教室短編集
劇団「14歳」
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2012/06/19 (火) ~ 2012/07/01 (日)公演終了
満足度★★★★★
『山に登る』は,何を意味しているのかしら。
坪田文の教室短編集で,『リボン』は,もっとも格調の高い作品だと思いますね。
確かに,『チェリーボンボン』の出だしで,無難な人生なんて,ごみ箱に捨てて,アイドルを目指します。つまり,これは,女優をめざす少女たちへのエールそのものです。
では,『山に登る』は,何を意味しているのかしら。山という名の「普通の人生」かな。「女優の道」は,みんなが選ぶ道ではないので,たいへんそうだって言う意味かな。あるいは,劇団14歳みんなが登る,山=「女優の道」は,はたして登る意味があるのか,ないのかって,話かもしれませんね。私は,意味あると思いますよ!
『春の日』は,どうして,少女が自殺していった話をせつなくも,みんなで追悼しているのか。もしかして,サエコが,女優をめざしていたら,と考えてみました。本人は,すごく悩んで自殺までいっちゃうんだけど,教室の仲間には,ごく普通のかわいいお友達でしかなく,とにかく生きて一緒に卒業したかった。あんなに歌が上手で,変な芸もできて,そうか,「ミュージカル女優になりたい」なんて言えないし,両親の理解もないし,うつ病になっちゃったかな。悲劇だよね。
『リボン』は,谷賢一演出だし,もっとも教室短編集の核になる作品でしょう。女子校生の間で,お互いが,お互い一番理解したい,されたい,そういう世界があること。そのことを,普通の大人=観客に,「あなたたち自身で,表現し,伝えてみて!」といったものでしょうね。これが,たぶん一番,深い世界で,現代演劇的で,劇団14歳らしい,難しい部分ではないかな,と思いました。
ヘッダ・ガブラー
アトリエ・センターフォワード
ギャラリーLE DECO(東京都)
2013/06/05 (水) ~ 2013/06/16 (日)公演終了
満足度★★★
イプセンは良い作家だ
イプセンの『ヘッダー・ガプラー』を観た。イプセンは,『人形の家』が抜群に有名である。その話には,脇役で一組の男女の話が出てきた。男には,子どもがいて,女には安定した地位・仕事があった。最後に,ノーラが家庭を壊して,無責任に出ていくのに対し,脇役のさえない二人の結婚で救いを与える。
子どもはきっとかわいくて,そのオヤジは,ばかでノーラをゆすっていたような人間だ。そのことは十分わかっていて,女は,その子たちの母親にもなってみたくなる。おそらく,悪人になりかえけていた愚かなオヤジも今度こそまじめにやるのであろう。
『ヘッダー・ガプラー』には,そのような救いはどこにもなかった。結局,事態は,交錯し,悪く悪くなって,殺人事件にまでいたってしまった。だから,人は,そんなことはするものじゃない,というわけだ。もう少し,どこかに救いがあって欲しかった。
イプセンは良い作家だ。シェークスピアのような深いところがないという人もいる。生活という小さな世界に演劇をおしこめたとか。でも,それは,それでいいじゃないか。むしろ,こっちの方が,実際の結婚観などに参考になる人が多いと思う。幸せになるために。
イプセン『ヘッダー・ガプラー』には,盗作のシーンがあった。イプセン自身は,何らかのかくされたメッセージを伝えることより,現代社会に生きる人間の世界を十分に描きたかったという。
ヘッダー・ガプラーの夫は,もの凄いマザコンだ。おばちゃんが大好きで,おばちゃんと思い出の品,すりっぱを,妻に見せようとする。それが,妻にとっては,なんの意味もない悲しいアクションだ。でも,夫は,子どもで,そのまま教授に向かう夢を追う,たいへんなポンコツだ。
そのような場所に,一体,ヘッダー・ガプラーを送りこんだのは誰だろう。それは,ブルジョワ社会の仕組みなのだ。彼女の父が残したピストルが,一体なんのためにあるか,ヘッダー・ガプラーはわからない。実際,将軍である父の時代には,そのピストルは一度も使われたことはなかったのだ。
でも,このブルジョワ社会の象徴である夫に嫁いだ,ヘッダー・ガプラーは,高貴さをもちながら転落していく。
ヘッダー,そりゃいけない。
いけないですって。
目が覚めて,大事な原稿がなくなって,レェーブボルグはどうするの。
書き直せばいいじゃん。
そりゃ無理だね。
インスピレーションは,一度だけだ。
コピーもないから,絶対無理だ。
ほら,ここに,レェーブボルグのメモはあるわ。
テスマンさん,一緒にこのメモを整理しましょう。
そうすれば,あの幻の新作は,きっとよみがえるでしょう。
そうですね。これからは,一生かけて,この仕事を二人でやりましょう。
レェーブボルグも,ヘッダー・ガプラーも死んでこの物語は終わる。
汚れた手
劇団昴
俳優座劇場(東京都)
2013/06/01 (土) ~ 2013/06/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
目的のためなら手段を選ばないなら,それは,マクベスの血ぬられた手と同じ
