ネモフィーラ
演劇ユニット小雨観覧車
サブテレニアン(東京都)
2022/01/07 (金) ~ 2022/01/10 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
描きたいことは分かる。主人公と演劇ユニット小雨観覧車の主宰で作・演出の山野莉緒さんの思いが重なる物語である。その意味では等身大で、今の心境を如実に表していると言える。悲しみと温かさが隣り合わせにあるような…滋味溢れる公演。
自分と相手が思い描いている世界観が違うことはよくあること、思いが上手く伝えられないもどかしさ、焦りがヒシヒシと伝わる。その心情は、手紙のようにしたためた当日パンフ、そして上演後(涙の)挨拶から明らかだ。しかし公演(物語)としては もう少し掘り下げた説明が必要だろう。
(上演時間1時間20分)
ネタバレBOX
舞台美術は、中央暗幕の前に横長ベンチ、上手・下手に複数の鉢形(水)桶、下手に玩具の滑り台。これは池袋の街中風景であり、花屋や公園もしくは街路をイメージしている。シンプルであるが、物語は心象風景であり、タイトル「ネモフィーラ」を表すための花(屋)を強調している。
物語は、自他ともに認める天才音楽家である清瀬涼香(山野莉緒サン)が、公園で何かに悩んでいるところへ お兄ちゃんと呼ぶ津田孝浩(山岸大起サン)が現れ取り留めのない会話から始まる。涼香は売れっ子作詞・作曲家であるが、何故か楽曲の提供のみ。「演劇」を「音楽」に置き替え、主宰(リーダー)という立場がメンバーとの軋轢・葛藤等を生じさせる、を描く。が「立場(もしくは地位)が人を作る」と言われるように、どの世界も同じかも知れない。
一方、毎日花を買い求める孝浩、その行為に興味を抱く花屋のバイト・大野千春(トギナナミ サン)、その花屋の店長・田村麻優(やまだ まやサン)はしっかり者だが、少し翳があるようだ。
物語は、涼香周辺と花屋という2つの場所で紡がれる。或る日 涼香が失踪し、偶然 花屋で麻優と再会したところで、気持が大きく揺れ動く。心情を描く物語の中で、静かに客観的に見つめる人物が必要。その役割を涼香のマネージャー・佐久間史織(二川あおいサン)が担っている。淡々と仕事を請け、スケジュール管理を行う姿は、どこの組織にもいるような普通(普遍)の人物。その存在によって、心情という掴み難い話に追い込まず、人(誰も)が抱える悩みや苦しみといった普遍性あるドラマに仕上げている。
当日パンフに、山野莉緒さんはこの作品のことを”遺作”と書いている。「10年続けたお芝居ともお別れです」と。昨年11月に同名公演が事情(コロナ禍の影響?)によって中止になり、改めて挑んだ本公演だが…残念である。ちなみにネモフィーラの花言葉は「成功」だが、別に「許す」といった怖さも表す。タイトルに「後日譚」とあるから中止した公演内容とは違って、(改稿後は)より心情表現に近くなった、と推察する。
分かり難いのは、涼香、麻優、孝浩の関係。女性2人は天才・凡人といった台詞から音楽活動を一緒にした仲間と分かるが、孝浩と涼香、孝浩と麻優の夫々の関係が判然としない。さらに毎日花を買う理由は何か、麻優に会うためか?3人で音楽活動をしていたが、才能・音楽性の違い・人間関係等で解散したのか、もう少し説明を加えてほしいところ。
「遺作」ではなく、次の公演までの一時的「休作」と思いたいので、敢えて次回公演も楽しみにしております。
昭和歌謡コメディVol.15〜お正月だヨ!ヤーレンソーラン!大騒乱!!
昭和歌謡コメディ事務局
ブディストホール(東京都)
2022/01/07 (金) ~ 2022/01/10 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
あぁ懐かしき青春時代...。
東京・築地の寿司屋「ひろ寿司」が舞台...昭和の雰囲気が漂う劇場内。
第一部は夫婦(江藤博利サンと田中由美子サン)、妹の白石まるみサン(本業はCA)で営む寿司屋がコロナ禍で苦境に立たされている。まさしく現在の状況を反映させた物語。今こそ創意工夫が求められる時代を思わせる。
第二部は昭和の歌謡ショーとして、当時の流行歌を歌う。最前列に”ひよこ隊”と呼ばれるファンの一団。黄色い法被を羽織、ケミカルライトを振り、テープを投げ、今事情で声援こそ禁止だが、その遙か遠景には確かに青春時代が観えた。
今回のゲストは伊藤多喜雄さん。第二部「昭和歌謡バラエティショー」の1番手としてロック調の民謡「TAKiOのソーラン節」を披露。歌い終わったところで故郷・北海道での子供時代の話。哀愁とユーモアを交えての話は滋味溢れるもので、場内は一瞬静まりかえる。御年72歳だが元気で含蓄ある言葉、逆の毒舌も印象的で喋りも上手い。
さて、日本を始め世界は新型コロナウィルス感染症の影響で疲弊している。そんな状況を一字で表したら”危”である。世の中を少しでも明るく楽しいものにしたい、この公演はそんな思いが込められているようだ。自分は堪能した。このようなドタバタコメディが上演できるのは平和であればこそ。この公演から元気をもらい、今年1年を無事に過ごして行きた~い。
(上演時間2時間 一部と二部の間に休憩)
TAP DO!劇場版20~スペシャルセレブレーション~
TAP DO!
博品館劇場(東京都)
2022/01/07 (金) ~ 2022/01/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2022年初観劇は「TAP DO!劇場版20~スペシャル セレブレーション(ゲスト:尾藤イサオ)」。お薦め。
㊗️20周年記念公演…「なにが飛び出すかわからない怒涛のショータイム」の謳い文句通り、タップ(ダンス)り楽しんだ約2時間のエンターテイメントショー。予定上演時間は1時間40分であったが、そこはライブとしてのワクワクそしてドキドキハラハラという観(魅)せ方によるもの。多分、日によって上演時間は前後するかもしれない。
内容は観てのお楽しみだが、休憩時間なしで次から次にジャンルの異なる演目を披露する。もちろんタップダンスは色々なシーンに組み込まれており十分堪能出来る。そこには観客(子供も何人かいた)を飽きさせない創意工夫、楽しませるといった誠意と熱意を感じる。
観た回のスペシャルゲストは尾藤イサオさん、歌はもちろんパフォーマンスにも挑戦し、このユニット公演にしっかり馴染んでいる様子で、さすがベテランといった風格。
(上演時間2時間±)
ネタバレBOX
舞台セットは中央に階段があるだけのシンプルなもの。上手にドラム、下手にベースとキーボードの楽器。
オープニングアウトは、講談調に「TAP DO!」の軌跡をその時々の世相を重ね合わせて説明していく。このユニットは、英国エジンバラ・フェスティバル・フリンジで5つ星を獲得し、国内のみならず世界でも活躍しているらしい。
本日は、全員でのタップダンスから始まり、寸劇としてパロディ「宝DO家歌劇団の『ベルサイユのばら』」、同様に映画「タイタニック」を笑劇風にし、観客を巻き込みダジャレの連発。また、ゲストの尾藤イサオさんが丹下段平に扮した「あしたのジョー」は、ボクシングの代わりにジャグリング勝負といった観せ方が斬新だ。メンバーの年齢構成から、平均年齢が高いメンバーと20歳そこそこのメンバーを比較した自虐ネタ、ジャグリングメドレー等、多彩な演目(計17の出し物)で楽しませる。新春公演としては笑い始めにもって来い(濃い)の内容であった。
またタップダンスにしても、大縄跳びで4人が横並びで跳びながらタップダンスを行うといった高度な技を披露し、観客の度肝を抜くようなパフォーマンス。レベルの高い技量に軽妙な仕草で笑い楽しませるサービス精神が嬉しい。もちろん、演目に合わせて衣装も変え、目先の華やかさも舞台全体を盛り上げる。最後に音楽(選曲)も軽快でノリノリな感じ。当たり前であるが、ダップ(ダンス等)を聞かせる場面ではそっと控えるバランスの良さ。
チラシにある「タップダンス・ジャグリング・パーカッション・バトントワリング・チア・生演奏等々を融合したハイクオリティパフォーマンスコメディ」は誇張ではない事実。次回公演も楽しみにしております。
追記
タイタニック場面で参加(挙手)した観客に何か記念品でも進呈したのかな。20周年記念公演ということもあり太っ腹なところをみせてほしいが…。
ミュージカルうなぎ
宇宙論☆講座
