園田喬しの観てきた!クチコミ一覧

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バサラオ

バサラオ

劇団☆新感線

明治座(東京都)

2024/08/12 (月) ~ 2024/09/26 (木)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★★

上演時間は休憩込みで3時間半強。たっぷり魅せて満足感高しの「新感線的王道」をひた走る公演だと感じました。新感線の魅力は、物語、演出、音楽、俳優、殺陣、外連味、熱量などの要素をひたすら合体させて創りあげる「巨大合体ロボ」的なものだと考えているのですが、今作はそれらがガッチリ噛み合う総合力の高さがうかがえました。「さすが新感線」と言いたいです。

ネタバレBOX

主演の生田斗真さんの存在感が一際輝いている。そして、あの熱演をほぼ毎日、多い日は2ステ、日々務めているのは本当にすごい。物語は、登場人物たちによる裏切りの連続が紡ぐ盛者必衰の物語と言え、流転する展開に引き込まれました。ハードロックも実に新感線らしく、劇団が目指す完成度は十分達成していると言えるでしょう。
三ノ輪の三姉妹

三ノ輪の三姉妹

かるがも団地

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2024/08/31 (土) ~ 2024/09/08 (日)公演終了

実演鑑賞

タイトル通り「三姉妹」のお話であり、三姉妹含む家族の物語。章立てしてあり、一人ずつ人物を描いていき、終章で全体をまとめあげる構成。家族の人物相関が描かれる群像劇で、ねじれた糸の塊が少しずつ紐解けていき、登場人物の内面や物語の全容が明らかになっていく。

ネタバレBOX

母親の病気をきっかけに、あまり反りが合わない三姉妹のコミュニケーションが徐々に復活していく。三姉妹の性格や思考は家族関係から影響を受けており、それぞれがそれぞれの「心の闇」や「寂しさ」を抱えている。不器用ながら実直に生きようとする三姉妹の心根は根本的に善人で、それらがじんわりと客席を包み込むような物語……と感じました。

ただ、演出面で個人的にあまり馴染めないシーンが多く、僕自身がうまく飲み込めなかったことが残念でした。
ガチゲキ!!復活前年祭

ガチゲキ!!復活前年祭

『ガチゲキ!!』実行委員会

アトリエ春風舎(東京都)

2024/08/08 (木) ~ 2024/08/18 (日)公演終了

実演鑑賞

三人の劇作家、三つの団体によるオムニバス企画公演。1回で3作分の短編(ダイジェスト版だったりアナザーストーリーだったり)が観劇できる上演と、1作ずつ観られる上演があり、観客それぞれがタイムスケジュールを組むことが可能。会場はアトリエ春風舎。三団体共通のテーマは「月9」。こういうテーマ設定はやや珍しいかも。

ネタバレBOX

三団体とも自分たちの特徴を活かした創作になっており、それらを見比べたり、初見の団体に触れられる機会を得ることが、この手の企画公演の良さ。個人的にはくによし組の『重い愛』が印象的でした。「出産後の母親が抱える鬱々とした感情や愛情が子どもの体重を重くしている」という設定のSF的な一作。母の愛情が深まるほど我が子の体重も増え、生後三ヶ月で40キロ以上に増量。夫婦や周囲の人々の心のすれ違いを不思議な情感で描いている。
邦子狂詩曲 クニコラプソディー

邦子狂詩曲 クニコラプソディー

東京芸術劇場/ヨウ+

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/08/09 (金) ~ 2024/08/12 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ダンス公演で意外と例が少ないのが「テキストを多用するダンス公演」で、今作はそれに類する一作だと感じました。物語性は勿論のこと、モノローグやダイアローグを用いつつシーンを展開するダンス。上演は2作品からなる連続上演(休憩アリ)で、前半と後半でアプローチが異なる点も興味深かったです。前半はテキストと身体表現の二重奏のような、後半はそこに更に音楽、映像、視覚的なアイディアなどを取り入れ、舞台表現の総合力を提示した、という印象。遊び心も感じられる、全体的に伝わりやすい公演だと思いました。

はやくぜんぶおわってしまえ

はやくぜんぶおわってしまえ

果てとチーク

アトリエ春風舎(東京都)

