Knight of the Peach
劇団パラノワール(旧Voyantroupe)
サンモールスタジオ(東京都)
2012/12/05 (水) ~ 2012/12/09 (日)公演終了
満足度★★★
正邪いっぺんに観たい
エロ・グロもキャラ設定も面白いが、似たようなシーンが多くてちと長い。
邪道に2時間10分費やすより、1粒で2度おいしい公演にしたら
登場人物の魅力がより伝わるような気がする。
もっとコンパクトにして正道・邪道いっぺんに観たいというのは我儘か?
ネタバレBOX
黒っぽい舞台の奥、中央のひときわ高い所は王様が座る場所だ。
左右から段差の大きい階段で上るようになっている。
鬼ヶ島に棲む王様と兄君は、供される素行の悪い女ども「桃姫」を食べて生きている。
王様は「桃」=「お尻」しか食べない。
この「人を食う」場面を中継する番組があって、世界中に愛好者がいる。
御前と呼ばれる大財閥の会長は有力スポンサーだ。
あろうことか、この御前の娘キジが生贄として島に送り込まれてきた。
この会長と娘の親子関係、桃太郎と父親の世代交代、食われる桃姫たちのプライド、
裏ビジネス・・・それらを軸にストーリーは展開する。
出演者の「桃」は確かに魅力的だし(桃太郎の桃も!)、
「桃姫」たちの衣装も、台詞を言うたびに腹筋の動きが見えて面白い。
正道バージョンと表裏一体で初めて個々のキャラが立体的に見えるのかもしれないが
邪道バージョンだけ観たのでは人物像が少し物足りない。
興味深い桃太郎の親殺しの心理や、桃太郎に食べられる事を選んだキジとの関係、
桃太郎を助ける従者サモエドの心理等を丁寧に描いたらもっとドラマチックになっただろう。
番組放送シーンや桃姫折檻シーンを減らしてもそっちが知りたかった。
ラスト30分、桃姫の一人が舌を切られる場面からメリハリがついて一気に引き込まれた。
御前役の秋山輝雄さん、でっぷりしたお腹に着物が良く似合って存在感大。
「これは筋肉だ」という台詞に大いに笑った。
キジ役の川添美和さん、よく分かる台詞でヤンキー娘らしさ全開。
父親に中指立てて桃太郎に食われるラストシーンは最高!
サモエド役の伊藤亜斗武さん、キャラを活かした変化のある台詞が良かった。
この人にもっと硬軟取り混ぜたキメの台詞を言わせて欲しかった。
桃太郎ビズラ役の平良和義さん、台詞の少ない役だったが強烈な印象を残す。
それだけに正道とセットで観て、その行動の裏を知りたくなる。
同じ人を食う鬼でありながら、父親と兄を退治するに至るプロセスが分かって初めて
エログロシーンも生きて来ると思う。
2バージョン方式は流行りかもしれないが
片方しか観ない客をどこまで満足させるかが、鍵かなと思った。
テロルとそのほか
工場の出口
アトリエ春風舎(東京都)
2012/12/01 (土) ~ 2012/12/07 (金)公演終了
満足度★★★★
他人の思考を思考する作品
プロセス共有チケットを購入して、最初の稽古見学に行ったのは11月17日だった。
稽古は合計3回見に行って、12月1日初日の舞台を観た。
俳優の提出したテーマを作・演出の詩森さんが共有して脚本を書き
稽古の過程でさらに双方向から意見をぶつけ合って変化させていく。
この「他人の思考を思考する」というプロセスで創られた作品は
初日今度は「観客が思考すること」を求めて来た。
多少なりとも思考する人間は、交差する複数の思考回路へ足を踏み入れるだいご味を味わう。
漫然と見て「何かくれ」タイプの人には向かない作品かもしれない。
ネタバレBOX
作・演出の詩森さんが好きだという、俳優や照明が映えそうな黒っぽい舞台には
公園にあるようなベンチとテーブル、椅子が全て裏返しになって置かれている。
やがて私たちが入ってきた入口のドアが少し開いて
ダークスーツの男が中を一瞥してから入って来た。
「今不安に思うことは、ターゲット以外の誰かを巻き込むかもしれないということだけだ」
舞台中央に立ち、テロリストは語り始める。
「わたくしの一生をすべて無にしてまで撃つべきものは権力である」
淡々と語るテロリストヒガキを演じる朝倉洋介さんの論理に思わず引き込まれる。
3ページに及ぶモノローグ、少し手ぶりは入るが足元は微動だにしない。
稽古でこの人のモノローグの場を見ることが出来なかったことが本当に残念だった。
完成形に至る不完全なかたちを見ておきたかったのに・・・。
稽古場で話しかけて下さったとき、
「自分が提出したテーマでも、台本になって渡されると言いにくいところもあるし、
自分の言葉だけに熱くなりすぎたりする」
と笑っていた朝倉さん。
誰よりも早く台詞が入り、他の人の台詞を受けて変化する余裕さえあった。
緊張感が途切れないのに力みのない声、直前まで普通の市民として存在した
まさにテロリストにぴったりなキャラは
ヒガキか、朝倉洋介か・・・?
このヒガキを中心に、タカハシ、コレエダ、キジマの4人が久しぶりに集まった。
共通の友人マエカワが死んだことがきっかけだった。
その死に方の異様さに、4人は衝撃を受けている。
中でも、かつてルームシェアしていて親友同士だと思っていたコレエダ(西村壮悟)は
まだこの事実を冷静に受け止め切れずにいる。
親友だと思っていた自分が、一言の相談もしてもらえなかったことに打ちのめされている。
コレエダを演じる西村壮悟さんは、クールな声とルックスで淡々と友人の死を語る。
稽古の時詩森さんから
「言えなかった、でも言いたかった、そしてもう言えなくなった言葉」を
今口にする気持ちを考えるように、というアドバイスがあった。
西村さんは涙で言葉を詰まらせ、私はそのモノローグに泣いた。
初日の舞台で、西村さんはもう泣かなかったが、私はやっぱり泣いてしまった。
キジマ(生井みづき)はそんなコレエダと別れようとしている。
コレエダも今いっぱいいっぱいだが、キジマもまた別の意味で限界だと思っている。
放射能や遺伝子組換え食品、食品添加物を浴びるように取り入れて暮らす私たち。
経済や効率、生産性を優先する世間の価値観と、
それに反発しつつも完全に排除できない自分の生活。
そういう自分を説明することを、もう止めたいと思う。
そしていつか説明しなくても共有できる人と共に過ごしたいと思うのだ。
超マイペで自分の関心事を常に優先したいキジマの長ゼリ。
詩森さんが「自分の気持ちを伝えるには事実を伝えることだ」と言ったが
キジマの目下の最大関心事である食品をとりまく事実をきちんと伝えることが
キジマの気持ちを伝える効果的な方法だという意味だった。
カレシの優しさを拒否してでも、今この問題を突き詰めたいという必死さが
生井さんの台詞からあふれていた。
その結果客席からは何度も笑いが起こった。
二人が必死になればなるほど、かみ合わないズレが大きくなって可笑しかった。
大学生タカハシ(有吉宣人)は、大学を辞めようかと考えている。
現在の教育システムに失望し、小学校教師を目指して一からやり直そうというのだ。
ヒガキ先輩に相談して、妙に熱く語ったかと思うと
自信の無さからか背中を押してもらいたがったり
とにかくタカハシは自分の回りをぐるぐる回っている。
タカハシ役の有吉さん、稽古では結構ダメ出しされていたと思う(笑)
「声が大き過ぎる」に始まって「興奮して喋ってるだけ」「ひとりで空回りしてる」
「テンションが上がり過ぎて制御不能になった」等々。
4人の中でひとりあからさまにオロオロするキャラだから、難しいこともあるだろう。
狂言回しとしての役割もあって切り替えも必要だ。
だが本番で私はタカハシの空回りに人柄の良さを感じた。
「なにみんな平気な顔して遺品整理してんですか!?」という
“ウザいけどいい奴”キャラが、有吉さんにはまっていたと思う。
4人の俳優が提出したテーマにそれぞれデータによる裏付けをして、厳選した台詞で語らせる。
詩森ろばさんの脚本は巧みな構成で交差する4つの人生を描く。
静かな落ち着いた場面転換の動きや映像の使い方も洗練されている。
いずれも岐路に立つ出来事を抱えている4人のうち
未来を語るタカハシの言葉で終わるというのもよかったと思う。
はっきりしなかったタカハシに最終決断させたのはテロリストヒガキの存在と行動であった。
「その行動を支持はしないが、ヒガキ先輩は大好きだ」というタカハシがとても良い。
稽古場とは比べ物にならない空間の違いが、距離感を変え台詞を変える。
改めて企画の意図とキャスティングの妙が面白かった。
俳優個人と役が重なって、台詞が自分の言葉になる。
考えてみれば「他人の思考を思考する」とは演劇の原点であり
コミュニケーションの原点ではないか。
作・演と俳優、俳優と俳優、作品と観客、皆他者の心理を想像するところから始まる。
一番難しくて、誰もが欠落していて、でも上手く行けばこの上なく幸せな作業だなあと思った。
