満足度★★★★
耐えられない軽さの秀逸
一つずつのシーンに満たされていく、
言葉にすると崩れてしまうような、
観る側にとってどこか逃げ場を失ったような
底の浅さや軽さ、
さらには滴り匂う
人間の本質に息を呑みました。
そこには、
演劇でなければ表現しえないような質感を感じました。
ネタバレBOX
初日を観ました。
劇場に着くころにはかなり雨が強くて・・。
劇場に入って、
客入れ中に次第に強くなってくる雨の効果音と
雷鳴が観る側を舞台の空気に馴染ませていく。
その中での秘めごとの質感が観る側に置かれます。
舞台は離島のキリスト教会。
聖堂での会話から
いくつもの人間模様が交差していきます。
それぞれを縛っているもやいのようなものが
次第に浮かびあがってくる。
それは、事故への償いに始まって
知的な障害を持った妹のことや、
不妊のこと・・・。
それらは、登場人物たちそれぞれの人生にとって
多くを占めること・・・。
でも、そこには、言葉では表しえないような
行き場のない底の浅さと軽さが醸されて・・・。
それらは、人間の本質から滲みだすような
ある種の匂いとともに観る側に染み入ってきます。
知的障害をもった女性の、
抱えきれないものの溢れ方のリアリティがとても効いていて、
個々がなにかを手放す刹那に漂う
それぞれから溢れたものの
耐えられない軽さと温度に、
目をそむけることができずに見入ってしまう。
キャラクターたちに愚かさを感じるわけではないのです。
むしろ、個々のなした選択は
とても賢明なもののように思える。
でも、その選択に潜んだ
ある種、手放したような浮遊感に、
人の弱さやコアにある欲望が発する、
演劇でしか表現しえないような
観る側が拒絶できない腐臭が織り込まれていて・・・。
作り手にしか描きえないであろうその質感に息を呑む。
冒頭のシーンを伏線にとりこむ
終盤の牧師兄弟と両方の性を肉体に有した女性の
それぞれの姿にも目を見開きました。
拒絶する弟と歩みをすすめる兄、
その現実を受け入れる女性。
弟とのいきがかりが解けて
さらに生きることへの強さと、
ある種の後ろめたさと生臭さのようなものが
やってきて。
ネガティブな物語ではないと思うのです。
でも、それぞれが自らの歩みを進める中での
理性をこえたコアのような部分の
想いの匂いが消えない・・・。
作者が表現したかった意図が
本当に理解できているかは疑わしいのです。
でも、よしんば違っていたとしても、
作り手の表すものに
静かに強く打ちのめされてしまいました
☆☆★★◎◎△
満足度★★★★
異なったテイストとそれぞれのグルーブ感
中編2本立て公演。1本目と2本目では、観る側も引き込まれ方がかなり違っていて、両作品とも楽しめました。
かっちりと組まれたプロットに、ちょっと見た目にはアバウトに感じる美術も見事に機能して、時間を忘れて楽しむことができました
ネタバレBOX
「みんなの部屋」は、
定番的なシチュエーションコメディの手法を踏襲しているのですが、
見せ方がしたたか。
まるで子供のままごとのように
床にべたに部屋のレイアウトを書き込み、
ベット以外はパイプで簡単に組んだだけの場に
物語を展開していきます。
マジックミラーの部屋というか
全室に設置された監視カメラを観ながら
物語の展開を楽しむ感じ。
キャラクター設定に無駄がなく
ちゃんと観る側に収まるというか無理がない。
余計なものを排して
ひたすら個々の立場や状況に基づく行動を描いていく・・。
しかも、部屋の外にある出演者たちが
隠れることもなく舞台奥のベンチに控えていて
その動きから
次に部屋に訪れる状況を予告してくれる。
観客にシーンごとの意味や
それぞれの立場の変化に
ハラハラ感が絡みあって、
そこには常ならぬほどにわかりやすい
カオスの質感とグルーブ感が生まれていきます。
姿を隠した想定の役者たちのお芝居が
とてもしっかりと生きている。
クローゼットやベット下などに隠れて外をうかがう表情が
舞台の厚みをしっかりと保ち、
物語のメリハリを作り上げていく。
ラストの部分がほんのすこし
弱いかなとは思ったのですが
よしんばそうであったとしても、
コンテンツに
がっつりと引き込まれてしまいました。
無縁バターは、
ちょっとショッキングなシーンから始まります。
一人の男の孤独死を処理する場面、
そのちょっとえぐい感覚にひっぱられながら
どこかブラックに染まった笑いに
引き込まれていく。
でも、そのブラックさで物語は
収束しないのです。
意外な部分ががっつりと伏線にされていく。
それが解けていく後半がかなりすごい。
ドミノが倒れるように
すっきりと物語が通っていく。
一本目とは異なるグルーブ感に
ぞくっとくる。
そりゃラストはちょっとずるいけれど
ちゃんと観る側をうなずかせてくれるのです。
役者たちのお芝居にぶれがないのも勝因かと。
面白かったです。
コアの感覚をわしづかみ
Zokky初見。
間違いなく演劇だったし、きちんと作りこまれた表現でありました。
ありましたが、そういう範疇での考察をあっさりと停止させる、
観る側のコアをわしづかみにするような世界に呆然としてしまいました。
ネタバレBOX
壁一枚の近距離でのお芝居だからといって、
役者たちが表現力の牙を納めているわけではなく、
むしろ獲物を捕らえたかのように
がっつりと観客に向かってくるわけで・・・。
そもそも、この上演スタイルの話を伺ったとき、
壁って、コンテンツに高揚した観客から役者を守る為のものかなと
勝手に想像していたのですが、
実際は逆で、
役者の表現に圧倒されずに作品を見続けるための
観客を守る盾であることに気が付く。
劇団スクール水着に至っては
その盾や観客としての匿名性も剥ぎ取られ
ほとんど演劇の空間に沈められるようにして
作品に浸されるわけで・・・。
KIKKYに至っては
その盾すらなく
観客が視覚に闇を纏うだけ。
想像力が感覚を生むだけでなく
感覚に想像力が追い越されて
置き去りにされてしまうような感じすらあって・・・。
個々の作品に霧散せず
烙印のような印象が残る。
なにか絶対に夢に出てくるような、
