きゃるの観てきた!クチコミ一覧

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銀河鉄道の夜

銀河鉄道の夜

東京演劇アンサンブル

ブレヒトの芝居小屋(東京都)

2010/12/22 (水) ~ 2010/12/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

イヴの観劇はまた格別でした
この劇団は毎年恒例のクリスマス公演。「これを観ないと年が越せない」という熱烈なファンに支えられている。客席も家族連れ、カップルが目立つ。
昨年、同じ座組で観て既に詳細なレビューを書いているので、詳しいことはそちらに譲ります。
私以外にここで「観てきた!」を書く人がいなかった劇団ですが、チケットプレゼントの実施などにより注目され、新しい観客も出てきたことが嬉しいし、ほかの皆さんの感想を読むのが楽しみです。
昨年観て感動し、今年の1月、原作を改めて購入して読み直したほどです。上演を許されたのはこの劇団が本邦初というだけあって、ピアノの生演奏や星座のスライドも効果的で原作のイメージを損なわない幻想的かつ立体的で素敵な作品に仕上がっていると思います。
スロープで結び、高低をつけた2つの舞台で演じるのも、ブレヒトの芝居小屋ならでは。
学校公演でも好評の劇団の人気演目でもあり、就学前の幼児が退屈もせず、目を見開いて舞台に見入っている姿が印象的で、幼いころに観た舞台の感動はいつまでも心に残ることでしょう。
ここで公演に興味を持ったかたが、来年、新しくまた観客になってくださることを祈りたいと思います。

ネタバレBOX

昨年とは違う位置で観て、座る位置によっても印象が違うものだと思った。
主人公たちと共に、軽便鉄道で旅をしている気分になれるのが何より楽しい。
語りは羽鳥桂と志賀澤子のWキャストで、今年も羽鳥の回だったが、これだけ長く演じてきてるのに、昨年同様、台詞がつっかえるのは残念。一度、志賀の語りも聞いてみたいと思う。
清水優華の爽やかなジョバンニと桑原睦の凛々しいカンパネルラは名コンビだと思う。特に清水は少年らしさがとてもいい。
水難で死んだ少年役の冨山小枝の健気さにまた胸が痛んだ。少女役の原口久美子も好きだ。こんなふうな少女役を演じているのがあの原口久美子だと思うと信じられないほど、ふだんの役のイメージと違う。この人の七変化はすばらしい。
影たちをコロスのように使うのが面白く、ハーモニーも揃っていてよい。
さそりの樋口祐歌のダンスを今年はま近で観られて嬉しかった。彼女のさそりが印象的だけに、次は誰が演じるのか興味がある。
この座組での上演は今年で終わり、来年はまた新メンバーとなるそうなので、そちらも楽しみにしています。
マクベス2010

マクベス2010

SPACE U

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2010/12/22 (水) ~ 2010/12/25 (土)公演終了

満足度★★★

あまり新味を感じない
新演出の『マクベス』ということで期待したが、衣装が現代風なこと以外、特に目を惹く要素は感じず、あまり斬新な舞台とは思えなかった。
脇役をオーディションで選んだこともあり、「友人が出演するから観にいく」という人が私の周囲の小劇場俳優にも何人かいたが、彼らは「古典物は観たことがないので、まったくストーリーを知らない」と言っていた。原作を知らないで観る人のためにパンフにはせめてあらすじを載せたほうが親切だと思う。登場人物が多く、人間関係が複雑なせいか「初めて観たので、人間関係や筋がよくわからなかった」と終演後、話している客も見かけたので。

ネタバレBOX

演出家の高橋一郎によれば、マクベスに予言を与える「魔女」が「マクベスの心の闇が生み出した存在」と捉えた点が「新機軸」らしい。だが、それは原作を観ていても感じる点で、特に目新しいとは思えない。先ごろ、野村萬斎演出・主演による『マクベス』でも、そのような解釈や演出だったと思うし、そちらのほうが少人数でもよほど充実していたので見劣りした感も。むしろ、カーテンコールのとき、こんなに大勢出演していたのか、と驚くほどだった。
冒頭、マクベスとバンクォーが馬ならず2人乗りスクーターで登場したときは、「オーッ」と思ったが、それ以外、目新しさは感じなかった。
冒頭場面、バンクォーの若松武史の台詞がベテランとは思えないほど聞き取りにくかった。
ナベサダのモダン・ジャズも、思ったほど効果的とは思えず、トレンチコート姿の男優のバックに流れると、2時間物のTVサスペンスのBGMみたいで違和感がある場面も。
迷彩色の戦闘服を着た兵士による戦闘場面も迫力を感じなかった。
マクベスの大島宇三郎はSPACE Uの主宰だが、平凡な印象。シェイクスピアの台詞を言っているというだけで、マクベスの内面があまり迫ってこない。
マクベス夫人の中川安奈はこの人の特徴である喉声による演技が気になった。
俳優ではマクダフの羽田真が出色の出来。マクダフが主演かと思うほど役の性根がストレートに迫ってきて、ピーチャム・カンパニーの公演で2度観て巧い俳優だと思ってはいたが、大舞台でも堂々とした演技で印象に残った。

「ファニー☆マネー~FUNNY MONEY~」

「ファニー☆マネー~FUNNY MONEY~」

ファルスシアター

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2010/12/23 (木) ~ 2010/12/26 (日)公演終了

満足度★★★★

クリスマス観劇にはお薦め
シチュエーション・コメディーのお手本とも言うべきレイ・クーニーの作品は、辻褄合わせのためについた嘘の連鎖で笑わせていき、最後に落ち着くところがわかっていても、役者の奮闘で思い切り楽しめるのがいい。
ファルスシアターは、本格コメディーをリーズナブルな入場料金で楽しめるのが嬉しい。

ネタバレBOX

レイ・クーニーの原作がそうなっているのだからしかたないが。
友人に大金が転がり込んだと知っても、羨みもせず粛々と高飛びを手助けしようとするベティ(堀米忍)は良い人なんですね。
妻のジーン(神谷はつき)が言うことをきかないからとはいえ、愛妻家なのにあっさりベティと一緒になろうとするヘンリー(矢吹ジャンプ)もなんだかなー。
部屋にクリスマスツリーが飾ってあるのに、バリ島に飛ぶとはいえ、ヘンリーがコートも着ずに半袖シャツのまま出ようとするのが気になった。
お金をそっくりボストン・バッグに移し変えて逃げても、警察は追ってくるのでは?
矢吹は半袖でも汗グッショリの大奮闘。仕草が可愛らしく、憎めない。堀米がいつもと違うセクシーな小悪魔風役どころ。背中のタトゥーに見入ってしまった。堀米の個性的な顔立ちは善人の役に見えないので、ヘンリーを誘惑する段に納得(笑)。
終始、大まじめで誠実なスレイター刑事の景浦大輔がハマリ役だった。「黒幕Bさん」の前村圭祐もお約束の登場(笑)。
海外コメディーは配役が決め手なので、客演に適役俳優を選ぶのに毎回苦労すると思う。
客演から新劇団員になった白土裕也は今回スタッフに回り、当日心のこもった笑顔の応対で会場を和やかにしていたのが印象的。
15 Minutes Made Volume10

