メモリアル
文学座
文学座アトリエ(東京都)
2019/12/03 (火) ~ 2019/12/15 (日)公演終了
満足度★★★
ここまでの前衛劇は見慣れないせいか、まったくよくわからなかった。たまたま同じ回を見た知り合いは「面白い」と言っていたが。
アメリカの花嫁、疑似家族、皇居、ミチコ、創価学会等々、断片的な言葉は分るが、それがどうつながるのか。
物語という安心できる流れに身を任せることを徹底的に拒んだ戯曲。断片的な言葉とは、現実そのものともいえる。現実に近い不快感に身をさらさせるということだろう。そこから意味をくみ取り、脈絡をつくるのは観客個々の仕事。つまり、主体的に考えなければならず、非常に疲れた。
風の谷のナウシカ
松竹
新橋演舞場(東京都)
2019/12/06 (金) ~ 2019/12/25 (水)公演終了
満足度★★★★★
新作歌舞伎「ナウシカ」昼の部、面白かった。三幕のうち、第一幕でアニメの最後までやっちゃって驚いた。
第二幕は、松也と右近の大量の水を使った大立ち回り。先日見たスーパー歌舞伎2「オグリ」の血の池よりすごい。
第三幕は主役菊之助のけがでナウシカの立ち回りや宙乗りはすべてカット。ここは盛り上がらなくなって残念だった。
でもよかった。セットも衣装もアニメの場面のように贅沢に作り込んで、すごい金かけてる。
ドルク帝国の兵士は帷子風の鎧とか、トルメキア軍の衣装も着物のようとか、和風にアレンジしした衣裳も歌舞伎と合っていた。
見栄や様式的な歌舞、立ち回りなど、ナウシカと歌舞伎が意外と相性が良いのが驚き。めったに見られない特別な体験だった。
ドルク帝国の皇弟ミラルパ役の巳之助が「筋書」本で、「ミラルパ役は『車引』の時平のような大敵の作りです」と語っている。「時平」を知らないが、根っからの悪役ということはわかる。このミラルパだけでなく、「ナウシカ」の登場人物とあてはまる歌舞伎の役が、それぞれ役作りに生かされている。
尾上右近のアスベル役が意外な拾いものであった。
椿姫
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2019/11/28 (木) ~ 2019/12/07 (土)公演終了
満足度★★★★
基本的には素晴らしかった。ヨーロッパ人のテノール、ソプラノに伍して、日本人のバリトンが非常に良かった。拍手も彼が一番多かった。
1幕の「乾杯の歌」と「愛のテーマ」の、恋の始まりの明るさ。2幕の、男の父親が現れて、ヴィオレッタと互の悩みを語り合うみ重賞のドラマが何より見事。恋の葛藤と、愛ある別れの切なさ。最後の三幕の許しと死の悲しみと平穏。男女の愛の誕生から死までの春夏秋冬、全ての感情が盛り込まれ、音楽になっている。
ミー・アット・ザ・ズー
悪い芝居
シアタートラム(東京都)
2019/12/04 (水) ~ 2019/12/08 (日)公演終了
満足度★★★
動物園をひとつの足場にして、人とうまく付き合えない不器用な妹と、妹を笑かしてやりたい芸人志望の兄の兄妹愛の物語。…だということが、見終わってわかる。
まずは兄の3年の刑を終えた出所から始まる。ついで、兄が犯した罪=嵐の夜の動物園でヒゲの男への暴行のシーンが象徴的に現れ、そして、あれはなんだったのかという感じで謎のまま、本編に入っていく。二人組の芸人として、仲間の女性たちと、笑えないギャグをユーチューブで流す兄の生活。一方で、動物園でバイトを始める妹。互が最初は全く無関係なのに、妹の疾走から、動物園の秘密が明らかになり、嵐の夜の事件がなんだったのかも明らかになる。
しかも二つの別々の話を語りながら、時間も行きつ戻りつさせる、高度な構造ながら、あまり混乱せずに、クライマックスまで持っていく作劇力は大したものだと思った。「見る・見られる」関係、人間は檻の外にいて動物は中なのか、あるいはその逆なのか、という議論も、よくある思弁ではあるが、作品でよくこなされていた。
ただ、共感できる人物がほとんどいない。妹と兄以外は、人物の目的・キャラクターが立っていない。あえて、3番目に言えば動物園の園長代理の握光か。それ以外の7,8人が妹と兄を支え物語を動かすためだけの存在になっているのは、芝居が意外と膨らみに乏しい原因だと思う。
