タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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ニュータウンの影

ニュータウンの影

俺は見た

サンモールスタジオ(東京都)

2019/04/23 (火) ~ 2019/04/28 (日)公演終了

満足度★★★★

ニュータウンは2つの場所を意味するようだ。それが仙台-東京(多摩ニュータウン)であり、2か所または3か所を映画のカットバックのようにして描く。そして影とはもちろん人を指すが、自分のこと、家族のこと、そして第三者という色々な観点から描き出す。優しき隣人が実は狂気を…そんな緊張感ある公演は観応えがあった。
(上演時間1時間45分)

ネタバレBOX

セットは、この家族・一戸家のダイニングと居間がメインで、上手後方奥(2階)には、この家族と因縁のある男のアパート。下手客席寄りに、一色家の長男が暮らす東京のアパートをイメージさせる空間、そして舞台と客席の間は街路のようだ。この舞台には音響効果がない(アフタートークで説明)ため、居間にTV、長男が住んでいる部屋にもTVがあり、ときどき野球中継などを映し音を流し込む。ダイニングには食器棚(小物も収納されている)、テーブル等が置かれ雰囲気作りは上手いが…。

この公演、俚言で演技しているにも関わらず、生活感が伴わないのが不思議なところ。食卓を囲んだ食事や歓迎シーンは一家団欒をイメージするところだが、この家族にはそれぞれ思惑がり、本音で語り合えていない。仙台という土地柄のせいだけではなく、封建的な父親-自分が気に食わないことがあれば殴る。それにじっと耐えてきた母親、長男は東京で定職にも就かずモデルと称して年上の女の部屋に居候し金をせびるヒモのような生活。妹は外国人と付き合い、いずれアメリカで生活したいと思っている。弟は地元優良企業に就職したが、スターになりたい夢を諦め切れず、会社を辞めて出勤のふりをして街中をブラブラしている。日々をなんとかやり過ごしていたが、ある日それぞれが抱えていた鬱積が爆発し一気に家族崩壊へ向かう。

この地から出て自由なことをしたい、その根底にはその地方の閉鎖性、家庭内での暴力による押さえ付け(封建制)から解放されたいという思いの表れであろう。弟は長男が家を出て東京で暮らしているという嫉妬、羨望を抱く。妹は恋人が外国人(中東=イスラム過激派という印象⇒家族・本人もアメリカへ移住したが苛めにあう理不尽)ということでの偏見に悩む、子の気持ちを理解しない父、訳ありに子供に金を無心する母、それぞれの心の傷のようなものをしっかり描く。
この家族に長男の同棲相手や妹の恋人が絡み、夢と焦燥、差別と偏見といった「人間」と「社会」の問題を浮き彫りにしていく。一人ひとりの心の襞を撫でるような丁寧な描写は上手い。そして東京から来た謎の男が仕掛ける悪意が家族を崩壊させていく展開へうまく繋ぐ。

脚本は面白いが、演出と演技に弱い所があるように感じた。例えば、食卓は生活空間を表す重要な場面であるが、食器棚の小物を使用せずただ飾っているだけ。だから”生活感”というリアリティが感じられない。また家族(特にラストの母親の独白は圧巻)や謎の男の存在感は出ているが、ストーカー行為における加害者・被害者の関わりは、謎の男の狂気を引き出すため?もしくはラストの清算に向けた伏線であろうか。この演出と演技が弱いようで残念に思えた。
次回公演を楽しみにしております。
バラ色の人生

バラ色の人生

TEAM 6g

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2019/04/24 (水) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★★

特別養子縁組制度の制定のきっかけになった出来事を題材に描いた本公演、実に観応えがあった。物語は現在と特別養子縁組制度が出来る以前(1970年代?)を往還するような展開であるが、2つの時代はもちろん時間的に繋がっているが、それよりも”心”が繋がっているという思いが観ている人の感情を揺さぶる。
観せ方は、理由あって自分の出生を知りたい女性、その現在と生まれた時(過去)は時代も状況も違うし、まだ母・娘の関係の展開が出来ていないため場面の描き方が違う。その意味で、2つの時代は別々の物語で紡ぎ、”心”という目に見えない”絆”で時代を結ぶという巧みな演出は見事。
(上演時間2時間10分)

ネタバレBOX

セットは、上手・下手にBoxを不規則に積み上げたようなものがあり、客席寄りの上手にソファー、下手には水商売のカウンターがある。後景は白壁であるが、後半以降にスクリーンに代用される。Boxの不安定さは、人生そのものを思わせる。順風満帆と思っていても、主人公 吉沢カスミ(阿南敦子サン)のように癌が再発し、叔母から血の繋がりがないから相続放棄するよう言われたり、思ってもいない事が次々と...。

梗概、自分の実親とは? その思いを遂げるため自分探しを始める。特別養子縁組制度が制定される前のこと。戸籍上で辿ることが出来ないもどかしさ。一転して1970年代へ場面転換する。そこでは何らかの事情で妊娠し、我が子として育てられない問題を抱えた女性を何とか救済したい。堕胎させないで、生まれた子を逆に引き取り育ててくれる人に託す、当時としては非合法な行いをしている医師、それを取材しているジャーナリストが登場する。その場所がゲイバーであり、壁に貼られている映画ポスター2枚が重要な役割を果たす。それは「ローマの休日」「麗しのサブリナ」であり、特に「麗しのサブリナ」でサブリナに扮したオードリーヘップバーンの台詞「人生は自分の手でつかむのです。恋も同じです。」が繰り返し言われる。ゲイバーで働く女性とその恋人の悲恋、さらにカスミの実母が生まれてくる子を思う心情が実に細やかに描かれる。

タイトルはピアフの楽曲の原題ラ・ヴィ・アン・ローズ=「バラ色の人生」であり、ラストにはバラ5本にちなんだ我が子への思い - あなたに出会えて良かったと結ぶ。観客の心を揺さぶり余韻を残す見事な結末(この結末へ導いたのも”ラ・ヴィ・アン・ローズ”とあるペンダント)。この物語はカスミの夫、息子の心温まる家族愛も観せる。気弱であるが妻思い、ぶっきらぼうな息子だが、真実は告げない優しさ、見えているものがすべてではない。その約束は「ローマの休日」のアン王女に扮したヘップバーンの台詞「人と人の友情を信じるように」を連想してしまう。

脚本は面白いが、それを具現化する役者陣の演技力がなければ果たせない。それぞれのキャラクターや立場を立ち上げ、状況説明・情況表現をしっかり行う。そのバランスが絶妙であった。この公演では、特別養子縁組制度という重くなりがちな話を映画にちなんだ台詞や音楽の妙味を取り入れ(上映)、さらにゲイバーという少し異色な場所で展開(緩和)する絶妙な演出が素晴らしい。