でも、間違いなく、きわめて演劇的な体験に
しばらく自らをリセットができず
ぼぉーっとしてしまいました。
まだ、C分の予約演目が残っています。
こんどはどんな残像が心に刻まれるのか
今からどきどきしております。
満足度★★★★
ピュア
お話自体はとてもシンプルなのに、
1時間がちゃんと満ちて、
しかもピュアな感覚がとても自然にのこりました。
ネタバレBOX
特にけれんがあるわけでもなく、
ちょっと劇画チックに話が進んでいくだけ。
それなりのバイアスがかかった語り口の舞台なのですが、
骨格自体はとてもシンプル。
でも、冒頭の作・演出の小芝居が意外に効いていて、
ボディが劇中劇のような扱いになっているから、
いろんな設定が、そのまま許されてしまうし、
ヒロインの想いのどこかまっすぐな表現も
観る側にはすなおに受け入れられてしまう・・・。
ちゃんと散っていかないものがそこにあるのです。
その作り物的前提のなかに、
なんだろ、とてもピュアな感覚が芽生えて残る・・・。
ふっと、忘れていた感覚が蘇った感じ。
なにか、それで十分だと思わせてくれるような
あたたかさ。
そんなに重くもないし、
でもちゃんと何かをもらって
会場を出る感じがあって・・・。
今回はZokkyの後での観劇でしたが、
たとえば会社帰りにさくっと見れたら良いと思う。
べたな言い方ですが、
カップルで観にいくのにも好適な作品かなと
思ったり・・・。
すでに公演は終ってしまっていますが、
次回公演もふらっと寄ってみたくなるような
出来栄えのよさでありました。
☆★◎◎
満足度★★★★
はみ出しから生まれる客観
三鷹の大きな舞台をしなやかにはみ出して、
時代への客観的な視座を作りだしていく・・・。
一方で時代の内側の感触もコマツ企画テイストで
上手く築き上げられて・・・。
時間を忘れて見入ってしまいました。
ネタバレBOX
この事件の表層的な質感を知っているというと
それだけで歳がばれてしまうのですが、
あの時代が持つ、
なにかが薄められたような、
どこか行き場を失ったような感覚のリアリティに
しっかりと取り込まれました。
事件を描くという手腕に加えて
怪作「動転」のようにフレームの外側というか
時代まで含めたバックヤードを描くやりかたが
本当にしたたかで・・・。
舞台下のお芝居で
あっという間に
物語のフレームの外側にまで運び出してしまう。。
べたな比喩を
がっつりと踏み込んでべたに表現する凄さ。
薄っぺらさをあざ笑うように舞台に現出させる一方で
「死ぬと言って死んだ奴はいない」ものを
あっさりと冥界に持っていったり
バカ旦那をあざとくデフォルメしたりと
ちょっと枠を超えたような踏み込みに独特のウィットを醸し、
醒めた深いニュアンスを生み出す
その表現力に目を見開く・・・。
結婚破棄で自らを仕立てあげる女性の
会場を巻き込んだ表現にも
ぞくっとくる。お店のママが語る
水商売の蘊蓄も凄かった。
こうなると、もう、お芝居の一シーンを超えて
至芸の世界。
結婚を放り出して集団に戻る女性の表し方も
絶品・・・。
その集団に集う女性たちの心理も
夜の街に集う男女たちや
当時のメディアが持つ雰囲気も
作り手が見極めて独特のテイストで表現する
様々なうすっぺらさや欠落感のなかに
すっと浮かび上がってくる・・・。
しかも、キャラクターたちを塗りつぶさずに
描き切っていくところが
作り手の真骨頂で・・・。
行き場のないという3人組の女性たちにしても、
なかの一人の妹にしても、
その中に個性をきっちりと作りこんでいく。
彼女たちのどこか軽質な部分も
ただ軽く描いていくのではなく
一人ずつが抱える重さのなかに表していく。
オヤジから滲み出てくる人間臭さや
その妻の達観の解像度もがっつりとやってくる。
それを支えうる実力派の役者だちが
個々のシーンをがっつりと作りあげていくのです。
だから、どこかでコミカルにすら思えても
真理というか人間のコアにあるものが
ぞくっとするような解像度で
見る側に伝わり残る。
その先には、
その時代の個性にとどまらず
人が生きることの普遍性を
すいっと俯瞰するような感覚までが生まれて・・・。
ここ数作は、遊び心のなかにも
どこか息をつめたような質感があった小松作品ですが、
今回はその縛めをやや恣意的にはずした印象。
でも、それだけで間口の広い劇場の舞台にとどまらず
舞台の下のスペースや劇場全体を満たしてしまうほどに
表現の大きさを広げる
作り手の才能には舌を巻くばかり。
2hほどの比較的尺の長い作品でしたが
飽きることはまったくなく、
作り手の世界に遊ぶことができました。
肩が凝らない、
でもどこか突き抜けた
コマツワールドに
しっかりと引き込まれてしまいました。
☆☆★★★◎△
満足度★★★★★
時に醸されるもの
そこには匂い立つ時間がありました。
想いに満ちた時間たちなのですが、
その時間が舞台上でとどめられるのではなく
歩んでいくことで、
さらなる薫りを醸し出し
溢れさせていく・・・。
秀作だと思います。
ネタバレBOX
それは日記を書く家族たちのシーンから始まります。
ゆっくりと闇が解け、
舞台上で思い思いにノートに向かう
家族の姿が浮かび上がる。
冒頭に日付が読み上げられ
これが夏の物語であることを告げられる。
その一言が鮮やかで、
家族の昔がすっと浮かび上がり、
いくつもの8月が重なり
観る側が舞台上の空気に落としこまれていきます。
はしゃぐ子供を叩く母親から、
女性としての横顔が垣間見える。
まるでフォーカスが定まったように
若くして母親となった女性の姿が目に焼きつく。
日記を書けば詩を書けるようになるという
夫の言葉に従う母親の純真さや、
若い女とともに父親が逝ってしまった日にも
忘れるため書かれた日記に織り込まれた諦観。
プリンのこと、幼い下世話な想い、母親の誕生日。
互いの日記につづられる
子供たちの幼いころの姿や
失踪した母親への想いまでが
船を思わせるその家の中でひとつになって・・・。
姉妹と弟、さらに姉の夫を含めた
今の家族たちの質感も巧みに描かれていきます。
