満足度★★★★★
よぎる感覚と浸蝕されないない空気
「なんとなく満たされた感覚」の質量をもったあやふやさと、「ダークな感覚」の染み込みきれなさ、それぞれにぞくっとくるようなリアリティを感じました。
ネタバレBOX
建設が予定されている高層マンションへの入居が決まっている夫婦、
妻の職場か何かの友人がその家を訪れる・・・・。
経済的には安定していて、
生活にもゆとりがあって・・・・。
でも、ゆとりがありながら
見え隠れする不安・・・。
実態はあっても実感がないなにかが
彼らの生活感の周囲にアラベスクのような影を落とす感じ。
たとえばふっとべき論で浮かび上がり語られるもの。
あるいは電車のドア上に表示されるニュースからやってくるもの。
画面の向こう側にある飾り物のように概念化された現実と
すっと通り過ぎていく実態のないダークな気配が
ほんの一瞬共振する感覚。
過る感触の鮮明さが、
直感的ともいえる切っ先で舞台上の空気に醸成されます。
ふっとわき上がる「ベキ論」が妻を捕らえる強さや
消失していくさま。
選んだワインとチーズを持って
電車に乗る友人が過ごす時間の色と
その中に織り込まれるニュースなどの情報の感触や重さ。
語りかける言葉が、背景や小道具のようにその場をつくり
会話が、ダンサーの四肢の動きのように
その時間を紡いでいく。
舞台上の表現は密度をもった空気に染められて、
やや下手側に掛けられた小さな時計が刻む時間にクリップされて
観る側にやってくる。
その広がりに観る側はひたすら取り込まれていくのです。
黄昏の公園で男が食べるコンビニのパンと
チーズとともに供されるバケットの対比。
あるいは、翌朝夫婦が
おいしいパンを買いに行き、さらに投票に行くというエピソード。
夫婦やあるいは友人の視座から観たものが
しなやかに一つの世界に組み込まれていくなかで
そこにある水と油の境界線のような
混じり合わない揺らぎの感覚の
明らかに存在する不確かさに息を呑む。
しかも、表現される一過性のような時間が
観る側にはしっかり残る。
この、観る側に残されたこの感覚を
どのように表現すればよいのでしょうか。
そこにあるものは、
明らかにぞくっとくるような洗練に支えられているのですが、
でも、愚直で原始的な泥つきの現実にも思える。
きっと夫婦や友人もあからさまには認識していないであろう感覚の塊が、
素の光を当てられてそのままに置かれているようにも感じる。
そして、その感覚の先に
「今」という時間の質感がゆっくりと浮かび上がってくるのです。
終演後、しばらく呆然・・・。
なんだか、すごいボリューム感に満たされていて・・・。
当日会場で販売されていた劇団の次回公演チケット、
むさぼるような気持ちで購入したことでした
満足度★★★★
中味を詰める力
舞台上の表現から伝わってくるものは
一見ストレートなのですが、
実はしたたかなひだがつけられていて・・・。
その家族の匂いがしっかりするところに
作り手の表現の深さを感じました。
ネタバレBOX
その家に夫婦がやってきて、
次々に子供が生まれていく。
一人のこともが手離れすると
次の子が生まれ・・・。
やがて、両親の戸惑いを感じるような間があって
3人目の子供が現れる・・・。
作るというより授かるといったニュアンスの表し方、
また子供がハイハイをするまでの手の掛かり方の表現などが
とても創意にあふれていて・・・。
さらに、子供たちが成長していく中の出来事、
反抗期や愛情の表現などにも
小さな表現の積み重ねがあって・・・。
で、なによりも感心したのは、
その家庭の匂いのようなものが
舞台から伝わってくること・・・。
自分の家の匂いはわからないけれど
他人の家って玄関に立っただけで
それぞれに個性があるじゃないですか・・・。
その個性が舞台上の家庭からしっかりと醸し出されてくる。
父親と子供たちの関係や、
母親の誕生日のちょっとしたサプライズに至るまで、