雑遊(東京都)
2021/12/28 (火) ~ 2021/12/30 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
🉐二日落ち割引【100円】公演。100引きではない。公演料金はありがたかったが、夕食時にあれはないよなぁ。グーッと腹が鳴って困った。
あと、換気のせいか少し肌寒かったが、これは人(座席位置などで)それぞれ感覚が違うからな~。
さて、上演中も繰り返し強調していたが、この公演は「文化庁令和2年度第3次補正予算事業 ARTS for the future! 補助対象公演」で補助上限600万円だそうだ。紐付きが関係している訳ではないだろうが、過去公演に比べるとハチャメチャ感のスケールが小さくなったような気がする。もちろん飲酒上演ではない。過去公演では上演時間と言う概念というか意識があったのか疑わしいが、本公演は驚いたことに、ピッタリ2時間だ(当初1時間35分予定だから、宇宙論⭐講座らしいグダグダとも言えるか)。
とは言え、他劇団・団体に比べれば、常軌を逸したユーモアに啞然とさせられ、あまりにもナンセンスな表現故に観客を選び、時に置き去りにする。上演中の写真撮影はOKであるが、そんなことをやっているよりは、その場(瞬間)の禁断?の雰囲気を楽しみたいかも。
この公演の出演者・稲見和人さん(うなぎ役)の公演チラシが配付してあったが、タイトルは「宇宙論⭐講座の公演ではない企画『稲見和人に彼女ができる公演』」。その公演は無料どころか、観劇したら1人500円ずつ渡すと…。アッ、因みに法律的にこういう興行をしていいのかどうかはこれから調べます、という注記のような文あり。これの企画監修が五十部裕明氏だから、やっぱり宇宙論⭐講座風になるのかな。500円あれば、鰻弁当は無理だが、某チェーン店の牛飯(丼)ぐらいは食べられるかな👏。
(上演時間2時間) 2021.12.31追記
ネタバレBOX
劇場は新宿三丁目にある「雑遊」であるが、立地柄 飲食店が立ち並んでいる。そこに”うなぎ”と書かれた幟を立てているから実に紛らわしい。中に入ると、舞台正面にウナギ顔のオブジェ、上手から音響・照明と書かれた張紙のあるブース、下手にベース等の楽器、そしてウナギが入った水槽と めくり が置かれている。
初め物語に脈絡があるのか疑問であったが、後追いすると「命をいただく」といった結構深い内容を描いているようだ。チラシにも書かれていたが、ミュージカル「キャッツ」をパロディにしたオープニング。(ダンボールの被り物で)獣種の異なる動物が出てくるが、弱肉強食といった自然界を思わせる。食に絡んでコンビニや劇中劇での仕出し弁当へ展開していく。いくつかの小話(めくり で説明)を紡いで物語らしいものにし、何となく「命をいただく」といった内容へ。先の弱肉強食…いずれは人間の食料になっていくことを思わせる。人間は様々な命の犠牲の上に立って生かされている。これはゆきちゃん(小)役、五十部諭吉ちゃんが出演していることから、何となく絵本的な観せ方として「食育」を連想したことによる。
年末にも係らず、ウナギ役(天然・養殖)、ゆきちゃん(小・大)他7名で 計11名が出演。五十部さんの これだけのキャストを集める人望、そして満席にする集客(100円)力は凄い!
また劇団の音楽的センスが見事。役名以外に担当楽器が書かれ、ギター・ドラム・サックス・ベース・シンセサイザー・パーカッションといった楽器が奏でられる。
最後に、劇団が注文した叙●苑の豪華弁当、夕食時に眼前で実食されると腹の虫がうるさい。
因みに水槽から取り出されたウナギは、その後どうなったのだろう。いつも気になることが起きる。
次回公演も楽しみにしております。
ばいびー、23区の恋人
マチルダアパルトマン
駅前劇場(東京都)
2021/12/28 (火) ~ 2021/12/30 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い! お薦め。
一見、コメディ映画のサブジャンルであるスクリューボール・コメディのようだ。住む世界(公演は本来の意味ではなく場所)が異なる男女の恋話、変わった登場人物、テンポのよい洒落た会話。だが次々に事件が起きる波乱にとんだ物語はない(いや、ラスト近くはドキッとするか)。「スクリューボール」は「スピンがかかりどこでオチるか予測がつかないボール」を指しているらしく、転じて突飛な行動をとる登場人物が出てくる映画の代名詞になっている。物語は複雑ではないが、不思議と緩い会話と忙しい観せ方に魅了されてしまう。
登場人物は25人だが、役者はわずか3人。しかも役名があるのは、主人公・町子(織田奈那サン)、その友人・明里(見里瑞穂サン)だけで、残り23人(区)は、恋人たちとして(金子学サン)が演じる。タイトルや説明から分かるように、町子が恋人たちに「ばいびー」するため23区を巡るのだが、ナレーションや説明の字幕はない。しかし、明里が叫ぶ一言で場所(区名)が一瞬にして特定できる巧さ。完全に物語だけで観せていく。物語を支えているのが舞台美術。基本的には変わらないが、街のあちこちを歩き回るロード・ドラマ感を引き出すための乱雑さが風景に見えてしまう。
役者は3人だが、舞台には多様な顔と声が次々に登場するようで、退屈する暇がない。「ばいびー」旅を通して立ち上がるのが、町子と恋人たちの関係ではなく、漫才のボケとツッコミのような町子と明里の凸凹コンビーー不思議な友情関係である。町子の歯切れの悪さ、明里の後押容赦なし、恋人たちの戸惑い往生際の悪さ、という構図が徐々に対話の形に発展していく。旅という動き、部屋での会話が忙しく交錯するうちに、奇妙な興奮状態が生まれてくる。
多くの(実際は3)人の顔と声が描かれており、本来ならば生活や暮らしといった社会が見えてくるはずだが、さすがにそこまでは想像出来ない。恋人との別れ話…悲しみで寂しい姿があれば、戸惑い微妙な感情で握手する姿もある。いずれにしても人との関わりが密(蜜)であり、こんな光景がいつかまた見られる日が来るのだろうか(コロナ禍だから再演?)。
(上演時間1時間10分)
ネタバレBOX
舞台セットは大きく2つに分かれ、町子や23区の恋人の部屋、本来の舞台と客席の間にも木枝やカラーコーン、ベンチ、ブランコが置かれ、色々な風景を観せる。メインの舞台は上手にベットがあり中央にソファや本箱、いたる所に服が散乱している。全体的には雑然としているが、そこに町子の整理できていない心持が表れている気がする。同時に1人23役を担う金子学さんが、上着を着替えるだけで23人を演じ分けるという効率的セット。
23区の恋人は、明里がこの部屋から「東京タワーが見える」、「スカイツリーが見えるんだ!」といった名所を叫ぶことで一瞬にして場所(区)が特定出来る。また23区を巡るのは、メイン舞台(上段)を降りて、サブ舞台(下段)と客席との間を行き来することで移動していることを表す。もちろん、騒音や駅アナウンスといった効果音もある。70分という比較的短い上演時間で、地理(物理)的という距離と人と人の心情(精神)的距離を実に巧く描く。
ところで、声なき声として観客の思いは、町子が23人の恋人のどこが好きなのか、だれが一番好きなのかを聞きたい。そして彼女曰くオリンピックに準えて、異種競技の金メダリストを比較しても意味がないといった回答。何となく最もな気がしたが、良い面だけを見た人の集合(23区)体とも思える。人は少なからず長・短所があって人間味があるような。逆に23区の彼氏たちからすれば、本当に付き合っていたの?という詰問がありそう。しかし物語は、あくまで町子目線で、明里の助言もあって彼氏の断捨離を軽妙に進める。23人を寄せ集めることで、逆に人の不完全さを浮き上がらせる巧さがある。
映画「婚前特急」を連想。5人の彼氏と同時に付き合っていた女性が、ある切っ掛けで運命の相手を見つけるまでをユーモラスに描いた恋愛コメディ。彼氏5人の査定を始めるが、相手からは「俺たち付き合ってないじゃん」というキツイ言葉。公演も 自分と相手の気持の相違に気づくことに...。