母がいなくなった日の気概をそのままに生きている長女。
奔放さを持ちながら失意とともに戻った次女。
どこかで夢を抱えたまま暮らしている三女。
さらには長男のシャイでやさしいところ。
ぶどうや卵焼きなどのエピソードに
時間がしたたかに繋がれて・・・・。
日記に刻まれた時間と
それぞれの今がしなやかに重なっていく・・・。。
忘れる為に日記に綴られたことたちは
楽しいことばかりではないはずなのに、
柿の渋さが干されて強い甘味をかもし出すように
その抱えきれないような苦さも
やがて、思い出の中で
どこか曖昧に、切なく混じりあい
潮風の感触や夕顔の甘い香りとともに
夏に薫り立っていきます。
2度と会えなくなっても
それで終わりになるわけではないという。
反芻することは大人の悦びだという・・。
猫を糸口に
長男の母との思い出から、
さらには次女と三女が絡み
長男の友人と三女の会話へといたる
夏の時間の混在に取り込まれる。
暑さにどこかぼやけたような切なさをもった
Summertimeの
甘く包み込むような歌声に彩られた過去が
音を研がれて今にフォーカスされる質感に息を呑む。
長男の友人が家を訪れることから
したたかに観る側にも開かれていく
姉妹たちが抱えたそれぞれの今。
縫いこまれた
その苦さが心を揺らします。
でも、かつてそうであったように、
忘れるために日記につづられた今も
やがてはきっと重ねられた夏の中に埋もれていく・・・。
東京に戻る次女、
日記帳を送られた三女、
そして夫と未来を語ろうとする長女・・・。
綴られ
さらに綴られていくであろう
家族たちの夏の質感たちに
深く浸潤されたことでした。
今回の舞台には
これまでの青☆組の作品のように
登場人物たちを描く繊細さを
それぞれのシーンに極めるのではなく、
物語を流れる時間に編み込んでいくような
力があって。
だから、
冒頭、女の香りを強く感じたその姿も
彼らの母親を観る姿に塗り替わっていくし、
それゆえに、一人の女性の生きざまが
より深く鮮やかに浮かび上がってくる。
日記に書かれたビターな出来事も
その事実ではなく
時に醸成された
それぞれの登場人物の感覚で
観る側を息が詰まるほどにしっかりと
伝わってくるのです。
作り手が、刹那を描く力にとどまらず
さらなる手練を身に付けたことを
強く実感した作品でもありました。
☆☆☆★★◎◎△△
満足度★★★★
語るバランス感覚の良さ
重ね合わせられていく二つの物語、その語り口がとてもよくて、双方がそれぞれにしっかりと生きる。
物語る中での、作り手の天性のバランス感覚を感じました。
ネタバレBOX
ジャンヌダルクの物語が
他の世界と綾織りになったり支えたりする筋立て自体は、
驚くほど斬新なものではない。
でも、その語り口には目を見張るものがありました。
シーン割のバランスがとても良い。
また、シーンをつないでいくやり方も
緩急自在という感じ。
二つの世界のつながりを
夢の世界と現実という座標にしっかりと置いて
早い段階からしっかりと提示をしていくことで
観る側に物語の構造をしっかりと見せる。
だから、ただ学生服で舞台を縦によぎる
それだけのシーンから
少女の内心のリアリティが生まれるし
イメージのしりとりのようなシーンのつなぎが
そのまま舞台全体の広がりにつながる。
役者にも多少の優劣があったり
舞台装置のチープさなども気にはなるのですが、
肝になる部分はしっかりと作りこまれていて
物語がぶれない。
舞台の要所がきちんと観る側にやってくるのです。
ジャンヌダルクの物語の既知の部分を
少女の心の動きや想いにしっかりと縫い込む
運針の安定があって、
観る側が負荷なく舞台の流れにのせられていく。
その結末が導かれるまでの
二つの物語の積み上げ方が
しっかりと機能して
物語の収束にもあざとさがなく
少女の抜け出す姿を
しなやかに観る側の高揚につなげて見せました。
作り手のお芝居の尺の中で
物語を描く手腕には
天性のなにかがあることを実感。
舞台に加えて当パンなどを読んでも
その構成や伝え方の秀逸を
受け手に意識させないほどの
うまさがあって・・。
もちろん、
劇団として身につけるべき手練は
いくつもあるとは思うのですが、
今回の作品を観る限り
この作家が表現する力は
信頼できるような気がするのです。
ただ、作り手が
この先、何を語っていくのかが
未知数な部分で・・・。
概念だけで語り続ければ、
きっと行き詰ってしまうのだろうし、
この先彼が、自らの感性をどのように広げ
その手腕で何を表現しようとするのか・・・。
次の公演がとても楽しみになりました。
○▼●●◎◎
満足度★★★★
包みを開く手順の秀逸
舞台のトーンがしっかりとコントロールされていて、
同一の質感の中で
幾重にも開かれていく世界の余韻まで
たっぷり味わうことができました。
ネタバレBOX
冒頭のシーンから
しっかりとしたテンションが舞台にあって、
いくつかのエピソードが
拡散させることなく
観る側に置かれていきます。
重ならない断片を
語り部たちがそれぞれに
膨らませていく感じ。
一つずつのシーンがとても丁寧に作られていて
観る側が無理なくゆだねられる。
舞台上のロールを保ちながら
どこか抽象的に、
でも狂言回し的に語られる
台詞たちが
次第に物語の外壁を組み上げていく、
その順序や度合いがしたたかで・・・。
だから、エピソードたちの変遷や
その女性が
くっきりと照らし出される終盤が
薄っぺらくならない。
よしんばそれが
打算やずるさに満ちたものであっても
観る側はそれをあるがままに受け入れてしまうのです。
Bバージョンを拝見したのですが
ラストに女性が開示する心情は
圧巻でした。
そこに、モラルが瓦解していくなかでの手放し感や
モラルハザードに殉じる高揚すら醸し出され、
観る側の目を見開かせる。
役者の演技にはそれぞれ張りがありました。
冬月ちきはこれまでと異なる
新しい一面を開花させたような気がする・・・。
作品の全体的なバランスからいうと
前半が多少重すぎて、
それが後半の切っ先を
ほんの少しだけ削いだ感じもあるのですが、