次回公演を楽しみにしております。
Pancetta 9th performance “Plant”

Pancetta 9th performance “Plant”

PANCETTA

調布市せんがわ劇場(東京都)

2019/04/19 (金) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★

第9回せんがわ劇場演劇コンクール・オーディエンス賞受賞公演。昨年のコンクールを観ており、その時と違って公演時間は長く(2作品=受賞作品“Parsley”と昨年外部公演にて披露した“Hana”を新たなバージョンにし、本公演のタイトル“Plant”に)なり何となく伸び伸びと演じているように思う。やはりコンクールは制限時間の中で演じるという緊張感が漂うが、逆に開放感というか自由度が感じられない。コンクール形式または本公演であっても、シュールな印象は同じ。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

基本は素舞台であるが、中央に四角い穴があり出入りにも使用する。この穴は地中をイメージさせるものであり、そこに”hana"がある。花が咲くまで”華”がないと嘆いているが、その開花するまでの悶々とした思いを描く。登場人物ならぬ5つの花びらは、中央の穴から上半身を出し次々と咲いては枯れていく。枯れると分かっているのに何故咲くのか?役者の咲き枯れの歓喜と落胆の表現が実に上手い。人は生まれた時から死に向かって歩みだす、まさに生まれ出ずる悩みであり、生きていく中での哀歓が描かれているようだ。

鶴の恩返しのような民話の筋書き...それは見ないこと→無関心を意味するような。もう一つの筋書きは合理的な考えの彼女との付き合い→無駄の排除を表す。この2つの筋書きが絡んだ物語は、どちらにも何となく潤いがなく味気ない。この感覚から”華”がない、可愛げがない=合理的とこじつけると納得できるような流れである。
役者のコミカルな動作、豊かな表情は観る者の気を逸らさない。素舞台だけに個々人の演技力とバランスの良さが印象付けられる。

この公演回は、就学前の子供の入場も可であった。敢えてこの回を申し込んでみたが、幼児の声や動き回る気配はするが、それでも芝居は楽しめた。舞台と客席の間にマットを敷き、父母と幼児が座って観られる。マットだから多少動き回っても音は気にならず、子供の自由を奪わない。そして暗転時も真っ暗にすることなく薄暗がりにし子供が怖がらないような配慮をする。なにより前説で脚本・演出の一宮周平氏が「子供が騒ぐのは当たり前、その声は音響の一部と思ってほしい」と...このような姿勢が、子育て中の方にも演劇を楽しんでもらえる機会を作るのだと感心した(子供の声が気になる人は別の回を観るだろう)。
次回の本公演も楽しみにしております。
注意書きの多い料理店

注意書きの多い料理店

TOMOIKEプロデュース

ブディストホール(東京都)

2019/04/17 (水) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★

人や店のビジョン、コンセプトを底流に描いた喜劇は楽しめた。描きたい内容は何となくわかるが、演出が喜劇としての祝祭性というよりは騒々しいという印象をもったのが残念だ。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

舞台は「レストラン風野」の店内…上手にカウンター、中央や下手奥の一段高くなったところにテーブル席。下手壁には切子細工が施されたガラス窓があり洒落ている。中央が出入口であり、外には蔦が絡まるような風景が見える。そしてカウンター傍にこの店の看板料理”高級ツナチーズハンバーグ”のメニューが掲げられている。

梗概…看板料理に虫が混入していたとクレームが、その対応のまずさからネットに誹謗中傷が書かれ店は閉店。その後、大手チェーンの傘下店として再びレストランを開業しよう…という始まり。その開店準備に忙しい時に幽霊騒動が起きる。幽霊が見える人、そうでない人がいるが、そこには緩い理由付けがある。その理由がこの公演の根幹を示す。
登場人物が一通り紹介されたところから、除霊、店長とバイトとの浮気、クレーマーと揉めて店を辞めた男との確執、店長の妻(この店の親企業・大手チェーン店の部長)の高慢さ等の挿話を絡めた騒動が起きる。誤解や勘違い、そしてエゴや自尊心など人の渦巻く感情をワンシーンへ放り込む。その観せ方は喜劇の賑やかさというよりは単に騒々しいだけといった印象だ。それを収束させたのが幽霊の想いという現実味(説得力)のない方法で、あまりに安易で残念だ。

冒頭のクレーム対応に観る、店(長)としての毅然とした姿勢のなさ、幽霊になった女の夢、見ているだけで元気になれるような女優を目指すといったあり触れた気持ち。両人に共通しているのは、確固たるビジョンとコンセプトを持ち合わせていないこと。くり返し出てくる「コンセプト」という台詞、そこに込められた信念のようなものがあれば、いろいろなことに振り回されることはない。そして誰もが望む、誰かの役に立っているという確認。幽霊女の曖昧な女優志望動機、幽霊が見えるレストラン店員のバンド活動の中途半端さ。そこにはまだ何者でもない人の不安定さ哀感を観ることができる。
物語は人の弱みを見せ、そこからスタートまたは再出発するような力強さ。何らかのかたちで人の役に立ったという自己肯定感を得て成仏するハッピーエンド?はしっかり楽しめた。
次回公演を楽しみにしております。
ミラクル祭’19(ミラフェス’19)

ミラクル祭’19(ミラフェス’19)

新宿シアター・ミラクル

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2019/04/20 (土) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★

短編の面白さが上手く表現されていた2作品。その作品はジャンルやキャスト数において異なり、1粒(公演)で二度美味(楽)しいといったお得感ある公演だ。上演開始が20時と少し遅めだが、上演時間75分とこちらも短め(手頃?)で、自分にとっては終電を気にせず観劇することができた。

A ver 観劇
『ペルソナ・サークル』(脚本・演出 目崎剛(たすいち))
『海月は溶けて泡になる』(脚本 加糖熱量(裃-這々)/演出 池田智哉(feblabo))

ネタバレBOX

『ペルソナ・サークル』
※決してネタバレしてはいけません…!の注意書きは守れているでしょうか?