15 Minutes Made Volume10

Mrs.fictions

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2010/12/16 (木) ~ 2010/12/19 (日)公演終了

満足度★★★★

おトク感ありの好企画
この企画、観るのは初めて。「世田谷シルク」を除き、自分には初見の劇団ばかりでした。未見の劇団の雰囲気をつかみたいと思っている人にとっては好企画だと思った。
15分とは思えない充実度。さすがです。自分が観た日は、客席歓談やアフタートークの時間が設けられていて、客席はほとんどが友人や関係者のようだった。

※レビュー書き終えて、登録ボタン押そうとする直前、突然文章が全部消えて真っ白になってしまった。これって何なんでしょう?
再度、書き直しです。

ネタバレBOX

「少年社中」。ここは知人の間で評価が両極端に分かれているので興味があった。実際に観て、なるほどキャラクター設定や演技の質は好みが分かれるかもしれないと思った。20世紀末の大晦日の話。当時を思い出し、懐かしく観られた。
「ぬいぐるみハンター」。本公演の感想を読んでいると自分には付いていけないものを感じて敬遠していた。でもこの脱力系の芝居は嫌いじゃない。神戸アキコさんのとぼけ具合、好きだなぁ。彼女のギャグになぜか涙がポロッとこぼれた。これ、自分の中で10年に一度くらい起こる特異現象で、無意識のうちに深層心理に反応して内容に関係なく、涙がこぼれるようだ。子役のつばさくん(丸石彩乃)の「仕事の現場を遊びと思ったことはないよ!」の台詞には噴いた。
「トリコ劇場」。これが15分とは思えなかった。素晴らしいドラマでした。エビス駅前バーの公演に脚本書いてるだけあって米内山陽子さんは巧いと思った。ホームレス風流浪の父さんが3人の娘との過去にさかのぼるラストの演出には絶句。
「世田谷シルク」。この劇団の特徴をよく表していて、新作のダイジェストを観たようなお得感がありました。15分では難しい感じだけど、本公演の特徴はまさにこのとおり、よく出ていました。
「田上パル」。「ミートくん」というのがよくわからなかったがナンセンスさは伝わった。「青い山脈」の春歌をフルコーラス歌うのには唖然。芯となる俳優さんの落語家ばりの話芸に注目した。
「Mrs.fictions」。山瀬(岡野康弘)と小桜(黒木絵美花)との噛みあわない会話がとても面白かった。ホームレスの山瀬くんの淡々とした芝居が何とも可笑しい。岡野さんは客演でよく観ている俳優さんだが、この劇団だったのですね。
永久機関

永久機関

Theatre MERCURY

駒場小空間(東京大学多目的ホール)(東京都)

2010/12/17 (金) ~ 2010/12/21 (火)公演終了

満足度★★★★

難解だが魅力ある作品
中心学年の劇団活動卒業公演にも当たるためか、満席。2階や舞台後方にも補助席を設けるなど、東大の学生演劇でもこんな盛況は久々の経験。
演劇専門の大学ではないのに、駒場小空間は可動式の設備・機材も充実した小劇場並みのホールで、演劇学生羨望の的だ。恵まれていると思う。
大学公認の駒場3劇団の中でもマーキュリーは前身が野田秀樹の学内劇団と言われ、学年ごとに内容は変わるものの、一貫してシリアスで難解な傾向が強い。
作家、演出家、俳優と、卒業後も演劇界で活躍するOBを輩出している。
今回の作品も、劇団カラー相応に難解で、終演後、「難しーい!」と呟く声が多かったようだ。
学生だからこそできる実験的な作品ともいえ、快い緊張感が支配していた。
作・演出の宇垣智裕さんはきっと今後も演劇活動を続けてくれるのではないかと私は思っているが、学外の一般公演でどんな作品を生み出すのかとても楽しみにしている。
※公演日程が21(火)までになっているが、20(月)までの間違いだと思う。

ネタバレBOX

「永久機関」というタイトルの意味がわからず、観劇するまでまったく内容が予想できなかった。
「永久機関」というのはWikiに解説があるそうなのでここでの説明は省略させていただく。ひとことで言うと「外部からエネルギーを受け取ることなく、仕事を行い続ける装置」だそうだ。しかし、実際にはこの「永久機関」は実現不可能な装置であることが研究上明らかとなり、それによって物理学の熱力学分野の研究が進んだというから、「原子力エネルギー」もそのひとつなのだろう。
この劇で描かれる「核戦争」と「家族」、ともに「永久機関」と位置づけられているようだ。
観客席を両側に挟んで横長の舞台。一隅にブランコが置かれ、天空には星の代わりに道路標識が多数浮かぶ。舞台中央には地球儀。最初に「演出家」(金澤周太朗)が登場し、次にオーディションを受けに来た俳優たちが登場。俳優たちはいきなり配役され、劇を始めさせられ、それが本番だと知り、驚き戸惑う。この演出家は実際にこの劇で「神」、「先祖」を演じ、ブランコに乗る。神は万物創造としての「父」であり、俳優が演じる人物たちはすべて「子」なのである。冒頭、演出家が「お父さんは僕が演じます。皆さんは全員子供です」というのもその意味なのだろう。
ときどきに一部配役を変えながら、戦地に父と長男を送った留守家庭の日常、食卓の同じ場面が繰り返し演じ続けられる。毎日、放射能の雨が降り続き、母親は「正しい洗濯」にこだわり続ける。この「洗濯」は「選択」と掛けている。
父親は第3次大戦に出征し、息子と同じ年恰好の青年兵士と出会う。「長い間、歴史の中で戦争は繰り返されているが、なぜ、人は家族の大切さを繰り返そうとはしないのか」という問いかけが心に響いた。
戦地の「慰安所」で女を抱くか、抱かないかという「選択」も俳優を替えて描かれる。
降り続く放射能の雨に傘をさす場面は、映画「ブレードランナー」の放射能雨の場面を思わせる。世紀末における終末思想やノアの方舟を匂わせ、1999年6月30日と4月13日が繰り返し出てくる。
「意味は最後にわかる」と最初に演出家は言うが、「わからないかもしれない」と結ぶ。意味は観客1人1人に考えてほしいということだろう。それは安易に解釈を観客に委ねるということとは違う。戦争と日常。難解だが、非常に考えさせられる内容だった。
演出家を演じた巨漢の俳優、金澤は、時に暴力的で時にユーモラスな存在感が得がたい。芝居の特性上、配役表がないのでこの劇団を日ごろ観ていないと、俳優名がわからないのが残念。役代わりがあっても、工夫して配役を書いてほしかった。
たくさんの俳優が出てくる中、出番は少ないが、辻貴大にはいわゆる役者としての華があり、ひときわ目立っていた。既に小劇場劇団でも客演して場数を踏んでおり、今後の活躍が楽しみな俳優だ。


