「キムンウタリOKINAWA1945」「OKINAWA1972」【4月6日(木)19時の回の公演中止】
流山児★事務所
ザ・スズナリ(東京都)
2023/04/06 (木) ~ 2023/04/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
沖縄戦の地獄の中で、人間の良心が目を覚ますような、命の尊さをうたう物語的な見せ場のシーンになると、とたんに調教師(山下直哉)が現れて、「このあとどうなったかというと、二人とも爆弾で死にました」と、非情な現実で美談に水を指して、観客に物語に酔うことを許さない。「戦死ガチャ」なるサバイバルごっこをして、無作為のように次々殺し、これが戦場ですよとつきつける。ブラックな虚無とアイロニーを徹底させた芝居だった。戦争のヒューマニズムやヒロイズムを拒否し、不条理劇とも見紛うニヒルでシニカル、非常にとんがった作品である。
GYPSY
TBS/サンライズプロモーション東京
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2023/04/09 (日) ~ 2023/04/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
素直に楽しめるよい舞台でした。大竹しのぶ演じる、図々しくてバイタリティーあふれるステージママ・ローズ、ママへの愛憎半ばする娘たち(生田絵梨花、熊谷彩春)、ローズに惹かれてマネージャーとして支えるハービー(今井清隆)の芸能一家。日本で言えば、ドサ回りの大衆演劇の一家ということになろうか。脇役の子たちも最初は男の子4人、あとでは女の子4人が旅をともにする。アメリカ獣を旅するロードムービーでもある。
楽曲がメロディアスでわかりやすい。そして一曲一曲のテーマが鮮明でメリハリが付いている。ローズが平凡な生活には我慢できないと歌う「サム・ピープル」、出会った二人の似た者同士を歌う「不思議な出会い」、喧嘩しても心では結び合ってる「二人は離れない」、姉妹の母の呪縛からの解放を願う「ママが結婚したら」、ベテランストリッパーがステージの秘訣を歌う「大事なのはギミック」など。ただ「ウエスト・サイド物語」のようにマンボやストリートやラブソングと多様なわけではない。基本はバラードだけれど、変化が少ない分、安心して聞いてられる。
今井清隆のバリトンの魅力は聞き惚れた。生田絵梨花は、最後、シックなドレスに着替えると、見違えるように華やかでスターになったことが実感できる。そして、大女優の大竹しのぶはこの役にぴったし。一幕の終わり、全てを捧げてきた妹娘ジューンが駆け落ちし、他のみんながもう終わりだというのに、ひとり「まだ終わりじゃない。これが始まりよ」とうたう不屈ぶりが見事だった。
そしてラストの曲「ローズの出番」。この曲だけは、曲もソンドハイムが書いたと宮本亜門がプログラムで語っている。たしかに、この曲だけ超複雑。「太平洋序曲」のソンドハイムらしい、凝った楽曲で、異彩を放つ。姉娘のルイーズに邪険にされても、なお今度こそ自分の出番と歌うことで、3人3様の女のバイタリティー、生き様が最後まで貫かれる。
冒頭のルイーズとジューンの子供時代を演じた子役(チームブルー:酒井希愛、三浦あかり)もかわいかった。2時間50分(休憩20分込)
ミュージカル「マチルダ」【4月18日18時の回、19日公演中止】
ホリプロ/日本テレビ/博報堂DYメディアパートナーズ/WOWOW
東急シアターオーブ(東京都)
2023/03/22 (水) ~ 2023/05/06 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
原作を10数年前に読んだ。天才(?)少女が横暴な校長を懲らしめ、追い出す話。マチルダ役の子役が、予想以上の聞かせる歌、切れ味ある動きで感心した。マチルダは孤児のように記憶したが、そうではなく、本も読まず品性もない父母のもとに生まれたという設定。この父母の愚かさ加減が戯画的で救いがない。毒をはらんだダ-ルらしい。が、容赦なさすぎる描き方に、少々引いてしまう。