カラスの楽園
Trigger Line
小劇場 楽園(東京都)
2012/11/15 (木) ~ 2012/11/25 (日)公演終了
満足度★★★★
圧倒する演説
あまりにも有名な「ケネディ大統領暗殺事件」を
フィクション・ノンフィクション織り交ぜての作品。
巧みな構成と役者の熱演で、誰もが知る結末ながら
最期まで緊張の糸が途切れることがない。
ラスト崩れ落ちるレナードの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
ネタバレBOX
ジョン・F・ケンドリック(ケネディ)大統領には信頼できる側近たちがいる。
司法長官は弟のレナード・F・ケンドリック(ロバート)、
レナードの親友でもある補佐官のジミー、スピーチライターのハリー、
そして大統領の妻ジェシカ(ジャクリーン)。
対立する副大統領のランドリー・ジャクソン(ジョンソン)には
側近のエル・クレイトンがついて悪知恵を働かせている。
この人間関係がとても分かりやすくて良かった。
人物像が誇張され気味ではあるが、逆にリアルなだけだったら
ここまで権力にしがみつき欲望に翻弄される孤独な姿が描かれなかっただろうと思う。
楽園の舞台を活かしたスピーディーな人物の出ハケ、
歴史を踏まえた細かい事実の積み重ねもさることながら
何と言っても、そこに至る人間の腹の底から出て来る台詞が素晴らしい。
レナード役の林田一高さん、最初は端正なたたずまいだったが
兄を死なせたという罪の意識から立ち直って大統領選に出馬するまでの
変化の過程がとてもよかった。
特に演説、黒人執事デボラをかばってデモの群衆に呼びかけるところ
そして最期の大統領候補予備選挙での演説が素晴らしい。
客席に背を向け、聴衆に語りかける背中が雄弁で自信にあふれている。
マイクが彼の言葉にエコーをかけて会場の臨場感Max。
この後暗殺されると判っているのに、撃たれた瞬間は息が止まるほどの衝撃だ。
混乱する周囲が右往左往する中、しばらく棒立ちで取り残されたようなレナードが
崩れるように膝から落ちるラスト。
照明のドラマチックな効果もあって忘れられないシーンだ。
対する副大統領を演じた経塚よしひろさん、
権力が無ければ誰も寄って来ないような男を
まばたきしない誇張した描写で、その孤独な人生まで描いて見せた。
「大統領にしてもらった男」の慟哭が聴こえて来る圧倒的な存在感。
副大統領に仕えながら常に「俺がお前を大統領にしてやった」と思っている
側近のエル・クレイトン役のヨシケンさん、
悪役ながらたっぷりした台詞が心地よくて聴き惚れてしまう。
暗殺者の大道芸人を演じた三上正晃さん、
最初登場した時に見せるジャグリングの手さばきがスゴかったので
この人何者?と思ったが即興演劇集団インプロモーティブというところの方だった。
このほとんど台詞の無い暗殺者がこんなにも似合う役者さんは少ないのではないか。
ピエロのようなメイクで正体を隠す大道芸人という設定がはまりすぎ。
エル・クレイトンと自爆するシーンは圧巻で音響・照明ともとても良かった。
少し気になったのは音量のこと。
客入れの時のBGM、選曲はとても良かったのだが音量が大きかったように思う。
私のすぐそばに立っている前説の方の声が聴きとれないほど。
銃声や爆発音が際立つのは良いが、音楽は控えめが効果的な気がした。
撃たれて崩れ落ちたレナードの姿で暗転した後、
客を見送る林田さんの顔が青白く、まだレナードの面影が
色濃く残っていたのが印象的だった。
「カラスの楽園」の答えを、私は今も考えている。
傭兵ども!砂漠を走れ! -サバンナ&オアシス-
劇団6番シード
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2012/11/14 (水) ~ 2012/12/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
6時の方向
ある紛争地域の日本人ばかりが集まっている外国人傭兵部隊。
“コンバットコメディ”と謳っているが女性メインのオアシス編は
「侠気(おとこぎ)あふれる戦場の女たち」が素晴らしく熱くて泣かせる。
はっきりしない日本に見切りをつけて伍長の元に集結したくなる舞台だった。
ネタバレBOX
明転すると舞台上にジープがあってびっくり。
実物より小さくてタイヤは動かないが、軽やかに乗り込むと
周囲にいる人たちがそのジープをくるくる回して方向転換、
スピード感あふれる疾走シーンが再現された。
ちっちゃいけどリアルで、このジープが出て来ただけで“傭兵感”ありまくり。
ヘルメットを被った“黒子”二人が土嚢のセットを素早く移動させて
銃撃戦を立体的に全方向から見せる。
機動力のあるセットにアイデアと工夫が詰っていて、冒頭からいっぺんに魅了される。
ゲリラが潜む可能性のある空き家を爆破するのがメインの部隊は全員日本人女性。
対立するゲリラの抗争に巻き込まれた現地の少女をめぐって
関わるなという本部の指示に従うか、トラブルを覚悟で少女を救出するか。
新人隊員の必死の訴えが、伍長はじめ仲間の心を動かし
ついに無謀な「けん玉作戦」が決行される・・・。
伍長役の宇田川美樹さんが素晴らしい。
この人は日頃から「俺」と言っているに違いない(笑)
どうしても声を張って叫ぶシーンが多い中、この人が静かに語る場面は説得力が際立つ。
緩急、シリアスとコメディ(歌と野グソ担当)と、自在に行き来する
伍長のリーダーシップがストーリーを牽引している。
銃器アクションにリアリティがあってすごくカッコいい。
新人隊員ボンクラ役の椎名亜音さん、
部隊の決定を覆そうと必死に向かって行く姿が、表現力豊かでとてもよかった。
いじめに遭っていた妹の自殺を止められなかった自分、
そんな自分が嫌で変えたくて傭兵志願したという告白に
客席はオヤジの鼻をすする音で満ちあふれた。
テレビドラマでもよくある話なのに、泣けて泣けて仕方がなかった。
入隊後から、ラスト少女を連れて海を泳いで渡るまでの成長が鮮やかだ。
ボンクラ、ゴクツマ、ガクレキ…と言ったあだ名で呼び合うのも
コンバットらしくて楽しい。
“女”を封印して徹底的に傭兵として行動するのも爽快。
「女のくせにボクとか言うな!」という台詞くらいしか
“女”を思い出させる台詞は無かったと思う。
男性メインのサバンナ編も観たくなるが、
「男にしておくのは惜しい」ような傭兵どもなんだろうなぁ。
きっとまた私の涙が6時の方向に流れるに違いない。
行方不明
ブラジル
赤坂RED/THEATER(東京都)
2012/11/17 (土) ~ 2012/11/25 (日)公演終了
満足度★★★★
櫻井は櫻井
MCRの櫻井智也が主演、客演する彼を観るのは初めてだ。
いつもは自分が書いた台詞を喋る彼が
人の書いた作品をどんな風に演じるのか興味もあって楽しみに出かけた。
スーツの櫻井智也も初めてだったが、いつもの“あの感じ”があって嬉しくなった。
私はなんでこんなにこの人の台詞が好きなんだろう?
ネタバレBOX
舞台は数段の階段で、上と下とのスペースに分かれている。
ここを行き来することで場面転換したり、遠く離れた相手との距離を表したりする。
全体が黒っぽく色彩の無い舞台。
年下の上司から理不尽ないじめを受けながら新しい職場で働く小野(櫻井智也)。
生まれて来る子どもの為にも我慢しようとするが、ある日とうとうキレて会社を辞める。
家に帰れば妻(幸田尚子)の不倫現場に出くわし、離婚を切り出される始末。
途方に暮れて数日前に電話をくれた友人手塚(諌山幸治)に電話してみたが通じない。
彼の住む高知県へ飛び不動産会社の家を訪れると、5日前から行方不明だという。
彼の妻はどうやら若い従業員と怪しい仲。
手塚が通っていたという喫茶店のマスターと共に彼の足取りを追う小野は、行く先々で彼に関する信じがたい話を耳にする。
どうも手塚は、小野の知っている手塚ではなくなってしまったらしい。
かつて、小野がとった行動が原因で手塚は自殺未遂を起こした。
そのことも行方不明の原因の一つではないか…と必死になっていく小野。
やがて小野は、人を食うという“牛鬼伝説”が伝わるこの地で
信じられないような光景を目にする・・・。
冒頭、手塚が小野に電話して来る場面の会話にもう引きこまれる。
男同士の“久しぶり”な会話が、どうにも妙な距離を置いているように見える。
あとになって、ある重大な出来事が二人の距離を決定的なものにしたのだと判るのだが
さりげなく、だが確実に違和感を覚えさせる櫻井智也の会話が上手い。
この人の台詞はいつもドロップアウトした人の目を感じさせる。
──俺もたいしたことねーけどよ、てめぇのそれは人としてどーなんだ?
