶋のことを守りたいと誓う。
軍中央が特攻を主張する中、芙蓉部隊の指揮官、新渡戸は自らの信念を曲げず、正攻法の夜間攻撃を繰り返し行っていた。芙蓉部隊は藤枝(静岡)、鹿屋(鹿児島)、岩川(鹿児島)と最前基地を次々と移動させて戦っていく。鹿屋から岩川へと基地の隊員たちの身の回りの世話を手伝う女学生たちの存在が男所帯の隊員たちの心の慰めになっていた。良子へ手紙を書いている川嶋を軟弱と蔑み、つらく当たる佐藤も、死への恐怖をヒロポンや酒で紛らわしていた。川嶋は佐藤に体を蝕むヒロポンをやめると約束してほしいと頼む。ヒロポンの禁断症状に苦しみ、前線から一時離れた佐藤も、戦況が苛烈さを増すなか、意を決して最期の決戦に出撃する。空中戦のさなか、操縦桿を握りながら互いの声を思い出す川嶋と佐藤。酒に酔った佐藤に手篭めにされそうになったところを隊員中島武明に助けられた女学生上村俊子は、互いにほのかな恋心をもつ。そして、終戦。中島との別れ際、実家が農家の俊子は「いっぱいひまわりの花を植えます」とだけ伝える。「上村さんの子孫がみつかった」という菅野の知らせで中島徹が向かった先には、ひまわりの花束を抱えた俊子そっくりの少女が立っていた。
以前、テレビ番組のインタビューにおいて「どんな思いで死地に向かったのか」というジャ-ナリストの質問に、特攻隊や芙蓉隊の生き残りの元兵士たちは「戦争の是非よりも、身近な家族や自分の大切な人たちの顔を思い浮べ、守りたい一心でした」と異口同音に語るのを聴いたことがある。私は日本を二度とそういう状態にしないために自分の立場でできることを日ごろも考え、たとえ些細なことでも行動することを心がけている。しかし、いまも世界のあちいこちで戦争が行われ、一般市民が空爆で殺されたり、化学兵器の後遺症に苦しんでいることも忘れてはいけないと思っている。
ふだん言い馴れない台詞が多いせいか、言い間違いもしばしばで、時にはまったく逆の台詞を言ってしまう人も。軍人の役は特に滑舌のよさが必要だと思うがモゴモゴしゃべっている役者も。劇中、兵士が「ぶっちゃけ」という台詞を言うのが現代に引き戻されたようで気になった。キムタクではあるまいし(笑)。
座学の場面が多いため、多少単調さを感じた。
パンフレットには役名だけが列記され、別欄に役者へのインタビュー写真が載っているが、劇団初見の人のために配役表を載せてほしかった。
僕の東京日記
劇団伊達組
ウエストエンドスタジオ(東京都)
2010/07/22 (木) ~ 2010/07/25 (日)公演終了
満足度★★★★★
脚本の素晴らしさ
永井愛の脚本の力を改めて実感した。ご都合主義のストーリー展開や、力ずくの笑いや、嘘臭い台詞がない芝居は快適だなぁと。
これだけ多くの登場人物がいるのに、人物造形がしっかりしていて、しかも相互の関係の中で人間性を描いているのが好ましい。
この芝居の主人公と同世代の自分としては70年代当時を振り返るよい機会でもあった。あの時代に生きていないと実感として伝わらない部分もあると思う。だが、あの当時をまったく知らない若い俳優が生き生きと役を演じていたのがよかった。
ネタバレBOX
いまではほとんど姿を消した東京の下宿屋が舞台。小屋一杯に配置した舞台美術が優れもの。以前、このスタジオで別の芝居を観たときと同じ場所とは思えなかった。その分、多少客席に窮屈感は出たが。左翼活動も大衆との遊離が進み、行き詰っていた時代の活動家の様子がよく描かれている。セクト活動家・睦美のスガナミが追い込まれながらますます硬直化していく役をリアルに演じ、鬼気迫るものがあった。それと対比するヒッピーの一派。公務員と両立するピータン(船戸慎士)と人間離れしたかわいさがあるユッケ(渡邊歩実)が面白い味を出していた。ヒッピー3人組と、反戦おでん屋として潜伏活動をしている井出(TAKA)・のり子(土屋咲登子)が同じ下宿に住んでいるというのも、いかにも過渡期のこの時代らしい。街づくり運動や有機農業を行うピータンが活動家たちに「形は違うけど、お互い目指してるものは同じでしょう」と言うが、もう少しのちに左翼活動を離れた人が有機農業や地域活動を始めたことを思うとなるほどな、と思った。デモに参加した経験もあるけれど活動に身を置くまでには至らず、しかし、逃げたとは言われたくないと思う原田満男(山本亮)は、活動家とヒッピーに挟まれ、宙ぶらりんながらも両方に影響を受けているのがこの時代の大学生の象徴でもある。満男の世代は活動渦中にいた全共闘世代よりは少し年下なのだが最近の若い人たちには一緒くたに思われているようだ。
潜伏活動に疲れていたのり子と心通わせ始めた満男。のり子の土屋は仲間由紀恵にも似た70年代の清楚な美少女で印象に残る。新劇の売れない女優(岩野未知)を気遣う下宿屋の管理人(原妃とみ)。2人の会話から、いまも演劇人について回る「生活資金か、役のチャンスか」という二者択一の悩みや、
新勢力として台頭してきたアングラ演劇の様子が語られる。ナイティー姿の岩野は妖艶な美しさで、隣客の男性など胸の谷間を凝視していた(笑)。
公認会計士試験の3次試験に賭ける新見(朝廣亮二)と猫好きの土橋(桃瀬ほのか)の対立で、土橋に想いを寄せるヤクザなクリーニング屋(小笠原游大)が土橋のために奔走するが、そのさなかセクトを抜けるなら岡持ちに入れた爆弾を約束の場所まで運ぶように睦美に命じられた井出はプレッシャーからパニックに。のり子は爆弾を満男に押し付け、結局その満男を冷静な判断と行動で救ったのは、あれほど鬱陶しがっていた教育過保護ママ(塚田美津代)という何とも皮肉な結末。大学受験の母親同伴や、連合赤軍の吉野雅邦の母が「僕ちゃん」と呼びかけたことが新聞記事にもなり、この当時から教育過保護ママがクローズアップされてきた。
全編通じて女性が逞しく、男性は振り回される一方だった。ケータイがないからこその緊迫感も興味深かった。
真夏の迷光とサイコ
モダンスイマーズ
青山円形劇場(東京都)
2010/07/08 (木) ~ 2010/07/18 (日)公演終了
満足度★★★
円形舞台を生かした作品だが難解。
「凡骨タウン」とは正反対の世界だけれど、やはりいまの環境から抜け出せない人を描いている。
ガラス張りの豪邸という舞台設定。円形舞台に合っていると思った。「人から見られる家」をテーマに、ドーム屋根のアトリウムとガラスの外壁を持つ家を建てたある建築家を思い浮べた。きっと、この家もそういうデザインなのだろうな、と。蓬莱さんはもともと舞台美術をやっていて、この劇場で舞台美術も手がけた経験もあるそうだから、今回も円形舞台を生かす独自の演出プランを練ったことだろう。
モダンスイマーズの作品は自分にとっては難解だ。ほかの人と意見交換してみると、自分はいつもまちがった解釈をしているらしいことに気づき、赤面する。
「深読みするといっそうわからなくなるみたいですよ」と出演者に言われた。そうですか。この日の観劇中に起きた偏頭痛が治らず、熱まで出てしまった。やっぱり難しい。
ネタバレBOX
車椅子の未亡人(YOU)のもと、執事(古川悦史)、料理人ピエール(西條義将)、ドクタージョー(岡野真那美)、コウジロウ(古山憲太郎)、日常のできごとについて伝えるミミ(松山愛佳)、ドラマー(山田貴之)がそれぞれの役割を演じて生活が成り立っている。
姉(YOU)は交通事故により、夫と両親を失い、小説を書く弟(小椋毅)と2人生き残った。弟はミタグループの御曹司と言いながら苗字が灰谷だったり、雨の中、リン(松山愛佳)とシモムラフミエ(岡野真那美)、2人の女性と同じ場面が再現されたりで、観ていて頭が混乱し、よく意味がわからない。
弟が作家で、ミタグループの姉弟というと、三田和代と三田誠広を連想してしまうが(笑)。
俳優では執事の古川、ピエールの西條、コウジロウの古山が印象に残った。コウジロウが車椅子を暴走させ、執事が必死に追いかけるシーンは、円形舞台を生かし、スピード感や緊迫感が出た。
車椅子は、体が不自由な人、健常者にかかわらず、乗ってみると慣れるまでけっこう体に負担がかかるもの。車椅子でグルグル回されたり、車椅子から降りて長時間身じろぎもせずに立つなど、YOUはけっこう身体的にキツかったのではと察する。生活感のなさ、姿勢のよさ、抑揚のないしゃべりかたなど、YOUの個性を生かした役柄。
円の軌道をはずれることなく、惑星のように位置が決められてしまう人々。結局、最後は元の役割に収まって生きていくところで終わる。当人にとっては居心地がよいのかもしれないが、何の進展もないことに絶望感を覚えた。
