実演鑑賞
満足度★★★★★
最初、主役の二人は現れない。近所のおばさん2人(頼経明子、金沢映実)が延々、女主人公の不幸な過去と、彼女の夫との愛のない生活を噂する。他にもこの南部の田舎町の住民が次々現れ、誰が誰やらと思ううち、主人公レイディ(名越志保)が帰ってくる。流れ者の色男ヴァル(小谷俊輔)が店で働き始め、最初はヴァルに邪険にしていたレイディの隠された思いが明らかになってゆく……のが本筋。
ところが、最後はまたも街の人々によって、とんでもない結末になる。全く救いのない芝居。愛も夢も希望も、南部の因習的な差別と非情な暴力の前についえ去っていく。そのやりきれなさを描いた。冒頭と最後が主人公たちでも副主人公でさえなく、わき役たちによって(幕開きは女の、幕引きは男の、という違いはある)占められているのは、この芝居の芯の主人公が、誰なのかを雄弁に語っている。
レイディの期待と怖れ、たくましさと弱さ、臆病と行動という複雑な姿を名越志保が堂々と演じていた。本当の思いを普段は見せないのが切ない。秘めるほどにそれだけ思いのリアリティーが高まる。押し殺すような低い声と澄んだ高い声とを使い分けるセリフ術がよかった。小谷俊輔も、地に足のつかない青二才のヴァル(30歳と繰り返し言うが、本当だろうか)を好演した。
3幕もの(3時間=休憩2回各10分含む)