そこにXX家の香りが存在しているのです。
単にステレオタイプな家族を描くというだけでなく、
そこに中味を詰めて色を醸し出す演出や振り付けの力、
そして、ほとんど身体の表現で
こまかい印象を刻んでいくダンサーたちの表現力に瞠目。
刹那の身体表現からわき上がってくる
ニュアンスの解像度の細かさが
舞台上の空気のスムーズさにつながって。
ラストちかくのシーンにほろりとして・・・。
表現される時間の尺が自然な感触kとして伝わってきて
そのしなやかさにどっぷりと浸りこんでしまいました
満足度★★★★
したたかな、発露
以前に観た作品よりも
ろりえカラーに良い意味でのコントロールが生まれ、
最後までぶれることなくやってくる勢いがあって・・・。
それゆえ、
作品の持つ世界観をしっかりと味わうことができました。
ネタバレBOX
作品のベースとして伝わってくるのは
ある種の出口のなさと
冒頭やラストのシーンにあるような
溢れるごとき想いの叫んでしまうほどの発露。
そのおさえこまれ方と
抑えられなさが
物語にしっかりと編み込まれていく。
6分割された部屋がうまく機能して
物語の断片がそれぞれのテイストを失うことなく
観る側を取り込んでいく。
表現される刹那が、ごちゃごちゃにならず
観る側につたわってくるのです。
その場その場であらわされる感覚が
次第に因果となって舞台の色を作り出していく。
どこかかけ違ったような現実が
観る側にシニカルな笑いとともに浮かび上がってきて・・・。
終盤の送風機を使った大技が
しっくりと物語に溶け込んでいるように感じるのは、
そこまでに積もらせたものがあるからかと・・・。
場のつなぎや、表現には
多少荒さを感じたりもするのですが、
終わってみると、
作り手側には、そこに目をつぶっても
表現したいものがあるようにも感じて・・・。
逆にきれいに丸めこんでしまわないようなところに
この劇団の強さを感じたりしたことでした。
満足度★★★★
昆虫の世界だから見えるもの
間違いなく昆虫の物語ではあるのですが、
そこからふっと今の世界が浮き彫りになって・・・。
次第に閉じ込められ
ずっとその緊張感に締め付けられながら
見てしまいました。
ネタバレBOX
場内超満員。
どう考えても小さな会場。
しかし、
冒頭の「ツァラトウストラはかく語りき」の表現に
ふっと狭さを忘れるほどの力があって。
歓喜の表現から続くものがたりにすっと導かれる。
物語は、
まごうことなき昆虫というかフンコロガシのものなのですが、
でも、生態研究のようなイメージはほとんどなく
むしろ擬虫化されたとある国の日常のようなものが
浮かび上がってきます。
たとえば、テロが横行し、
死や暴力が常に隣り合わせにあるような場所。
「標本される」という不安に常に苛まれて、
サイレンが響き渡るほどに空気が凍って・・・。
その中で、自らが生きる意味を問い掛けたり
命を繋ぐことにその身をささげたり・・・。
でも日常がそこにあること。
拒食になりながら、理想を想う姿に
ふっとうなずいてしまうような説得力があって。
ファーブルの正義が
虫たちの運命や生活を揺さぶっていくあたりに
ぞくっとするような世界の縮図を感じ、
フンコロガシに置き換えられて
初めて浮かんでくる今に目を見開いてしまう。
そして、その終末まで、ずっと穴の中に存在する
日々の生活観に、
世界のいろんなシーンで生きている人々の
その場所では特別でない感覚に思いを馳せてしまう。
常に緊張状態に置かれた人々の感情の起伏など
若干強さが勝ってしまうような表現の平板さを感じたりもするのですが、
逆にその平板さがあるからこそ、
観る側に深い印象がやってくる部分もあって。
小さな会場にがっつりの密度、
その強さが、しなやかに舞台の臨場感を高めていて。
ほんと、したたかで見応えある作品だったと思います。
満足度★★★★
ボディのしっかりとした時代劇
