園田喬しの観てきた!クチコミ一覧

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海まで100年

海まで100年

スヌーヌー

象の鼻テラス(神奈川県)

2024/12/11 (水) ~ 2024/12/15 (日)公演終了

実演鑑賞

笠木泉さんのユニット「スヌーヌー」の新作公演。近年の笠木さんは演出家として作品に携わる機会も増え、スヌーヌーの活動にも一層注目が集まっています。会場が横浜の「象の鼻テラス」であることも注目ポイント。海の見える、劇場とは一風異なる開放的な空間で上演され、会場自体が作品世界の構築へ作用していました。

ネタバレBOX

三人の出演者たちが、それぞれ演じる登場人物たちの日常・近況をモノローグで語る。ある登場人物は独立的に、また、ある登場人物は同じ環境で、それぞれ物語は進行し、現代社会の不安定な日常や人々の心情を吐露する。モノローグが多いこともあり、台詞たちは詩的な響きを持ち、具象と抽象の混ざり具合が印象的だった。物語は、ある登場人物の生まれ故郷へ帰結し、作者である笠木さんのルーツとクロスオーバーする。スヌーヌー作品=笠木さんであることを再認識する観劇体験でした。
「避難」「七人の部長」

「避難」「七人の部長」

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

青年劇場スタジオ結(YUI) (東京都)

2024/12/11 (水) ~ 2024/12/15 (日)公演終了

実演鑑賞

リーディング形式の2本立て公演。どちらも高校演劇のコンクール参加作品で、60分以内の作品として創作されている。ステージ上の椅子に座り、台本を持ち、時に動いたり歩いたりするスタイル。

ネタバレBOX

どちらも「高校」を舞台設定にした物語で、登場人物たちも高校生。『避難』は、自主映画創作を通じて仲良くなった高校生女子二人が、ひょんなことからすれ違う心の機微を描く。『七人の部長』は、部活動の予算会議に出席した各部長七名が、部費の金額差をめぐって舌戦を繰り広げ、結果的に互いの部活動への関心を深めるコメディベースの作品。両作ともコンクールで高い評価を受け、現在も上演機会の多い作品とのこと。
病室

病室

劇団普通

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2024/12/06 (金) ~ 2024/12/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

劇団普通の代表作(と思う)『病室』の再演で、会場は前回上演と同じ三鷹市芸術文化センター。全編茨城弁で語られる会話劇は、全体的にとても静かで、登場人物たちの背景が少しずつ浮かび上がる。

ネタバレBOX

とある病室に4人の男性患者が入院している。病状、家族関係などはバラバラで、それぞれが悩みや葛藤などを抱え、静かに治療・療養している。会話は全編茨城弁で語られ、方言特有の語気の強さや心情の表出などが特徴的。

静かな設定とのギャップから生まれる笑いなどもあり、緊張をほぐしながら観劇できる。病気そのものを含む、各患者たちとその家族が織りなす、それぞれの人生模様に惹きつけられる。僕自身が茨城県出身ということもあり、興味の尽きない作品&劇団です。

数年前に再演を観た際は、感想として家父長制への嫌悪感を強く抱きましたが、今回の上演では、父親世代の悲哀も感じられ、より深い観劇体験となりました。
星降る教室

星降る教室

青☆組

アトリエ春風舎(東京都)

2024/12/07 (土) ~ 2024/12/15 (日)公演終了

実演鑑賞

吉田小夏が2016年に書き下ろしたラジオドラマ脚本を朗読劇に仕立て、劇団初の「クリスマス公演」として上演。これまで「青色文庫」として朗読劇の上演経験も豊富にあり、安心して没入できる朗読劇でした。青☆組らしい、人の温もりを感じる、冬の一夜にほっとできる公演と言えるでしょう。

ネタバレBOX

ラジオドラマ脚本を提供する際のレギュレーションが「宮沢賢治へのオマージュ」だったそうで、直接的な原作を持たないものの、作品世界のあちこちから宮沢賢治へのリスペクトを感じることができます。吉田小夏自身も幼少期から宮沢作品のファンだったそうです。起点がラジオドラマだったこともあり、俳優の発話や劇中の効果音など、音の響き、伝播を意識した創作に感じられました。アトリエ春風舎の小さな空間で、ステージと客席の間で共鳴するような上演だったと思います。
LifeとWork