サルトルの『汚れた手』を観た。この話は,オルグの委員長と書記の対立を核心としている。組合の委員長は,暴走し,組合本部をあざむいて独自の路線にひきずりこむ。組合本部は,書記に委員長を説得させ,きかないなら殺害しても良いということになる。
問題は,オルグの委員長は,結構汚いやり方で交渉をまとめ,これがむしろ正論なのだとゆずらない。このため,純粋な書記は,恋人を奪われたと感じた時点で,撃ち殺してしまう。ところが,その直後,組合の路線は見事に亡き委員長の予言した方向に進み始める。
この作品は,書記の恋人が,政策論争を聴いているうちに,しろうとだったのに何か委員長の思想に魅了されていく点が見事に描かれていた。人のしあわせは,固定観念にとらわれるべきでなく,ある部分汚れた部分も乗り越えていくべきなのかもしれない。
書記にとって,そのように,目的のためなら手段を選ばないなら,それは,マクベスの血ぬられた手と同じになる。くりかえし,くりかえし,暴力による殺害と,政権交代が起こるに過ぎないのだから。しかし,この作品では,むしろ,書記が敗北して終わる。
サルトルの『汚れた手』は,素晴らしいものだった。このような有名な演劇では,観客にもすごい人が混じっている。踊る大捜査線のとぼけた署長役の人だった。プライベートな時間を邪魔してはいけない。でも,休憩時間でも,もう一度近くでひとりコーヒーを飲んでいた。
さて,問題は,サルトル『汚れた手』だ。』六場3-4景を再確認しよう。
君か,何の用だ。
窓越しで,私は,あなたとユゴーの会話を聴いていた。あなたを,どうしても一人残していけなかった。愛しているの,私は,ユゴーが拳銃で,あなたを撃つのなら,それを私が身体をはって,阻止したい。
君は,いつから,そんな気持ちを私に抱くようになったのかね。
私はね,いつだって,夢の中で生きて来たのよ。
でも,あなたに会って,本当に好きなものがわかったのよ。
そうか,君は,私ならキスしても,笑い出さないのかな。試してみようか。
そうか,おまえたちは,私ユゴーを,ずっと裏切っていたのか。
黙れ,エドレル,おまえは,もう組合に抹殺されるのだ。
ぼくの手は,震えてなんかいないぞ。
やがて,新しい時代は来る。
おまえのような日和見主義のやつには,未来はないのだ。
エドレル,私は,ちゃんとお前の目を見て,発砲できるのだ。
さて,この巧妙にできた作品は,一時,反共政策に利用される危惧があって,上演を停止されていたという。三時間の回想が終わるとともに,芝居も終わってしまう。
蒲田行進曲
インソムニア
Geki地下Liberty(東京都)
2013/05/29 (水) ~ 2013/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
劇場版『鎌田行進曲』は,映画版を忠実に舞台に再現している。
映画は良く観るが,演劇・ミュージカルは,ほとんど観ない。そういう人生もある。とりわけ,東京などの都会にいないと,交通費分だけ上乗せになる。また,チケットを取るのも面倒である。さらに,独身者には,デートやら,家族連れのいるところは,苦手だった。でも,小劇場で演劇を観る習慣がつくと,映画・TVに多少の違和感を覚えるようになる。
『鎌田行進曲』は,映画のものが有名である。内容は,児童劇団以来の,銀ちゃんとコナツが,映画全盛時代に入り,ぎくしゃくした関係になり,コナツが銀ちゃんに捨てられる話である。銀ちゃんが主役かというと,コナツに密かな憧れを抱いていた大部屋のヤスが,にわかにコナツの伴侶に浮上していく点で,むしろヤスとコナツの話といった方がいい。
『鎌田行進曲』は,最初,つかが,舞台用に作った作品らしい。それが,映画化され,大ヒットとなった。今回の舞台化は,もう一度舞台に戻したものだ。劇場は,きわめて小さい。最前列では,実際に,役者のつばも飛んで来る。大道具は,メインテーマである「巨大階段」であり,それ以外には小道具らしきものはなかった。
新撰組は,明治維新に向かう時期に幕府側の大応援団になった時代錯誤な集団である。銀ちゃん演じる「土方歳三」は,なんと会津戦争にも参加し,函館五稜郭までいっているから,「竜馬」よりは少し長く活動している。もともとは,八王子あたりの出身だ。この地域は,甲府などにも近く,幕府にとっても重要な土地であったのだ。
銀ちゃんは,しきりに,竜馬と張り合う。実際の「土方歳三」も,「竜馬」と並んで,女たらしでカッコイイ。銀ちゃんは,どうしても,階段落ちにこだわる。自分が,そこで,芝居を演出してやりたい。誰でもいい,階段から,勤皇の志なかばで死んでいく長州藩士を演じきって欲しい。切られて,後ろ向きに倒れる役を,大部屋の誰かにやらせたい。
『鎌田行進曲』は,俳優・役者の世界が,競争至上主義で貫かれ,頂点の銀幕スターの存在あって成立することを執拗に強調する。映画にしても,演劇にしても,当たって,観客をどれくらい動員できるか,そのことが一番大事であって,時には,強力なスポンサーがつけばなおさら良いと言える。
