1
TOCTOC あなたと少しだけ違う癖
株式会社NLT
いやあ面白かった。久しぶりに腹から笑った。
どついたり寝っ転がったり楽屋落ちとかばかりが幅を利かせていて長らく笑いを忘れていたが、そうそうこれだよと記憶喪失症から蘇った気分だ。まあこれも結構下品ですが(笑)
フランス産ということに引っかかる人もいるかもしれないが、かつては音楽も映画も文学もフランス産があふれていた時代もあったのだ。今ではフランス産というとブランド物のバッグくらいのものになってしまったが、シラク元大統領が日本通であったり、フランス人オタクが多いなど、実はフランス文化と日本文化は相性が良いのだ。
ベテランの4人ルー大柴、近童弐吉、中村まり子、山崎美貴の皆さんのうまさには感心するばかり。若手(*)の井上薫さんは飛び道具を得て、魑魅魍魎のベテラン4人と互角に渡り合い、ひと泡吹かせることに成功している。私も若手の役者だったら是非この役をやってみたいと思った。痛快だろうなあ。
(*)井上薫さん、調べてみたら若手ではなかった。むしろ魑魅魍魎の一人(笑)まあ、あそこまで演技ができるには年月が必要だわね。
ルー大柴と分かってチラシを投げ捨てたそこのお嬢さん、騙されたと思って行ってみましょう。きっと新しい世界が開ける事でしょう。カンフェティ席が安くて良席です。
2
わが家の最終的解決(再演)
Aga-risk Entertainment
扱いの難しい題材をコメディーにしようとする度胸・自信に驚き、実際に完成させてしまう力量に感嘆してしまう。しかし世代なのか私の性格なのかこういうテーマには身を正してしまって笑いは控えめになった。
アガリスクも4回目でファミリーも含めた出演者の見分けが容易にできるようになったせいか(内容よりも)各役者さんの演技が印象に残ったので簡単に記しておく。初回のせいか何人もセリフを噛んでいたのがちょっと意外だった。
淺越岳人 「卒業式、実行」では変なOB役でピンとこなかったが、今回ようやく良さがわかった。どんな場面にもスッと入り込むが去った後に影響を残さないという特殊能力。
榎並夕起 浅草の「ナイゲン」ではほとんど存在感のない役で、「卒業式、実行」で燃え尽きた後の充電期間と思われた。今回は出番も多かったが、正統派美人女優は曲者揃いのアガリスクではまだまだ平凡に見えてしまう。私のイメージはリア王の三女コーディリアあたりがピッタリ。ついでに長女=鹿島、次女=熊谷、リア王=藤田のアガリスク版「リア王」なんてのが頭に浮かんだ。
鹿島ゆきこ 主人公の姉。美しく冷静なスパイスを効かせる。
熊谷有芳 最近続いていた中性的な役からフェミニンな魅力を発散するヒロイン役である。お顔もなんとなくふくよかになったような。
津和野諒 ブチ切れ芸は控え目でキモさに徹していた。背中を極端に曲げたときの姿がマンガ的で記憶に残る。
前田友里子 「ナイゲン」の冷静な監査役とは打って変わって、お節介で噂好きの主婦を生き生きと熱演。実写版サザエさんも行けそうだし、ジャパネット・タカタのCMなんかもピッタリ。
矢吹ジャンプ どっしりと落ち着いた執事役がはまっている。大千秋楽にはフォローのセリフがジャストタイミングで決まっていた。
伊藤圭太 理由も分からずひどい扱いを受ける、そんな役回りがうまい。ああ、また「そして怒涛の伏線回収」の長台詞が聞きたい。
前田綾香 明るい良い人だけどすっとぼけたお母さん。悪役も観たいなあ。
山岡三四郎 頭が固くて小心な不動産屋。最後に意外で思い切った発言をして観客も含めた全員を驚かせる。
山田健太郎 気の良い隣家のご主人。うまいものだ。
高木健 ゲシュタポとか憲兵とか応援団とかをやらせると日本一。役に合わせて優しさを出すためか髭を剃っていた。
斉藤コータ 気の弱いゲシュタポ。頼りない主人公を好演。
藤田慶輔 「卒業式、実行」では校長で今回は厳格な父親、ハマり役だ。全体をびしっと締める。
中田顕史郎 大千秋楽には部屋を出るときに小さく例の「考えてみよう」を言っていた。初日も言っていたのかなあ?ルドルフをからかう場面もパワーアップしていた気がする。