LifeとWork

ぺぺぺの会

早稲田小劇場どらま館(東京都)

2024/11/27 (水) ~ 2024/12/02 (月)公演終了

実演鑑賞

「ぺぺぺの会」と「いいへんじ」という2団体による合同公演。1団体3名×2で、6名の俳優による一人芝居。ぺぺぺの会は普段から作・演出を担当する宮澤大和が3作を手掛け、いいへんじは3名それぞれが「作・演出・出演」を担う。結果、俳優それぞれの個性が反映されつつ、同時に団体の個性も反映された企画になったのでは(ただし6作全部観ていないため、想像も含みます)。6名の出演俳優のことを知る、俳優のことを好きになる契機になり得る公演だと感じました。

ネタバレBOX

観劇したのはAチームとCチーム。前述のとおり、一人芝居を「作・演出・出演」スタイルで創作したいいへんじと、「作・演出と出演」の二人三脚スタイルで創作したぺぺぺの会で、それぞれの団体の持つ個性が発揮されたと思う。このふたつのスタイルで創作過程や内容に変化が生まれるのは想像しやすい。LifeとWorkというテーマ、そして一人芝居というフォーマットなので、自身の日常と日々の内情を独白するような短編になるが、それぞれアプローチが異なり、その差異が作品の外郭になっていた。そして、LifeとWorkをどう解釈するか? も作品や出演俳優それぞれの根幹に関わってくるため、それらの捉え方も興味深かった。
たずね先

たずね先

ワワフラミンゴ

プーク人形劇場(東京都)

2024/11/28 (木) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ワワフラミンゴ×プーク人形劇場。この情報だけでかなり興味をそそられて、楽しみに劇場へ伺いました。プークは、入り口やロビー、劇場内の木製の椅子が醸す雰囲気など、個人的に好きな劇場。ワワフラの世界観とマッチする劇場だと思っています。上演自体も、劇場の機構を積極的に取り入れたりと、「ここで表現すること」を意識されたものに感じられました。

ネタバレBOX

台詞の不条理さや可笑しみなどはいつものワワフラらしさに溢れ、淡々としたやりとりなのに感情豊か。どことなく児童詩というか、絵本や詩の様相が多めに感じられました。もしかすると場所を意識されたのかも。また、照明のあてかたなど、風景の陰影にもこだわっているようにも。アトリエなど、劇場以外での上演機会の多い団体なので、「劇場版ワワフラ」の魅力が目立っていたと思います。
害悪

害悪

果てとチーク

座・高円寺1(東京都)

2024/11/22 (金) ~ 2024/11/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

戯曲は(おそらく)三度目の上演で、団体のキャリアから考えると上演機会多め。自信作なのだろうと想像するし、実際に、団体の特性や活動意義を反映させた力作だと感じます。同時に、より広い観客層に響き得るというか、適切な言葉ではないかもしれないが、ポップな作品、間口の広い作品に感じられました。集客状況も良く、あらゆる意味で、団体の今後の可能性を感じる公演でした。

ネタバレBOX

現在より人工知能が発達し、AIによる統治が可能になった架空の近未来。仮想空間で行われる「第三次世界大戦」が長期化し、人々は今も戦時下を暮らしている。日常生活に戦争の色合いはさほど濃くないものの、出兵、戦闘行為、戦死などの状況が、身近に忍び寄っていた。

登場人物たちは、それぞれの関係性で「戦争」と関わりを持ち、日々の生活を送りつつ、戦争の影響を少なからず受けていた。ただでさえ生きづらい世の中なのに、そこに戦争が加わることで、更に混沌や絶望に苛まれる登場人物たち。

戦争をテーマにしつつ、論点をそこだけに集約せず、様々な社会の縮図を取り入れた戯曲に感じられ、間口の広い作品だと思う。描かれる世界観も、使用される現代口語も、共に若い人へ届き得る共感性を有していて、そういう点も興味深かった。そして何より、若き作家が渾身の力を込める、加害性への自問や社会への鬱憤、どうしても拭えない絶望感など、作家の本気が伝わってくる一作でした。
ビッグ虚無

ビッグ虚無

コンプソンズ

駅前劇場(東京都)