「凡骨タウン」の主人公に比べ、この女主人公は必死に抜け出そうともがくこともせず、ひたすら過去の幻影の中に自らを閉じ込めて生きているようにみえる。弟も覇気が感じられない。
こういう難解で暗いストーリーの作品が多いのに、この劇団は若い女性ファンに人気がある。不思議な魅力があるんでしょうね。
身替座禅
国立劇場
国立劇場 大劇場(東京都)
2010/07/03 (土) ~ 2010/07/24 (土)公演終了
満足度★★★★
進化した歌舞伎鑑賞教室
以前は、「高校生のための」次に「青少年のための」と、時代とともに冠が変り、現在は特にくくりがなくなり、広く門戸が開放されたようである。
そのためか、6月は姫の色仕掛けで上人が堕落する「鳴神」、7月は浮気が妻にばれる「身替座禅」で、学生向けならふさわしいかどうか(笑)。
以前、観た時は学生以外は土日限定でプログラムも有料だったが、今回はプログラムも無料配布されている。平日夜に「社会人のための歌舞伎鑑賞教室」という日も設けられており、このときは多少、解説の内容も変るのだろうか。
今回、初めて映像を使い、解説者が私服で舞台にあがることが許されたそうだ。確かに、私たちが学生のころと比べると隔世の感がある。
しかし、16歳の中村隼人、19歳の中村壱太郎、ジャニーズ事務所にいそうなイケメンで、こういう若者が歌舞伎をやっているということで初めて歌舞伎に触れる若い人には親近感を持ってもらえるのではないだろうか。良い意味で進化している。
日ごろ古典芸能になじみのない人にお薦めである。
ネタバレBOX
歌舞伎鑑賞教室の解説のお手本というのが長く守られていて、中村獅童がまだ無名時代に担当して、かなり若者ウケするファンキーな解説をしたとき、演劇雑誌や新聞の劇評がこぞって苦言を呈したことを私はいまだに覚えている。
だから、今回、「踊る大捜査線」のテーマ音楽に乗って、劇場外の中村隼人、中村壱太郎の映像が流れ、ラフな私服の2人が客席から登場したときはびっくりした。
昔は、歌舞伎の決まりごとをお行儀よく解説したが、今回はバックステージツアーのごとく、まず劇場機構を立体的に説明してくれたのがよい。回り舞台や昇降舞台、スッポンなど、今回の演目では使わない機構を説明することにより、ほかの舞台にも興味が沸くだろう。ふだん中を覗けない黒御簾の解体までやって見せてくれた。簡単に歌舞伎の歴史を舞台の変遷とともに説明してくれたのもよい。女形の化粧過程も隼人が楽屋映像で見せてくれる。
今回の「身替座禅」は中村富十郎監修。「身替座禅」はいわゆる松羽目物(能や狂言に題材をとった歌舞伎演目)で原作は狂言の大曲「花子」。六代目菊五郎から受け継いで二代にわたって中村勘三郎の当たり役になっているが、過度に「艶笑コメディー」化しているとの批判が歌舞伎界、狂言界両方から出ていた。今回はその批判に応えたような演出で、いたずらに笑わせるのではなく、夫婦の自然な思いに焦点を合わせたのが新鮮だ。
今回主役の右京を勤めた中村錦之助の演技も二枚目半に抑え、奥方玉の井(坂東彦三郎)の化粧もいつもの鬼婆風ではなく控えめ。美しい腰元千枝、小枝を解説役の2人が勤める。壱太郎が曽祖父の4世中村富十郎そっくりなのに驚き、隼人と同じ役を父の錦之助が勤めていたことがついこの間のよう。歌舞伎は継続して観ることによりこうした楽しみも味わえる。隼人の化粧はもう少し綺麗につくれると思うが、歌舞伎役者は美形ほど化粧が下手というが本当だ(笑)。
「身替座禅」のあと、今度は袴姿で壱太郎、隼人が登場し、「松羽目物」の説明を行い、狂言の野村萬斎の「日本語であそぼ」の物まねも披露してくれた。そのあと、松羽目物の「棒縛り」の一部を踊る。両手が使えず難しい踊りだが、若い2人が楽しげに踊る姿に盛んな拍手が送られていた。
自分が10代のころ、近所の高校生に「歌舞伎って太ったおじいさんが白粉塗って踊ったり、のろのろ話すやつでしょ」と言われた。もし、昭和のころ、自分と同世代の勘九郎(現勘三郎)や八十助(現三津五郎)、梅枝(現時蔵)、大河ドラマで当時人気が出た光輝(現歌昇)といった若い人たちが解説をやっていたら、もっと中高生にも共感が持たれたのではないだろうか。当時もそういう要望はあったが、若手俳優では解説に適さないという意見に跳ね除けられていた。封建的な世界が変わるのには時間がかかるのだ。
第十九回能尚会
社団法人観世会
観世能楽堂(東京都)
2010/07/18 (日) ~ 2010/07/18 (日)公演終了
満足度★★★
夏の演目としては一考の余地あり
今回は、武田尚浩と長男の武田祥照がシテ、ツレを勤める「松風」がメインディッシュ。
既に祥照も勤めた「菊慈童」を次男の崇史が舞った。
「能尚会」は以前は9月や12月に開いたこともあるが、最近は7月が続いている。もともと夏は観客の集中力が鈍る季節だけに重い演目は選ばないのが鉄則。この時期に大曲「松風」は観るほうもキツイ。「松風」を選ぶなら秋に開催すべきだと思った。親子で「松風」のシテ、ツレをというのが尚浩さんの悲願だったと聞くが、個人の思い入れより観客の鑑賞環境を考えていただきたかった。
まるで国文科の授業教材のように詳しい懇切丁寧な解説書をつけてくれたのはありがたい。これは、もともと、能になじみのない学友たちのために、若いご兄弟が執筆したもの。祥照くんは小学生のときから級友宛に手書きの解説付き公演案内を出していた熱心な人だった。何より、若者がいまどきこのように美しい日本語を使って解説を書けるなんて表彰ものだ。伝統の強みと言うか、敬語にもいやみがない。見習いたいものだと思う。
ご子息の大学受験を機にHPが長いこと未更新のまま放置されているが、この情報化時代、能楽も例外ではない。人気を集めている能楽師のHPは内容も充実している。最新情報を載せていないのは大いにマイナスだと思う。
また、外部客向けにアンケートも実施してほしい。
ネタバレBOX
「菊慈童」は中国が舞台。深山の奥に1200年も生きながらえている不思議な童子の話。兄の祥照がこれを舞ったのは13歳くらいのときだったと記憶しているが、子供とは思えぬすばらしい舞だった。崇史のいまの年齢を思えば、無難な出来と言えよう。
考えてみれば、能の2番とも、秋の演目であるのが気になった。
狂言は「寝音曲」。主人(深田博治)に謡を所望された太郎冠者(野村万作)が面倒くさくて、いろいろ理屈をつけて断るが、是非にと請われ、「膝枕でないと声が出ない」と主人の膝を借り、寝ながら謡うが、主人が体を起こそうとすると声がかすれて出ないふりをする。そのうち調子にのって、立って普通に謡い始め、嘘がばれて逃げていく。和泉流では他家のように「ゆるされい」とか「ゆるしてくれい」でなく、「御ゆるされませ、御ゆるされませ」という引っ込みをする。加賀前田家や京都の公家に仕えた流派だからなのか、この「御ゆるされませ」の手つきの優美さは独特のもの。本来なら万作・萬斎コンビで観たいものだが、萬斎はコクーンでファウストをやっている。「能尚会」で萬斎の狂言が出た年もあった。狂言師は本来このような「能会」の仕事のほうが重要なのだが、最近の売れっ子ぶりでは望むほうが無理というものか。しばらく観ないうちに万作師もすっかりご老人になっていて驚いた。
武田尚浩の「松風」は、私自身、待ち望んでいた演目。歌舞伎舞踊の「須磨の写絵」と同じ題材で、在原業平の兄、行平をめぐる美しい海女の姉妹、松風と村雨の恋慕がテーマ。歌舞伎のほうでは、先代幸四郎の行平、中村歌右衛門の松風、4世中村時蔵(現時蔵の父)の村雨の舞台がいまも語り草となっている。特に、時蔵の村雨の美しさといったら格別だった。男にとっては両手に花の話だが、この姉妹は嫉妬しあうこともなく、仲良く、1人の男を愛し、死んでからも幽霊になって汐汲みに現れ、松を行平に見立てて、恋慕の情を語る。
長時間のため、地謡が途中で退出する演出もあるのだそうだ。今回、地謡はずっと舞台にいたが。
同じ三角関係を描いた「三山」の桂子の優美さが記憶にあり、今回の尚浩の松風はさほど胸に迫ってこなかった。親子競演で役に集中できないのか、いつもの冴えが感じられなかった。舞の名手だけに、彼はやはり一人で舞う役のほうが合っている。大鼓が人間国宝の亀井忠雄で、競演は観ごたえがあったはずだが緊迫する高まりがなかったのは残念。いつか、別の機会に彼の「松風」を観たいと思う。
今回は「白ワイン」の境地にはなれず、お茶も飲むことなく家路に着いた。能の場合、演者のコンディションがかなり影響し、名人でもコンスタントに感動の舞台をつくれるとは限らない。そこが能の面白いところでもあり、日によっては若手でも人間国宝以上の舞を舞うことも出来る芸能なのだ。
ツイッター・ア・ゴーゴー!
