夜のジオラマ 公演情報 SPIRAL MOON「夜のジオラマ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    物語としては面白いが、時間軸を想像し整理しながら観るのは少し煩わしいような気もするが…。逆に言えば、脚本が示した時間軸が自分なりに結合し、演出もそのように観せていると納得できれば面白さが倍加するだろう。
    描かれた世界観は、家族の視点、社会の視点という、虫が地を這うような観察眼と鳥が大空から見る俯瞰眼を併せ持つような重層的な公演。
    (上演時間2時間)

    ネタバレBOX

    セットは隠れ家的な一室。壁の一部が剥がれレンガが剥き出しになっている。上手側が玄関に通じ、中央にテーブルと椅子、その後ろはキッチンに通じる通路。下手側に引き違い戸、サンルームのようなガラス張り、外に見える蔦とロッキングチェアー。荒廃した人工造作と自然とが調和した空間は、この公演そのものをイメージさせる見事な舞台美術だ。

    物語は4つの時間軸(2000年、2007年、2019年、2040年)で構成されている。もっとも2000年は母子手帳+育児日記のようなメモ書きを読み回想するだけである。冒頭2007年、荻野目三果(秋葉舞滝子サン)はこの隠れ家的な一室に引っ越してくる。離婚し2人の子供のうち、娘・アヤは夫が養育している。そして自分は息子・圭吾と暮らしていたが…。物語は、主に2019年と2040年を往還するように展開していく。
    2019年、圭吾が2040年から遡行してきて物語が動き出す。社会的な視点...巨視的には近未来は磁気嵐、死に至る伝染病などによって地球的規模で滅亡(既に人口は半減)の危機を迎えている。その時に至るまでの社会不安下にカルト教団が出現、そこに蔓延る悪行がサスペンス風に展開する。
    2019年(時間軸の中心)、家族(夫は登場しない)3人は事情により離れて暮らす。三果はジャーナリストとして活躍しており、圭吾は留学中といったところか。アヤはシグマなるカルト教団に属しているが、これには高校時代の親友の死が関わっていることが後々判明してくる。
    家族の視点であるが、母は娘でありながらアヤを苦手というか毛嫌いをしているようだ。それは自分が持っている女の愛欲というか性(さが)のようなものが娘も持っており、遺伝、同質”性”のためだと告白する。その娘が所属しているシグマの研修会なるものに潜入し記事を書こうとしていたが、アヤが潜入していた母を見つけ逃すという親子であるがゆえの情。母が断筆した謎が明らかになってくる。
    2040年の圭吾と2019年のアヤが邂逅し、母の思い出話をする。その際、圭吾から母はある絵画を大事にしていると聞かされる。それはアヤが小学生の時に描いた抽象画(タイトル「夜のジオラマ」)で、この部屋に飾ってあった。その額裏に母の育児メモが挿まれ、子への情愛が切々と書かれていた。これが2000年の頃の話であり、母・三果がロッキングチェアー(冒頭の台詞で”安楽椅子”とも)に揺られながら薄れゆく記憶を手繰り寄せ回想していく。実に情感溢れるシーンである。

    家族や友人との関わりといった身近な問題を提示しながら、社会事情や環境状況を鋭く描く重層的な構成。それを時間軸の違いという手法で観せるため、今がどこなのかといった自分(観客)位置を確認しながら観ることになり少し煩雑だ。とは言え、始めのうちは脈略なく繰り出されているような場面も、後々の展開で重要なことを示す巧みさ。またアンドロイドも引き違い戸から登場するが、時に引き違い戸を左・右開けて中を見せるが居ないというマジック的演出も上手い。

    突拍子もなく、一見解り難い点は、SFというジャンルの特長であろうか。だからこそ現実離れし、自由な劇的な語りの”力”によって観客を圧倒し魅了する。そこにSFらしい面白さ、醍醐味があるのではないか。その意味で自分の想像力をフル回転させながら観た公演は、実に面白かった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2019/06/15 11:04

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