よく作りこまれた、
ボリューム感たっぷりの時代劇。
きちんと観客を物語に招き入れ
運びきってくれました。
ネタバレBOX
正確ではないですが2h40mほどの上演時間だったと思います。
でも、ダレた感じはまったくありませんでした。
個々のシーンが適度なテンションに満たされていて、
観る側にちゃんと長距離を走らせてくれる。
物語のシンプルさと深さの表裏を、
それぞれの許容範囲にしたたかに納めた感じ。
多少のご都合主義(村人の心情の変化や
鬼の力の持たせ方など)が目についたりもするのですが、
それも含めて、舞台を観客に見せるような雰囲気が
うまく醸し出されている。
長い舞台であっても、きゅっと密度をつめて
間延びをさせずに物語を流していく力があるのです。
いつも自分が拝見するのとはちょっとちがったジャンルのお芝居でしたが、
楽しく観ることができました。
満足度★★★★
ゆるくても、広さに負けない密度
駅前劇場のステージがとても広く感じられたのですが、
物語が進むにつれて
空気が舞台全体をくっきりと支配して・・・・。
あひるワールドが拡散するのではなく
さらに豊かにふくらんでおりました。
ネタバレBOX
駅前劇場の空間を二つにして、
シーンを切り替えながら物語が進んでいきます。
相変わらずどこか噛み合わない会話、
何かがずれたような感覚・・。
そこから醸し出される
複雑にブレンドされたような可笑しさ・・・。
それは、今回のような広い舞台であっても
へたれることなく、
むしろ、個々の役者の芝居の強さが
空間にくぐもらずくっきり見える分
より繊細な可笑しさへと変わっていきます。
占いのあいまいさやいい加減さに
ちょっと当たるも八卦感を織り込んだり、
社長の不思議な役立ちを差し込んだり・・・、
部屋へのどこか無節操な出入りや、
さらには物語が芝居の枠をはみ出す部分の感触が
明後日の方向に散らばるのではなく
絶妙に観る側の感覚と噛み合う。
前世を二択にする感覚が、
この舞台だとなんかなじむ。
ウィットをしみこませたり編み込ませて
ちゃんと映える空気があって。
役者が演じきる、実はしっかりと腰の据わった個性や雰囲気が、
観る側を共有された感覚でつなぎつつ
しなやかに振り回してくれる。
舞台の広さが、面白さを拡散させず
むしろ、醸し出す雰囲気を大きくくっきりと魅せていくことに
作・演出や役者たちの技の確かさを感じて・・・、
いや、それを表だって意識させないところが
あひるなんちゃらの空間の凄いところで。
もう、完全に、あひるワールドの虜になってしまいました。
満足度★★★★
下世話で深い
ちょっとチープな部分に
観る側の肩肘をすっと解かれて・・・。
いくつかのコンセプトがきちんとベースになって
笑える。
べたに思える部分もあるのですが、
ごまかさないで作られていて
しっかりと引き入れられる
で、その笑いに身を任せていると
奥にある世界観が
柔らかく降りてくるのです。
個人的にはとても好きな
感触をもった作品。
なにか癖になりそうなテイストに惹かれました。
ネタバレBOX
黎明期のゲームの裏側に
その画面を支えるアナログな工場を作り上げるアイデア、
そこからの広がりがとても自由で豊か。
次第に熟していくような巻き込み感があるのです。
次第にゲームの表裏や
時代の背景が明らかになっていくなかで、
働くことの質感や
時間を消費していく感覚に
観る側が染められていく。
その語り口はどこか下世話なのですが、
でもしっかりと作りこまれた笑いとともに
観る側を取り込む力が内在されていて。
もたれることなく
どこかに諦観すらただよう
感じが心に残る。
マリオとテトリスが絶妙にごっちゃになる終盤には
ちょっとしたグルーブ感までやってきて。
そのテイストは若干人を選ぶかもしれませんが、
なにかくせになるような部分が
個人的にはとても好みでありました。
満足度★★★★
残る
無意識にあるものが