フィクション
JACROW
駅前劇場(東京都)
2019/12/04 (水) ~ 2019/12/08 (日)公演終了
満足度★★★★
2023年の東京、木更津、札幌の3家族の生活を描きながら、不景気、災害、外国人という日本社会の直面する3大テーマを考えさせる。そこに家族の中核である、3家族3様の夫婦関係を軸に据えた作劇で、決してお説教ではないし、見ていて飽きない。ひとつの家族の話が佳境に入ったところで、別の家族の話へと、三つへ移行しながら続けていく。それは変化があって飽きないのだが、一つ一つの家族の話の凝集力を弱める危険もある。そこを今作では、三つとも単独でも短編劇として完成度が高く、最後に相互の話が結びつけられることで、大きな現代日本の絵が見えたと思った。
家出してキャバクラに勤める勝気な妻役の福田真夕が、色気と強さ健気さをおりまぜた感じで非常に良かった。彼女は衣装もぴったり。前科から立ち直ったコンビニ店員役の森田匠も、コミカルさと真面目さを併せ持った芝居でうまかった。
『Q:A Night At The Kabuki』inspired by A Night At The Opera
NODA・MAP
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2019/11/09 (土) ~ 2019/12/11 (水)公演終了
満足度★★★★★
二度目の観劇。かなり早くから伏線を張って、結末をほのめかしていることに気づいた。というのは、ジュリアとロミオが出会うパーティーの場で「滑野(スベリノ)」と手紙で予告している。
この他、前半と後半で繰り返され、意味を深めるセリフが多い。「恋と壁は超えるものと思っていた」「…諦めるものの思っていた」の最初のセリフが、あとでは「寄りかかるものと思っていた」と変わったり。
セリフも緻密だが、クイーンの音楽もまた、内容に合わせて選ばれていることに、帰ってCDを聞いて(歌詞カードを見て)発見。じつにうまく噛み合っている。
最初の方で、ジュリアが水着で海水浴するシーンのバックは「Seaside Randezvous」(シーサイド・ランデブー)でそのものずばり。シベリアに送られる直前には運命を示すかのように「預言者の唄」。
何より、テーマ曲のように何度も流れる「Love of my life」の歌詞の、別れた恋人に「Bring it back」(それを返してくれ)と訴えるリフレインが深い意味を持っている。ジュリエットの「ああ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの」という有名なセリフが元になっている「名を捨てる」という行為、その「名前」を失ったことが、個人の幸福追求権を放棄し、戦争という殺戮に巻き込まれた人間の悲劇になっていることを野田は作劇の柱に据えたのだが、それと歌詞が見事に重なっている。この「it」はクイーンの歌詞はそこまで考えていないのに、野田秀樹は重大な意味をそこに負わせたのである。
舞台も遊び心と批評性を併せ持ったものだと、見てわかるが、戯曲(『新潮』12月号掲載)とQueenのリリクスをまた読み込むと、一層緻密なセリフと音楽の絡み合いが見えてくる。傑作である。
地球防衛軍 苦情処理係
サードステージ
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2019/11/02 (土) ~ 2019/11/24 (日)公演終了
満足度★★★★★
コメディーにしてシリアス。しかもウルトラマンシリーズばりの正義のヒーローと怪獣のアクションてんこもり!!とくれば、面白くないわけがありません。地球防衛軍の戦闘行為が住民にも被害を及ぼす。隊員のその苦悩に、宇宙から来た正義の味方の、任務と愛をめぐる苦悩。地球を守る任務をとるか、愛情をとるか…。
まるで、北朝鮮と韓国のスパイ同士の恋愛サスペンス映画のようでした。
最後に流れた音楽も「君の名は」のラドウインプスのようで、はまっていました。