セットは無しの素舞台。役者が状況に応じて小物を持って現れるだけ。説明だと山奥にある小さな村の大きなお屋敷ということだが、その情景は浮かんでこない。作品の根幹には影響しない。その山奥に探偵がやってきた時、偶然にも事件が起きる。その事件...密室・死体消失・奇妙な風習・目撃者は猫というクローズドサークルで起きたとある。
さて人は、自分自身の存在を客観的にどう証明するか。
生きていることは見ればわかるが、それ以外のことはどう実証するか。運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等、何となく第3者(または公的機関)の証言等による。自分の存在を証明するのが人任せといったあやふや、不確かなものという不安を面白可笑しく描いた作品。
登場人物(13人)をキャスト(8人)が演じ分ける、そのコミカルで軽妙な演出に潜む世界は、逆に少し怖い気がする。

『海月は溶けて泡になる』
何を訴えているのか…最終的にはエリという女のプライドの高さ、傲慢な姿が浮き彫りになり、持って行きようのない口惜しさ、哀しみの叫びが浴室に響く。
話の流れから、男女の性別に対する固定観念、性的少数者(≒LGBT?)への偏見への批判のような理屈の世界に陥りそうになる。しかしこの話は普通にありそうな、恋人同士の同棲生活に姉弟という家族を放り込んで観せることで人の感情が泡(粟)立つ面白さを表現する。まるで親しい家族が闖入者のように思える怖さ。
セットは同棲男の部屋...腰掛高さの位置に敷布団、客席よりに折り畳み式のミニテーブル。登場人物は3人、室内空間での濃密な会話劇はある種の迫力と緊迫感が漂い楽しめた。

両方の作品に共通していると思われるのは”怖さ”であり、人が持っている潜在的な不安、裏返しのような傲慢をそれぞれの観せ方で演出しており上手いと感じた。
次回公演を楽しみにしております。
今、何時?

今、何時?

スナック来夢来人

北池袋 新生館シアター(東京都)

2019/04/10 (水) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★

若いキャストが一生懸命演じる姿は好感が持てる。現在・過去・さらなる過去という3つの時代の3人、その同一人物を9人のキャストで担う青春ドラマ。時代を往還し、今の状況に至った謎を順々に解き明かす展開にしたかったようだが、やはりラストに一挙に説明したという印象は拭えない。
お分かりの通り、本編にはスナックなど出てこない。マドカママの前説を含め、本編がスナック来夢来人におけるショーと捉えれば、劇中劇という設定にもなるが…。
(上演時間1時間20分)

ネタバレBOX

素舞台で3つ時代を表現することは難しかったようだ。3人の登場人物を3つの時代ごとにキャストを変えて時系列的に描く。そのためキャストのキャラクターだけでは表しきれないため、キャップを被ったり、メガネをかけたりして外見的な特徴で区別する。演技は、若いキャスト=経験が浅いのか、観客の感情を揺さぶることが出来ていない。もっともポップ調で感情移入させるような展開、雰囲気でもないが、それでも観入るという点では弱いと思う。

物語は①学生時代からの仲良し3人組。校長像へ悪戯した思い出話②それぞれの事情で経済的に困り、ヤクザがらみの闇金融から借金し、その返済に追われている。そこでオレオレ詐欺を企てるが…。③結果的に刑務所に入り、そこでの作業に従事している。3つの時代というか、先に書いた順番とは逆だが、さらなる過去・過去・現在という場面が、①・②・③という設定である。どうして刑務所に入ったのか、そのターニングポイントが②の詐欺行為を実行しようとしたところにあり、ラストで事件の真相を語る。

演技は拙いところもあるが、逆にそれだけ伸びしろがあるということ。現在の魅力は明るく元気、その若さ弾けるような躍動感にある。その表現がダンスであり、走り回る姿であろう。素舞台だけに、役者の演技を盛り上げるため、もう少し照明や音楽・音響といった舞台技術で工夫を凝らしてほしい。
次回公演を楽しみにしております。
チョコレートケイキ

チョコレートケイキ

春匠

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2019/04/12 (金) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

無言劇ゆえ、沈黙の圧のような緊張感漂う作品。死刑執行までの粛々とした行為が逆に刺激的に感じられる。
さて、自分の席(2列目、中央やや下手寄り)から観えた気になることが…。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

舞台は拘置所内、中央上部に監獄であり死刑台イメージ、上手側に小部屋を思わせるテーブルと椅子、下手側に刑務官控室、監視モニターがある。刑務官は制服を着て謹厳実直なイメージ。それ以外の人物は医師と宗教師か。全体的に薄暗く、冒頭は刑務官が暗闇の中をライトを照らしながら入ってくる。

心の叫びのような…唯一、刑務官が小声で喋るシーンは、彼の口を借りた死刑囚の贖罪うわ言のような…。それに連動して、それまで背中を見せていた女が正面を向き血まみれの姿を見せる。死刑囚、刑務官の終始無言は、ラストの贖罪というシーンを印象付ける効果をもたらしているかのよう。具体的に犯した罪の内容やそれに至った状況等は分からないが、むしろ死刑執行を待つだけの男の現在、その淡々とした姿、佇まいが緊張感を生む。もちろん、薄暗い照明、制服姿の刑務官の存在、そして始終無言という雰囲気は圧倒的な緊張感を漂わす。
演技には、刑務官の職制上の上下関係(徽章の違い)を表すような態度が観られ、細やかな動作にもリアリティが感じられた。実力者ぞろいの演技は迫力があり、物語への集中力を高めてくれる。

女-被害者(妻であろうか?)は死刑囚の心にある心象形、それゆえ実態がないと思うが、たまたま自分の席から刑務官控室の監視モニターが見え、そこに女の姿が映る(映画なら女が映らない別撮りしたものを使用するだろうが、演劇ではそれが出来ずやむを得ないか)。その見えないはずの女が映るという不自然さは勿体なかった。

他劇団に暗闇劇という、視覚ではなく聴覚を研ぎ澄ませて劇を愉しむものがある。この公演はその逆で、無言であるから視覚と役者の息遣いで芝居を堪能することになる。人間の五感のうち、聴覚がなくても芝居は堪能できる。その意味でライブという演劇の素晴らしさを再認識した。
次回公演を楽しみにしております。
検事と犯人のフィクション術

検事と犯人のフィクション術

東京パイクリート

Geki地下Liberty(東京都)

2019/04/10 (水) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

この公演の魅力は場面転換をスピーディに行い、物語をテンポ良く観せる。そして壁に飾ってある額縁内にピストブラムのような絵文字・記号があり、それが物語の場所や情景を暗示している。その額縁の変化(場所の移動や有・無)によってシーンのセットが変わるという関連付けが巧み。
基本的にコメディであるからテンポは重要で、この良さによって観客の集中力を引き付ける。もちろん物語の内容も面白い。
(上演時間2時間) 2019.4.28追記