すっと現れて、ずっと残る・・・。
こう、ふんばる場所がないままに
取り込まれるような感じに
息を呑みました。
ネタバレBOX
導入部は心地よいのです。
ちょっとユーモラスな感じすらする。
しかし、リズムにバリエーションが生まれ
次第に複雑になり
たくさんのものが含まれていくうちに、
観る側を凌駕するポイントがやってくる・・・。
そこを超えたときに
物語同様に観る側に混濁が生まれ
なにかが流失していく。
ひとつずつ、順をおって処理されていく
そのルーティンが
オーバーフローして
主客が逆転する感覚。
あいさつやシンプルな言葉から派生する
心地よいリズム感やおもしろさや高揚に
日本語や英語、
さらには抑揚やニュアンス、知識などの様々な情報が
入り込んで
自らが手綱を引いていたはずのものが
すっと臨界点を超えて
自らを縛りひきづりるものに変質していく、
その質感に有無を言わせないリアリティがあって。
なにかに鈍感になっていくような感じや
まわりが同じように嵌っていくような部分が
なんとなく体験的にわかるだけにぞくっとくる。
それが、お香の匂いが立ち込める
お寺の本堂で演じられるから
観る側には益々の逃げ場のなさが降りてくるのです。
混沌の中に響く七味まゆ味のすごくシンプルな英語や
川田希の作る距離感に
さらなる印象を焼き付けられて。
作り手の底力というか
お寺の本堂に混沌を炊き上げる
作・演の事象の切り取り方と表現力、
さらにはそれをしなやかに具現化する役者達の力量に
がっつりやられてしまいました。
ほんと、感覚が共振させられるようなお芝居って
すっとは抜けていかないのですよ。
あのノイズ、しばらく耳から離れないかもしれません。
この作品、フランスではどう評価されるのでしょうか。
それも、すごく興味があります。
満足度★★★★
かかえているものを丁寧に描く
登場人物それぞれが抱えるもの、
許容するもの、許容できないものが
少しずつすりあわされ、修正されていく。
描かれる人物それぞれが
丸められることなく丁寧に描かれていて、
よい意味での100%しっくりとはまりきらない感じが。
舞台全体の実直さや豊かさに昇華していくのです。
桑原作劇の見事さをたっぷりと楽しむことができました。
ネタバレBOX
開演前から適度に遊び(開演前の注意を街の音に載せてなど)をいれながら、その場の雰囲気を立ち上げて、
物語が始まります。
前半部分では
登場人物自身ではなく、その場の会話やシチュエーションで
それぞれの人となりが浮かんできます。
観る側にとっては舞台の空気に馴染んでいく中で
劇中の人間が知るのと同じ感覚で
個々のキャラクターの存在や人となりが伝わってくる。
しかも、物語の中でキャラクターの描かれ方が
端折ることなくしっかりと密度や緩急をもっているので、
観る側が力をいれなくても、すっとその場を俯瞰できる。
机を寄せてみんなでそばを食べるシーンなどでも
同床異夢の雰囲気が、
エピソードの積み重ねではなく、醸し出される空気として
観る側にしっかりと伝わってくるのです。
それぞれの想いが、キャラクター自らが語るより
物語の流れやシチュエーションから
よりしっかりやってくる。
そのことで、まるで皮膚で空気を感じるように
物語が観る側の内側に広がっていく。
もちろん個々の演技から直接見えてくるものも秀逸なのですが
その空気に浸されて滲みだしてくる何かが
それを鮮やかに浮き立たせ観る側を巻き込んでいく。
しかも、物語の秀逸は絡み合った一人ずつの心情を
混濁せずに澄んだ色で観る側の心に残していくのです。
だから、季節の変わった終盤の部分が
観る側にとってとても自然に腑に落ちる。
単なる後日談ではない、
人が生きていく淡々と含蓄に富んだ時間がそこにはあって・・・。
「甘い丘」に続いて桑原作劇の精度や質感に瞠目し
強く心を惹かれたことでした。
.
満足度★★★★
兄弟だから?