という開き直った怒りがにじんでいる。
それが今の世の中で結構真っ当だったりする。
もうひとつ、櫻井智也の演じるキャラクターは他人に執着しない。
罵詈雑言は立て板に水だが、自分については多くを語らない。
自分の中ではぐだぐだでも、他者に対してはあきらめがよい。
そもそも期待していないからかもしれないが、そこが彼の“優しさ”のような気がする。
MCRの“櫻井語”がこの作品にも自然に出ていて
あてがきとしか思えない台詞は生き生きとしている。
ぶっきらぼうだが、拭えない後悔を一生引きずって行く小野は
手塚の変化を受け容れられないし、責任も感じている。
理解できない友人の幸せを、それでも祈って止まない。
ブラジリィー・アン・山田さんの本は、
この櫻井智也の個性を100%活かしていると思う。
品の良いエロとあっけらかんとしたグロ、
ブラックでシュール、全てのバランスがとても良い。
ぼかさないグロさはカラッとしていて不快感もない。
指先を切るシーンより、首がすっ飛ぶシーンの方が
非現実的で生々しさが無いものだ。
櫻井智也の周囲を夢とも現実ともつかないキャラクターが往来し
牛鬼の存在を浮かび上がらせる。
片腕の工場長、犬の不動産屋、外国人労働者・・・。
外国人労働者は面白いが、少し長さを感じたところもあった。
不倫妻の色気と牛鬼の凄み、両方を自在に演じる幸田尚子さんが素敵だ。
ブラックドレスで平然と男の首を絞める怪力の持ち主を軽やかに演じている。
びっくりするような展開はすべて妄想の中だったのか。
ひとりになって思うことはやはり死んだ友人のことだったのか。
夢と現実の境界線も曖昧なまま、別れた元妻が幸せそうなのを見かけて
小さく笑って立ち去る男。
いつになくスーツで出ずっぱりの櫻井智也が、えらくカッコよかった。
私は桜井智也の乾いた声が好きなのだと改めて気付いた舞台だった。
からくりサーカス~サーカス編~
カプセル兵団
笹塚ファクトリー(東京都)
2012/11/15 (木) ~ 2012/11/18 (日)公演終了
満足度★★★★
スピンオフもいける
先日LINX’SでシアターOMの「うしおととら」を観た後なので
この原作者藤田和日郎さんのテイストが少しわかってきたところ。
”冒険活劇”という言葉がぴったりのアクション満載、スピーディーな展開を楽しめた。
前説で「3時間半を予定しております」と言った途端、客席から笑いが起こった。
「え~、マジかよー、もう笑うしかないべ」みたいな。
パイプ椅子にエアクッションがあれば、3時間半でも結構快適だと知った夜。
ネタバレBOX
手前へ花道が伸びる舞台を3方から客席が囲んでいる。
あらすじを追ってもすぐには把握できないほど壮大な物語なのでここには書かないが
時間も空間も壮大であること、人形を操って闘うこと、
それに単純な勧善懲悪でなく、悪者にも逡巡があり改心したりする“心の揺れ”が
物語の特徴と言えるだろうか。
“人形を操って闘う”ということがきちんと見えて来ると、
操る動きと人形の動きがリンクしていて流れるような美しい動作に目を奪われる。
とにかく出ハケが高校野球みたいに全力疾走でスピーディーなところに感動した。
3時間半の間、数え切れないほどあった出ハケに迷いやミスが皆無だったことや
効果音・照明のタイミングも完璧であったことから
非常に訓練された集団という印象を受けた。
短いエピソードを際限なく積み重ねるように見えるのは
全43巻という原作の長さと、週刊で毎週ひとつの山場を迎えるという事情もある。
座長の吉久直志さんが当日パンフで脚本構成の苦労を語っているが、
出ハケがメリハリのある区切りになって、緊張感も集中力も心地よいリズムで持続できる。
時々役者が演じながら今起こっていることを解説する。
「鋭い剣が正面から飛んで来てグサ~!」みたいなことを叫ぶのでめっちゃ可笑しい。
このアナログな表現が漫画の面白さをうまく再現していると思う。
はっきりしたキャラクターの振り切れた演技が秀逸。
ハーレクインを演じた西沢智治さんの台詞とアクションなど素晴らしかった。
中途半端だったらコントで終わってしまいそうな役を
表現力豊かな台詞とキレの良いアクションで魅力的な悪役に魅せた。
女優陣が皆素晴らしいプロポーションでびっくりした。
アンジェリーナ役の永峰あやさん、しろがね役の森澤碧音さんは
その衣装も素敵だし、露出しているボディも素晴らしい!
またこんなに魅力的なアンサンブルを私は初めて観た気がする。
ダンスの繊細さと力強さがとても素敵だった。
欲を言えば、原作のコアなファンならいざ知らず
普通の演劇ファンにはもう少し解説が欲しいところ。
漫画は戻ってもう一度確認できるが、舞台ではそれが出来ない。
時々大事なポイントを復習する時間が必要ではないか。
当日パンフの「登場人物相関図」を見てもよくわからないし。
スピード重視の流れの中でも、ストーリーの根幹に関わる台詞は
立ち止まってきちんと伝わるように言って欲しい。
誰かに台詞で言わせるとか、ナレーションを入れるとか工夫したらダメかしら。
原作の雰囲気をそこなうとか、マイナス面もあるかもしれないが。
もう少し整理した相関図や、前回までのあらすじ、登場人物プロフィールなど
補足資料によって開演前や休憩時間に情報を得られたらもっと楽しいと思う。
スピンオフが作れそうなほど魅力的なキャラクターがそろっているのだから
何部かに分けてもそれぞれ充実した舞台になると思うがどうだろうか。
それにしても、先入観を持たずにいろんなものを観てみるものだなあとつくづく思ったのであった。
閨房のアライグマ
“STRAYDOG”
Geki地下Liberty(東京都)
2012/11/10 (土) ~ 2012/11/18 (日)公演終了
満足度★★★★
台詞の瞬発力
無理やり腕を掴まれて引っ張られるような勢いで始まったと思ったら
なんだよこの親子、ボロ泣きしちゃったじゃないか。
ひとつひとつの充実したエピソードが積み重ねられて最後のオチまでハラハラし通し。
キャラの立った登場人物と役者が見事にマッチしている。
歌って踊ってこの構造、森岡利行さんの繰り出す台詞にマジで泣かされた。
ネタバレBOX
桜子の父親サクジロウ(伊藤新)は、昔よくお話を読んで聞かせてくれた。
まるでホラ話のような父の創作物語は、桜子を楽しませ無限に広がっていく。
月日は経って、そのサクジロウが死んだ。
火葬場で、喪服の桜子(森田亜紀)は白装束の亡き父作次郎(中原和宏)と語り合う。
やくざの兄利夫(柴田明良)、中国人と偽装結婚した叔父忠利(酒井健太郎)、
桜子の出自に関わる、交通事故で重い障害を負ったレイコ。
桜子の娘愛美(長澤佑香)がなさぬ仲であることも絡んでドラマチックな
あまりにドラマチックな親子を取り巻く人生が語られる・・・。
舞台上隅の方に長椅子がひとつ、さっぱりしたセットは火葬場である。
白装束の亡き父と語りながら、父の言葉に次第に変化していく桜子の表情が素晴らしい。
最初の淡々とした語り口が、自分の出自や娘との確執に及ぶラスト
愛情が溢れ出して、観ている私たちがいつしか桜子の感情にぴったり寄り添っている。
人情やくざの兄利夫を演じた柴田明良さん、悪者やくざ役の重松隆志さんがはまりすぎ。
Vシネテイストあふれる緊迫したやりとりが素晴らしく迫力があって
これから始まる悲劇へと自然に流れ込んでいく。
障害を負ったレイコ役の住吉真理子さん、あまりのリアルな障害者ぶりに
初め“痛すぎ”の感も覚えたが、もし仮にこれが曖昧な表現だったら
その後の悲劇的なレイコや利夫の行動に説得力が生まれなかっただろう。
どれほど勉強し、工夫しただろうかと思わせる演技だった。
出稼ぎ中国人麗華を演じた桐山玲奈さん、変な日本語が上手くて可笑しい。
単なる物まねでないキャラが立っていて、哀しみと共に存在感が“有馬温泉”。
若き日のサクジロウを演じた伊藤新さん、真面目でひたむきな公務員らしさと
“面白味のない性格”と言われながらも“それでいいじゃないか”と
自分を奮い立たせる孤独な強さが自然に共存していてとてもリアルだった。
この父親がベースにあっての、桜子の思いなのだということが伝わってくる。
亡くなった作次郎を演じた中原和宏さん、その存在感に圧倒されっぱなし。
もう素なんだか役なんだかわからないくらいの歌(上手いのだこれが)が
アングラの香りをぷんぷんさせていい味を出している。
この“歌うオヤジ”がバリバリ関西弁で、
若き日のスマートなサクジロウとすんなり重ならないのが難と言えば難だろうか。