劇場版『鎌田行進曲』は,映画版を忠実に舞台に再現している。このような逆流をすると,失敗するのではないかと思ったが,むしろ,すっきりとまとまっていた。一番の問題は,大階段落ちのシーンでは,コナツをどう表現するのかと案じられたが,舞台横で,見事にコナツは演じていた。これが,まさに舞台である,といった演出だった。
ミュージカル南十字星
劇団四季
四季劇場 [秋](東京都)
2009/09/13 (日) ~ 2009/09/27 (日)公演終了
満足度★★★★
戦争が終わって,もう半世紀も過ぎてしまった。
私は,演劇の中に「政治性」を持ち込むのは好きではない。たまたま社会派のドラマがあっても,気がついたらその意識もなく観ていることが多い。さらに,社会の風俗などにドロドロとふれるようなミュージカルも好きではない。だから,意外と,子ども向けのミュージカルとか,チェーホフのようなものを選んでしまう。
戦争が終わって,もう半世紀も過ぎてしまった。われわれは,まさに,戦争を知らない子どもたちである。だから,BC戦争犯罪人などという物語を見ても,意識が明確にならない。そもそも軍人というのは,「お国のために」を送り出された立派な人たちだったはずだ。しかし,戦争に負けてしまったら,あの人たちは何をやっていたのか,と糾弾された。
軍人にも,格付けがあった。とりわけ偉いのは,海軍だった。しかし,米内光正やら,井上成美などの話をたくさん読んでも,よくわからない。家庭人としては,失格な人も多い。結局,国を守ることは尊いけれど,実戦になると,その本能は常に殺人未遂罪なのだ。「南十字星」の輝く南方で,一体日本軍人はどう思われていたのだろうか。
オランダという国は,日本には,なじみがある。日本人が,最初に西洋かぶれになり,西洋演劇などに夢中になっていく最初のきっかけは,オランダ語というものだった。そのオランダは,インドネシアで日本軍とぶつかった。オランダをけちらす。オランダ統制は,なんだか,映画『ゾロ』に出て来るスペイン本国なみだ。
この国に日本は,ポーズとして,オランダからの開放を支援する友好国を演じた。しかし,現地にいてなじむと,そこを完全に植民地化しようとする気運と,遠からず,自力で建国させようという同化との股裂き状態になった。「南十字星」の主人公の兄は,珍しい例だが,武器をアメリカ軍に渡さず,インドネシア独立に加担する。
主人公は,間の悪いことに,この裏切り行為の責任を一手に引き受け,絞首台に登ることになる。かつて,愛しあった恋人は,インドネシア人でもあったほど,彼は,インドネシアに友好的な人間だったのに。ミュージカルの前半は,民族音楽一色の世界。そして,後半は,子どもには何のことか良くわからない戦争裁判の顚末記だ。
ビョードロ 終演いたしました!総動員2097人!どうもありがとうございました!
おぼんろ
d-倉庫(東京都)
2013/05/29 (水) ~ 2013/06/16 (日)公演終了
満足度★★★★★
めざせ!シアター・コクーン
池袋d倉庫は,本当に,倉庫のようなものだった。この劇団のチラシが,あんまり魅力的だったので,足を伸ばした。「ビョードロ」とは,何だろう。この物語では,「ジョウキゲン」が場面の途中で生れる。この「ジョウキゲン」は,何かを感染させるものらしい。ビョードロの血によって,ワクチンが作られるという。それによって,「ジョウキゲン」は撃退できるのだ。空気感染するほどの影響力を持つにいたって,ガス・マスクのようなものが用意される。これを,ビョードロたちが使う。ガス・マスク使用中の,ビョードロたちは区別がつかない。片方のビョードロには父親がいたようだ。この父親は,頑固オヤジで,救いがない。終盤にはいって,あやまって,自分の息子を殺害してしまう。あわれ!
細菌兵器の存在を擬人化したものなのだろうか。そういう説明をしている例もある。しかし,具体的な説明は十分にはされない。「ビョードロ」「ジョウキゲン」と,頑固オヤジが,狭い倉庫内を,強烈なコスチュームと,スピード感で動き回っている。座布団も持参しているような人はいたが,それ以上に,どこから観たのがいいか疑問。ぼくたちの劇団は,出会い系の劇団なので,まずもって,隣の人とのトラブルを嫌います。まず,隣の人と十分に仲良くなってください。お互いに目と目をあわせて,ことばをかわしましょう。そうすれば,劇が進行して,ひざがぶつかり,足がからんでも,許しあえるでしょう。なるほど,観客は,役者と一心同体みたいなものってことかしら。
劇中の動画・カメラはOKです。ご自由に,ブログにアップしてくださいね。劇団おぼんろ第10回本公演 『ビョードロ~月色の森で抱きよせて~ 』を一人でもいいから,多くの人に紹介してください。動員数が伸びて,いつか『シアター・コクーン』にいけたらなあ。そのために,みなさん応援してください。
なるほどなあ。そうか。がんばっているなあ。じゃ,ちょっと目立つかもしれないが,舞台を壊さない程度に,数枚写真を撮らせていただこう。応援しちゃおう。
ところが,後日,フラッシュをたいたばかがいた,という話になってしまった。げえー。だって,普通のカメラしかない場合,自動フラッシュなんですけど。まずかったすか!
