うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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ムサシ

ムサシ

ホリプロ

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2021/09/02 (木) ~ 2021/09/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/09/25 (土) 13:30

竹やぶのセットがざわざわしたとき、思いがけず泣きそうになった。このセットを創り動かし音を奏でている人たちの熱い存在を感じた。冒頭客席に背を向けて発する台詞が多く、発声も口跡も良いだけに残念な気がした。大胆なオチは、剣客の生き方を呆気なく変えるにはちょっと軽い気もするが、殺生そのものに焦点を当てるならば、作者のゆずれない価値観と見るべきか。それにしても芸達者が集まると、こんなに隙の無い舞台が出来るものなのだ。

ネタバレBOX

「小次郎破れたり!」の有名な場面は冒頭の4~5分か。
小次郎にまだ息があるのを確かめて「藩医殿、お手当を!」と言い残し立ち去る武蔵。
話はすぐにその6年後の鎌倉に移る。

沢庵和尚や柳生但馬守宗矩らやけに豪華な人々に囲まれながら、
武蔵は寺の作事を手伝っている。
そこへ現れたのが一命を取り止めた小次郎、もう一度武蔵と”公平な勝負”をしたい
という、その一念だけで復活を遂げたのだった。

果し合いの約束を交わし、再びの闘いを前に一触即発の二人を中心に、
滞在する寺には様々な問題を抱えた人間が集まって来る。
そしてもう一つの果し合いが同時に行われようとしたとき、真実が露わになる。

剣客を生業とし、その道で頂点を極めるという目標しか知らずに生きてきた者が
成仏できずに彷徨う亡者に請われてそれを翻すという、呆気にとられる展開。
「剣客のプライド、それがどうした、命が最優先だろ」という絶対価値観が
井上ひさしの真意なのだと思う。

今ノリに乗っている吉田鋼太郎さんの自在な演出と軽やかさが光る。
悲壮感漂う若武者二人の緊張感が素晴らしい。座長はさすがの貫禄。
それと白石加代子・鈴木杏の軽妙な掛け合いの鮮やかな対比が楽しい。
鈴木杏の声の良さ、舞台映えする所作の美しさに驚かされた。

冒頭から声佳し口跡佳しで魅了される。
鍛えられた役者陣にゆとりが感じられて安心して観ていられた。
あー、楽しかった♪



オーレリアンの兄妹

オーレリアンの兄妹

EPOCH MAN〈エポックマン〉

駅前劇場(東京都)

2021/08/13 (金) ~ 2021/08/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/08/18 (水) 14:00

小沢さんのひとり芝居は何度か観ているが中村中の声が素晴らしい存在感を放ち、彼とここまで絶妙な掛け合いを成立させることに驚かされる。次第に明らかになる重いバックグラウンドと、それにつれて緊張感を増す台詞、引きずり込まれるような75分間。

ネタバレBOX

駅前劇場で隣の椅子がこんなに間隔をあけて置かれたのを初めて見た。
隣の人の動きが気にならないのが快適で、ずっとこのくらいならいいのにな、と思う。
劇場としてはもっと詰めたいところなのかもしれないが。

レンガの壁が客席に迫っていて、一番前の客席と舞台の距離が異様に近い。
嵐のような、強い風のような音が客入れの時からずっと続いている。
定刻開演。

兄と妹が客席中央の通路に登場、クマ除けらしく缶か何かを叩きながら
夜道を歩いてくる。
舞台上のレンガの建物に気付き、恐る恐る二人が中へと進むと
壁は舞台中央から真っ二つに割れ、二人を奥へと誘う・・・。

この後建物内部のセットが小沢さんらしい工夫に溢れていて秀逸。
驚きと楽しさ満載でわくわくする。

兄妹はなぜこんな嵐の夜にクマ除けを鳴らしながら歩いてきたのか。
その背景が次第に明らかになる過程が切なく巧い。

オペレッタのように歌が挿入されてリズムが生まれる。
互いにかぶせるような台詞の応酬が緊張感と切羽詰まった状況を際立たせる。
兄と妹の違いが浮かび上がり、意見の相違はやがて別々の道を選択させる。

中村中さんの、意思を感じさせる強い声が魅力的。
歌はもちろんだが、台詞に迷いが無くて爽快だ。

小沢さん、兄が衝撃的な体験を語るところが素晴らしい。
同じ現実が自分の身にもうすぐ起こることを予感して愕然とする。
その言葉は、聴いている私が息苦しくなるほど。

二人とも、まだ大人になっていない故の不安と恐怖が生々しく痛ましく、
一種凄みがあった。

これは逆境から逃げ出す話ではない。
逃げ出してから自分の人生を選択し切り開く物語だ。
兄はどうする?
妹はどうなる?
舞台は終わって、ここから二人の人生が転がり始める。

忖度裁判

忖度裁判

ワンツーワークス

シアターX(東京都)

2020/10/31 (土) ~ 2020/11/08 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/11/05 (木) 14:00

その忖度、誰のためですか?と問い続けた2時間。
ストップモーションの動きが、思考停止のようで印象的。
いじめも結局は忖度の果てのひとつか、と思われた。
裁判員6番の迫力に一票!

ネタバレBOX

お受験ママ友同士だったのに、そのママ友の娘を自分の車に乗せ
放置して死なせたという裁判が開かれる。
本当に雑事に紛れて、乗せていることを忘れてしまったのか、
ママ友に対する嫌がらせだったのか、
ライバルの子を、殺意を持って放置したのか・・・。
集められた裁判員6名、補充裁判員3名はそれぞれ本名を名乗らず
番号で呼び合っている。
世間が注目する、マスコミも注目する、判決には前例がある・・・。
緊張し、翻弄され、忖度だか先入観だかもうわからなくなっていく裁判員たち。

中で6番(奥村洋治)の家庭でのやり取りが挿入されるのがミソ。
彼の娘は職場でいじめに遭っている。
ある時娘は父親に職場の写真を見せる。
この中の全員が彼女を無視しているのだと言う。
そこに写っている上司は、裁判員3番の男だった。
「自分で何とかする」と言い張る娘、娘にまかせようという妻。
だが父親はある方法で3番の男に立ち向かう。

法廷ものの群像劇としては、バラエティに富んだキャラや
裁判のシステムを上手く説明していて、楽しめる。
最も影響力のある忖度をしている人物は
裁判長をはじめとする裁判官側ではないか。
世間の注目度や過去の判決事例を、合理的と言えば言えなくもないが
常にバランスを取ろうと躍起になっている。
中道路線から外れまいとするように見える。

