1
かえるバード
玉田企画
分かっちゃいるのにしくじってばかりの人間たちを、最大級の愛おしさを込めて描いた傑作。玉田企画らしからぬ、笑いのないガチ修羅場も描かれて、表現のステージをワンランクもツーランクも上げた印象。オハコの“旅の夜”を封印してのこの出来映えには恐れ入った。
これは掛け値なしの岸田戯曲賞モノ。ノミネートすらされなかったら、岸田賞なんてなくしちゃっていい。
2
vol.22『野性の恋』/ vol.23『暴動のあと、さみしいポップニューワールド』
悪い芝居
当方は『野性の恋』推し。とある大人の男女の関係が微笑ましくて、終始温かい気持ちで鑑賞。タイムトラベルがからんできたりで話もすこぶる面白く、物語の妙味はもとより、恋の綾、人間の綾を2時間たっぷり味わい尽くした。
今回は二作交互上演ということで、主宰はそれぞれ毛色の違うものに仕上げようと腐心したそうだが、ギャグ満載のアチラに対し、コチラはほとんどギャグがなく、劇団の持ち味である悪ふざけをここまで抑制したのは多分、二作の違いを際立たせようとしたがため。結果、笑いという夾雑物がほぼなくなって、胸に響く一作に仕上がった。二作交互上演の相乗効果が生み出した、巧まざる傑作と言えるだろう。
玉田企画『かえるバード』ともども、本作も岸田戯曲賞候補に選ばれるべき一作。
ワケのわからん前衛読み物に受賞させても演劇の間口が狭まるばかりで、百害あって一利なし。そろそろこういうものに与えましょうや。
3
「海につくまで」
津あけぼの座
大過を犯して極道の世界にいられなくなったならず者二人が芸人をしながら南へ向かう逃避行を描いた、ジェットコースター・ロード演劇。坂口修一と小菅絋史。確かな演技力とコメディアン的資質、そして高い身体能力に恵まれた二人が、元ヤクザの芸人以外に何十役も演じながらいくつもの物語を紡いでいく舞台はアクションと笑い、そして“人手不足の学芸会”的B級感に満ち、スピーディーな展開も相俟って、息をもつかせぬ面白さ。それていて時にホロリとさせてもくれて、まさに子どもからお年寄りまでが楽しめる演目。劇中のコンビ「エンジェル・ブラザーズ」は全国の老人ホームや温泉施設を回って日銭を稼いでいるが、あうんの会は他ならぬこの演目をひっさげて全国巡業してはどうか?アフタートークでも話されていた通り、話の骨格がシンプルで足し引きがしやすい内容なので、客層に合わせて内容を微調整しながら学校、刑務所、老人ホームなどを回ればどこででもウケるはず。本作、それくらいの普遍性がある。もちろん評価は星5つ!
4
こまかいのの貸し借り
フロム・ニューヨーク
明らかにまちがった土台の上でそのまちがいに気づかないまま真剣に揉めるバカ男3人。最高に可笑しかった!
5
宇宙人はクラゲが嫌い
劇団かもめんたる
八嶋智人演じる陽気な店主が快活にギャグを飛ばすも誰にも響かずクールに自分で回収する様、ファンタジーのバカバカしい用い方、今あえての執拗な下ネタ押しなど、全部好きでした♪
八嶋さんは志願の出演とはいえあくまでゲストキャスト、劇団員ではないのにもかかわらずカーテンコールを率先して盛り上げたうえ物販のPRまでして、その点にも感心。いくらなのかは知りませんが、ギャラ以上に働こうとする姿勢にシビれました。サービス精神の塊、天性のエンターテイナーですね。芸能人とはそういう存在であってほしい。ますおかの岡田は“ファンあっての我々、ファンあっての芸能人”という意識が人一倍強いらしく、街で声をかけると「ワーオ!」から「パー!」、「閉店ガラガラ」まで持ちギャグをフルコース、フルスロットルでやってくれるそうだが、岡田にも通じるおもてなしの精神を八嶋さんには感じました。
6
三姉妹、故郷を探す。
ザ・小町
三人が三人とも異常なためにお互いその異常さに気づけない三姉妹がとにかく可笑しく、平塚ワールド全開! この三姉妹に取り入られる仙人然とした爺さんも案外クセモノで、じつに愉快でした。
それより何より、久々に平塚作品を観られた嬉しさよ。オイスターズは毎作、東京公演もやってくれい!!
7
なるべく派手な服を着る
TABACCHI
土田英生という人は、会社、家族といった社会集団の虚構性を暴き、そのヒエラルキーをかき乱して笑いを生むのがとても巧い。
その土田氏が極めてワケありな家族の真の姿を描き出したホームコメディ。
設定・筋立てが面白い上、役者力・演出力によりドタバタ劇としても秀抜、じつに楽しく見応えに満ちた2時間でした。
MONOによる初演の評価が3.7と低め(2019年8且31日時点)なのが不思議。
もう見られないと思っていた、道井良樹・岩田裕耳のゴールデンコンビによる“前説ショー(?)”が拝めたのも幸せでした。
そして最後に…。
久々に拝見した林田麻里さん、相変わらずお綺麗で、目が喜んだっ♪
8
『僕と死神くん』『KNOCK KNOCK KNOCK 或いは別れた記憶たち』
ポップンマッシュルームチキン野郎
『KNOCK KNOCK KNOCK あるいは別れた記憶たち』は諸短編だけでなく、それらの入れ物になっているメインストーリーも素晴らしい出来。それ自体、人間の綾に満ちた奥行きのあるドラマでした。脚本・演出・演技、いずれにおいても妥協のない好短編集!
併演された『僕と死神くん』は前々から観たかった、この劇団の初期作品。家族の幸せな時間が描かれれば描かれるほど切なさが募っていって、たまらなかった。
9
貧乏が顔に出る。
MCR
現代の落語、ですな。ジャンルは、私の見立てでは、すっごくひねくれた人情噺。
10
僕らの力で世界があと何回救えたか
タカハ劇団
初見の劇団。力作。意外や社会派サスペンスな展開をみせて、固唾を飲んだ。これは現代日本の縮図だ。ただ、SF的な味付けが少し濃すぎるかなぁ~…。こういうのは、地に足のついた話にしたほうが、届くのでは?
並行世界というSF的な趣向を取り入れた結果、いくつもの可能性が示唆されて、何が事件の真相なのかわからなくなってしまった。こういう人間ドラマは、真実は一つ、であるほうがいい。いくつもの可能性を示唆してブレを作ると、客の感興までが分散して薄れてしまう。