でも、それを十分にカバーする
ラストの主人公の心情表現の鮮やかさに
目を奪われる。
たくさんの手練を内側に織り込んで
しなやかな口当たりで
物語を観る側に広げていく
作り手の語り口に
たっぷりと満たされて・・・。
豊かな作り手の力量を感じる
舞台でありました。
☆☆★★◎△
満足度★★★★
戯曲を客観的にする役者の力
開演までは
作者と演者の同一性からやってくるものに
身構えていた部分もあったのですが、
その戯曲自体にクオリティがあって
観ているうちに、誰が書いた作品かなど
すっかり頭から消えてしまって・・・。
役者としての「清水那保」が舞台で顕すものに、
観る側としてがちんこで向かい合うことができました。
ネタバレBOX
狭い階段を下りていくと
そこに劇場空間が現出する。
閉塞感がややあるものの
一人芝居には格好のスペース。
時が満ちるようにして舞台が始まります。
紡がれていくのは、
インターハイに出場するレベルの水泳少女の日常。
そこに母や、少年の姿があわせて演じこまれて、
やがては、彼女の血に連なる物語にまで
世界が広がっていきます。
作品に対して演じる力はしっかりと担保されていて、
個々のシーンがしなやかなメリハリを持って
観る側に伝わってくる。
観客を引き込むような密度の作り方、
すっと浮かび上がる想いに目を奪われるような解像度があって。
今にして思えば凄く失礼だったのですが、
よしんば、戯曲につたなさがあったとしても
それを埋めるだけの力がある役者の一人芝居であることは知っていたし、
ある程度の破たんがあっても舞台は成立するだろうくらいに思っていたので、
まさか、他の役者が演じても成立するであろう
ここまでの完成度を持った
戯曲自体の世界に
引っ張り込まれるとは思ってもおらず・・・。
シーンが重なるごとに
さまざまなニュアンスが
しなやかに色を変えて
骨太に繊細にしっかりと伝わってくる。
一人芝居というフレームの中で
改めてこの役者の表現する力の奥深さに瞠目。
まあ、しいて言えば、一人芝居としては
キャラクターの遷移の断層がやや高すぎるというか
個々のキャラクターがくっきりと演じられすぎることで
そのつながりがスムーズに感じられない部分があって・・・。
よしんばそれが「憑依」であったとしても
キャラクターをつなぐなかでのべたさというか
へたうまさのような部分もあればともおもったりはしたのですが、
それを差し引いても、
がっつりと残る質感に包み込まれて。
舞台美術も秀逸、
ライティングや映像も、
観る側を圧倒するほどの力を持って
やってくる。
それらが役者の演じる世界を隠すのではなく
役者の「秀逸」を際立たせる力を持っていることいることに
瞠目。
終演時には
「清水那保」というブランドをも軽々と圧倒する
清水那保の舞台力にがっつりと掴まれておりました。
*** ***
余談ですがこの戯曲、
個々のロールそれぞれに役者を振って
数人のお芝居をしても面白い気がします。
いろんなアスペクトを内包した
戯曲の世界を感じたので・・・。
○○★★★◎
満足度★★★★
内幕を踏み台にした世界
まあ、観客ですから、
お芝居を作る世界の現実は
わからないのですけれど。
一つずつのシーンにきちんとした色があって
がっつりと取り込まれた気分でいたら・・。
それだけではない後半の世界にこそ
本当に取り込まれてしまいました。
実にしたたかな作品かと思います。
ネタバレBOX
冒頭から積み上げられていく
劇団のけいこ場風景。
純粋な観客の私が観ても
がっつりとおもしろくて・・・。
作品を作り上げていく発想に
薄っぺらさとべたさがあって、
でも、それが貫かれることによって
ある種の世界がちゃんと劇中劇のピースに現れる。
主宰や劇団の個々のロールのデフォルメ(ですよね?)に加えて
そこに現れる、ある種のシュールさが
凄く良い。
なんだろ、人物描写に
役者の力が
ぞくっとくるほどに伝わってくる。
戯画化されたような
それぞれのキャラクターの個性の描き方に
不思議なふくらみがあって、
それぞれの醸し出す個性が
常ならぬほどにくっきりと見えるのです。
しかも、
ここまでだけでも、
十分に元がとれるような作品なのですが、
前半の雰囲気から導き出される
後半の質感にこそ
この舞台の一番の秀逸があって愕然。
演出助手の夢から抜け出せない感覚に
ぞくっとくる。
前半にこれでもかと醸し出される、
劇団内のある種のラフさとストレスと徒労感が、
不条理にも思える世界の
出口のない夢うつつさに
不思議な実存感を醸し出していくのです。
個性を持った役者をみるだけでも
たっぷりと眼福。
ソリッドさとべたさの匙加減も絶妙・・・。
休憩時間に醸し出される開放感のなかにも
したたかに物語が積み重ねられたり
前半の様々な表現が
無駄なくしっかりと取り込まれていく
その手腕の緻密さに息を呑む。
作劇のビジョンの深さとそれを具現化する力に
がっつりと押され圧倒された。
前回の公演といい、今回といい
観る側を捉える力にやられた感じで・・・。
この劇団から
一層目が離せなくなりました。
☆☆☆★★◎◎
満足度★★★★
芯までくっきりと描かれる
これまでの「こゆび侍」ワールドがさらに洗練された印象を持ちました。
一番芯になる部分がくっきりと浮かび上がり、研がれた切っ先としてやってきました。
ネタバレBOX
原発をめぐる物語なのですが、
核開発にかかわるイデオロギーの匂いを
ほとんど感じさせないほどに、
個々の人間から抽出されるものに洗練がありました。
ある種の悲劇的な構造をもっていて
個々のキャラクターに怠慢がない。
シチュエーションの中で
それぞれが自らに課せられたものにたいして、
焦点がしっかりと絞られて
とても真摯なのです。
ただ漫然と人物が描かれていたら
とても薄っぺらいアンチ原発のドラマになっていたかもしれません。
でも、作り手には、不要な葉っぱをそぎ落とし
幹や枝を浮かび上がらせ
物語のシチュエーションをくっきりと描き上げ、
そこに果実のようにキャラクターを実らせるだけの
手腕があって・・・。
物語のボディに当たる部分の観る側の視点を