さて、職場でいじめを受けている娘をどうやって助けようか。
父親である6番はどれほど知恵を絞ったことだろう。
その結果が、裁判の休憩時間に語られる「夢の話」だ。
誰かを罵倒し続ける夢を見る、という彼の話は最終日
「昨日あなたが夢に出て来た」と、3番の男に向けられる。

裁判員たちを、常に上から目線で仕切り続けた3番の男は、
完膚なきまでに論理の皮をひん剥かれ、罵られる。
この迫力が素晴らしい。
誰かを守ろうと闘う強さに溢れている。

法廷と並行して、この6番の娘のいじめを持ってきたことにより
罪の意識の無い“忖度”が急に身近になる。
いじめる部下たちは、この上司である3番の男に忖度している。
同僚たちにも忖度している。
忖度の連鎖は、やがて一人の人間の命を追いつめるかもしれない。
父親の罵声には、その危機感があふれていて、それが
単なる罵声でなく、正当な批判として突き刺さる。

「自分で何とかする」という娘の気持を尊重したいという
父としての“究極の忖度”がここにはある。
その忖度の強い優しさに打たれる。


「獣の時間」「少年Bが住む家」

「獣の時間」「少年Bが住む家」

名取事務所

小劇場B1(東京都)

2020/10/23 (金) ~ 2020/11/02 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2020/10/30 (金) 14:00

「少年Bが住む家」
冒頭から肩の力が抜ける暇もなく、ぐいぐい引っ張られていく。
正体不明の不気味な緊張感、登場人物がかかえる不安が
無駄の無い台詞と全身で表現する役者陣によって繰り広げられる。
ラスト観ている私がぼろぼろ泣いたのは、ほっとしたのと
この先が心配なのが混じって、胸が痛くなったからだ。

ネタバレBOX

手前に土間がある韓国式らしい家の造り。
小さな自動車修理工場を営む夫婦と20歳の息子が住んでいるが
言葉少ないやり取りは、妙な緊張感でピリピリしている。
息子への態度を巡って、夫婦は一々衝突する。

そこへ近所に引っ越して来たのでと、一人の女性が訪ねて来る。
無遠慮に入り込んで自分が主宰する「親子セミナー」に誘ったり
数年前にこの町で起こった中学生殺人事件の噂話を怒涛のように喋って帰るが
実はこの家の息子デファンこそが、その同級生を殺した犯人だった…。

小さな町で、公然の秘密を、身を固くして抱え込んでいるような家族。
父親は引きこもる息子に自動車修理の仕事を覚えさせようとし、
母親は理解できない息子を怖れ、息を詰めて今日が過ぎるのを待つ。
家を出ている長女は、母を気遣いつつもこの状態を打破したいと思っている。

周囲は加害者家族に対して容赦なく、無責任に思い出すたび指さして蒸し返す。
新しい隣人は親子問題の専門家を気取っているが
実はただの“ワイドショー好きな世間”の代表として描かれている。

少年Bという、デファンにしか見えない存在が効果的。
あの日の彼自身を超えていくことでしか、デファンは先へ進めない。
その暗く辛い葛藤が、7年も続くことの恐怖は計り知れず
14歳の少年がひとりで背負えるものとは思えない。
助けを求めようにもその方法さえ知らないデファン、
周囲もまた助ける方法を知らないという、状況の痛々しさ。

論理的だが情の薄い人間に見えた保護観察官が
雪の中で懸命に車の故障を直してくれたデファンに対し
温かな態度を見せた辺りから、状況は少しずつ動き始める。

外へ出て仕事をしたデファンの変化は目ざましく、希望の兆しが見えて来る。
誰かに信じてもらわなければ、人は立ち直れないし変われない。
デファンの場合はまず父親が彼を信じて仕事を教えた。
仕事して感謝されて、デファンは初めて自分に出来ることを見つける。
それは被害者家族への謝罪だった。

これから起こることが容易でないことは誰の目にも明らかだが
同時にデファンの表情が別人のように力強いことに安堵する。
びくびくと背中を丸めてろくに返事もしなかった冒頭のデファンはもういない。

絞り込んだ台詞に、悶々とする気持ちを込める役者陣が素晴らしい。
いつか爆発するのではないかとハラハラさせながら、
静かに変容を遂げるデファンの、ふつふつとした思いを肩や背中で表現する
堅山隼太(堅の字の下部が「立」)さんが秀逸。

デファンを見送った後、長女と母親は二人で柿を食べる。
この前まで渋くて食べられなかった柿が、今日は甘くなっている。
この家族に、普通の暮らし、普通の心理状態が戻ることが本当に嬉しい。


私たちは全力でホラーに挑みます!

私たちは全力でホラーに挑みます!

ライオン・パーマ

駅前劇場(東京都)

2020/09/23 (水) ~ 2020/09/27 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/09/23 (水) 19:30

凝った構成にエピソード満載、随所に織り込まれる笑いの要素でライオンパーマらしい作品。でもちょっとホラー感は薄れたかな。せっかくのホラーネタがもったいない。怖さは集中してこそ感じるもの、そこが若干散漫になったのが残念。久々の観劇、劇場・主催者のコロナ対策と努力に感謝します。

ネタバレBOX

天才漫画家・天堂幸一郎には秘密があった。
それは漫画家としての彼の原点ともいえる、9歳の時の出来事だった。

これからホラー漫画に挑戦しようとする天堂は
同業者でホラーの天才闇野霊太郎から怖い話を聴いて参考にするようにと
編集者からアドバイスを受ける。
そして闇野の話を聞いた後で、ふと遠い昔の出来事を口にしてしまうのだ。
“墓場まで持って行く”はずの、誰にも話さずに来た秘密を・・・。

天堂が秘密にしてきた昔の出来事と、
9歳の彼が描いた漫画のストーリーが絡み合って
平和な日常は次第に傾いていくというホラー。

“全力で挑みます”と銘打った作品なら、もう少し怖くても良かったような・・・。
核となるホラーには惹かれるものがある。
あの「魔界不動産」の話、もっと観たかったなあ。
すごく面白い設定だと思う。
だが何といっても挿入されるエピソードのボリュームが大きく
しかも笑いを取る場面が多いのでホラー感が持続しない。
このバランスとメリハリがくっきりしたら
ライオンパーマの新たな魅力になったと思うが、
いつものライパを楽しむという点では、安心して観ていられる。

野鴨

野鴨

ハツビロコウ

シアター711(東京都)

2020/03/24 (火) ~ 2020/03/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/03/26 (木) 19:00

くっきりしたキャラとキャスティングの妙を堪能。
深刻な事態を、離れたところから冷やかに見るイプセンは、だが
この愚かしい人間をこよなく愛している。
「正義」が己の行動の判断基準であるうちは結構だが、
他人の価値観を攻撃した時、それは単なる“はた迷惑”でしかない。