ネタバレBOX

舞台美術は、中央に出入口、左右の壁に小さな飾り額縁が掛けられ、その中にピストグラムのような絵記号。例えばタクシーの絵や検察官の徽章などである。冒頭、中央には変形の箱馬が積み重ねられている。場面転換ごとにそれを移動し、タクシーの中、スナックや接見室を作り出す。またこの会場の出入口の上部に別スペースを作り、場所や時間という空間の広がりを作り出す。全体的に状況設定の演出が巧みで、その結果良いテンポを生み、芝居を心地よく観せる。

梗概…実演販売員・猪戸 佐平次は、流れ者であるが出会う人間とすぐ仲良くなり北国・四色郡に居着いてしまった。ある日、佐平次は「銃刀法違反」で警察に捕らわれる。彼の部屋から拳銃が見つかったが、まったく身に覚えがない。四色郡で親しくなった人たちが佐平次の無実を証明しようと奮闘する?他方、佐平次を担当することになった検事・小田桐 啓も不自然に逮捕された佐平次を救おうか救うまいか、良識と組織の板挟みに遭って...という展開である。

公演の魅力は、何といっても登場人物のユニークなキャラクターとテンポの良さが観る人を飽きさせないところ。情景や状況は箱馬のようなセットの移動等で分かり易いし、人物造形は身近にいる人をデフォルメして、あぁそんな人いるなと納得させる。物語は謎の解明に近づいたり足踏みしたりするが、徐々に事件の核心に迫る。しかし逮捕された佐平次は拘置所内にいるから、その進捗がもどかしく接見時における説明と哀願に終始する。その心情は泣くではなく何故か笑ってしまう、という喜劇の醍醐味を感じる。何故か佐平次が外部の人と繋がっているように思える。それはピストグラムのような絵記号が場面構成の手助けを行い、今の場所と次の場所をしっかり繋ぎ、そこに居るのが当たり前という雰囲気を作るという見事な演出である。

警察内の悪事と隠蔽、それを検察上層部も見て見ぬふり、それどころか庇おうとするような動きをする。権力側と小市民といった対立構図、圧倒的に不利な状況下で何とか事件解明に尽くす人々、その荒唐無稽とも思えるような姿や行動に清々しさを覚える。また検察内部における良識派検事も覚醒していく過程が痛快である。弱気を助け強気を挫く、という物凄く分かり易い物語であるが、十分楽しめた。
次回公演を楽しみにしております。
薄布

薄布

天ノ川最前線

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2019/04/11 (木) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★

公演は生活感のない、どこか乾いた印象をうける。フライヤーには現代的なアングラを模索してきたが、今回はヒップポップな新境地といったことが書かれている。何となくスタイリッシュで、感情というよりは自分を見つめる心象劇のようだ。しかし悪くはないと思う。
(上演時間1時間15分)

ネタバレBOX

セットはタイトルの薄布のような映写幕があるだけ。シーンに応じてテーブルや椅子が運び込まれる。説明からすると舞台は”東京の街”のどこかということになるが、その情景は浮かんでこない。ただ乾いた印象から、”東京砂漠”というフレーズを思い出す。

梗概…平々凡々なサラリーマン生活を送っている主人公、その友人で起業して成功している者やカフェバーを経営している者、さらにはひょんなことで知り合ったラッパー仲間など、様々な人々との触れ合いを通して自分自身を見つめ成長しようとする。ラップという韻律を利用して、自分の気持を吐露する。普通の言葉で言い表せない、それをラップに乗せることによって心の自由が得られるという。

ラッパー仲間と自分の本音表現を言い争う場面は、その気持(心)の正当性を相手に押し付ける、またはマウントするようで本音=自分勝手のように思える。また心の問題を捉えていることから、心療内科のカウンセリングシーンはシュールだ。
友人との関係も親しくありたい、しかしある程度の距離も保ちたいという微妙な心理。若者の日常断面を切り取り、瑞々しく描いた一種のサブカルチャーのようだ。

自分の気持に正直であること、同時に相手(友人)の話にも耳を傾ける。それぞれがグループを成し勝手に喋っている場面がある。芝居の台詞としては聞き難いが、実際にはこの騒然とした場面の方がリアル。芝居と現実、どちらの観せ方に重きを置くか、または優先するかは劇作家の思い、そこに観客の理屈は不要かもしれない。この公演、序盤は緩いテンポで説明調の台詞回しに違和感を覚えたが、中盤以降は相手の気持と言いながらも自分勝手な人間の本性が見え隠れする。そんな物語性がはっきりして面白くなった。
次回公演を楽しみにしております。
ヒトハミナ、ヒトナミノ

ヒトハミナ、ヒトナミノ

企画集団マッチポイント

駅前劇場(東京都)

2019/04/10 (水) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

タイトルが公演を端的に表している。説明文にある「一人の職員が利用者に対して性的な介護をしているという噂が…」とあるが、公演の底流にあるのは、介護施設における介護者・利用者の苦悩や介護施設が抱えている様々な問題を鋭く突いた人間ドラマ。
随所に可笑しみも散りばめられているが、圧巻は心情優先と規範順守という相容れない感情のぶつかり合い。どちらの言い分も解るような…。
(上演時間1時間40分) 2019.4.28追記

ネタバレBOX

セットは隙間のある板塀のような後景、客席寄りにテーブルと椅子が2セット並んでいる。上手にはこの作業場の仕事である黒インゲン豆が入った箱がある物入が置かれている。あまり障碍者支援施設併設の作業場という生活空間は感じられない。セットは作り込まず、むしろ簡素にすることで、逆に人間の在りようを強調させているかのようだ。

梗概…ある地方都市にある障碍者支援施設併設の作業場で、社会参加とこの施設の運営費を賄うために、近所の窓岡農園から黒インゲン豆の芽を取る作業を請け負っている。納期が明日に迫り、過密労働になっているから職員は疲労と不満でピリピリしている。そんな中、夜勤明けの職員が施設の利用者と外出したことから、以前からあった良からぬ噂が噴出し...。

公演の見所として、新人職員とこの妙な噂のあるベテラン職員の議論が生々しい。介護施設を利用する人、そこに健常者と障碍者における”性”の扱いに違いはない。確かに新人職員が言う施設のルールは守らなければ人は行き場を失い、施設は信用を失うだろう。一方、障碍者も人であり性欲もある。ベテラン職員は、この施設とは別の施設で勤務していた時に、そこの利用者の母親から切実な相談を受けた。きれいごとだけでは解決できない問題をルールとの間でどう折り合いをつけるか、それは自分自身へ自問自答であり言い訳でもある。その葛藤が痛々しく伝わる。2人の立場と心情は問題を鮮明にすると同時に、どちらも障碍者に真摯に向き合っていることが窺える。繊細で丁寧に救い上げるような台詞が観ている人の感情を揺さぶる。

