欲望という名の電車
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2017/12/08 (金) ~ 2017/12/28 (木)公演終了
満足度★★★★★
演劇鑑賞初心者としては観ておかねばいけない作品の一つでしょう。無駄なひねりのないストレートな感動作でした。大竹しのぶさんは言うまでもなく、北村一輝さんも鈴木杏さんもすばらしい熱演でした。
ひねってあるのは題名くらいです。この題名からこのストーリーを想像する人は皆無でしょう。しかし非常に記憶に張り付いて忘れることのできない題名です。作者の狙いもそこにあるのでしょう。
この舞台の後でビビアン・リーとマーロン・ブランドによる映画版をアマゾンでレンタルして観ました(199円)。映画は良くも悪くも丁寧に説明してくれます。冒頭には実際にあった「欲望」行の路面電車も出てきます。当時の街の様子も分かって、私の貧しい想像力を補ってくれます。映画では最後にブランチは自動車に乗って去って行くのですが、舞台を観ているときはそういう時代だとはまるで考えもしませんでした。
しかし、どこの国でも一つの階級が没落し、別の階級が勃興することはしばしば起こることです。第二次大戦後のニューオーリンズに限定された話ではありません。そういう意味では国籍も時代も曖昧になる演劇・舞台という枠組みも悪くないと思い直しました。
初めてのシアター・コクーンは入口が分からず、ビルを一回りする羽目に。
*ミッチが「何を教えていたの」と尋ねるとブランチが "...English..." と答えるのを舞台では「英語」、映画字幕では「国語」としていました。私が訳者でもどちらにするか迷うところです。
管理人
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2017/11/26 (日) ~ 2017/12/17 (日)公演終了
満足度★★★
忍成修吾さんと溝端淳平さんの兄弟と温水洋一さんの浮浪者という3人の会話劇です。ベテランの温水さんは思いっきり人間的で駄目なジジイを演じます。それに対して若手二人は現実世界とは少し距離を置いた人格で、忍成さんは静的に、溝端さんは動的に温水さんに対峙して一歩も引きません。溝端さんは代役が出ているのかと思ったほど私の記憶と違っていました。役者さん目当てなら大満足でしょう。
この作品は不条理劇ということになっています。しかし、虚心に舞台を見ていても何も特別なものを感じませんでした。同じく不条理劇である「ゴドーを待ちながら」は全ての部分が理解を拒みますが本作「管理人」はほとんどの部分で普通に意味が通じ、ストーリーも進行します。私が大きな勘違いや見落としをしているのか、昔の不条理が今では現実になってしまったのでしょう。
何度も暗転し、謎めいた音楽がかかるのにはうんざりしました。
湯もみガールズⅣ
劇団たいしゅう小説家
萬劇場(東京都)
2017/12/06 (水) ~ 2017/12/10 (日)公演終了
満足度★★★
「シリーズ初の“ミステリー”?!」と「湯もみガールズ」という二つのキーワードに引かれて萬劇場へ。
“ミステリー”に?が付いているのを見落としてはいけません。謎解きの要素はゼロですのでお間違えなく。
普通の芝居としては言葉での説明が過剰ですが、女優さんは綺麗で男優さんもイケメン、芝居の内容も明るく元気で、若者からエネルギーをもらおうという人にはお勧めです。
かがみのかなたはたなかのなかに
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2017/12/05 (火) ~ 2017/12/24 (日)公演終了
満足度★★★★
鏡の世界についてのパフォーマンス劇とでもいうのでしょうか。普通の演劇ではありません。ネタバレしても問題はないものなので少し内容を書いてみます。
舞台中央には鏡を想定した大きな木枠があり、こちら側には冷蔵庫やテーブルが置かれています。まずは首藤康之さんが一人で登場し、鍛えた身体で見事な腕立て伏せを見せてくれます。電話をしてピザを注文するなど次に展開する出来事の一人版を見せてくれます。