たいへん非常識な行為で,あいた口がふさがらない。こういうばかは,二度と,この劇団を観にくるんじゃない!という手厳しい見解。たしかに,そういわれたら,がっかり。
でも,このコメント者も,少し変ですよね。高姿勢は,まあいいが,ありがちなミスをここぞとばかり鬼の首を取ったようにアゲアシ取りですね。ばかは,どっち,ばーか,というシーンを思い出しました。
象徴的な演劇は,現実逃避に陥るっていうから,演劇を観るときは,なるべく論理的にしっかりしたものを観ている。でも,ときには,感覚的で,感傷的で,美しい,詩的な作品にも引かれる。今回の『ビョードロ~月色の森で抱きよせて~ 』は,その点で,たいへん満足している。また,観たいと思う。しかし,もう来るな!という常連がいるようなので,もう行きません。あとは,がんばって,シアター・コクーンをめざしてください。たいへんご迷惑かけたようで,心からお詫びします。ジョウキゲンのような心優しい存在に,何度も舞台に足を運ぶ人の中には,人のアゲアシばかり取る人もいるのでしょうか。
ミュージカル南十字星
劇団四季
四季劇場 [秋](東京都)
2009/09/13 (日) ~ 2009/09/27 (日)公演終了
満足度★★★
ミュージカル『南十字星』を観た。
ミュージカル『南十字星』を観た。これは,劇団四季によるもので,歴史に題材をとっている。
主人公は,留学生として来ていた友人の母国に,戦争になって赴任することになった。そこには,オランダからの支配を逃れたいという民衆がいた。なんと,オランダ時代には,民衆に一番大事な主要産業を弱体化させ,オランダに利益のあるものばかり栽培させ,食糧も不自由になっていた。だからといって,日本がそこを支配し,多少は良いこともあったかもしれないが,戦争終結し,アメリカ軍政下にはいると,民衆はどのような時代にあっても自分たちには,自由も,平和もなかったことに気がつく。
インドネシアという国は,いったことはない。しかし,このミュージカルでは,インドネシアの舞踊がたっぷりとおりこまれているので,いったような気分になる。今回,二階席だったので,少し見にくいのではないかと心配したが,表情までは十分確認できないけれども,台詞もわかり易く,幻想的な場面に魅せられた。
戦争によって,起きたことを検証することは,確かに大切なことにちがいない。ところが,忘れてはならないことは,現代日本に生きて,ごく普通に,家族でレジャーランドなどに遊びいけるような時間が,戦争中の子どもたちには許されなかったということもある。つまり,ある時期に子ども時代を送ったひとたちは,ただただ戦争という異常な時代に,子どもらしい時期を失って大人になってしまったのだ。
ビョードロ 終演いたしました!総動員2097人!どうもありがとうございました!
おぼんろ
d-倉庫(東京都)
2013/05/29 (水) ~ 2013/06/16 (日)公演終了
満足度★★★★
ジョウキゲンは,どうしてあんなに無邪気だったんだろう。
日暮里d倉庫で,『ビョードロ:月色の森で抱きよせて』を観た。ここは,少しわかりにくい場所だった。座席についても,すべてが,オンボロだ。でも,そこでくり拡げられる世界は,実に純粋で,美しい。登場人物は,さほどいるわけではないが,ひとりひとりが個性的である。
物語を,あれこれ説明することは,しにくい作品であって,ストーリーはあるにはあるが,それより,くり拡げられ会話の美しさ,もろさ,はかなさを感じ取るべきだと思う。ジョウキゲンがひとり女性であるが,それ以外はイケメンの男性ばかりであったからか,観客はほとんど若い女性だったようだ。そういえば,イケメンにロック・グループのような化粧もして,チラシからして,きわめて妖しげであり,印象的だ。
ジョウキゲンは,表面的なものでなく,なにか奥深いところで,人間の心を描いているような気もする。ジョウキゲンが,生まれ,ジョウキゲンが最終的に死んでいく場面に進むにつれて,最初漠然としていた観劇意識が急にはっきりとして来る。すると,それと,ともに,涙がこみ上げて来て,理由もよくわからない感動にいたる。何か,わかる。でも,うまく説明はできない。心で感じ取るしかない。ジョウキゲンは,何だったのだろう。ジョウキゲンは,どうしてあんなに無邪気だったんだろう。
蒲田行進曲
インソムニア
Geki地下Liberty(東京都)
2013/05/29 (水) ~ 2013/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★
やはり,二列めにしておく方が良かったかも。
下北沢Geki地下Libertyで,『蒲田行進曲』を観た。
ここは,とても小さな劇場だ。さらに,予約しておいたので,一番前にすわることができた。ラッキー!と思っていると,私の隣にすわった人が,少しして一列後ろに退避したのを見た。これは,何を意味するのだろうか。有名な階段落ちで,人間が飛んで来るのかと心配して前列を嫌ったのだろうか?といったことをもやもや考えていると,係員が急にカメラワークなどの指示を出し始め,演劇は始まっていた。
最初のシーンを取る,カット!という声とともに,どやどやと,新撰組と,坂本竜馬の切りあいが始まった。なかなか凄い殺陣だな!と思っていると,目前でちゃんちゃん,ばらばらやっているので,自分の頭も叩かれるのではないかと,心配になった。やはり,二列めにしておく方が良かったかも。