どこかでちょっとリンクさせる台詞があれば、逆にその変遷も面白かったかもしれない。
それにしてもこのホラ親父の言葉は味わい深くていい台詞だなあ。
住吉真理子さんの歌うビートルズの「In my life」(だと思ったけど)が
あんまり素敵でぴったりで、ラストめちゃめちゃ泣けてしまった。
父を喪いたくないという桜子の気持ちが切ない。
当日パンフで作・演出の森岡氏が語っているが、この作品は
いろいろあったけれど20周年を共に迎えたメンバーに喜んでもらおうという
気持ちで書いたのだそうだ。
「自分は劇作家ではなくシナリオライターだから、新作を書くのは辛い」と言うが
ひとつひとつのエピソードが持つ台詞の力が素晴らしい。
台詞の瞬発力とでもいうのだろうか、”キメの台詞”と”自然体の台詞”とが混在している。
桜子が、現実の人々からドラマチックな想像を膨らませていく二重構造も自然だし
何と言ってもそれが亡き父から受け継いだ性格であるということが、
親子の強い絆を表わしている。
桜子が亡き父に語りかける「閨房のアライグマ」のエピソードが
思いがけないイメージから人生を深く洞察していて泣かせる。
こうしてひとつ終わる毎に、私たちはまた毛づくろいして歩き出すのだ。
地響き立てて嘘をつく
ガレキの太鼓
こまばアゴラ劇場(東京都)
2012/11/14 (水) ~ 2012/11/21 (水)公演終了
満足度★★★★
男には出来まい
“バカバカしいほどの人間賛歌”とフライヤーにある通り
何千年経っても同じことをくり返している愚かな人類を
笑いながらも愛おしく見つめる舘そらみさんの視点が超ユニーク。
確かに、“泣きながらでも神輿を担ぐ派”らしいエネルギー溢れる舞台だった。
ネタバレBOX
舞台中央に色とりどりの衣類を並べて円陣が出来ている。
強い原色ではなく、アースカラーの穏やかな色あいだ。
ここが、時代は移っても常に“父親”のいる場所として子どもたちが戻ってくる場所となる。
舞台上手に2階へ上がる梯子、下手には階段状に高いスペースが作られている。
数人の女たち(男性も演じている)が「産まれた!」と子どもを抱いて喜び合っている。
時は縄文時代、男は狩りに行き、女・子どもは木の実を拾い水を汲むのが仕事だ。
そして女は子どもを産むときによく死ぬ。
「さーちゃん」と「ムサシ」は子どもの時から兄弟のように育った。
ムサシはさーちゃんが大好きだが、さーちゃんは自由奔放でムサシは常に振り回される。
この二人の“2000年”に及ぶ人生を追いかけるというストーリーだ。
時代はあっという間に弥生、平安、戦国・・・と歴史の教科書通りに進む。
舞台上で“大雑把な”衣装に着替えながら
時代の価値観を反映したさーちゃんの恋愛騒動が繰り広げられる。
強い男に惹かれては騙されたりして、その都度ムサシに泣きついて来る。
平安時代のガールズトークがフツーに現代語で交わされたり
戦国の世に、男が敵の首を取ってさーちゃんにプレゼントしたりする所で爆笑。
さーちゃんとムサシの役は、時代が変わると役者も変わるが混乱はない。
むしろいつの世にもいる「さーちゃん」と「ムサシ」の普遍性が感じられる。
気になったのは、2階から解説をする先生(?)みたいな現代人。
下で繰り広げられる世界に少しなじんでいない気がした。
台詞台詞している感じは、次第にこなれて来るのかな。
着替えに手間取る時代もあるが、それはまあご愛敬か。
多少寿命が延びたくらいで、私たちはずっとこうして生きて来たんだなあと思う。
男は小さな嘘をつき、女は大きな嘘をつく。
でも笑って踊って、「よしとしよう!」みたいなエネルギーが一貫して明るい。
こんなありえないほど壮大なスケールで、しかも“雰囲気だけ”の衣装で
男と女・親子を描いて尚「変わらないもの」を明確に取り出して見せる。
この大きさと大雑把な感じ、ちまちましなくておおらかな表現は
まさに”大地の生命力”を感じさせる。
同時に”命のはかなさ”をはらんでいて、そのバランスが良い。
いやー、男にはちょっとできないだろ。
一番の嘘つきは、やはりこの作者かもしれない。
震災タクシー
渡辺源四郎商店
こまばアゴラ劇場(東京都)
2012/11/09 (金) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★
リアルな体験だけに・・・
「架空の劇団」の代表くらもちひろゆきさんの3.11体験をベースにした話。
あの日、常磐線が止まってしまったので居合わせた人々に声をかけ
目的地いわきまでタクシーで移動することになった男(くらもちひろゆき)と他の乗客5人。
親切なタクシー運転手と共に被災地を抜けて走り続ける・・・。
7人の役者が7つのパイプ椅子だけを使って演じるロードムービー(?)。
被災県に住みながら“大して被災していない”人々の微妙な距離感がリアルだが
その体験が事実に忠実であればあるほど、現実の方がそれをはるかに超えている
という事実を意識せざるを得ない。
テレビのドキュメンタリーでくり返しあの日の惨劇を見た私たちにとって
“大して被災していない”人々の実話はどうしてもぬるく退屈に感じてしまう。
違うのは、彼らが「深刻な被害を受けた人々に近い場所で暮らしている」ということだ。
この申し訳ないような、近くて遠い距離感が何としても拭えないというのは
ある意味とても繊細な、そこに住む人ならではの心理だろう。
アフタートークでも「地元では、観客とそれを共有していると感じた」と語っている。
だが演劇としては若干インパクトに欠ける。
今回作・演出に、くらもちひろゆき・畑澤聖悟・工藤千夏と3人名を連ねているが
アフタートークで語られたように
もともと2時間程あった脚本を1時間半にし、
「走れメロス」を伴走させる演出や、
「ふくいち(福島第一原発)」を見下ろすシーンを入れるなど
かなりの演出が畑澤・工藤両氏によって加えられている。
それらの演出と役者陣の良さが心に残る。
タクシー運転手役、加藤隆さんの自然な職業人らしさが際立っていた。
いつもながら年齢不詳少女を演じた音喜多咲子さん、
大人に対するクールでぶっきらぼうなコメントの間が完璧。
乗客の中で、この少女だけは本当は亡くなっているのではないかと思わせる
不思議な存在感と喪失感を漂わせて素晴らしい。
この人が存在する限り、なべげんに子役は要らないだろう。
演じる畑澤聖悟さんを初めて観たが、やっぱり面白いひとだなあ。
くらもちさんと畑澤さんが兄弟のように似ていて(頭も)可笑しかった。
もし、この体験をベースに100%フィクションで芝居を創ったら
また違った説得力を持つような気がするが
たぶんそれでは”中途半端な被災者”の忸怩たる思いが永遠に消えないのだろう。
私は、なべげんの「翔べ!原子力ロボむつ」のように
刻々と変わる現実に追いつき追い越すかのような“俯瞰する視点”こそが
忘れん坊の私たちにあの日を思い出させるきっかけになると信じている。
そういう作品を被災地が発信することに意義があると思うし、それを共有したいと思う。
僕から見れば僕が正しい、君から見れば君が正しい
MacGuffins
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2012/11/07 (水) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★
絶妙のタイトル
オムニバス形式で5話、1と5が父親殺しというシリアスなテーマを扱い
真ん中3話がおバカなコメディなのだが
“ひとつのテーマが緩くつながりながら広がっていく”という
オムニバスの良さが存分に発揮されていて大変面白かった。
絶妙なタイトルと合わせて、これは「コミュニケーション」の明暗を描く力作だと思う。
Aバージョン観賞。
ネタバレBOX
「僕から見れば僕が正しい」
母親に暴力をふるう父親を刺殺してしまった高校生(黒岩拓朗)が逮捕される。
彼は直前に同級生の少女(金魚)と「今夜11時に親を殺す」という約束をしていた。
父の死の間際に、その暴力の理由が母親にあったことを知り
少年は自分は何も分かっていなかったことを思い知らされる。
そしてその日、殺人事件はひとつしか起こらなかった・・・。
「会議は踊る」
冒頭のショッキングなストーリーから一転、
新商品「ヒトの匂いを消す消臭剤」のネーミングに頭を悩ます会議の席。
様々なアイデアが飛び出す中、上司の秘密が暴露されたりして
会議は踊り続けて何にも決まらな~い!