マグズサムズ
アイピット目白(東京都)
2010/07/15 (木) ~ 2010/07/19 (月)公演終了
満足度★★★
ツイッターを生かした面白さが感じられなかった
ツイッターを取り上げると知ったとき、嫌な予感がしたが、実際に観劇してみて、
的中した。「誰かのつぶやきが、その瞬間、他の誰かを突き動かして、複数の場所で状況が変っていく」とフライヤーにはあるが、実際の劇は「他の誰かを突き動かして」というふうにはなっていない。ふつうの恋愛コメディーにツイッターがアクセサリーとして挿入されているに過ぎず、特有の面白さが感じられなかった。
ツイッターが互いのフォローによって思わぬ方向に展開し、混乱や誤解が生まれていくというなら面白かったのだが。
むしろ、ツイッターが枷になって、いつものテンポが殺がれた感が私には強かった。前回受賞したグリーンフェスタに再び参加するという次回作に期待したい。
ネタバレBOX
ツイッターをやっている3人の人物、残業中の会社員・野村(笠野哲平)、合コンに参加するOLよしえ(水澤恵美)、結婚式を挙げるため、東北のスパリゾートに来ている亀井(AKKY)。それぞれがつぶやき、3人の状況が説明されていく。野村は恋人とデートしたいが、契約社員の西川(日暮丈二)のいい加減な勤務態度により、なかなか帰れない。よしえは内向的で根暗な性格のため、合コンでうまく自己表現できない。亀井はツイッターのつぶやきだけ聞いているとハワイにいるように感じるが、実は東北のスパリゾートで、婚約者(泉粧子)は機嫌を損ねてしまう。
3つの状況が同時進行するが、なまじツイッターという材料があるため、観客は同じつぶやきを何度も聞かされることになり、くどく感じてしまう。よしえと亀井がつぶやき、野村が2人をフォローする一方で、相互に何の交流も生まれない。時差の面白さがあるわけでもない。
特によしえの暗いつぶやきは聞いているほうが滅入ってしまい、何でこんなに物事を悪く解釈するのかと腹がたってくる。野村の職場は、野村をパシリのようにこき使う西川の態度が度を越しており、ピザを注文しておきながら、平気で帰ろうとするなど理解できない。また、11時を過ぎてるのに別の部署にいる恋人(花岡芙喜子)に「久しぶりにディナー・デートをするから待ってて」と誘うのも無理がある。亀井はツイッター中毒になっていて、婚約者に「結婚かツイッターか」と二者択一を迫られても即答できず、手を縛られても顎でキーを打とうとするわざとらしさ。野村の職場の上司(まつおか晶)が臨月で、たぶんそうなると思ったら案の定、残業中に産気づく。「ツイッターは夢の現れ」と亀井を理解した婚約者が「結婚したら亀井静香になってしまう!」とわめくオチも当然過ぎて笑えない。交際している時点で相手の苗字は知っているだろうに。
ピザ屋のバイト(大塚ノヴヲ)がバイクを運転しながらツイッターをやっていてしょっちゅうぶつかりそうになり「ツイッター、バイク危ねぇ!」と叫ぶのも交通ルール違反で感心しない。
よしえの友人、河合(猿渡亮太)、ホテル従業員(安藤洋介)、亀井の伯母、やーちゃんおばちゃん(ヒロココバヤシ)が面白かった。猿渡は2役で、冒頭、ピザ屋の先輩で出てくるが、帽子で顔を隠しているものの、印象のある人だけに、最初のうち、河合と同一人物なのか思ってしまった。配役に配慮がほしい。
会話のテンポがよい劇団だけにそれなりに楽しめるが、コメディーとしてはいまひとつの出来。
イカロスのかけら
NICK-PRODUCE
シアター711(東京都)
2010/07/13 (火) ~ 2010/07/19 (月)公演終了
満足度★★★
趣向倒れの感も
初見の劇団。前回の公演のときに面白そうな劇団だなと注目し、今回クロカミショウネン18のワダ・タワーが客演するというので、この機会にと思って観にいった。1時間10分という比較的短い時間の芝居で、2つのドアを使い、シアター711をまるでギャラリー公演のような空間使いにした。映像を挿入したり、ピアノとチェロの生演奏も入り、趣向としては大変面白いのだが、芝居の内容そのものがあまり面白くないと思った。もっと緊迫感のある脚本だったらこの趣向も生きたのにと思うと残念。
ネタバレBOX
HPの以前の公演写真を見て、ダンスパフォーマンスも取り入れたもっと抽象的な内容を想像していたが、意外に普通の芝居だった。田所という見知らぬ人間からの葉書を手に、「曽我久仁子の追悼式」に参列すべく、ゆかりの人々が会場のシアター711に集まってくる。チケットがその葉書になっているところが洒落ている(細かいことを言うと、文中「ご来臨」という最上敬語を使う場合は「賜りますよう」と続けるのが普通かと)。
まず「追悼式」を執り行う意味が「列席者たち」同様よくわからなかった。横溝正史の小説のようで期待感をもたせ、家族や友人の複雑な事情が明らかになっていくが、意外にあっさり決着がついてしまう。曽我久仁子という人物の意図もいまひとつ不明。話の展開が面白くないためか、こんなに短い芝居なのに途中で眠気を覚えた。特に田所が持っているクマのぬいぐるみ型通信機を使っての久仁子とのやりとりの場面が子供騙しのように馬鹿馬鹿しい。
なかなか個性的な俳優をそろえただけに惜しい。田所の松本寛子をはじめ、異父兄弟・涼の柏原直人、涼の恋人・美鈴の木母千尋、変装バーの主人で久仁子の友人・ロザンヌの佐藤大樹が印象に残った。久仁子の長男誠役のワダ・タワーはクロカミショウネン18での役どころを思わせ、笑わせてくれた。生演奏は大変耳に心地よかったが、芝居そのものにうまく溶け込んでいたかと言うと疑問が残る。
なかなかユニークな試みだとは思うので、回を重ねて洗練されていくのではと期待している。
ファウストの悲劇
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2010/07/04 (日) ~ 2010/07/25 (日)公演終了
満足度★★★★
立体的宗教画のような豪華さ
歌舞伎、シルク・ド・ソレイユ、イリュージョンをミックスしたような豪華で楽しい舞台。蜷川ワールドを満喫できる。冒頭、木場勝巳の口上場面は江戸歌舞伎の名乗り台を思わせて面白い演出。
歌舞伎の下座音楽と、ルネサンスの宗教音楽が同時に鳴る中、花火が噴き出し、フライイングを駆使して、まるで立体的宗教画のような美しさ。主役の野村萬斎はファウスト博士というよりは、宝塚時代の涼風真世の「銀の狼」のシルバを連想する銀髪の美男ぶり(涼風は宝塚の小池修一郎作品「天使の微笑 悪魔の涙」でメフィストフェレスも演じている)。勝村政信、白井晃、長塚圭史も贅沢に配置し、いつもより印象がかすむほどだ。仕掛けの奇抜さに眼を奪われるせいかドラマとしての深みや感動はいまひとつの感。ただ、萬斎ファンなら必見の舞台かもしれない。
ネタバレBOX
商業演劇もここまで豪華にできるかというゴージャスさ。メフィストの勝村が最上2階席に忽然と現れて客を驚かせるなど、サービス満点。かつて新宿の映画館で清水邦夫と、華麗さとは無縁の男くさいアングラ芝居を作っていたことを思うと隔世の感がある。もっとも、音楽の使い方や場面転換は歌舞伎の「十二夜」のときに得たテクニックを応用したものだし、舞台上カーテンの陰で役者が扮装準備するのも「コースト・オブ・ユートピア」のときと同じで、蜷川の演出としては特に目新しさはない。
物語は“極楽めぐり”の趣向で、ファウストはメフィストフェレスと契約して、法王の食卓で透明人間よろしく悪乗りしていたずらをしたり、アーサー王やトロイの美女など歴史上の人物に会ったり、快楽の限りを尽くすが、ファウストの邪気が前面に出てくるせいか、通常のファウスト譚で印象的な失われた青春への狂おしい哀惜は描かれない。このファウスト博士はじゅうぶん魅力的だから老いや己の容姿を嘆く必要もない。契約どおり、このお遊びにも終わりの時が迫ってくるが、「これだけ好き勝手遊んだからしかたないでしょう」と思ってしまうので同情できない。萬斎ファウストは随所に死や冒涜の罪への恐れや生の苦悩はにじませるものの、見ている側としては共感が薄かった。
むしろ、「全開の演技」を披露し、舞台でのたうちまわって熱演する野村萬斎を見ていると、コクーンから5分ほどしか離れていない萬斎氏本来の職場、観世能楽堂を思い起こし、複雑な気持ちになった。「独立した狂言より、能の間狂言こそが狂言師の本分」という意見をよく聞くだが、「能の間狂言」ではまったく個性の発揮を許されない狂言師・野村萬斎は商業演劇では存分にその天分を発揮して観客を酔わせているのだ。
ユネスコ世界遺産に登録されようと、いまや能楽観客人口の高齢化は深刻な問題である。いつも能楽堂からの帰り道、コクーンの楽屋出待ちの人並みを目にするとつくづく違う世界であることを思い知らされる。
確かに野村萬斎は狂言師という枠を越え、偉大な天才俳優であることはまちがいないとこの芝居でも実感させられた。
しんしやく・天守物語
舞活道 自由童子
テアトロ ド ソーニョ(東京都)
2010/07/13 (火) ~ 2010/07/18 (日)公演終了
満足度★★★
ダイジェスト版としてはお薦め
昨年の夏目漱石「夢十夜」に続き、今度は泉鏡花の「天守物語」に挑んだ。特色ある劇団で、課題は演技力の向上だと思う。
逢川じゅんという女優さんは何度も観ているので、あえて男女逆転バージョンを観ました。
テアトロ・ド・ソーニョという劇場も今回初体験。出かける時間帯に山手線が全線ストップしてダイヤが大幅に乱れて、遅刻は避けられないと途中観念したが、開演時刻を遅らせる配慮があり、無事入場できました。いやー、それにしても片道2時間超、とにかく家からは遠い会場で、めったに来られないなーと思った次第。なかなかよい雰囲気の劇場で、京浜地区の人には近くてよいと思います。
原作の文章を生かしたうえでわかりやすく脚色してあるので泉鏡花の入門編、また「天守物語」のダイジェスト版としては最適。1時間半によくまとめてあると思うので原作を知らない人にもお薦め。
オールカラーの俳優の写真入りパンフレットも、前回の要望を反映してくれたのか今回は配役付きで親切だ。桜田・児玉・逢川のオチャラケたやり取りが可笑しいが、時には真面目な座談会も入れてほしいと思う。
ネタバレBOX
私はスタジオライフの芝居を観たことがないのだが、スタジオライフを長年観てきた知人の話では、今回の富姫役・児玉信夫が在籍したころが人気・実力が伴う一番の充実期だったという。スタジオライフでは女役も経験したスターなので、かなり期待して観た。で、その感想は、女形芸というのは一朝一夕にはいかないものだということ。女形と女装した男優はまた別物である。性別が逆転しようとも「役」として演じればよいという考え方もあるが、富姫は強い性格で妖怪、専門の女形でさえも難役とされる。これまでも、花柳章太郎、中村歌右衛門、坂東玉三郎らの名女形が演じて評判をとってきた。それを実際に観ているので、申し訳ないが比較にならない。
歌舞伎や新派版と違い、衣裳が平安朝の小うちぎだが、布地が張っているから、よけいにごつく見え、立ち居振る舞いもぎくしゃくしている。何より一番の見せ場である、図書之助に「帰したくなくなった」と告白する場面にまったく色気が感じられず、鏡花の美しい恋の台詞が巧く言えていないから、聞いていてグッと胸に迫るものがない。逢川の図書之助は神妙に勤め、殺陣は慣れた人だが、真面目すぎてこちらも色気が乏しい。二人で本を朗読しているような感じだった。最初は両バージョン観てみたいと思ったが日程の都合がつかなかった。パンフで桜田も「両方やるなんてご愁傷様」と茶化していたが、まったくどうしてWキャストに?やはり富姫を女形がやることが多いからだと思うが、それなら難役だけに1役で集中して稽古したほうがよかったと思うが。
