1
逢いにいくの、雨だけど
iaku
異儀田夏葉さんと尾方宣久さんの、物語の中心にいる2人の俳優の凄さを感じさせる作品であったのと同時に、彼らの感情の変化などを、2人の間に入る人や過去に登場する人々を配することで見せていく戯曲と演出の素晴らしさも感じられる作品であった。
子どもの頃の事故と絵本が、離れてしまった2人を引き寄せる。
絵本作家になった金森と、彼女の幼なじみで片目を負傷してしまった大沢の、気持ちと葛藤と変化を、見事に見せてくれた。
声高になる球場職員の風見がいることで、2人の心の中にあるであろう感情を、より鮮やかに浮かび上がられる脚本が素晴らしい。
大沢が、事故を「許す」ということではなく、自分の中に「納得」という形でしまっていたということがよくわかるのだ。
「許す」「許さない」としてしまうことで、自分が生きてきた今までの生活を、否定してしまうことになってしまうからだろう。
「事故」と「絵」というダブルな「負い目」がある金森の感情も、「相手」があってのものなので、その微妙な揺れ動きが伝わってくる。
この金森を演じた異儀田夏葉さんが素晴らしい。大きく感情を表すわけではないのに、観客から距離のある舞台の上で、彼女の気持ちや感情の変化、葛藤などが見えてくるようだ。ちょっとした台詞のニュアンス、タイミング、視線等々でそれが伝わってくるのではないだろうか。
対する大沢役の尾方宣久さんも、淡々としていつつも、実は心の中での葛藤があることが、その台詞の端々からうかがえてくるのだ。この変化が自然であるし、より強く伝わってくる。
俳優さんたちの凄さを感じた舞台であったと言ってもいいだろう。
2
ただいま
劇団こふく劇場
私的で美しい舞台の中には、まるで身の回り数十メートルぐらいで起こる出来事・エピソードが淡々と語られる。そうした身近なところから、ふいにパースペクティブに「死」(死者)の姿が見え、重なる瞬間に起きる感覚は、「演劇にしかできないことだ」と強く思った。
舞台が始まったときに、「あざとい演出……」と一瞬でも思った自分を恥じた。
3
まほろばの景
烏丸ストロークロック
ずっしりと身体にのしかかるような作品。
舞台上には、垂れ下がる半透明の布。
チェロの生演奏がある。
被災地にいなかった者やいることができなかった者が持つ罪悪感。
当事者、当事者……。
自分の中で、どこか結びつく、震災と介護。
京都の団体が「東日本大震災」「被災地」と向き合う。
それは作品のテーマとも深く絡みながら、東京にいる私にも絡まってくる。
考えることは多く、答えは出ない。
しかし考えることをやめてはいけない。
主人公はリュックを背負っている。それはいつ下ろすことができるのか。
私たちも同じリュックを背負うべきなのだろうか。
母なる者を求める。
山岳信仰・神楽(舞)・山伏。
水が流れ出す。
4
グッド・バイ
地点
やっぱり地点は最高に面白い!
空間現代が演奏する音楽劇、というよりは「音楽ライブ」だった。
バーからグッドバイに帰結。
酒瓶片手に、酔っ払いの戯言か。
音楽に乗って賑やかだけど、どこか虚無感あり。
彼の身体にまとわりつく、死 死 死 グッド・バイ グッド・バイ グッド・バイ。
LPを久々に買ってしまった。
5
春母夏母秋母冬母
FUKAIPRODUCE羽衣
なんと愛おしくて、切なくて、哀しくて、残酷で、悲しい。
「母」という絶対的な愛を中心に、じんわりだったり、ズシンだったりが心に来た。
2人の唄にも感動。
セットも良いし。本当に素敵な作品。
作品が優しすぎて泣きそうになる。
前半、劇中の歌が終わって拍手したくなったのだが、すこしためらってしまった。
しかし劇場では拍手が起こった。同じ気持ちの人がいたというだけでうれしいし、観客も含めての一体感を感じた。優しい世界での一体感を。
6
疫病神
ピヨピヨレボリューション
コメフェスで初めて観たピヨピヨの本公演。やはり良かった!
これだけのサイズの劇場が一杯になるというのも凄いことだ。
可愛いからとちやほやされて、いつも人の輪の中心にした女性が、精神に変調を来し、友人さえも傷つけてしまう。
そんな自分が疫病神ではないかと思い始める。
精神科の医師とのカウンセリングで自分を見つめ直す。
そして彼女の中には疫病神がいたことに気がつく。
単に「疫病神」を追い払って終わり、ではない脚本が深い。
そんな物語を歌とダンスで見せるセンスの良さ。
演出も確かだし、歌もダンスも皆が上手い。
今までも歌とダンスで楽しく見せる演劇というのはあったとは思うが、内容がきちんとあって、歌やダンス、そして演劇のクオリティがここまで高い劇団はなかったように思う。
右手愛美さんが物語の中央に立つカッコ良さ。
東理紗さんの歌はいつもパンチがある。
7
そこまで言わんでモリエール
笑の内閣
時事ネタを突っ込んで笑わせる社会派(か?)的な劇団だと思っていた笑の内閣。「え? モリエール?」って思ったが、モリエールと彼の劇団を軸に、現代の演劇と劇団にいい感じに突っ込みを入れる。
しかし根底には演劇&劇団loveが詰まっていた。
そして終始笑った、笑った。
予定調和とならないメタな感じまで面白度高し!