ネタバレBOX

舞台にはぴんと張った白いクロスがかかったテーブル、
赤いバラの細い花瓶が中央に置かれている。

明転すると、上手の隅にひとりの老人が立っている。
長いためらいの後、ようやく声をかけようと前へ歩を進める。
彼は奥へ通されるが「帰りは裏から出るように」と言われる。

実業家ベルレが仕切る町の、ここは彼の屋敷だ。
冒頭のみじめなエクダル老人はかつて彼と共に事業に携わっていたが
ある事件の責任を押し付けられて転落。
ベルレは罪滅ぼしのつもりか、エクダル老人に毎月“仕事”を渡している。

ベルレの息子グレーゲルスは、そんな父親を嫌悪し、激しく罵る。
自分の幼馴染でもある、エクダル老人の息子ヤルマールは
ベルレのかつての愛人ギーナを当てがわれて結婚、何も知らずに娘を育てている。
グレーゲルスは、すべての秘密を白日の下に晒して出直すのが正義だと主張、
ヤルマールにギーナの秘密を告げ、真実を知ってからが本当の夫婦だと言うが・・・。

「正義」を振りかざして余計なことをする青二才…、と思っていたら
言われた方のヤルマールも“愛と憎しみは紙一重”みたいに
罪の無い14歳の娘を拒否し、ひどいことを言って深く傷つけてしまう。
そして娘は「一番大事なものを手放すことがお父さんへの愛情の証」という
グレーゲルスのまたまた理想論に影響されて、
大事にしていた野鴨を殺すことを決意するのだ。

救いの無い展開ながら、欠点の多い人々が人間臭くリアル。
力のあるものがゴリ押しをして、弱者はそれを受け容れるしかないという構図は
いつの時代も変わらず普遍的なテーマだ。

撃ち損ねたために湖の底から犬に拾われ飼い慣らされた野生の野鴨は、
現実を受け入れた少女そのもの。
自らの胸を打ち抜いて野生に還る。
母ギーナのようにしなやかに生きるには14歳は若すぎるのだ。

終わってみれば、実業家ベルレと、その再婚相手セルビー夫人の
互いのことをすべて打ち明け合った上での結婚こそが
皮肉にも“正義の息子”グレーゲルスの理想形だ。

ベルレ(松本光生)とセルビー夫人(和田真季乃)が俗物的なのに大変魅力的。
14歳のヘドビックを演じた葵乃まみさんがドハマリで年齢の無理感ゼロ。
ベルレに影のように付き従う使用人ペテルセン役の井手麻渡さん、
極端に台詞の少ない役ながら、その微妙な表情や間で何と豊かに語ることか。
飲んだくれのレリング医師を女性にしたところは少し驚いたが、考えてみれば
別に男性医師である必要はない。
熱血漢らしい台詞に説得力があった。

ラスト崩壊した家族の跡に座るベルレにペテルセンが告げる。
「(グレーゲルスは)これからも理想を追求していくそうですよ」
ったく懲りない奴だ。
欠点ありまくりの人々がくり広げる劇的なドラマはイプセンの独壇場。
私の人生もまた俯瞰して見れば、こんな風に愚かしく可笑しなものなのだろう。



酔鯨云々

酔鯨云々

文化庁・日本劇団協議会

ザ・ポケット(東京都)

2020/02/12 (水) ~ 2020/02/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/02/13 (木) 19:00

2018年「日本の劇」戯曲賞最優秀賞受賞作品。
重いテーマを個人の感情に引き寄せるのは
勢いのある高知弁と畳みかけるような台詞。
ところどころにクスリとさせるユーモアを差し込みつつ
自分はどちら側につくだろうと考えさせる。
キャラと言葉は生き物であり、どちらも土地に根差している。
それを強烈に印象付けて素晴らしい。
中屋敷さんの演出がまた秀逸。

ネタバレBOX

舞台中央に旭日旗の柄、真っ赤な上下の若い男が登場する。
この赤い男は、人々が集まる料亭の座敷の中央に陣取り
膝を抱えて話を聴いていたかと思えば
人の話に合わせて口パクで台詞をなぞったりする。
他の出演者からは見えない体の、不思議な存在。

死刑制度が廃止されて8年、犯罪被害者や遺族の会、そして世論の中から
「死刑が無いなら自分が犯罪者となって復讐する」
という声が上がり、ついに“仇討ち”の復活を望むようになる。
出来た法律が「生命再興法」という合法的仇討ち。

高知県で起きた無差別殺人事件の遺族が料亭に集まり、
仇討ちに誰が志願するかを相談する。
反対する者と激しいやり取りが続く中、まだ来ない一人に
志願させようと画策が始まる・・・。

受刑者と遺族は、白装束に着替え帯刀して向き合う、という
何とも古風な方法が可笑しい。
おまけに仇討ち志願者はクーポン券がもらえる、とか言うので
結構、国が考えそうなことだと笑ってしまった。

高知弁にはストレートな物言いが良く似合う。
本音以外口にするものか、という力を感じる。
キャラも強いし口調も強い。
役者さんは疲れるだろうな。

ラストの“天皇降臨”には思わずポカ~ンだったが
考えてみれば仇討ちといい、志願の押し付け合いといい
極めて日本的感情のような気がする。
そういうことは国が法の下でやればいいのに、
的なところも含め。
天皇の登場はその象徴のようなものか。

亡くなった方のプロフィールを丁寧に拾う
新聞の社会面が示すように
日本は死に対してとてもウエットだ。
義理人情や自己犠牲、そして究極は“お国のために散る”・・・。
そう考えるとあのラストシーンは
そんな日本人を揶揄しているように見えて来る。

中屋敷さんの演出がとても面白かった。
赤い男が、見えない存在としてずっとあの輪の中に居る。
加害者であり、被害者であり、日本人であった。






ゴールドマックス、ハカナ町

ゴールドマックス、ハカナ町

桃尻犬

OFF OFFシアター(東京都)

2020/02/05 (水) ~ 2020/02/11 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/02/07 (金) 19:30

テンポの良さが身上の掛け合いが素晴らしく
怒涛の台詞に惹き込まれていく。
中でも堀靖明さんの“ピュアで思い込みの強い”キャラが
存分に活かされていてとても良かった。

ラストがハカナ過ぎて思い出しても哀しい。
人の幸せってなんだろう?