演出と演技が実に良い。新人職員・美並(税所ひかりサン)と噂の職員・崎田(加藤虎ノ介サン)の丁々発止。特に加藤サンは現場における理不尽や矛盾、一方で情に揺れる内面を丁寧に演じる好演。また重苦しくなる雰囲気を安澤職員(竹内郁子サン)の軽妙な存在感で緩和させている。障碍者施設というと当たり障りのない描き方になりそうだが、本公演は正面から向き合い、矛盾・差別・偏見などをしっかり問いかけた力作。実に観応えのある公演であった。
次回公演を楽しみにしております。
YESTERDAY ONCE MORE

YESTERDAY ONCE MORE

劇団アルファー

武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)

2019/04/11 (木) ~ 2019/04/15 (月)公演終了

満足度★★★★★

2018年12月(現在)から1988年12月(30年前)へタイムスリップし、あの時こうしてい”たら”、こうしてい”れば”という「たら れば」の世界。誰もが一度は思う、「あの日あの時に戻れたら」という夢のような出来事が…。その時代の世相を現し、必死に生きていた自分と身近な人々に邂逅する。日本経済が激変したと言われる節目の年、未来の自分が客観的に見ていることに苛立ちやもどかしさを覚える。そして思わず行動してしまう姿に可笑しみと悲哀が観える秀作。
少し外見的なことで気になったが、卑小なことだろう。
(上演時間 第1部:1時間10分、第2部50分 途中休憩10分) 2019.4.16追記

ネタバレBOX

舞台は居酒屋げんの店内。上手にカウンター、中央にテーブル席、下手が店出入口になっている。1988年の店内の壁はうす汚れているが、2018年には小綺麗になっている。昔の方が店も新しく逆のような気もしたが、この間に改装したのだろう。店内に日めくりカレンダーが掛けられ、壁の汚れ具合と相俟って時代の違いを演出する。この舞台転換をスムーズに行う。

梗概…遠野(60歳)と山田(60歳)は幼なじみ。それぞれ定年退職、結婚周年記念を祝うために旧友が集まり祝賀会を始める。店の暖簾を掛けるために外に出た2人に雷が…気が付いたら30年前にタイムスリップしていた。昭和63年12月22日、バブルが崩壊する契機となった株の大暴落の数日前。友人に株を買わせ儲けさせようとしていたが、それが裏目になった。それを回避するため遠野は30年前の自分を説得しようとするが…。

過去・現在・未来という一方行の時間の流れは、時間軸の移動があっても同一人物=自分には出会わないという理屈からすれば、この公演は不自然に思えるかもしれない。また過去を変えると、その影響で未来に変化をもたらしてしまうという、時空間移動の物語ではよく聞かれる理屈。物語ではいろいろ行動するが、結果的に(未来を)変えられなかったが。演劇自体がフィクションであるから、理屈抜きに虚構の世界を楽しみたい。

この公演の魅力は、それぞれの時代背景・環境下でしっかり生きる人の姿を描いているところ。1988年...バブル最盛期の華やかな時代、しかしそこで生きる若者は未来を展望できず悩み、また世間知らずでもある。一方、2018年は震災の影響、貧富等の格差拡大という世相的にはあまり明るくない。しかしここに登場する人々は還暦を迎えても、まだまだ意気軒高といったところ。2つの時代を往還し、それぞれの時代と人物の関係に相似と相異を見せ、一定年齢以上の人には懐かしさ、当時を知らない年齢層には憧憬?を思わせるような公演。そこに共通するのは人の人情、その温かさ。そこにこの公演の面白さ魅力があると思う。
次回公演を楽しみにしております。
南吉野村の春

南吉野村の春

劇団昴

Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)

2019/04/10 (水) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★★

脚本、演出、演技等、演劇的要素は丁寧に制作し好ましい。その丹誠のような公演は、何かピリッとするものが足りないように思う。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

セットは奈良県の南吉野村にある杉本家の居間。上手に縁側、下手に仏壇などが据えられ、本当に生活出来そうな作り込みである。この村は桜の名所で名高い、奈良県吉野村の隣村...観光名所もない過疎地として描かれている。登場人物が5人ということもあり、過疎の雰囲気は出し切れていない。主人公にあたるこの家の次男・杉本龍はヤクザで刑務所で服役していた。村人の地元愛と前科者に対する警戒心、嫌悪感といった閉鎖的な感情表現は観られない。

梗概…杉本家の兄弟…兄の雄一は真面目な公務員、弟の龍はヤクザの世界へ。龍は対立するヤクザの幹部を襲撃。服役後は兄が一人で暮らしている実家に帰って来る。雄一は、龍が田舎で生活ができるよう、仕事探しや嫁探しに奔走。そして偏屈な隣人、元舎弟の便利屋、お見合い相手など、いろいろな人に翻弄されながらも龍はある決断を…。

脚本は性格の違う兄弟...ヤクザになった奔放な弟を甲斐甲斐しく面倒見る兄の可笑しみ、隣人のおばちゃんの毒舌と愛嬌、舎弟の律義さ、お見合い相手の色気と愛嬌、そして龍の孤独と遣る瀬無さといったキャラがしっかり描かれ、物語の展開を面白くしている。演出は舞台セットと相俟って情況と状況を描き出す。場面転換にしても映写幕を下ろし村の風景であろうか、季節に応じ向日葵や桜の花を映し出す。観客の気を逸らさない工夫が好い。演技はそれぞれのキャラクター、人物表現を確かにし、脚本・演出内容を具現化(可笑しみ、色気、そして緊張-龍の銃撃のシュミュレーションシーン)していた。技術にしても明け方、夕方など時間を意識した照明の諧調など細かい配慮。全体的に丁寧でレベルが高い。

さて、書くのが難しいが、端的に言えばインパクトが乏しい。料理に例えればフルコースのようで、運ばれた料理の数々(演劇要素)は美味(上手)い。一方、激辛ラーメンを食した場合、その一品でも印象は強烈である。料理も人によって好みが違えば、食べたい気分によって異なる。芝居も好きなジャンルは人によって違い、観たい演目も気分によって異なる。自分はこの公演を巧いと思うが、淡泊な印象を受けた。
次回公演を楽しみにしております。
コマギレ

コマギレ

ラビット番長

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2019/02/28 (木) ~ 2019/03/04 (月)公演終了