社員がひねり出すネーミングが爆笑もの。
「帰宅部全国大会出場」
小宮山(横田純)が野球部と思って入部したのは実は「帰宅部」だった。
「はじめてのおつかい」のように親から依頼されたおつかいを
ビデオに撮ってテレビに投稿するという(これが全国大会を意味する)帰宅部。
今日は全員でテーマパーク、ロマンチックランドへおつかいに行くことに。
さて誰が一番ロマンチック・・・?
「コミュニケーション記号体系」
弟に借金を返すため、その弟になり済まして学校に就職、そこで
“ハナデルマン共和国”の“ハナデルマン語”を教えることになってしまう兄の話。
激しい身体表現(ほとんど踊り)、ターンが多いほど好意的であることを表わす
ハナデルマン語をめぐって職場の嘘と真が入り乱れる中、男は真の自分を見出していく。
何と言っても兄(水越健)とハナデルマン共和国の親善大使(渡慶次信幸)の
ハナデルマン語、それにタイミングよく絡む通訳(横田純)が抜群に面白い。
ノンバーバル言語の極みとも言うべき動きとスピードが素晴らしい。
妄想助平親父の教頭(小林龍二)の俗物ぶりも、無さそうで有りそうで笑わせる。
「君から見れば君が正しい」
冒頭の父親殺しの少年と、約束を破った少女が街で再会する。
なぜ約束を破ったのか、それを語る少女。
淡々とそれを聞く少年は、「誰かと関わる時は終わる時のことを考えてしまう」と言う。
「間違ってもいいから前を向いて進むのが人生」と語る少女。
全体を貫くのは“コミュニケーションの様々なかたち”だ。
饒舌なだけがコミュ二ケーションではない。
悲惨な事件の陰にはコミュニケーションの欠落があったとはいえ、
それは努力を怠ったせいではなかった。
あの父親にとってはそれがたったひとつの発信手段だったのだ。
だがその結果は殺人事件だった。
「君から見れば君が正しい」で、少女は懸命に語りかけるが
ここは言葉を尽くしても一方通行では虚しいだけだということを晒している。
片方の自己満足だけでは、コミュニケーションとして成立しない事を痛切に訴えて来る。
激しい動きの中で早口の台詞の応酬が多いが、よく訓練されていることに感心した。
一人が何役もこなし、切り替えも鮮やか。
強靭な持久力で充実したストーリーを展開している。
映像の使い方も洗練されていて、身体能力と共に劇団の個性と言える。
ちょっと残念だったのは、ラストのまとめ方に無理が感じられたこと。
彼女が語れば語るほど、約束を破った言い訳に聞こえて
約束破っておいてそれは無いだろう・・・と思ってしまう。
むしろ少年の胸の内を知りたかった。
オムニバスという形式のメリットを最大限に活かしたテンポの良い展開、
明と暗両方の見せ方など工夫があってとても良かった。
それにしてもこのタイトル、コミュニケーションと言うものを
実に言い得て妙、としか言いようがない。
世の中全て「僕から見れば僕が正しい、君から見れば君が正しい」でしょう。
これをつけた時点でもう、大成功してる。
テノヒラサイズの飴と鞭と罪と罰
テノヒラサイズ
武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)
2012/11/06 (火) ~ 2012/11/12 (月)公演終了
満足度★★★★
行け, X10!
そのポリシーとも言うべき、“きっかり90分、全員つなぎを着て舞台にはパイプ椅子だけ、
美術や音響、照明に頼らない“という劇団の姿勢に興味津々で出かけた。
今回は小道具が増えていつもとは少し違った面を見せたということだそうだが
関西風のノリで押してくるのかと思いきや、品のある笑いでびっくりした。
ネタバレBOX
富士山に地熱発電所を造るという国家プロジェクトのため
複数の企業の担当者が山頂本部に滞在して半年。
空気も薄いが、ライバル企業をけん制しつつ単身赴任の孤独と闘う厳しい現場だ。
密かに手を組まないかと談合を持ちかける企業もいるし
人間関係も煮詰まりがちで、個人的にせこい嫌がらせを繰り返したり
必要以上に親切な人間にイライラが爆発し、皆で吊るし上げたりしている。
そんなとき富士山に噴火の兆しが現れ、地震のような揺れが頻発、
エレベーターの中に作業員が閉じ込められてしまった。
プロジェクトの中止という最悪の局面に直面する中
メンバ―たちは企業人として、また一開発者としての
生き方を問い直される・・・。
横長のテーブルにパイプ椅子、後ろには壁のように積まれた段ボール箱。
テーブルの上にある大きな富士山の模型の他にはセットも無い。
富士山頂でのプロジェクトXみたいなシチュエーションがまず面白かった。
限られた空間でスケールの大きい話を想像させる。
一人ひとりのキャラにもう少し情報があれば、もっと面白いと思う。
例えば“父親が塀の中と外を行ったり来たりしている”シード工業(田中美甫)のような
バックグラウンドがコンパクトに紹介されたら
この日本一高いところで闘う者たちの気概みたいなものが感じられて
各自の行動に説得力が増すように思う。
関西風にもっと笑いを取りに来るかと思っていたがきっちり演技して揺れたりしない。
ならば尚更過酷な現実の中で闘うプロジェクトXの企業人と
心の中のファンタジーワールドとのギャップが大きい方が面白い。
ミツカネ産業(湯浅崇)の振れの大きい芝居が面白かった。
頭髪ネタは必然か(笑)
現実からファンタジーへの転換を牽引している。
大同電力(松木賢三)のホロリとさせるラストも良かった。
なんだこの人、いい人じゃんみたいな。
企業人と情で動く人との両面を丁寧に見せていた。
関西弁でもなく、ある意味とても洗練された劇団だと思う。
アフタートークで役者陣が語ったように、
大阪の“いつものを待ってる”お客さんとはいろんな点で違っただろうけれど
次はパイプ椅子だけの“超シンプル”なのも観てみたいと思わせる舞台だった。
新譚サロメ (改訂版)
ウンプテンプ・カンパニー
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2012/10/29 (月) ~ 2012/11/04 (日)公演終了
満足度★★★★
「首を所望せよ」
あの“預言者ヨハネの首を所望したサロメ”の話が
平家の落人伝説が伝わる小さな島に場所を移して語られる。
古風な島言葉と島崎藤村の詩を用いた劇中歌、設定ががらりと変わることで
“男と女”の普遍的な“不可解さ”が浮き彫りになる。
そうだ、預言者の首を所望せよとサロメに告げたのは、この母親だったのだと思い出させるような舞台だった。
ネタバレBOX
階段を降りると、舞台スペースを三方から囲むように客席が作られている。
ぼうっと中から灯りが洩れるような太い木が2本、
1本の根元には賽の河原のような石が積まれている。
暗転の後、島に流れ着いた一人の男がここ「イザヨイの穴」で目覚めたところから話は始まる。
その昔平家の安徳天皇は入水して8歳で崩御した事になっているが
実は生き延びていたという伝説があちこちに残っている。
この島もそのひとつで、安徳天皇に娘のウズメを差し出した男の末裔が
今も島を牛耳る男、よろう鐵である。
彼は弟の妻律を奪って弟を死に追いやり、今また妻の連れ子サキを我が物にしようとしている。
島に流れ着いた男、与太者の寿安は島に災いをもたらすとして追われる身となり
祭りで舞を舞った後よろう鐵のものになることになっているサキは
この寿安を唯一の救世主として捨て身ですがりつくが拒否されてしまう。
舞の褒美に何でも欲しいものを与えようというよろう鐵に
今は囚われている「寿安の首」と叫ぶサキ。
目を大きく見開いて、島を眺めながら波間を漂う寿安の首・・・。
台詞を言ったあとにト書きも読んで描写するのがユニーク。
たった今生々しい台詞を吐いた次の瞬間、距離を置いてその自分を描写する。
あるいは台詞にしない胸の内が短い言葉で表現される。
座付き作家の加蘭京子さんが好きだという島崎藤村の詩に
曲をつけて歌う劇中歌が不思議な雰囲気を醸し出す。
生演奏のピアノに合わせて難しいメロディーの歌を全員一度はソロで歌う。
歌詞が良く分かる歌い方は素朴な歌唱ながら好感が持てる。
一番多く歌うのは冒頭きれいなダンス(?)と踊っても乱れない歌を聴かせた
千鳥・ウズメ・謎の女…を演じた森勢ちひろさん。
与太者の寿安を演じた鈴木太一さん、
人生を投げているようでどこか潔癖な寿安がはまっている。
よろう鐵の妻律を演じた西郷まどかさん、
夫を裏切り死に追いやってまで欲しかった男が、今は自分の娘を欲している。
「欲するとはどういうことか」身を以て娘に教える母親の業が素晴らしい。
もともと聖書で、サロメに「首が欲しいと言え」というのはこの母なのだ。
この母の残虐性が、運命に流される娘に向かって流れ込んでいくような印象を受けた。
魔性の女は着物の着付けもきれいでとても素敵だった。
サキを演じた板津未来さん、
母親を憎み、義父であるよろう鐵を憎み、自分の運命を憎み
唯一愛した寿安に拒否された絶望から「首」を所望する狂気が伝わってくる。
しかもそれは、宿命を受け容れて”初めて自ら選択した事”だったという決意の証明でもある。
繊細でドラマチックな照明が素晴らしい。
微妙な変化とタイミングで舞台に時の経過と奥行きが生まれ
観ている私たちは彼らと同じ時間を過ごす。
愛する男の首とは、単なる“殺してしまえホトトギス”の心境ではなく
絶望の代償・孤独の証、そして母親から受け継ぐ業でもある。
元のサロメ、平家の伝説、そこへ島の男女のいくつものエピソードが重なって
サキの狂気の必然性が説得力を持ってくる。
──寿安の首、今どのあたりを漂っているのだろう・・・。
リンクス東京 感謝!! 来年も東京で!!