いつの間にか向こう側には鏡に写ったようなセットが現れます。そして近藤良平さんが登場。ここからしばらくお二人の鏡シンクロとなります。最初はダンスも完全にシンクロするので感心していると、徐々に形を崩してシンクロしたりしなかったり様々なパターンを試して行きます。言葉の鏡の像あたりから遊びの要素が増えて行きます。
次に、ピザ配達人の長塚圭史さんとその鏡の像である松たか子さんが登場します。ここからは外見とか性格とかの概念的な鏡の像(というより反対の概念)が考察され、そして二つの世界は融合したり分離したりと想像の幅を広げて行きます。
子供さんにはハードルが高い気がしますが、お年寄りの笑い声は起こっていました。
内容的にはもうひとつですが、役者さんの「顔」がそれを埋めてくれます。
屋根の上のヴァイオリン弾き
東宝
日生劇場(東京都)
2017/12/05 (火) ~ 2017/12/29 (金)公演終了
満足度★★★★★
ミュージカルファンとしては押えておかねばならない基本演目ということで行ってきました日生劇場。昔、ミュージカルに興味がない、というか精神的にも金銭的にも余裕がないころに森繁さんで話題になっていたことは覚えています。何十年も経ってようやくの鑑賞です。
歌、踊り、ストーリーのバランスが絶妙です。
ミュージカルのストーリーというと単純すぎたり、壮大すぎたりで軽視されていることが多々ありますが、この作品では力まず、急がずじわじわと心に沁みこんできます。日本での初演から50年というのも納得です。
実咲凜音さんはしっかりものの長女にぴったりで凛とした美しさにあふれ、神田沙也加さんはいかにもその妹らしい柔らかな振る舞いが印象的でした。また肉屋の今井清隆さんのバリトンボイスは歌もセリフも朗々と響いて、しかも嫌味がありません。もちろん鳳蘭さんの安定した歌と演技は全体を引き締め、…他の方も挙げればキリがありません。
何かあっと驚くものを求めるという人を除き、どなたにもお勧めできるものです。
D・ミリガンの客
劇団6番シード
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2017/11/22 (水) ~ 2017/12/05 (火)公演終了
満足度★★★★
役者さんの力量は素晴らしく、話の展開も冴えています。照明は美しく、セットの作りこみも丁寧で、そこは5つ星です。
しかし、脚本(原作?)は未完成です。そもそも目標が高すぎます。この伏線をすべて正統的に回収できたなら歴史に残る大傑作になるでしょう。
伏線回収にこだわらず、全体を楽しめば一級の娯楽作品であることがわかるでしょう。
でもやはり、再演のたびに一つでも多く回収されるようになることを期待しています。
誰か席に着いて
東宝
シアタークリエ(東京都)
2017/11/28 (火) ~ 2017/12/11 (月)公演終了
満足度★★★★
田辺誠一さんと木村佳乃さん、片桐仁さんと倉科カナさん演じる二組の夫婦を主役に、工務店の福田転球さん、お手伝いさん(?)の富山えり子さんが脇から茶々を入れるコメディです。
すでに何か所かで公演をしているのでセリフも演技も堅調でした。初めは、皆さんどこかよそよそしいのは何故かと考えてしまいましたが、それは4人の関係が危ういことを示しているのだと気が付きました。
「誰か席に着いて」という題名の通りに、皆さん自分の用事で席を外すので、舞台がなんとも寂しくなります。出入りのときは会話は少なくなるので、どうも気分が盛り上がりません。富山さんがそこを補うためにテンションを上げていたように見えました。そうこうしているうちに、ようやく笑いが出るようになったところであっさり90分の幕となりました。
倉科さんと木村さんを近くで見ることができたので幸せですが、時間が短いこともあって、コメディとしての満足度はあまり高くはありません。しかし、こういう人気俳優さんを集めた演劇は普通に滞りなく行われればファンにとってはそれで4つ星確定ということでしょう。欲張ってはいけません。
笑った分だけ、怖くなるvol.2
株式会社MTP(MTP Inc.)
