1
トライアル 2024
A.R.P
[Team B]
久しぶりに完璧に楽しんだ。今年のナンバー1。
内容はコミカルな裁判もの。明るくさっぱりとした笑いで気持ちがすっきりする。ツッコミどころがあってもテンポが良いので首をかしげる時間を与えてくれない。ロジックも面白く、謎解きものとしても1級品だ。
あす月曜日の2公演には若干空きがあるという。観てない方はぜひ。
2
なかなか失われない30年
Aga-risk Entertainment
アガリスク、スピードが速すぎ、情報量が多すぎだよ。ちょっと取り残された感があったのがつらい。
いつもの1シチュエーションコメディだが、今回はタイムスリップ物である。4つの時代がそれぞれ問題を抱えながら一つの場所に集まる。そこをしっかりと交通整理して進行させる、いつもの匠の技がさえる。
強いて主役を上げれば伊藤圭太さんと淺越岳人さんなのだろう。その中でも淺越さんの不思議な魅力が全編に行きわたっている。CoRich舞台芸術まつり!2023春 演技賞(『令和5年の廃刀令』)受賞は言われてみれば確かにという不意打ち感があったが、今作は受賞記念的なこともあって台本でも特別扱いがされているのだろう。堂々の存在感である。CoRichの審査委員さすがの慧眼。
山下雷舞さんもようやくアガリスクの仲間と認められたのだろう。主役級の大役を与えられて全力で応えていた。
クールビューティー鹿島ゆきこさんは今回は見せ場なし。榎並夕起さんは他の舞台とか映画とかの役作りなのか、激やせに見えてちょっと心配。江益凛ちゃんは全編元気で普通で私は不完全燃焼。おっさん目線ではどこか不安定で守ってあげたいと思わせてほしいのだ。そして今回の推しは雛形羽衣さん。ちょっと軽目のキャラだが将来の目標は国連難民高等弁務官であるという。この国連難民高等弁務官というリズムの良い言葉で3割うまい(何が?)。
アフタートークに登場した鈴木保奈美さん、去年の「セールスマンの死」ではどうもしっくりこなかったのだが、このフリートークでは頭の回転の速さが分かってさすがだなあと感心しきりだった。適切な話を反応よく繰り出してきてよどみがない。中田顕史郎さんによるとシアタートップスのトップスはあのチョコレートケーキのトップスなのだそうだ。昔は1階に店があったという。
3
『口車ダブルス』
劇団フルタ丸
保険営業員の生態を皮肉に、しかし暖かく描く、その塩梅が絶妙である。そしてまた落とし持ち上げる。終わってみれば根っからの悪人はいなくなっているのだがそこに演劇によくある臭みがない。うまいものだ。
登場人物の書き分けが見事で、そこにどんぴしゃりの役者さんたちを配役する。これもまた素晴らしい。ベテラン演技陣には感心するばかりだ。特に渡辺いっけい似の にしやま由きひろ さんの斜に構えた佇まいに痺れた。女優さんでは若い頃なら神咲妃奈さんに魂を抜かれていただろうが爺さんになった今では大野朱美さんの知的なクールさに惹かれてしまう。もちろん涼田麗乃さんのひたむきさも最高だ。
売りの講談システムだが無声映画の弁士を(有声の)演劇に使ったということに近い気がする。基本はナレーションだが演劇の中での役も与えられていて台本を書く上で非常に便利なしくみになっている。素晴らしい発明ではあるがユニークすぎてそのままでは他の団体が採用することは難しいだろう。何か変種が出て来ることを期待したい。
4
神[GOTT]
ワンツーワークス
この舞台ではドイツ倫理委員会の公開討論会という形をとって「医師による自殺幇助は認められるのか?」を議論する。討論会が開かれるきっかけは78才のゲルトナー氏(以下G氏)が妻を無くしてから生きているのが苦痛であり、薬物による自死を希望すると訴えたことにある。G氏は精神的にも肉体的にも健康であるという診断がなされており、二人の息子と幾度となくこのことについて話し合ってきて、彼の中では確固たる結論が出ているという。
ドイツ憲法の現在の解釈では自己決定権は不可侵であり何人も自死を阻止することはできない。今でも首を吊る、高層ビルから飛び降りる、電車に飛び込むなどの手段はあるが失敗したときは悲惨であるし、後者二つは他人への迷惑が半端でない。苦痛なく完全な死を迎えるためにはバルビタール薬剤が一般的である。しかしそれを誰でも入手できる状態にできるはずはなく、その入手と使用そして完全な目的達成には今のところ医師の介在が避けられない。自死は自由であったとしてもその安全確実な手段を憲法は提供してくれないのである。
現在でも不治の難病で日々肉体的な痛みに苦しめられている人の自殺を医師が幇助することはすでに合法である。しかしながらG氏のような健康な人については合意はできていない。そしてここでの検討対象には78才の老人だけでなく、人生に絶望した若者なども含まれていることを忘れてはいけない。またG氏は自殺幇助が合法ないくつかの国、たとえばスイスに行って目的を達成することができるが、自国で行うことを絶対的に希望している。
この問題に関して専門家が参考人として呼ばれている。法学者、医師会副会長、カトリックの司教の3人である。これらの方々に質問し討論するのはドイツ倫理委員会委員の医師とG氏の代理人である弁護士のビーグラー氏(以下B氏)の二人である。B氏はG氏の意を受けて、医師による自殺幇助を認めることに有利な発言を引き出そうとして、法廷のような戦術を使い、しばしば司会の倫理委員長から注意を受ける。