演劇ソリッドアトラクションLINX’S
上野ストアハウス(東京都)
2012/10/24 (水) ~ 2012/10/28 (日)公演終了
満足度★★★★
充実の遠出
LINX’S TOKYOのAチームを観る。
関西のひとりの演劇ファンが企画して実現したというこの東西相互乗り入れイベント、
未見の劇団を知る絶好の機会であり、本公演を観たいと思う劇団がいくつもあった。
6劇団が20分ずつという集中度も程良く、企画の面白さと今後の可能性を
感じさせる充実した時間だった。
この日のMCは伊藤今人と西川康太郎の二人。
コンパクトでメリハリがあり、よいMCだったと思う。
ネタバレBOX
1. THE 2VS2(2対2と読むそうな)「ファンファーレと熱狂」
クリスマスの恋愛ものかと思ったら有馬記念の馬の話。
ホレた雌馬を追いかけて本番も頑張って走ったのに去勢されてしまった馬の末路。
中盤これが人の話ではなく馬の話なのだと判るのが可笑しい。
天使と悪魔のように彼らを操りそそのかし、その気にさせようとしていたのが
ジョッキーだったというのも、馬と判れば納得の面白さ。
種明かしのタイミングのセンスが抜群。
2. 劇団エリザベス 「あひるぐち、ハニー。」
一度観たかったエリザベス。
アニメの声優みたいな声で、彼に会いに行くとウキウキする女の子が登場。
この女の子を演じる長谷美希さんが素敵。
キレのあるダンスが素晴らしくて見とれてしまった。
もう一人の田中ありすさんの脚の組み替えも超お見事。
シュールな展開がまた考えさせるもので、引き込まれた。
キャラのイマドキ感と予想をはるかに超える身体表現の豊かさ、
価値観を揺るがすストーリー性に、本公演を観てみたいと思った。
3. 劇団ニコルソンズ 「セックスレス夫婦の大冒険」
今とても勢いのある劇団ニコルソンズ。
ゾンビ発生というパニックムービーばりの設定の中
セックスレス夫婦や結婚詐欺師、コスプレ風俗嬢やキャバクラのオーナーなど
生き残った人々は、死を覚悟して懺悔を始めそれがまた波紋を呼ぶ。
風俗嬢の数学的あえぎ声(?)には笑ってしまった。
次回はシンプルな役者4人による作品を観てみたい。
4. シアターOM「うしとら」プロジェクト 「うしおととら外伝ECLIPSE金環日食」
冒頭のたっぷりとドラマチックな台詞回しが私的にはすごく好み。
いまやこういうのってアニメか渋い時代劇くらいしかお目にかかれない気がする。
20分の中でもう少し「うしお」と「とら」の語る言葉も聴きたかった。
全巻制覇目指して公演中ということだが、
継続してひとつの原作を舞台化するという試みに
作品理解と世界観の共有の深さを感じる。
作者の藤田和日郎さんが、毎回公演チラシを特別に描いてくれるという話に
このプロジェクトに対する信頼ぶりがうかがえる。
5. 彗星マジック 「丘の上で描いた絵の話」
なんて素敵な衣装なんだろう。
ずっと眺めていたいようなエプロンをつけて少年は丘の上で絵を描いている。
毎日毎日風景に話しかけながら、その風景の移り変わりを重ねていく。
その少年が近くの工場から来るロボットであり、
彼の寿命が尽きようとしていることがわかったとき
「風景」は動けない自分を哀しんで慟哭する。
──「僕」は「君」が描いてくれた「木」だよ、描いてくれてありがとう
ロボットに辿り着いて両脇から彼を支える「木」の姿にボロ泣きしてしまう。
ロボット(この日は木下朋子さん)の絵を描く動作が計算されていて美しい。
宮崎駿ばりの設定と、世界を逆から見るその視点のユニークさが光る。
6. ステージタイガー 「虎をカる男」
動物に育てられた人間を引きとって、人間社会に適応できるようにする先生…
オオカミ、虎、亀(?)、マンボウ(??)
実は先生は、大学の研究室で人間とつきあうよりも、
彼らと触れあって少しずつ人間らしくなっていく過程を見ている方が好きだった。
次第に人間らしくなっていくことが喜びである反面、
先生の苦手な“人間関係”が生じて来る怖れに怯えるという矛盾が面白い。
奇想天外な設定の中に“人間社会の面倒臭さ”が描かれていて意外に鋭い。
もっと筋肉を前面に出した公演が基本らしいから、そう言うのも観てみたい。
もうこれは個人が企画する段階ではないだろう、石田さんすごい。
定期的にこういうショーケース的イベントがあると、観たい劇団は一気に広がる。
ただ、“内輪の交流会”的な雰囲気が濃すぎると
結果劇団関係者の情報交換に終わってしまいそう。
「ビジネスライクでクールな運営」と「熱い楽屋」を両輪として
きちんと定着して定期イベントになってくれたら嬉しいなあ。
Bチームも観たかったのに日程的に行けなかったのが残念。
それと最終日のMCがバンタムクラスステージの福地さんだなんて
もっと早く教えて欲しかった(/_;)
しっかし上野は遠かった・・・。
遠かったけど楽しかった。
秘密の繭
劇26.25団
OFF OFFシアター(東京都)
2012/10/24 (水) ~ 2012/11/04 (日)公演終了
満足度★★★★
繭は藪の中
複数の人間の記憶の中にあるひとつの出来事。
それぞれの思い、思い込み、誰かを守りたい気持ちが交錯して
真実はもうわからなくなってしまっている。
わかっているのは「着地点を探すのは自分自身」だということ。
キャラにはまった役者が生き生きとして魅力的な舞台だった。
ネタバレBOX
「中の下」くらいの弁当を売るアカネ弁当店が物語の舞台。
上がり框の低い店舗兼住居は敷居も低いようで、様々な人が上がり込んでくる。
ここには店主の茜(中澤功)と中3の娘政美(浅利ねこ)、それに
住み込みのアルバイト塔子(星原むつみ)が住んでいる。
そこへある日政美の異母兄 古賀ちゃん(長尾長幸)が久々に訪れる。
迎えた茜と政美は嬉しいのと同時に彼の真意を計りかねて複雑な思いを抱く。
7回忌を迎える父親の死に絡む記憶が蘇る・・・。
冒頭、過去にここで起こったと思われる事件が再現され
シリアスな話なのかと思っているとそうではない。
だいたい長身の中澤功さんがスカートはいて“お母さん”だし。
足がきれいで違和感もなく、すんなりお母さんになっている。
ハイバイなどで成功している“男のお母さん”って私は好きだ。
必要以上の女っぽさを排し、清潔感があって母性が際立つ気がする。
このお母さんと古賀ちゃんが、それぞれ自分がやったと思っている事件。
その真相は繭にくるまれ、政美を含めた3人はその周囲をぐるぐる回っている。
まるで「藪の中」みたいに、ひとりひとりが違った風景を記憶している。
この過去の事件がフラッシュバックのように時折差し込まれながら
日々ここにやって来る人々が描かれるのだが
店の日常を断然面白くするのがキャラの立った登場人物だ。
まず住み込みアルバイトの塔子を演じる星原むつみさん、
この立膝して弁当かっ食らう豪快な女性が面白い。
登校拒否になった政美に対して、意外な優しさと的確な言葉を投げかける。
この人のキャラに勢いがあって雰囲気を牽引する。
「美術館に勤めながら人の悩みを聞いて小銭を稼いでいます」と自己紹介する
気功師見習い中国人リーを演じる林佳代さんも面白い。
いかにもな日本語のイントネーションと大陸的自己中心思想(?)が可笑しい。
全員で歌を歌ってひきこもった政美を外へ連れ戻そうという(天の岩戸か!)