ネタバレBOX

親に捨てられてから、年の離れた妹を一人で育てて来た兄・中條はじめ。
彼の人生はすべて“妹・小春のため”にある。
パチンコ屋しかないこの町で仕事をするため、
そのパチンコ屋に就職し、恋人もなく、妹の心配ばかりしている。

その小春は高校卒業を前に、兄から自立したいし、
自分のためにだけ生きているような兄がやや疎ましい。
自分の幸せを見つけて、と言っては兄妹喧嘩になる今日この頃。

職場の仲間も妹も、みんなで兄に恋人を当てがおうとする。
そしてはじめに一方的に告白し、同じパチンコ屋で働き始めた女、
るり子に白羽の矢が当たる。
やがて妹は家を出て結婚、兄はるり子と暮らし始める。
すべて上手くいったと思われた時、
驚愕のラストシーンが待っていた・・・。

まず役者陣の振り切れ方が素晴らしい。
怒涛の台詞をよどみなく繰り出し、価値観を激しくぶつけ合う。
堀靖明さんの、あの台詞回しが大好きだ。
”ヘンなキャラ”が”極端なピュア”になってしまう。
だから憎めないし、むしろ次第に共感していく。
その妹(神崎れな)も、兄の理屈に負けていない。
最後は自分の思うように家を出て結婚したのだから大したものだ。
パチンコ屋の常連で小学校の先生(徳橋みのり)もぶっ飛んでいて素敵だ。

そして登場からして異様な女・るり子(青山祥子)、彼女はサイコパスか?
中盤では、愛情のなせる業みたいに思ったりもしたが
あれはやっぱりサイコじゃないか。

結局はじめの幸せって何だったのだろう?
妹のために生きていた方が幸せだったんじゃないか?
あの結末、あれでははじめが可哀想過ぎる。
皆の意見に従って生き方を変えたら、あんなことになっちゃった。

あのハカナ町という名前は、彼のためにあるような気がする。
誰かのために生きたってきっといいのだ。
依存していても幸せならきっといいのだ。

真ん中辺のクイズ、あれは何だったのだろう?
あの演出の意図が良く解らなかったが、
はじめの価値観がひっくり返るには、一度死ななきゃならなかったのだろう。
それほどの価値観の強さが、堀さんの台詞にはあった。
だからハカナ町の哀しさが際立つのだ。









デッドストック・トーキョー

デッドストック・トーキョー

キコ qui-co.

駅前劇場(東京都)

2020/01/23 (木) ~ 2020/01/26 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/01/25 (土) 19:30

和服の着こなしも粋な和尚、じゃなくて噺家が狂言回しとして登場。
4つのストーリーをつなぐキーワードは“記憶媒体くしび”。
極めて現代的なそれは、意外な物質だった・・・。
SFと江戸噺の融合という着眼点が新鮮。
そこを貫く“記憶媒体”の生々しさが強烈な印象を残す。

ネタバレBOX

第一話「その夜の妻」
夜野(森田陽祐)は車いすの妻(外村道子)と廃ビルで暮らしている。
道子は、彼が密かに研究を重ねて創り出した違法なAIだった。
だがまもなく、特定の製造年月日以前のヒューマノイドは
寿命を終える日が来る。
世間はアップデートに躍起になっている。
そしてこの夫婦にもその日がやって来る。
寿命を終えて動かなくなったのは・・・夫の夜野の方だった。
夜野の意思は、道子の意思を反映したものに過ぎなかったのだ。

人は「言って欲しい言葉を相手に望む」ことがある。
望んだ言葉を言ってくれると幸せを感じる。
だがAIにそれを言わせることは、本当の幸せなのか?
動かなくなった夫の姿が衝撃的で、妻の孤独が深まる。

第二話「デッドストック・スタージョン」
姿かたちは十分大人だが、知性は15歳のクローンたち。
新しく赴任して来た女性教師が、「クローンに教えることなど無い」と
上司から言われながらも彼らと交流し、助けたいと奔走する。
クローンたちの多くは作家の名前をコードネームとして名乗るが
“お七”は、あの八百屋お七を思わせる設定だ。
火事の避難所で出会った男に、もう一度会いたくて、
江戸の町に放火し、火あぶりの刑に処せられた女。
お七の生きざまにどうしようもなく惹かれるクローン。
ラストで明かされる、彼らの身体がほとんど水でできており
東京の水不足を補うためにストックされているという設定が秀逸。
ちょっとカズオ・イシグロ的なところもあるが斬新な発想がとても魅力的だ。
スタージョン(北川義彦)の15歳の若者らしい初々しさが良かった。

第三話「東京物語」
運び屋の原嶋(音野暁)は、「くしび」という怪しげな物を運ぶ依頼を受ける。
依頼主のシングルマザーに惚れてしまった彼は次第に彼女と親しくなっていく。
その依頼主チロの住む近隣では、連続殺人事件が起こっている。
チロを取り巻く人々、元亭主・その新しい女・迷惑な姉など、
チロにとって消えて欲しい人間は複数いる。
そしてついに原嶋が、チロの正体に気付く日が来る。

第四話「twilight valkyries」
当日パンフにも“シークレット”とされていたが、
八百屋お七(小口ふみか)が江戸の大火を引き起こす様を描く。
二役からお七に替わっていくあたり、役者さんの力を感じた。
ストーリーテラーの小栗剛さんもそうだが
着物の着付けがきれいで、こなれた感じが良かった。

「くしび」とは何か・・・?
霊的な、不思議な物とされるようだが、人の血に乗って
時代を流れ災いをもたらす、何かコントロールし難い狂気のようなものか?
お七を狂わせ、チロを狂わせ、連綿と続いて行く不思議な力。
どんなに科学が進んでも、解明し難いことが起こり、
人はそれに翻弄され、時に人生を狂わされるという事か。








鶴かもしれない2020

鶴かもしれない2020

EPOCH MAN〈エポックマン〉

駅前劇場(東京都)

2020/01/09 (木) ~ 2020/01/13 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/01/12 (日) 14:00

2014年にも観た作品だが、その進化のエネルギーに圧倒された。
創意工夫と緻密な構成、そしてラジカセとの完璧な掛け合い。
後半の一人二役の切り替えも見事だった。

ネタバレBOX

凹凸のあるメタリックな壁、椅子がひとつだけの舞台。
路上で泣いていた女にティッシュを差し出した男の家に
女はお礼に「何でもします」と訪ねていく。

キッチンで料理を作るシーンの軽快な動き、
壁だと思っていたら次々と出て来る仕掛け。
劇場の個性と見せ方の工夫で芝居が何倍も楽しくなる。

「つるのおんがえし」の朗読が流れ、それに沿って物語は進む。
昔話の鶴は自分の羽を抜いて布を織ったが、
現代の鶴は自分の身体を売って金を稼ぐ。

女は男の夢を叶えたいと思ったのだが、他の方法を知らない。
全てを知った男が去ったあと女はひとりつぶやく。
「あたしの足を引っ張るのはいつもあたし」(という意味だったと思う)
どんなにもがいても、元の場所に戻ってしまう自分を自虐的に見ている。

終盤、全身全霊で機を織る姿に思わず涙がこぼれた。
この必死な姿を描くために、物語はあったのかと思うシーンだった。

あらかじめ録音しておいた音源に合わせて台詞を言うのは
その容赦ない進行という点で、心理的に緊張を強いられると思うが
それを全く感じさせず、まるで小沢さんがリードしているかのよう。

自分でハードルを上げつつ毎回乗り越える。
2020のエポックマンに幸あれ!

