Naoki007が投票した舞台芸術アワード!

2023年度 1-10位と総評
天召し -テンメシ-

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天召し -テンメシ-

ラビット番長

実演鑑賞

いやー、面白かった、泣けた
確かに「棋譜には人の生き様がある」
伝説の真剣師「新宿の殺し屋」小池重明と夭折した天才棋士「怪童」村山聖
現実には羽生善治が接点となる特異な将棋指しふたりを義理の親子というフィクションにして勝負の世界を描く
池田(小池)の「死ねないから生きている」は彼の生き方を示しているのかなぁ
キャストみんないい味出していたし、セットも綺麗にできていた
そのセットを上手く使った舞台転換もテンポ良かった
しかしすべてホンが持っていったかな

六英花 朽葉

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六英花 朽葉

あやめ十八番

実演鑑賞

大正から昭和の初めのエンターテインメントを席巻した活動写真の栄枯盛衰
2時間15分という時間があっという間に過ぎた
久しぶりに途中で一度も時計に目をやらなかった
文句なくこの数年間で最高のエンターテインメントだった
あやめ十八番を初めて観たのはここで5年前
それから観た中での最高傑作
なんといっても堀越涼のホン・演出が弛緩なく素晴らしい
早めの場面転換のテンポも良く、息つく暇を与えない
キャストもそれに十二分に答える
音響、演奏、照明も文句なし
セットもこのハコの空間を実にうまく生かしていた
久しぶりに台本買って帰った
朽葉の最後のセリフ「幾ら言葉を重ねても映画の結末は変わらない。ならば、我々辯士の職務は、物語を肯定し続けることであると。・・・」に尽きるのかな

レプリカ

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レプリカ

ハツビロコウ

実演鑑賞

ハツビロコウはこれまで海外の古典と言っていい戯曲の上演を観てきたので、こうした日本の現代もの、しかもサスペンスは新鮮だった
キャストは迫キャストは皆好演で、自分の立場が変わるに連れ変化していく表情が見事技だった
照明、音響、美術もこの内容を表現する上でまさに的確なものだった
ハツビロコウ、松本光生さんの多様な力量に感心する
ともかく「固唾を呑んで」という表現がぴったりの2時間あまりだった
物語はちょっと「罠」を思い出すところもあるのだけれど(どんでん返しの連続という意味で)、もっと暗く、常に「狂気」をはらんでいる

松田さんは開場時から舞台上にいて、暗い中で時々動いている
雷鳴が轟くと稲妻が走る
後から考えると「ああ、なるほどな」と思う冷蔵庫のドアの開け閉めなどといった布石もある
開演後も窓はカーテンを閉めたままという設定に従って照明は暗いままで進行する
特に前半は懐中電灯やランプが使われ山小屋風である
否応なく緊張感が増す
プレゼントの人形が「レプリカ」で象徴的

マギーの博物館

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マギーの博物館

劇団俳小

実演鑑賞

演技(表情)、舞台美術、照明、音響どれも素晴らしく、しっかりとこの壮絶な闘い(貧困との闘い)を描いていた
貧困の悲しさで胸がいっぱいになる
「聖なる日」のディジュリドゥの音色に対し今回はバグパイプが通奏低音
ともかく息つく余裕もなく見入った2時間15分
加賀谷崇文と小池のぞみは大男とチビという原作にピッタリの配役
4人ともよく声が通っていた
そしてしゃべれぬおじいちゃんの大久保たかひろが木片をたたいて意思表示をする様が実に良く表現されていた

ムッちゃんの詩

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ムッちゃんの詩

7どろっぷす

実演鑑賞

今月ふたつ目の語り継ぐべき話の舞台
両方とも観客の年齢層高めだったが、もっと「語り継がれる」若い人達に観てほしい
映画化もされた、終戦直前大分県の防空壕で実際に起こった、6歳の少女と結核を患う12歳の少女の純粋でそれ故あまりに悲しい話
声優中心の朗読劇なので、子どもの声色が見事で、またその方言が一層切なくなる
舞台は正面スクリーンに物語に沿った水彩画が投影されるだけだが、照明が絶妙な効果をもたらしていた
ふたりとも京都と横浜から戦火を逃れて来ながらまたここで悲劇に会う理不尽
やっぱりね、戦争はこういう子どもたちを犠牲にしていくのだよ
自分は子どもの頃さんざん親や祖母から空襲の体験を聞かされたけど、そうした伝承のない世代の意識がどうなっていくのか心配になる
白いご飯も食べられなかった子どもにたむけられたあかまんま(イヌタデ)の花言葉は「あなたのために役に立ちたい」