町役場の一室のみに固定して
一本道ではないプロットを
秀逸に編み上げて
プロローグとエピローグで挟み込んで
一気に見せ切る力に瞠目。
役者たちも、
キャラクターにいたずらにデフォルメを加えることなく、
丁寧にその場の個々を、
くっきりと演じ上げていきます。
音と照明が鳥肌が立つほどにしなやかで
がっつりとした切れとボリューム感で
舞台を支えていく。
結果、原発の存在感が借景となって、
人間それぞれのコアにあるものが、
くっきりと浮かび上がってくるのです。
これまでのこゆび侍の作品には
終盤に内心のカオスが
そのまま観る側を押し切ってしまうような部分がありましたが、
今回は、そこに人間が無意識に持つ
意識の底にある、真摯やずるさ、「業」のようなものまでも
くっきりと浮かび上がってきて・・・。
その向こう側にある作り手の
冷徹で秀逸な眼力を感じてぞくっとなる。
正直なところ、作品としてのパワーは、
抽出された様々な想いをそのまま集約して観客に押し込んだ
従前の作品の方が強いように感じました。
でも、今回の作品が残していく感覚には
そこからもう一歩踏み込んだような
独特のテイストがあって・・・。
作り手は醸しだしたものを溢れさせるにとどまらず
そこから、もう一段純化させるような、
更なる手練を身につけたように思う・・。
今回の作品の秀逸に、
べたな言い方をすれば
腕を上げた作り手や演じ手たちの
さらなる可能性の広がりを感じたことでした。
☆☆★★◎△
満足度★★★★
表地に縫いつける創意の豊かさ
一つずつのシーンが、豊かな寓意に満ちていて・・・。
しかも、表現が鮮やかで、
目を奪われ、惹きつけられて
流れずに積もっていく。
終盤に、描かれたものたちの
内にあるものに気がついたとき
それまでの作品のイメージがドミノように返り、
重ねられたものに
透明感をもった生々しさが訪れて・・・。
作り手の創意に圧倒されました。
ネタバレBOX
開演を導く、
小粋にアレンジされた
スタンダードナンバーに気分がほぐされ
リラックス。
初日ということもあってか
冒頭はほんの少しだけ混濁していました。
でも、すぐに世田谷シルク本来の
豊かなテンションと寓意を織り込んだシーンが連なって・・・。
ボサノバにのせて歩いていく動作が
まるで、食前酒のように観る側の心を開いてくれる。
宮沢賢治の世界がそこはかとなく薫って、
やがて、列車に乗るころには
ひとつずつのシーンに自然に取り込まれていきます。
そのつながりは、「銀河鉄道の夜」に支えられているのですが
一方でその中に織り込まれたものたちの姿は
なかなか浮かんでこない。
でも言葉やしぐさ、背景のメッセージ。
映像やダンスがそのまま流れてしまうのではなく
印象を含めて「そのまま置いといて・・・」と
観る側に居場所を生み出す力を持っていて。
気がつけば、
表現されたままに
場ごとのいくつものキャラクターやアイテム達に
目を凝らしている・・・。
それぞれのシーンの作りこみが
観る側をしっかりと舞台につないでいてくれる。
そして、私的には、
二つの指輪から見える宇宙として刻まれた
DNAに気がついたとき・・・、
トリガーが引かれて
まるでドミノ倒しのように
様々な寓意がその衣を脱ぎ捨て
見事にリアリティを持って一気に広がりました。
個々の寓意が表すものが鮮やかに浮かび
「「そのまま置いておいた」ものに
見事に血が通う・・・。
男女の営み、生命の誕生・・・。
出会って結ばれる細胞や
結ばれないものたちの感覚・・・。
男性の私であっても
男性の感覚に下世話さはなく
体感することのない
女性が持つ肉体の周期のロジックが
しなやかに浮かび上がる。
そこには、立体感を持って広がる
体と命と想いの俯瞰図があるのです。
停車していても
走り出しても
急こう配に差し掛かっても
加速減速を繰り返しても
物語の綴り方や役者たちの演技が
「銀河鉄道」という表の生地から
寓意をほつれさせないから
観る側が裏地を眺めることができた時
そこには命が繋がれていくメカニズムのコラージュが
下世話に汚れることなく
崩れることなく、
しかも質感をしっかりと守って
広がっていく。
ダンスや演技のクオリティにも支えられて
透明感を失わなず、
ウィットを湛えて、どこか冷徹でシニカルで、
そして女性としての感覚に満たされた
作り手の描く世界にそのまま取り込まれる。
正直に言って、
終演に至っても
作品に織り込まれたすべての寓意が、
私にその姿を晒していたわけではないと思います。
きっと味わいきれていない部分もあったはず。
さらには、男性ではわかりえない感覚も
あるのかもしれないと思う。
でも、すべてはわからなくても
男女が出会う感覚はそこにあり、
卵巣や精嚢までも含む物理的な肉体から、
女性の周期や男性の感覚、
そして男女の営みや、
出会えなかったものたちの想い・・・。
さらにはそれらを統括する宇宙のメカニズムが
幾重にも醸し出す色というか質感に圧倒され
息を呑む。
指輪に加えて、牛乳や林檎、鍾乳洞や湖・・・。
鳥たち、鍾乳洞、時間、二人の社員旅行とその妹・・・。
列車がのぼる急勾配、減速・加速・・・。研究隊サークル。
それらに込められた創意は圧巻で、
しかも、それらを「銀河鉄道の夜」にのせて
流し込んでいく見せ方に心奪われて・・・。
さらに進化していく余地もある作品なのかもしれません。
でも、少なくとも私には、
この作品を味わうことができたことが
とても満ちたものに思えたことでした。
帰り道、開演時のナンバーが
ふっと耳に蘇る・・・。
fly me to the moon,and let me play among the star・・・♪
歌詞を口ずさんで、
戯曲に埋められた、
作り手の真摯な遊び心に思い当たって。
もう一度、この作品が内包するものの
味わいの深さと豊かさに
満たされたことでした
☆☆☆★★◎◎●●
満足度★★★★
どこかビターで可笑しくて・・・◎
必ずしも
微笑ましいとか暖かいといった会話ではないにも関わらず、
キャラクターの想いが
その空間にゆたかに動いて、