この「観てきた!」では議論を再現することはしない。大きな論点は網羅されている。基本は近代合理主義とキリスト教的人生観のせめぎ合いである。前者は我々もなじんできたところであるが、後者については天国に至る門は狭いというあちらの教えを、念仏を唱えていれば極楽浄土に行けるというこちらの思想から理解することは難しいと実感する。
気になったのは硬直的でヒステリックな医師会副会長の人物設定である。原文を当たってみると「司祭以外の役は性別を問わない」とあって、原文でフルネームが設定されていても変更して構わないことになっている。したがって医師会副会長が女性であることは演出家の意図である。もっとも全参考人の質疑応答が終わった後で一人だけ退席することは原文にもあったので基本的には原作通りではある。
同じ作者による「TERROR テロ」が2018年に橋爪功主演で公演されている。作者は弁護士で自身をモデルにした(と思われる)ビーグラー弁護士が活躍し、最後は観客による投票という形式は両作で共通している。そして10月にこの「神」も同氏主演で行われるお知らせが今回のチラシ束に入っていた。配役を見ると全員が男性である。おそらく男性というより中性的な扱いとし議論の純粋化を狙ったのだろう。
今回の投票では「医師による自殺幇助を認める」ことに賛成の人29名、反対の人42名であった。
5
王様と私
東宝
19世紀後半、ヨーロッパ列強がアジアに植民地を拡大していたころのお話。シャム(今のタイ)国王の子供たちの家庭教師となったアンナ・レオノーウェンズの回顧録が元になっている。それが小説となりミュージカルとなった。デボラ・カーとユル・ブリンナーが主演した1956年のミュージカル映画が有名である。主題歌の「シャル・ウィー・ダンス?」はだれでも知っている名曲だ。
内容を一言で言うと魔法を使わないメリー・ポピンズである。もっともこのメリーの基準は欧米は進んでいてアジアは野蛮だということで、それを何のためらいもなく貫き通しているのが心地良いくらいだ。まあそういうことを教えるために雇われたのだから当然なのだが、違和感がしばらく脳内にとどまった。
明日海りおさんの歌声はスムーズで解放感に溢れていてお話が進むにつれどんどん調子を上げて行った。北村一輝さんはあのくどさというか脂っこさというか、そういう持ち味を封印して頑固な国王をコミカルに演じていてちょっと驚いた。また、シャムの装飾や衣装が実によくできていて感動的である。迷いつつのスタンディングオベーション。
6
ボディガード
梅田芸術劇場
新妻聖子さん主演の回を観劇 65分+20分+65分
元はケビン・コスナーとホイットニー・ヒューストンの1992年の映画である。主題歌の I always love you、あの「アンダアー…」のフレーズは誰でも知っているだろう。この舞台でも新妻さんのエネルギー溢れる歌唱が楽しめる。ミュージカル版は2012年が初演でストーリーは映画版と重要な部分でも違っている。
細かく言うと文句の山なのだが余計なことを考えず、ミュージックビデオでストーリーはおまけだと思っていれば結構楽しめる。オープニングから数曲は音量が大きすぎたがその後はバラードが増えて気持ちよく聞けた。
新妻さんはミュージックフェアで何回か見たことがあるもののあまり記憶に残っていなかったが今日は舞台の全部を持って行ってしまう人だと見直してしまった。新妻さん目当ての方には絶対のお勧めだ。
大谷亮平さんも寡黙で強くて女に優しいハードボイルドの主人公の雰囲気をこれでもかと何層にも上塗りしていて感心した。まあでもこの舞台では何でもそうなのだが分かりやすすぎる。
一つだけ文句を書けば、ダンサーの体型がばらばらで多くは締まりがないことだ。新妻さんの引き立て役では恥ずかしい。劇団四季なら絶対に舞台に立たせてはもらえないだろう。
カーテンコールは長めのライブで、観客の皆さん少し不満があるのかバラバラのスタンディングオベーション。それにしても長すぎるので最後の最後のバンドの演奏を半分にしてほしい。
7
アンネの日
serial number(風琴工房改め)
男性糾弾のメッセージが飛び交うかと思いきやバランスの取れた学びの多い舞台だった。終活に励むような年齢になって女性の生理の勉強をしても学んだ知識を応用する機会がないのが残念ではある。
まあしかし「生理の負担(と出産の苦しみ)がない代償として神はいくつかの能力を男性から奪った。優しい心、他人への共感能力、協調能力、コミュニケーション能力…」と考えると少し男性にも同情の余地が出てくるような気がしませんか。…しないか、残念。
推しの瑞生桜子さんは透明感を保ちつつ大人になっていて、そのまま成長されることを願うばかりだ。他の7人の方々(ひとからげで御免)も役者さんってうまいものだと久しぶりの観劇に感心の連続だった。
おまけ:アンネ株式会社は、かつて存在していた、ナプキンやタンポンなどの生理用品を製造・販売する会社。1993年(平成5年)に東証1部上場のライオン&ユナイテッド製薬(日本)株式会社と合併した。
2002年(平成14年)ライオンが生理用品から撤退、エルディタンポンをユニ・チャームへ譲渡。
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