物語が面白いのは、登場人物のキャラクター。といっても町子のあっけらかんとした優柔不断さ、明里の常識人らしい融通(面白味)の無さ、という対照的な2人の微妙な距離感で表す。それを織田奈那さんと見里瑞穂さんが自然体に演じ、本当に中学校以来の親友のように思えてくる。そこに金子学さんの特徴を出さない23区の恋人たちが面白可笑しく絡む。劇団員でない3人が絶妙な関係性を表しており、実に新鮮だ。隣の劇場OFFOFFシアターで劇団員による公演が同時公演中ということもあるが、新たな試みとして支持したい。
次回公演も楽しみにしております。
怪勿 - monster -
The Vanity's
Route Theater/ルートシアター(東京都)
2021/12/28 (火) ~ 2021/12/30 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
御用(仕事)納め。今年は、新型コロナに関わる応援業務で多忙を極め、休暇を取得し難い状況であったが、今日は午後半休をとり観劇。
今年もそれなりの本数を観劇したが、音楽劇と銘打った公演はわずかである。そして出演者3名で3役全てを演じ3バージョン上演する試みというか挑戦に興味を持った。当日パンフにThe Vanity's 主宰・瑞生桜子女史が、「全く違う個性を持った3役を同じ役者が演じ分けていく面白さと、組み合わせが変わるとこんなにも違った作品に見えてくるのか・・」と書いている。自分は「Bチーム」を観たが、その印象が違って観えるのだろうか。
チラシや説明では、「私お母さん殺してきた」という衝撃的な告白 とあるが、その心境に至るまでの心情表現と状況描写が弱いのが勿体ない。3人の2001年から2021年までの20年間を1時間の中で紡ぐには無理があった、と思う。「母娘、友人、夫婦の"共依存"がテーマ」であるが、出来れば先の衝撃的な告白をした女性(母娘関係)に焦点を絞った物語にしたほうが分かり易い。
(上演時間1時間) 【Bチーム】
ネタバレBOX
舞台美術は、3人が居た児童養護施設「希望園」跡地の公園という設定。因みに上演前(施設)は小鳥の囀り、上演後(跡地の公園周辺)は車の走音が聞こえ、時の違いを表しているようだ。上手奥にピアノ、手前(客席側)にブランコ、中央奥に木(張り子、切抜き?)、下手奥に3段の台座(ジャングルジムであり地下室イメージ)、手前にベンチ。冒頭、ミホ(岡本華奈サン)が「私お母さん殺してきた」という衝撃の告白。ピアノの乾いた音が不気味に響く。
2011年12月30日深夜の公園。10年振りに再会したミホ、マリア(音羽美可子サン)、ミサト(瑞生桜子)が近況を話し出す。この日はミホの20歳の誕生日でもある。まだ何者にもなっていない彼女たち、希望を語り施設で遊んでいた時の遊戯(缶蹴り)で無邪気に遊ぶ。
2001年12月30日(10年前)、ミホが実母に引き取られ施設を出ていく時に、3人がタイムカプセルに将来の自分に向けた手紙を入れる。それから10年、今(2011年)のミホの実情は不明だが、後々明らかにされる。マリアは大学生で、それなりの男性と結婚し24歳くらいで子供を産みたいという現実(保守)的な考え。ミサトはデザイナーとして活躍したい。2021年12月30日、2人はそれなりに幸せを掴んでいるようだが、実は…(広げ過ぎて欲張った描きのよう)。
ミホは、二重人格(昼と夜の顔)の母の元…虐待を受けながら育つ。母はミホを地下室に軟禁し、売春相手を探す顔見せのため、週一回礼拝に連れ出す。ミホの唯一の望みは、マリアとミサト(10年振り)に会うこと。それが叶えられなかったから…というには時間軸の長さに対して心情と状況の説明が不十分で感情移入がし難い。軟禁し虐待されているミホの一人表現、その狂おしい姿は解る。しかし、後景の木を回りながら代わる代わる 3人が台詞だけで1年刻みの情況を説明しても心に響かない。登場しない「怪勿」をもう少し具体的に立ち上げるか、もしくは虐待の凄惨さがイメージできる出来事が必要。
音楽劇としては、冒頭こそ怪しく不気味な効果(ピアノ)音であるが、本編で役者が歌う場面は心情表現で、もちろん皆さん上手である。声質が違うためハーモニーは実に心地良い。
ミホの衣装が、12月にしては白の薄着。この衣装に薄幸(軟禁)もしくは特別な思いのイメージを重ねているのか、違和感を覚える。The Vanity'sに込められた、”虚栄心、うぬぼれ、儚さ”は十分に伝わる。
次回公演も楽しみにしております。
オサエロ
KKTプロデュース
テアトルBONBON(東京都)
2021/12/22 (水) ~ 2021/12/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
角田奈穂さんの初?プロデュース公演…非常に丁寧な制作で物語を紡ぐ。内容的には重く苦しいはずであるが、将来(今)に向かっての清々しいメッセージもあり、現代に刻印した心に残る感動作。
戦時中という人間不在とも言える時代を背景に、特攻隊員と幼なじみの淡くも悩ましい悲恋物語。時代と状況が許さない恋を実にきめ細やかに描き、場内から嗚咽が漏れる。お薦め。
(上演時間1時間30分)
ネタバレBOX
舞台美術は客席に向かって八の字に広げた木柱 板壁造りの三角兵舎内。上手下手は寝所のような膝高の板敷、上手のみ布団が2組ある。
上演前は「♪ひこうき雲」が流れ、空への憧れと特攻隊の悲壮を重ねるという選曲の妙。物語は騒音と玉音放送が被り始まるが、そこに時代の隔世を表現する。人の噂も七十五日というが、戦後も75年を過ぎると平和が当たり前、戦禍の悲惨さが忘れ去られるのが怖い。
中原修(黒木文貴サン)のところへ沢口夏子(松木わかはサン)の孫である、小佐野(未依サン)が訪ね、祖母の手紙を渡すところから始まる。
修の懐述…特攻隊出撃前の日々、修、浅井勝彦(石田隼サン)がいる兵舎に幼なじみの夏子が世話係としてやって来る。修は夏子が好き、一方 夏子は勝彦に好意を抱いている。気心が知れているだけに気まずい三角関係、明日の命はないという極限の状況下で、告白など出来ない。しかし、ひょんな拍子に修は夏子に告白し、躊躇しながらも承諾を得てしまう。そして出撃の時を迎えるが…。
戦時中の人間不在について、隊員の柴田武夫(遠藤翔平サン)が上層部に向かって諫言し、体罰を受けたシーンを通して強烈な批判をする。「十死零生」という、作戦でも何でもない”特攻”。これが軍の作戦として実施されたところに その異常さがあった。極端な精神主義、科学的思考の欠如といった今では考えられない思考と行動。柴田の考えを支持した隊長・神田喜久雄(橋本全一サン)。隊員には他に 妻子がいる岡本昭二(小田洋輔サン)、独身純情の稲島陽一(池田謙信サン)といった、その時に居たであろう典型的な人物象を立ち上げ、色々な背景を観客に想像させる。
回想のラスト…出撃シーンで隊員(中原修以外)は舞台横一列になり旋回(転)して捌け(消え=死ぬ)る。タイトル「オサエロ」は、隊長からの訓示で敵艦に突撃するまで操縦桿を離さないの意。
女性観点として、夏子と同じように兵舎の手伝いをしている坂下昭代(新木美優サン)と稲島の淡い思いも描くが成就しない。新婚をイメージした甘ったれた願いー昭代に膝枕をせがむ稲島。昭代は死に逝く人との恋愛は辛く、思いを引き摺りたくない。そんな一途な面を見せる。これも当時ならではの考えと思われる。人物描写は、特攻隊員は家族に宛てた手紙・遺書の朗読という形で描く。広島県江田島市にある旧海軍兵学校を見学した際、読み見た心痛な記憶を呼び覚ます。
特攻隊員役の男優のキビキビした動作、それは単に軍服という外見だけではなく人の(生)死を感じさせる潔さ(諦念ではない)。女性は もんぺ姿で隊員の破けた靴下を繕う姿は儚い。手紙等を朗読する時や独白といった場面は、照明スポット(回転)で心象を浮き上がらせる。音響は物語の妨げにならない程度に流れる。物悲しいピアノの旋律が物語全体の雰囲気、印象付けをしており巧い。そして特攻隊員同士の話に「テンニンギク=天人菊」といった”特攻花”を連想させるなど会話に工夫を凝らし好感が持てる。
少し勿体ないのが、冒頭と最後に現れる現代(高齢者)の修。震える体を杖(操縦桿イメージか?)で支えているが、やはりぎこちなく違和感があった。
次回公演も楽しみにしております。
マンホールのUFOにのって
マチルダアパルトマン
OFF OFFシアター(東京都)
2021/12/22 (水) ~ 2021/12/30 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鬼才・池亀三太氏の世界観を堪能!