“我的方法最上解決”(多分こんな発想だろう)スピリッツ全開。
ちょっと危ない隣の床屋を演じた杉元秀透さん、“いるいるこういう人”感ありまくり。
古賀ちゃん役の長尾長幸さんは不思議な役者さんだ。
イマイチはっきりしなくて優柔不断な古賀ちゃんが妙にリアルなのは
この人の声とか表情が魅力的なせいだろうか。
暗転とは別に、役者さんが整然と小道具を抱えて移動する場面転換が効果的。
役のまま時間の経過を感じさせる移動で、ごく自然に次のシーンに流れて行く。
ただ過去の出来事の真実は一体どうだったのかがはっきり描かれないので
若干消化不良な感じが残る。
古賀ちゃんが“旅に出る”のは自己犠牲なのか“着地点”を見つけたのか
評価のしようがなくてもやもやする。
完結させないのは続編につなげるためだとしたら、それもアリだと思う。
事の真相と、それを人々がどう受け止めるか。
それがあって初めて、各自の着地点が見いだせると言うものだろう。
45Av(フォーティフィフスアベニュー)の悲劇
メガバックスコレクション
阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)
2012/10/20 (土) ~ 2012/10/28 (日)公演終了
満足度★★★★
もう一度観たら
舞台に向かって横いっぱいに事故現場と化した地下鉄構内が広がる。
最後まで緊張の途切れない台詞と
ドラマチックな照明が印象的な舞台だった。
もう一度観たら、何が視えるだろうと思わせるラストが忘れられない。
謎解きもよいが、登場人物のキャラが立体的で面白い。
2015年10月21日のN.Y、時代を反映した登場人物の背景が活きている。
前川史帆さんが凛としてとても魅力的な人物を見せた。
ちょっと残念だったのは、登場人物の職業が明かされた時に
ちらっとオチを予想した人が結構いたのではないかということ。
ネタバレするわけにはいかないのでこの辺でやめとこ・・・。
それにしてもメガバックス、毎公演重症患者のうめき声がリアルだ。
思わず“もう楽にしてやれ!”と思ってしまう。
荒唐無稽な設定が説得力を持つのはこんなところにも理由があるような気がする。
こい!ここぞというとき!(2012年サンモールスタジオ最優秀演出賞、受賞)
ポップンマッシュルームチキン野郎
サンモールスタジオ(東京都)
2012/10/18 (木) ~ 2012/10/29 (月)公演終了
満足度★★★★
”ここぞというとき”逃げない話
「いい大人がよくもまあ…」という馬鹿馬鹿しさがポップンの魅力。
笑っているうちに怒涛のナンセンスに巻き込まれて
気がつけばいつしか私も一緒に車に乗っていた・・・。
ネタバレBOX
逆田真(加藤慎吾)は父親を探している。
小さい時に家を出ていったきりの父親は、興信所に頼んで調べてもらうと
新宿で店をやっていると言う。
その店「無いチンゲール」はぼったくりバーで、父はそこのママになっていた。
名前を隠して客として入った真は、父親の婚約者アスオ(仁田原早苗)を探しに
店の従業員やアスオの大家(小岩崎恵)と共に車に乗り込む羽目になる。
そして様々な人と出会いながら、札幌を目指すのだった。
舞台を上下に割っての構成が面白い。
下では張りぼてカーが2台(?)疾走し、
上では車を降りたところでの出来事が描かれる。
無いチンゲールのママで真の父親(吹原幸太)が上手い。
父親として家族を持っていた時期を「無かった事にしたい」と言いつつ
さっき別れた男が息子だったと判ると(やっぱり…)と一瞬取り乱す。
ストーリーを牽引するもうひとつの力が
バーの従業員カツ子(サイショモンドダスト★)のパワーだ。
サイショモンドダスト★さんって手術してたっけ?
客席後ろの方から観ていたので思わず目を凝らすほど本物みたいな胸してた。
スキの無いなり切りぶりといい、客の財布を盗るタイミングといい素晴らしい。
CR岡本物語さん、相変わらず極小衣装で身体を張っての芝居が可笑しい。
この人の“声はイケメン、実はヘンタイ”な役どころは
いつもポップンのポップンたるテイストを支える役目を果たしている。
ポップンの作品にはいつもマイノリティへの共感があって
今回もゲイやSM愛好者、幽霊や未来からの訪問者、
果てはジャガイモ・玉ねぎに至るまでみんな一緒に車に乗って行く。
これは、それぞれが抱える葛藤や旅の理由を乗せたロードムービーだ。
幽霊の心情などほろりとさせて、まさにタイトルの”ここぞというとき”を思わせる。
ちなみに私がポップンを好きな理由のひとつに”間のセンス”がある。
カレー云々のあたりでは、その”間”に爆笑してしまった。
次のシーンで何気にジャガイモと玉ねぎがいなくなっているのも可笑しい。
ラスト、名乗らないまま一人車を降りてから
今別れた父親の携帯に電話をかける真。
走る車の中でその電話を受ける父親。
一瞬だけ二人が浮かび上がってすぐに暗転して終わる。
この終わり方がすごく効いている。
なんて洒落たエンディングなんだろう。
この思いがけず丁寧な人の気持ちの掬い方があるから
ったくいい年してよくやるよ、と笑いながらまた次も観たくなるんだよなあ。
東京バンビ 最後の公演 !?
元東京バンビ
OFF OFFシアター(東京都)
2012/10/16 (火) ~ 2012/10/21 (日)公演終了
満足度★★★★
”詰めの甘さを情で補う”個性全開
劇団の作・演出の稲葉氏が失踪(?)して窮地に追い込まれての公演。
一体どーしたのよ的な興味も手伝ってか、雨になった平日の夜、劇場は満席となった。
別に解散することないんじゃないの?と思ったのは私だけか?
ネタバレBOX
冒頭シリアルキラーの女(赤崎貴子)がナイフを持って男に襲いかかるところから始まる。
ふとしたことからその女と結婚したはやし(はやし大輔)は、1年経っても
挙動不審なほど幸せいっぱい、勝手にしろってほどデレデレしている。
ある日彼は自宅に地下室があることを発見、そこに見知らぬ男(アダチヒロキ)が監禁されていることを知る。
妻がシリアルキラーであると言われも尚認めたくないはやし、
しかしついに妻がナイフを手にしながら「私を止めて!」と叫ぶのを目の当たりにする。
これが劇中東京バンビが上演しようとしている作品のストーリーである。
“シリアルキラー妻”の話がフィクションなら、一方は“リアルバンビ”のノンフィクション。
台本が進まなくて苦しむアダチや、
途中不安になったキャストが降りると言うのを説得しながらの稽古風景が描かれる。
そしてようやくシリアルキラーの台本は完成したが、ひどい演出に出演者が全員降板、
本番前日ついにアダチは一人ぽっちになってしまう。
ひとりで複数の役を演じながら途方に暮れていると、
そこへ戻ってきたのははやしだった・・・。
東京バンビの持ち味は、“詰めの甘さを情で補う”ところだ。
もう少し突き詰めればきれいに完結するかも、というところで
「まあ、しょうがないじゃん」「そんなこと言わずにそこを何とか」
と情に訴える(時に土下座をする)。
それは演劇論的にイマイチなのかもしれないけれど
人の弱さやダメさ加減、何よりそういう連中を放っておけない人々の気持ちが
にわかに現実味を帯びて来る。
アダチが「観に来てくれよ、ブースに席作るから」と電話をかけていた
あの相手は稲葉氏だろうと思う。
こういう所も“情で動く”バンビらしさの現われだ。
リアルバンビの稽古風景がどこまで事実なのかは解らない。
しかし、稽古途中で「アダチまでもがバックレたか」と全員蒼白になった時の
はやしのふりしぼるような叫び。
そしてラスト、戻ってきたはやしと台詞を叫ぶアダチの泣き笑い。
二人ともマジで泣いてたから、こちらもマジで泣けて仕方がなかった。
このふたりぽっちの絆こそ究極の“情で動く”バンビの個性だと思う。
この”最後感”の醸し出し方、結構上手いし
ネタとしてなら逆にしたたかさが頼もしい。
稽古風景のナンセンスはとても可笑しかったし
客演のはじけっぷりも楽しかった。
加藤美佐江さん、整った顔立ちで美人なのにあの壊れっぷりは素晴らしい。
客席の反応は”最後だから”というご祝儀だけではなかったと思う。
東京バンビ、再結成を待ってるぜ!