子供にも楽しめる、世代を超えたエンターテインメントです。
カリギュラ
ホリプロ
新国立劇場 中劇場(東京都)
2019/11/09 (土) ~ 2019/11/24 (日)公演終了
満足度★★★★
とにかく重厚というか、先鋭というか、難しい芝居だった。カミュの戯曲がとてつもなく難しいらしい。カリギュラの難役に菅田将暉が、良くくらいついていたと思う。一幕は白い衣裳で、暴君にしては線の細い、少年っぽさがあったが、二幕になると深紅の分厚いマントをまとって、重々しい、冷酷な暴君を感じさせた。
愛妾役の秋山奈津子がすばらしかった。愛と支配と服従と、どこかすべてを悟ったようなあきらめと。どこがどうすごいのか、表現しにくいのだが、とにかく舞台の上で生きているとは、ああいうのを言うのだろう。それと谷田歩もよかった。
ドクター・ホフマンのサナトリウム 〜カフカ第4の長編〜
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2019/11/07 (木) ~ 2019/11/24 (日)公演終了
満足度★★★
多部未華子の可憐さと少しの影と、渡辺いっけいと大倉孝二のコミカルな笑いと、緒川たまきのシュールさがよかった。それらが相まって、カフカ的というより、カフカをネタにしたケラ的世界をうまく立ち上げていた。
冒頭の、列車で旅するシーンは、長塚演出の「イーハトーボの劇列車」を思い起こしたが、もちろん演出はちがいが多い。でも椅子や人間の配置で列車内をつくるというと、似てくるのは当然。
この始まりは、実はカフカの残した第4の長編の冒頭シーンで、この新発見の遺稿をめぐるドタバタを渡辺と大倉が演じていくことになる。多部と緒方は、カフカの物語の中の人。それがいつしか入交、みんなが出会って、カフカ本人も登場するわけだが、ここら辺の複雑な展開を、面白く、わかりやすく、たっぷりと魅せるのはさすがケラである。得意のプロジェクション・マッピングと、群衆のステージングもうまい。
ただ、最後に盛り上がりに欠けるのが残念なところ。つまり、最後の最大落差が、今一つ大きくならなかった。そのせいで、なんとなく物足りなさが残る。芝居は観終わっての感想なので、ラストの出来が3割ぐらいを占めてしまう。
あと、師団長夫人の家の話は必要かどうか。ただでさえ長いので、そこは刈り込んでもよかったのではないか。
休憩込み3時間半。大作である。
ドン・パスクワーレ[新制作]
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2019/11/09 (土) ~ 2019/11/17 (日)公演終了
満足度★★★★
物語はよく覚えていないが、とにかく歌手の声が華やかで、伸びがあって、良く響いていた。バスもバリトンもソプラノも。こうなるとテノールは少々分が悪い。メインのキャスト4人の中では一番目立たなかった。
二重唱、三重唱、四重唱が多く、いずれも圧巻だった。
新版 オグリ【京都 3月全公演中止】
松竹
博多座(福岡県)
2020/02/04 (火) ~ 2020/02/25 (火)公演終了
満足度★★★★★
難しいことは考えず、派手な衣装、仕掛け、大立ち回有りを楽しくみればよい芝居。実際、楽しかった。
最初、花嫁行列を小栗東一三が襲って、花嫁を奪うわけだが、その中に小栗判官がいるのかと思ってみても、今一つ抜きんでた役者がいなくて、あれかななどと思うと、これは大きな勘違いで、主役は後から、十分じらせたうえで、たっぷりのオーラをしょって出てくる。ここら辺、歌舞伎のけれんみはさすがである。
一幕、暴れ馬を乗りこなす、立ち回り。二幕、地獄で大暴れする大乱闘、特に水をたっぷり使った血の池・噴水の仕掛け、三幕の岩登り、ラストの宙乗りと、どの幕も見せ場でしっかり楽しませてくれた。
ただ三幕は体のとける病になった小栗の試練の旅なので、ここは哲学的に、苦悩と悲哀を見せるところ。1・2幕の歓喜と立ち回りと、三幕の苦悩の対比があって、作品として深みが増す。ただ、その点、あくまで「お話」なものだから、三幕の悲哀と苦しみがもう一つ切実さが感じられなかった。そこは世話物との違いか。