独特な世界観に翻弄され、流されないようにしがみ付くか、いや 黙って流されたりしたほうが楽しく観ることが出来る。この作品のユーモアには洗練された感覚がある。
表層的にはSFファンタジー風でありながら、どこか日常の光景ーー男子大学生のあるある行動といった見かける姿に親しみを覚える。主に前半は、男性目線、後半は女性目線であるが、全体を通して観ると、何故か甘酸っぱくも ほろ苦い青春グラフティといった印象。斜め上を行った奇抜さはあるが、終始 瑞々しい感覚的水準を保っていることに感心した。自分好みの作品である。
(上演時間1時間45分)
ネタバレBOX
舞台美術は、中央に大きな円形台、上手に別スペースがありベンチが1つ。周りの壁にはスナックや探偵事務所名が入った看板があり、或る街の光景を演出している。この雑多さがグラフティ(落書き)と思わせる。もちろん、円形台はUFOに見立てたマンホール。この上で別世界・別次元への飛行を妄想する。しかし覗いてみれば(覗かないけど)下水溝がある、という現実。これが前半・後半(男・女)の物語に通底する”物事”を指す。
この街の大学に通う、前半の主人公・へちま(宮地洸成サン)がUMA(謎の未確認動物)研究会に入部したり、偶然出会った後半の主人公・遥(松本みゆきサン)との奇妙な付き合い、コンビニ近くで知り合った女暴走族、遥の友人で気の強い女(後々、暴走族総長と分かる)と次々と知り合って行く。そして好みの女性がいればナンパもするという いたって普通の大学生の姿。時々、擬人化した犬や猫が現れSFファンタジーの様相を見せるが、UMA研究会というクッション(台詞にもある)を通して、人間=地球人も宇宙全体から捉えれば宇宙人、地球の生命体に区別など必要なかろうと言った大局的な観せ方は鋭い。現実とSFファンタジーの混在が実に巧い。
後半は、15年後の同じ街。へちま は街を去ったが、遥は相変わらず住み続けている。が、すっかり大人になった遥は何の変哲もない日々を過ごす。そんな時、暴走族総長だった むらさきが刑務所から出所してきた。昔話に懐かしさを覚えるが、以前と違い足を地にしっかりと着けて生きている。現実を手に入れたのか、夢を取り零したのかは分からない。
偶然、へちま との邂逅。彼は他の街で遥の知らない女性と”普通”に結婚していた。へちまの地に足を着けた現実、遥のまだ過去を引き摺っているかのような描きが対照的だ。
物語の観せ方も、ポップでクール、ベタでシュール、エンタメでアートといった相反するものが融合しているような感覚だ。一見、奇想天外に思えることでも不思議と受け入れてしまう面白さがある。夢だけでは生き難い現代社会の歪、しかし夢が無ければ面白味に欠ける人生、バランスを観せられたような気持だ。ただせっかくの えにしのギター、存在感があるのだから、もう少し効果的な活用が出来なかったのか、勿体ない。
自分的には懐かしき共感! ニヤニヤ系の笑いは、心と体にそっと寄り添うサプリメント・ドラマと言ってもよい、と思う。
次回公演(来週)も楽しみにしております。
疚しい理由2021
feblaboプロデュース
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2021/12/15 (水) ~ 2021/12/22 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い! 物語は二転三転するが、芯はブレず濃密な描き方。しっかり観客の関心を掴み集中させるあたりは見事。
生命保険の営業マンが顧客の女性と一緒に、その女性の後輩の家を訪れ加入を勧める。ありがちな状況がいつの間にか きな臭くなるが、結局真相は観客の想像に委ねられる。散々 話の真偽を焦らしておきながら、表層的には放り投げるような結末に驚かされるが、そこがまた巧みなところ。
(上演時間55分) 【”K”チーム】
ネタバレBOX
舞台セットは、シンプルであるが物語の展開、その場の空気を表現するような妖しい雰囲気を漂わす。暗幕で囲い、客席に対し斜めに渡した赤い通路が上手と下手に夫々延びる。真ん中も赤い敷物の部屋(ダイニングのイメージ)で、テーブル・イスが置かれている。背面は、数本の細い支柱に赤い紐が蜘蛛の糸のように張り巡らされている。何かに絡め取られそうな感じであり、台詞にある(物事に)縛られるのが嫌だ、を表しているようにも思える。後景は抽象的であるが、物語そのものは現実(具体)的で、その対比としての舞台美術は映える。
梗概…サスペンス・ミステリーの類であるから、詳細を書けばネタバレになる。タイトル「疚しい理由」、その説明に騙すか騙されるかとあるので、端緒だけ記すと”保険の加入”…それを巡って虚々実々の駆け引きが繰り広げられる。筋立(脚本)は、保険の営業マン・中西隆明(浅見臣樹サン)と夫を亡くした高校時代の演劇部の先輩・野口陽子(星澤美緒サン)が新婚の後輩・水田綾乃(小野里芙莉サン)を訪問 勧誘している。綾乃は、当初の保険金額を大きく上回る逆提示し驚かせるが…。身近でリアリティがあるため、物語の世界に引き込まれ次の展開が気になる。状況が二転三転し、ラストまで目が離せない極上のサスペンスドラマ。
2006年に劇団「ブラジル」で初演したが、その時代背景、状況設定は色褪せることなく、心に蠢く疚しい感情が浮き立ってくる。騙す騙されるという心の綾のようなものが、赤紐の蜘蛛の巣で表現されているよう。この3人の(歪な)関係、誰が誰を誣いて陥れるのか。観客(自分)は、固唾を呑んで成り行きを見守っている覗き見者のような気分になる。
役者は関係性を見事に体現しており、緊密・迫力ある演技であった。典型的な保険セールスマンの中西。中西と関係がある陽子は、綾乃への高額保険を加入させたくない思い、しかし何時の間にか綾乃に翻弄され呆れと怒り、そして愚痴といった表情と態度を自在に変化させる。綾乃は、幼く純情そうな若妻から底知れない怖さを秘めた小悪魔に豹変する。穏やかな雰囲気から段々と不穏な空気が流れ出し…。ラストの依頼とその裏に隠された事情が透けてくると、もはや疚しい以上の疾(やま)しいかも。
次回公演も楽しみにしております。
¡LOS CASCABELITOS con 芋洗坂係長!
