満足度★★★
動物園をひとつの足場にして、人とうまく付き合えない不器用な妹と、妹を笑かしてやりたい芸人志望の兄の兄妹愛の物語。…だということが、見終わってわかる。
まずは兄の3年の刑を終えた出所から始まる。ついで、兄が犯した罪=嵐の夜の動物園でヒゲの男への暴行のシーンが象徴的に現れ、そして、あれはなんだったのかという感じで謎のまま、本編に入っていく。二人組の芸人として、仲間の女性たちと、笑えないギャグをユーチューブで流す兄の生活。一方で、動物園でバイトを始める妹。互が最初は全く無関係なのに、妹の疾走から、動物園の秘密が明らかになり、嵐の夜の事件がなんだったのかも明らかになる。
しかも二つの別々の話を語りながら、時間も行きつ戻りつさせる、高度な構造ながら、あまり混乱せずに、クライマックスまで持っていく作劇力は大したものだと思った。「見る・見られる」関係、人間は檻の外にいて動物は中なのか、あるいはその逆なのか、という議論も、よくある思弁ではあるが、作品でよくこなされていた。
ただ、共感できる人物がほとんどいない。妹と兄以外は、人物の目的・キャラクターが立っていない。あえて、3番目に言えば動物園の園長代理の握光か。それ以外の7,8人が妹と兄を支え物語を動かすためだけの存在になっているのは、芝居が意外と膨らみに乏しい原因だと思う。