(照れ隠しか? などとも思ってみたが)
見終わって、モリエールをほとんど知らないことを恥じるワタシであった。
で議員? 笑。
8
人造カノジョ~あるいは近未来のフランケンシュタイン~
劇団鋼鉄村松
毎回毎回、面白さ度を更新していく鋼鉄村松。
今回も確実に面白い。
グイグイ引き込まれた。幾重にも張り巡らされた台詞と仕掛け。
あの短編がこうなるのか! の驚き&スピーディな演出。
この作品は、高橋里帆さんを配したことで、すでに125%ぐらいの成功だったと思う。
ボスさんのノリノリの感じもよかったし、高橋役の鈴木拓也さんが物語をうまく支えていたし、町田役の氏家愛弥さんの感じも面白し。
それと、鋼鉄村松には珍しく(? 笑)何気に衣装に気を使っていた。ボスの上下の色合いとか。そのお陰で物語に入りやすい。
セットも非常に効果的。
こうやって普通の劇場で観る鋼鉄村松は、やっぱ格別なものがある。
9
母さん、たぶん俺ら、人間失格だわ
MICHInoX(旧・劇団 短距離男道ミサイル)
2011年4月、震災を受け誕生した劇団だという。
『人間失格』を見事にベースとし、おもしろうてやがてかなしき、懺悔・後悔・罪悪感・自己嫌悪、そして自戒からその先へ。
太宰の『人間失格』が内在する虚実と、本作のフィクション&ノンフィクションの呼応。「道化」が目の前にあった。
仙台で一番勢いがあるとも言われているし、この作品は、CoRich舞台芸術まつりで すでにグランプリを受賞している。
前説から笑わせながらそのまま本編に入るスタイル。
それは、彼ら自身の体験が作品内で語られているからだ。
その「体験」の内容はかなり重いものがあったりするし、家族からの生のメッセージもあったりもする。
「普通に仕事をして結婚して子どもをつくって……」という家族の切実な想いだったりする。
サイコロトークで『人間失格』を見せたりして、結構笑わせるところもあるのだが、それは『人間失格』で主人公が言う「道化」が目の前にあったのだ、とも言える。
笑いながら彼ら自身の内面に降りていくことになり、かなり辛い作業になっていくのがうかがえる。
先日観た、京都の劇団、烏丸ストロークロック『まほろばの景』でヒリヒリするような凄い姿を見せていた小濱昭博さんは、ここの役者である。『まほろばの景』は3.11を扱った作品。
その彼が白ブリーフ一丁で舞台にいるのには違和感があったのだが(え? 同じ人?)、作品が進むことでその姿は一致していく。
荒いところもあるが、ものすごい作品だ。
しかもとても真面目だ。
実は、演劇ウオッチャー・高野しのぶさんの一連のツイートから(ありがとうございます!)この公演に行くことを決めた。それらを読まなければノーチェックの劇団だった。仙台の劇団なので、今回見なければ次は相当先になってしまったと思う。
短距離男道ミサイル『母さん、たぶん俺ら、人間失格だわ』のラストはレナード・コーエンの名曲『ハレルヤ』で、先日のキュイ『きれいごと、なきごと、ねごと、』もラストは『ハレルヤ』(ヘンデル)。歌は違うがこれは偶然ではなく必然。赦しと讃えはセットだ。
10
731
パラドックス定数
タイトル通り「731部隊」を描いた作品。
パラドックス定数らしい、濃厚な会話劇。
シンプルなセットが効果的で、観客は会話に集中する。
終戦数年後、元幹部たちは焼け残った陸軍軍医学校に、誰から送られたかわからない届いた空封筒によって集まってくる。
彼らはもともと互いを監視するために定例で集まっていたのだ。
そこに日本を騒がせたある事件が起こる。
元副官役の関村俊介さんが、今までのパラドックス定数にはなかったキャラにより、重さや力だけではない感覚の、独特のリズムが出た。
どの役者も前のめりな感じで上手い。
野木萌葱さんの脚本は見事だ。
飄々とした姿にヒエラルキー。
微妙なイスの位置。
カーテンコールが「闇に消えていく731」だった。
シアター風姿花伝プロミシングカンパニー公演として来年までの1年間に7本の公演を行うキックオフの作品として、これからが期待できる内容だった。