友達になってね

友達になってね

音響の会

上智小劇場(一号館講堂)(東京都)

2010/12/17 (金) ~ 2010/12/19 (日)公演終了

満足度

表現方法をもっと考えたほうが
これまで数多くの学生演劇を観てきましたが、正直言ってその中ではワーストの出来だと思いました。「上智の演劇を観たい」と私を誘った連れも同意見でした。連れは前日、高校演劇サミットを観ていて、それのほうが数倍優れていたと言ってました。
ほとんど劇の態を成していないワークショップですね。それに1時間40分は長すぎる。表現したいことがあっても、自分たちだけがわかっているような作品では何も伝わらないと思います。
私は学生演劇でもたいてい1000円以上カンパに支払ってるのですが、さすがにこれでは千円札は出す気になれませんでした。
でも、トイレがどの大学よりも豪華で、設備も最新式ですごくきれいでした。トイレ使用料を払った気分です(苦笑)。
ちなみに入場無料カンパ制の学生演劇でコリッチのチケットシステムを利用している珍しい団体だなと思ったが、コリッチで予約して行ったにもかかわらず、受付で名前も聞かれず、「チケットは発行してません。予約は関係ないんで」と言われ、渡されたのはパンフのみ。これってわざわざチケットシステムを利用する意味あったのかな、と(苦笑)。ほかの学生劇団同様予約メールで事足りるのでは?

ネタバレBOX

会場となっている講堂に入るなり、ミラーボールが回り、男女2人組のDJが音楽を流している。しかし、本編にはこのDJたちはまったく関係ない前座であることがわかった。このDJの男の子のまるで日本語カタカナ発音のつっかえつっかえの下手な英語にはビックリ。私の頃は学部に関係なく上智大生って英語が得意だったのに。客席の学生たちからも失笑が漏れていた。
作者の横山龍顯くんは仏門の家の子弟だそうで劇中にも経文が出てくる。仏教大学でなく、ミッション系の上智とは意外な取り合わせだなーと。
1人の女性の80年の一生を描いているが、「人生」なんてものではなく、ほとんどが高校生活のヒトコマである男女同級生の他愛無い会話でその内容がまったく面白くない。いったい、この作品で何が言いたいのか伝わってこない。
「途中で女の子が男の子になったりもするのですが、あまり気にせず・・・」って挨拶文に書いてあるが、気になるでしょ!(笑)。その場面の意味が全然わからなかった。
劇中、俳優が劇とは無関係の自己紹介をするのだが、2人だけ本名を言わないのはなぜだろう。役名がいちおうあるのだが、その2人が性別のわからぬ名前で、2役以上の子もいるので、配役表はほしかった。
80歳を迎えた主人公が病気なのか同窓会会場で急に痛みを訴えて息絶えて劇が終わるが唐突な印象である。80歳になっても演技やしゃべりかたは高校生のままだし。
「現代口語演劇」の一種であることだけはわかるが、これを演劇と呼べるのかというお粗末さ。
「青年団の若手自主企画的な」前衛的な作品として評価する向きもあるかもしれないが、私には作品として好意的に評価できなかった。
最後に菩提樹らしき木を描いた背景幕が下ろされるが、右側が何かに引っかかり、半分まくれあがって、幕として不完全なまま直そうともしない。
この幕に白い花をくっつけたり、床に草らしきものを撒いたりする工夫は面白いと思ったのだが。
ヴェールを纏った女たち

ヴェールを纏った女たち

公益社団法人 国際演劇協会 日本センター

イワト劇場(東京都)

2010/12/17 (金) ~ 2010/12/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

スリリングな興奮に魅せられた
私が「黒色綺譚カナリア派」に初めて触れたのは朗読劇であった。個人的には赤澤ムックさんの本公演の芝居より、彼女が演出する朗読劇のほうが好きだ。本公演でも、劇全体よりも1対1の会話の場面に一番魅力を感じてしまう。
本作も朗読劇のイメージを払拭するようなスピード感あふれ、非常に洗練された魅力的な構成・演出でスリリングな興奮が味わえた。
ドイツ在住のイスラム女性作家フェリドゥン・ザイモグルの作品で、ドイツの演劇雑誌『テアターホイテ』の批評家投票で2006年度後半期第2位に選ばれたという。
なお、この一連の企画の中で「現在形の中東演劇」というシンポジウムが開かれ、ベルギー在住のエジプト人の演劇人・ターレク・アブル・フェトーフ、赤澤ムック、七字英輔三氏による対談が行われた。言語や文化の壁があり、三者の話がうまくかみ合わず、七字氏が司会者としても機能せず、残念だった。赤澤さんがそもそもなぜ中東の朗読劇演出を手がけたか、どんなことを感じたかを聞きたかったのだが・・・。対談で紹介された中東で活躍するアーチストの中に90年代に日本でも高く評価された建築家ザハ・ハディドの名が出てきたときは、彼女にインタビューした一人として、その健在を知り、嬉しかった。

ネタバレBOX

私は中東を舞台にした映画や、イラン映画が好きで何本か観たことがあるが、そこで描かれているイスラムの女性というと戒律が厳しく、控えめでつつましく、性差別による虐待にあっているというイメージ。
性に関する独白劇というので、暗く傷ましいイメージの性体験なのかと思ったら、正反対で驚いた。
翻訳言語はファンキーで現代的、宗教的な背景以外、欧米や日本と変わらぬエネルギッシュでしたたかな女性たちが登場する。
赤澤さんの以前観た朗読劇同様、仕掛けがある。1人が1つの話を朗読するオーソドックスなスタイルではなく、1人の女性の独白を何人かで受け持ちながら複数の体験談が進行するが、最後に登場するドイツ人の女性のみ、新井純さんが豊かな表現力でオーソドックスな朗読形式で締めくくる演出がとてもよかった。
イスラムの女性を演じる4人が黒、新井さんのみ白の衣装で、イスラムに改宗するドイツ人女性が最後に黒のヴェールを纏うのも印象的。
落とした照明の中、浮かび上がる女優たちが無言の場面もとにかく美しい。
非常に速いスピードで独白が進行するため、つなぎがスムーズにいかないと劇自体が失敗する構成なので、女優さんたちの緊張感はハンパではなかったという。
しかも、それぞれの女優さんの個性もきちんと生かされている。
トップバッターのこいけけいこさんは冒頭、カミカミでテンポの乗り遅れがあり心配したが途中からよくなった。秀逸だったのは中里順子さん。滑舌がよく、語りのつなぎもなめらかで、観客に届ける力が抜群。小劇場の若い女優さんはお手本にしてほしいといつも思う。赤澤さんの女学生の語りも生き生きとして惹きこまれた。牛水里美さんは「車椅子生活」の若き女性の屈折した性への情念を演じて鮮烈。
イベント中特に人気演目だったそうだが、とても貴重でステキな朗読劇だった。
唾の届く距離で

唾の届く距離で

公益社団法人 国際演劇協会 日本センター

イワト劇場(東京都)