校長の恐怖支配がこのマチルダによる復讐をよぶことになる。ことばで怖さと暴力が強調するが、実際に校長がやったことは漫画的でしかない。女の子をハンマー投げの要領で上空遥かに投げ、それが落ちてくるが、落ちても女の子は(なぜか)無事。校長のケーキをつまみ食いした男性との罰も、ケーキを腹が破滅するほど食わせるというのは、怖さより滑稽味が先に立つ。「お仕置き部屋」に閉じ込めるのは舞台上では演じられないし、どちらかというと校長の空疎さが目立つ。
2幕の生徒たちのブランコ乗り、校長をやっつけた後の歓喜の爆発シーン、二つの場面の弾けたダンスとステージングがよかった。
「キムンウタリOKINAWA1945」「OKINAWA1972」【4月6日(木)19時の回の公演中止】
流山児★事務所
ザ・スズナリ(東京都)
2023/04/06 (木) ~ 2023/04/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
沖縄裏社会の抗争を、フィリピン男とのハーフの日島(五島三四郎)を軸に描く。並行して、佐藤栄作(塩野谷正幸)と若泉敬(里見和彦)の、密約をめぐる密会を描く。少々説明的なのが難点。二つの全く関係のない物語を並行してみせるのも、焦点を甘くした感がある。尻丸出しで、ペニスをちぎられる(!)拷問を受ける日島のマブダチ(工藤孝生)の体を張った演技には脱帽である。
戦前に沖縄にやくざはいなかった。戦後、米軍の物資を盗んで売買した「戦果アギャー」が沖縄やくざの始まりだという。直木賞を受賞した真藤順丈「宝島」は戦果アギャーから始まり、3人の主人公のうち一人がやくざだった。この舞台を見て「宝島」の背景も分かった。戦後沖縄の裏社会の抗争の歴史を、沖縄旋律のラップにして見せたのが、この芝居の見どころ。ただ、そうした「説明」が必要だったろうかという気もする。舞台を見るうえでは、三人の親分(ミンタミ=甲津拓平、スター=杉木隆幸、金城=龍昇)と一人の大親分(流山児祥)の関係さえわかればいいので。
きらめく星座
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2023/04/08 (土) ~ 2023/04/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
こまつ座公演のたびに見て、いままでに7,8回は見ているが、見るたびに発見がある。今回は宮沢賢治へのオマージュ。5場で「星めぐりの歌」から、竹田の「人間のための広告文案(賛歌)」は、星々の世界から人間を見ることができた賢治風(前回2020年公演と今回、竹田を演じる大鷹明良は、演出の栗山民也から「竹田は宮沢賢治だよね」と言われたと、パンフ「ザ・座」で語っている)。だが、それだけではない。1個の卵をめぐって、どうやって食べるかを語り合う場面は、卵かけご飯、卵焼き、日の丸焼き(目玉焼き)、それぞれの作り方、食べ方をオノマトペたっぷりに実演してみせる。ここなど、オノマトペの達人だった宮沢賢治を感じる。
後妻のふじ役の松岡依都美は明るい女神のように、この一家を照らしている。割れた卵をかたずけるときに、卵のついた手をなめるのは、貴重な食品への未練を示して、リアリティーを高めた。そのほか、それぞれの俳優が役に命を通わせて、間然するところなし。初参加の脱走兵・正一役の村井良大もすばらしい。「蜘蛛女のキス」は物足りなかったが、がぜん見直した。チャイナタンゴを歌い踊るシーンは、声もよく、若さの華が輝いた。
前半1時間35分、休憩15分、後半1時間半。大変長い芝居なのだが、全く長さを感じない。劇場のユートピアを堪能した。
グッドラック、ハリウッド
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2023/03/29 (水) ~ 2023/04/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ボビー(加藤健一)が最近の映画をけなし、社長やプロデューサーを「何もわかってない」とののしる理由はあいまいだ。だから、観客はそれぞれの映画観を投影してみることができる。最近の映画だっていいじゃないかという人は、やはりボビーは古いのね、で済ませられる。おかげで時代に縛られない開かれた芝居になっている。