最後には親しみに近いものすら感じるようになる・・・。
作り手の物語の編み上げ方のしたたかさに
舌を巻きました。
ネタバレBOX
女性二人の会話劇、
冒頭からの噛み合わない雰囲気に
まず取り込まれます。
二人はアイドルグループのメンバーをしていたらしい・・・。
というか今もしているらしい。
人目を意識するような風貌や仕草とは裏腹に、
すでにほとんど忘れ去られた存在であるという現実が
あって。
その「ほとんど」具合が絶妙なのですよ。
想いと現実のギャップからこぼれるような
個性の異なる二人の女性それぞれの、見栄やいらだちや互いへの反発心、
さらにはそんな日々への懈怠といまさらの「解散」の言葉が
幾重にも重なって舞台に満ちる。
役者それぞれのキャラクターの作り方や間の取り方がしたたかで、
観る側は次第に、場の空気感やキャラクターの個性に囚われていくのですが
でも、そこでかもし出された雰囲気は実はお芝居にとってはベースにすぎない・・・。
作り手は、
そんなふたりの刹那を描くに留まらず
それをがっつりと動かしてみせるのです。
ツイッターの書き込みによって
外からの視線が差し入れられることで
アイドルだった二人に刷りこまれた感覚が
掘り起こされていく・・・。
彼女たちの自意識が
その世界の人間の業とでもいうように
浮揚していきます。
舞台の奥の窓から見える夜景に、
閉塞したその場と
見知らぬファンの存在の妄想が
不思議な広がりをもって繋がって。
ファンの存在を意識して
一旦脱いだ帽子とサングラスを再び身にまとい
存在を再び隠すのも上手いと思う。
さらには出来事が重なって
彼女たちをじわりと内から高揚させていきます。
彼女たちの目撃情報はツイッター上でRTされていくし、
店内の有線からは唐突に
彼女たちの曲が流れる・・・。
お互いの会話には
息絶えかけていたアイドルの自意識と
アイドルとはいえない、
むしろチープなリアリティが混在し
べたなウィットやペーソスへと色を変えて
観る側に流れ込んでくる。
脱ぐだの介護士を目指すだのという
現実の世界を話していたふたりが
アイドルの世界の徳俵に踏みとどまる中
メインボーカルの女性の妊娠という
さらなる事態に直面して・・・・。
で、そこで思いが収束するのかと思いきや
もう一段の箍が外れて・・・。
これだけ、波長の合わない二人が
グループの解散に振れるのではなく
メインボーカルを新たに探すという
別の共通したベクトルに歩みをそろえる姿に
愕然となるのです。
でもカーテンコールの拍手をするなかで、
物語の意外なラストが
不思議に納得できてしまうのがすごい。
特に意識なく観客が観る中で、
実はキャラクターたちのコアの想いを伝える
様々な仕掛けが組まれ、
回収された作品なのだと思う。
拝見したのは初日とのことで、
ほんのすこしだけ場のテンションが切れる部分や
舞台の温度に抑制が聞かない部分もありましたが、
でも、よしんばそうであっても、
観客を惹きつけきる舞台の空気の動きには、
常ならぬものがあって。
公演を重ねるにつれて
さらなる空気の閉塞やはみ出し方のしなやかさが
生まれていくような余白も感じて。
役者の場を作る切れにも瞠目。
細かい表現にたくさんの秀逸を感じる。
うまくいえないのですが、
この舞台には
説明なんてなにもないのに事情がすっと伝わってきて、
観る側の耳をさらにダンボにさせてしまうような力があるのですよ。
笑えるというのとはすこし違うのですが、
でも胸の奥でビターな可笑しさが重なって、
さらに前のめりになってしまうような
そんな面白さをもった作品。
そして、会場を後にする時には
作り手の腕の確かさをがっつりと
思い知らされた公演でありました。
もうチケットはほとんどないようですね・・、
ほんと、お勧めなのですが・・・。
できることなら、私ももう一度観たいです。
☆☆☆★★◎◎△
満足度★★★★
語り綴られるよう・・・
ベースにある綴るというか物語る感覚に惹かれて、
すいっと暑さを忘れて見入ってしまいました。
リラックスして、
夏の風情を味わうように、
ちょっと浮世から離れた物語に浸って
時間を過ごす。
すっと猛暑を忘れてしまうようなひとときでした。
ネタバレBOX
猫つながりの3席を
肩肘張ることなくゆっくりと観ることができました。
前説と一人芝居が、実はものすごく効いているのだと思います。
なにか、夏の夜に、
本を読んでいるうちに
暑さを忘れていくような気分・・・。
一人芝居は
なんというか、男のはまり感がとても秀逸。
猫よりも人が怖くなるようなところもあって。
二人芝居では
男が追い詰められていく風情のなかに、
猫流の生きざまがすっと現れて
ぞくっとなる。
三人芝居では、
猫のもののけを狂言回しにして
姉妹たちの想いの機微が描かれていきます。
三品とも、常ならぬものが
絶妙なスパイスになって
したたかに観る側を
ひと膝前に引き寄せる。
観終わって、
癖になるような良さに満たされていて・・・。
上演時間は1時間と短めなのですが、
猛暑の中、劇場にたどり着いたものにとっては
それがまた、絶妙によいのですよ。
役者たちも、それぞれに、
メリハリのつけ方に長け、
滑らかに物語を運んでくれる。
なにか、
暑苦しかった心が
すっと物語に満たされて・・・。
作り手たちの、
センスに感嘆したことでした
○○●●☆☆
満足度★★★★
ひと時の感覚を広げきる力
そのひと時の感触から、
広がっていく想いに捉えられ、
再び収束して刹那にいたるその想いに
深く浸潤されました。
内心を物語に編み上げていく、
その手法や表現に斬新さと洗練があって、
見せるものと隠すもの、、
さらには浮かび上がってくる世界に
息を呑む。
光や影の使い方も実に秀逸。
役者の所作にも切れがあって。
冒頭の刹那から、
終盤ふたたび広がる
主人公の想いや「おどる」ことの質感に
圧倒されました
ネタバレBOX
大きな布を幕としてL字型に張って
客席との境にして・・・。
冒頭のモノローグで夜明け前の刹那のごとき感覚を
空間に描きあげると、
幕を取り去ってその世界に観客を導きいれます。