五稜郭残党伝

五稜郭残党伝

温泉ドラゴン

サンモールスタジオ(東京都)

2019/12/11 (水) ~ 2019/12/19 (木)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/12/15 (日) 13:00

スピーディーな場転でテンポよく進み、歴史と仕組みを上手く説明してくれる。
主人公と一緒にそれを理解することで、彼の“逃げる目的”の変化に気づく。
逃げる側のキャラが最高に魅力的で、一緒に逃げているような一体感の中で観た。
追う側の人物像も立体的なのでストーリーの厚みが増す。
この国はいつもこうして失敗してきたのだ。
“ざんねんな”国の理不尽さに血が煮えたぎった2時間5分。

ネタバレBOX

戊辰戦争の終末期、「箱館戦争」の後日談だとういうこの作品は、
降伏が決まった直後に五稜郭から逃げた“脱藩者”二人の逃走劇である。
冒頭、二人が脱藩を決意して一緒に逃げようと決めるまでが簡潔で見事。
一気に惹き込まれて、後は行く先々で助け助けられ、いくつもの出会いに
観る側も転がるように巻き込まれていく。

二人が出会うのは皆「生きる場所が無い」隠れるように暮らす人々だ。
生きる場所を失った者同士、共感して行動を共にし、命を懸ける。
アイヌの人々、隠れキリシタン、混血・・・、皆繋がり、信頼し、危険を冒す。
次々と命を落としていく人々の無念を思い、脱藩はやがて新しい夢へと方向を変える。

一方追う側は「生きる場所」こそあるものの、それにしがみつき、もがいている。
「その先に何があるんでしょうね」という荒巻(佐藤銀平)の台詞に象徴される、
目的を見い出せないまま走り続ける疲労感がひしひしと伝わって来る。
目的の無さを振り払うように、がむしゃらに追い続ける彼らもまた痛々しい。

追いつめられながらも前向きで、強く真っ直ぐな蘓武源次郎(いわいのふ健)が素晴らしい。
次第に夢のような構想をいだき、しかし現実には遺書を残す冴えた頭脳を持つ男。
蘓武を信じて共に脱藩する銃の名手・名木野勇作(五十嵐明)、
二人と行動を共にするアイヌのシルンケ(筑波竜一)、
彼らを狂ったように追い続ける隅蔵兵馬(阪本篤)のキャラが秀逸。

「お前は逃げろ、クナシリで会おう」と言われながら、
やはり戻って源次郎の最期を見届けるヤエコエリカ(サヘル・ローズ)が
ラストシーンに相応しい力強さを見せて思わず涙があふれた。
源次郎の遺書を見つけ大音声で読み上げる。
この無念と希望こそが、作品を貫く大動脈であると思う。

こんなに悲劇的な結末を、終わってみれば“冒険活劇”に仕立てたのは
原作者・佐々木譲氏と脚本・演出のシライケイタ氏の力に他ならない。
まさに、“創り手の矜持”だと感じた。



死に際を見極めろ!Final

死に際を見極めろ!Final

ライオン・パーマ

駅前劇場(東京都)

2019/12/11 (水) ~ 2019/12/15 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/12/13 (金) 14:00

finalと銘打っているだけあって、昭和の刑事もの”全部のっけ”みたいなてんこもりストーリー。滑舌の悪さも噛み、いや神対応で乗り切る百獣の王の力技は健在。ボスの声、素敵。と〇やの羊羹と「曲選べるのか?」に笑った。

ネタバレBOX

最高の殉職シーンを求めてさすらう刑事スリム(石毛セブン)が巻き込まれる
ひたすら荒唐無稽な世界観を描く。
そこには台本はあって無きが如し。

久しぶりに観た“石毛”が相変わらずトレンチコートが似合う
イケメンで嬉しかった。

ボス(岩田智世)の声、艶やかな低音が素敵で、場が締まる。
昭和のTVドラマを体現する個性が素晴らしい。
この方の他の芝居も観てみたいと思った。

イザベル(山根愛未)も往年の大女優を彷彿とさせる存在感で
荒唐無稽なストーリーに重みが出る。

母(瀧澤千恵)が巧くて北海道シーンが面白かった。
明るいニート(草野智之)のキャラが良かったなあ。

とらやの羊羹の使い方が(使いまわしも含め)秀逸。
宇宙に支店が出来たというのも笑える。
あの紙袋は、まさに昭和のブランド感を醸し出している。

小ネタでつないで広げていくにはちょっと長いかな。
2時間ドラマくらいの長さが昭和的だと思う。

殉職シーンを追及するなら、スリム自ら爆弾を持って
宇宙とかに行ってほしかった気もするけど。
でも、ラストシーンが決まって良かったね、スリム!


酔いどれシューベルト

酔いどれシューベルト

劇団東京イボンヌ

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2019/11/27 (水) ~ 2019/12/01 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/11/28 (木) 14:00

悪魔と天使というメンタルの葛藤と、リアルな経済事情とのバランスが面白かった。後半の緊張感溢れる展開の方が作者の本領発揮、という気がする。悪魔が大変魅力的で、シューベルトならずとも誘惑に負けるだろうと思わせる。生歌・生演奏でなくても、テーマは十分伝わると感じた。

ネタバレBOX

31年の人生で600曲の歌曲を作ったシューベルトの苦悩・・・。
舞台は場末の酒場。
酒樽のテーブルが2つ、その傍に椅子が2つずつ、カウンターと酒瓶の棚。
曲が作れなくて酒浸りのシューベルト、
それを見守る幼馴染のクラウディアは、病気の父親と弟妹の為
成金のバロンと結婚することを決意する。
曲も作れず、クラウディアも失い、失意のシューベルトは
ついに悪魔と取引をする。
その内容は、必ず売れる曲1曲と、寿命1か月を交換するというものだった・・・。

物語は、美しいラストシーンに向かって後半に集約される。
シューベルトは、悪魔との取引によって得た成功の後、
真の苦悩に苛まれることになる。
自分の才能ではなく、悪魔の作った曲で成功したことが
彼を絶望へと追い立てる。
加えて悪魔から、残りあと1か月の命と告げられて
取り返しのつかない過ちを悔いる。