恵ネコは初めて観る人だが、亀姫役ははんなりと妖しげで原作の雰囲気に合っていてなかなかよい。ふだんはスキンヘッドの怪異な役が多い丹内英暢の朱の盤坊も少し粗いが「歌舞伎の赤っ面」っぽく面白く演じていた。ご老女の薄を、若い女優でなく眞知という文学座やNLT出身の経験豊かな女優を起用した点も評価できる。ただ、劇中で眞知の帯のたれがずっと跳ね上がったままなのが気になった。みんな自分のことで精一杯なのかもしれないが、歌舞伎や能のように後見がいないのだから、時代物の衣裳のときは互いに気をつけて直してあげるべき。侍女たちの中では飛びぬけて桔梗(戸田朱美)が美しく、着こなしも所作も芝居も巧いと思ったら、元タカラジェンヌだそうでさすがと納得した。児玉同様、盲目の侍女の藤袴も男優の島田陽生が演じるが、これもどうして男優なのか必然性が感じられない。女性の横でにっこり笑って立っていると「お笑い」担当なのかと思うほどだが、まじめな役なのである。余興に侍女たちが歌い踊る「宿場尽くし」に鄙びた味わいがあった。城の天守に高舞台を組み、秋草釣りの場面など大劇場に劣らぬ興趣が感じられたし、亀姫がやってくる場面なども、籠をかつぎ、本格的で観ていてわくわくした。提灯をうまく使い、真の闇をリアルに演出し、本物の姫路城天守を思い浮べることができた。ということで、舞台演出はなかなか良かった。
クライマックス、獅子の眼を開く近江之丞桃六(野原剛)が舞台構造上天幕の陰になり、二人を祝福する場面があまり目立たないのが残念。
冒頭と終幕近くに、現代の盲人(島田陽生の二役)が車の喧騒の中、横断歩道を渡る場面を出すが、これが演出上生きているとは思えなかった。現代の盲人が物語に関係してくるような芝居でないと出しても意味がないように思えた。
出演者の話では、高舞台の上が八百屋(傾斜舞台)になっており、床が滑りやすくて落ちそうになるので、とても怖いという。それで、あの富姫の扮装ではなおさら動きにくかろう。たぶん、獅子頭を目立たせるために奥を高くする必要があったのだろう。本来、獅子頭が主役級の活躍をする芝居なのだがあまり目立たなかったのは残念。八百屋にしなくても獅子頭が目立つよい方法があればよかったのだが。
「楽屋」
演劇集団 十人十彩
RAFT(東京都)
2010/07/14 (水) ~ 2010/07/18 (日)公演終了
満足度★★★★
好感のもてる舞台
清水邦夫の人気作。上演時間も1時間と短く、小規模会場でのラボ公演としては適切な演目だと思う。プログラムにはこの戯曲が書かれた当時、70年代の年表や流行語・流行曲等、社会状況の解説が載っていた。演出の西村さんは「(当時は)アラサーなどと流暢なことは言っていられない時代。25歳までに結婚する人が多く、40歳はすでに人生半ばの「おばさん」であった。女優はきっと、今よりもっと己との闘いを強いられていただろう」と語る。自分も同世代だけに同感である。さらに「演劇は自分と嫌というほど向き合わされ、その人の「裏」の部分が噴出するという事。人生のクレンジングをすることになるのだ。それが苦しくてこの世界からいなくなってしまう人もいるのだから、それは壮絶なものである」と。女優になるというのは大変なことなのだなぁ。
活動歴はまだ浅い劇団のようだが、井上ひさし作品や創作劇も手がけているそうで、今後、より多くの人に観てもらい、磨かれていってほしいと思った。
ネタバレBOX
ある劇場の楽屋。シンプルな舞台美術だが、インテリアや小道具、飾ってある衣装(すべてピンク系)のセンスがとてもよく、筋は知っているものの、観る前から期待が膨らむ。無名の女優2人(藤川千尋、沙籐カヲリ)が化粧をしている傍で、「かもめ」のニーナの扮装をした女優(横田裕美)が出番直前、台詞の確認をしている。この女優はもう40歳。女優が舞台に出た後で、女優2人が話し始める。実はこの女優2人は亡霊でもう死んでいるのだ(この設定が巧い)。2人ともプロンプター経験が長く、たまにチョイ役がついた程度で、毎日この楽屋に通って、来るあてもない役のために化粧をしている。ときには相手を馬鹿にしながら、互いの舞台経験を語るが、悲しいかな、所詮「ごまめの歯軋り」。罵倒し、物を投げ合っての喧嘩にも虚しさが漂う。沙籐は首に自殺のためらい傷が無数にあるため包帯をしており、藤川は戦争中の空襲により、眉のあたりにケロイドの傷跡が残る。「マクベス夫人」の台詞で「それ、戦後の訳?」などと藤川が沙籐に尋ね、戦中派、戦後派の対立をみせるあたり、興味深い。藤川の役は先頃、渡辺えりが演じたが、三好十郎の「斬られの仙太」の一場面を語るあたり、藤川はなかなかの好演。今回が初舞台というのだから末頼もしい。沙籐は前半百面相並みの表情で演じて笑わせる。端正でクールに演じた小泉今日子とはまったく違って面白かった。
出番を終えて戻ってきた横田の前に現れたのがプロンプターを務めていた若い女優(大杉みなみ)。枕を持っており、病院から抜け出てきた様子。
「良い女優になるためには睡眠が必要」と横田に枕を押し付け、「もうすっかりよくなったわ。枕をあげるからニーナの役を返してちょうだい。あなたのために病室の予約をしたの」と言って迫ってくる。若い女優は神経を病んでしまったものらしい。若い女優の存在は横田にとって年齢的な焦りの象徴でもある。大杉みなみも今回が初舞台だそうで、健康優良児的堂々とした体躯のせいで神経病みになる繊細な娘にはみえないのが残念だ。蒼井優の不気味で病的な透明感のこの役が印象に残っているだけについ比較してしまう。ただ、蒼井は勘もよく賢そうで「のろまで動物園のカバのほうがまだ敏捷。ウドの大木みたいに体つきだけは立派」という役の設定には違和感があり、中年女優から役を奪って当然に見えてしまうが、大杉のほうはそのへんが合っている。横田は自分にとって女優としてのポジションを維持することがどんなに大変か、それは命がけで守っていくものなのだ、負けるわけにはいかないと主張し、大杉を殴ってしまう。昏倒した若い女優は意識を取り戻し、ふらついて出て行くが主役女優が帰った後に戻ってくる。打ち所が悪く死んでしまったらしく、2人の亡霊女優が見えている。「わたしたちだけがここに残って、またわたしたちの生活を始めるのだわ。生きていかなければ、…生きていかなければ…」残った女優の亡霊3人は「三人姉妹」の台詞を言って微笑み、幕になる。
音響がしっくりいかないのと、照明のタイミングには難があった。
細かいことだが、カーテンコールで藤川が浴衣の裾をきれいにさばいて挨拶したのがまるで女剣劇の女優のようで感心した。
小さなプログラムの中身が濃い。劇中登場する戯曲や作家の解説もあるが、清水邦夫氏自身のプロフィールが載っていない。「流行語」の部分を省いても、載せたほうがよかったと思う。
外部関係者を意識していないのか、アンケートが用意されていなかったが、次回、検討してほしい。
エネミイ
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2010/07/01 (木) ~ 2010/07/18 (日)公演終了
満足度★★★★★
「戦う人たち」
自分にとってはいろんな点で楽しめる作品となった。個人的な思い出で言うと、俳優座研究所花の15期の高橋長英、林隆三、自分には「大江戸捜査網」十蔵旦那のイメージが強い瑳川哲朗の中高年トリオが主軸として活躍。
高橋長英は若いころから気弱でどこか陰がある不幸な青年の役が多かったが、いまもその面影がある。林は私が10代のころから女性の間では非常に人気があり、「大人の男」として憧れる人が多かった。瑳川は若いころはスリムな筋肉質の体型だったせいか、蜷川演出の舞台を久々に観たとき、「腹ぶとん」を入れていると信じ込んだほど、お腹が出て貫禄がついた。この3人を見るだけで「あれから40年たった」という劇中の実感が伝わってきた(笑)。
脚本が蓬莱竜太。モダンスイマーズの作品の印象とはまったく違うライトな印象。
演出の鈴木裕美はジテキンの人だが、大学で自分のちょうど10年後輩にあたる学年で、職場の新人がジテキンのメンバーと同級生だった縁でその存在を初めて知った。当時の観客はまだ父兄と学友たちが中心で、職場にも「チケット買って」のお願いが新人さんより回ってきた。お母さんたちが「親衛隊」を結成して炊き出し並みの差し入れをしていた。自分の学年はあまり自前の学内演劇が盛んでなくて早稲田や明治の男子学生にくっついて細々活動している状態。東女の如月小春が脚光を浴びている時期で、本女はまったく影が薄かった。だからジテキンを知ったときは、ついにそういう劇団が本女にも出てきたかとたのもしく、ちょうどそのころは学内の演劇活動全体活気づいていたようだ。女の子たちがバブルを謳歌し、華やかに遊んでいたころ、ジテキンメンバーは自宅組でさえ、芝居にお金がかかっていつもビンボーと言っていた。そのジテキンの鈴木さんが中央の大きな劇場でベテラン俳優たちを演出するなんて隔世の感がある。
また、10年後輩のその職場の新人とはまったく話題がかみ合わなかったせいか、その世代の鈴木さんが団塊世代が中心になる芝居を演出するというのが想像がつかなかった。
この芝居は観る世代によって感想も違うと思うが、異なる世代や立場の登場人物たちが絶妙なバランスで配置され、目には見えないあの時代の空気と現代を鮮やかに浮き彫りにした点が高く評価できる。
この時代を知らない2人の脚本、演出家の力闘にお礼を言いたい気持ちだ。
パンフレットで作品解説をしているのが70年代、若者のカリスマ的人気を得ていた作家・柴田翔であるのも感慨深い。
ネタバレBOX
観ようかどうしようか迷っていたこの芝居を観ることにした最大の決め手は本欄のアキラさんのレビューを読んだこと。ストーリーも大変詳しく書かれているし、この芝居の魅力を的確に解説されている秀逸なレビューで、観たくてたまらなくなった。お蔭様と言っては何ですが、設定の説明等を大幅に省き、単純に感想だけを書きます。
立派なマイホームを持っている定年間近の団塊世代の夫には、フラメンコの稽古に熱心な妻と、パラサイトシングルの娘と息子がいる。この世代の典型のような家族構成で、現代を象徴する家族だと思った。
岐阜から2人の旧友が夫を訪ねて来るが、3人はかつて成田の三里塚闘争を戦った仲間。40年後に再会の約束をしていたのだ。夫は早くに活動を抜けたが、2人は有機農業をしながら、まだ社会活動を続けており、その催しに参加するために上京してきた。懐かしさの半面、夫には2人が煙たくもあり、早く帰ってほしいと思っているが、2人は嬉々として、家族に溶け込もうとし、家庭には異文化交流のような微妙な変化が生まれていく。
婚カツに必死な長女・紗江(高橋由美子)に、婚カツ自体への疑問を投げかけ、どんな結婚相手がふさわしいか考えて意見を述べる成本(瑳川)は、紗江とディズニー・シーに遊びにいっておおはしゃぎで戻ってくる。TDLのあたりは関東大震災のとき安全な避難地に名が挙ったほど人家がまばらで、40年前の昭和には江戸時代の漁村の面影がまだ濃く残っていた。闘争を経た男とディズニー・シーでのハッピー・ホリディ気分の対比が鮮やかだ。
温厚、紳士的で順応性がある瀬川(林隆三)は、多くを語らない分、挫折感や背後の過去の重さを匂わせる。林はかつて安保闘争の学生を演じたこともあるので、私はその作品の若き林を瀬川に重ねて観てもいた。
自宅でネットの戦争ゲームをやりながら小遣いを稼ぎ、コンビニではシフト表作りを任される長男・礼司(高橋一生)は、成本の指導で庭に家庭菜園を作らされ、2人の活動にも興味を少し持ち始める。過去をまったく語らなかった