満足度★★★★★

グリーンフェスタ2019  BASE THEATER賞受賞作品。
この劇団の魅力、笑わせ泣かせるという人間の感情を揺さぶるのが上手い。将棋の世界を描いた過去の作品群とは少し趣が異なる。今まではプロ将棋の世界=男中心であったが、本作は女性棋士とその師匠対決がクライマックス。また今までは将棋の世界、その勝負の厳しさを中心に描いており社会性も垣間見えたが、本作では人間性に力点を置いたように思える。
物語は劇場規模、舞台美術と相俟って分かり易く、人情味豊かに描かれた秀作。
(上演時間2時間)【Bチーム】

ネタバレBOX

セットは二階部を設え、二階上手に対局室や小料理屋和室(障子)、下手に将棋解説用の大盤、一階はプロ棋士の将棋道場といった設定。BASE THEATERでは多くの場所を設定するよりは、本作のように道場と対局場という二元場面、現在と過去といった往還場面という緊密さをしっかり演出し物語が分かり易く展開したのが好かった。その意味で奇抜さよりは、万人受けするような しっかり観(魅)せる芝居に仕上がっていたと思う。

梗概…女性で初めて四段に昇段してプロ棋士を目指す天野。一方、彼女の師匠である熊谷棋士は引退を迫られる状況にいる。この2人が主人公で現実の将棋世界でも師弟対決が話題になった。順風満帆と思われた彼女に異変が…。師匠は、何故プロ棋士になったのか、その生い立ち境遇を影絵仕立ての演出で情感豊かに描く。過去と現在を往還させ、将棋への思いや人の人情の有難さを身をもって知っていることから弟子育成にも情熱を傾ける。その2人が勝負の世界で生きる宿命から...。

熊谷学を演じたのが劇団主宰の井保三兎氏、天野桂子を演じたのが雪島さら紗さんであり師弟の間柄である。そしてこの公演をもって彼女は退団することから、花道を用意したとも言える。本作での彼女は将棋盤に向かう目力、それは鬼気迫る迫力があった。そこに勝負師としての彼女がしっかり存在していた。一方、井保氏は包容力に溢れた演技で、こちらはいつも通りの人情味を醸し出していた。

さて気になるのが、得意としている介護や将棋の世界を描き続けるのか、他の分野に転じるのか。同じ介護や将棋にしても、またその2つを絡めた公演もあった。何となくシリーズ化、マンネリ(同パターンでも映画「男はつらいよ」シリーズなど人気を博すことはよくある)という声があるのかどうか分からないが、いずれにしても素晴らしい芝居を上演し続けてほしい。
次回公演を楽しみにしております。
ハイライト

ハイライト

うさぎストライプ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2019/04/03 (水) ~ 2019/04/08 (月)公演終了

満足度★★★★

物語が漂流するようで、どこを目指し漂着するのか分からない。その冒険的な試みが面白い。しかし表面的な場面・展開だけを観るとつかみどころがないように思えるが、東京という”街”を介在してみると、そこでの暮らしや人間関係、時代というものが見えてくるような気がする。その不可思議な感覚が面白い!
(上演時間70分) 

ネタバレBOX

セットはほぼ素舞台。あるのは工事現場で見かける安全誘導人形、通称”安全太郎”と灰皿のみ。物語の進展に応じて折り畳み椅子などが持ち込まれる。
この公演の魅力は、ユニークな登場人物、そして情況、情景が次々と変わる。芝居という”動画”ではなく、静止画像が断片的に配列されるといった印象である。

梗概、といってもエピソードの羅列のようになり、まとまった本筋を表すのは難しと同時にあまり意味がないように思える。むしろ切り取った断面をジグソーパズル(ピースがピタリときれいにはまらない)のような張り合わせの奇妙さ、事象や心象をデフォルメして描いたようだ。時の設定は2020年からその後の数年間か。登場人物ー黒沢(ヘンな義足の男)、女(交通誘導ロボットとの結婚願望、そして仙台から歌手を目指して上京)、島崎(黒沢の同僚。そして はとバスガイド、看護師、交通誘導係など何役も担う)高瀬(黒沢の同僚。ジミ婚の男)他に金澤氏と多彩だ。

女の視点から観ると、仙台から歌手を目指して東京へ。その時に別れた安全太郎と再会できた喜び。しかし歌手になるのを諦めて仙台へ帰る、その当日を描く。はとバスで東京見物をするスタイルで東京の”街”を紹介する。東京はオリンピックを終え建築物を取り壊す。バスは臨海部”東京ベイゾーン”を巡り東京タワーへ。憧れた街-東京、それをオリンピック時の爆破テロ、さらにオリンピック整備施設の取り壊しというシュールな描き。またこの街で人と触れ合うこともなく、寂しい心情の吐露。何気に暗くなりそうだが、結婚式シチュエーションやミラーボールの輝きの下、マイクを握り歌う姿は微笑ましく...。

この芝居、けっして分かり易いとは言えないが、不思議と観客(自分)の心に刻まれる心象、それは可笑しくも寂しい”東京という街”そのもののように思える。
次回公演も楽しみにしております。
坂の上の家

坂の上の家

SAF+

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2019/04/05 (金) ~ 2019/04/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

昭和57年7月、長崎県を襲った大雨の被害から5年の歳月が流れ、舞台は昭和62年のひと夏。大雨の被害で両親を亡くしたが、それでも子供たち3人は逞しく生きてきた。何の変哲もない日常、その坦々とした暮らしを抒情豊かに描いた秀作。多少気になるところがあるが、レトロな雰囲気、人の心の機微、それら全体の温もりに比べれば卑小なこと。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

セットは、居間に横長の卓袱台。上手に扇風機、下手に座卓とその上に固定(黒)電話。居間の後ろには襖があり別部屋、奥上手に階段が見える。天井部には太い梁がある。

この公演の魅力は、役者の演技力。もちろん脚本の力、それを観(魅)せる演出の巧みさは言うまでもないが、物語はそれほど起伏があるわけではないので自然な流れが大切。逆に日常の暮らしとはこのような坦々として過ぎる、その当たり前の光景が愛おしく感じる。この公演はベテランと若手が人物のキャラクターを立ち上げ、魅力的な人物像を出現させ、それぞれの関係性や会話の遣り取りが実に自然体だ。

梗概…昭和62年の夏。長崎県のとある坂の上の本上家が舞台。長男(公務員)、次男(浪人生)妹(高校生)がいつも通りの日々を過ごす。実に自然な演技で、当時の本上家をのぞき込んで観ているような錯覚に陥る。ある日、長男が恋人を連れてくるが、その緊張と気恥ずかしさが観ていて微笑ましい。そして亡父の弟(叔父)が例年通り訪れる。この家から見下ろしたところに浮かぶ精霊流し。死者への鎮魂がしっかり伝わる見事な演出であり、それを具現化した役者の演技力は素晴らしい。