2024/10/16 (水) ~ 2024/10/20 (日)公演終了

実演鑑賞

タイトルの『ビッグ虚無』が正に言い得て妙で、持て余すほどの巨大な虚無とどう向き合うか? つうか向き合えないからビッグ虚無じゃん!! という絶望の果てを描いているように感じられました。序盤は物語もあって、その筋が進んだり寄り道したりしつつ、徐々に世界が破綻していく。中盤から終盤にかけてずっと悪夢的な展開が続き、不条理であり、夢想的であり、その結末が幸福へ向かうはずもなく、崩壊的なラストを迎える。ただ、それが「つまらない」という感想ではなく、この世界観、この文体でしか描けない現代が必ずある。と思いました。

ネタバレBOX

舞台は、とあるハプニングバー。複数人の男女が集い、双方同意のもと性行為をする。登場人物たちの背景や人となりが徐々に見えてきた頃、先にプレイルームにいた男女が突如消えてしまう(SF的要因で消え去った?連れ去られた?)。消えた男性の妻は、唯一の手掛かりであるハプニングバーに就業し、男性の行方を探そうとする…。

作風の特徴は、ギャグなどの笑いのシーンがしっかり挿入されている点や、サブカル、ネットミーム、時事ネタ、社会問題などが取り込まれ、笑い、シリアス、両面で活かされている点、熱量でグイグイ押し進めるシーン展開、などでしょうか。90年代以降の小劇場(下北と言い換えても良いかも)シーンからの影響も感じ取れます。個人的には、堀靖明さんが出演していることもありMCRっぽさも感じました。
アンティゴネアノニマス‐サブスタンス/浄化する帝国

アンティゴネアノニマス‐サブスタンス/浄化する帝国

お布団

アトリエ春風舎(東京都)

2024/10/04 (金) ~ 2024/10/14 (月)公演終了

実演鑑賞

紀元前に書かれた戯曲、そして第二次大戦後にブレヒトが改作した戯曲、そして2016年にお布団の得地弘基によって書かれた戯曲と、長きに渡り紡がれ続ける『アンティゴネ』の物語ーーと言えるかもしれない。近年の演劇界では、こういう「時間軸を超えて複数作家によって描かれた一作」の上演も見かけられる。これもまた、演劇の魅力と言えるかも。

ギリシャ悲劇の『アンティゴネ』を基点に、20世紀、そして21世紀へと受け継がれた、暴力、そして戦争について。

ネタバレBOX

劇中に登場する、とある姉妹が受ける暴力と、その背景にある権力情勢、更に戦争など、直接的な描き方で「人が人へ与える暴力性」を描いている…と感じました。裏を返せば、その暴力から離れる為には?について想像する機会に繋がるかもしれません。劇の内容自体は残忍さが含まれたシーンもあるけれど、見え方は割とドライで、客観的とも言えます。ゲームや音楽など、現代的なモチーフを取り入れたシーンも多く、古代ギリシャから令和の日本まで、長い時間軸を繋げて融合する創作に見えました。
THE STUBBORNS

THE STUBBORNS

THE ROB CARLTON

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2024/10/04 (金) ~ 2024/10/14 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

京都を拠点に活動する団体で、僕は初見。ただ、噂は耳にしていて、一度観てみたいと長く思っていた団体さんでした。ボタンのかけ違いや勘違いで笑いが起こる、王道タイプのシチュエーションコメディ。理屈っぽい台詞の掛け合いはコメディ愛好者に好かれそうな作風で、これから東京でも注目を集めそう。僕は好きです。

ネタバレBOX

三人の登場人物は、それぞれ母国語以外の言語でコミュニケーションをとり、三名全員がその「言語」に精通している訳ではない。なので、時々「意味のすり合わせ」が必要となる。三名は(おそらく)大きなビジネスチャンスを抱えており、大事な会議の前哨戦として前日夜に集まった。この席で、日本語の同音異義語などを取り違え、勘違いが連鎖していく。

前半の「言葉の取り違いを中心とした笑い」はよく構成されており魅力的だったが、後半の回想シーンがやや強引な印象が残り、ちょっと勿体無い気も。ただ、後半をより盛り上げるには説明などが長く必要になり、すると余計に冗長になってしまうのかも。シチュエーションコメディを上手にまとめるのは難しい…と改めて感じた。でも、全体的に良作だと思います。
The Human Condition