最近のヒップな映画のシーンとして、若いデニス(関口アナン)がこんな例を言う。男女三人で入ったラブホテルで、ベッドが壊れて三人が跳ね上げられて、すごい音がつづく。それを隣の老夫婦が聞いて目を丸くする(ものすごい絡み合いを想像して)。僕は聞いてて、おかしかった。しかしボビーは「そんなの昔からあるドタバタギャグだ。愚かしいだけ。新しくも何もない」と歯牙にもかけない。こんなところに、ボビーのかたくなさが感じられる。
もしボビーが「今はSFXばかりで、偽物だ」とか。「昔は〇〇だった」とか、具体的なセリフが多くなれば、現代ハリウッド批判になってしまい、それに同意する人はいいが、同意しない人は反論がたまっていくだろう。ただ後半で「映画くらい愛と癒しがあっていいじゃないか。なぜ破壊と憎しみばかりなんだ」というのは、一つの映画の理想像として中心軸になった。(ただ今の映画も愛と癒しはあるのが多いと思うけど)
前半は知らない俳優、知らない映画の名前が多く出てくる。ボビーのポーカーフェースの強引ぶりばかりで、デニス役の関口アナンのうろたえぶりやリアクションも大げさに感じられて、のれなかった。たまに助手の加藤忍が出てくると、ほっとして心が和んだ。
たぶんこれ銀河鉄道の夜
ニッポン放送
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2023/03/17 (金) ~ 2023/04/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
新米美容師のナオ(久保田紗友)が、先輩にいじめられ、いつのまにか銀河鉄道に乗っていた。そこには先輩と、同じ美容院で働く高校以来の友達レナ(田村真佑=乃木坂46)もいっしょだった。しかも結構満席。
赤い制服の車掌がやってきて、停車場ごとに、ゲームで客をふるいにかけていく。他人を蹴落とそうとしたり、自分のことばかりすると、下界に落ちる。そして、節目節目ごとにナオたちの歌うコンサート。アイドルによるファンのためのエンタメ舞台だった。「オールナイトニッポン」55周年記念の、ニッポン放送政策の舞台というから、この軽~いツクリに納得した。客席は男性が7割というのもうなずけた。
美術は、ステージ中の箱の手前が開くと、なかは列車の客席である。周りの光景が流れていくことで、走行感を示す。三角柱が林立する銀河の映像は、ますむらさんの漫画と共通。舞台上の大道具も、下手から上手へと移動し、走っている感がよく出ている。
太平洋序曲
梅田芸術劇場
日生劇場(東京都)
2023/03/08 (水) ~ 2023/03/29 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
異色のブロードウエイミュージカル。第一に複雑で前衛的な音楽に驚いた。口ずさめるようなメロディーは(最後の「NEXT」以外)全くない。第二に、出てくるのは男ばかり(メインキャストの唯一の女優の朝海ひかるの役は将軍慶喜)、恋も愛もない。第三に、物語らしい物語もない。狂言回し(山本耕史)のナレーションでつなぐ、ペリー来航~明治天皇登場までの日本の幕末史のエピソード集である。
古き良き日本の暮し、ペリー来航、ジョン万次郎(ウェンツ瑛士)と浦賀奉行(海宝直人)の俳句(ポエム)連歌、浜辺の小屋内での秘密外交交渉を覗き見た人々の「木の上で見た」などなど。攘夷派と幕府の剣劇シーンは見ごたえある。音楽が複雑で、最初はなじめないが、簡単に割り切れない分、見終わっても何となくあとをひく感じ。ソンドハイムの音楽は、他も意外と複雑なようだ。「リトル・ナイト・ミュージック」は大竹しのぶでさえ苦労したと聞いた。恐るべし。
豊後訛り節
劇団1980