シューベルトが息を引き取る前、クラウディアが彼に告げる言葉が
物語の全てを語っている。
「悪魔も天使も、あなたの心の中にいる。
だから作品はすべてあなたが作ったものだ」
人生の最期に、彼を救う言葉だ。
この美しいラストシーンに向かって転がる後半に
クラシック音楽と演劇の融合を感じた。
作者の持ち味も、後半は自然に出ていると思う。

キャラクターの中では悪魔(米倉啓)が出色。
魅力的で、これなら誰もが誘惑に負けるだろうと思わせる。
力のある役者さんがキャラにハマって素晴らしい。

劇中、もっとたくさんシューベルトの作品が流れても良いと思った。

「隣の家-THE NEIGHBOURS」 「屠殺人 ブッチャー」

「隣の家-THE NEIGHBOURS」 「屠殺人 ブッチャー」

名取事務所

「劇」小劇場(東京都)

2019/10/17 (木) ~ 2019/10/29 (火)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/10/21 (月) 14:00

「屠殺人ブッチャー」を観劇。
謎めいたオープニングから怒涛の展開、あっと驚くラストまで一気に見せる。
多民族・多様性社会のカナダから発信する、凄惨な民族紛争の実態が衝撃的。
生ぬるい日本に居ると遠い出来事かもしれないが、その普遍性は今とてもリアルだ。
役者陣には過酷な設定だが、それをモノともしない力量を見せつけて素晴らしい。
それにしてもあまりに鮮やかな騙し方で、騙されたこちらはむしろ爽快。
この作家、一体何者なのか?


ネタバレBOX

いかにも警察署らしい無機質でそっけない空間。
警部がひとりと、椅子に座ったきり動かない軍服の老人。
そんなシーンから始まる。

警察署の前に置き去りにされたというこの老人は
一枚の名刺を持っていた。
その名刺の主である若い弁護士が呼ばれ、怪訝な面持ちで署にやって来る。
老人は時折、聞いたことの無い言語を発するほかは反応がない。
通訳として呼ばれた女が到着し、老人の身元調査が始まる・・・。

拷問の跡、古い軍服、25年前の激しい民族紛争、
そしてインターポールから追われる戦争犯罪人・・・と小出しにされる情報。
やがて老人の過去が暴かれ、復讐が始まる。
いや、実はとっくに始まっていたのだが。

ラストのどんでん返しが鮮やかで、これまでの話がひっくり返ってしまう。
巧みに張られた伏線は想像を軽々と超えて回収されていく。
重い主題でありながら、演劇の楽しみを見せつけてくれる。

役者陣が皆素晴らしく、特に渋谷はるかさんの迫力には圧倒された。
ここまでしないと気が済まない怒りが、隙なく漲っている。

2年前の再演だそうで、以下アフタートークからの情報。
作家が2人の言語学者と共に創り出したという架空の言語に説得力がある。
台本に英語の発音記号がついているというこの創作言語は、一切アドリブなし。
役者陣を悩ませたに違いないが、ナチスを思わせる、
特定の民族を粛清しようとする独裁政治がとてもリアルに立ち上がる。
再演のたびに、世界のどこかで起こっている事実と重なって
その普遍性が際立つだろう。

2年前の小笠原氏の演出と、ラストを変えてみたと言う扇田氏。
私には今回の方が、復讐の鬼の“赦さない自分”の虚ろが見えて
深い余韻を残したように思えた。






この道はいつか来た道

この道はいつか来た道

舞台芸術学院

駅前劇場(東京都)

2019/10/11 (金) ~ 2019/10/19 (土)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/10/13 (日) 15:00

これはひとつのラブ・ストーリーではないか。
優しく切なくて、焦がれるような、諦めきった、奇妙な愛の物語。
平岩紙さんのやわらかな声が、儚い夢と現実の間を行き来する。
金内喜久雄さんはかき混ぜながら、それをゆったり包み込んでいる。
ラブ・ストーリーは、リアルな現実を突きつけて突然終わりを告げる。

ネタバレBOX

舞台中央に電信柱、足元には汚れた青いポリバケツ。
「この道は いつか来た道・・・♪」という歌声が聴こえて来る。
登場した女はポリバケツに場所を譲ってもらって、そこへ段ボールを敷く。
続いて登場する男と一緒にお茶の時間を過ごすうちに
男は「結婚しよう」と言い出す・・・。

やがて2人がホームレスであること、
実は旧知の仲であること、
7年前にホスピスから逃げ出してきたこと・・・が判明する。

この“偶然知り合ってお茶を飲むうちに結婚を申し込まれる”という
ストーリーを、2人はもう何度も繰り返している。
恋愛において最もエキサイティング且つロマンチックな最初の1日。
幸福と可能性に溢れていたあの1日を、リピートし続ける。

ホスピスで死を待つより、「いつか来た道」を何度も辿るという選択。
父も母も、ホスピスで先に逝った夫も通った道を、自分も通るのだという諦念。
そこにあるのは「死に方」にこだわった結果「生き方」にこだわる姿だ。
ホスピスで得られるはずの“穏やかな死”を手放し、
ホームレスになってまで手にしたかったもの、
それこそがたぶん彼らの生きる意味だ。

彼女の浮世離れした上品で丁寧な物言いの反面、決定権を握っているらしい頑固さ。
それを全て受け容れて、彼女の望みを叶えてやろうとする男の包容力。
それぞれのキャラにぴったりはまった二人の役者さんが素晴らしい。
だから、ラストシーンが一層満ち足りたものに見えるのだろう。





国粋主義者のための戦争寓話

国粋主義者のための戦争寓話

ハツビロコウ

小劇場 楽園(東京都)

2019/09/24 (火) ~ 2019/09/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/09/27 (金) 19:00

“人は信じるもののために人を殺す” だが
“信じるものを持たずに人を殺した“者は究極まで追いつめられる。
この兄弟を見ていると、信じる力と心の強さを思わずにいられない。
重苦しいが、緊張感の途切れない展開が素晴らしい。
良い意味で、役者陣の熱さにひきずられ、翻弄される2時間。


ネタバレBOX

地下の劇場に入ると、セミ時雨と強い藁の匂いにむせ返りそうになる。
まるで東南アジアの密林にある小屋の中のようだ。
藁に覆われた床と一段高くなった寝台のようなスペース、粗末な木の台。
破れてボロボロになった日の丸。

冒頭、自分の腕にヒロポンを打つ少尉。
自分ではなく、兄の方ばかり慕う白痴の妹を卑劣な手段で傷つけたあげく
自殺に追いやったことを、事あるごとに思い出している。
自分の犯した幼く無自覚な殺人から逃れるために、軍隊に入り特攻を志願した。
地上ではなく空に憧れて、だがいまだに飛べないまま、死ねないまま・・・。
彼はまるでセミのように土の上をのたうち回っている。

ヒロシマに原爆が落ちたあと、“木製のロケットで敵機を撃墜する”という
冗談みたいな極秘計画に身を投じるのも、死に時を逸することを恐れたからか。
優秀な大尉である兄が、その計画のリーダーであり、弟の自分を呼んでいると聞き、
命令に従い、わずかな部下を連れて山奥の村へ赴く少尉。
だがそこに先遣隊30名の姿はなく、小屋は荒れ果てていた・・・。

“死にたい男”は理由を求め、日本人として天皇のために闘って散りたい。
平家の落人は“山に住む人食い大蛇”を怖れて近づかずに暮らす。
縄文人の住居跡を発掘した兄、大尉はユートピアを求めてつり橋を渡る。
部下たちはこの中の誰かを信じて、その敵を撃たなければならない。
三すくみのように互いに銃口を向け合った結果、生き残ったのはタイラ村の女二人。
さて、信じるものによって救われたのは誰だったのか?