2010/12/16 (木) ~ 2010/12/19 (日)公演終了

満足度★★★★

事実と言葉の持つ重み
作者のタヘル・ナジーブさん自身が来日し、独白形式の「三章」から成る朗読を行った。
表題が正式翻訳タイトル『唾の届く距離で』に変えられた旨、告知があった。
タヘルさんの朗読は演劇的でありながらも、決して感情過多ではなく静かに訴えかけてくる。
実体験に基づく話で、とても言葉を大切に発している印象。改めて朗読の力を感じた。ピーター・ブルック氏が本作を「『優れた演劇』を遥かに超えるもの」と激賞したのが伝わってくるような朗読劇だった。
ただ、視力の弱い自分にとっては見づらい字幕を追いながらの観劇は、ふだんの倍以上疲労するもので、言語が理解できたらより楽しめたのになぁと思った。ストーリーを理解するために脚本のダイジェストのようなものが添えられていたらな、と思う。もちろん、簡単な作品紹介はパンフにあったけれど。

ネタバレBOX

「イスラエル国籍を持つパレスチナ人である」というタヘル氏自身の体験を綴った作品。
表題は、主人公の故郷の町では、人々が日常行動の中で何かにつけて「唾を吐く」という習慣から来ている。
主人公は世界中を旅しながら演劇活動を行っている。というとまさにジプシーを連想する。ジプシー音楽の演奏家たちもそうである。そのため、「イスラエル国籍を持つパレスチナ人である」という複雑な状況が空港関係者に正しく理解されず、入国の際も思わぬ足止めをくらってしまう。
また、たまたま9月11日に国を越えようとすると、空港関係者が中東人の彼に対し、「何ごとか起こるのではないか」と勝手に過剰反応し、空港内でもピッタリと付き添って行動するので、彼は「何ら懸念するような危害行動を加える心配はない」ということを周囲にわからせようと、つとめて冷静にゆっくりと振舞おうとするのだ。
演劇に携わる者として、彼は舞台以外でも周囲の偏見に対して「望ましい中東人像」を演じなければならないという皮肉を悲哀とユーモアをこめて表現していた。
仕事を終えて、彼はまた「唾を吐く」故郷に戻ってくる。「唾を吐く距離で」というタイトルは、周囲に影響を及ぼさないためにある種の緊張を伴う「唾を吐く際の距離」を国外でも保って行く必要性を表現しているのか。
緊張ある旅から開放され、最後に安心して「唾を吐ける」埃っぽい土地に戻ってきた安堵感のようなものが観ている者にも伝わってくる。
Re:トライカクテル

Re:トライカクテル

けったマシーン

小劇場 楽園(東京都)

2010/12/16 (木) ~ 2010/12/19 (日)公演終了

満足度★★★★

なかなか楽しめた
狭い「楽園」の空間をうまく生かし、カフェバー公演風にしたのが面白い。このところバー公演で良い物に当たらなかったので、「掘り出し物」に思えた。
クリスマス物として悪くはないし、前回の作品よりは進化しているように感じた。
この作者は回想を入れた謎めいた作品が好みのようで、背伸びをして荒削りな点もいくつか見受けられるが、私は作品に好感を持っている。
まだ若い人らしいので、伸びしろはありそうだ。
やはり年を重ねて身に着けていくものはあると思うし、事実、学生時代から観続けている劇団の作家もみなそうだったのであまり心配はしていない。
実のところ劇作には全く向いていないと思われる作家もときにはいるが、この作家はそうではないと思う。
内容の感想はネタバレにて。

ネタバレBOX

前作より短い70分物というのが良かった。あわただしいバー公演をいくつも観ているせいか、ゆったりしたテンポを楽しめたし、珍しく時計を見ることなく過ごした。ただ、長めで無言のジェスチャー場面が多いのは気になった。
何事も中途半端で煮え切らず、表情も乏しいサラリーマン三田(高山五月)。職場で同期の男(斉藤央)が出世して上司になり、ほとんどいじめ状態にあっても、満足に自分の心情も話せない。こういう人を私は身近に知っているので共感がもてた。
私が一番気になった点は、マスター(小野寺駿策)の編集者の妻(木畑舞子)がしょっちゅう夫の職場であるバーにやってくること。最近のTVドラマにも多いパターンで、舞台設定と進行上しかたがないのかもしれないが夫婦だとあまりありえないことだ。せいぜい婚約者の設定にしておいたほうがよかったと思う。また、妊娠がわかってからの妻の飲み物は明らかに水とわかるものだったが、台詞でそれをわからせたほうが親切だったのでは。
作家志望の三田と編集者の描き方も安直さは感じた。
パンフに配役が載っていないのは、小説の登場人物である男女(宮尾政成、後閑真純)の存在を伏せたかったためだと思うが、彼女の浮気をほのめかす上司の発言もあるので、この「彼女」が別の「彼氏」とデートしてるのかと誤解するようにも見せているのは、なかなか巧いと思った。
三田がサンタとも読める役名もいい。
マスターが妻の妊娠をガンのような重病と勘違いしたり、常連のタマキ(角北龍)が彼女に買ってやったコンサートのチケットが実は近藤(坂本真太郎)に関係しているのではと思わせる笑いの場面も、あざとさはあるが面白く観られた。善意の人間関係によるきれい事にまとめず、近藤に「三田の苦境は自業自得」と言わせるのも観客を代弁しているようでよいと思った。
登場人物の男女の会話によって三田が事故にあって死んだと思われるが、そのあとの最終場面が、上司も交えてやけに和気藹々としているのを三田が眺めているというハッピーエンド風なのが違和感を覚えた。冒頭のサンタが人を殴る場面もサスペンス風だが、内容がサスペンスではないので、あまり効果的には感じなかった。むしろないほうが良かったと思う。
前作とは違う役どころを演じた高山と坂本、前回よりは「間」がよくなっていた小野寺など、前回の公演メンバーの変化もうれしく感じられた。
海賊ハイジャックの斉藤の現代物も客演ならではの新鮮さだ。
今後、作者が劇団員ともにどのように成長していくか、長い目で見守りたいと思っている。

ロボと暮らせば【ご来場ありがとうございました】

ロボと暮らせば【ご来場ありがとうございました】

青春事情

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2010/12/15 (水) ~ 2010/12/19 (日)公演終了

満足度★★

演技の違和感が残った
チケットがフェリーの乗船券になっていて、こういう細かい工夫に好感が持て、期待感がふくらんだが、ロボット父さんが出てきたとたん、ガッカリしてしまった。脚本としては悪くないのに、最後まで違和感が残り、我を忘れて感動できなかった。
最前列の2人が号泣していたので、よけいにシラーッとしてしまった。
でも、観たことは後悔していない。観ないであれこれ想像するより、自分の目で確認してよかったと思う。