THEATRE1010(東京都)
2017/11/25 (土) ~ 2017/11/26 (日)公演終了
満足度★★★★
白石加代子さんと佐野史郎さんによる贅沢な朗読劇です。
以下の二つの話がそれぞれ50分と休憩20分で構成されます。
第一ラウンド 筒井康隆 作 「乗越駅の刑罰」(新潮文庫刊『懲戒の部屋』より)
第二ラウンド 井上荒野 作 「ベーコン」(集英社文庫刊)
公演全体の表題は「笑った分だけ、怖くなる vol.2」ですが、第一ラウンドは怖いというより気持ちが悪く、第二ラウンドは笑う話ではありません。そういうわけで表題は無視して無心にお二人の芸を楽しむのが良いでしょう。
朗読劇では役者が台本を持って読みますが、今回はかなりセットを作ってあってお二人はかなり動き回ります。地の文が長いと単調になりますが、それを避けるために駅員の帽子を持っていると読む権利(読まない権利?)があるというような遊びがありました。また、大声で怒鳴られて唾がかかったというところでは霧吹きを吹いていました。
音楽は短時間しか流れませんが佐野史郎さんのチョイスなのだそうです。
第一ラウンド グレン・キャンベル:ウイチタ・ラインマン
第二ラウンド メリー・ホプキン:悲しき天使
佐野さんは1955年生まれ、さもありなんという選曲ですね。
北千住シアター1010は1階553席、2回148席合計701席という中規模劇場。ここの問題点はマルイの11階にあってエレベータがいくら待っても来ないことです。待っているうちに爺さんになってしまうなんて話が筒井康隆の作品にあってもいいくらい(笑)。エスカレータで地道に行くことをお勧めします。
この熱き私の激情
パルコ・プロデュース
天王洲 銀河劇場(東京都)
2017/11/04 (土) ~ 2017/11/19 (日)公演終了
満足度★★
松雪泰子さんを観に天王洲アイルまで行ってきました。チラシを読むと何か奇妙なことが行われるようで地雷臭が漂いますが冒険してみました。
縦横高さそれぞれ2メートルほどの部屋が一階二階にそれぞれ5室あります。そのうち7つの部屋に一人ずつ女優さんがいらして、交代しながらネリー・アルカンの著作の一部を断片的に語りつつ、ある程度の演技を行います。各部屋は異なった心の状態を表しているようで内装がまるで違います。
単調な音楽をバックにマイクを通したフィルターのかかった声、これはまるで何かの秘密の儀式です。不思議なのは、私だけでしょうが、言葉を聴いて覚えようとしても次の瞬間にはもうすっかり忘れていることです。
唯一得たものは、不思議な舞台を観た経験というか免疫です。もっと小さい劇場で地声でやっていただければ私の心にも少しは届いたのではないかと思います。
チラシに嘘はないし、目的の松雪さんも見られたので星は2つです。ネリー・アルカンという人に興味を持っていてすでに本も読んでいるという人や、変わった舞台が好物という人のためのものでしょう。
会場の銀河劇場は横に広がりすぎの感じがします。座席はほんのちょっと狭いですが前後の間隔は適切です。困ったのは客席入口までの螺旋状の階段です。段数も多く、直線状でもつらいのに曲がって行くのですから、年寄りには苦しいものでした。
鏡の向こうのヘンリー八世
東京シェイクスピア・カンパニー
小劇場 楽園(東京都)
2017/11/22 (水) ~ 2017/11/26 (日)公演終了
満足度★★★★
普通に面白く楽しめました。
原作にないチェスが大きくフィーチャされています。こんな立派な駒をどこから借りてきたのだろう、落としたりしなければ良いがと余計な心配をしました。
元々、シェークスピアの描くヘンリー8世は印象希薄で「ウルジー対キャサリン」という色合いが強いのですがこちらでは、そこにより重みをおいています。エンディングは、共に失脚した二人がチェスをしながら昔を懐かしみ、お前も悪よのう的な含みを持たせて終わります。原作ではウルジーが亡くなったことをキャサリンが聞いて「はてしない貪欲の人だった…」と回想するだけですし、エンディングはアンに女児エリザベスが生まれるところです。
途中で二人組の悪魔が現れて場の説明をしたり、ウルジーの悪行の発覚が実は彼らの仕業であるというシェークスピアもびっくりの暴露があったりして中々楽しめます。
役者さんはみなさん達者でストーリーは素直に頭に入ります。また、予算の関係もあるのでしょうが変にビジュアルに凝ることもなく安心して観ていられます。原作に思い入れのない私には4つ星の優秀作ですが、原作をいじくりまわしたところに反感を持つ人がいることも容易に想像できます。