父はそんな息子の変化に警戒心を募らせる。瀬川も成本もネットの戦争ゲームを試してみて、各自「面白いね」という感想を漏らすが、内には複雑な思いがあふれているに違いない。瀬川の「やってみないとわからないもんだね」とゲームについて礼司に感想を言う場面、その言葉の奥には実際にヘルメットと棍棒を持って警官たちと戦った男の苦々しさがにじむ。60年代から70年代初頭の左翼闘争は、昭和の戦争を終え、平和を迎えた日本における第二の戦争でもあったわけだが、活動の敗北と挫折により、現在では所詮戦争のシミュレーションだったような評価を下す人もいる。だが、戦いはシミュレーション・ゲームとは違うということを、この芝居で強く感じた。
コンビニのシフト表を手に語る礼司の苦悩も心に響いた。瀬川もコンビニのお話が印象的だったと礼司に語る。高橋一生はいつもながら巧い俳優だなぁと感心する。
夫・幸一郎(高橋長英)は家庭での希薄な存在感を示しながら、俳優の存在感はきっちりと示す難易度の高い演技には脱帽。
礼司の友人の警官(粕谷吉洋)がこの家庭に持ち込む生活感も、70年代の活動家が持つ警官のイメージをくつがえす効果で面白い。松本修の芝居で何度か観ている粕谷が少ない出番できっちりと印象を残す。
高橋由美子もアイドル女優のイメージをすっかり脱して舞台人になっていた。
ここでの人たちはみんな何かと戦っている。専業主婦の加奈子(梅沢昌代)も内面的には戦っているはずだ。しかし、この芝居では、加奈子は人々のそれぞれの存在意義を語り、受容し、現実を精一杯謳歌しているたくましさをみせる。普通なら内に秘めた夫や子供への不満をぶちまける描き方をするところ、聖母のような慈愛と懐の深さで表現したところがいい。人間である以上、微笑を湛えたあの顔で加奈子もきっと何かと戦っているはずで、そこが紗江に「あの人にはかなわないわ」と言わせる所以なのだろう。
加奈子のフラメンコや、リアルなゴキブリ追撃騒動の場面も楽しい。
終幕近くに成本が実は幸一郎の顔を覚えておらず、娘や息子と話しているうちに「似てるなぁ」と思い出したという告白が効いている。人間タイムカプセルのようなお話だ。
ずっと週末だったらいいのに。【ご来場ありがとうございました!次回は来年1月予定です】
劇団だるい
しもきた空間リバティ(東京都)
2010/07/09 (金) ~ 2010/07/11 (日)公演終了
満足度★★★★★
前回よりパワーアップしてた
東大系の老舗劇団である綺畸、劇工舎プリズムで活動していた人たちを中心に結成したコントユニット。在学中の旗揚げから観てきたが、今回は来場者数も過去最高だったとのことで、観劇した千秋楽は満席でした。
今回は「週」や「曜日」をテーマにしたコントが中心(関係ないネタもある)。前回よりパワーアップしていたと思う。ボツネタを紹介するマンガ冊子も配られた。このマンガ、旗揚げ公演のチラシでもやってたが、雰囲気があって好き。
東大系の社会人コントグループでは同世代に先日観たコント集団ナノランナーがあるが、彼らも年1回の公演だが、クチコミで人気を得ている。
「だるい」も頑張って、観客を増やしてほしいですね。
ネタバレBOX
「さよなら七曜」(作・演出大河内健司)
出荷伝票の管理をしているOL(大竹加耶子)。上司(大河内)が発表する曜日の社内名称がどんどん変るので混乱し、まちがいが多くなる。毎度修正を言いつける冷たい先輩(佐溝貴史)、多忙なのに接待ゴルフや社内親睦ボウリングに誘ってくる先輩(中野和哉)。日曜日はにっこり曜日、木曜日はもちようび、なんて最初はゴロあわせっぽかったが、ドリフのメンバー名やエグザイルのメンバー名に変っていって・・・。「まちがいで千手観音1千体届いた」って(笑)。
「花火に邪魔されて」(作・演出佐溝貴史)
花火の大きな音にかき消されて肝心の言葉がうまく伝わらない可笑しさ。いくつかのうち、大島健吾が友人・佐藤悠の好きな彼女と結婚することを告白しようと悪戦苦闘する男同士のやり取りが笑えた。
「劇作家S」(作・演出佐溝貴史)
自分の戯曲に過剰な自信を持つ劇作家(佐溝)。「アドリブを言う俳優が嫌いだ。台本どおり一言一句変えずに言ってもらわないと困る」主義。俳優(中野、原尾真理子)に台本を渡して本読みを始めるが、入力ミスによる誤字が続出。しかし、それを認めたくなくて押し通す。「待って」→「侍って」を「さぶらってが正しい」と言い張ったり、途中で男女の役が逆転していてもおかまいなし。これ、まさか佐溝本人がモデルじゃないよね?(笑) 私はこの劇作家によく似た東大OB作家を知ってる。モデルは彼じゃないかな(笑)。
漫才「夏と冬」(作・演出大河内健司)
大河内、佐藤による「夏と冬への対処法」を話題にした漫才。
人を食ったような大河内の変なアイディアが可笑しい。
佐渡獄部屋のネタがタイムリーで面白かった。
「座敷わらしの宿」(作・演出大河内健司)
座敷わらしが出ると評判の旅館に泊まった男(中野和哉)が小生意気な座敷わらし(大竹)に翻弄される。2人の掛け合いがキャラに合ってて面白い。
「ずっと終末だったらいいのに。」(作・演出大島健吾)
携帯メールの文字を食い荒らす虫の出現で、メールに支障が出て強引で意味不明の文章に悩む大島と原尾。文章は字幕で説明。変てこな文章に笑いも起きていたが、文字表現だけに面白さはイマイチ。もう少しめちゃくちゃ面白い文章でないと。
「狂言バンジージャンプ」(作・演出 大河内/佐溝)
これからバンジージャンプをしようとする男2人(大河内/佐溝)。最初は現代語で演じ、途中から狂言仕立てで演じる。擬音をうまく用い、表情で笑わせない、ナンバ歩きの摺り足など、狂言の約束事を守っており、古語も正確で結構本格的な現代物狂言になっているのには感心。幸若舞まで登場し、最後は「やるまいぞ、やるまいぞ」でしめくくる。2人ともスジがいいから本格的に狂言習ったら上手くなるんじゃない?意外にも若い観客が一番沸いていた作品なので、能楽ファンとしては嬉しい。
「冷蔵庫の中」(作・演出中野和哉)
擬人化は中野の得意ネタ。これまでもクレープ、パソコンなどのコスプレで笑わせてくれた。彼氏と別れて自炊しなくなった女性の部屋の冷蔵庫。賞味期限をめぐって、庫内の残り物食材、卵(中野)、牛乳(佐藤)、マヨネーズ(佐溝)、ひき肉(大河内)、レタス(原尾)、カイワレ大根(大竹)、香辛料のクミン(大島)が「このまま腐って捨てられるのはイヤ」と大騒ぎ。マヨネーズを兄さんと呼ぶ卵。レタスをめぐって恋の鞘当をするひき肉とマヨネーズ。北海道の同じ生産者のところの出身だとわかって連帯感を強める牛乳、ひき肉、レタス。カサが減ってクタッとなるマヨネーズとひき肉のドリップでトレイがへたってくる感じがよく出ていた。コンプレッサーの振動に怯えるところも面白い。クミンが瓶入りで常温保存ができ、賞味期限があまり切実でないため最初は余裕だったのが、使われる頻度が少ないので庫内に取り残されるという皮肉。
俳優の個性とあいまって楽しめた。個人的には好きなネタだ。
8割世界番外公演『欲の整理術』×『ガハハで顎を痛めた日』
8割世界【19日20日、愛媛公演!!】
ART THEATER かもめ座(東京都)
2010/07/07 (水) ~ 2010/07/11 (日)公演終了
満足度★★★★
次の本公演が楽しみ
8割世界、今回初見です。ガレキの太鼓という劇団も未見なので今回の番外公演はとても楽しみにしていました。
「欲の整理術」と「ガハハで顎を痛めた日」、面白い題名だと思いますが、観終わってどちらも題名と内容が結びつかない感じで、番外公演としてのキャッチに目立つタイトルにしたのかなと想像せざるをえない。
今回、ついに本チラシを手に入れる機会がなかったのですが、当日、劇団にももう在庫が残っていないということで残念。で、どうして鶏の絵だったんでしょう。
何か意味があるんでしょうか?具体的感想はネタバレで。
ネタバレBOX
「欲の整理術」
開演前、並んだパイプ椅子の真ん中の椅子の背に豚のぬいぐるみがくっついていて、そこのスポットライトが当たっている。この演出が好きです。小道具に役割の名前を書いた紙がつけられて行くが、豚のぬいぐるみに「豚」と書いた紙がつけられたのは「わかるのに何で?」と思った。このぬいぐるみは「豚の役」として活躍はしなかったので。火炎瓶はなかなか面白かった。1回だけ効果音も照明も付かなかった火炎瓶投下があったが、不発という設定だったのだろうか。
演出がどうかという以前にあまり脚本の内容が面白いと思えなかった。豚が人間を支配するという設定は面白いが、オリンピック参加のくだりの会話が退屈だったので。「スピードスケートに参加することに決めた」ときのリーダー(小林守)のスケートの振りが面白かったけど。全体の衣装がもうちょっと何とかならなかったのかと思う。リーダーだけ、赤のハッピの丈が長く、暴走族みたいだが、他のメンバーはスーパーの大売出しのときの店員みたいで、革命家という雰囲気が伝わってこない。
「豚族(?)」の声が昔の機動隊の呼びかけみたいで、あまり「異形のもの」っぽさがない。しかし、「死んでもかまわないと思ってる」だの「ダンコン(断固)として」を抑揚なく頑固に繰り返すところが、人間とは違う融通性のない不気味さを表現しているようで面白かった。小林守のリーダーが、コミカルな役を演じるときの故・緒形拳のような軽妙さを感じさせ、印象に残った。
「ガハハで顎を痛めた日」
教師役、女子生徒役、それぞれ俳優さんに自然な実在感があり楽しめた。教師と女生徒は場面として交わるものではなく、別の世界の話なのだが、教師が話しているとき、女子生徒がそばに来ていかにも話を聞いているような表情をする演出が面白かった。
ただ、冒頭と途中に教師の中で生徒役を演じる人たちが客席に向かって背を向けて話すシミュレーションの場面があるが、この劇に限らず、これが私は気になる。最近の若い演出家は、会議の場面など、客席に俳優がお尻を向けるということをあまり気にしないようだが、昔から日本の芝居では、必然性のある場合でも俳優は極力きもち体を斜めにして観客にお尻をみせないように演じることが不文律として守られていた。それほど、観客にお尻を見せるのは無作法だと気にしたもので、古いかもしれないが良き風習だと私などは思っている。そこが映画とは違う舞台の約束事だった。そういう習慣は抜きにしても、今回、生徒役が背を向けてしまうのは表情が見えず不都合だと思った。
また、今回、この作品は日によって一部配役が異なるためか配役表が載っていない。HPで確認せずに観たが、今回は必ずしもローテーションを決めて配役を替えていたのではないのだろうか。「演出の都合上、ステージによって配役を変更いたします」という文章の意味もつかめない。劇団によっては親切に俳優の写真や似顔絵をプログラムに載せているところもあるけれど、私のような初見の客は劇団員の顔と名前も一致していないし、今回、客演俳優も自分は初めて見る人ばかりだったので、プログラム表記に何らかの配慮がほしかった。番外公演は、よく小劇場芝居を観ている人や劇団のなじみ客を対象と考えているのか、配役情報を重視していないのかわからないが。
また、アンケートの感想欄が用紙に比して狭く、これも感想を書く人が少ない傾向の劇団に多いようだ(ちなみに感想をたくさん書くわが家では感想スペースが狭いと不評だ。自然、裏を使ってぎっしり書くはめになる)。もう少し広く取っていただけるとありがたい。あまり部外者のことを想定していないのかもしれないが。
番外公演に、既成作品でなく、他劇団の作家の書き下ろし作品を選んだ意欲を高く買いたい。もちろん、今後既成の名作も観てみたいと思う。
次の本公演も観てみたい劇団です。
ルーティーン247パラノイア
シネマ系スパイスコメディAchiTION!