ネタバレBOX

「父と暮らせば」をもじったようなタイトル。こちらも、母のいない愛娘を支える父親の話。
親友の病死により、急場しのぎで作った父親の代用ロボット(大野ユウジ)というためか、見た目も非常に安っぽいロボットだった。大きな乾電池を背負い、「昔ながらの田吾作」風の風貌のわざとらしいいでたち(笑)。しかも、動きをロボットらしくみせようとすることで、逆に役者の持つ生々しさが見え隠れし、生理的にとてもなじめなかった。そのへんを先日のあかぺら倶楽部のロボット芝居は克服していたので、つい比較してしまう。
動くたびに機械音が出るのだが、途中、回想場面でもないのになぜか機械音が出ない箇所があったのも気になった。
ロボット以上に、婚約者(加賀美秀明)の回想場面のつなぎかたがギクシャクしていたのが印象に残る。源さん(海野デカ)の俳優の演技の緊張感が持続しないので、回想場面と現在との差がなく見え、年齢がいったいいくつなのかわからなくなるのも難に感じた。
島に来たとき、娘のりつは乳飲み子だったようだが、母親はどうしたのだろう。説明を聞き逃したのかもしれないが把握できなかった。
作家(高桑恭彦)と演出家(松本悠)が島民として出ているが、これが両脇に人形の仕掛けをくっつけて笑いをとろうとするのがサービスのつもりかもしれないがわざとらしく感じた。
俳優では大地の親友・翔太の本折智史と、島のスナックのママ名水の貫井りらんがその役らしく見え、とても良かった。
娘のりつの藤吉みわは、「お父さんなんて嫌い」とロボット父に悪態をついて泣く場面が良かった。
ロボット物は「寿命による回収」で終わるのが宿命的な通例のようになっていてこれもそうだった。
終幕近く、りつと婚約者の食事場面があり、照明が暗くシルエットなので食べるまねごとだけかと思ったら、本当に食べていたらしく、カーテンコールの挨拶の間ずっと加賀美が口を動かしていたのもマナーとして気になった。
りつの藤吉はそうではなかったので。


LOVEMAIL from Santa

LOVEMAIL from Santa

劇団EOE

千本桜ホール(東京都)

2010/12/16 (木) ~ 2010/12/19 (日)公演終了

満足度

ただただ閉口した
リクエストの多かった再演物で初演のコリッチでの評価は☆4つだし、公演3週間前にチケットがほとんど売り切れ状態というツイッターの書き込みにあおられて期待感がふくらみ、観劇して大いに後悔した。
自分の中の生涯ワースト1を更新。
タイトルと「最愛の者を失って2年。あの頃の想いは、貴方の胸にまだありますか?」というコピーからクリスマスにふさわしいハートフルなストーリーを勝手に想像したのが大間違いだった。
「どこまでがノンフィクションでどこまでがフィクションが分からない」というのがミソの劇団らしいが、基礎も何もあったものではない劇団員の酔いしれた素人演技を延々見せられ、途中退出したくて時間を持て余し、時計と天井を何度見たことか。ひたすら耐えた1時間45分。
実力選抜主義で配役を決定する劇団とのことで大仰な公演ドキュメントがパンフとして配られたが、舞台に立っているのが選抜エースたちなら、振り落とされた劇団員はいったいどんなレベルなのか。
高校演劇でももっと上手いと思う。
身内以外でこの劇団の芝居が好きという人の気持ちが私には理解できない。
劇団員全員、他の優れた劇団のWSに参加し、一から勉強し直すことをお勧めする。
自分の中では評価以前のレベルだと思うが、コリッチのシステムだと「評価なし」は「棄権」と同じ扱いなのであえて☆1つとさせていただく。

ネタバレBOX

劇団員のウォーミングアップ風景から始まる。
いちおうストーリーらしきものはあるが、そんなものはこの際、関係なく、「最愛の者」というのが交通事故で亡くなった座長の妻ということはわかるが、それは脇に置かれている印象。
「役の争奪」「演出の悩み」みたいなのが、すべて滑舌の悪いカミカミの早口ことばで、ノンストップで続く。早い話が「演劇ごっこ」だ。
全員が「ハァハァ」と息をし、他人が台詞を言っている間も全員がずっとこの「ハァハァ」を続けているのでうるさいこと!
主役級の演技は悶絶するほどのヒドさだった。比較的マシな古参の山本尚史は声量豊かなのに滑舌が悪いから台詞が届かない。
大木美奈、飯久保和葉、太田まさみのトリオの「ブス」「ブタ」「AKB48」をネタとする寒くてつまらない同じギャグの繰り返しに辟易した。
大木、飯久保はWAHAHA本舗初期の久本雅美と柴田理恵コンビを意識している印象。この芝居で私が唯一息抜きになったのは太田まさみの沢田研二の「勝手にしやがれ」の似てないモノマネだった(苦笑)。
演劇マゾを味わいたいというかたには観劇をお勧めする。

「舞台進行上、終演後の役者面会はご遠慮させていただきます」という前説を意味不明に思ったが、なるほど苦情を言われたくないのかと納得。主宰の顔が見てみたかった。
鳥賊ホテル

鳥賊ホテル

プリエール

座・高円寺1(東京都)

2010/12/10 (金) ~ 2010/12/19 (日)公演終了

満足度★★★★

出来すぎた「作り話」
それぞれの事情により、お互いに会うこともなく別々に生きてきた異父兄弟たちの「邂逅」により、母の数奇な人生が浮き彫りにされていく・・・。
俳優たちが巧く、優れた演出によりそれなりに楽しめる公演だった。4度目の上演ということはそれだけ観客に支持されてきた秀作といえよう。
ただ、私は最後まで作品の「作為性」が鼻につき、途中から興ざめしてしまった。お芝居は所詮虚構と言ってしまえばそれまでだが、虚構だということを忘れて観ていられるから芝居は楽しいのであって、本作は兄弟の母親である「小泉とわ」という女性の男性遍歴があまりにも都合よく出来た作り話に感じ、最後には「そのウソホント?」と言いたくなる。まぁ、事実は小説より奇なり・・・とも言うが。
それぞれのエピソードに笑いやホロリとさせるものがあるのだが、筋立てが作為的で「仕掛けを作る」作者の意図がちらつくのがどうにも私の好みではない。「大人の御伽噺」と割り切れなかった。
「小泉とわ」という女が自分の中で生きて血肉のある人物として息づいてくれず、兄弟の会話のキャッチボールはとても面白いのだが、作者の頭の中で作った女にしか感じられなかった。
同様に私生児を生み、戦後、数奇な人生をたどる女を他人によって語らせる「悪女について」という有吉佐和子の傑作小説が舞台化もされたが、あの虚構の強度とどうしても比べてしまう自分がいた。
また、再演物の宿命だが、先回りして笑う客が何人かいたのも興をそいだ。
ただ、あくまで私の好みと満足度の問題で、このお芝居を好きだと言う人の気持ちはよくわかるのでお薦めマークをつけました。