『蒲田行進曲』は,良い演劇だったと思う。一番感銘を受けたのは,ヤスと小夏の場面だ。やっぱり,銀四郎だって,本当のところ生きることにあって器用ではない。だけど,名優である銀四郎に降りまわされるヤスと小夏は,実に気の毒だ。でも,そのような中でも,ヤスのことを親身に気遣い,そして,小夏にまで優しく接する故郷の母の存在は感動する。しかし,そのようなヤスは,自分自身の役者生命と,会社の命運を賭けて,階段落ちの危険な仕事を引き受けてしまうのである・・・
恐怖が始まる
ワンツーワークス
劇場HOPE(東京都)
2013/05/24 (金) ~ 2013/06/04 (火)公演終了
満足度★★★★
これは,すごいインパクトがあった。
劇場HOPEで,『恐怖が始まる』を観た。これは,すごいインパクトがあった。冒頭,登場人物による作品をイメージしたスローモーションが印象的だった。
作品は,ずっと味気ない夫の49日シーン。時間が進むと,そこに絡むように追憶の場面が出て来る。数に執着があって,それは,終始一貫して繰り返された。なぜか,20とか,100とかわけのわからない値が出て来る。健康診断の何かの数値かな・・・
そのように思っていると,どうやら一人死に,二人死んでいく。でも,会社が生き残って欲しいから,少しばかり労災の申請は遅らせよう。夫は,信念を貫いて,会社に殺されていく。それを,妻は,悲しくも見送ってしまったのだ。
公演終了後には,演出家によるトークショーがあった。この団体は,多くの社会派の演劇を手掛けていた。私は,内容を事前に調査せず飛び込んだ。最初,このまま延々何が起こるのだろうか。という,そのような苛立ちの中,あ!これは,あの話か。
それにしても,関係者は,事態解決に相当振り回されて来た。そして,その中で,一番言わないといけない核心には,誰も触れない。それは,現場取材した演出家の感触でもそうだった。まだ,あと一週間あるので,中野にあるオシャレな劇場で,放射能に侵されて死んでいったひとたちの苦悩の物語を観るといい。
未確認の詩-ウタ-
ライオン・パーマ
王子小劇場(東京都)
2013/05/16 (木) ~ 2013/05/20 (月)公演終了
満足度★★★★
これは,とてもおもしろい。で,感動的ないい作品だった。
『未確認の詩』ウタを,王子劇場で観た。これは,とてもおもしろい。で,感動的ないい作品だった。
まず,出だしでびっくりする。そこは,野球場であって,名投手と名バッターの対決があるのだ。観客は,応援して来たバッターの引退試合で,最後の活躍を期待していた。緊迫する三球めで,ホームランが出るのだ。これは,さほど意味があるシーンとも思われないが,じつは,たいへんな意味があったのだ。
『未確認の詩』は,全編SFファンタジーが展開される物語である。というわけで,地球上で起きている出来事も,宇宙で,すべて確認されているわけだ。地球で起きていることについても,ときどき,宇宙の事情と交錯しながら,話が展開していくので,飛躍しすぎて理解できないことも多々ある。でも,なんとなく,この手の演劇は,テンポよく楽しんでいくとすっきりするものだ。
何かにこだわる。ひとりの刑事が短パンをいつもはいているのだ。この点について,ボスが,全員に疑問を投げる。すると,短パンを自分もはいてみたいと思う者もいる。一方,刑事が短パンでは,しまらないという者も出て来る。その後,短パンは事件に巻き込まれているので,仕方なく短パンだった!のだ。ここで,なぜか,宇宙警察も捜査に協力し始める。
村の解体を招く契約書に,サイン捺印はできない。その場所に,もし,今でも狼が住んでいたら,その絶滅を救うべきだ。いや,そこに,狼などいるはずもない。月が出て,吠えていたのは,村人が隠して育てて来た人狼,人であって,狼である娘だった。
人一倍,聴覚が発達した宇宙人の存在。この女性が,何でもかんでも盗聴してしまうので,地球の人たちには,驚くばかりだ。その世界では,かえって,うわさ話がなくなり,結構平和で,しあわせだったとも言う。どこか,わかるような真理だと思う。
最後は,感動のシーンで終了する。こずえは,弟が,ホームランボールをキャッチしたと,精神科の先生に何度も言うので,過去のビデオを調査した。でも,ホームランボールは,隣で缶ビールを飲んでいたおじさんが拾っていた。とても,良く出来ていた。わかり易かった。論理的にまとまることばかりが,演劇でもない,のかもしれない。
スコア
エミューエッグミュージカルカンパニー
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2013/05/03 (金) ~ 2013/05/12 (日)公演終了
満足度★★★★★
ミュージカル『スコア』を観て
ミュージカル『スコア』を観て
これは,どのような物語なのだろうか。両親は,結構優れた才能を持ち,子どもに自分と同じような道を進める。しかしながら,父親にとっては,学ぶこと,競争することが,快感であり正しいことだったとしても,子どもにとっては,「より良い成績を取ることばかり」に追い立てられる生活は地獄となるのだ。
カノンも,確かに,音楽そのものは好きだったが,過度に母親に音楽教室を強制され,はてしもないオーディションへの挑戦に,身も心も疲弊していく。やがて,男の子は,もう計算すらできないし,女の子は,音譜を読むことすらできなくなるのだ。
このような状況に追い込んでなお,両親は,「自分の子どもは出来が悪かった・・・」などと言う例も多い。親を盲目的に敬愛していた場合,子どもにとって,親ほど頭が良くなかったなどの理由で,最初の挫折を簡単に経験する。そして,以後生涯苦悩が,残ってしまうのだ。