大野環フラメンコアカデミア 「EL ANILLO」
タブラオ・フラメンコ・ガルロチ(東京都)
2021/12/20 (月) ~ 2021/12/20 (月)公演終了
実演鑑賞
一夜限りのエンターテイメントショー…大いに楽しめた!それに対する☆評価は無粋かな。
会場「タブラオ・フラメンコ・ガルロチ」は、新型コロナの影響で現在休業中、来(2022)年 新たに開業するという。今宵は「芋洗坂係長とフラメンコの抱腹絶倒コラボレーション!」と題し、特別にイベントを開催した。
(上演時間1時間30分)
ネタバレBOX
「大好評を博したお笑いとフラメンコの抱腹絶倒コラボライブが、満を持して開催決定!」と言うだけあって、なかなか仕込んだプログラムであった。
オープニングは、「伝説の振付師登場!」。もちろん芋洗坂係長が、Baileにダメ出しをし、自分勝手な振付を行い笑いを誘う。その後、改めてフラメンコを踊るが、言われた振付をさり気なく取り込んで、というか逆に元々のダンス振付を芋洗坂係長が面白く振付したように観せかけた趣向らしい。そして彼自身、座頭市に扮し仕込杖による居合(術)を観せるが、そこでも しっかり笑いを誘う。
フラメンコと言えば音楽。音楽隊コーナーとして、フラメンコではお馴染みのCante、そしてGuitarra、Percusionの見事な演奏が聴かれる。
メインは、4名Baile=ソロ・ダンス。代表的なブレリア、セラーナ、タラント、アレグリアスが見事に演じられる。最後のプログラムは、芋洗坂係長のオリジナル曲「風を浴びたい」をBaile全員で踊る。芋洗坂係長の体型がメタボーーそれを笑いネタとし 汗かきは風を浴びたいのだというシャレを取り入れた振付になっている。
最後まで観客を笑わせる、そのサービス精神に感謝・感激、そして満足した。
鈍色(ニビイロ)のヘルメット -20歳の闘争-
KUROGOKU
中板橋 新生館スタジオ(東京都)
2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
激動の時代の中で生きた若者たち、そして いつの時代にも出会う恋愛。全体としては「全共闘運動」、しかしその意匠を借りた恋愛劇のようでもあった。物語は東大全共闘の誕生、安田講堂での(機動隊との)攻防戦で最高潮というダイナミックな展開。熱く激した時代があったことを、一少女の軌跡を通して描いており、時代と人間がしっかり立ち上がってきた力作。
物語は、恋愛を「エーデルワイス」、闘争を「インターナショナル」、そして地続きの現在、そして未来へ向けての「友よ」という曲が端的に表している。
(上演時間1時間50分)2021.12.20追記
ネタバレBOX
ほぼ素舞台だが、「完全勝利まで闘い続行‼」「東大全共闘!」といった文字が立て看板等に書かれている。さらに後々、安田講堂攻防戦で使用する木箱がいくつか積まれているのみ。壁には闘争幕といったもの。板は継ぎ接ぎした板目で、会場全体で荒廃と闘争感を表す。
梗概…1965年高校2年生の時、主人公・小松原ミチコ(富川陽花サン)は友達の早川トモコ(守谷花梨サン)と映画『サウンド・オブ・ミュージック』を観た帰りにデモ隊と機動隊の衝突に巻き込まれ、投石でミチコは怪我を負う。その時、ミチコを介抱してくれたのが、東大生だった澤田カツトシ(小坂広夢サン)で、彼を慕い東大へ入学し、さらに東大全共闘へも加入するが…。
時代背景や当時の状況を伝えるのは、カメラマン助手であった加藤ヒトミ(松本みなみサン)、後々の語り部のような存在。また澤田の元彼女で女性解放運動を高らかに唱えていたのが野川サナエ(野田香保里サン)。彼女の言葉を借りれば、いずれ女性の大統領も誕生と言っていたが、日本では未だ女性の首相は誕生していない。ちなみに直近の世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ報告(対象153カ国)では、ジェンダー格差が少ない国の中で 日本は120位で下位のほうだ(分析の是非は別)。
演出の黒田瑞仁氏が、当日パンフの中で「地続きのはずが当時を生きていなければ決して知った顔もできないほどの距離を感じる時代」と書いており、確かに半世紀ほど前にあった事実は、歴史の中に埋没したかのようだ。物語では、ウーマン・リブといった台詞に象徴されるような、女性解放運動が(地続きの)今に続く。女性の社会進出は当時に比べれば進んだかもしれないが、それでも世界的に見ればお粗末なもの。
物語は、当時の出来事ー全共闘運動を直截的に描いても、当時を知らない人が観たらピンとこないかもしれない。それを2つの視点ーいつの時代でもあり得る恋愛話と女学生の成長譚、そして学生と機動隊が衝突した歴史的事件ーそれも「東大全共闘結成~東大安田講堂(攻防)事件」に焦点を当て、どちらも熱く描かれる。もちろんフィクションとドキュメンタリーという要素を混在させており、今を生きる我々に演劇としての面白さの中で伝える。出来れば事件の発端となった東大医学部の問題をもう少し紹介し、時代背景や思想だけではなく具体的な問題(現代にも通じる)を示したほうが取っつきやすい。
ラストは安田講堂攻防の苛烈さ…客席に向かい、キャストが横一列に広がりヘルメットを被りゲバルト棒を持ち戦う姿。それぞれが掛け合う言葉が戦況を表す。刻々と変化する状況、そこに緊迫感と悲壮感が漂う。冒頭流れていた「インターナショナル」から機動隊突入前に歌う「友よ」へ変わり、歌詞の中で繰り返される「夜明けは近い」は、安田講堂(城)が直ぐに陥落せず、学生の反体制への意地を見せたことに繋がる。そこに当時の熱き想いが込められている。見事。
次回公演も楽しみにしております。
から騒ぎ
劇団東京座
阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)
2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
丁寧に描いており、シェイクスピアらしいオクシモロンを思わせる会話もあり楽しめた。しかし、上演時間2時間45分(途中休憩10分含む)という長丁場、丁寧ではあるが同じような会話もあり、そこは割愛してストーリー重視の観せ方でも良かった、と思う。
公演の魅力は、戯曲の面白さはもちろんだが、それを現代風に分かり易く展開する。具体的には、印象に残るような場景演出と役者陣の情景描写(演技)が上手い。【Aチーム】
ネタバレBOX
舞台美術は、暗幕に囲われ所々に煉瓦柱、中央に窓に蔦が絡みついた東屋風の衝立があるだけのシンプルなもの。場景変化に対応するため簡素な作りだが、そこに煉瓦模様の布を被せ堅牢さ、時にバージンロードとなる赤絨毯を敷き 教会に見立てるなど自在に変化させ、しっかり観客を物語の世界へ誘う。
物語は2組の恋人同士を中心に展開する。領主ドン・ペドロの従者ベネディックとレオナート邸の知事弟アントーニオの娘ベアトリスが善意の策略にかかって互いに対する愛を告白する。一方、ドン・ペドロの異母弟ドン・ジョンの悪意の策略により、同じ従者クローディオは知事レオナートの娘ヒーローを不実だと思い込んで結婚の祭壇で拒絶する。修道士の機転の利いた窮余の策でその場を収める。その後、ベネディックやベアトリス達は誤解を正すため協力する。最後は2組が結ばれダンスで祝って終わる。
物語は、善意と悪意、二種類の騙しを通して対照的な恋を描き、騙しと知ったあとでも愛を貫く強靱な精神を称える。一方、悪意の仕打ちに弄ばれる脆さの中にも美しさを観せる。対照的な恋筋は、いづれもハッピーエンドで締め括り陽気で後味が良い。しかし、物語の本当の面白さは浮ついた恋物語に悪意を投げ込み、次の展開がどうなるのか気になる、といった関心を惹かせるところから始まる。登場場面も台詞も多くないが、ジョンの悪だくみが 大らかで陽気で満ちた舞台に強烈な痛みを与え、物語を単なる御伽噺から(現実)宮廷劇へ戻す。また、立ち聞きがこの作品では巧みに用いられている。ベネディックとベアトリスが自分についての噂話を立ち聞きしたことで、レオナートたちの好意的な罠に嵌ってお互いを好きになるという効果をもやらす。