新宿シアターモリエール(東京都)
2010/07/09 (金) ~ 2010/07/11 (日)公演終了
満足度★★★
ドラマとしての統一感がほしい
劇団としての特徴に「笑い・芝居・映像を融合し、スパイスを持ったCAST陣でエンターテインメントを繰り広げる・・・・それがシネマスパイスコメディー」
と説明されています。エンディングのタイトルロール以外、あまりシネマっぽさは感じられず、想像していたのとは少し違っていました。
後半はお芝居としての仕掛けがあり、話としてよくできているとは思うが、前半は、芝居というよりコントをつないだ印象が強く、コントとしては面白くて大いに笑えるものの、芝居としての味わいは薄く、不満が残った。同じコントでつないで見せるコメディーでも、電動夏子安置システムの「Performen」はロジック・ファンタジーなのでコント部分は本筋とは別に割り切って観ていられるが、本作のようにリアルな現代コメディーだと、やはりドラマとしての統一感がほしいと思う。小学生らしき子供が大声で笑っていて、子供も楽しめるコメディーなんでしょうね(下ネタもあるけど)。
ネタバレBOX
オールカラーのパンフレットが配布され、役名のほうが芸名より目立つ印刷なので、以前観たことのある女優さん何人かが別の芸名だと勘違いし、「よく似ている俳優さんたちがいるものだなぁ」と驚いてしまった(笑)。ドSの店員を演じた沢木美絵は、パンフ紹介によると素に近い役らしく、先日のジパング・ステージの「日の出温泉」の不倫OL役よりは似合っていたが、この人の演技は今度も私にはなぜか空々しく見えてしまった。滑舌がよくないのと、台詞の「間」がときどきおかしいせいではないかと思う。役と遊離して見えてしまうのだ。主役の妄想女(谷合りえ子)がバナナマンの日村そっくりだなーと感心してたら、パンフにもそう書いてあったので納得(笑)。この人もナレーションの独白が暗記した台詞をしゃべっているように聞こえるときがあった。
「コント部分(?)」で言うと、謎の男(斎藤了介)の全然似ていない「渡鬼」のえなりかずきネタが失笑。ついでに言うと福丸と鳴海の「幸楽」の夫婦も全然似ていない(笑)。この妄想ネタ、あまり必要を感じず、まんま「コント」でしかない。コンビニ前でしゃがむチャラ男(青池光芳)とチャラ女(荻原恭子)の会話が面白く、ヒロインの父親(山田茂輝)が変装のため仲間に加わろうと、彼らの言葉を学ぶのだが「マジやばいっしょ」が「待ち合わせ場所」と聞こえてしまうのが可笑しかった。こうして聞いてみると、彼らの若者言葉は実にややこしく面倒くさい言い回しなのだと実感(笑)。父親がガン黒の女装をしていてもすぐ見破りそうだが、それと気づかないのも、この場面もヒロインの妄想だからなのだろう。
最後に、コンビニで働いていたということ自体も本人の妄想であることが明かされ、出演者が総出でコンビニにはまったく別の人たちが働いていたという「現実」を見せる場面が面白い。
「精跡-SEISEKI-」
角角ストロガのフ
サンモールスタジオ(東京都)
2010/07/07 (水) ~ 2010/07/11 (日)公演終了
満足度★★
個性は強烈だが・・・
劇団の名前は知っていたものの、どういう作風かまったく知らずに拝見し、想像以上に刺激的で強烈な個性に驚きました。
内容が内容だけに、観る人を選ぶ作品だなとは思いました。自分にはポツドールの「夢の城」以来のカルチャーショックで、うら若い女性がこういう作品を発表できるって時代も変ったなという感慨を持ちました。
アフタートークでの角田さんがあっけらかんとした笑顔で、半ば確信犯的に楽しんで作っておられるようにお見受けしました。ポツドールの芝居よりは台詞が多い分、距離を感じなかったのですが、気になる点はありました。
ネタバレBOX
少子化問題や社会における障害者の扱いについて描き、決して興味本位でとりあげてるのではなく、作者のそれなりの問題意識を感じました。
精子バンク企業の話が出てきて、現代でも障害者雇用による企業への補助金等優遇措置はあるわけですが、障害者を積極雇用している企業の障害者の作業環境が問題になった事件もあり、企業利益を追求する中で差別と優遇は紙一重の問題でもあるわけですし。ただ、バンクの職員や障害者を装うひよこ屋の品性の卑しさと露骨な言動が観ていて正直不愉快になりました。一般に障害者を描くに当たっては、どこまで表現するか、演じる俳優も作り手もかなり神経を遣うようですが、作品を観る限り、まったく誤解を恐れず、大胆にやっておられ、賛否が分かれると思います。
セットはよかったと思いますが、俳優の役名が芸名と同じというのも必然性を感じませんでした。登場人物たちは物語状況説明の役割が強く、内面的に共感できないのも気になります。女性奴隷同士の人間的なつながりも、会話はあるものの描かれ方が中途半端で、途中脱走するAランクの女性奴隷を演じる森山綾乃さんはオスカー所属でモデル出身だけに美貌でナイスバディですが、台詞らしい台詞も少なく、役の人間性が見えてこないので、疑問が残りました。
妊娠した奴隷が空腹から同僚の両腕を食いちぎり、食われた奴隷のほうもヘラヘラ笑って生きてるのが理解できませんでした。
牛乳屋がひよこの血を絞るという行動の意味がよくわからず、バンク内の人事異動が頻繁になる終盤はめまぐるしくてよく意味が飲み込めなかった。バンクの職員が不祥事のお詫び会見で手首を切る場面、本来なら血が噴き出すので照明を赤にしそうだが、そうしないのは、血液より「精跡」を表現しているからなのだろうか。
アフタートークも、せっかく時間をとるなら芸能人の私生活のネタ紹介などではなく、この作品や役柄について角田さんが聞き手になって出演者と話してほしかったですね。「お客様が帰ってから周囲に自慢できる芸能人ネタを」と角田さんが屈託なく笑ってるのにはちょっとがっかりしました。
90%VIRGIN / 終末の天気【満員御礼!無事に終了いたしました。ありがとうございました!!】
エムキチビート
ギャラリーLE DECO(東京都)
2010/07/06 (火) ~ 2010/07/11 (日)公演終了
満足度★★★★
納涼気分で楽しめた/彦星
七夕の夜、彦星バージョンを観ました。エムキチビート、初見です。自分の場合、「初見の劇団を番外や企画公演から」というケースがけっこう多く、幸いにほとんどはずれがないです。
若者がワイワイやってるような作品は好みではないので、ふだんなら選ばなかったと思うのですが、今回、ご推薦があったので観ました。
適度な上演時間の2本立て企画、面白くて結構笑わせてもらい、ゲリラ豪雨や蒸し暑い夜が続いてゲンナリしていたところ、よき納涼となりました。
ネタバレBOX
役名は一部を除いて役者の名前をそのまま使っている。
「90%VIRGIN」
MUのハセガワアユムの初期の名作のカヴァー。
かっ飛ばしたハイスクールが舞台(・・・って日本の学制でハイスクールの呼称はないけど)。ミスチルのCDが割られてばら撒かれる事件が起き、軽音部が疑われて部室を取り上げられ、合唱コンクールでミスチルを歌うことを教師に強制され、部員たち(和田亮一、岡田NIY、秋澤弥里)は腐っている。
岡田は部の消滅を救った新入部員でドラム担当、使い走りをさせられ、リーダーの和田は高校中退して音楽留学したいと考えている。
軽音部の顧問で現代国語の教師(川添美和)を変態体育エロ教師(渡辺慎平)が追いかけ回し、W不倫へ?