甲田守 「卒業式、実行」の卒業生代表。前回に続いて主人公ハンス役のはずだったが事情により降板した。アガリスクのHPにおける彼のレポートを読むとホロコーストについて深く勉強し、ゲシュタポになるために「強靭な肉体」を作ろうと思っているとも書いている。交代した斉藤コータさんとは真逆の方向である。この辺で意見の食い違いがあったのだろうか。以上は完全な私の憶測。
3
死に顔ピース
ワンツーワークス
本当にうまく出来ているなあと唸ってしまった。構成、演出、演技すべてがピタッとはまっている。ただ、お話は全くよくわかるのだが、私自身は都会のマンションの片隅で一人静かに死にたいという思いを強くした。在宅医療よりネット医療が良いし、ロボット看護・介護も早くお願いしたい。
場面転換ではマイケル・ジャクソンかボブ・フォッシーかというようなstop&go的な切れの良い動きが披露される(かなり盛ってます)。オープニングではいくつかのパターンを連続して行うが、それは立派なダンスパフォーマンスになっている。こういう無機的な動きが人間の生死という真逆なものとうまく調和して全体の雰囲気を作っている。クラウンが帽子を下から投げて上で受け止めるのは "Steam Heat"にあるやつで帽子の回転も飛距離も十分で見事に決まっていた。ボブ・フォッシーと書いたのはこれで思い出したのだった。
以下独り言:30乃至50歳代で癌に冒された方は本当に大変だ。癌になったら儲かるくらいの支援があっても良いと思う。一方で70歳以上の方は自然な成り行きなのだから治療などせずに緩和ケアに徹するべきだ。むしろ癌になったことを感謝するくらいの気概を持とう。そして最期はNHKでやっていたオランダでの安楽死のように「皆さん、さようなら」でクスリを入れた点滴の栓を自分で開けて穏やかに消えて行きたいものだ。
4
獣唄
劇団桟敷童子
村井國夫さん降板による休演明けの回を観劇。村井さんは軽度の心筋梗塞から順調に回復とのことで一安心。配役は主役の繁蔵が村井さんから原口健太郎さんになり、原口さんがやっていた花屋の社員山浦は三村晃弘さんに代わっていた。三村さんがやっていた山の地主の親戚の役割は他の方々に分散して割付けたのだろう。
少なくとも前半は粗暴さが目立つ繁蔵は原口さんの役作りが見事にはまって最初からこの人だったとしか思えない。村井さんのおそらく端正さをベースとした演技とはまるで違っていると想像した。もっとも村井さんなら変幻自由、もっと豪快なものだったのかもしれないが。一方の山浦もキーとなる役だが急ごしらえ感はまったくない。
内容は皆さんが書かれている通り、ストーリーも演技も衣装も舞台装置も照明もすべて作り込まれていて圧倒された。マンガで言えば書き込みすぎてほとんど真っ黒になった原哲夫の画のようだ。役者さんでは花屋の社長役の佐藤誓さんのたたずまいが美しく、舞台の品格を一段上げていた。日中戦争もテーマの一つだが重みは観客の解釈に委ねられている。
twitterによると私が大ファンの宮地真緒さんがこの回に来ていたとのこと。おそらく気配を消しているので隣に座っていてもわからないだろうなあ。
yozさんご指摘の件は確かにそうなんですよね。誰かそこはそうじゃなくてこうなんだよという解説をしてくださるとありがたい。
5
パラドックス定数第45項 「Das Orchester」
パラドックス定数
ああ、面白かった。興奮、感動で持病の心臓がちょっとヤバい。最近、私の好みとは大きく離れたものが続いて、演劇を観る気力を失いかけたがこれであと半年は続けるだけのエネルギーをもらった気分だ。
いつもなら歴史的事実との符合を調べている時間だが、それはどうでも良い、全部嘘でも良い、はるか昔の遠い銀河系の話でも良いと思えるくらい力のあるストーリーだった。絶対のお勧め。
6
カーテンを閉じたまま
Ammo
CoRichのランキング1位ということで観に行った。目利きの皆さんに感謝したい。ポルポトの芝居を演ろうという人の勇気には敬服するし、観に行く人が沢山いるというのも驚きだ。
こんなに洗脳の現場をリアルに描けるとは作者は一体何者なのだろう。実は昔、新興宗教かマルチ商法の幹部だったのではないだろうかと思わせるくらい凄みがあった。これは一本の演劇を作る過程を使ってポルポトの歩みを描いたものだが、逆にポルポトを使って演劇の作り方を述べたと読むのは門外漢の考えすぎか。
7
誰そ彼
浮世企画