※☆3.5というのが正直な感想ですが、2晩考え抜いた末、これを☆3にしたら、他の芝居との評価バランスがとれなくなると考え直し、☆4に改めさせていただきます。

ネタバレBOX

兄弟の性格づけや人物像はそれぞれよく書けていて面白いし、俳優の演技にも説得力があった。会話劇を退屈させない西山水木の演出が優れていると思う。
長男の大谷亮介が祖母に育てられたいかにも育ちのよい助教授を演じていて、私としては初めて観る役どころだが感心した。父親が強盗だったために何かと兄弟からネタ扱いされる次男の井上隆志が抜群に面白かった。三男の小林正寛も好きな俳優だが、ただ一人母親と暮らした記憶を持たず、父親思いの青年警察官を熱演。「小泉とわ」が登場しないので、彼女の生い立ちは四男の土屋裕一によって語られる。4人の中では一番屈託のない性格で土屋の演技も自然でよい。四男はホストなので女性の話を聞きだすのがうまいという設定。このあたりにも都合のよさを感じてしまう。
兄弟がすべて5つ違いで、ちょうど今年、それぞれの父親がとわに出会った年齢となっていて、母が入院しているなど、作りすぎである。
長男の「木馬」への思い入れや「烏賊ホテル」の由来などが語られる終幕も、筋立てが作為的なので、とってつけたように思え、感動が薄まってしまった感があった。
個人的には不動産屋として案内した風呂場から聞こえる次男の歌が「星のフラメンコ」だったり、「ホストって言ったら中条きよしみたいなのでしょう?」という台詞に、作者の岡本さんとは年齢が近い同窓生ということもあり、懐かしさと親しみを感じた。
舞台美術もセンスがよいと思ったが、窓を開けたときの「海の背景」の絵の質感があまりにもお粗末で残念。
演劇入門

演劇入門

青年団リンク 本広企画

こまばアゴラ劇場(東京都)

2010/11/27 (土) ~ 2010/12/13 (月)公演終了

満足度★★★★

演劇との出会いかた
開演前の客席では自分の演劇体験を話し合う中高年観客の声が聞こえてきた。平田さんの芝居を駒場で長年支えてきた常連客たちなのだろう。自分も、無名時代の演劇活動を始めたばかりの平田さんに仕事で関ったことがあるので著書の『演劇入門』はまだ読んだことがないけれど、興味を持って観にきた。
本作は一人の青年の演劇体験の変遷を追体験しながら、観客自身も自分の演劇に対する姿勢を改めて問い直すことができるような優れた企画だと思った。
何人もの俳優が岩井さんを演じるなど、岩井さんの好みの形なのだろうか。本広監督の演出にも興味があったが、特に本広さんらしさを感じ取れなかった。自分だけかもしれないが。

ネタバレBOX

カルチャーセンターでの七五調の台詞の抑揚に特徴ある演劇や、桐朋時代の「熱い芝居」は、同様のスタイルで現在も演じている劇団を知っているので、こうして客観的に解説されると思わずふきだしてしまったが、こういうスタイルがネタにされて笑いの対象になってしまうというのも複雑な気持ちになった。
前者は昔の新劇系がこんな感じだし、後者はアングラ劇団がいまでもやっている。現代口語演劇に慣れた若い観客は、新劇系の演技を「不自然な抑揚」とか「棒読み」と受け取るようで、CoRichでもそういう感想を読んだことがある。
平田さんの「どちらにも受け取れるような台詞の言い方をさせる」という演出法も興味深かった。これについては以前、CoRichで私に教えてくださったかたがいたので、一層「このことなのか」と理解しやすかった。感謝します。
もし現代口語演劇というジャンルがなかったら、岩井さんはいまも演劇をやっていただろうか。彼にとって平田オリザと出会ったことは幸運だったのだろう。
今回、岩井さんの芝居の一場面上演を見て、岩井演出に感じる自分の違和感のようなものも改めて認識できた。岩井さんの芝居は自分にとって「すわりが悪く」戸惑うことが多いのだ。
自分の場合、演劇に興味を持ったのは、小学校で同級生に演劇関係者の子女や学校非公認のサークルを作ってWSをやるほど熱心な子がいてよくエチュードをやらされたこと、中高も演劇が盛んだったなど「学校環境」の要素が大きかった。そしていまも周囲からいろいろ学ぶことが多い。有り難いと思っている。
国道五十八号戦線異状ナシ(再演)/国道五十八号戦線異状アリ(友寄総市浪短編集)

国道五十八号戦線異状ナシ(再演)/国道五十八号戦線異状アリ(友寄総市浪短編集)

国道五十八号戦線

サンモールスタジオ(東京都)

2010/12/08 (水) ~ 2010/12/13 (月)公演終了

満足度★★★★★

駆け抜けた若者たち-『異常ナシ』
解散公演ということもあるけれど、いろんな意味で思い出に残りそうな作品です。
国道五十八号戦線が本作でグランプリを獲った年のシアターグリーン学生芸術祭は全く観ていないのですが、今回観てこれならグランプリも納得の力作だと思いました。
劇団の解散を知ったのは友寄さんのブログの文章で、彼の胸の内を想像するに、読んでて苦しくなるほどでしたが。
活動期間はけっして長くなかったけれど、「記憶に残る」劇団となることでしょう。
大学の先輩にあたる谷賢一さんが演出し、自分の見知った他の劇団員さんたちも蔭でスタッフとして公演を支えていたようで、厚い友情を感じました。
最初で最後の観劇となりましたが、解散に立ち会えて本当によかった。
HPの劇団員たちの写真を見ても、みんな「面魂」という言葉がピッタリのいい表情をしている。
駆け抜けてきたカッコよさを感じる。
俳優たちは解散後も個々に活動を続けるのだろうから今後の活躍が楽しみだ。

ネタバレBOX

ここで描かれてる「オキナワ」はあの沖縄と思ってもいいし、架空の地だと思って観てもいい、と思った。
現実の沖縄が抱えている問題や日本の核保有、防衛問題も描かれ、社会的な視点もしっかりしているが、笑いもあり、臨場感があって飽きさせない。
オキナワ復帰闘争を闘って挫折を経験した住民のスージー(詩森ろば)が自ら述懐しながらセイテツ(山本卓卓)を説得する場面が特に印象に残った。
彼らの根城の小屋は復帰闘争時代にも使われ、ドアを開けたら、なぜか壁が迫っているが、セイテツはその向こうに何かあると信じて闘いたいと言う。私には70年安保の時代の活動家の若者を連想した。
しかし、ラストのアナーキーで突き抜けたノーテンキな明るさは21世紀の若者だ。そこに救いを感じた。
「何事もヴィジョンがないとダメなんだな」ということを痛感した芝居。現在の政治状況にも通じる。
女優としての詩森ろばを観るのは初めてなのでワクワクした。スージーはシャーマンの能力がある女性だが詩森は力むことなく驚くほど淡々と演じるので、役の人物に信頼感を抱いてしまう。しかし、炊飯器と米を使った妙チクリンな呪術で同じ劇団の浅倉洋介演じる外務省のガモウに米をぶつける場面、風琴工房ファンの私は思わず笑ってしまった。浅倉は翻弄されながら必死に抵抗するさまが面白い。ハマカワフミエが楽天的な南国の娘を好演。
こういう床にゴミがちらかってるような埃っぽい芝居は本来は苦手だが、脚本が面白いので気にならなかった。
観られなかった家族へのお土産と記念に初演のDVDを買って帰りました。自分で公演DVD買ったのは初めて。
記憶に残る舞台をアリガトウ、さらば国道五十八号戦線!
An act theater