高校中退した元サーファーのDJロック(長谷川恵一郎)を尊敬する岡田。CDを割った犯人で謎の変態中学生ミツル=三二六(太田守信)は両親の不和で大人不信が強い。部員たちにみつかり、トイレに監禁されてしまう。
女生徒秋澤の彼氏が怒って教員室に乗り込んでいる間、DJロックが和田に説教を始めて・・・。
エロ教師の渡辺(本当に昴の人?笑)とドラムの岡田、どう見てもチュウボウに見えない太田が面白い。
「終末の天気。」
地方都市の高校演劇部。金曜日の午後、この週末に巨大隕石が落下し、世界は終わってしまうという中で、部員たちは「世界の終わり」という芝居の稽古をしている。
主役のすずきぺこ、親知らずを抜いた翌日で痛みがひどい和田亮一、演出家の若宮亮。和田はすずきに好意を抱いているが相手にされない。平田オリザファンのすずきとつかこうへいファンの和田が言い合いをする場面が可笑しい。にわか勉強で野田秀樹しか知らない演劇部顧問(長谷川恵一郎)。校内をくまなく回って点検している用務員(漣圭佑)。顧問の同級生で演劇部のOG大杉さほりは東京で女優から舞台スタッフに転向し、母校を訪ねてくる。すずきは小学生のとき観に来た文化祭で「夏の夜の夢」のパックを演じた大杉に憧れてこの学校に入学したという。和田に因縁をつけて追い回し、定番の台詞を連発する不良生徒(藤沼豊)と、ちょっと不気味な醒めた不良生徒(田中裕二)。
すずきは、明日世界が終わるというときに、意味のない稽古を続けることに苛立っている。「世界の終わり」はいまは東京にいる同級生(川添美和)が書いた脚本で、あと2ページ分が未完で、川添から原稿が届くのを演出の若宮が待っている。3人は将来、東京の大学に進んで劇団を立ち上げようと誓ったのだ。大杉が実は川添の急死を告げに学校に来たことがわかり、ショックを受けるすずきと若宮。最期のときが迫ってきて・・・。
ここにいる人たちは、みな、ここしか居場所がないと思い、集まってきたのだった。用務員の漣と顧問の長谷川の演技が印象に残った。
長谷川はDJとはまったく違う役どころを鮮やかに演じ分けた。くろいぬパレードの役者さんは客演で時折観ているが長谷川の舞台は初めて観た。脚本家・川添美和が演出家・若宮の前に現れて心情を語る場面、長台詞が流れて心に響いてこないのが残念。川添は演劇部の女生徒役より人妻の軽音部の顧問教師役のほうが似合っていると思った(あくまで私見)。
終末の日が明日に迫ったら、自分はどう過ごすのか、考えさせられた。
2作品は共に高校の部活を描き、暴れ者が騒動を起こすさなか、恋の告白があったり、先輩が後輩を説得したり、微妙な共通点があるのが興味深い。「90%」の軽音部部員を演じた和田が「終末-」で「オレ、本当は演劇よりバンドがやりたくて。軽音部とか・・・」と言う。
両バージョン観たという人が「彦星のほうが配役が合ってる」と話していた。自分としては、太田の演劇部顧問と、岡田の用務員も観てみたかった気がするが時間がなく残念。
七夕企画にちなみ、スタッフが男女共に浴衣姿で接客。帰り際、エレベーター前で岡田NIYが「よかったらまたいつか観にきてください。本日はご来場どうもありがとうございました」と丁寧に一礼し、見送ってくれたのがさわやかで心に残った(もちろん彼とは知り合いではない)。公演というのは作品だけでなく、こういうちょっとした心配りが大切だと思う。
エムキチビート、また観に来たいです!
幸せまであと少し
赤堤ビンケ
荻窪メガバックスシアター(東京都)
2010/06/30 (水) ~ 2010/07/05 (月)公演終了
満足度★★★★
悩み多き女三十歳を活写
今回このお芝居を観に行ったのは、フライヤーを手にしたとき、長らく消息がわからず気にしていた松村慎也さんのお名前があったからで、同姓同名の別人かもしれないけど、とにかく行って確かめるしかないと。で、結果は探していたご本人でした。中大二劇出身の俳優さんで持ち味がよくて注目していたのです。しばらく演劇活動から離れていたそうですが、復帰されたそうでまずはおめでたいことです。
主役のかたが体調不良のため降板というハプニングがあり、公演が1週間延期されたようですが、同じ劇場で無事公演できてよかったですね。
等身大のテーマの現代の芝居って苦手なほうなのですが、本作はなかなか面白い作品で楽しめました。作・演出の鈴木優之さんは男性なのに、三十路目前の女性心理をよくこれだけ描けたなぁと感心することしきりでした。
ネタバレBOX
古川ゆきこは30歳を目前に「結婚したいなぁ」と思い始めて、 幸せになるために考えたいろいろなことを手帳にメモしている。両親が離婚し、郷里の茨城にはとんかつ屋で働く母(大内涼子)と独身で32歳の姉の夏樹(森住亮子)がいる。ときどき上京してくる母は2人の娘の結婚を心配し、ゆきこに見合い写真を持ってきて勧めている。姉の夏樹は会社を辞めたばかりで、ゆきこの部屋に住み着いてしまう。
ゆきこの部屋は職場の同僚の篠崎美知子(細田秋菜)、篠崎が想いを寄せる酒飲みの川谷(前田将甫)、後輩の上野(奥野瑛太)らの溜まり場になっている。仕事ができるため、職場で頼られ、恋愛もままならない先輩の藤浦和枝(朝倉亮子)は婚カツに意欲をみせ、合コンを計画。ゆきこも参加することになり、親友の瑞樹(松永恵)に婚カツのノウハウをアドバイスしてもらう。瑞樹は失恋を機に積極的に男性と交際するようになった肉食系女子で、彼氏はいるが、ゆきこと一緒に合コンに参加すると言い出す。瑞樹いわく「3高の時代が終わり、いまは低姿勢、低リスク、低依存の3低男が狙い目」だとか。合コンの当日、仕事が忙しく、藤浦は遅刻することになる。会場へ行くと、男性幹事が仕事の都合で欠席とのことで、2対2の合コンとなる。やたら高飛車な態度が鼻につく倉山(信田素秋)と同じ会社の先輩の30歳の遠藤(松村慎也)。ゆきこは3低の遠藤に好意を持つが、瑞樹もゆきこに解説した合コンマニュアルどおり遠藤にアタックし始め、ゆきこは気が気ではない。合コンでのゆきこの心の声が面白く、KYで自己チュウの倉山への突っ込みが笑いを誘う。
ゆきこは遠藤とメールのやりとりを始め、順調に初デートにこぎつける。自分をよく見せようと瑞樹に教わったように女の子らしく振舞うが、偽っている自分に自己嫌悪を感じるようになる。遠藤が初めて部屋に来たとき、ゆきこは思わず本音をまくし立ててしまい、気まずくなってしまう。
瑞樹の信奉する占い師増沢(牛水里美)と知り合ったゆきこは、プライベートで3人で会う。増沢は「アカシックレコード」という人の過去や未来データがわかる超能力の持ち主で、瑞樹の過去の不倫相手が実は瑞樹との結婚を真剣に考えていたが、いまは妻子と幸せに暮らしていることを占いで伝え、瑞樹は号泣する。増沢はゆきこに遠藤がゆきこを心配していること、しかし、2人の恋の行方はゆきこ次第で先のことはわからないと告げる。
遠藤は悩んでいるゆきこを受け入れ、改めて交際を申し込むが、ゆきこは自分に自信が持てず、断ってしまう。
離れて暮らしていた父(秋山敏也)も61になり、生活に困って娘たちに金の無心をする。ゆきこは30万円を渡し、父にもう会いに来ないでと言う。姉の夏樹は父親が心配になり、出て行ってしまう。いったん帰ってきた夏樹は、父がぼけ始めていること、小さなアパートでみじめな暮らしをしていることを話し、ほうってはおけないと言って、また父のところへ行ってしまう。娘たちが自分の知らないところで父親に会ったことを知った母は激怒する。
30歳の誕生日、ゆきこが部屋で寂しく過ごしているとなぜか上野が顔をみせてすぐ帰る。遠藤がプレゼントしてくれたメロンパンをほおばるゆきこ。
サプライズで上野、篠崎、川谷、藤浦、母、姉たちが誕生日を祝いにやってくる。ゆきこには心配してくれるいい仲間や家族がいる。ひとりぼっちなんかじゃない。
ゆきこを見ていると切なくなる。遠藤さんと結ばれてほしかったけど。
最近、TVドラマが低調だが、素敵な2時間ドラマのような心温まる作品で注目したい劇団だ。
ゆきこと夏樹が見た目も似ていて姉妹に見えるのがよい。濃い目の化粧で若づくりの母に見せた大内涼子が好演。茨城なまりでポンポンものを言い、いかにもいそうな母親で笑わせる。秋山の気が弱くふがいない父親ぶりも心に残る。この元夫婦のリアルさがいい。
牛水の美しく独特な雰囲気は占い師にピッタリ。巧い起用だ。松村の遠藤は女性にもてそうな好青年を手堅く演じた。以前は「変わり者」の役が多かったので、今回のような普通っぽい役を初めて観た。
作中気になった点を挙げておくと。
ゆきこの「心の声」がナレーション代わりになっているが、心の声と同じ台詞が続くところがいささかくどい。台詞の前に同じ内容の声のナレーションは不要。
ゆきこが、父に「若気のいたりのできちゃった婚で、なりゆきでできた子供」と言われたのがトラウマになっているというが、ゆきこは次女だからおかしくないか?主役の変動で役の設定が変わったためだろうか。
上野を「私より8つも年下なのよ」とゆきこは言うが、すると上野は22歳、新入社員の年齢で、姉の夏樹とは10歳も違う。年の差カップルはよくある話でも、この場合、夏樹が上野を好きになり、ゆきこの職場の同僚が誰も驚かず、「お似合いだから結婚したら?」と言う場面があまり自然に思えない。
若い人からみれば60代はとても年寄りなのかもしれないし、61歳でボケる人も現実いるだろうが、昨今、長寿社会の還暦はまだ若く、父親がボケるには早い気がして、あまりピンと来なかった。
不幸の女神
コント集団ナノランナー
ウッディシアター中目黒(東京都)
2010/07/03 (土) ~ 2010/07/04 (日)公演終了
満足度★★★★
年に1度の爆笑まつり!