2024/08/01 (木) ~ 2024/08/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

昨年上演された作品が早くも再演、とのこと。僕は初見でした。タイトルから連想するのは「我慢を強いられていることへの耐え難き怒り」で、それを思うだけでも胸が痛い。

舞台は、私立の女子校(中高一貫校?)の教室。放課後を過ごす五人の生徒と一人の教師による会話劇。校内のイベント「ミス・ミスターコンテスト」が突如中止になり、その話題と、生徒たちの日常を綴りつつ物語は進んでいく。

ネタバレBOX

公演資料に「性的マイノリティに対する偏見・差別」や「性自認のゆらぎ」などが登場すると明言し、明確な目的意識を持った創作で、作り手たちの思い、願いが存分に込められた力作だと感じます。その上で「問題を可視化・認識してもらうために伝わりやすさを極力意識した」という点も深く納得して観劇しました。アフタートークで語られた内容も、的確な言語化によるトークセッションで理解しやすかったです。その上で、僕自身に必要なアップデートができているか? 問題をしっかり認識して心に刻めたか? など、様々な想いが頭の中で駆け巡りました。

物語終盤に、生徒たちの担任教師(学校のOG女性)が極めて不用意な発言をしてしまう。それを聞いた生徒を絶望の淵に追い込んでしまう発言を、担任教師は有益な助言のつもりで語る。この構造がとても恐ろしく、問題の当事者でない無自覚な大人は、こういう行為に陥りがちなことが何より恐ろしい。僕自身もこういう発言をしてしまう可能性は高く、自分ごととして観劇しました。
PLAY!!!!!〜夏の夜の夢〜

PLAY!!!!!〜夏の夜の夢〜

CHAiroiPLIN

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2024/08/02 (金) ~ 2024/08/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

原作はシェイクスピアの『夏の夜の夢』。余談ですが、昔は夏季になると『夏の夜の夢』上演が増えた印象があるのですが…、最近はそうでもないのかも。作品は「おどるシェイクスピア」シリーズ、ダンス公演にリクリエイション。群舞シーンも多く、華やかな見応えもありました。

ネタバレBOX

原作を大胆にアレンジし、団体のオリジナリティが多く注入された一作に感じました。良い意味で『夏の夜の夢』にとらわれ過ぎない姿勢に好感が持てます。原作がかなり有名であることも、この姿勢の一因になっているのかも。モチーフは人気ボードゲームの「人生ゲーム」。ルーレット、コマ、マスなどを活用し、夏の夜の夢の世界観をリクリエイションしています。登場人物の「人生」における浮き沈み・好不運などを意識した創作に見え、観客との共感性も高いと感じました。
或る街

或る街

はちみつ

王子小劇場(東京都)

2024/07/18 (木) ~ 2024/07/21 (日)公演終了

実演鑑賞

団体名が「はちみつ」。なかなか大胆な命名だと感じます。僕は初見の団体でした。バス停にて次のバスを待つ男。男をバス停まで道案内した女。バス停のベンチには持ち主不在のトランクバッグ。バスはなかなかやって来ない。しばらくすると、女の知り合いらしき別の女が、バス停付近でお茶会を開こうとする……。

ネタバレBOX

カテゴリ的には「不条理演劇」と言えるでしょう。別役さんや宮沢さんを連想させる筆。物語の起伏は少なく、比較的なだらかに進んでいく。後半は現実社会との接点をうっすらと感じさせるワードが散見し、とはいえ強く結びつけることなく、暗喩というか、観客の想像に委ねられる。不条理で、はっきりした掴み所が少なく、キャッチーな作風ではないものの、逆にこの作風を掲げる若い団体も少なく、大きな個性・武器になり得る。世の中の反応に媚びることなく、自分たちの「好きな演劇」を追い求める姿勢に好感が持てます。
野外劇『パレード』

野外劇『パレード』

公益財団法人武蔵野文化事業団 吉祥寺シアター

境南ふれあい広場公園(東京都)

2024/07/13 (土) ~ 2024/07/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

以前は「しあわせ学級崩壊」というカンパニーの主宰として作・演出を担っていた小西力矢さんによる公演。コンセプトは「広場×不条理演劇」。会場はJR武蔵境駅から徒歩1分の公園。僕が観劇目的でこの駅を降りたのは初かも。