もう一度整理する。子どもをより大きな成功に導いて,少しだけ爽快な気分にしてあげようとする。その試みが,ずっこけて,「最初から何もしない,何も夢みさせなかった方がましだった」というケースもあるということだ。しかし,人生には,夢も必要だろう。本人の意思があるのなら,それもいいだろう。
NEWSエンターテインメント12th★FESTIVAL
NEWSエンターテインメント
埼玉会館(埼玉県)
2013/05/05 (日) ~ 2013/05/06 (月)公演終了
満足度★★★★★
『くじらは虹色の音楽にのって2013』を観て
『くじらは虹色の音楽にのって2013』を観て
これは,どういうお話だろうか。主人公の家族は,あるとき,くじらを見るために海外旅行に出る。でも,そのスタートで,交通事故に会って,結果,家族崩壊が始まるのだ。
美里のダメージが大きく,原因不明の障害が頭に残る。夢であった,ヴァイオリニストは絶望的になる。親友も,友達の不幸が起きても,最初はその意味が理解できないので,かえって美里を苦しめる。病院に入院した美里のまわりには,実は,もっと原因不明の重い病人がいることもわかって来る。
この演劇は限りなく暗い。しかし,そこに,少し明るい場面もある。なんの病気かわからないが,とにかく子どもたちに人気のある冗談好きなオバサンの存在。それと,同じような子どもたちの病院生活をなんとか慰問しようとダンスを踊り,ショート・コントをやってみる小学生の存在だ。
この演劇に出て来る両親には,気の毒ではあるが,不注意に対する責任がある。しかし,最大の被害者,美里と,姉の事故を契機に学校生活で孤立していく理沙ふたりは,とてもあわれである。ふたりは,もがけばもがくほど,苦悩に呑みこまれていくのだ。そこには,大人の場当たりの助言も無駄である。
理沙は,最後に,病院のカベに,姉のために,くじらの大きな絵を描くのだ。そのスケールは,共同作業ゆえに巨大で,だれもがびっくりした。これは,夢も希望もなくして,この先泣いてばかり暮らすかもしれなかった,美里に少しだけ勇気,生きるための力を与えてくれた。美里に少しばかりの感動をもたらし,この演劇は終わる。
丸美屋食品ミュージカル「アニー」2013年
日本テレビ
青山劇場(東京都)
2013/04/20 (土) ~ 2013/05/06 (月)公演終了
満足度★★★★★
ミュージカル『アニー』は,ものすごく楽天的だ。
英語のTomorrowが,『アニー』には良く出て来る。このとき,このTomorrowは,古語の朝を意味するmorrowへ向かう,つまり「朝」に向かうという意味もある。これは,マクベスでもそうなる。ひとつのTomorrowが,「明日」という意味と「朝」という意味があるのだ。
ミュージカル『アニー』は,ものすごく楽天的だ。マイナス思考をやめよう!つねに,笑顔で暮らそう。そういうメッセージだ。たしかに,人生でしあわせな人は,いやな思い出はなるべく忘れ,楽しい時をたくさん思い浮かべることができる人かもしれない。
1978年,ミュージカル『アニー』は,東宝により日生劇場で初演された。宝塚の愛田まちが,主役のアニーを演じる。1986年には,アントニオ猪木と倍賞美津子夫妻の娘が,アニーをやっている。スポンサーの明治生命が撤退を決めたとき,存続が一時危ぶまれたが,丸美屋食品によってなんとか継続した。
出演者のオーディションは毎年行われる。毎年違う出演者で公演されているのが特徴といえる。子役キャストは,毎年9000名を超える応募者の中から書類選考・オーディションで選ばれた28名だけが出演できる。ということは,競争率はすごいことになる。
ゴールデンウィーク期間に東京公演(青山劇場),夏休み期間に地方公演(大阪・名古屋に加え,年替わりで地方都市1ヶ所または2ヶ所)が開催されている。また,クリスマスシーズンにはコンサート形式の公演も開催されている。
1996年放送のNHK連続テレビ小説『ふたりっ子』で双子のヒロインの一人・香子役を務めた岩崎ひろみは,1989年にこのアニーをやっていた。山尾志桜里は,菅野志桜里の時代にやっぱり,アニーをやっている。この人は,東大の法学部から,衆議院議員になっている。最近では,近貞冬奈が,名前を朝倉ふゆなに変え,劇団14歳で活躍していた。
CDで購入して毎日聴いているが,これって,大阪弁ではないのかしら。ふと思いました。どうして。なんでやねん。
マクベス
東京二期会
東京文化会館 大ホール(東京都)
2013/05/01 (水) ~ 2013/05/04 (土)公演終了
満足度★★★★★
もう一度見たいものですね。
マクベスと夫人は,ダンカン王暗殺で共同正犯
英語のTomorrowが,『アニー』には良く出て来る。このとき,このTomorrowは,古語の朝を意味するmorrowへ向かう,つまり「朝」に向かうという意味もある。これは,マクベスでもそうなる。ひとつのTomorrowが,「明日」という意味と「朝」という意味があるのだ。
役を演じている人間が,マクベスの台詞をしゃべりながら,「明日」へ,あるいは,「朝」に向かって舞台上で,歩みを進める。すると,背後から光が射して,自分の小さな影が消えていく,つまり,人間がこの世という舞台から退場することになる。
シェークスピア劇で,マクベス夫人は,Lady Macbethとされる。特に名がつかないのは珍しい。これは,マクベスと夫人は,ダンカン王暗殺の共同正犯・一心同体のカップルという印象になる。たとえば,終始,
Macbeth : If we should fail ?
Lady Macbeth : We fail ?