演劇鑑賞初心者の私としては原作に忠実なシェークスピアを観たいのですがあまりないようですね。もっともこの「ヘンリー8世」は原作が面白くないので優先順位は下の方ですが。
たとえ話サークル殺人事件
スズキプロジェクトバージョンファイブ
シアター風姿花伝(東京都)
2017/11/09 (木) ~ 2017/11/19 (日)公演終了
満足度★★★★
題名にやられて観に行ってしまいました。
探偵役の山下雷舞さんに見覚えが、…「龍宮物語」で亀=龍神様をやっていた人でした。あのときは見せ場が少なかったのですが今日はたっぷりと出まくりです。
当然ながら推理なんてものとは無縁のドタバタです。考えさせるようなところは何もなく、小ネタでどんどん笑わせてくれる潔いコメディです。ここでの「たとえ話」とは何でも他の何かにたとえて説明することです。このたとえ話の出来、不出来の絶妙さが最大の売りです。お楽しみに。
ほってもほっても、穴
the pillow talk
シアター風姿花伝(東京都)
2017/11/10 (金) ~ 2017/11/19 (日)公演終了
満足度★★★★
辻響平さん演じる大野君の正義感溢れるゲス野郎振りが素晴らしい。
人間の業を描いた悲劇と言いたいところですが、この主人公はあまりに自分の欲望に正直でまったく葛藤も反省もないのでハムレットにはなれないのです。しかし我が身を振り返るととても他人事と笑っていることはできませんでした。
下ネタが時々ありますが彼女と来ても問題のない、というかむしろ好都合なレベルです(微笑)。
新訳『ゴドーを待ちながら』リーディング公演
早稲田小劇場どらま館
早稲田小劇場どらま館(東京都)
2017/11/10 (金) ~ 2017/11/12 (日)公演終了
「ゴドーを待ちながら」を観たというアリバイ作り、あるいは経験値稼ぎのために早稲田まで行ってきました。これで30数年前に「パタリロ」を読んで以来のもやもやが解消できました。
「不条理劇の代表作」ということで事前に下調べをしていたのでやりたいこと言いたいことは分かりました。作り手の側に立つと実験的で面白いだろうなあとは思いますが、観る側としては脳みそを練り直される感覚はあるものの面白さを感じるまでには至りませんでした。
リーディング公演ということで役者さんはシナリオを手に持って読むのですが、朗読劇とは違ってある程度の演技を伴います。小道具は書かれているものはかなり出て来ます。帽子、鞄、人参などは使いますがブーツは短靴で代用し、カブはエアーでした。舞台は真っさらで象徴的な木すらありません。ト書きは専門の読み手がいます。役者はト書きで指定された演技を全部行うわけではありませんし、若干異なった動作だったり、妙に感情を込めて書かれていない演技をするところもありました。これは観客にあれっと思わせて集中力を切らせないようにする演出だと終演後に気が付きました。
そんな程度の理解なので星をつけることはできません。
場所は「早稲田小劇場どらま館」。小劇場という名前に合わせたのかベンチ椅子です。クッションが薄く140分(含休憩10分)は苦痛で、下北沢の方がまだましと愚痴りたくなります。まあチケット代が2,000円なので文句を言っては罰が当たりますが。
くるんのぱー
ふくふくや
駅前劇場(東京都)
2017/11/01 (水) ~ 2017/11/12 (日)公演終了
満足度★★★★★
「ふくふくや」は初めてで、題名が「くるんのぱー」ということもあって、何か変わったことを仕掛けてくる劇団かと思っていました。しかし、全くそんなことはなく、芸達者の皆さんと達人脚本家の方が正統派の人情話を自在に料理し、単純な予定調和に陥らない極上のお芝居に仕上げてくれていました。
まあしかし何度も転がしてくれます。周りのファンの皆さんは転がす前のサインをしっかりと捕まえていたとのこと。私はそんなことにはまったく気づかず、なすがままに飛ばされていました。
アフタートークでリピーターの方から「歌手の三条きよし」に歌のリクエストがありました。なるほど25年も歌っているヒット曲だというのに鼻歌のひとつもなかったなあと共感していると、きよし役の岩田和浩さんはあきらかに動揺されたご様子。どうなるかなあと見守っていると「後からYouTubeで」という助け舟が出て岩田さんほっと一息。このファンの方にも星5つ!役者さん達とこういう濃いファンの方々が作る幸せな空間がここにあるのだなあと羨ましく感じました。
名探偵とナン
カラスカ
d-倉庫(東京都)
2017/11/08 (水) ~ 2017/11/12 (日)公演終了
