1
上空に光る
やしゃご
上手く言えないけど、(ああ、人間がいるなぁ……)と思った。
正解なんかない。それぞれの抱えたものは抱えたままで、それでも生きていくしかないのだ、と。特定の状況を丁重に描きながら、その中に普遍的なものが息づいて、目の前の人々がみな愛しく感じられた。
2
iaku演劇作品集
iaku
『粛々と運針』と『梨の礫の梨』を拝見。
どちらも味わい深く面白かった。
特に『粛々と運針』は、題材・構成・演出・俳優等がとてもよく噛み合って、芝居というものの面白さってこういうことだよなぁ、と思わせられた。
3
毒づくも徒然
MCR
都合で『櫻井さん』しか拝見できなかったのだけれど、これが予想以上に刺さった。
冒頭ではただ奇妙なだけに思えた主人公の言動が、追い詰められていく過程をたどることで、やるせなく痛々しく感じられてくる。
後味のいい話ではないし、感動とか高揚とかそういう印象からは遠いのだけれど、なんていうか自分の心臓の柔らかいところに刺さったまま抜けない棘のような物語だった。
4
再生ミセスフィクションズ2
Mrs.fictions
再演短編集と言いつつ、新作や外部演出家の起用もあってバラエティに富んだ約95分。
明るい未来や幸せな人生とは無縁の人々ばかり登場するのになぜこんな幸せ気持ちになるんだろう。短い物語の一つひとつに「優しさ」と呼ぶには少し切実過ぎる何かが満ちて、惹きつけられた。
4本の短編それぞれにこめられたたくさんの笑いとせつなさが胸に残る。
5
serialnumberのserialnumber
serial number(風琴工房改め)
元は倉庫だったらしいギャラリースペースを約1ヶ月に渡ってジャックし、上演された3つの二人芝居。
新しいユニットのスタートであり、構成員となった田島さんの名刺代わりともいえる公演で、全作にご出演だけでなく開演前の案内役からモギリやその他周辺用務も含めてのご活躍であった。
対する佐野さん、酒巻さん、杉木さんの頼もしさや魅力、詩森さんの作・演出の確かさも再認識できたし、公演期間中に起きた災害に対して素早くチャリティ企画を織り込むなど、serial numberというユニットのスタンスを明確に示す公演となった。
6
ゲイシャパラソル
あやめ十八番
2016年に好評を博した『ゲイシャパラソル』を、ダブルキャストで再演。
初演に近い紅組、ガラリと趣きを異にした墨組、どちらもそれぞれに魅力的で見応えがあった。
初演との会場の違いなども生かしつつ、和風のようでどこか異国情緒をも感じさせる独特の世界観とダイナミックな空間の使い方なども楽しく拝見した。
どの場面も見惚れるほどに美しく、何度観ても見飽きることはないように思えた。
7
郷愁の丘ロマントピア
ホエイ
老人たちのやり取りと回想を通して描く夕張の近代史は、ユーモアとペーソスを含んで切なく愛おしい。
炭鉱での過酷な仕事や家族との思い出。過ぎ去った日々は湖の底だけれど、記念碑や町の名前が墓標のように残る。
丁寧な取材を感じさせる細やかなエピソードの数々と、それに血を通わせる作劇の確かさが、沈んでしまった町の風景を観客の胸に残した。
8
勧進帳
木ノ下歌舞伎
スタイリッシュで刺激的で本当に面白かった。
様式をハズしていく面白さと、ハズしたところから新たなスタイルを組み立てていく感じが心地よい。
道に見立てた細長い舞台。その上で対峙する2つの集団それぞれの想いが、スタイルを超えて浮かび上がった。
前にも観た作品なのだけれど、今回また改めて印象に残った。
9
イヌの仇討あるいは吉良の決断
オペラシアターこんにゃく座
井上ひさし氏らしい反骨心と批評性に満ちた忠臣蔵を、上村聡史氏の演出が骨太かつスタイリッシュに立ち上げた。
緊迫した状況にユーモアを交えつつ、前半で提示した疑問を後半で収束する展開に引き込まれて、3時間近い上演時間ながら長さを感じさせない作品となった。
冒頭では「板の上に座ると尻が痛くなる」と愚痴をこぼす老人として描かれていた上野介が、気迫に満ちた武士の顔を見せるラストシーンが圧巻であった。
10
「天守物語」〜夜叉ケ池編2018〜
椿組
野外でテントで当然冷房などなく、しかも補助席詰め詰めの大入り満員だったが、暑さよりも人々の熱気に巻き込まれてあっという間の約2時間。
母を亡くした少年を軸に、天守物語と夜叉ヶ池を重ねていく耽美で幻想的な時間。その美しさの中にユーモアと熱量を感じさせる演出が、野外の雰囲気によく似合った。
終わって夜風に吹かれながら駅へ向かうのも心地よかった。