光に照らされるもの、シルエット、そして闇。
さらには、聞こえる声と隠される音。
晒すものと隠すものは明確な意図に裏打ちされていて、
観る側がすっと世界に捕捉される。
舞台の闇の部分にも
しなやかな密度があって。
ギャラリーという空間の制約を逆手に取ったような
常ならぬ光のハンドリングと、
抜群の切れをもった言葉たちが、
斬新な表現のセンスを武器にして
エッジを持った世界観を作り上げていきます。
ダイアログ、部屋の内と外、携帯・・・
次第に浮かび上がってくる物語。
登場人物のロールが定まって
質感の違いが生まれていく。
ソリッドな肌合いを持った空間に、
すこしずつウェットな生々しい感覚が
織り込まれていく。
気がつけば、
光と影に織り上げられた物語の顛末に、
がっつりと心を奪われているのです。
部屋の外で語られるモラルや説得、
銃をつかうこと、ホテルの支配人、それぞれの立場。
内で語られる、窓のことや、言葉で伝えられないもの、
いっしょにいたい気持ち、チョコレート・・・。
妊娠・・・。
閉塞感のなかで膨らんでいくエピソード。
それらが満ちて、やがては混じりあって・・。
再び冒頭の刹那に収束していきます。
閉塞した世界のロール達が
こぼれることなく、とまどうことなく
現実でのありようへと鮮やかに姿を変えていく。
そのしなやかさと滲みのない表現の精度が圧倒的。
そして、冒頭の刹那の先に足を踏み込んだ、
主人公から伝わってくる
「おどる」感覚にも目を見張るのです。
シンプルで創意を持った舞台美術や
強い印象を醸し出す照明の手法にも
強く心を惹かれました。
役者達の動きもとてもきれいな舞台。
それぞれのシーンにあいまいさや滲みがなく、
切っ先がしっかりとあって・・・。
物語の中盤に
かすかなもたつきというか
饒舌すぎる印象はあったものの、
それを凌駕するだけの表現力が
舞台に構築されていて。
女性の想いにとどまらず、
主人公が「おどる」ことの
広がりにも心を奪われたまま、
劇場を後にしたことでした。
○○●●●☆☆◎
満足度★★★★
あひるまじっく
ゆるい場面にも、こそっと見せる力が、
実はちょっと半端じゃなくて・・・。
しかも、個々のシーンをバサバサと演じている体で引き込んでおきながら、
終盤には、まごうことなきその町の空気に浸してしまう。
あひるなんちゃらの手練に、心地よく巻き込まれてしまいました。
ネタバレBOX
そりゃ、最後にやってくる
未来の夏祭り(?)というか盆踊りのインパクトは
強烈なのですが、
それが、アリになってしまうほどに
そこに至るまでの道程が
町の空気を作り出している。
ひとつずつのエピソードも
どこか掴みどころのないものなのですが、
そこには結構強烈な個性が内包されていて・・・。
理不尽といえば理不尽だし、。
脱力系にも見えるし、
コメディにも思えるし、
薔薇泥棒なんて、ペーソスまで醸し出している。
べたなものはべたに、
寓意的なものは寓意的に、
くっきりとしたものはくっきりと、
それぞれのテイストが
混じり合い染まりあいながらやってきても、
それが観る側で混濁しない。
なんだろ、独特の緩急や
ルーズな感覚を作りだすのに
編み込まれている糸の数が
贅沢に多い感じがして。
で、その中に撚り込むものに
細かく豊かな肌触りが生まれているのではとか
おもったり。
脱力感を凛として醸し出していく、
役者の腕はがっつり確かだし、
最初は、頑張ってみても、
結局、観る側が、舞台側にゆだねてしまう
この雰囲気、
ああ、「あひるなんちゃら」だなぁ・・・って
思う。
にも、関わらず、
公演を見続けても、
マンネリ感がないのが
じつはとてもすごいことだと思うのです。
公演ごとに、なんとなく、同じ肌触りの空気の中で
はまりこむものや残るものが
あひるの芝居だとおもいながら
いつも、ちゃんと新しい。
今回も、作り手の手腕に改めて目を見張る・・・。
これはもう、
「あひるまじっく」なのだとおもいます。
それにしても、根津さんの「●●●●●♪」は
ずるい(褒め言葉)なぁと・・・。
なにか頭に残ります。
☆☆★★★○
満足度★★★★★
違和感から浮かび上がる世界の秀逸
舞台上に現れてくる様々な感覚が、
単純に予定調和するのではなく、
収まりきらない感じで観る側にやってきます。
それが、くっきりと舞台上にあるものの
本質を
浮かび上がらせていく・・・。
作者一流の独特の質感をもった舞台に、
しなやかにがっつりと取り込まれてしまいました。
ネタバレBOX
惹かれるトリガーがとてもたくさんあるお芝居でした。
トラムの広さや空間の高さが生かされて
大きくいくつにも区切られたスペースの中に、
ルーズに連携したシーンたちが
次々と広がっていきます。
冒頭から、
シーンそれぞれの色が
互いにどこかなじまないまま、
でも、くっきりと作りこまれて
観る側にやってくる。
個々のシーンの中には、
たっぷりのウィットも込められていて、
登場人物のキャラクターも
雰囲気も、時制のトリガーとなるものも、
その中でちゃんと成立している物語もあるのですが、
一方で
それぞれのシーンの色にも内容が
他のシーンたちと
すっとはまっていかないような感覚もあって。
それは、ずれたり重なりあわないということではなく、
同じ場所に置かれたものの
形状や大きさがことなって
それぞれにはみ出しているような感じ・・・。
でも、その違和感こそが、
観客に、舞台全体のありように対する、
いくつもの視座を与えてくれるのです。
浮かんでくるもの、見ようとしているもの、隠されたもの、
消えたもの、再び現れたもの。
置き換えたもの、塗り込められたもの、塗りかえられたもの・・・。
舞台に描きこまれたものたちの
それぞれに込められたニュアンスも
違和感に照らされて、
ランダムに色を変えて浮かび上がってきます。
個々のシーンが他のシーンに踏み込んでいく時の、
しなやかな突飛さと
観る側にそれを受け入れさせるに足りる切れに
目を見張る。
すんなりとはいかないし、
必ずしも折り合いがついているわけでもない、
でも、それを含めて
その場にある時間が、
観る側自らの深層にあるものの
