1
パンドラの鐘
Bunkamura
古代の王国と太平洋戦争開戦前夜の長崎を行き来しながら描かれる物語は、クライマックスに至ってミズヲの記憶と彼の名前の意味をはじめとするたくさんのモチーフがそれぞれにつながり怒涛の勢いで感情を揺るがしていく。鐘に隠された秘密。太陽。水を求める人々。ヒメ女の決断。それを見守るミズヲ。
今回が初舞台だという成田凌さんから舞台女優の代名詞のような白石加代子さんまで、キャストがそれぞれ魅力的で個性的な登場人物たちが皆愛しく感じられた。
演出や美術も印象的だった。たとえば、随所に加えられた和のニュアンスが、無国籍な古代王国の印象をこの国に繋ぎ止めていた。
ラストで舞台の向こうの搬入口が開かれ、現在の渋谷が見えた。劇中で問われた何かが、現実の街に重なる。蜷川幸雄さんの演出を思った。
そういえば、この公演はNINAGAWA MEMORIALと銘打たれている。演出の杉原邦生さんが意図的に蜷川さんのテイストを取り入れたのだろう、と思うと胸が熱くなった。
2
花柄八景
Mrs.fictions
近未来の日本で、ネット上の電脳落語に押され人が語る落語が衰退していく中、諦念にも似た希望を語る師匠と奇妙な弟子たちとのおかしくも切ないやり取り。劇中に登場する近未来の古典落語(?)や弟子たちの強烈なキャラクターなど遊び心も満載。
観終わってじんわりと温かい物が胸に残る。魅力的なキャストを揃えて、初演以上に大切な作品となった気がした。
3
ルドルフとイッパイアッテナ
オペラシアターこんにゃく座
ワクワクハラハラしながらあっという間にラストまで観た。原作の魅力を生かして、寄り添うふたつの魂の交流を絵本のようなピュアなタッチで見せたこの作品は、団体の新しいレパートリーとして、たぶんこの先何年も上演され続けていくのだろう。
ダブルキャストの両チームを拝見したが、キャストによって本当に印象が異なるのも面白かった。
4
空蝉
あやめ十八番
『しだれ咲きサマーストーム』とよく似た冒頭で、同じ世界観(江戸風俗の続く現代)を背景に描かれるのは、この世と地獄をまたにかけ人情と欲とが入り混じる人間模様。馬鹿馬鹿しくも愛おしい物語に、生演奏や芸達者なキャストが揃って見応えあった。
5
【兵庫公演中止】パンとバラで退屈を飾って、わたしが明日も生きることを耐える。
趣向
初演の際の感想を読んで、観たいと思っていた作品。それぞれの抱える痛みや不安定さを丁寧に描き、観る者の胸に深く届ける音楽劇。
観に行った回では、キャストが姿を消しても拍手が鳴り止まず、予期していなかったのか、長い間拍手が続いてからのダブルコールとなった。
噛み締めるように客席を立ち、台本を買って劇場をあとにした。観ることができてよかった。来年も生きていきます。
6
コチラハコブネ、オウトウセヨ
ポップンマッシュルームチキン野郎
お久しぶりなのにいつものPMC野郎で、劇中劇的な短編の切れ味(バカバカしさも切なさも怖さも)に改めて感嘆したりもした。
メインのストーリーと各短編と、作品の上演に向けられた人々の思い。ラストシーンで彼が見せたやわらかな笑顔。劇中の物語と重なる追悼と祈り。静かに前に進もうとする意志が胸にしみた。
7
建築家とアッシリア皇帝
世田谷パブリックシアター
すごかった。解釈とかラベリングとかそういうのはもう後回しにして、ただあの膨大なセリフとくるくる変わる役割とを猛スピードで走り抜けるお二人に釘付けになってしまう。
観終わって、どこか突き抜けた明るさと乾いた孤独がひしひしと胸にしみた。
8
伯爵のおるすばん
Mrs.fictions
初演・再演から展開や台詞が(ほぼ)変わらなくても、配役が変わり目に見える姿が変わることで見る側が受け取る意味が変わってくる。
今回、各時代で伯爵に振られてしまうややコミカルな役どころを担っていた岡田さんが、ラストのエピソードでヒロイン コリスを演じる。だからこれは、伯爵の物語であると同時にコリスの物語でもあるのだ。
物語の流れは変わってないのに配役だけで(いや「だけ」ではないけれど)こんなに見え方が変わるのは不思議だった。それだけ戯曲のポテンシャルが高いということだろう。
再演を重ねるに足る強度を持つ作品だと改めて思った。
9
天の敵
イキウメ
物語の面白さや奇妙さに加えて、それを成立させる登場人物たちの説得力が見事だった。2時間を超える長尺ながら観る側の集中力も切れることなく、終わってしまうのが惜しい気持ちにさえなった。
10
黒塚~一ツ家の闇
流山児★事務所
古典をベースにした伝奇時代活劇という枠組に人の情と平和への希求を折り込んだ物語は、もろに自分のストライクゾーンど真ん中だったし、衣装も所作も殺陣もよくて、観ていて気持ちよかった。何より登場人物の造形が見事で、それぞれに愛着が湧いた。
過去の因縁により20年後にもたらされた悲劇は、ときに笑いを交えて始まりつつ、しだいに緊張感を増して、見応えのある殺陣を連ねてドラマティックな展開を迎える。
活劇というだけでない、親子の情や復讐による悲劇の連鎖、争いのもたらす哀しみが胸を打つ。最後の陰陽師の述懐と当日パンフレットに書かれた文章。劇中で描かれた、争いが生む庶民の不幸。そしていまも戦争が続く現実を思う。