お互いに手を動かす中で
解けていくものがあるのかなとか
思ったり・・・。
常ならない状況が重なる中での
自然な質感がとても印象に残る作品でした。
ネタバレBOX
入場して
場内の半分以上を占めるマンションのセットが
こみ屋敷化している姿にびっくり・・・。
妹の目覚めで舞台が始まって
冒頭はどうなるのだろうと息をつめていましたが
そこに暮らす妹と
訪ねてきた兄の距離感の絶妙さに
すっと二人の世界に入り込むことができました。
兄が掃除を始める・・・。
そのなかでさらっと自分の婚約が破談になったことが妹に告げられる。
一方かたずけが進む中で
妹の上司との不倫関係も明らかになってきて・・・。
次第に片付いていく部屋が
明らかになっていく互いの想いを
しなやかに増幅していくような部分があって
うまいなぁと思う。
新聞を縛るように兄に頼む妹から伝わってくる
妹の兄に対する甘え心・・・。
掃除を終わる前に何度も帰ろうとする兄の
ちょっと迷ったような感じからこぼれだす
妹との距離感やプライド。
部屋がきれいになる中で
二人に共通する部分というか
互いの似通った不器用さのようなものが
部屋の床面と同じよう面積分姿を現して・・・。
単なる兄妹を描いたお芝居とは
ちょっと異なるクリアな感じがやってきて。
物語の終わり方もとても自然な感じで、
安易でなくきちんと納得ができる・・・。
お互いが混沌とした状況のなかにあっても
掃除をすればふたたびそんな風に話ができる兄妹が、
一人っ子の私にはちょっとうらやましかったりもしたり
アフタートークもとても面白く。
すでに30年の歴史がある劇団だそうですが、
初見の私にはとても新鮮。
もしまた、東京に来ることがあれば
是非に観たいと思ったことでした。
満足度★★★★
ルーズなバスケットに置かれた物語
Aコースを観ました。
いくつかの物語が
目の粗い籠の中を転がされるように
語られていく感じ。
感覚的に伝わってくるものもあるし
起承転結が比較的しっかりとしているものもあるし・・・。
いくつかのピースが
流れていく感じがすごくよくて、
リラックスして楽しむことができました。
ネタバレBOX
文学のサンプリングという概念は
観ていてそれほど強く感じませんでした。
終演後
当日パンフレットのを観て、
被サンプリングの作品を確認して。
Aコースとして知っていた芥川龍之介の作品は
「羅生門」と「竜」の2作。
その物語の
テイストを感じる部分がないわけではないのですが、
でも、それが作品を左右するほど
大きな影響を与えている感じはしませんでした。
でも、それとは別に、お芝居として
ずっと見続けてしまうなにかがこの舞台にはあって。
それは、個々の物語が持つ面白さだけでなく
その物語のバックボーンになるフレームが
うまく機能しているからかとも思う。
観ているときには意識しなかったのですが
実は「天使」が求めたプレゼンテーションという枠の存在が
結構効いていると思うのです。
そのバスケットがあるから
個々の物語の存在が唐突にならない。
ナンバーを付けられたひとつずつの物語には
個々の仕掛けが醸し出す面白さに加えて
終わり方に潔さがあって、
それがエピソード全体の切れにもつながっていました。
まあ、シーンの解像度をさらに上げる余白はあるとおもうのです。
一番強い部分を支えるゆとりのようなものが
舞台上に感じられるとさらに良いかも。
でも、特に後半の2作品などには
観客をよそ見させない力が内在していたと思います
満足度★★★★
デフォルメされているのに瑞々しい
ストーリーを追うというよりは
個々のシーンから溢れる瑞々しさに
ぐいぐいと引っ張られました。
デフォルメが効いているのに、
不思議なことに、
とても率直な想いの描写に感じたことでした。
ネタバレBOX
最初のうちは、誰の物語かということに、少し戸惑ったのですが、
舞台上から溢れてくる豊かな印象に目を奪われているうちに
どんどん引き込まれて・・・。
やがて舞台全体に
ひとりの女性の内心に浮かぶものが
次々に映し出されていることに思い当たったあたりから
一気に表現の豊かさに浸潤されました。
個々のシーンからやってくる
女性の様々な想いは
時には軽快に、或いは深い示唆を織り込んでデフォルメされていて・・・。
元ネタになる事象はきっと息を呑むほどに生々しいのですが
それが一度広げられて