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2023/03/25 (土) ~ 2023/03/29 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
状況証拠しかない中、世論も警察も、犯人と決めてかかる。その怖さがどれだけ伝わるか。保険金殺人の犯人とされた男の、ふてぶてしい反論が目立つ。そこに、犯人扱いされた反発はあっても、恐怖はない。真実はわからない。警察のハニートラップまがいの、拷問交じりの取り調べは面白い。しかし警察と男のどこまでも平行線の真向対決ぶりは、怒鳴り声の一本調子でどうも乗れなかった。
歌うシャイロック
松竹
サンシャイン劇場(東京都)
2023/03/16 (木) ~ 2023/03/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
こてこての関西弁版「ベニスの商人」。少々騒々しいが、笑いが絶えず、喜怒哀楽が誇張されて面白い。アントーニオ(渡部豪太)がシャイロック(岸谷五朗)から借金した顛末、シャイロックの娘ジェシカ(中村ゆり)と、どもりのロレンゾー(和田正人)の駆け落ちの顛末、ポーシャの結婚の行方という3つの筋が、互いに絡みながら、重層的な芝居をつくりあげる。そのなかで、シャイロックとジェシカの父娘の絆がクローズアップされ、感動的なエンディングへつながっていく。
ロレンゾーの和田正人の弱気な青年から、傲慢で横柄な人物への変貌、さらに卑屈な使用人になり、ジェシカを追い出した自責の念に苦しむにいたるまでの幅の広い演技は特筆ものだった。マギーも七変化で大活躍。とくにモロッコ大公の繰り返しの「うほっほ」ぶりと、おにぎりがネズミの穴に落ちていく顛末を語る一人コントは笑わせられた。女中頭役の福井晶一の助走もなかなか良かった。
前半80分休憩20分後半115分 計3時間35分
挿話エピソオド~A Tropical Fantasy~
文学座
文学座アトリエ(東京都)
2023/03/14 (火) ~ 2023/03/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
日本軍の虐殺行為と加害についての「懺悔と贖罪」を、どこか牧歌的幻想的に描いた異色作である。南方のある島に派遣された12人の日本兵の、敗戦の日の出来事を描く。島民と仲良くなった小島上等兵(小石川桃子)らと違い、師団長(清水明彦)や参謀長(中村彰男)は島民を警戒している。みんな出払って一人兵舎(?)に残った師団長のもとに、自分が殺したはずの島民たち(横山祥二ほか)が現れる。亡霊たちに「赦してくれ」と泣いて詫びる師団長…
原爆や戦地での飢餓体験など、被害を描く作品は多いが、加害を語るものは少ない。こんな作品が埋もれているとは知らなかった。今まさに見る価値のある舞台である。島民と仲良くなった温和な兵士を女性が演じていた。ぎすぎすした感じがなく、柔和で、師団長に対しても男性同士の上下関係とは離れた、子供をあやすような態度を見せる。師団長のとがった心をほぐしていく過程が見もの。若い女性が演じることが思いがけない効果を生んでいた。
アウトカム~僕らがつかみ取ったもの~
劇団銅鑼
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2023/03/17 (金) ~ 2023/03/22 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
劇団銅鑼の一人一人を尊重する庶民的人生肯定リアリズムが見事に発揮された舞台だった。登場人物は22人。劇場受付でもらった人物関係図を見て、こんなに人物が多くて話が深まるのだろうかと危惧した。しかし全くの杞憂だった。運営でも民主主義を貫く劇団らしく、登場人物それぞれに物語があり、願いがあることが丁寧に描かれる。突出したスターはいないけれど、その分若手から超ベテランまでがのびのびとアンサンブルをつくる。出色の群像劇だった。最後は涙腺が緩んでしまった。銅鑼所属の劇作家の新作だそうだ。自分たちの持ち味をよく知る作家だからこそ書けたものだとおもう。