ネタバレBOX

会場は外周に沿って白いベンチが一周しており、観客らしき人たちはそのベンチに座っていました。公園中央にはカラーコーンで仕切られたアクティングスペースが。小西さんが「もっと舞台に近づいて大丈夫です」とアナウンスすると、観客は中央に集まります。小雨が降ったり止んだりの天気のなか、17時に開演。コンセプト通り「広場×不条理演劇」で、台詞の意味は分かるが、設定はやや不条理。無料の野外劇で、通りすがりのファミリーなどが観ることを想定すると、不条理演劇のバランス加減が肝。不思議で不条理のお話を上手にまとめて観客に伝えていたと思う。演劇が街に溶け合うとき、演劇が良い意味で「場所に依存する」ことの価値を考えます。小さなお子さんが騒いだりすることなく真剣な眼差しで上演を見つめている姿が印象的でした。
心の声など聞こえるか

心の声など聞こえるか

範宙遊泳

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/07/06 (土) ~ 2024/07/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

タイトル『心の声など聞こえるか』の意味を、観劇後に何度も噛みしめる作品だと思います。隣同士の二組の夫婦。両家の交流はほぼないものの、ゴミ出しのルールに関してのみ、意見の食い違いがあった…。

ネタバレBOX

隣家のゴミ出しに納得のいかない妻は、ゴミ出しを監視し、ゴミ袋を拾って帰り中身を検証する。大きくルールを逸脱していないことを自認する隣家の妻は、それら苦言や監視に辟易していた。やがて、ゴミ出しの件でしっかり話し合おうと、ワインを手土産に夫婦揃って隣家を訪れるのだが……。

二組の夫婦を演じた4名の俳優たちがキャッチーな存在感を放っていて、非常に見易い印象を受けた。劇作である以上、ややトリッキーな内容もあるが、現代を象徴する等身大の夫婦として、共感しながら見る人が多かったと思う。物語の展開も最後まで予想できず、興味深く観劇できました。

劇中には「現実」パートと「妄想」パートがあり、それらが交錯しながら物語は進んでいく。妄想にも、理想を練り込む登場人物もいれば、悲劇や自虐を練り込む登場人物もいて、そういう差異も興味深い。タイトルの「心の声」が何を指しているか?は複数の解釈ができ、そういう点もよく出来ていると感じる。シンプルな本音かもしれないし、願望や渇望かもしれない。劇中であまり丁寧に説明していない点が、全編への良いアクセントになっているように感じられた。想像する余地が残っていることが嬉しい。

あと、ラストシーンは良い意味で予想外でした。
音埜淳の凄まじくボンヤリした人生

音埜淳の凄まじくボンヤリした人生

ほろびて/horobite

STスポット(神奈川県)

2024/06/21 (金) ~ 2024/06/30 (日)公演終了

実演鑑賞

初期作品のリクリエイション版。近年のほろびて作品とは少し印象が異なり、新鮮な気持ちになりました。STスポットの使い方として珍しい舞台セットで、俳優との距離も近く、全体的に良い緊張感のある上演でした。

ネタバレBOX

登場人物は4名。父、息子、父の弟(伯父)、義理の弟(義理の伯父)。母は、どうやら亡くなっているようだ。ちょっと変わり者の様子を見せる父だが、父と息子、二人の生活は落ち着いていた。時々父の物忘れが露見する程度。そこへ父の弟がやってきて、これから離婚をするためしばらく実家に住ませて欲しいと頼みこむーー。

物語は静かに流れるが、観客の頭の中にも、少しずつ「共有できるもの」と「共有できないもの」が降り積もっていく。体験として「共有する」ものが演劇だとしたら、極めて演劇的な実験作だと感じました。言語が通じたら、文化が同じなら、同じ風景を見られたら、共有できるかもしれない。けれど、その逆なら…という。
OVERWORK

OVERWORK

キュイ

スタジオ「HIKARI」(神奈川県)

2024/06/28 (金) ~ 2024/06/30 (日)公演終了

実演鑑賞

現代人における「労働」に関する連作短編集。連作は多角的に観劇する機会に繋がるため、テーマが明確な場合はより刺激的。

ネタバレBOX

印象的だったのは、「仕事内容より労働環境や対人関係にスポットが当てられている」という点。仕事は「賃金を得る手段」として割り切られ、そこに論点はなく、職場の人間関係に辟易し絶望する登場人物たち。労働含めた社会の構図に対して諦めきったドライな視点が現代の歪さを象徴する。ここから先の希望がほぼ見えない「世界」と、現代人はどう向き合えば良いのか…。良い意味で息の詰まる上演でした。
ナイロン100℃ 49th SESSION 「江戸時代の思い出」