少し気になるのは、暗転時間が長いこと。暗転時には音楽を流すなど、観客の気を逸らさない工夫をしている。しかし暗転時間が長いと観る集中力が損なわれる。もう1つは心象効果である。セットは居間であるがフローリングのようで、卓袱台や座卓という印象ではない。できれば畳敷きにするなど舞台美術に調和があったほうが良かった。
次回公演を楽しみにしております。
コーカサスの白墨の輪

コーカサスの白墨の輪

東京演劇集団風

レパートリーシアターKAZE(東京都)

2019/04/03 (水) ~ 2019/04/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

パペットというよりは、”人形”という表現が相応しいと思うので、こちらの用語で書く。人形は物語の領主やその妻、特権階級の人々を現している。それによって一方のみ、つまり民衆側の情勢と情況を描き出そうとしている。支配階級は人形が担うことによって印象が弱くなり、逆に民衆側の心情が浮き彫りになる。描く主体が鮮明になることによって、客観性が排除され人情劇としての印象が強くと思ったが、感情の高ぶりは今一つ。
東京演劇集団風の公演は、骨太な内容を少しコミカルに観せるといった絶妙なバランスが素晴らしい。その劇風はコモン‐センスといったイメージだ。
(上演時間:1幕90分 2幕70分 途中休憩15分)

ネタバレBOX

セットは、二階部を設え両側に階段がある。後景は民芸風の布が何枚も吊るされている。一階中央がメインステージで、冒頭はメインステージを布が横に半円を描くように吊るされている。布が垂れ下がった中央を谷に見立て、先住民と移住民が土地を巡って言い争いをしているところから物語は始まる。これが劇中劇であることを現し、ストーリーテラーが物語の本筋へ誘い込む。

梗概…よく知られた場面を大括り2幕にして展開する。1幕目は宮殿の召使いグルシェが領主の赤ん坊を助け、苦難の旅路に出る。2幕目はアクダツの放蕩と裁判官としての役割、この2つの物語が繋がり大団円を迎えるというもの。
ラスト、育ての親か産みの親...どちらが真実の母親か。裁判は混乱の最中に裁判官にさせられたアツダクの判断に委ねられるが、その裁きぶりは日本における大岡政談を連想する。

物語の根底には人間讃歌がある。しかし、主人公グルシェが領主の赤ん坊を抱え苦難を乗り越えて という物語性があるわりに、妙に客観的な気がする。人間の感情を揺さぶるというよりは、そこにある出来事を客観的・批判的に観るような印象である。確かに歌い高揚する場面や階段の上り下りといった躍動感は観られるが、あくまで騒乱とか逃避行といった事象を描いており、人間の感情ではない。人の目を通した感情よりは出来事を客観的に冷徹に見つめた叙事詩のような印象である。本公演は、一時の感情に流されることを良しとせず、時代を越えて観客を魅了する原作、それに”生”を入れた演出と具現化した役者陣の演技、その総合的な力作。実に観応えがあった。
次回公演も楽しみにしております。
R.U.R.

R.U.R.

ハツビロコウ

小劇場 楽園(東京都)

2019/03/26 (火) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★

人間とロボットの共生...夢語りと思えるような。ロボットをテーマにしつつ、経済至上主義、ロボットという”製品”の需要に応えるため生産性を高めるが、一方そのロボットが何に使用され、または利用されるか後々のことは考えない。その社会的道義を鋭く突いた力作だ。原作は100年前に書かれているらしいが、その着眼点は現代においても十分通用する。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

セットは中央に机、その上に電器と書類、この劇場の特徴の1つである柱の傍に植木鉢があるだけのシンプルなもの。

物語は、表層的には人間とロボットの関係を描いているように思える。しかし、人間からの従属解放を求めたロボットの反乱という設定から、近現代のグローバル経済の下で歴然とした人間の労使不平等を連想させる。ロボットからの過酷な労働状況の告発を受けながらも、ロボットの究極の弱みを握って交渉する人間の狡猾さ。そこに厳しい現実が見える。奴隷制度をロボットを介在させることで立場的な違いを緩和して見せているが、根底には不平等社会を鋭く抉る内容だ。
また人間とロボットとの関係は神と人間という宗教的な側面も見せる。旧約聖書にある「バベルの塔」では、塔建築に神が怒り人間が同じ言葉を話すことが原因だとし異なるようにしたと思うが。この公演でもロボットの思考回路が同じであるから反乱を起こす。だから製造に違いを加えると…。物語の主題とも思える不平等・理不尽さ、その表層主題から見え隠れする人間のもつ傲慢さが描かれている。
一方、ロボットに対し理解を示すヘレナ(森郁月サン)はミューズ的な存在。全体的に不安・不穏な雰囲気を漂わせるため薄暗い照明にしているが、彼女は島にいる人々の心を明るく和ませる。人間的な良心の持ち主ヘレナ、島にいる独善的な人間(男)たち、感情を持ったロボットという立ち位置の異なる存在が物語に深みをもたらす。

ラスト_ロボット2体による情愛深い行動は、これからの人間とAIとの信頼といった関係を示唆するのだろうか。映画「her / 世界でひとつの彼女」では、知能が進化し、主人公との関係が深まるにつれて、人間の切望の気持ちと人間の感情のようなものが芽生えていく”人工知能”が描かれていた。
本作は100年前の原作であるらしいが、現代においても興味深い、そして現代版にアレンジした公演は観応えがあった。
次回公演を楽しみにしております。
東京魔法少女図鑑

東京魔法少女図鑑

東京スピカ

阿佐ヶ谷アートスペース・プロット(東京都)

2019/03/29 (金) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★

物語は端的に言えば勧善懲悪もののようで、最後は正義が勝つといった定番で、安心して観ていられる。何となく寓話的な感じが強いが、演出が昭和時代のアニメや映画等のパロディ、小ネタを入れ全体的にはマンガのような描き方で、強い主張(脚本)を緩い雰囲気(演出)で観せているといった印象。
(上演時間1時間20分)【Bチーム】

ネタバレBOX

セットは中央に段差のある出入口、左右に折り畳みの衝立のようなもの(大きな屏風仕立て)。オープニングは物語で重要な役割を果たす小物...毛糸を束ね綱のようにし、それで主人公とその母を囲む。その構図は物語のテーマとも言える(心の)温かさ=毛糸、毛糸束の繋がり=絆を連想させる。物語の展開に応じて衝立が動き、不穏・不安な情景を表現する巧みな演出と舞台美術はよかった。

梗概…芸能プロダクションの社長が地味で冴えない女子高生をスカウトする。スカウトされた少女の母は伝説のスーパー魔女っ子アイドルだった。二世魔女っ子アイドルとしてデビューする少女。しかし、正あれば邪があり、白に対し黒といった反対(または対)のものがある。そして黒魔術アイドルが世の中の不平不満や劣等感など人々の邪悪な感情を力とし人気を博し、一方魔女っ子アイドルは表舞台から姿を消す?