兄の狂信的な“日本人論”とユートピア構想に、
映画「地獄の黙示録」のカーツ大佐を思い出した。
何かを信じることは狂気の始まりなのかもしれない。
信じなければ人を殺すことなどできないのだろう。

戦争をしたがる人々はいつも信じている。
〇〇のために、闘おう! と。
だが〇〇は、闘うに値するものなのか?
この先何かを信じるためには、まず疑ってかかれ。
そう思わずにいられない作品だった。


誰そ彼

誰そ彼

浮世企画

駅前劇場(東京都)

2019/09/19 (木) ~ 2019/09/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/09/19 (木) 19:30

「人は見たいものしか見ない」と言うが「見ようとすれば見える」ということを教えてくれる作品。
ユルいファンタジーかと思いきや、意外にずしんと来るのは
あるある感満載の設定とトコトンリアルな台詞の応酬。
特に兄と弟のそれはハラハラするほど緊迫感がある。
弟がこの先背負っていくものを思うと、その重さに押しつぶされそうになる。
そう思わせるラストを含め、ストーリー展開が秀逸。
キャスティングがうまくハマった役者陣も素晴らしい。

ネタバレBOX

客入れの間、ドリフの“ババンババンバンバン♪”など
昭和の流行歌っぽい曲が流れている。
舞台を大きな白い幕が覆っていて、そこに導入部分のあらすじが書かれている。

久しく実家に寄り付かなかった長男(松本亮)が取り壊しの決まっている実家へ入ると、
そこには5人の妖怪・怨霊(?)たちが肩を寄せ合って暮らしていた・・・。
他に居場所のない妖怪たちは、長男に取り壊しを思いとどまるよう懇願する。
だが、長男が遠ざかっている間に、実家の父はボケて交通事故を起こし入院、
全ての後始末をこなした弟(田中博士)は自分のやり方に異を唱える兄に
「全部押し付けておいて今さら口出しするな」と激しく非難する・・・。

世間的に出来の悪い長男と、優秀で要領の良い次男の対比が鮮やか。
会社を興して一応成功しているらしい次男の、超上から目線が兄を圧倒し続ける。
その次男にくっついてるヨメが似た者夫婦なら良くある話だが
ここではそのヨメが、次第に妖怪たちが見えるようになっていくところが面白い。

この橋渡しがよく効いていて、少しずつ弟の心情が明らかになる。
「見たい父親でなくなったことを認めたくない」切なさ。
妖怪たちが見えない弟はヨメからも非難され、孤立していくが
最後にこの弟を庇って消えていくのはやはり兄だったのだ・・・。

妖怪たちのキャラも魅力的で楽しい。
じいやん(本井博之)のダンディぶりはとても素敵だし、
この家の歴史をすべて見て来た時計の付喪神(成瀬志帆)も凛々しい。
ぎたろー演じる妖怪オーギソヨソヨ(って何なのよ?と思って調べましたよ)が圧巻。
この飛び道具的な妖怪が全てをひっくり返して去っていく。

この、私には想定外のラストが余韻を残して素晴らしい。
自分と妻以外の、他の人からは兄の存在が消去されてしまったという衝撃。
弟はこの先兄をどう記憶にとどめていくのか、父親とどう向き合っていくのか、
妻とどう生きていくのか。
「オヤジの見舞いに行かなくちゃ」という台詞に明るさを予感させる。

あー、でもなー、兄の心情は報われなかった気がするし、
そりゃ弟の記憶の中に生きてはいるけど
オーギソヨソヨってアンタ、何てことしてくれたのよー!
と心が乱れたまま劇場を後にしたのだった。
面白かった。



さなぎの教室

さなぎの教室

オフィスコットーネ

駅前劇場(東京都)

2019/08/29 (木) ~ 2019/09/09 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/09/01 (日) 14:00

“君臨するピンクのスキップ”
2002年、当時世間を騒がせた看護師による保険金殺人事件がベース。
主犯格ヨシダの強力なリーダーシップ、というか押しの強さが
事件を牽引していく。
女装の松本哲也さんに違和感はなく、むしろヨシダの暴力的なまでの
“支配欲”が醸し出す男性性(?)にピタリとはまった感じ。

ネタバレBOX

舞台を挟んで対面式の客席、白いボックス型の椅子だけが数個置かれている。
片側に、舞台をハケた役者が座るスペースが薄い布で仕切られている。

看護学校で共に実習に励んだ4人の仲間。
彼女らの夫は順番に死んで、妻が保険金を受け取っていく。
やがてメンバーの一人の母親にまで凶行が及んだ時、
ついに事件は白日の下に晒される・・・。

物語は、ヨシダの強烈なキャラによってブルドーザーの如く展開する。
貧乏な育ちを嫌悪し、それを金持ちになる権利へとすり替えるヨシダ。
看護学校の仲間が夫に不満を抱いていることに目をつけ、
良き理解者を装って言葉巧みに復讐を正当化し、4人で実行していく。
そして多額の保険金を手に入れる。
医療の知識を駆使した方法で次々と成功を収め、
ヨシダは高級マンションの最上階に住み、他の者は下の階に住むようになる。

貧乏に対する嫌悪感や、金への執着、家族を道具のように扱うことなど
ヨシダの自己の欲望を最優先するその価値観は、強烈でエグいほどだ。
松本哲也さんのハマりっぷりもあって、その存在感があまりに強く
他の3人がかすんでしまうのが難と言えば難だろうか。

圧巻は後半、イシイの母親を襲う手順を確認するシミュレーション場面。
鋭く指示を出す(命令する)ヨシダの声が緊張感を増幅させ
女たちは煽られて本番さながらの攻防を繰り広げる。
“練習”のはずのシーンが、事件の“再現”シーンになる巧さ。