The Human Condition

人間の条件

テルプシコール(TERPSICHORE)(東京都)

2024/09/25 (水) ~ 2024/09/30 (月)公演終了

実演鑑賞

公演概要などは作品ページを読んで頂けたらお分かりになると思いますが、2016年に起きた相模原障害者施設殺傷事件をモチーフにした作品です。非常に、非常に残忍な事件であり、報道されたニュースの記憶を辿ったり、(いま実際にWikipediaを読んだのですが)事件について調べたりするだけで心の落ち込みが尋常ではなく、観客にとって受けとめることが困難な一作と言えるでしょう。観劇だけでこのショックですから、創作サイドに立っていた公演関係者各位は、さぞ大きな負荷と対峙されたと想像します。そして、事件を「特異」なものとして取り扱うのではなく、「私たちの問題」として向き合うことを前提に、今作を創作し上演する意味は大きいと考えます。

ネタバレBOX

上演時間は約100分。前半は相模原障害者施設殺傷事件に基づいたシーン・物語が展開されます。事件を起こした男の思想、行動、等々。後半は台詞の量がグッと減り、最小限の台詞で構成される視覚的なシーンが続きます。この「実際の事件に基づいたシーン」と「障害者と健常者が登場する視覚的な抽象シーン(おそらく観客それぞれで捉え方が異なるはず)」という構成が特徴的でした。そして、今作の肝はこの後半シーンにあると考えます。ここで何を思い、何を感じるか? で作品の印象がガラリと変わるでしょう。

個人的には、劇中シーンで極めて限定的に描かれる「障害者の家族の視点」が、質・量共にやや不足している印象を受けました。ここが、私たちが最も不足している情報だと思うので。
三人吉三廓初買

三人吉三廓初買

木ノ下歌舞伎

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2024/09/15 (日) ~ 2024/09/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

良い意味で、キノカブ初見の方を含め、様々な観客を招こうとし、実際に招いている公演ではないかと感じました。休憩込みで5時間20分の三幕もの。食事や軽食の機会を設け、丁寧かつ内容充実の観劇パンフレットを配布し、幕見席チケットも用意。そして、目や耳の不自由な方へ向けた音声ガイドやポータブル字幕機の提供など、あらゆる点で観劇環境が整備され、「今日は1日プレイハウスで歌舞伎鑑賞に浸ろう」という気持ちになります。上演も、現代演劇や小劇場が好きな方も、歌舞伎が好きな方も、共に没入できる内容に仕上がっていたと思います。

ネタバレBOX

他のキノカブレパートリーと比べて際立っていたのは、台詞の響きや美しさを届けることに細心の注意が払われていたこと。細やかな抑揚や、原文のままか、現代語に翻訳するか、等々、シーンにおいて「台詞を届ける」ことにこだわりを感じました。和装や洋装の混合やラップ音楽の導入、シンプルながらスタイリッシュな舞台美術など、キノカブらしい見せ方も健在。歌舞伎がもつ魅力を間引くことなく残しつつ、極力現代人に届けやすくバランス調整する手腕も見事です。

三幕ものでありつつ、それぞれの幕に違った魅力があり、演出上も幕ごとの違いを意識しているように感じられました。幕見席チケットの意味はここにあると思います。「あの幕をもう一度観たい!」というニーズもあるでしょうし、それもまた歌舞伎鑑賞の楽しみのひとつと言えます。
リビングルームのメタモルフォーシス

リビングルームのメタモルフォーシス

Precog

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/09/20 (金) ~ 2024/09/29 (日)公演終了

実演鑑賞

今年6月に観劇した『消しゴム山』に通じるコンセプチュアルな一作に感じられました。ロジカルかつ未来志向的な演劇実験作。この「実験(実証)」要素が、観客である受け手によって評価の分かれるところだと思います。当日パンフレットやホームページなどに記載されたテキストを読み、創作プロセスなどをある程度頭に入れた上で「…なるほど」と理解の手掛かりを得られる。その難解さが存在することは事実でしょう。ただ、モチーフとして描かれる物語はロジカルに構成され合点のいくものだし、俳優が紡ぎ出すシーンからも大いに刺激を受ける。今作は音楽劇なので、もちろん音楽そのものや、劇中での存在の仕方も興味深い。結果的に演劇的なカタルシスというか、観劇後の満足感が観客の心身にしっかり残る。難解だけどある意味明瞭でもある、でも一人で読み解き理解するのはハードルが高い。だからこそ誰かと語り合いたい作品と言えるかもしれません。