シェイクスピアらしさは、恋など馬鹿げていると言わんばかりのベネディックとベアトリスの豹変振りに表されている。人は愛する人を憎み、いけないことを楽しむ。色んな思いが混在する雑多な世界。人間は矛盾するところが面白い。機械と違って理屈や理論では片づけられないのが人間で、恋に落ちるなどというのは反理性的な行為だが、その「おめでたさ」が喜劇の真骨頂であり祝祭性であろう。それが伝わる公演であった。
役者の台詞は 早口かつ滑らかだが、テクニック優先で気持が後まわし。敢えて表面的な可笑しさとして観せているかのようだ。場面としては照れ隠しであり激情した様子を表現する所。しかし台詞であって会話の言葉ではない。言葉という伝達に魂が入らなければ真意が通じない。何故か稽古の”台詞”といった感じで上手いが心に響かないのが残念。
公演全体としては、とても丁寧な描き、演出も工夫を凝らし コミカルでありドキッとする要素(教会の十字架が取れ落ちる)を取り入れる。音響は場面に合ったSE(闇夜の梟の鳴き声や水が滴り落ちる音)、さらにクラシック音楽等を流し情緒性を表現。照明と小道具は暗がりに篝火・松明といった幻想効果を出す。最後に主な役者の衣装も、暗幕の中でも照明に映える赤い上着という拘りが良い。
次回公演も楽しみにしております。
掌サイズのファンタジー
backseatplayer
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い! 30歳独身男、今までと これからの人生を考える。
いつか来た道だが、大人になったらそんな事も忘れてしまう、人間関係の機微。それが家族ともなれば、それなりに煩わしくもあり、疎ましく感じることもある。今の思いをしっかり伝えることの大切さ、それを少し斜めから切り込んだ世界観。その世界を覗いてみれば、生きるために必要な事が笑いの中に散りばめられている。祖父、父親、息子という男三世代が贈るヒューマンコメディ…ラスト、ポケットの中を探った手を開いてみれば、そこには掌サイズ(いっぱい)の幸せがある。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし)
ネタバレBOX
舞台美術は、少し高い平台が正面にあり、その上に黒板がある。板には色違いの箱馬が8つあるが、状況に応じて置く位置を変える。場面転換後、客席寄り中央にタバコ1箱(銘柄White iLL)が置かれ1本飛び出ている(チラシの図柄)。
主人公・落合楽空(藤代海サン)は、シンガーソングライターになるのが夢だが、30歳になった今ではバイトに明け暮れ、夢が萎みかけている。そんな時、父・秀樹(剣持直明サン)から亡くなった祖父・士郎(冨田浩児サン)の家を売却するので、片付けを手伝うよう電話がくる。祖父の家にあった先のタバコを吸った。気が付いたら この世とあの世の狭間の世界にいた。その世界の違いは衣装の別で表す。狭間世界は、上下ブルーデニム地の作業着みたい。ここにいるのは夢半ば、やり残して死んだ者ばかり、いつの日か生まれ変わった時に同じ轍を踏まないようにと…。何故か士郎と祖母・千鶴(真野未華サン)が若かりし頃の姿で出迎える。さらに存命だったはずの秀樹まで居る。これは夢か現実か判然とせず混乱する楽空に向かって、お前はまだ生きている。ただ生きていく上で必要な事を学ばせる。同時に疎遠だった父との蟠りの解消も果たす、という教訓臭と親子愛を描いた人情劇。
教わったのは「自由」「自信」「勇気」の3つ。夫々の必要性について、楽空に体験・事例研修させるといった観せ方。規制が作られた理由・原因を知り、その上で不必要な規制(精神的な束縛)からの解放。いつの間にか夢は萎み失いそうになるが、出来ると信じること。最後に誰に何を言われようとやり遂げる強い意志と勇気。楽(ラク)をすることが夢や幸せではない。自分らしさ、やりたい事が出来ることが楽(たの)しい人生。同じ「楽」でも意味合いが違う。父から、そんな願いを込めて名付けた名前「楽空」(実際は士郎が命名)であることを知らされる。藤代サンと剣持サンの気まずい父・子関係が実にリアル。特に 2人が同じ状況(車中)で夫々の立場から描いた場面は、そぅそぅと頷いてしまう。
箱馬は教室における座席であり、そこへの上り下りが躍動感を生み、理屈っぽくなりそうな会話に変化を付ける。駆け回る、囃し立てるといった姿は、小中学生の教室を連想させる。自分が子供の頃に思い描いた夢、親は足元を見つめた現実話、そこに親子のギャツプが生じるが、自分が親になったらいつの間にか同じような説得口調になっている。世代を超えての堂々巡りは、時に親子の確執を生む悲劇になる。公演では現実(理屈)の世界を少し離れた場所から眺める、そんな曖昧(ファンタジー?)さでテーマを浮き彫りにする巧さ。
次回公演も楽しみにしております。
眠れぬ姫は夢を見る
サヨナラワーク
劇場HOPE(東京都)
2021/12/15 (水) ~ 2021/12/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
女優8名によるミステリアスな心象劇。その謎めきが、観客の関心を最後まで惹き続ける。物語は、役名ではなく出演者名のまま演じられるので、役柄はチラシ裏面の顔写真と名前を見れば一目瞭然。物語は2021年夏から10年前の2011年夏に遡り、ある事件を通して描いた女性の成長譚でもある。シンプルな舞台美術に鮮やかな色調のプロジェクション・マッピング、しかし それは図柄のみで 表し難い心の内を端的に示しているようだ。時代の往還はあるが、年月日が字幕表示されるので混乱することはない。公演では、女性の心象と成長する過程を楽しみたい。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし)
ネタバレBOX
舞台美術は、下手 客席に向かって二面の壁が広げられ、壁に沿うように夫々3箱馬が置かれているのみ。色調は白、ちなみに女優陣の衣装も薄淡色で、何となく浮遊感がある。その壁に幾何学模様のような図柄を映し出す。その意味合いは解らないが、色鮮やかなこともあり、状況変化であろうことにハッと思いを巡らせる効果はある。
アイドルグループに新規加入した南岡萌愛さんは、グループで一番の人気者、美澄優羽さんに憧れていた。いつも傍におり、彼女が引退を考えていることを知り、辞めないよう懇願するが…。いつしか優羽から疎まれるようになり、グループ内でも孤立を深めていく。そして優羽のストーカーに暴行を加えられ入院する。以降、人との接触を避け怖がるようになる。そして現れたのが(彩原)双葉さん、彼女は萌愛が寂しくなった時に現れる心の友。もう1人、暴行事件を取材している水野奈月さん、グループメンバーにインタビューすることで立ち上がる萌愛像、一方メンバーのぎこちない対応に違和感を覚えはじめる。
双葉との会話=自分の寂しさに向き合うことで心の傷を乗り越えようとする。それは双葉の存在を必要としないことを意味する。双葉の「さよなら」の言葉に被せるように「おやすみ」という。双葉は私にとってディア・マイ・フレンドという。いつかまた寂しい思いをし、再び必要となる時まで眠り夢見ること。奈月は、心の奥深くし記憶を押し込んだ自分自身。萌愛はメンバーが自分のことを取材する姿に戸惑いと悲しみを抱えていたことに気づく。色々な辛い思いを乗り越えて、夢であったコンサートへ…。
シンプルな舞台セットだが、何回か箱馬を変形させることで情景に変化をつけ飽きさせない工夫。重くなりがちな場面も、女性ならではのフワッとした柔らかさ、しなやかさで優しく観える。また照明は鮮やかな色彩中心に諧調させるなどの工夫で支える。女優陣は事務所代表、萌えキャラ、ツンデレ、愛嬌 といったキャラをそれぞれ、宮本朋美サン、桜羽萌子サン、杢原朱織サン、丹羽まなえサンが好演。
過去公演はオンラインシアターが中心。この演劇ユニットは新しい演劇のかたちを追求しているという。そう言えば、劇中で「ディア・マイ・フレンズ(ド)」「私は貝になりたい」などの映画タイトルが呟かれる。これもリスペクトしつつも否定し新しいエンタメに向っての活動表現なのか。「サヨナラは次のハローへの合言葉」という魅力あふれフレーズ…今後、楽しみな演劇ユニットに出会えてよかった。
次回公演も楽しみにしております。
「紅一点」
演劇ユニット「みそじん」
ステージカフェ下北沢亭(東京都)
2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
全回取扱終了(完売)の超人気公演!