俯瞰図のようにも思えて・・・。
同じシチュエーションの異なるシーンが現れることも、
失踪することも、突然現れて思い出すことも、
叩くことも、まさかの蹴りがやってくることも、
個々の違和感を包括した
全体の豊かで鮮やかな表現として
観る側にやってくるのです。
あそこで、あの形でやってくる、
「かあさん」は凄い・・。
役者たちには力量と安定感がありました。
ロールに対する精度をもったお芝居が
それぞれに醸し出していく
デフォルメされていたりナチュラルだったりする
ふくよかなニュアンスたちが
舞台をがっつりと下支えしていて・・。
ラストの折り紙のエピソードに
描かれた世界が
さらに自然に観る側の視野を広げて見せる。
終演後、そこには
細密に削り出された
「記憶」の質感が置かれていて。
描く世界の独自の色の秀逸を含めて
過去作品でも強く感じていた
作り手の才を改めて実感したことでした。
○○●●●☆★★◎
満足度★★★★
華を見せるセンスの卓越
娼館の風情を、広い舞台に作りあげて、がっつりと魅せる。
それだけでも、わくわくものなのですが、
内に織り込んだ、ほろ苦くシニカルなテイストが
また良くて・・・。
序盤から中盤までの舞台に色に
目を奪われ、
終盤の物語の流れに
目を見開き、満たされて・・・。
作り手の色の醸し方の手練と
描き方の懐の深さに
どっぷりと浸ってしまいました。
ネタバレBOX
骨格がしっかりした舞台なのだと思います。
冒頭のシーンで引き込んで、
ストーリーの外枠をあっという間につくると
娼館の雰囲気で舞台を満たし、
兄妹の行く末や、その娼館の顛末で
伏線たちを心地よく回収していきます。
、
作・演出の手練から、
キャラクターがそれぞれに持つ
感触が見事に引き出されて・・・。
役者のひとりずつから
個々のロールの香りがが
確かな質感とともにあふれてくる・・・。
特に女優達の美しさというか舞台栄えには瞠目。
役柄をまとって、美しさが際立つ感じ。
娼館ですから、
華こそが物語の説得力につながる。
ちょっとビターなテイストも
女性たちの華があるからコントラストを醸し、
陰陽それぞれの世界に、
観客をくぎ付けにしていきます。
さらには、主人公が、
その世界を背負い、
あがき、
抜け出していく後半にも
前半の輝きがしっかりと効いていて・・・。、
物語にたっぷりの落差があるからこそ、
見えるものがある。
妹が闇からから抜ける終盤にも
前半とは異なったまばゆさがあって・・・。
どこか貧しいなかで、
あだ花の香りとともにある前半の輝きと
豊かさに満ちた終盤を照らす光。
それがすっと昭和という時代の流れを
観る側にしなやかに刷り込んでいく。
幅広の大きな舞台なのですが、
場面ごとに見事に密度が作りだされていて瞠目。
舞台の広さが、
きちんとテイストを醸す力になっているのが凄い。
その時代の風情を残しつつ、
時間をしなやかに動かしていく・・・。
観終わって
よく、ここまで物語を運びきったなぁと
感心。
時間を忘れて見入ってしまいました。
○○●●☆☆
満足度★★★★
絵面がとてもきれいな佳品
舞台美術にしても
照明にしても、
物語の構成にしても
キャラクターたちの心の動きにしても・・・、
なんというか、
いろんな絵面がとてもきれいな作品でした。
ネタバレBOX
物語の世界が
観る側にそのままにやってくるように
仕組まれている感じ。
キャラクターたちの感覚が
あるがごとく観る側に伝わっていきます。
ちょっとデフォルメされたような行動であっても、
それが、良質なウィットを含んだテイストとなって、
きちんとキャラクター達の心情を運んできてくれる。
一人ずつが置かれている事情の見え隠れも、
とても自然な肌合い・・・。
その時間にいて、
取材に来た記者や
帰ってきた従業員の娘と同じように
観客としての居場所感に浸されながら、
急がない緩やかな物語の流れに
やわらかく浸潤されていく。
舞台上の
時間たちの広がり感がとてもよいのです。
役者の個性が作り上げる色が
絶妙な強さで物語を染めて・・・、
強調されたいろんな生活たちの
コントラストがゆっくりと浮かび、
まじありあっていく・・・。
夏の3日間の質感を
さりげなく、でも次第に深く、
ゆたかに味わうことができました。
満足度★★★★
不思議なくらいに・・・
舞台の密度もきちんと作られて、
物語に織り込まれたニュアンスもすらっと伝わってくる。
それを、不思議なくらいにリラックスして観ることができるのです。
なにか魔法にかかったような心持ちでした。
ネタバレBOX
場所もよいとおもうのです。
演じるに十分な広さを確保できているし、
観る側の場所も、
適度なスペースが確保できているし・・・。
閉塞感が自由にコントロールできる場所でもあるし・・・
でも、場内に入った時の
空気感はそれだけでは説明できない・・・。
よしんば、女性が眠る演技をしていたとしても
それが、不思議にナチュラルに感じられるような
何かがあって・・・。
二つの物語が、
それぞれに、
心を満たされるだけの密度を持って演じられていきます。
表現たちにも
観る側を思わず微笑ませたり引き込んだりするような
深さと豊かさがあって、
しかも、それがとても自然に入ってくるのです
舞台上で切り取られる時間がやってくるとき、
いつものお芝居鑑賞とは異なる、
良い意味でのリラックスが
観る側としてある・・。
上手く言えないのですが
観ようというテンションが凝り固まらず
そのまま、舞台上のものと手をつないでいく感じ。
ちょいとべたな寓意もすごく素直に笑えるし、
微妙な心の揺れや透明感を持ったビターさや痛みも、
演技的なデフォルメがしっかり聴いているにも関わらず
すごくナチュラルな質感でやってくる。
口当たりが良いというのとも
ちょっと違うのですよね・・・。
美味しいものって
無意識に口に運ばれて、
しっかり味わっているうちに
気がつけばおなかがいっぱいになっているじゃないですか。
そんな感じかなぁ・・・。
なんというか
とっても良いものを拝見させていただいた感が
そのまま残ったことでした。