といった感じである。
Weということばが,強く使われ,あくまで「しくじる」のは夫婦同罪なのだ。
マクベスは,ダンカンの寝込みを襲って,短剣で刺殺する。ダンカンのお付きの者も殺す。
マクベス夫人は,夫に「短剣を貸して」という,「二人を犯人に仕立てるおめかしよ」という凄い台詞がある。こうして,ふたりの従者に濡れ衣を着せる。
シェークスピアは,マクベス夫妻の言葉の劇を書いている。一心同体に,王位簒奪の野心の旅が完成した後,狂死・崩壊への旅が始まる。
どうしたというの,妄想などにとりつかれて。済んだことはすんだことじゃないの。
食事のあいだも,眠っていても,びくびくするんだ。悪夢にうなされるくらいなら,いっそ死人と墓場で寝ていたいよ。
バンクフォー殺害については,マクベスの独断になり,夫人は計画も知らない。ここにいたって,ふたりの共犯は,崩れ始める。マクベスは,暴君に向かう。マクダフ,マルカムから悪魔のマクベスと呼ばれ始める。
マクベス夫人は,手についた血が,どうしても取れないと何度も何度も手をこする。そして,ついに発狂して自殺するのである。
参考文献:深読みシェークスピア(松岡和子)
NEWSエンターテインメント12th★FESTIVAL
NEWSエンターテインメント
埼玉会館(埼玉県)
2013/05/05 (日) ~ 2013/05/06 (月)公演終了
満足度★★★★
NEWSエンターテインメント12th★FESTIVAL
NEWSエンターテインメント12th★FESTIVALは,とても良い企画だった。これが,格安でありながら,三時間もある大企画だったので,一度見ても,消化しきれず,二回観ることになった。二回目は,中央の真ん中の席だったが,少し後方だった。全体として,場面にもよるがこのくらい引いてみると全体が良く見える。
これは,私の理解では,テレビ・タレント養成で一番なところが,年に一度合同で発表会をやっているものなのかもしれない。レベルもいろいろあって,あまりに幼稚なものもあったが,キレのあるダンスに終始圧倒された。短いミュージカルもあった。
きわめつけは,第二部の演劇だった。これは,すごい,傑作だったと思う。二度目は冷静になっていたので,テレビ番組を作る手法に長けている場合,こういったドラマはしごくありきたりのものだったかもしれないとは思った。それでも,最初の感動は残っていた。
話はおおむね,交通事故にあった家族の家庭崩壊的な内容だ。これを,少しずつ,わかり易く演劇で伝えていく。なかには,おもしろいキャラクターの登場人物が何人かいて,絶望的な暗さの救いとなっていた。最後が,少し不完全燃焼的だったものの,仕方ないかもしれない。
スコア
エミューエッグミュージカルカンパニー
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2013/05/03 (金) ~ 2013/05/12 (日)公演終了
満足度★★★★
オリジナル・ミュージカル『スコア』は,素晴らしいものだった。
『スコア』は,一体なんのミュージカルか,見る前は,さっぱりわからなかった。それでも,観たい。そういうものに意外といい巡り合いがあるのだ。そうして,会場に向かった。少し早めに。
オリジナル・ミュージカル『スコア』は,素晴らしいものだった。まだ,このあとしばらく公演があるので,感想もほどほどにしておくが,数学とミュージカルの対比がすごいと思う。というのも,まさにそこのところが,西洋演劇の特徴だと思うからだ。
音楽と数学は,相当遠い世界であると普通は思うだろう。しかし,音楽,それも西洋音楽は,自然の音というものを分析し,楽譜におさめこんだ。つまり,どこか数学的な雰囲気があるのだ。
だからといって,このミュージカルがつまらないものか,というと,決してそうではない。数学の精,音楽の精を,子どもたちに演じさせていて楽しい。さらに,現代的な問題を,さりげなくもりこんでいた。すごいなあ,と思う。演劇的世界というのは,まさに今,自分たちが持つ問題までも,そのテーマに選ぶ。ミュージカルに夢中になる子どもの世界が,ちょっと異常だって,いうこと?でも,それでも,ミュージカルはしたいんだね。すべきなんだね。
ところで,三日前に,この『スコア』を予約しておくことも考えた。しかし,体調崩したら帰省すべく,迷ってしまった。何度か,実際に登録して,チケットを取ろうとしたが,何度も失敗して,結局ぶっつけ本番,当日券でいくことにした。ほぼ完売,ぎりぎり,キャンセル待ちでなんとか見られた。だめなら,翌週出直すつもりではあったものの。
丸美屋食品ミュージカル「アニー」2013年
日本テレビ
青山劇場(東京都)
2013/04/20 (土) ~ 2013/05/06 (月)公演終了
満足度★★★★
ミュージカル『アニー』を観た。
ミュージカル『アニー』を観た。
これほど有名で,これほど子どもたちが好きなミュージカルはないだろう。一番の見どころは,犬のサンデーの演技かもしれない。主役のアニーを射止めた子どもが悩むのは,この犬のサンデーとしっかり友達になれるかどうか,という。映画版では,サンデーは,アニーの食べ物を盗んだり,アニーに怒られて戻したり忙しい。さらに,名場面は,自分の犬であるなら,名をつげ,その名で浮浪犬を呼び寄せなさいという警官とのシーンだろう。
アニーには,アニーが,二週間だけあずかられた富豪の歓迎で,ブロードウェイにつれていってもらうところがあって,これが意外と楽しい。かんじんのアニーは,観客席ごと舞台そでに消えていく。そこで始まるのが,タップダンスである。タップダンスというものは,私はそんなにすごいものだと思っていなかった。見る機会がないわけではないが,『アニー』ショーはもの凄い。