満足度★★★★
事件が起こり、探偵が出動し、最後に事件は解決するという点では探偵ものなのですが、前説でも言っていたようにまずはコメディなのです。大掛かりで感心するような笑いはありませんが小ネタがどんどん出てくるのでどんどん笑ってみるのが吉でしょう。
コメディとはいえ、提示された謎はすべて回収されます。しかし、観客は誰も推理なんかせず笑っているだけなので、へえそうだったのかとは思いつつも上の空です。と書くと否定的なようですがそれはそれで快適なのです。主宰も「難しいことは考えずに楽しんで、笑っていただけたら幸いであります」と書いているのでこれはこれで良いのでしょう。
二階建てのセットの上と下が同時間であったり、現在と過去であったり、照明の具合も変化して、なかなかテンポよく話は進んで行きます。この劇団はチームワークを重視しているようで声の調子も揃っていますし、自分だけが目立とうとする役者さんもいませんでした。2回目で息も合い、セリフの噛みもほとんどなく安心して楽しませてもらいました。もっとも、裏返せば「尖った」とか「意外な」とかいうものには欠けている感じはしました、
中間のダンスも中々良いものでした。贅沢を言えばタイミングも踊り方ももう少し揃って欲しかったし、フィナーレでもう一度観ることができればもっと幸せでした。
散歩する侵略者
イキウメ
シアタートラム(東京都)
2017/10/27 (金) ~ 2017/11/19 (日)公演終了
満足度★★★★
普通の演劇で普通に面白かった。役者さんもしっかりしていて楽しめた。とくに真治役の浜田信也さんの99%の大真面目と滲み出る1%のおかしみが心地良い。また高校生役の大窪人衛さんのハイテンションな演技は結構好きだ。
「イキウメ」の舞台は深いような評判があって、初めは何も見逃すまいと構えて観ていたが、どうもそんな必要はないという気分になって行った。観る人が観ればいろいろあるのだろうが私のレベルのアンテナでは受信できなかった。
構えていたときには集中を切らす笑い声にイライラしたが方向転換するとそれも良いかなと思えるようになった。笑って良いのか悪いのか作者の掌の上で転がされた気分だ。
カーテンコールでは役者さんは深刻そうな表情をしていた。よほど悲惨なストーリーでない限り、お話であり演技なのだから終わったらニコニコしてやり切った喜びを表現してもいいのにと思うのだが。まあ、笑えば「何で笑うんだ」と言われ、笑わなければ「何で笑わないんだ」と言われ、難しいね(笑)。
*2019/7/21追記 映画版(監督:黒沢清、出演:長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己)を観た。映画はくどいくらい丁寧だ。おかげでありもしないものを想像していたことが分かった。上にある2年前の評価は妥当なところだ。熱烈なファンの超高評価は「ああそうですか」で済ませておけば良いだろう。人それぞれである。
オセロー
東京芸術劇場
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2017/11/03 (金) ~ 2017/11/05 (日)公演終了
満足度★★★★
演劇鑑賞初心者としてはかなり背伸びをして行ってみたオランダ語上演日本語字幕付。
字幕は舞台中央上から下がっている液晶パネル(縦0.5m横3mくらい)に13文字2行で表示される。表示は明るく見やすいが演技の邪魔にならないようにかなり上の方にあって目の移動が忙しい。見る前は心配していたのだがそれほど苦にならなかった。
字幕でも鑑賞の妨げにならなかったのはセリフがほぼ原作の省略&短縮版であって、凝った意外な展開などがなくチラと見るだけで考える必要がないからでもある。服装や背景は現代のものだがセリフは昔のままというのはシェークスピアの悲劇が現代でもそのまま通用することの実証なのであろう。
さて、私は現代の人間に昔のセリフという設定に最初は文句ばかり言っていた。現代に「娘を魔術でたぶらかされた」なんて言う親がいるわけがない、現代の将軍は高年齢なので新婚はありえない…などなど。もちろんオセローが白人なのも不満だった。しかし気がついてみるとオランダの俳優さんたちの力のこもった演技にどんどん引き込まれて不自然さを忘れてしまっていた。
この公演の見た目での一番の売りはオセローの自宅である。全面ガラス張りで家の向こう側まではっきりと見通せるという(匠のリフォームの失敗作のような)建物である。家の中はもちろん、手前側、向こう側などを駆使していろいろな表現を試みている。クライマックスでもう一段の仕掛けがあるのでお楽しみに。