マンションの大家兼管理人、住人のコミカル騒動を通して、人との触れ合いを描いたハートフルコメディ。久し振りの みそじん公演、楽しめた。今まで観てきたのが女優だけで、女性ならではの繊細であり、ちょっぴり棘のある物語だった。「紅一点」は、初めて男優が登場し、今までと違ったパワフルさが新しい魅力として加わった。ただ、観(魅)せるために、飛び道具、少し強引かなと 思える笑い(爆笑と言うよりはニヤニヤ系)への誘いは、観客の受け止めかた次第。自分は素直に笑わせてもらった。
(上演時間1時間20分)
ネタバレBOX
最前列は舞台近くにあり、エキサイティングシートとして案内していた。一瞬 観客参加型の場面があるのか訝しんだが、思い過ごしだった。マンションの部屋は基本的に同じ間取りという設定で、3話(部屋)の住人が巻き起こすドタバタを描きつつ、大家の目指す住人同士が助け合いが出来る環境を構築したい。昔ながらの長屋イメージ、住んでいる皆で子育て、調味料の貸し借りといった相互扶助的なマンション(管理)にしたい。
舞台美術は、基本的な間取りは同じであるが、部屋ごとの調度品等(小道具)は異なる。同じイメージなのは正面の窓、吊るされるカーテンと下手にある壁飾り(柄や趣向は違う)。3話の場面転換時は直ぐに暗転しない。スタッフ・キャストが薄明かりの中で、配置換えを行うなどし場所が違っても同じ時間が流れている、その観客の意識を逸らさない工夫が巧い。住人の衣装はもちろん、大石さんはメイクも変え、人物表現に工夫を凝らす。
物語ー各部屋の出来事は次のとおり。
第1話「藁藁Ⅱ」ー黒木知恵与の部屋
大家(生津徹サン)が住人・黒木知恵与(大石ともこサン)の部屋で藁を編む(イメージは しめ縄作り)ことを習ってみようと訪ねる話。2人で藁編の実演を行うが、大石さんが もたつく生津さんを 早く!早く!と煽る。2人のコミカルな遣り取りが笑える。
第2話「ごく普通の暮らしについて」ー野村翔太・さち子夫婦の部屋
離婚するため、さち子(大石サン)が荷造りをしているが、翔太(菊池豪サン)は納得していない。突然 さち子はフードファイターになるため渡米すると。引き留める夫、そんなところに引っ越しを手伝うため、さち子の弟/谷口雄二郎(田上晃吉サン)がやって来る。真意は子供が産めないため、自ら離婚を切り出し というありがちな話。
第3話「お部屋の秘密Ⅱ」ーセイジの部屋
3人組のバンド、セイジ(菊池サン)トオル(田上サン)ビリ子(大石サン)が、将来の見通しが立たないバンド活動に見切りをつけるか否かの言い争い。セイジとトオルは幼馴染で、なかなか話し出せないが、トオルとビリ子は付き合っている。セイジはメジャーデビュー出来そうな美味しい話があると聞き入れないが、結局トオルとビリ子は部屋を出て行く。
第1話は藁編の実演、第2話はダンボール箱への隠れ、第3話は流しソーメンという飛び道具。もちろん話(各部屋)の関連性はなく、オムニバス的な描き方。大家が強引に流しソーメンを始め、いつの間にか登場人物全員が集まり、大家のマンション管理の理想”人との触れ合いを大切にする”を聞く住人達。冒頭、大家は親から相続したマンションの家賃収入で生活でき、無理して煩わしい、嫌なこと、そんな道を選択する必要がない。でも生き甲斐みたいなものは、という大家の願望が強く伝わるラストシーン。
次回公演も楽しみにしております。
リーディング新派 in エンパク 『十三夜』
早稲田大学演劇博物館
大隈記念講堂小講堂(東京都)
2021/12/15 (水) ~ 2021/12/15 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2021年度秋季企画展「新派 SHIMPA――アヴァンギャルド演劇の水脈」関連公演として上演された樋口一葉の小説「十三夜」、奇しくも十三夜に近い十五日に拝聴。過去に何回か聴いたことがある朗読劇。
この作品は、昭和22(1947)年9月の三越劇場、久保田万太郎の脚色で新派によって劇化初演されたらしい。初代水谷八重子が自ら選んだ「八重子十種」にも数えられる名作という。今回はその大御所、水谷八重子の近くで学んだ波乃久里子さんが主人公のお関、歌舞伎の舞台にも立ったことがある新派の喜多村緑郎氏が幼なじみ・録之助を演じる。練達の俳優たちの情感あふれる朗読、そして生音調 目にすることが少ない道具での見事な情景描写に唸る。
幼なじみの恋路を照らす十三夜の月あかり――。声と音がつむぐ新派の世界に、言葉に耳をすます。
アフタートーク、波乃さんの開口一番は「緊張した!」だった。彼女ほどの大ベテランでも緊張するという、演じれば演じるほど奥が深い演劇の世界。いや~聴応えがあり、一夜限りの至福の時間。堪能。
(上演時間1時間30分 朗読+アフタートーク)
サド侯爵夫人
遊戯空間
銕仙会能楽研修所(東京都)
2021/12/11 (土) ~ 2021/12/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
「凄い!」公演を観劇した。そして感激した。
二日間、たったの2公演…前評判も高く、当日は開場前から長蛇の列、もちろん満席だ。上演時間も然る事ながら、充実・満足度は大作と呼ぶに相応しい。
原作は三島由紀夫、演出・美術は篠本賢一氏。謳い文句「能舞台でフランス貴族の物語を重ね合わせつつ西洋と東洋文化の衝突」は、外観こそシンプルであるが、描かれた内容は複雑な人間心奥をしっかり観せる。
(上演時間3時間35分 途中休憩20分含む)
ぶっかぶか
ここ風
シアター711(東京都)
2021/12/08 (水) ~ 2021/12/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い! お薦め。
ペンションを経営する夫婦とその兄や妹、そして3組の宿泊客が織り成す心裏(喜)劇。劇は心を揺さぶり、自信いや地震が劇場も揺さぶった(東京23区は震度3だったが、役者は平然と演技を続行、さすがだ)。
一人一人のキャラがユニークだが、どこにでも居そうな人物の特徴を強調させることで、強烈な性格を際立たせる上手さ。相手を思いやる心遣いが出来ず、蟠り、そして場の空気を読めないといった人々が抱える苦しみと哀しみ、それを心に押し込み、明るく元気よく振る舞う姿に可笑しみをおぼえる。
タイトル「ぶっかぶか」…人間、やはり身の丈に合った役割や立場でないと、居心地が悪く精神的に苦痛なのかなぁ。しかし、役者は役にピタッとはまっており見事。
(上演時間1時間55分)
ネタバレBOX
舞台美術は、古民家を改築したペンションの共用スペースをしっかり作り込み(敷居の跡あり)、物語の情景を支えている。上手に丸テーブルに椅子、中央が出入り口、下手に書架や窓があり外光が射し込む。薄がりに灯る傘電気が風情を漂わす。室内にも関わらず土足だが、スリッパにしたら動き難そう。