さて,このミュージカルもよくある,希望のないおじさんと,かわいい少女の接近である。たとえば,レ・ミゼラブルの主人公も孤児コゼットをあずかるし,赤毛のアンでも,マシューは,妻はいるがアンに夢中になり慰められる。一番,おそろしいのは,オペラ座の怪人で,育てた少女を完全に束縛しようとする。さがせば,結構多いのかもしれない。
これも,たった一度しか観ていないので,いろいろな発見ができていない。しかし,『アニー』という作品は,毎年メンバーを総入れ替えして,実に見事に公演を継続している珍しい例らしい。過去には,何度かスポンサーそのものが丸ごとかわってしまうという。それでも,筋もしっかりとして,一気に楽しめる。何をおいても,ものごとを楽天的に考えて,乗り越えようという思想である。
サクラにままごと
劇団「14歳」
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2013/05/02 (木) ~ 2013/05/06 (月)公演終了
満足度★★★★
劇団14歳の輝きが戻り終始一貫して目が離せない美しさがあった。
劇団14歳 第3時限目 サクラにままごと
ついに,第3時限目に到達した。劇団14歳は,わたしに演劇のおもしろさを教えてくれた場であった。これは,非常に単純で,いくつかある入口のひとつとして偶然「演劇」のおもしろさに気がついたというに過ぎないだろう。しかし,その後,すぐ近くのジュンクドウで演劇の本を買って読みながら,池袋シアターグリーンが私の学校になった。「山に登る」の出だしで,明るくなってすぐ,登山服の少女が机にあがって,説明するシーンを私は,決して忘れないだろう。
さて,前回の「修学旅行」でださいジャージで布団の近くで,展開されるシーンは,少しテンションが下がったが,今回は,最初から,劇団14歳の輝きが戻り終始一貫して目が離せない美しさがあった。彼女たちの殺陣(たて)のレベルはともかく,テンポ良く美しかった。
今回は,日程が混んでいたので一度しか観てないので正確な描写はできない。タイムスリップして,滅私奉公の戦国時代に迷いこんだ中学生が,なぜか,その仲間にとけこみ,死ぬことが使命であった女子たちに熱く恋の話を伝えた。どたばたどたばた,ぜいぜいはあはあ,狭い舞台を走りまわるのは,転びそうで危ないと思った。実際,暗がりで鼻をぶつけたのは主役の「朝倉ふゆな」だったようだ。
このように,美しい,ただただ美しい少女たちのイメージをぶち壊すのは,演出家そのものの,カラオケ・タイム。しかし,まあ,グロテスクな化粧の男のゆくえで,逃げ惑う少女たちを見るのも,珍しい体験か。たしかに,舞台というのは何が起こるかわからない,何かのハプニングに,居眠り始めた観客もみな目を大きく開いて注目する効果もある。歌もなかなか上手だった。また,今度どこかのステージでお目にかかりましょう。
マクベス
東京二期会
東京文化会館 大ホール(東京都)
2013/05/01 (水) ~ 2013/05/04 (土)公演終了
満足度★★★
上野の東京文化会館で,オペラ『マクベス』を観た。
上野の東京文化会館で,オペラ『マクベス』を観た。このホールは,学生時代,ジャン=ピエール・ランパルのフルートを聴いたとき以来だったと思われる。今回,初めて,三階席から観劇することになる。少しめまいがして気持ち悪かった。
正しいという字を,何度も書き加えているのが,不思議だったが,どうやら人が死ぬ度に訂正を加えていたような気がする。
シュエークスピアの全作品は,昔NHKのBBC版でひとおとり観たことはあったが,内容はほとんど忘れている。四大悲劇も,劇場ではまったく観たことはなかった。オペラも,フィガロの結婚とか,ツーランドットとか,それがオペラだったかもしれないくらいで縁がない。
さて,作品はきわめて斬新だった。一度だけしか観てないので,細かいことは無理である。『マクベス』は,17世紀,スコットランドの武将マクベスが,魔女の予言に誘発されて,ダンカン王を殺害し,結局は,悩み苦しみ,マクベスの息子にその座を奪われる物語であるというくらいのことを念頭にじっと見入っていた。
岩波文庫の解説によれば,どうやら『リチャード三世』が似た作品らしい。しかし,どちらかといえば,『リチャード三世』の方が史実的であり,わかりやすい。シェークスピアの全作品で,魔女が出て来ることも珍しく,そういう点でも短い作品でありながら,とっつきにくい要素があるという。
ダンカン王は,まぬけだ。自分の一番信頼を置いている部下に会いに来て,その城で夜襲に遭遇する。マクベスが,短剣を持ちかえると,非情冷酷な夫人は,それを取り上げ,当初の予定のとおり,王の従者の手に握らせる。この日から,マクベスは,良心の呵責に苦しむ。あげくのはてには,魔女の予言のせいだと,魔女を怨む。しかし,魔女などは,どこにもいない。最初から,マクベスは自らの卑しい野心のすがたであり,それにのみこまれて,自滅していく。
マクベス夫人が,「私の手もあなたのように,真っ赤よ。でも,あたしの心臓は,あなたの心臓のような青白くて,やわくはないんだわ」,という。それに対し,「王であるだけでなんの意味もない。心安く王であるのでなければ,何の意味もないのだ。」とあくまで人間的である。
たしかに,今回のオペラの演出にもあったように,殺人が殺人を呼び,王位簒奪は永久にくりかえされるだろう。そして,魔女はその人間の運命の愚かさを,あざわらうだけである。そうして見ると,壮大なオペラのすべての仕組みも良くわかる。とても良いオペラだったと思う。