現代という設定を忘れて観ていれば変な脚色のない正統派の「オセロー」が楽しめるし(ただしかなり削除された場面はある)、普通の「オセロー」は飽きたという通の人にはまたいろいろあるだろう(知らないけど)。オランダ語上演に皆さんおそれをなしたか満席にはなっていない。興味の湧いてきた人は日曜最終日の空席に期待して行ってみよう。
豆知識 カシオ計算機は Casio、キャシオーは Cassio
うしろの正面だあれ
山の羊舍
小劇場B1(東京都)
2017/11/02 (木) ~ 2017/11/07 (火)公演終了
満足度★★★★
婚期を過ぎた姉妹とその父の3人が暮らす家へ立ち寄った男が巻き込まれる理不尽を描いたブラック・コメディ。
オープニングは谷川清美さん山崎美貴さん演じる姉妹が一つの枕を巡ってああ言えばこう言うのネチネチとした言葉の応酬である。同じことを繰り返し飽きる手前で方向転換、おっとそっちへ行ったかの意外性が心地よい。
そこに山口眞司さん演じる父親が加わるが、これが昔の威張り腐ったオヤジで、しかも他人の気持ちを逆なでする名人である。さすがの姉妹も押され気味のようだ。
この3頭の狼の巣穴に大窪晶さん演じる妻を亡くした男性が訪れる。本を返しに来ただけのはずだったのがお茶の誘いを断り切れずに応じてしまったのが運の尽きで、やりたい放題に転がされいじりまくられる。ああ彼の運命やいかに…。
見る人が見れば色々隠された意味があるのかもしれないが見えるままを見ているだけで十分楽しめる。
作者を探す六人の登場人物
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)
2017/10/26 (木) ~ 2017/11/05 (日)公演終了
満足度★★★★
漱石の夢十夜の第六夜は運慶が仁王を刻んでいる話である。その中で若い男が次のように言っている。
「…あの通りの眉や鼻が木の中に埋っているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。…」
また、漫画家のインタビューで「最初は自分が作り出したはずのキャラクタが途中から勝手に動き出して手に負えない」などということもしばしば聞く。
演劇でも作者によって発掘されることを待っている登場人物もまたたくさんいるだろう。待ちきれなくて飛び出してくる登場人物たちもいるかもしれない。そんな感じの話である。
岡部たかしさん演ずる脚本家が稽古を始めようとすると山崎一さん率いる「登場人物」の一家が現れる。彼らを見出してくれる「作者」を彼らの方から探しに来たのである。彼らの様子に興味を持った脚本家が稽古に来ていた役者を使って即席の演劇に仕立てようとする。「登場人物」はバーチャルな存在だが登場人物としてはそのものずばりの本物(リアル)である。一方役者はリアルな存在であるが登場人物としては偽物である。というようなことで双方の対立は激化して行く…。
そんな話がどんどん続くのだが観てのお楽しみである。問題はこういう話は始めるのは簡単だが終わらせるのが難しいことだ。この終わり方には私はあまり納得していないけれど、自分では「笑ってごまかす」くらいしか思いつかないのが情けない(笑)
ときどきこういうものを観て考えると脳の掃除になるのではないかと思った。
KAATは5階の大ホールは来たことがあるものの3階に中スタジオなどというものがあることは知らなかった。座席はチケットの10番刻みの番号順に入場しての自由席である。最前列の席に役者さんが座ったりするので絶対に前方がおすすめだ(もちろん役者さんが座る席はリザーブされている)。学校と違って前に座っても指名されることはない(笑)
新~とんびと鷹の捕物帖~『酔いどれムスメとお転婆オヤジ』
劇団岸野組
俳優座劇場(東京都)
2017/10/28 (土) ~ 2017/11/05 (日)公演終了
満足度★★★★
これは時代劇ファンの期待を1ミリも裏切らず、1ミリも越えない、まさに“the 時代劇”である。「入れ替わり」というトレンディ(死語?)な仕掛けはあるが全体として時代劇のフォーマットをかたくなに守った見事なまでの様式美である。いくら何でもどこかで殻を破っているだろうなどという私の邪な期待は宇宙の果てまで吹き飛ばされてしまった。
役者さんはどなたもうまい。特にヒロインの福原香織さんの中年オヤジの演技は次の仕事が来なくなるのではないかと心配するくらい飛んでいる。
毎朝“暴れん坊将軍”を見ているような人は絶対に行くべきだ。
時代劇ファンでない人には微妙かな。