閻魔大王他、何役もやった浅野和之がコミカルないい味を出していて、圧巻だった。彼の存在感があったればこその、「小栗判官」物語だとわかる
終わりのない
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2019/10/29 (火) ~ 2019/11/17 (日)公演終了
満足度★★★★
おもしろかった。冒頭、ひとが宙づりになって、溺れているような場面から始まる。METの「ラインの黄金」で、やはり舞台の空中をラインの精たちが泳ぐかのような、ワイヤーを使った演出があったが、それを思い出した。意表を突く幕開きだ。その意味も後でわかる。
主人公は、夏の家族キャンプから、突然未来の宇宙船の中にとんでしまう。その場面の驚きと、ありそうだと感じさせるリアリティーの醸成はすばらしい。さらに異なる星、異なる時空へと飛びながら、この出来事の謎が次第に分かっていく。そこは説明なのだが、必要なことだし、物理学者の母親が息子に教える形なので、違和感はない。
砂の惑星にとんでしまうシーンはなんか変な感じがしたが、全体としては、とんでもない大ウソを、平然とリアルに演じる前川マジックが結晶した、見事な舞台だった。
また、気候変動への危機感も織り込んでいる。私は、設定の一つと思ったが、一緒に見た友人は、この現代の課題に真正面から取り組む姿勢に「前川氏、おそるべし」と感動していた。
レタスとわたしの秘密の時間
劇団やりたかった
参宮橋TRANCE MISSION(東京都)
2019/11/13 (水) ~ 2019/11/25 (月)公演終了
満足度★★★
初見の劇団。団長の女優さんが、新宿のヨドバシカメラ前で一人で大道芸をしながら劇の宣伝をしているのにほだされて見に行った。
新人店長のバカぶりが少々わざとらしかったり、途中、レタスたちや、お惣菜たちが語り、踊るシーンがあったり、かなりトンダ舞台作り。そこについていけるかどうか。レタスのシーンは、非現実的でくるったバカ話と見せて、「パリっ」としてるかどうかだけの違いで、高級食料店から場末のコンビニまで、無慈悲に選別される悲哀、不平等の理不尽を感じさせて、うまかった。90分
ブロードウェイ・ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」
TBS
IHIステージアラウンド東京(東京都)
2019/08/19 (月) ~ 2019/10/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
最初案内を見たときは馬鹿にしていたが、絶賛口コミを見てチケット入手。かみさんと見た。素晴らしい、の一言に尽きる。さすが歴史に残る名作中の名作。7,8年前前、某有名演劇評家とお近づきになり、「最近のブロードウエイでは何がいいですか?」と聞いたら、「なかなか『ウエスト・サイド・ストーリー』のような画期的な作品がないんだよね」と話していた。その時は、やけに古い作品を持ち出して比較するなと思ったが、実物を見てみると、そう言いたくなる気持ちがよくわかった。
歌も主役の二人はもちろん、アニータがメインの「アメリカ」など、非常にうまい。マリア役のソニア・バルサラの透明な伸びのある高音はさすがである。トニー役のトレヴァー・ジェームス・バーガーもテノール的声質で甘く力強かった。さすがクラシック界のスター、バーンスタインの作曲だけあって、オペラ的な要素があると感じた。
その他の場面も一つ一つ、本当に素晴らしい。特に前半は集団的なダンス場面がつづき、ダイナミックでスマートなシーンの連続で、見せ場に次ぐ見せ場という感じ。後半は「サムホエア」が何もない舞台で幻想的かつ叙情的でよかった。
ダンスもセット美術も、映像を使った演出も、歌詞も、全て素晴らしいが、なによりバーンスタインの音楽があればこそだろう。ジャズやバルトーク的な前衛味も取り入れた、斬新でポピュラーな音楽。バックで生演奏していたが、トランペット中心にした金管の響きとパーカッションのリズムが大変良かった。とにかく、書いても書いてもいいところは尽きない。抜きん出た傑作である。若いキャストもよかった。