ナイロン100℃ 49th SESSION 「江戸時代の思い出」

ナイロン100℃

本多劇場(東京都)

2024/06/22 (土) ~ 2024/07/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ナイロン100℃初の時代劇。劇作家として幅広い作品群を持つKERAさんなので、少し意外な気もするし、楽しみでもある。公演チラシのテイストから「ナンセンス強め」を想像しましたが、やはりナンセンス度合いは高く、時代劇×ナンセンスな笑いという珍しい一作。ナイロンらしいとも言える。

ネタバレBOX

「江戸時代の思い出」というと、明治時代を生きた人が過去を回想する…という設定が想像できるが、今作は、「江戸時代の侍が自身の思い出話をしようとして、途中を飛ばそうと時間を先送りしているうちに、なぜか令和の思い出話を語ってしまう」というトリッキーな設定。つまり、江戸と令和を行き来する展開になる。ただ、この時間往来がずっと続く訳ではなく、数々のナンセンスが全編至る所に散りばめられている。あの手この手で「ナンセンスな笑い」が繰り広げられ、その手数の豊富さは「さすがナイロン」と言いたい。この笑いも、力技よりも巧みの洗練さが感じられ、どこか上品にすら感じる。これらは劇団員をはじめとした出演俳優の洗練によるものかもしれない。ラストシーンは余韻の残る爽やかな印象で、やはり全体的に上品な一作に感じられた。
きく

きく

エンニュイ

アトリエ春風舎(東京都)

2024/06/18 (火) ~ 2024/06/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

昨年開催された『CoRich! 舞台芸術祭! 2023春』のグランプリ受賞作品。の再演です。受賞作バージョンも観劇しています。その時の会場は三鷹のSCOOL。今回はアトリエ春風舎。舞台美術もリニューアルし、空間の使い方も異なり、新しいシーンも挿入されるなど、再演として基本的な構造を踏襲しつつ装いも新たになった印象を受けました。

ネタバレBOX

「きく(聞く)」をテーマに様々な角度から提言・実演・検証するパフォーマンス的上演。アドリブに見えるシーンも多いが、かなり緻密に構成された台本のもと上演していると想像します。上演形式の新しさも感じますが、とはいえ、こういうスタイル自体も増えているし、今後も増えていくと予想。個人的にすごく印象的だったのが、黒板を使って物語の一部を説明しようとするシーン。予備校の授業のように展開され、内容をまとめ、ポイントを絞り、明確な答えを導き出す。これらのシーンが反面教師として挿入され(←僕にはそう見えた)、このシーンのおかげで、今回の上演に大きな意味が追加されたと感じます。互いに聞くこと、互いに理解すること、それが明確にまとめられ、端的な言葉で伝えられた時、その意味合いのなんと味気ないことか…。改めて、コミュニケーションの本質・正体とは? という問答が自分の脳内を駆け巡りました。
水彩画

水彩画

劇団普通

すみだパークギャラリーささや(東京都)

2024/06/17 (月) ~ 2024/06/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

会場は「すみだパークギャラリーささや」。隣のカフェは入ったことあるけれど、個人的にギャラリーは初。地続きの空間のため、カフェ同様もの静かで落ち着いた雰囲気があります。物語の設定も「洗練されたカフェ」でした。絵画の個展を見に行った帰りにカフェに寄った老夫婦とその娘夫婦。近くの席には4人と面識のない若いカップル。2つのテーブルの会話は基本的に交わることなく、それぞれ別の話題が進行する。とても静かな会話劇で全編茨城弁。この団体の特徴をしっかり反映した一作でした。

ネタバレBOX

まず何より、場所から受ける影響が作品の基盤となっています。カフェ公演と劇場公演の丁度中間のような空間になったのでは。観客は、この空間に馴染みながら、出演者6名の静かな会話に集中するのみ。「日常的な他愛のない会話から、時折見せる人間関係の機微」を感じとれる、この団体らしいテキストだと感じました。直接的な描写はほぼないものの、認知症や高齢者介護に関する物語でもあると想像。親世代、子世代、双方にスポットを当てた描き方も、石黒さんの筆の魅力だと感じました。
消しゴム山

消しゴム山

チェルフィッチュ

世田谷パブリックシアター(東京都)

2024/06/07 (金) ~ 2024/06/09 (日)公演終了

実演鑑賞

創作の根底にあるコンセプトや着眼点がかなり未来的かつ独自性が高い。公演資料には「人間とモノ、それらを取り巻く環境とがフラットな関係で存在する世界を生み出すことはできるだろうか」とある。僕は、ロボット社会とその未来、みたいなことを連想したが、おそらくそれも的確ではないように感じる(内包されているだろうけど)。人間と物品(人工物?)の新しい関係性の考察及び実証実験、みたいな感じかも?