もうひとつイメージしたのは、近年の岡田さんの創作への興味・関心が、これからの社会基盤にフィットする「新しい価値規範」の模索にあるのではないか?ということ。短期間で解答を導き出せる取り組みではないからこそ、岡田さんの作品には常に実験が組み込まれていると感じます。

来てけつかるべき新世界

来てけつかるべき新世界

ヨーロッパ企画

本多劇場(東京都)

2024/09/19 (木) ~ 2024/10/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

2016年初演で岸田國士戯曲賞受賞作品を8年ぶりに再演。ヨーロッパ企画は再演する演目を厳選している印象があるので、この再演も団体にとって意味あるものと推測できます。出演者に変更はあるものの、舞台セットや劇構造は初演を継承しており、良い意味で「メモリアルな演目を再び上演する」ツアー公演なのかも。客席の受け方は、さすがヨーロッパ企画という安定感がありました。

ネタバレBOX

舞台は大阪で、新喜劇×デジタルテクノロジー×ヨーロッパコメディ、という印象。とある串かつ屋さんを中心に、その近隣と串かつ屋を訪れる客たちによる群像コメディ。ドローンが出前をしたり、警備ロボットが活躍したり、下町文化とデジタルの融合による「新世界」をコメディとして描いている。笑いへのアプローチが、やはりヨーロッパ企画特有の手付きで、ファンは安心して観られるし、初見のお客さんにも親しみやすい世界観だと感じました。
バード・バーダー・バーデスト

バード・バーダー・バーデスト

南極ゴジラ

すみだパークシアター倉(東京都)

2024/09/19 (木) ~ 2024/09/23 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

素直に「いい狙いどころだなぁ」と感じました。生演奏ありの学園青春群像劇。けれど登場するのは肉食、草食など各種恐竜たち。学園ものなので、生徒たちの日常、冒険(修学旅行)、感情のすれ違い、未来、等々を描いていて、内容盛り沢山。全体を整えるバランス感覚もよく、演出家が各所へ目を光らせているのだろうなぁ、と想像しました。

ネタバレBOX

学園青春もので、音楽劇でもある。恐竜モチーフにしたことで、戯画的に表現されることが強みになっており、ちょっと強引なフィクションや描写もスッと飲み込むことができる。リアルを表現する非リアル。「演劇的な嘘の付き方」が上手いと感じました。登場人物たちがそれぞれ楽器を持ち、全員で生演奏するシーンが美しかったので、あのシーンをもう少し長く見たかったのが残念。(パッと切り替えて次のシーンに移ってしまう)。演劇としての魅力を多く含んだ上演で、全体的に好印象でした。
バサラオ

バサラオ

劇団☆新感線

明治座(東京都)

2024/08/12 (月) ~ 2024/09/26 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

上演時間は休憩込みで3時間半強。たっぷり魅せて満足感高しの「新感線的王道」をひた走る公演だと感じました。新感線の魅力は、物語、演出、音楽、俳優、殺陣、外連味、熱量などの要素をひたすら合体させて創りあげる「巨大合体ロボ」的なものだと考えているのですが、今作はそれらがガッチリ噛み合う総合力の高さがうかがえました。「さすが新感線」と言いたいです。

ネタバレBOX

主演の生田斗真さんの存在感が一際輝いている。そして、あの熱演をほぼ毎日、多い日は2ステ、日々務めているのは本当にすごい。物語は、登場人物たちによる裏切りの連続が紡ぐ盛者必衰の物語と言え、流転する展開に引き込まれました。ハードロックも実に新感線らしく、劇団が目指す完成度は十分達成していると言えるでしょう。
三ノ輪の三姉妹

三ノ輪の三姉妹

かるがも団地

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2024/08/31 (土) ~ 2024/09/08 (日)公演終了

実演鑑賞

タイトル通り「三姉妹」のお話であり、三姉妹含む家族の物語。章立てしてあり、一人ずつ人物を描いていき、終章で全体をまとめあげる構成。家族の人物相関が描かれる群像劇で、ねじれた糸の塊が少しずつ紐解けていき、登場人物の内面や物語の全容が明らかになっていく。