廃業した銭湯を使った起業講座に集まった7人は、元水商売、元タクシー運転手、あるいは講師の女性に会いたいだけとか、皆頼りない人たちばかり。志望者というより失業者の寄せ集めだ。しかし視野と懐の広い桐谷会長(谷田川さほ)のリードで、そういう彼らの可能性にかけていく。受講者と運営側のそれぞれの弱点と「願い」のぶつかり合いが化学変化を起こし、最後は思いもかけない「アウトカム(成果、波及効果)」をもたらす。
いわば大人の「がんばれ、ベアーズ」である。
見ながら「弱さの中に強さがある」ことを気づかせてくれた。「自分を弱いダメな奴と考えるのはやめて、自分は自分と生きていこう」というセリフに励まされる。
ジェーン・エア
梅田芸術劇場/東宝
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2023/03/11 (土) ~ 2023/04/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
松たか子主演の10数年前の舞台から、台本も演出もキャストも一新された新演出版。古典を踏まえた、じっくり見せて聞かせる大人のミュージカルだった。ジェーンは小柄で不美人(作者のシャーロットと同じ)という設定なので、今回のキャストの方がジェーン・エアにはあっている。。冒頭は舞台に墓がいくつもあり、すぐ父母が死んでジェーンは孤児に。意地悪な伯母さんにいびられ、厳格な寄宿学校に入れられる。ディケンズから「小公子」「小公女」までイギリス文学の定番ストーリーである。
ジェーン(子役)が教師に「私はうそつきじゃありません」と自己主張し、伯母に「あなたなんか愛してないわ、反吐が出る」と物おじせずに言うところがいい。これでジェーンの自立心の強い現代的性格が印象付けられる。心の友のヘレン(屋比久知奈)がチフスで死ぬ。ヘレンに「赦すのよ」と教えられたことが、愛と自立とともに、作品のテーマとして大きな意味を持つ。
黒ずくめと言ってもいい質素で陰気な服、キリスト教が生活を律する濃厚な宗教的雰囲気、舞台奥の荒れ地の中央に立つ二つに裂けた枯れ木(栃の木)など、寒々とした光景が印象的な美術である。18世紀イングランドの因習的な生活が伝わる。
ロチェスター家の家庭教師となってから、荒地でジェーン(上白石萌音)が初めてロチェスター(井上芳雄)と出会うところがいい。ロチェスターの皮肉たっぷりのセリフが小気味よく響き、それでも二人がひかれあう感じがうまかった。屋敷に響く笑い声の謎が、ジェーンの前に立ちはだかる有名な障害になるのだが、未見・未読の人のためにここには書かない。
もちろん音楽もよかった。「自由こそ」「赦し」そして「愛する勇気を」。
ミュージカル『ジキル&ハイド』
ホリプロ
東京国際フォーラム ホールC(東京都)
2023/03/11 (土) ~ 2023/03/28 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
何度も上演されている(つまり人気のある)作品だが、初めて見た。なるほど、休憩前の前半から、次々ヤマ場が現れて、「ここで幕にして休憩か」と思うと、そのまま続き、「ここで幕か」と思うと、また続く。ジキル(柿沢勇人)が実験室にこもる「時は来た」や、ついに薬を飲んでハイドに変身シーン、ハイドが娼婦ルーシー(真彩希帆)を襲うシーンと。最後に大司教(宮川浩)を、吊り下げられた樽や、石や、小麦袋(?)でいたぶり、ステッキで刺し殺すところで、本当に幕。見せ場の多いスペクタクルな芝居で、理屈抜きに楽しめた。
音楽もバラエティーがあるし、各人の心情を聞かせるソロが多く、聞かせどころがたっぷりある。群衆のダンスシーンも多い。美術、衣装も豪華。
スチーブンソンの原作からはかなり話を変えている。最初に病院の理事会でジキルの実験申請を、理事たちが寄ってたかってつぶすところから異なる。婚約者のエンマ(Dream Ami)とルーシーという、ジキルをめぐる対照的な二人の女性もミュージカル版の新しいキャラクター。善と悪、人間の多重性、科学者のおごりに加え、愛と友情、復讐と報いなど、テーマもいっそう多面的になっている。