ゆっくりと心の中で咀嚼されて
彼女自身が受容しうる質感にまで
変容を遂げた上で渡される。
膨らんだ夢や、訪れた出来事や、現れた想いが、
諦観や慰安や希望を混ぜた絵具で
自らが受け入れる色や形に塗り替えられて、
描かれていくのです。
電気屋の原風景や妹のこと、感情という動物の進化、
駄目男との愛の暮らし、ルーティンワーク、
美しいままで剥製となることへの賛美とためらい・・・。
それらの間から顔を出す
余計なことには首をつっこまないという処世術・・・
その積み重ねの先から
特別ではない、どこか内向的なひとりの女性が
去来するエピソードが並べられた時系列の線上で、
砂漠を歩みつづけるその瑞々しさが
まっすぐに伝わってきて圧倒される。
観終わって、一人の女性の今が
手の中にのこったような感じに
この舞台の秀逸さを悟ったことでした。
満足度★★★★
生活感のある突き抜け方
津軽弁の世界なので
言葉がわからない部分が若干あることも手伝って
笑って観てしまいましたが、
冷静に考えると実はかなり壮絶な世界。
しかも、
個々の登場人物から沸きあがる感情の揺らぎには
不思議な瑞々しさがあって。
終盤に息を止めて
見入ってしまいました。
ネタバレBOX
嫁と姑、さらに小姑がからんでの確執というのは
いつの時代もあるのだろうしとはおもうのです。
朝食の味付けでごりごりとやるあたりは
まあ、ありふれた風景かと思った。
しかし、そこからの展開に目を見張りました。
エピソードのひとつずつが
絶妙にデフォルメされていて、
家庭内の空気が観る側にがんがん伝わってくる。
しかも、津軽弁が醸し出すニュアンスというか
表現の強さが計り知れない部分などは、
デフォルメ思えない部分などもあって・・・。
子供のころからの苛立ち、
そこに、宗教やちょっと怪しい商売まで入り込んできて、
女たちの強さや鬱積したもの、さらには脆さまでが
じわりじわりと観る側に伝わってくる。
それこそふすまの内側で息を潜めているような感情を
ふたをあけて観る側にそのまま伝えるためには
このくらいのデフォルメが必要なのだと思うのです。
しかも、内心を荒っぽく晒すだけではなく
終盤に心の揺らぎをしっかりと表現する部分の語り口も
実に秀逸。
青森的ウィットや
クールな視点もしっかりと編みこまれていて。
なんというか、人が生きているなって感じる舞台。
夏にも東京で公演があるとのことで
とても楽しみになりました。
満足度★★★★
塗りこめるような表現の強さ
色というか雰囲気の作り方を
その場にあわせて自由自在に
操っていく力に目をみはりました。
ネタバレBOX
心地よく笑いぬけられるような部分もあったり
舞台からの圧力に押し込まれるような部分もあったり、
シーンの重ね方で舞台の雰囲気が小気味よく変わっていきます。
そのなかで表される
さまざまな色にどんどん翻弄されていく。
舞台の密度を人数でかけたり
ぞくっとくるような表現で厚くしたかとおもうと、
一方でギャク仕立てかとおもえるような
確信犯的ともおもえるような薄っぺらさを作り出したり。
暗転を重ねて物語のつながりからディテールをスパッと落としたかと思えば、
モノローグのような長台詞に役者の演技力を重ねて
ひとつのシーンを塗りこめて言ったり。
で、
それらのけれんがよどんだり浮いたりせず、
見る側に焦点を結んでしっかりと認知されるのです。
奇抜であったり、べたであったり、ずるいとさえ思えたりするのですが
でも、「おもしろい」と思わせる直感的な感覚がやってきて
うそっぽいとかくだらないとか感じる理性の感覚を
しっかり押さえ込んでしまう感じ。
そのうちに、彼らの表現だからこそ
感じうる世界があることに気づいて。
この作品、
多分見る人によって、好き嫌いや評価の違いは
でるかもしれないと思うのです。
私とて、作品から深い感銘を受けたかと問われると、
必ずしもそうもいえない部分があったりもする。
でも、感銘とかいう感覚とは別に、
理性では抵抗しがたい魅力があって
捉えられてしまうのです。
確かPrifixで観て気になっていたこの劇団、
さらに追いかけてみたくなりました。
満足度★★★★
夜遅くのお楽しみ
夜9時からの公演。
タイトなお芝居ではないのですが、
遊び心も一杯で観ていて楽しい。
飲み物を取りながら
リラックスして
役者たちの技を楽しむことができました。