ネタバレBOX

舞台上には大小様々な物品が並べられ、色合いもカラフル。ビジュアル的なポップさも感じました。インスタレーションに近い舞台美術と言えます。俳優が出てきて、それら物品と並行的に立ったり座ったり交わったりする。視覚的な意味での「ヒトとモノのフラットな関係」かもしれない。やがてモノローグが始まり、壊れた家電品に関する「ヒトとモノの関係性」が語られる。様々な角度から、創作における実験上演が積み重なり、「このシーンは何を表現している?」と想像する楽しみがあった。実験の要素が強いこともあり、難解と評される上演だと思うが、観劇体験としては刺激の多い上演。体験型とも言えるし、チェルフィッチュの既存作品と比較しても、意欲作であり新しい試みであると感じました。
破壊された女

破壊された女

お布団

サブテレニアン(東京都)

2024/05/23 (木) ~ 2024/06/02 (日)公演終了

実演鑑賞

俳優による一人芝居のWキャスト公演。出演俳優によって観客の印象が結構変わる作品では…と思います。残念ながら僕はA公演のみ観劇。初演は2019年で5年ぶりの再演、とのこと。

一人の「女」が、見聞きしたこと、体験したこと、自身のこと、頭の中に流れる感情、などを交えて語る、「現在の社会」と「破壊」について。空気感は徹底的にドライ、そして、虚無と絶望に溢れている。ブラックボックスのコンパクトな空間で、俳優一人、映像、照明というシンプルな構成。そこに圧縮されていたのは、今日の日本が抱える「停滞」だと感じた。

ネタバレBOX

まず、空気感がとても好きです。虚無、そして絶望。真面目に、全うに生きていたらこうなりますよ…という、社会に対する諦念。個人的見解も含むが、現代日本人として共感できる空気が場内にあった。このドライな視点、社会や作品の見つめ方が、いかにも演出家っぽいし、得地弘基さんらしいテキストだと思う。その上で、社会や現代に関する怒りの感情が、爆発するでもなく、他者に差し水されるでもなく、自分の中で暴発するでもなく、ひたすら自然鎮火に近い形で消えていく様が、とてもはかなく、複数の感情が心に浮かんだ。
ピテカントロプス・エレクトス

ピテカントロプス・エレクトス

劇団あはひ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/05/24 (金) ~ 2024/06/02 (日)公演終了

実演鑑賞

会場に入ると、アクティングエリアの中央に穴(奈落)が開いていて、その四方をカラーコーンで囲っている。客席はその穴から距離をとり四方に設置され、穴を取り囲むような状況に。ゴリラっぽい着ぐるみを着た人が場内にいるが、作品タイトルから演出の一部と想像。この穴がタイムホールのように時間を繋ぐ存在となっており、穴を通して前時代(と言っても何万年単位だけれど)の「祖先」と対話する。類人猿からヒトへの時間を辿りつつ、その進化の過程から「知的生命における、生物的、あるいは社会的進化とは?」を見つめ直す…ような作品に、僕には見えました。

ネタバレBOX

穴を中心に、時間軸が「層」になっているイメージ。舞台上(地表?)が現在として、その上下が未来/過去。時間軸や時代を超えた対話に、その時代ごとの価値観やギャップが反映されて興味深いのは、歴史ドキュメンタリーや歴史ものの創作物が証明しているところ。物語は終盤で急展開し、2024年現在の社会批判を色濃く見せます。そこが団体が力を入れて創作したポイントであることは理解でき、その内容の是非は観客個々人によって異なるでしょう。

ただ、視覚的な意味で、今作に惹かれたか? と問われたら、僕は首を横に振ります。音声ドラマでもある程度成立してしまう?と思えるほど、視覚的な意味は少なかったと思う。穴のアイディアなど、創意工夫していることは理解できますし、テキストは鋭いものが多かった。それだけに、視覚的な意味合いでも観客を魅了して欲しかった。音声ドラマ、あるいは朗読劇のように、視覚情報を限定してしまった方が、より想像力が働く内容だと感じました。
演劇作品集『ちがう形』