オムニバス・コント10本という予告だったが、実際に数えたところ13本+αあった(プログラムに配役やコントのタイトルを入れてほしかった)。
メンバー9人全員本業を持つ社会人なので、回を重ねるごとに職場の同僚や友人のクチコミで人気広がっていったのか、ぴあのチケット売れ行きも毎回好調で、土曜夜の回の会場も満席、爆笑の渦。
主宰の橋本和明はテレビ局のディレクターでバラエティー番組も担当している。
ふだんお笑い番組をほとんど観ない私だが、周囲を気にせずゲラゲラ思いっきり笑えるって精神衛生上もいいですね。
単なるお笑いライブというより演劇の一場面にも使えそうな内容で、CoRichのユーザーの中にも観たらはまる人が必ずいると思うし、もっと多くの人たちに観てほしいけど、年一度しか開催しないので、初見で観にいこうという人は少ないでしょうし、当分は固定ファンたちで楽しんでる状況が続くでしょうね。
一般の劇団と違って客の対応に慣れていないのかもしれないが、一番最後に会場を出てきたらロビーにキャスト、スタッフたちがたむろってたにもかかわらず挨拶はなく、完全に無視。
「客の送り出しは最後の一人まで」ですぞ。
今後のご参考までに、ネタバレで内容を詳しく紹介しておきます。
次回公演は来年の6月の予定。
ネタバレBOX
「不幸の女神」というタイトルと内容が関係ない。一考されたし。
①人質をとって銃を持ち、たてこもった犯人は男の刑事イトウに「女の刑事に1億円持ってこさせろ」と要求。ニューハーフデカ(なかなか美脚)と、オスカルの扮装で「愛あればこそ」を歌う宝塚デカが張り合った末、2人で出向くが2人とも撃たれて死んでしまう。
②深夜の2時、朝までにプレゼンの資料を作らねばと、部長と4人の部下がPCに向かって作業をしている。「呪いのケータイ」「会議で人数1人多いけど資料は足りた」「井戸に飛び込むOL」「死者からのFAX」など部下が次々怪談を披露しているうち、停電が起き、バックアップをだれも取っていなかったため、ピンチになり、怪談よりこわい事態に。
③TVの衆院選開票速報番組。時事ネタを織り込みながら解説者とアナウンサーの珍解説で笑わせる。北海道が3議席まで「熊」が圧勝で獲得し、人間は鈴木宗男のみという結果や、山梨で「アルプスの少女ハイジ」の「クララ」が圧勝、「立ち上がった実績があるだけに、たちあがれ日本の候補者を抑えた」とか「南アルプス市市民の後押しがきいた」というのが可笑しかった。
④KAT-TUNのコンサートチケット余券を求めてプラカードを持って立つ赤西ファンの女性2人と2人に付いてきたファン歴浅い友人の1人。よくある光景だ。対抗心から2人はすぐに喧嘩を始めるが歌ったり、ファン特有の妙な連帯感ですぐ仲直り。同情をひくための嘘がエスカレートしていき、2人に合わせようとするファン歴の浅い友人が孤立してしまう。
⑤「KAT-TUN赤西仁がいかにも言いそうなひとこと」を字幕で見せていく。赤西ファンではないとピンとこないし、正直面白くなかった。
⑥コンビニでエロ本と昼食を買った男が好きな女性と道でバッタリ。「お家に行って昼ゴハンを作ってあげてもいいよ」と喜んでいると、引ったくりにレジ袋を盗まれる。引ったくり男はすぐに捕まり、警官に袋の内容確認を求められた男はエロ本を彼女にみつからないようにさまざまな言い訳を試みるうち、逆上して引ったくり男を人質に刃物を持つ。彼女がエロ本に理解を示したので感激して投降するが、結局振られる。
⑦「釜山に舞う雪」は冬ソナのパロディ。ユミンは恋仲の学生ションソクが里子に出された実兄と母から聞かされ、その直後、ションソクは交通事故死。ションソクに瓜二つのビジネスマン、ヒョンチョルと出会うも彼もまた実兄だと母が言う。ヒョンチョルも交通事故死。母によると生き別れの実兄は78人いると系図を見せられる。またまた瓜二つのヤンキーのヒョンナムに出会い、系図を見ると名前がなく安心。しかし、母は腹違いの隠し子だと言い、これも172人いると言う。繰り返しが少々しつこく荒唐無稽だが、客は大笑いしていた。
⑧NHKの取材を受ける「謎解きが得意な」動物園の飼育員。「・・とかけて何と解く」というあれだ。動物を紹介しながら謎解きをはじめ、放送禁止用語を連発するので、NHKの取材人が注意すると、飼育員は怒って姿を消してしまう。
⑨ハローワークで仕事を探すメイド服を着た自称アユアユことヒラノアユミ。面接する職員にメイド言葉で話しかけるくせに、「普通の喫茶店で働きたい」と言うので職員は困惑。マスコットの「ベアちゃん」を取り出して会話する現実逃避の一方、簿記二級の資格を持ち、清水東高校出身など、まともな部分を持ち合わせてるところが笑えた。
⑩ナイトウメグミという女性にストーカー的恋心をもつ男、エノキダは扱いづらい性格から「普天間」というニックネームを持つ。友人の市川、ミヨシと土曜の夜、パジャマで集まって雑談。実は市川はメグミの彼氏であることをエノキダは知らず、市川も嘘をつくので、ミヨシは気が気ではない。市川とメグミの韓国旅行の事実を知って、さすがに気づくと思ったエノキダだが、あくまでめげない。
⑪ケンジとの仲をヒロキに相談するユミ。ユミに密かな好意を持っているヒロキに、1人2役の天使と悪魔がラップに乗せてさまざまなささやきをしてくる。と、思ったら、これは「劇団天使と悪魔」の第14回公演であることが判明。天使と悪魔のラップがとにかく可笑しい。
⑫映画「おくりびと」の予告編パロディ「さきおくりびと」。何かと先送りしてしまう主人公が可笑しい。「普天間問題でも見られた日本人の「先送りの美学」--ニューヨーク・タイムズ」が笑えた。
⑬厚生労働省内での「格差拡大問題阻止会議」。シンドウ部長に4人の部下がさまざまな提案を行う中、前半のコントの続編なども挿入される。
ホームレス川柳、ホームレス店長、ホームレス長者番付などが出てきて・・・。しかし、翌朝の新聞を見たら、米国ではホームレスのジョギングにより生活支援を行うというネタ真っ青の実例が出ていた(笑)。
シンドウ部長役の橋本は、まるでテレビ局の構成会議を思わせる仕切りぶり。いるのね、こういうディレクター(笑)。
ボケの清水昭紀、「間」のいい江本哲朗、思い切りがよく女優としてもいけそうな佐藤可奈子が印象に残った。
青ひげ公の城
青蛾館
座・高円寺1(東京都)
2010/07/01 (木) ~ 2010/07/04 (日)公演終了
満足度★★★
25周年のお祝い公演
寺山修司というと「魑魅魍魎」という言葉を連想するけれど、文字通り異形の者がたくさん出てきて、何が現(うつつ)何が幻かわからない。
青蛾館25周年記念公演ということで、華やかに妖しく・・・というお芝居ですね。野口さんの迫力は相変わらず凄いです。アングラの好きな人には楽しめるのではないでしょうか。すべてが虚構のうえに成り立っているようなお芝居で、観ていてその混乱を楽しむという感じでしょうか。
ネタバレBOX
ヒロインの女優志望の少女を演じる若松絵里さんは文学座研究生出身で天井桟敷の草創期メンバーだった若松武史さんのお嬢さん。前日、インタビュー記事が「日刊ゲンダイ」に載っていて、そのネタも台詞に出てきた。絵里さんの兄の力さんも俳優だが、この少女の兄も俳優という設定。物語では、ずっと昔に少女の兄、若松ジョージという俳優がこの劇場にいて、照明係も兼ねていたが行方不明になっている。女優(野口和彦)に舞台上で殺されたという噂もあるが、「あくまでお芝居のうえでのこと」とはぐらかされてしまう。少女は「青ひげ公の城」という芝居の「7番目の妻」の役をもらって出番を待っている。芝居と同時進行で、青ひげ公の城の中にある「白縫劇場」でも劇中劇「悪徳の栄え」が演じられる。ユディット=ジュリエット=珠江(山田ひとみ)は犯(尾崎宇内)という青年と背徳の恋に落ちる。
青ひげ公の二番目の妻を演じる女優(野口)も、少女も「女優ユディット」なのだという位置づけ。
少女は最後に自分が暮らしている高田馬場周辺の人間模様と共に舞台への想いを語るが、このあたりは野口和彦のメッセージともなっているようだ。
ただ、若松絵里の独白の台詞があまり胸に響いてこなかったのが残念。若松武史は「この役は素で演じたほうがよい」とアドバイスしたそうだが、薄味すぎたように私には思えた(特に後半)。
劇中劇「悪徳の栄え」も長田育恵の脚色・構成ということで期待したのだが、特別感心するような出来でもなかった。
劇中劇は奥のほうの小舞台で演じるので、役者の動きがちまちましすぎて、観にくく印象に残らなかった。私の観た最前列でさえそうなのだから、もっと後方で観たら、よくわからなかったと思う。
思い切って、もっと役者の動きがよくわかるような演出にしてほしかった。
印象に残った俳優を挙げておく。コプラ(小林桂太)とにんじん(渡辺敬彦)は台詞の面白さが観客に届いていた。第一の妻(市川梢)と第五の妻(野水佐記子)の演技対決は見ごたえがあった。尾崎宇内は二枚目俳優として定着した感じだが、先に書いたように演出の関係で印象が薄かった。
八重柏泰士(ピーチャム・カンパニーからの客演)は短い出番ながら、湯神首男と「素」に戻った俳優をくっきり演じ分けて印象に残った。
劇中劇朗読者の千賀ゆう子、こもだまりの朗読は、さすがに聴かせ、それだけに役者の動きが際立たないのが惜しかった。
歌姫(越川典子、高橋祐子)の歌声は美しくて良かった。
狂言回しの舞台監督(石塚義高)はじめ、「俳優」を演じる人たちも動きがきびきびしていてよい。
アリスとテレスの舞台衣装や、青ひげ公の城のオブジェなど、宇野亜喜良の絵から抜け出してきたようで魅力的。
アフタートークで天井桟敷の森崎福陸氏が「寺山修司、岸田理生の作品世界を2つ合わせて綺麗にまとめた感じで、それなりにと言うか、従来のイメージの域を脱していないのが残念」と評されていたが、そのとおりの感想を私も持った。冒頭の映像のぬめぬめした官能的な雰囲気が芝居に入ると薄まっていた。
森崎さんがおっしゃりたかったのは、天井桟敷の芝居だともっと官能の毒のようなものがあって、度肝を抜かれるというか、強烈な印象があったという意味ではないでしょうか。
同じ綺麗にまとめたなら、先日観た万有引力の舞台のほうが天井桟敷の雰囲気に近く、しかも洗練されていて詩的で美しくて、私には好みでした。
お話によれば昔の野口さんは細身で中森明菜に似ていたとのこと。見てみたかったなー(笑)。