バリモア
無名塾
THEATRE1010(東京都)
2023/03/16 (木) ~ 2023/03/23 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
どこまでが台本のバリモアで、どこからが素の仲代なのか。老いを笑いのネタに客いじりも楽しむ姿に、90歳の名優の融通無碍の境地を見た。愛嬌が抜群にある。セリフ覚えには苦労したというが、セリフも妙に変な間ができて、つかえたのか、と思うと、何事もなく次のセリフが出てくる。そこもハラハラさせられた。
四兄弟
パラドックス定数
シアター風姿花伝(東京都)
2023/03/17 (金) ~ 2023/03/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
四兄弟による政治寓意劇。インテリの長男(小野ゆたか)は平等を目ざした理想主義、体育会系で短気な次男(西原誠吾)は武力を使った恐怖政治と戦争政策、機械職人の三男(井内勇希)は平和主義と人気取り政治、農民の四男(植村宏司)は経済成長第一と対外追随…のように見える。芝居はすべてごっこ遊びだ。そこにどれだけ観客を引き込む、身につまさせるリアリティーをもたせるか。今回は百年以上の歴史を、四兄弟の指導権交代劇に圧縮したので、リアリティーは二の次と言える。
でも、三男の@春だもんブラザーズ(春ブラ)のエンタメごっこは、客席の笑いが大きく、楽しんでいた。失脚した次男、四男が押入れ(?)に監禁(引きこもる)ユーモアも笑えた。兄たちが銅像になったり、人間に戻ったりを演じ分けるのも、舞台に変化ができてよかった。
三月大歌舞伎
松竹
歌舞伎座(東京都)
2023/03/03 (金) ~ 2023/03/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
午前の部「花の御所始末」を拝見。一幕ではまず足利義嗣(坂東亀蔵)の母の愛を得られない悲しみを語る場面が切ない。場面変わっての、母・兼子(高麗蔵)の、反抗的な息子を愛せない罪悪感の告白と対を成して、この母子関係に、親子の難しさを感じた。
二幕からは、父・義満と兄・義嗣を次次殺していく足利義教(松本幸四郎)の悪人ぶりがはじける。セリフ回しがうまい。休憩を挟んでの第三幕では、臣下の畠山満家(中村芝翫)が義教の黒幕的存在から、一気に失脚し、身も世もなく将軍に縋り付く姿が哀れ。義教が「良心とは何か。(略)それは弱い心だ。そんなものは持っていない」と、満家を無残に切り殺す。非情ぶりが極まれる。
歌舞伎は見ても、なかなかよさがわからないことが多い(現代劇と違い)。この芝居は昭和に書かれた新作で、セリフもわかりやすいし(もちろん歌舞伎調だが)、登場人物の心理も(義嗣・兼子の母子のように)現代に近い。野望の実現から転落まで、端的なセリフにしぼり、正味2時間でスピーディーに見せる。大変楽しめた。
聖なる怪物
MIXZONE
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2023/03/10 (金) ~ 2023/03/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
神父と死刑囚、神父と老女、神父とある母親(石田ひかり)…というように、人を替えながら常に神父の1対1の対話が続く。禁欲的というか愚直というか、かなりシンプルな作劇術である。中心は神父と死刑囚の対話である。最初は「俺は神だ」という死刑囚の話を信じられないが、彼の予言が次々に実現し、果ては教会にも現われる(ここのダイナミックなセットくずしは驚いた)。そして、神父の偽善を抉り出し、さらには……。後半になるほど面白みが増した。