演劇作品集『ちがう形』

中野成樹+フランケンズ

新宿シアタートップス(東京都)

2024/05/22 (水) ~ 2024/05/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ナカフラ久々の劇場公演。特に東京公演は8年ぶりとか。新宿シアタートップスは舞台エリアがブラックボックスに近く、ナカフラ上演の多かった横浜のSTスポットを連想させます。初ナカフラがSTだった僕には、色々なことを思い出させてくれる公演でした。AプログラムとBプログラムの二本立て。若手日本人作家の戯曲、中野さん書き下ろし、ハムレット、誤意訳、等々、新旧ナカフラファンにとって嬉しいラインナップ。あらゆる意味で「ナカフラの現在地」を感じ取れる有意義な公演でした。

ネタバレBOX

ナカフラが複数回上演しているワイルダー戯曲や、20年かけて『ハムレット』を上演するプロジェクト『EP』シリーズなど、ナカフラらしい上演もありつつ、若い日本人作家の戯曲も積極的に手掛けている。出演者のキャリアにも幅があり、良い座組だと感じました。土日公演にはカンパニーメンバーのお子さんなども出演し、年齢幅は更に広がります。「いま日本で劇団公演を行うこと」の、モデルケースのひとつになりうると言えるでしょう。軽妙な現代口語と鋭い見立て演出、高品質な演技、絶妙の間、etc。ポップ&ハイセンスと評されるナカフラらしさ全開のプログラムでした。
Deep in the woods

Deep in the woods

終のすみか

調布市せんがわ劇場(東京都)

2024/05/24 (金) ~ 2024/05/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第13回せんがわ劇場演劇コンクールでオーディエンス賞を受賞した団体「終のすみか」の公演。僕自身は、劇場でしっかり公演を観るのは初。男女3名による60分の会話劇。劇中に流れる時間は大体1泊2日くらい。会話はほぼ途切れることなく、お互い距離感に気を遣い合いながら交わされる。静かで、けれど情報量多めの物語。

ネタバレBOX

幼稚園からの幼馴染みである男女3名。学校で同じクラスになったことは1度しかないが、大学卒業程度までそれなりに交流があった。そのうちの男性の一人が、祖父の別荘へ移住して一年が過ぎ、残り二人の男女が別荘へ遊びに行く。これまで定期的に交流を重ねてはいるが、決して親友と呼べる距離感ではない。一人は結婚し、一人は結婚したが離婚秒読み、もう一人は独身。うっすらと恋情の空気感も流れるーー。ドラマの隆起を連想させつつ、あまり沸騰し過ぎず、穏やかな時間と気遣いの心が交錯する。終点はどこだろう?と興味をもちながら観劇できた。自身の感情を明確に表現するのではなく、どこか配慮を伴いながら交わされる現代口語会話劇は見応えがありました。世の中が激動し、社会的な問題提起をしようにも目移りしてしまいそうになる現代において、自身の生活と自分自身を見つめようとする内省的な創作が、僕には好印象でした。
湯を沸かすほどの熱い愛

湯を沸かすほどの熱い愛

ナッポス・ユナイテッド

サンシャイン劇場(東京都)

2024/05/18 (土) ~ 2024/05/26 (日)公演終了

実演鑑賞

ステージ上でキャラメルボックスの岡内美喜子さんを観るのはいつ以来だろう…と考えていました。数年振りに観る岡内さんは以前と変わらぬ存在感で観客を魅了します。この物語は、主人公・幸野双葉の奮闘ぶりが見所のひとつであり、双葉役の岡内さんには相応の重責がかかる訳ですが、それを見事に全うしているように見えました。また、双葉の娘役・瀧野由美子さんも、物語の鍵となる重要な役柄をしっかり務めあげていました。

ネタバレBOX

ストーリーは原作映画に準じています。主人公・双葉が「二ヶ月」の余命宣告を受け、娘や夫との生活を立て直し、人生の心残りと向き合うべく奮闘する。自分のことは二の次で、大切な人たちの為に残りの時間を捧げる…。そんな双葉の「熱い愛」を、生の表現である演劇でどこまで放射できるか!? という挑戦だと感じました。

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