物語は定法通りの展開で奇抜さはない。安心して観ていられるが、悪く言えば新鮮味がないということになる。善=正義、悪=更生させるといった結末で、全体的には寓話的な内容である。描き方(演出)はポップ調で、時に昭和時代の小ネタを入れる。例えば魔女と(喋る)黒ネコは、アニメ「魔女の宅急便」のパロディ、悪を懲らしめる箒による連射は「セイラー服と機関銃」の有名なシーンと台詞。

人の心はいつも充たされているわけではなく、むしろ逆で不平不満による憎悪、邪悪な心情が芽生えやすい。それによって人間関係を悪化・崩壊させる。心の温かさと同時に移ろいというテーマ性を単純明快にして観せる。解り難いのは、ホームレスの父親の登場、叔母の関わりなど、主人公とのしっかりとした絡みが分かったような分からないような曖昧さが気になる。

次回の公演も楽しみにしております。
男亡者の泣きぬるところ/女亡者の泣きぬるところ

男亡者の泣きぬるところ/女亡者の泣きぬるところ

ニットキャップシアター

こまばアゴラ劇場(東京都)

2019/03/27 (水) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★

【CoRich舞台芸術まつり!2018春】最終審査に残った10公演のうちの1つ。その前評判通り本公演は確かに面白かった。「男/女の亡者の泣きぬるところ」ではあるが、どちらも亡くなるではなく、前向きに生きていこうとする人生再生というか再出発するような物語。
この団体は「こんなにもお茶が美味い(東京公演)」以来、久しぶりに観劇した。本作は場所・時間が限定された緊密・濃密な設定であるが、観せ方はポップ調で楽しんで観られる。
(上演時間2時間15分 途中休憩15分)

ネタバレBOX

「女亡者の泣きぬるところ」(上演時間1時間)
舞台は一人暮らしの女の部屋...中央にベット、卓袱台、やや上手に整理BOX、ハンガーが置かれている。その横は出入口になっているが、奥にキッチン・玄関があるらしい。
梗概、この部屋の住人(女①)と闖入者(女②)という女2人(共に33歳)芝居。彼女たちは人生に疲れ、生きる気力を失っているという共通した思い。現代日本が抱える問題を身近な生活を通じて描いた佳作。女①は15年間非正規職員の店長として働いてきたが、自分より後に入社した正社員の方が待遇がよく出世していく。彼女を上手く利用する先輩(登場しない)が今の悪労働環境を象徴する存在として描かれる。一方女②は、個人養鶏場の娘として働いていたが、母の介護や父親との関係に憂いている。介護による自己犠牲的な思いが辛い。この2人が必然的に出会い狂騒の中で芽生えていく奇妙な心の触れ合いが見事に描かれていた。

「男亡者の泣きぬるところ」(上演時間1時間)
エレベータ内…現在と過去(いくつかの時代)を往還して展開する男2人芝居。基本的には素舞台であるが、上手・下手に着替え用のスペースがある。よく見かけるエレベータの故障という設定。2人の男の何気ない会話から紡ぎ出された数奇な運命は、現在と過去を往還するごとにシーソーのように気分が上がったり下がったりする可笑しみ。それは生まれた時から定められた運命であろうか?男優2人が少年や学生になり、その時々の悲喜交々とした心情を上手く表現している。「女亡者の泣きぬるところ」に比べ社会性というよりは人間性に重きを置いた物語であろう。

「男・女亡者」は共に何かに取り付かれたようだが、観客(自分)にとって描かれた内容に比して明るく元気をもらえた好公演であった。
次回公演も楽しみにしております。
劇団あおきりみかん其の四拾『ワード・ロープ』

劇団あおきりみかん其の四拾『ワード・ロープ』

劇団あおきりみかん

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2019/03/29 (金) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

最近の数作品は社会的な事柄を絡めた公演であったが、本作はどちらかと言えば人間、それも家族、友人という近しい人々との絆に力点を置いたようだ。その意味では鹿目由紀女史の関心が人の縁といった運命的なものに向いたのだろうか。この人間観察が実に面白い!
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

舞台美術は、板を半囲いするように鉄塔のような造作が立ち、中央がオープン(素舞台)になっている。後方は空きスペースや衣装ハンガーが置かれている。楽屋裏がオープンになったようなイメージである。だから役者は常時舞台におり、登場場面に応じて舞台上に現れる。物語は過去・現在・未来を行き来して情景・情況が縦横無尽に変化する。まるで中央は時空を操作できる装置、空間があるようだ。この舞台セットは物語の時空移動や絆・運命などのテーマ性をイメージさせ、常時役者が舞台のどこかにいることで繋がっているという”絆”も感じさせるという効果的な作り。

中学校の校舎裏。この場所にクラスの仲間と20年前にタイムカプセルを埋めた。男はスコップを持って現れ、今日みんなと掘り返すことになっていたが、誰も来ない。一方、自殺しようとしている男と、その自殺しようとする場所を退くように言う少女、その奇妙な出会い。過去・現在・未来を行き来し、いくつもの出会いが交錯し、ロープが絡み合うように展開する。もちろん実際にロープが張り巡らされ、物語の絡み=絆や縁といたイメージと実ロープという視覚効果が相まって物語が重層的に観えてくる。この重層的に見せることによって時空間の移動を思わせる。

絆や縁は、広範囲なものではなく、父と娘の2人の関係または母も交え家族、あるいは母と息子、中学時代の友達など身近な関係性の中で物語が展開する。この緊密な関係性は、何故、タイムカプセルを1人で掘り起こすことになるのか、父と娘の出会いを邂逅するように描くのは何故か、といった”謎”解きをし易くしているようだ。人間観察は身近な関係性の中で描くことが効果的で、掘り下げもしやすい。

演技はネタバレ注意の〇〇を使用し、全員が体を張った身体表現で観(魅)せてくれる。それが随所に見られ、その躍動感がテンポの良さになっている。
次回公演も楽しみにしております。

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