ゆらりゆられ

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ゆらりゆられ

teamキーチェーン

実演鑑賞

キーチェーンの舞台は相変わらず温かい
いつもこんな家族で会ったらいいなと思う
善人しか登場しない(決して批判的な意味ではない)
周囲のすすり泣きの海
しかし決して暗くは終わらない
舞台の諸処をうまく使った細かい舞台転換で観る側にも休む間を与えない
それを活かす照明、音響も素晴らしい
キャスト皆好演だったが、ALSになった母親を演じたわかばやしめぐみの病状の変化も的確に表現する演技には脱帽
もう一人のALS患者役の田名瀬偉年も良かった
ああした演技はさぞ難しかろうと思うのだが

無法地帯

7

無法地帯

藤原たまえプロデュース

実演鑑賞

藤原たまえプロデュースははずれがないけど、今回のが一番好きかな
10人のおっさんたち最高!
みんな生き生きとした演技で、最前列中央で観ていたけど表情が素晴らしかった
セットも壁面のくすみ具合含め良くできていた
最後はなんかほろ苦くなったけど、学生時代と若いころの地方勤務時代に寮生活を経験したおっさんとしては、なんか最後にもう一度共同生活してみたくなった
久しぶりにもう一度観たいと思わせてくれた
気になったセリフ(不確か)
・「普通の人もみんな『前科者』じゃん、誰かしら傷つけてるでしょ」
・「なんでいい感じの時に終わるかなぁ」「欲張りすぎるんでしょ」

さすらう

8

さすらう

劇団BLUESTAXI

実演鑑賞

良かった、唸った、重かった
プロットがすごい
重層的な話がひとつにまとまっていく

キャストの表情が良い
特にメインの男優3人
母を亡くし、父を探しに出かける知的障害のある男と、児童養護施設で育ち、やさぐれているヤクザまがいの男が出会い、周囲の人間を巻き込んで起こる様々な出来事
認知症になった父を抱え苦悩する母と娘
やがてこのふたつの線路が鳥を鍵にして交わる
最後に正気になった父の取る選択・・・

大谷さんさすがの貫禄で細かな表情の変化を見せた
森脇さんなんとも言えない悪になり切れない、哀愁とやさしさを持ったアウトローを表現した
木野くんは2時間見事に障害がありながら独特な感性、鋭さを持つ役を演じきった
鈴木さんダンスも披露し、ちょっと考え足りないが人のいい女の多彩な表情を見せてくれた
山口さんの苦悩する表情もなかなか

ワーニャ伯父さん

9

ワーニャ伯父さん

ハツビロコウ

実演鑑賞

国内外の優れた既成戯曲にフォーカスして公演を行うハツビロコウ
前々回に続きチェーホフの戯曲
このところ連続して観劇、安定のクオリティを示してくれているが、今日も十分満足のいく初日だった
キャスト全員の表情が良い
主役級以外ではマリーナの深町麻子も渋い演技だった
相変わらず暗めの照明がチェーホフの世界に合っている
最小限だが的確に作られたセット
舞台転換は暗転の間にそのテーブルや椅子を動かすだけなのだが、その時流されるギター曲が実にマッチしている
ちなみに最後のソーニャの宗教的セリフにかぶされたのはフォーレのレクイエムのギター演奏だった

月光の夏

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月光の夏

劇団東演

実演鑑賞

映画化もされた毛利恒之の小説の朗読劇としての舞台化
もう20年も毎年終戦記念日にあわせて上演している
出撃を前に小学校にグランドピアノを弾きに行った特攻隊員ふたり
ソナタ「月光」を弾いた音楽学校生は海の藻屑となり、その譜めくりをして海ゆかばを弾いた師範学校生はエンジン不調で引き返したのだが、その後は・・・
死ぬも地獄、生きるも地獄とは言うけれど、待っていたものはあまりに過酷
しかし、ついに口を開いてその間の事情を語り始める
使者に口なし
ならば生き残った者が語るしかない
セリフでも出てきたように、戦争責任をあいまいにしたまま復興した日本には全体主義、軍国主義の根が残っていて、いつ頭をもたげるかもしれない
それを防ぐには戦争の悲惨さについて語り続け、世代を継いでいくしかない
朗読劇と言ってもかなりの「演技」があり、途中まで特に岸並さんのそれは過剰かなと思っていたのだが、徐々にその効果を認めざるを得なくなった
いずれにしてもいかにも演劇人の朗読劇だった
仲道さんの弾く最後の月光を聴きながら、そうだ知覧に行かなくてはと強く思った
我々は戦争を直接経験したわけではないが、子どもの頃からそうした人たちの話を聴いて育ち、いわゆる傷痍軍人を目にする機会もあった世代である
語り伝えねばならない

総評

コロナも落ち着きつつあってか観客も劇場に戻ってきて、見ごたえのあるものが多かった

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