いつのまにか舞台美術の左右には、裁判の女神の天秤が大きく吊り下げられている。あえて主題を言えば、人が人を裁く(死刑にする)ことの不条理だろうか。宗教と信仰が主題という考えは当たっていない。宗教について思索を深めるようなところはなかった。とはいえ、前半は死刑囚の言葉が裏付けられていく意外さ、中盤は偽善と悪をめぐる死刑囚の神父に対する追及、最後は伏線が回収されていく展開の面白さと、それぞれ異なる面白さだった。最後、物語の面白さを優先したために、主題に収斂していかないところがある。
ミナト町純情オセロ〜月がとっても慕情篇〜
劇団☆新感線
東京建物 Brillia HALL(東京都)
2023/03/10 (金) ~ 2023/03/28 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
あまりに戯画化されたコミック調の演技・演出で、悲劇らしくない。キャバレーやホテルの宴会シーンでは、歌と踊りもしっかり聞かせるエンターテインメントになっている。これで本当にデズデモーナ(モナ、松井玲奈)を殺して、オセロ(オセロ、三宅健)も死ぬのだろうかと、変な興味で最後まで見てしまった。「オセロ」も細かいところは忘れていたのだが、後で確認すると、配役、物語はほぼ原作に沿っている。市会議員三ノ宮(粟根まこと)はロダリーゴ、ハンカチならぬ岩塩(!)をアイ子(高田聖子、イアーゴ)に渡す女はエミリア、汐見(寺西拓人、キャシオー)の愛人はビアンカなど。
イアーゴを、組の死んだ親分の妻(高田聖子)と、年配の女性に変えたのが斬新。高田聖子の極道の妻らしい、啖呵とすごみがよかった。シェイクスピアのゴテゴテしたセリフはかなりすっきり整理されていた。その分、名言、名文句も少なくなっていた気がする。
翻案で新たに、デマの怖さが強調された。オセロの悲劇も嫉妬による、というだけでなく、デマで狂わされたものだし、オセロ(日系ブラジル人の設定)のブラジルの父も、「勝ち組・負け組」のデマによる対立で殺された。またアイ子の父も、関東大震災の朝鮮人虐殺(井戸に毒を入れるなどのデマによる)の犠牲になった。オセロは、そんな父を持つから、「組長になっても、横暴にはならず、下々の声のわかるはずだ」というのは、きらりと光るところだった。(たしかアイ子のセリフ)
3時間40分(休憩20分込み)と、上演時間は結構長い。
蜘蛛巣城
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2023/02/25 (土) ~ 2023/03/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
シェイクスピアと黒澤明という二大ビッグネームをふまえつつ、現代の舞台化に当たってどう新味を出すか。この舞台への関心と評価はその一点にかかるだろう。結論として言えば、見事な再創造だった。忠君・小田倉(長塚圭史)一家の悲劇をマクベス夫人とつなげる新たな副筋をもうけ、雑兵・百姓に重要な役割を負わせて武将の戦いを相対化する。
小田倉の妻・若菜(新井郁)が、マクベス夫人・浅茅(倉科カナ)の妹にした。したがって小田倉一家の不幸が、マクベス夫人へ罪の報いとして降りかかる場面は重層的で、哀れさが増した。これを見ると、「マクベス」ではマクベス夫人は自滅するだけで、少々肉付けが弱い気がしてくる。
雑兵・百姓に戦のむなしさを語らせたのは、ウクライナ侵略のいまに響いた。それはただの言葉だけでなく、鷲津武時の最後とも絡むことで、作品の奥底の主題として強く打ち出されていた。それとは別に、次々の暗殺によって、場内が疑心暗鬼になるさまを見ながら、スターリンの粛清政治を思い浮かべた。「マクベス」「蜘蛛の巣場」を見て今まで思い浮かばなかったが、初めてだ。これもロシアの侵略の情勢の影響と、この舞台のシンプルで力強いメッセージのせいだろう。
俳優でいえば倉科カナが印象的だった。かわいい顔をしていても女は怖い。怖いけれど、狂っても美しく魅力的。どこまでも男を狂わせる存在である。
優れた舞台機構を生かし、かなり頻繁なセット転換が迅速。英語でも日本語でもない人声が響く不気味で迫力のある背景音も効果的だった。大劇場ならではの贅沢な舞台だった。私が教えて、1週間前にチケットを買った女性の観劇友も「面白かった。見逃さなくてよかった!」と大満足だった。
2時間20分休憩なし