私の守備範囲では「蓬莱竜太+水木しげる」という感じだろうか。作者の上手さには脱帽だ。こういうものは始めたのは良いけれど終わり方に苦労するように思える。今作では中々の大技で締めくくっている。
役者さんも皆さん達者だ。とくに気弱そうな兄の短時間だけ出てくる高校生(?)時代のチンピラらしい物腰にはなるほどと納得させられた。そして鬼婆の怪しいオーラは男子(とくに私)の周りの時空を歪めていた。
オーギソヨソヨが結界を簡単に破って入ってきたことをもっと噛みしめるべきだった。悔しい。まあそんなに先を予想しながら観る必要もないんだけれどもね(笑)
8
幻想寓意劇 チェンチ一族
演劇実験室◎万有引力
あらすじ 16世紀のイタリアの実話(*)に基づいたお話。チェンチ伯爵が妻や子供に虐待の限りを尽くし、彼らによって殺される。裁判で彼らは最初は父親殺しを否認するが拷問によって認めてしまう。次女ベアトリーチェだけは最後まで抵抗する…。
(*) ウィキペディアの「ベアトリーチェ・チェンチ」の項を参照のこと。
昔の小劇場はこんなにエネルギーに満ちていたのかと驚愕する舞台です。
過剰な演技、過剰な化粧、過剰な音響、過剰な装置の動き…とにかく過剰な演劇です。
圧倒的なイメージの洪水に五感が麻痺してしまいます。
舞台の前方(通路?)に何かがあってそこで何かをしているのですが後方からは全然見えません。
ホームページには「肉体による”暴力とエロス”の饗宴!」などという惹句もありますが、それは天井桟敷の公演のもので、この舞台では何もありません。お父さんたち、そこはお間違え無く。
しかし「スズナリ」の座席は小劇場界でも最低のレベルです。前後の間隔が狭いので一旦落ち着いたら体をほとんど動かせません。この舞台は観ているときは集中していたので苦になりませんでしたが終わったとたん一気に腰に来ました(泣)。
9
YELL!
TEAM 6g
前半はベタな昭和人情物で「今どきこれかよ」と帰りたくなった。後半は死神が出て来るファンタジー物で平成に入ったかなあという感じ。これを直でつなげばせいぜい星3つである。
ところが間に挿入されたビデオ再生モードの2倍速/3倍速には童心に帰って心の底から感動と笑いが湧き出てきた。この心の清浄化によって、普段は大して面白く感じないファンタジー人情物がビンビン響いてくるのが不思議だった。見事にやられたので満足度は星5つしかない。
2倍速モードは皆さん見事だったが特に国土交通省職員の上司の方を演じた平田貴之さんが素晴らしかった。特殊演技大賞をささげたい。
10
かもめ
新国立劇場
私にとっては初めての「かもめ」である。モスクワに住む貴族とその仲間が領地に遊びに行く話というと「ワーニャ伯父さん」と同じで、退屈でどこが面白いのか分からなかった記憶が蘇る。しかし、今作では「男女の愛、親子の愛、夫婦の愛がずれまくる悲喜劇」であることは分かり、その展開を楽しむこともできた。
私が退屈しなく済んだのは「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」の作者であり、映画「恋におちたシェイクスピア」の脚本を書いたトム・ストッパードの英語上演台本を基にしていることも大きいのだろう。他の「かもめ」を知らない私は想像するだけだが「かもめ」通の皆さんはそこも楽しむことができるのではないか。
俳優の皆さんの演技は、個々のキャラが立っているのに嫌味がなく、自分を出しつつも他は邪魔しない。どこか上手くできすぎている感じがしたので終演後にパンフレット(B5版モノクロ44頁800円)を買って読むと、キャストはフルオーディションで決めたのだという(先に調べろよ→自分)。「今回のオーディションでは6週間をかけ、応募総数は3000人超、直接会った方だけでも860人の中から、…」なのだそうだ。すり合わせながらの人選であればこうなるのも当然だ。
108分+15分休憩+47分 = 2時間50分 の長丁場であるが、原作の1,2,3幕を前半とし2年後の4幕を後半としている。二つに分ければ自然にこうなるが、この配分はなかなか良い。ちょうど気力がなくなるころに休憩になり、半分回復したところに短い後半で余力を残して帰宅できる。
チェーホフが面白いと私に教えてくれたことを考慮すれば満足度は星5つだ。