An act theater

演劇集団 十人十彩

劇場MOMO(東京都)

2010/12/11 (土) ~ 2010/12/12 (日)公演終了

満足度★★★★★

切なくて可笑しい
珠玉の一幕劇3作。
鄭さん以外は初めて観る作家でした。
どれも魅力的な作品で、作品と俳優を慈しむような、主宰の西村長子さんの丁寧な演出が光り、若い俳優たちの伸び伸びした演技にも好感がもて、楽しいひとときでした。
劇団としても歴史が浅く、これから観客と共に育っていくことでしょう。
今回も公演期間が短かったのが残念でしたが(それでも土曜日夜の公演が追加されたようですが)、これから地道にじわじわとファンを増やしていってほしいと思います。

ネタバレBOX

小川未玲 作:『キニサクハナノナ』(フライヤーは「ハナノハ」となっていましたがミスプリ?公演情報欄表記に従いました)

クワシマという青年(佐野マコト)がソノヨ(久道ゆき)の傍でタマコ(横田裕美)という女性を待っている。ソノヨはあの世へ人間を送る番人のような存在だが、閻魔のように怖くなく、天使のようにみめうるわしい。タマコは90歳を過ぎた老女だが若く美しい姿でソノヨのところにやってくる。若き日お見合いをしたクワシマに断られた過去をもつ。クワシマが断った真相は召集令状が来たため。クワシマは戦地から生きて帰らなかった。見合いのとき、タマコに教えた卯の花をウツギの花と間違って教えたことを気にして詫びたいと思っているクワシマは戦地で書いた手紙を渡す。戦後、幸せな結婚をしたタマコだが自分を守ろうとしてくれたクワシマのことを大切に思い続けている。
再会もつかのま、クワシマはあの世へ行き、タマコはソノヨに「まだ早い」と言われ再び現世に帰って行く。

鄭義信 作:『空き地にて』

銭湯の帰り、若い男女、シンジ(いいづか康彦)とサトミ(石坂みゆき)が空き地で架空のマイホームを想定して部屋のレイアウトを考えていると、「ベッドを共にの会」会長を自称するササキ(佐野マコト)という男がやってきて話をかき回し、サトミと組んでシンジを「トイレ居候」と呼び、ないがしろにする。やがてサトミとササキは意気投合して別の空き地に去ってしまう。

品川浩幸 作:『三日月ビュー』

7年目に離婚による引越しを決めた夫婦。妻のリツコ(横田裕美)は夫(櫻井雄一郎)の「限定モデルおたく」ぶりが離婚の原因だと配送業者に話す。夫婦は互いに持ち物の分配を決めたが、口が達者な九官鳥(声・久道ゆき)の所有をめぐって言い争いになる。実は夫に子だねがなく、リツコは妊娠しているのだと夫は配送業者に言う。何か役に立ちたいと申し出る配送業者(いいづか康彦)に「夫婦にしかわからないことがある」と夫は断る。時間はもう戻ってこないと知りつつ、夫は窓から三日月を眺め、妻を恋しく思う。

タマコとリツコ、まったく違うタイプの女性を演じた横田裕美が印象に残る。
美しく澄んだ声の古風な戦前の女性と、勝気な現代の主婦を鮮やかに演じ分けた。演技が情感豊かで堂々として素質を感じさせる。
国道五十八号戦線異状ナシ(再演)/国道五十八号戦線異状アリ(友寄総市浪短編集)

国道五十八号戦線異状ナシ(再演)/国道五十八号戦線異状アリ(友寄総市浪短編集)

国道五十八号戦線

サンモールスタジオ(東京都)

2010/12/08 (水) ~ 2010/12/13 (月)公演終了

満足度★★★

『異状アリ』観劇
解散公演が初見です。前半2編はSFや不条理劇として面白いと思ったのですが、後半2編の“独白劇”は自分には面白さがよく理解できませんでした。
☆の数はトータルでの評価です。

ネタバレBOX

『さっき終わったはずの世界』

まず、熱愛カップルに、演技の熱量が高い浅倉洋介と田中美希恵を起用したのが凄い。かなり暑苦しい!(笑)。田中の怪演ぶりにアテられた。
女性が来るまで、テーブルでクマのぬいぐるみにあれこれポーズさせる浅倉が似合わなくてほほえましい(二の腕には国道五十八号戦線のタトゥーあり 笑)。

『テンパってる奴』

普通にピザを配達しに来ただけの店員の目前に異常な事態が。
「本当にテンパってる奴は誰?」
アブナイ人物というのが次々替わっていく可笑しさ。
最後にまたドッキリ。
佐野功の怪しい独特な雰囲気が不条理劇にはピッタリ。


『三鷹の女』

残業帰りで疲れきった男が満員電車でイチャつく男女を目撃し、怒りを募らせながら三鷹で降り、カップルのあとをつけて用水路まで来ると、こみあげてきた殺意が最高潮に達し・・・。
男の現実とも妄想とも断定的虚構ともつかない話が緩いしゃべりかたで語られる。
「・・・じゃないですか?・・・なわけですよ」という、まったくこちらが知らない状況に共感を求められる現代の若者口調が続くので、辟易して不快感が拭えなかった。


『三鷹の男』

看板女優ハマカワフミエが演じる「女」の独白。
結婚を決意した女だが、相手の男がナイーブな性格でマリッジ・ブルーになってしまったという。彼のために彼女がとった行動は・・・・。

ゴメンナサイ。
ハマカワさんはチャーミングな女優さんだが、私には話の内容が全然面白くなかったので苦痛でした。

後半2編は、この劇団をずっと観てきたファンには楽しめるのかもしれないが、終始部外者としての居心地の悪さのような感情がつきまとった。
およそ興味の持てない話を知らない他人から延々と聞かされる辛さと言おうか・・・。


マイルド・セブンティーンズ・スター

マイルド・セブンティーンズ・スター

椿組

ザ・ポケット(東京都)

2010/12/08 (水) ~ 2010/12/12 (日)公演終了

満足度★★★★★

脚本が面白い
椿組もチャリT企画も観たことがなかったけれど、こんなに楽しめる番外公演だとは。
観る前はPTA、教師、生徒をめぐる「喫煙・嫌煙」に絞った話かと思っていたのだが、学園コメディーとしてじゅうぶん楽しめ、コメディー専門の劇団かと錯覚するほど笑った、笑った。
多くの登場人物がストーリー上無理なく配置され、俳優たちの演技も自然で、本当に学校を覗き見しているような面白さがあった。