また4人の逮捕後、別居中だったヨシダの夫(朝倉伸二)が裁判で証言したり
マスコミらしき人々の質問の答えるかたちで語る、
あの演出はとても効いていたと思う。

犯罪もののキモである“動機”がヨシダのそれに集中し
ほかの3人のそれが弱くなってしまったことが
この事件のいびつさかもしれないが、若干の消化不良を覚えた。



アイランド

アイランド

イマシバシノアヤウサ

OFF OFFシアター(東京都)

2019/08/01 (木) ~ 2019/08/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/08/25 (日) 18:00

プレビューも含めると26公演の長丁場も残り3ステージとなった日、
疲れを知らぬ鍛えられた声から、切なる咆哮が監獄島に響き渡った。
凄まじいばかりの自由への渇望が、客席の自由ボケした私に降りかかる。
アパルトヘイト下にあるアフリカで「アンチゴネ」を上演する意義、
それも監獄にいる者が演じる意義の重さがビシビシ伝わって来る。
人間のアヤウサを見せつける芝居に圧倒された1時間15分。

ネタバレBOX

客入れの時から、街角の雑踏のような音が流れている。
後から思えば、これは囚人たちが焦がれて止まない“自由な空気”が奏でる音だ。
舞台中央、一段高く粗末な木製の寝台らしいスペースがある。
舞台の周囲を一面に囲むのは銀色のシート。
奥の方から風を吹き込んでいるのか、ふわりと持ち上がるとシャリシャリ音がする。
それは彼らの過酷な労働の現場である、灼熱の砂浜の音だった・・・。

1991年まで続いた南アフリカのアパルトヘイト。
身分証明書の携帯に反発してそれを燃やしたウィンストン(石橋徹郎)は
終身刑を言い渡され、この監獄島に収監されている。
囚人を精神的に追い詰める単純な苦役を強いられる日々、
救いは同室のジョン(浅野雅博)とのたわいない会話。
ところがある日、ジョンの刑期が短縮され、あと3か月で出られることになる。
弁護士の嘆願書が功を奏したのだという。
興奮して眠れないジョン、激しい葛藤に悩まされるウィンストン。
やがて刑務所内の演芸会で、二人は芝居をすることになる。
「法」と「生きる意味」をかけて渾身の「アンチゴネ」が幕を開ける・・・。

理不尽な制度に立ち向かう怒りと無力感。
行き場を失くした怒涛の感情がほとばしる「アンチゴネ」だった。
ウィンストンが最初に衣装を着けた時、ゴツイ男のアンチゴネ姿に
私も思わず笑ってしまった。
だが演芸会本番の時は、もう笑うどころではなかった。
人間の尊厳を踏みにじる「法」を敢えて破り、
「私は有罪だ」と胸を張るアンチゴネは、もはやギリシア神話の高貴な娘ではない。
肌の色で人間を差別する、いや世界の全ての差別に対するアフリカの問いかけだ。
「法」とは何か?
「生きる」とは何か?
「芝居」とは何か?
「絶望」とは何か・・・?

ラスト、二人が足枷で繋がれながら走るシーンが、
こんなものに潰されてなるものかという、
人間の誇りを象徴しているように見えた。


夢ぞろぞろ

夢ぞろぞろ

EPOCH MAN〈エポックマン〉

シアター711(東京都)

2019/08/07 (水) ~ 2019/08/12 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/08/08 (木) 19:30

なんという二人芝居!この舞台美術、繊細さと大胆さ、沈黙と歌、緩急のタイミング、
全てが素晴らしく、熱くて温かい。
田中穂先さんとの掛け合いも見事の一言に尽きる。
アイデアてんこ盛りの舞台に、才能とチャレンジ精神が詰まっている。
ひとり芝居の時よりも“受けの芝居”が出来る分、世界観の広がりを感じる。
秀逸な舞台装置に一瞬ドリフの舞台を思い出したが、大いに笑ってしんみりして
ラスト、この泣かせ方はずるい!
それと小沢さん、足きれいすぎです。

ネタバレBOX

会場に入ると舞台上手寄りに四角いキューブ状のセット。
駅の売店の面がこちらを向いていて、たくさんの商品が並んでいる。
上の方に書かれた「KIOKS」のつづりが笑わせる。
90度回ると隣の面は駅のベンチ。
その隣は中学校の校舎で、窓が空いている。
そしてもうひとつの面は、売店のおばちゃんが出入りするドアだ。
この四角いキューブがぐるぐる回って場転するのが秀逸。
人力で回るのを観ると、何だか昔のドリフの舞台を思い出して楽しくなる。

会社に行こうとは思うのだけれど電車に乗れなくて
いつまでもホームにいる男(田中穂先)と
売店で働くおばちゃん(小沢道成)の二人芝居。

何を聞かれても答えるおばちゃんと、聞かれたくないことだらけの男。
中学の時の初恋の思い出に男を巻き込んで盛り上がるおばちゃん。
ふらふらと電車に近づく男の手をしっかり握って我に返らせるおばちゃん。

会社の期待に応えられないのではないか、と不安になったら
応えられない自分の未来に絶望して、自分の存在すら危うくなっている男に
「私には私のことしかわからないから、私のことを話すわね」と言って
初恋の彼は目の前で電車の事故により死んでしまった、それがこの駅・・・
と語るおばちゃん。
その時の自分の行動から「人は自分のことしか考えないもの」と言うおばちゃん。
笑い満載の物語の中で、衝撃的で痛くて切なくて一番哀しい場面だ。
周囲の評価の中で生きて来た男は
「明日も乗れないと思うけれど、ここまでは来られる」と言って帰る。

痛みを知る人による“人生の応援歌”というドストレートなメッセージが
潔いほど真ん中に来る。
客入れの時点から昭和のアイドル歌謡曲が次々と流れてレトロな雰囲気だったが
(また私全部歌えるんだな、これが・・・)
おばちゃんの育った時代、今よりずっと人間関係が濃密だった時代を良く表している。

田中穂先さん、初恋の相手を演じる時のパワー全開な熱演と
電池切れのようなサラリーマンとの落差が、振れ幅大きくて素晴らしい。
ふたりのデュエット、最高!

小澤さん、いつもびっくりさせてくれる舞台に期待大だったが
設定からしてやられた感じ、面白すぎだわ。
それなのにこの涙は何だ?!
このラスト一瞬の劇的効果の大きさはどうだ?!

おばちゃんのキャラ、その過去、売店のトイレットペーパー、
テンポよく展開するストーリー、それら全てに飲み込まれる幸福。
夢って日常の中にこんなにたくさんあるんだ、見えていないだけなんだ。
そう気づかせて元気づけてくれる、アリナミンAみたいな舞台。

田中夢子、最強のKIOKSの女・・・。


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