ネタバレBOX
物語はとてもシンプル、
骨組みがうまく荒いので
役者が自由度の高いお芝居が
心地よく生きる。
バーでのお芝居だから
役者との距離が凄く近い。
けれんもあるのですが、
役者たちにそれをしっかりと支えて
余りある力があって。
その設定だからこそ、
ちょいと虚実を編み込んだようなお芝居から
役者の魅力もしなやかに伝わってくる。
爆笑するような感じではないのですが
観る側の気持ちを緩ませるような
おもしろさがあって。
ちょっと大人の好奇心を満たしながら
どこかリラックスさせるスパイスもふくまれていて。
ご飯をどこかで済ませてから足を運ぶ
ちょっと遅め始まりのエンターティメント、
こういうのってなんかとてもよいのです。
満足度★★★
「中途半端感」は表現されているのですが・・・
凸バージュン。ちょっと浮遊するような軽さや、登場人物間の生きることへの温度差のようなものはそれなりに表現されているのですが、全体にもうすこし密度とバランスがあれば見えてくるであろうものが、今ひとつくっきりと抜けてこない感じもしました。
ネタバレBOX
心惹かれる場面もいくつかありました。
猫が体を貸してからの疾走感や切なさは
それなりに伝わってきたし、
個々のキャラクターが抱えるものの質感も、
そこはかとなく浮かんできたり・・・。
ただ、役者の演技のくっきり感と裏腹に
彼らがかかえる日々についての
イメージのふくらみがひどく薄く感じられて。
多分、一番大きな要因は
会話の中でのお互いの気持ちの絡み方だとおもうのです。
会話から舞台の上に空気が生まれて、
それがく伝わってくるのではなく、
観る側が空気を求めて一生懸命物語を追いかける部分が多々あって。
いろんな気持ちが書き綴られているはずなのに
それが舞台上の雰囲気にしっかりと交じり合っていかない
気がするのです。
物語の枠組みにはいくつかの工夫もあるし
伏線がかっちり効いている部分もあるのですが
役者の会話が観客を向かって発せられているような部分があって
舞台上にふくらみが感じられない。
惹かれるにしても、距離をとるにしても
舞台から生まれるものが舞台にしっかりと留まらないのです。
結果として猫が絡んだ部分などは
相応に空気が伝わってくるのですが、
観る側が台詞を追って思いを馳せないと
浮かんでこない空気もあちこちにあって・・・・。
また、ラストの部分もやや饒舌に過ぎたように感じました。
もう少ししゃきっと切ったほうが、
断ち切るべき思いや喪失感が
しっかりと出るように思いました。
まあ、初日でしたし、
枠組みはしっかりとあるので
今後詰まっていくのかもしれませんけれど、
この物語が力を発揮するには
舞台空間のさらなる豊かさが必要ではないかと
感じたことでした。
PS:多分作り手にはそういう狙いはなかったと思うのですが、
観た翌日に藤田まことさんが亡くなられた事を知って。
劇中での何度かの「あたりまえだのクラッカー」という台詞が、
なにか彼への追悼のようにも感じられたことでした。
満足度★★★★
現れてくるものと薄れていくもの
断片的な記憶が重なっていくうちに
次第にひとつの感覚に集約していく。
その質感に強く浸潤されました。
ネタバレBOX
冒頭のトイレのエピソードに始まり
いくつものエピソードが
舞台上に表現されていきます。
幼いころの記憶、学生のころの想いで。
そして兄弟や親戚たちの今。
人間関係が浮かんでくるまでは
脈絡のうすいいくつものエピソードが
浮かぶままに並べられている感じ。
しかし、同じ場面が
反芻のように角度や切り口を変えて
くりかえされる中で、
次第に個々のエピソードが溶け合って
家族やその場所の香りと時系列が
醸成されていくのです。
ひとつずつのエピソードの色に
高い解像度からやってくる細線の輝きがあって。
それぞれの両親と子供、さらには孫のこと、
姉弟や従姉妹との関係、
近しい友人、クラスメイト。
テレビで相撲を観にくる子のことにしても、
川に棄てられる猫のことにしても、
崩されていく家のことも、死のことも・・。
記憶が繰り返し光の中に訪れることで
愛情も憎悪も、裏も表も、楽しさも驚きも痛さも
次第に時系列の中に溶け込んでいく。
血の糸につながれたそれらが
舞台奥の闇から舞台中央の光に現れ、
再び舞台奥に戻っていくなかで、
色は時と混濁し、