ネタバレBOX

舞台は、教師の喫煙、教師の暗室の鍵の管理などすべてが緩いまま来てしまった高校。いくら文化祭の練習とはいえ、廊下に面したフリースペースで生徒がリラックスして大声で歌い、ギターをかきならしても、とがめられないのも緩さを感じる。尾崎豊やおニャン子クラブの話題をめぐる先生と生徒の会話がなんとも懐かしい。おニャン子の高井ファンで「セーラー服を脱がさないで」の振り付けを指導する遠藤先生(木下藤次郎)の思い入れの強さが可笑しかった。
写真が趣味の中島を演じる根岸つかさは他の芝居で何度も観ているが、まったくわからなかったほど若く、女子高生そのものに見えた。
「暗室」での生徒の騒動などベタな笑いだがコメディーとして巧く作られている。石川先生(井上カオリ)と熱血教師の秋元先生(進藤学)の一挙手一投足に笑ってしまった。井上は「フツーの生活/宮崎編」でのコメディエンヌぶりに注目した女優。演技に説得力があるだけに笑わせてくる。
喫煙派の田中先生(田渕正博)がカッパにしか見えないピーターパン姿で自説に熱弁をふるう場面も笑えた。
用務員役の外波山文明が登場すると笑いと拍手が起こり、「暗室」で発見されたティッシュをちりとりで受ける「間」のよさが可笑しかった。
喫煙教師たちの言い分は喫煙派の本音だとは思う。だが、生来、気管支の弱い自分などは、嫌煙権なんて言葉もない時代、煙モウモウと立ち込める職場で、堂々と権利をむさぼる(?)喫煙者たちに長年耐えてきた体験があるので、健康に害があるかどうかという実証以前に、煙草の煙はとにかく辛いものだという意識が先に立つ(現在では慢性気管炎となり、匂いがしただけで咳が止まらなくなるのだ)。だから、喫煙教師が喘息持ちの生徒の前で咳にも気づかず無頓着に吸い続ける場面には、生徒にかつての自分を重ね合わせてしまった。
学校教育の場でいくら分煙しても、教師の喫煙が日常的に生徒の目に触れるのは、未成年の喫煙が禁じられていることも含め、やはり好ましいとは思えない。
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エムキチビート

シアターサンモール(東京都)

2010/12/08 (水) ~ 2010/12/12 (日)公演終了

満足度★★★★

「物語」としての強い磁力を感じた
この劇団の本公演は初めての観劇です。
広い舞台空間を見事に使いこなし、濃密な作品に仕上げていたと思います。
学生演劇でゲーム型の作品が目立つようになった時期から、正直、この手の芝居は数多く観て来て食傷気味の感があり、どちらかといえば自分の好みではなく苦手なジャンル。
ただ、本作には自分の好みとは関係なく、「物語」として観客を支配する強い磁力のようなものが働いていて、魅力的な力作であると認めざるをえません。
ターゲットとなる観客をはっきり意識して作っていると思うし、こういう芝居が大好きという人はかなりの数いるでしょうから、これからもファンを増やしていくことでしょう。
番外の「終末の天気」にも出てきたように、作者は「世紀末的世界の終わり」と自身が関わってきた演劇活動体験を関連させた作品がお好みのようで、
劇団新感線の芝居をより現代的にゲーム化したような印象。
観客に飽きられないよう今後どのように差別化していくかに注目したい。

ネタバレBOX

物語の構成がよくできていて、中に隠された真実に至る過程の仕掛けも見事。劇中「桜田門外の変」「西南戦争」「2・26事件」などが歴史の記憶として登場するが、この場面が緊張感をもって演出されていることに好感を持った。これはこの場面のナビゲーターとなる盗賊団の女首領モモを演じる杉山未央(少年社中)の演技力によるところも大きいと思う。
劇団ハコブネという命名も作品の主題に沿っているし、演劇少女を演じる
小石川祐子、瀬戸千夏もチャーミングだが、こういう劇団の会話場面が学生演劇的で、自分にはどうにも甘ったるく感じてしまい、苦手だ。
サイコセラピスト・アソウを演じる太田守信、彼の深みのある明瞭な台詞回しはこういう役にはうってつけで、作品を引き締めている。
ラスト近くの電車事故の場面は、JR福知山線の大事故をモデルにしていると思うが、あの事故現場に居合わせた人々の傷ましさを想起させ、秀逸だった。


Port B『完全逃避マニュアル 東京版』

Port B『完全逃避マニュアル 東京版』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

場所:山手線各駅周辺29カ所に設定した「避難所」(東京都)

2010/10/30 (土) ~ 2010/11/28 (日)公演終了

満足度

池袋、渋谷、巣鴨に行きましたが・・・
twitterなどでは盛んに意見交換され、リピーターもたくさんいて人気企画のようですが、CoRichにはなぜか書き込みがないんですね。意外です。
ファンの間では「秘密基地のような楽しさ」とも言われ、出会いによる会話を楽しまれてる人たちも多く、同じところに何度も行く人もいたようです。
自分が行ったときは、ほとんどひと気がなく、渋谷に至っては、「パスポートが必要」なはずなのに、無人で、何も提示せずに資料が受け取れる状態でした。徹底されていない。
池袋も古い空きビルの一室で休日でしたが冷え冷えとしてましたし。
感想は、3つ回ってあまり面白くなかったので、それ以上回りたいと思わなかった。人気地点は予約が満席で入れませんでしたし。家族は私よりも多く回っていたようです。
ワタリウム美術館が企画していた都市探検ツアーや岸井さんのポタライブのほうが、よほど演劇的ですぐれていて、参加して楽しかった。あれくらい中身が濃ければ、と思いますが。
高山さんもワタリウムの企画に参加され、よいところを取り入れてほしいと思います。

ネタバレBOX

巣鴨の市松人形博物館、入場料があれで1000円は正直高いと思いました。わが家にも同じくらい展示物と同じくらい古い市松人形があるものですから珍しくない(笑)。収穫は、館長さんが同年代で、メンテナンスの方法を伺ったり、「衣裳考証」について話が弾んだことくらいでしょうか。
The Lifemaker【WEBサイトにて舞台写真公開中!】

The Lifemaker【WEBサイトにて舞台写真公開中!】

DART’S

ギャラリーLE DECO(東京都)

2010/12/07 (火) ~ 2010/12/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

始まったら最後まで目が離せない
俳優さんたちの演技に釘付けという感じで、ル・デコの空間を生かした非常にぜいたくなお芝居。
みなさん言われるように、すわる位置によって違う楽しみがあると思います。
フライヤーなどで興味を持っているかたにはぜひ体験していただきたい。

ネタバレBOX

最初はわぁー楽しそうと思って観ていたら、やがて・・・という作品です。
ちょっと意味のわからないところもあったけど。
まだ公演中で、内容を詳しく書くと興をそぐので書けないのが残念。
俳優さんは全員すばらしいけれど、片桐はづきの終始冷静なゲーム進行係の存在感が特に印象に残りました。彼女がこの役を演じたから、いっそう面白かったと思えました。

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