ばいびー、23区の恋人 公演情報 マチルダアパルトマン「ばいびー、23区の恋人」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い! お薦め。
    一見、コメディ映画のサブジャンルであるスクリューボール・コメディのようだ。住む世界(公演は本来の意味ではなく場所)が異なる男女の恋話、変わった登場人物、テンポのよい洒落た会話。だが次々に事件が起きる波乱にとんだ物語はない(いや、ラスト近くはドキッとするか)。「スクリューボール」は「スピンがかかりどこでオチるか予測がつかないボール」を指しているらしく、転じて突飛な行動をとる登場人物が出てくる映画の代名詞になっている。物語は複雑ではないが、不思議と緩い会話と忙しい観せ方に魅了されてしまう。

    登場人物は25人だが、役者はわずか3人。しかも役名があるのは、主人公・町子(織田奈那サン)、その友人・明里(見里瑞穂サン)だけで、残り23人(区)は、恋人たちとして(金子学サン)が演じる。タイトルや説明から分かるように、町子が恋人たちに「ばいびー」するため23区を巡るのだが、ナレーションや説明の字幕はない。しかし、明里が叫ぶ一言で場所(区名)が一瞬にして特定できる巧さ。完全に物語だけで観せていく。物語を支えているのが舞台美術。基本的には変わらないが、街のあちこちを歩き回るロード・ドラマ感を引き出すための乱雑さが風景に見えてしまう。

    役者は3人だが、舞台には多様な顔と声が次々に登場するようで、退屈する暇がない。「ばいびー」旅を通して立ち上がるのが、町子と恋人たちの関係ではなく、漫才のボケとツッコミのような町子と明里の凸凹コンビーー不思議な友情関係である。町子の歯切れの悪さ、明里の後押容赦なし、恋人たちの戸惑い往生際の悪さ、という構図が徐々に対話の形に発展していく。旅という動き、部屋での会話が忙しく交錯するうちに、奇妙な興奮状態が生まれてくる。

    多くの(実際は3)人の顔と声が描かれており、本来ならば生活や暮らしといった社会が見えてくるはずだが、さすがにそこまでは想像出来ない。恋人との別れ話…悲しみで寂しい姿があれば、戸惑い微妙な感情で握手する姿もある。いずれにしても人との関わりが密(蜜)であり、こんな光景がいつかまた見られる日が来るのだろうか(コロナ禍だから再演?)。
    (上演時間1時間10分)

    ネタバレBOX

    舞台セットは大きく2つに分かれ、町子や23区の恋人の部屋、本来の舞台と客席の間にも木枝やカラーコーン、ベンチ、ブランコが置かれ、色々な風景を観せる。メインの舞台は上手にベットがあり中央にソファや本箱、いたる所に服が散乱している。全体的には雑然としているが、そこに町子の整理できていない心持が表れている気がする。同時に1人23役を担う金子学さんが、上着を着替えるだけで23人を演じ分けるという効率的セット。

    23区の恋人は、明里がこの部屋から「東京タワーが見える」、「スカイツリーが見えるんだ!」といった名所を叫ぶことで一瞬にして場所(区)が特定出来る。また23区を巡るのは、メイン舞台(上段)を降りて、サブ舞台(下段)と客席との間を行き来することで移動していることを表す。もちろん、騒音や駅アナウンスといった効果音もある。70分という比較的短い上演時間で、地理(物理)的という距離と人と人の心情(精神)的距離を実に巧く描く。

    ところで、声なき声として観客の思いは、町子が23人の恋人のどこが好きなのか、だれが一番好きなのかを聞きたい。そして彼女曰くオリンピックに準えて、異種競技の金メダリストを比較しても意味がないといった回答。何となく最もな気がしたが、良い面だけを見た人の集合(23区)体とも思える。人は少なからず長・短所があって人間味があるような。逆に23区の彼氏たちからすれば、本当に付き合っていたの?という詰問がありそう。しかし物語は、あくまで町子目線で、明里の助言もあって彼氏の断捨離を軽妙に進める。23人を寄せ集めることで、逆に人の不完全さを浮き上がらせる巧さがある。
    映画「婚前特急」を連想。5人の彼氏と同時に付き合っていた女性が、ある切っ掛けで運命の相手を見つけるまでをユーモラスに描いた恋愛コメディ。彼氏5人の査定を始めるが、相手からは「俺たち付き合ってないじゃん」というキツイ言葉。公演も 自分と相手の気持の相違に気づくことに...。

    物語が面白いのは、登場人物のキャラクター。といっても町子のあっけらかんとした優柔不断さ、明里の常識人らしい融通(面白味)の無さ、という対照的な2人の微妙な距離感で表す。それを織田奈那さんと見里瑞穂さんが自然体に演じ、本当に中学校以来の親友のように思えてくる。そこに金子学さんの特徴を出さない23区の恋人たちが面白可笑しく絡む。劇団員でない3人が絶妙な関係性を表しており、実に新鮮だ。隣の劇場OFFOFFシアターで劇団員による公演が同時公演中ということもあるが、新たな試みとして支持したい。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2021/12/29 23:42

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