揺らぎ、離れ、繋がりながら
やがて、ナチュラルに拡散して
観る側に共振する質感となって浸潤していくのです。
舞台につるされた、赤い糸で作られた長い編物や、
記憶の潜在と顕在を照らし出すような照明、
闇から出でて闇に戻る登場人物たち。
いずれもが実にしたたか。
観終わって、人があゆむ時間の重さと軽さが同時に降りてきて、
その表現のしなやかさに息を呑んだことでした。
満足度★★★★
かなり癖になるおもしろさ
しっかりとした身体表現と
ウィットがよくからまりあって・・・。
ここ一番はしっかりきまるし
豊かな遊び心も感じて。
こういうのってすごく好きです。
ネタバレBOX
壁の花の表現に勇気と遊び心があって・・・。
白鳥の湖の一幕の曲をそのまま
待つ女たちの表現につかうところで思わずうなった。
中央へ踏み込む葛藤の表現も、
下世話な雰囲気を残しながら
一方でペーソスもしっかりと残っている。
それらがばらばらにならず淀まず
その時間の空気として
かすかなこっけいさと、ちょっと切ない感じとともに
観る側に残る・・・。
素人役の男性をシャル・ウィ・ダンスの曲とともに
舞台に上げて群がる構図も、
素敵になにかを踏み外している感じがして・・。
声をかけられることなく壁の花でいる女性の感じも
拍手のバリエーションも
どこかはみ出し感があるだけれど、
土台ががっつりあってのはみ出し感なので、
むしろ、そのはみ出し感こそが豊かに感じる。
個々一番のダンスにも魅せられて
とても楽しかったです。
」
満足度★★★★
一つずつのエピソードを包む奥行き
それぞれのシーンに
抜群の完成度があり、
でもそれだけでは終わらせない物語の奥行きがあって。
この戯曲、凄いと思います。
ネタバレBOX
作品は少し前別の劇団で上演されていて、
その時の評判を聞きながら伺うことができなかった作品。
うだうだすることもなく
オーディションの雰囲気に一気に引き込む冒頭から
完全に戯曲の世界に閉じ込められました。
最終オーディションに残った5人に関する面接、
その一つずつについての完成度の高さには瞠目するばかり。
それぞれの親から本人を浮かび上がらせるやり方で
親の人生までも浮かび上がらせる
したたかなやり方、本当に完成度が高くて。
5つの色が独立として一つの物語の塊となり、
それぞれに異なった連作の短編を観ているよう。
その重なり方からさらなる生まれてくるニュアンスにも引き込まれる。
5人分の面接が終わった段階でかなり満足していたのですが
さらにその奥にそれらを土台にした物語が存在していて。
個々の面談のクオリティが作品を作る緊張感をしっかりささえるのです。
この戯曲、すごい。
役者たちのお芝居も、ほんのすこしだけ段取りに傾く部分があったものの、適度に緊張と弛緩を作りだしながら、しっかりと舞台を支えていました。
アニーのミュージカルのシーンは見事のひとこと。
おもしろかったです。
満足度★★★★★
結末にぞくっとくる
何を書いてもネタばれになる気がするのですが、
とにかく観る側をぐいぐい惹き込むような
上質なエンタティメント性を持ったお芝居。
時間を忘れてガッツリ楽しむことができました。
お勧めです。
ネタバレBOX
間違いなくサスペンスです。
それもぞくっとくる、上質な・・・。
観る側にとって物語の提示がフェアなのがすごくよい。
必要なことは全て語られるのです。
一度に見えない部分や傍系のエピソードなどもあるのですが、
それがあざとさにならない。
登場人物たちの行動や言動にも
理がしっかりとあって
きちんと観るものを納得させてくれる。
次第に迷宮にはいりこむような感覚にゆっくりと導かれ、
それがほどけていく
中盤以降のシーンの重ね方に息をのむ。
物語の設定や仕掛けに加えて
個々のシーンのはめ込み方や密度、
語り口・・・、
いくつもの洗練が重なって。
やがて真実にたどり着いたとき
観る側のもやもやがすきっと抜けて
極上の推理小説の最後のページを読み終わったような
達成感がやってくるのです。
終演後、余韻を楽しみながら物語を振り返るうちに
登場人物が丁寧に描きこまれていることや、
そこから醸し出される必然の秀逸さに気が付いて。
それらを支えた役者達の力にもぞくっとくる。
帰り道、結末がわかっても
もう一度観たくなるような感覚がやってきました。
まさに極上のエンタティメントだったと思います。