終夜
風姿花伝プロデュース
シアター風姿花伝(東京都)
2019/09/29 (日) ~ 2019/10/27 (日)公演終了
満足度★★★
予定上演時間4時間半とチラシにあるのを見て、敬遠していたが、クチコミが絶賛しているので観劇。上演時間も3時間50分(休憩2回込み)まで刈り込んだということなので敷居が大分下がった(10月20日の公演は3時間40分と張り紙してあり、実際そのとおりだった)。疎遠な兄(医師=岡村健一)と弟(建築エンジニア=斉藤直樹)の、ふた組の中年夫婦の、緻密な会話劇。かなりエキセントリックな人格攻撃(とくに兄の二度目の妻から=栗田桃子)もあるし、露骨なセックスの要求もあるなど、普段は表に出ない心の闇を描いていた。
俳優は、不倫で自分を取り戻した弟の妻(那須佐代子)ふくめ熱演、好演で、ひきつけられた。とくに岡本健一の安定した存在感が、泣き、怒り、喚く感情の振幅の激しいこの芝居全体をしっかり下支えしている。会話劇だが、俳優の所作がオーバーなくらいに大きく弾ける場面があり、単調にならずにいた。客席も笑ったり、どよめいたり、結構反応があった。
ただ、やはり長い。前半1時間半は夫婦の会話も手探りで、見ている方も手探りで特に疲れた。最近、ベルイマンの「リハーサルの後に」も見て、北欧の戦後演劇は、男女の心理を緻密に解剖するのに長けている気がする。ストリンドベリ以来の伝統だろうか。それはそれでいいのだが、かつてのイプセンに代表される社会批判が失われてしまっている。小林多喜二がデビュー前に「思想的に最も感動した」という、ボーヤーの小説「現代人の悩み」の正義と挫折への深い洞察はどこへ行ってしまったのか。そこが、この長い芝居の最大の不満だった。
『Q:A Night At The Kabuki』inspired by A Night At The Opera
NODA・MAP
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2019/10/08 (火) ~ 2019/10/15 (火)公演終了
満足度★★★★
「ロミオとジュリエット」を源平合戦の中に置き換えた物語。クイーンの曲は「ボヘミアン・ラプソディ」のアルバム全曲使用だそうだが、意外にも解体して部分部分を使っていた。音楽より、物語を優先している。こんなことをして許されるのは野田秀樹へのクイーンの信頼があればこそだろう。そのなかでは「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」が主題曲と言える。
若さがまぶしい二人、広瀬すず(まぶしすぎて見とれてしまう)と志尊淳のロミオとジュリエットを、松たか子と上川隆也の「それから」のロミ・ジュリが支える。「それから」の二人がさすがの貫禄で、芝居を支えている。また二役を4人でやることで、様々なふくらみ、変化、二重化が起きて、それがこの舞台の一番の仕掛けだと思う。野田秀樹得意の、白い大きな布をふんわり、ベッドにかぶせ変えるごとに、若いロミジュリが「それから」の二人に代わり、また元に戻る場面など印象的だった。
前半は「夢の遊民社」流の走り回り騒ぎ回る、とっ散らかった舞台である。まるで幼稚園のお遊戯ではないかと、これがどうなるんだろうかと思っていると、後半、ググっとシリアスなテーマが浮かび上がる。それは「パンドラの鐘」以来の野田秀樹の絶妙な作劇術であった。そろそろ飽きてくるという人もいるかもしれないが、同じ「シリアスなテーマの浮上」でも、毎回違った趣向がある。「逆鱗」はアナグラムであったが、今回の趣向を何と言ったらいいのか。象徴劇というところか。
「Q」は野田芝居の中でも象徴性が高い。「俊寛」などの本歌とり、見立て、二重化が様々にしくまれている。シェークスピアへの批評があり、観客の欲望への批判がある、演劇についての演劇でもある。見終わった直後よりも、あとで思い返しては、人生と運命をあれこれ考える。そんな質の感銘がある。
パパ、I LOVE YOU!