ネタバレBOX

母親の病気をきっかけに、あまり反りが合わない三姉妹のコミュニケーションが徐々に復活していく。三姉妹の性格や思考は家族関係から影響を受けており、それぞれがそれぞれの「心の闇」や「寂しさ」を抱えている。不器用ながら実直に生きようとする三姉妹の心根は根本的に善人で、それらがじんわりと客席を包み込むような物語……と感じました。

ただ、演出面で個人的にあまり馴染めないシーンが多く、僕自身がうまく飲み込めなかったことが残念でした。
ガチゲキ!!復活前年祭

ガチゲキ!!復活前年祭

『ガチゲキ!!』実行委員会

アトリエ春風舎(東京都)

2024/08/08 (木) ~ 2024/08/18 (日)公演終了

実演鑑賞

三人の劇作家、三つの団体によるオムニバス企画公演。1回で3作分の短編(ダイジェスト版だったりアナザーストーリーだったり)が観劇できる上演と、1作ずつ観られる上演があり、観客それぞれがタイムスケジュールを組むことが可能。会場はアトリエ春風舎。三団体共通のテーマは「月9」。こういうテーマ設定はやや珍しいかも。

ネタバレBOX

三団体とも自分たちの特徴を活かした創作になっており、それらを見比べたり、初見の団体に触れられる機会を得ることが、この手の企画公演の良さ。個人的にはくによし組の『重い愛』が印象的でした。「出産後の母親が抱える鬱々とした感情や愛情が子どもの体重を重くしている」という設定のSF的な一作。母の愛情が深まるほど我が子の体重も増え、生後三ヶ月で40キロ以上に増量。夫婦や周囲の人々の心のすれ違いを不思議な情感で描いている。
邦子狂詩曲 クニコラプソディー

邦子狂詩曲 クニコラプソディー

東京芸術劇場/ヨウ+

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/08/09 (金) ~ 2024/08/12 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ダンス公演で意外と例が少ないのが「テキストを多用するダンス公演」で、今作はそれに類する一作だと感じました。物語性は勿論のこと、モノローグやダイアローグを用いつつシーンを展開するダンス。上演は2作品からなる連続上演(休憩アリ)で、前半と後半でアプローチが異なる点も興味深かったです。前半はテキストと身体表現の二重奏のような、後半はそこに更に音楽、映像、視覚的なアイディアなどを取り入れ、舞台表現の総合力を提示した、という印象。遊び心も感じられる、全体的に伝わりやすい公演だと思いました。

はやくぜんぶおわってしまえ

はやくぜんぶおわってしまえ

果てとチーク

アトリエ春風舎(東京都)

2024/08/01 (木) ~ 2024/08/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

昨年上演された作品が早くも再演、とのこと。僕は初見でした。タイトルから連想するのは「我慢を強いられていることへの耐え難き怒り」で、それを思うだけでも胸が痛い。

舞台は、私立の女子校(中高一貫校?)の教室。放課後を過ごす五人の生徒と一人の教師による会話劇。校内のイベント「ミス・ミスターコンテスト」が突如中止になり、その話題と、生徒たちの日常を綴りつつ物語は進んでいく。

ネタバレBOX

公演資料に「性的マイノリティに対する偏見・差別」や「性自認のゆらぎ」などが登場すると明言し、明確な目的意識を持った創作で、作り手たちの思い、願いが存分に込められた力作だと感じます。その上で「問題を可視化・認識してもらうために伝わりやすさを極力意識した」という点も深く納得して観劇しました。アフタートークで語られた内容も、的確な言語化によるトークセッションで理解しやすかったです。その上で、僕自身に必要なアップデートができているか? 問題をしっかり認識して心に刻めたか? など、様々な想いが頭の中で駆け巡りました。

物語終盤に、生徒たちの担任教師(学校のOG女性)が極めて不用意な発言をしてしまう。それを聞いた生徒を絶望の淵に追い込んでしまう発言を、担任教師は有益な助言のつもりで語る。この構造がとても恐ろしく、問題の当事者でない無自覚な大人は、こういう行為に陥りがちなことが何より恐ろしい。僕自身もこういう発言をしてしまう可能性は高く、自分ごととして観劇しました。

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