物語は、訳ありで不思議な3組の宿泊客を通して描いたハートフルコメディ。まずペンションにいる人々の紹介をしながら、早くもキャラを立ち上げる。ペンションの相馬修太郎・瑞希夫妻(香月健志サン・天野弘愛サン)、瑞希の兄・浅野陽介(牧野耕治サン)、妹・麻希(斉藤ゆきサン)が居候のように住んでいる。
宿泊客は3組だが、正確には1組の物置会社社長・観山勤(斉藤太一サン)とその兄・政生(後藤英樹サン)だけで、他の2組は必然の客・関根優真(はぎこサン)と偶然に宿泊することになった笠原裕也(三谷健秀サン)。
本来の客である観山勤は陽介がアップした動画を偶然観たところ、情緒不安定になってしまう。心配した政生が陽介の居場所を探し出し、静養と偽り弟を連れてくる。この動画、催眠効果を発揮するらしいのだが、陽介が逃げられた女房に向けて撮った動画で、「催眠を解く」ことを意図している。元はプロポーズの時「俺と結婚したくなる」と催眠術をかける真似をし、女房はフリをした。いなくなった女房に「催眠術を解いたから自由だ」という意の動画が、社長というプレッシャーに耐えきれずにいた勤の潜在意識を刺激し精神的な解放をもたらした。この兄弟は父・母の連れ子同士で血の繋がりはない。幼い時から比較されながら育つという愛憎が切々と語られる。
必然に客となった優真は、ペンション夫婦の妹・麻希が自分の双子の妹の墓参りに来た後を付けて来た。一年前、社員旅行で行った清里の寮の火事で優真の妹は焼死した。その後、麻希は会社を辞めた。妹が命を懸けて助けたかった友達・麻希に興味を持ち、ペンションまで来た。2人で話すうち、性格の違う妹がなぜ彼女を助けようとしたのか理解できたような心持。
偶然に宿泊することになった裕也、幼いころから耳が聞こえなくて放浪している。このペンション近くで木から落ちて怪我をしている勤を背負い、ここまで来た。大人になるにつれ不思議と耳が聞こえるようになり、身体的な変化は精神的な変化をもたらす。聞こえなくてもよいことが自然と耳に入り、人との関わり、距離感が掴めないもどかしさ。「ありがとう」と言われた相手から持参のスタンプを押印してもらう。取りあえず1万人(瑞希が1万人目)達成、新たに1万人と関わるスタンプ目標を持つ。
ペンションという人との出会いや関りが大切な仕事、それを訳ありな事情を抱えた人々を登場させ、人間関係というか人との距離感という描き難い微妙な事を実に巧く観せる。催眠術的な動画の件は、作・演出の霧島ロック氏がワン・シーンだけ登場し種明かしをするようで笑える。
次回公演も楽しみにしております。
『きみがゆえにわたし』 『咲く、白。』
踊る『熊谷拓明』カンパニー
あうるすぽっと(東京都)
2021/12/10 (金) ~ 2021/12/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★
2作品交互上演のうち『きみがゆえにわたし』観劇。
「咲く、白。」について、作・演出・振付の熊谷拓明氏とゲストで振付家・ダンサー・俳優の北尾亘氏がダンス披露を交えた、モノローグ、ダイアローグといった観せ方。これを公演にするのは無理がある。どちらかと言えばアフタートークで済ませる内容だ。
(上演時間1時間15分)
ネタバレBOX
招待公演。
舞台美術は、基本的に『咲く、白。』と同様。違いがあるとすれば、ソファーがひっ繰り返っていないことと、冷蔵庫が初めから舞台上にあることぐらい。2人がソファーやその他の場所で語らうが、普段通りの会話だろう。広い空間に2人だけで所在なさげだ。
熊谷氏が北尾氏に公演を観た感想を求めるが、口ごもる北尾氏。 次第に話題は互いの”踊り”や ”生きる”に及び、互いの価値観の根底にある歪みが浮き彫りになるらしいが…。さっぱり解からない。そして2人でダンスの競演やカラオケ・デュエットでの緩い笑い。あー勿体ない時間が過ぎる。
『きみがゆえにわたし』 『咲く、白。』
踊る『熊谷拓明』カンパニー
あうるすぽっと(東京都)
2021/12/10 (金) ~ 2021/12/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
2作品交互上演のうち『咲く、白。』を観劇。
物語とコンテンポラリーダンスの融合作品。
物語は自分の存在確認と心地良い居場所を求めて集まった男女7人が紡ぐ話。それをダンスを交えて観せるのだが、自分にはダンス・パフォーマンスの意味するところは読み取れない。ただ極めて身体表現(体力面も含め)の質が高いことは窺い知ることができる。
(上演時間1時間25分)
ネタバレBOX
招待公演。
舞台美術は、白銀網のような幕が舞台の前後に吊るされ、場面に応じて上下に動く。板には緑の絨毯が何枚も敷き詰められ、その中央に3人掛けソファ(上演前は引っ繰り返っている)、上手に応接椅子2脚、下手にテーブル、後方に洗濯機、ごみ箱、スタンド等、雑然と色々な物が置かれている。さらに洗濯物が吊るされている。この場所はどこで、集まっている人々の関係性は、といった疑問が生じるが、物語の展開とともに明らかになる。この雑多な物は各人が持ち込んだもので、何故その物なのかは不明。
梗概…2014年3月末日。車両が頭上を行き交う高架下で、1人のホームレスが酒に酔ったサラリーマン3人に暴行を受け、殺害された。数日後、消しきれぬ彼の血痕の上に何枚もの緑の絨毯を敷き、思い思いの家具を持ち寄り暮す人々が現れた。人々は入れ代わり2021年12月。緑の絨毯の上で暮す男女7人は互いの価値観に足を踏み入れる事を嫌い、穏やかに過ごす時間を求め肩を寄せ合った。
ある日、7人の前に冷蔵庫を引きずる一人の男が現れる。妻との時間に息苦しさを感じここへ来た男と7人の暮らしは、やがて男が知らされる妻の"ある真実"により新しい未来へ加速する。男は、自分を否定すると、妻をも否定しているような錯覚に陥る。それだけ妻を愛していたのだが…。
ホームレスとは、単に帰る家が無いだけではなく、心に帰る家が無い人をいう。その意味では、高架下にいる7人は心の拠り所、安心できる場所がここしかない真のホームレスといえる。また、血痕が隠れるように敷いた緑の絨毯は平和の象徴のように言っているが、こちらも隠すだけという表面的な取り繕い。7人は互いに干渉し合わないから、その場限りの”関係”でしかない。自分のことは話し(知られ)たくないが、相手のことは詮索しがち。人間はなんてエゴな生きものだろうか。”白”という色は、純粋無垢といった好イメージを持つが、逆に何にも強調・主張しない無責任な色でもあるという。それが不干渉とでも言うのだろう。観せ方は極めて心象的で抽象度の高いもの。それだけに観客を選ぶかもしれない。ラスト、薄暗い中、ランタンの明かりに照らされて朗読される詩が心に響く。
音響は優しくピアノが奏でられ、時々 波の音、そして水が流れるといった静寂な空間イメージ。かと思えば高架下ということもあり耳障りな騒音、空想と現実の世界観を音響効果で表しているようだ。
物語の展開とダンスの関係性(表現したかったこと)は理解できないが、公演全体としては楽しめた。
次回公演も楽しみにしております。