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2019/10/11 (金) ~ 2019/10/20 (日)公演終了
満足度★★★★★
昨年の同じ加藤健一事務所公演「Out of Orderいかれてるぜ」が爆笑コメディであったように、今回は、さらに上をいく超爆笑コメディ。同じレイ・クーニー作。笑った。笑った。大満足であった。軽妙な洒落が多いのだが、小田島雄志・恒志の父子の翻訳が、実にこなれていて、翻訳劇だと思えないほど「死語到着」の死んだはずの女性が出て来て、「仕事横着」なんかしてないわよ、と叫んだり。この工夫に脱帽。
しかもクーニーさん、「これって同工異曲では?」というくらい、「Out of Order」とこの作の骨格・シチュエーションが似ている。地位のある男と、その不倫相手、妻。しりぬぐいをさせられる男、看護師、窓を使ったドタバタギャグなどなど。似ていても、これだけ笑えるのだから許そうという気になる。作者が舞台の奥から「わかるでしょ」とファンの客にウインクしているような気がした。それくらいのファンサービス。
俳優はみな、観客を笑わすツボを心得ており、見事見事の一言。車いすの老人患者を投げ飛ばすのは驚いたが、うるさい老人をそうしたくなる気持ちもわかるし、丸くなって転がる老人役(石坂史朗=実は若い)の所作が面白くて、嫌味はない。私は何度も笑ってしまった。
組曲虐殺
こまつ座 / ホリプロ
天王洲 銀河劇場(東京都)
2019/10/06 (日) ~ 2019/10/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
井上ひさしの遺作となった小林多喜二の評伝劇。再再演で私も3度目に見る舞台だが、今まで以上に、小曾根真の音楽に惹きつけられた。歌の伴奏だけでなく、特高に追われるところなど、ピアノだけで緊迫感や悲しみを語るところもあって、今まで気づかなかった「組曲」の意味を再認識した。
戯曲も実は、モチーフの繰り返しが仕込まれていて、音楽的である。「胸の映写機」は2場の大阪での警察の取調室で提示され、8場の多喜二(井上芳雄)の最後の場面で豊かに展開される。「月」は3場の立野信之の家と4場の独房で繰り返され、「靴底の歌」も3場のあと、7場の地下生活で再想起される。二人の特攻警官(山本龍二、土屋佑壱)の貧しい生い立ちも、2場、5場、8場と変奏され、徐々に全体像が分かる。これなどは最後に種明かしする「闇に咲く花」などの作劇術とは違い、音楽的といえるだろう。
1場の小樽の三ツ星パン屋の歌も、伯父のもとで多喜二が働いたこのパン屋が、多喜二に貧しさと苦労を教えて「ホンモノの作家を焼き上げる」から「日本で一番のパン屋さん」と歌っているのも、改めて気づかされた。
7場の地下生活のアジトでは、多喜二に苦界から救われた田口タキ(上白石萌音)が「小林多喜二くん」と呼んで、キイワード「絶望するな」と言う。タキは恋人のはずなのに、普段は「多喜二兄さん」としか呼べず、精一杯「さん」づけにしようとしている。なのに、ここでは「くんづけ」である。「くん」と呼ぶのはここだけなのである。二人の関係性自体がここでは特別であり、だから、「絶望するな」と言えるのである。
噛めば噛むほど味が出る戯曲である。
エウゲニ・オネーギン
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2019/10/01 (火) ~ 2019/10/12 (土)公演終了
満足度★★★★
同じオペラを何度も見ていると、毎回発見がある。音楽的には1幕の序奏冒頭の下降旋律のモチーフが、タチヤーナ「手紙の歌」にしろ、レンスキーのアリアにしろ、旋律の大元になって、全体のトーンを統一している。こうしたメロディーの使い方は、豊かで美しい旋律家のチャイコフスキーの真骨頂。
物語的に今回は、2幕でレンスキーをからかったオネーギンのニヒルさ、冷たさが印象的だった。レンスキーの短気より、しつこく嫌がらせして決闘に追い込んだオネーギンの責任を感じさせた。最後第3幕の、タチヤーナのオネーギンとの別れの歌の切実さも以前よりよくわかった。前は「愛しています」といいながら、道徳に縛られて決断できないでいるだけのようだったが、今回みて、やはり取り戻せない過去があるという人生の不可逆性、辛さを感じた。毅然として人生を歩むタチヤーナの決断に対し、余計者オネーギンの甘えと優柔不断の対比があった。
最貧前線 『宮崎駿の雑想ノート』より
水戸芸術館ACM劇場
世田谷パブリックシアター(東京都)
2019/10/05 (土) ~ 2019/10/13 (日)公演終了
満足度★★★★★
傑作、素晴らしかった。宮崎駿の原作ということで、どう舞台化するのか多少心配だったが、期待と不安を圧倒的に乗り越える舞台だった。脚本、美術、俳優、振り付け、ステージング、映像、音響と七位一体、八位一体。まさに総合芸術としての演劇が、映画にも負けない生命力のあることを示したと言える。とくに漁船の艦橋、甲板、船室を、舞台上の3階たてのやぐらに組み、船首と船尾の二つの組み合わせで、様々な動きをつけた美術の成功がこの舞台の肝だった。相当重いはずなのだが、スムーズに動かした工夫と黒子に拍手。俳優は皆好演。