『グレイトフル♥ティア~ズ』
劇団コスモル
OFF OFFシアター(東京都)
2012/10/10 (水) ~ 2012/10/14 (日)公演終了
満足度★★★★
”Vシネ系ベタピュア”
笑いとシリアス、ベタと洗練、混在する矛盾が醸し出す不思議な空気の中で
ラストは思いがけず泣けてしまった。
何だろう、これ。
日本刀も振りまわすが、姉弟や男と女のベタな情愛もあり、という展開は
“Vシネ系ベタピュア”・・・?
ネタバレBOX
倉庫のような事務所、探偵ミカミ(石原義信)がソファで寝ている。
5年前に別れた恋人日山ゆり(奥村円佳)が夢に出て来て「ミカミくん…」と呼びかける。
目が覚めるとゆりから手紙が届き「私が死んだら死の謎を解いて」と書かれていた。
追いかけるように河川敷でゆりの死体が発見され、ミカミは捜査を開始する。
調べていくと会員制ショー・クラブ「くちべに」と、その裏のコールガール組織が浮かぶ。
ゆりは一体誰に殺されたのか、ミカミは「くちべに」に乗り込む・・・。
ミカミの夢や過去の出来事の場面では透けるようなスクリーンが下りて
そこにどでかい文字で台詞が映し出されるのがアナログで面白い。
探偵事務所の壁に冷蔵庫や黒電話が収納されているのも面白い。
すっきりコンパクトな空間でおしゃれな探偵物語が始まるかと思いきや
昔懐かしいコントのような刑事の兄(鳥飼卓司)が出て来てびっくり。
「くちべに」の主いばらを演じる作・演出で主宰の石橋和加子さんがすごい存在感。
父親から暴力を受けて育ったいばらは
その父が女と出ていった後、弟を手にかけようとした母親を殺して少年院に入った。
15歳でシャバに戻って弟と暮らし始め、
やがて政財界の大物を顧客に持つ会員制高級クラブ「くちべに」を運営するようになる。
クラブで歌い踊る一方で、人を殺めた時の記憶を失っているいばらの表情が良い。
大げさでコントのような周辺の芝居は、結果として
いばらの重い人生と姉をかばおうとするヤクザな弟一角(山内康央)、という
主軸のシリアスさを際立たせている。
姉が母親を殺した理由を知る前の一角のやり場のない憤りやいら立ちの表現に説得力があった。
いばらと共にクラブを運営している男Viper(山本光政)、最初は違和感もあったが
最後彼女の名前を呼ぶところ、優しくて哀しくてとても良かったと思う。
この姉と弟と男の情や、ミカミと一角の日本刀による殺陣などのテイストが
まさにこてこてVシネ路線な気がするのだが、私はこれが結構好きだ。
ミカミとゆり、ミカミと一角の関係がベタな演出ながらとてもピュアに感じられる。
ミカミと一角の握手の場面など、タメも長いが引っ張りも長くて歌舞伎のようなテンポだ。
ちょっと残念だったのは、ミカミがゆりの遺体を最初に見た時の反応。
忍び込んだユリの実家で、刑事の兄との対面に驚いてゆりの遺体との対面がおろそかになった。
ラスト、ミカミが目を閉じてゆりとの再会をかみしめるところが
超ベタな演出ながら何だか泣けてしまったほど良かっただけに
途中もゆりとの関係を大切にして欲しかったと思う。
ダンスはもう少しレベルアップして絞り込んだ方が効果的な気がした。
ミカミのキーボード演奏など、前後の準備が必要なものは舞台の流れをさえぎりがちだし、
役者がソファを移動させたり小道具を手渡ししてハケるところなども
演出の工夫でもっと整理できるのではないかと思った。
いばらのキャラが鍵を握る展開が面白いだけに、
ミカミと一角のひとすじの涙がより浮き彫りになるような演出に期待したい。
ゴベリンドンの沼 終了しました!総動員1359人!! どうもありがとうございます!
おぼんろ
ゴベリンドン特設劇場(東京都)
2012/09/11 (火) ~ 2012/10/07 (日)公演終了
満足度★★★★★
リピートの理由
毎日「ゴベリンドンの沼」を観て来た人達のコメントを読みながら
「もう一度あの空間に身を置きたい」と思うのはどうしてなのだろう。
そして千秋楽、私は再び廃工場の前に立っていた。
当日券の、最後の最後の方に並んで見切り席に座った時、
ここで34回目のステージに立つ5人のことを考えてなんだか泣きたくなった。
ゴベリンドン(高橋倫平)の慟哭と関節が外れるかと思うほどの動きが素晴らしい。
彼の「すまない…」と言いながらのたうちまわるような苦しみが
誰もが持つ弱さと死への怖れから生まれたものであるだけに、一層切なく哀しい。
この異形の者が深い共感を呼ぶのは、設定の巧みさと高橋倫平さんの演技力だろう。
今回は私の足元に照明があったこともあり、照明操作の繊細さや
音響のタイミングの完璧さも感じることが出来た。
最後のステージを終えて挨拶したらすぐ、預かった客の靴を運び、台本を販売し、
乾杯の飲み物を配る5人の動きを見ていると
何か他の公演とは違う“心地よい温度”を感じる。
5人の演技だけでなく、客席や美術や廃工場といった
芝居を取り巻く全てのものが、来る人を歓迎してくれる。
何度も足を運ぶリピーターもきっとそれを感じているのだと思う。
頬に涙の雫を描いたメイクが流れて落ちている5人の顔を見て、改めて判ったのだ。
私は今日ここへ、ただこの5人に会いたくて来たのだと──。
私はもう次の舞台を心待ちにしている。
小さなエール
643ノゲッツー
OFF OFFシアター(東京都)
2012/10/02 (火) ~ 2012/10/07 (日)公演終了
満足度★★★★
変わろうとする人にエールを送る
道徳の授業みたいに“反省”し“心を入れ替える”主人公が出来過ぎの感もあるが
「じゃあどうすればいいのか」という根源的な問いに対して
作者は反論を覚悟の上でひとつのメッセージを発信していると思う。
役者が自ら操作する照明による独特の雰囲気が超現実的なシーンを和らげる。
ネタバレBOX
父親の七光りで豪邸で好き勝手に暮らし、父の愛人の娘たちを
虐待するようにこき使っていた涼太(海老根理)。
会社の経営コンサルタント(谷仲恵輔)の助言にも耳を貸さず
ついに父親は病死、会社は乗っ取られ、妹は通り魔に刺されて死んでしまう。
新しい主としてこの豪邸に乗り込んで来たのは社長令嬢で、
涼太が何度も振ってコケにしてきた娘だった。
他に生きる術を持たない涼太は、彼女に仕える身となってしまう。
ここから社長令嬢始め、こき使って来た使用人たちから
執拗な報復を受ける生活が始まる。
ほとんど昼の連ドラみたいに怨讐渦巻く環境の中で涼太は驚くべき変化を遂げる。
自分のこれまでを反省し、復讐する人々の理由も含め全てを受け容れていくのだ。
その姿は、「零落ぶりを見に来ました」とうそぶく坊主などよりよほど宗教者のようだ。
この豪邸の主の会社に、次々取り入っては潰してきたコンサルタント自身が
たった一度の買収失敗によってリストラされ落ちぶれる様は壮絶だ。
結局涼太の変化が、愛人の娘たちや社長令嬢の心にも作用して
人々はひとつずつ小さな灯りを手にしてこの屋敷を去っていく──。
こんなに真摯に反省、受容して人の心を理解できる人間が
どうして最初あんなに人を人とも思わないような扱いをしてきたのか
その変化に飛躍があり過ぎるから、違和感を覚えざるを得ない。
だが、「じゃあどうすればいいのか」という開き直ったような問いかけに
作者は直球ストレートでひとつの思いをぶつけて来る。
「いじめる人間が変わらなければ何も変わらない」
いじめられて逃げ出しても、先生に言いつけても、マスコミが騒いでも、警察が介入しても
いじめはなくならないし何も変わらない。
平然と他者の痛みを「笑う」行為は、「想像力の欠如」に他ならない。
作者はそこに気付いた涼太の苦悩を描き、彼に小さなエールを送っている。
役者が操作する小さな灯りは、過去と現在を照らし分け、個々の孤独を浮き上がらせる。
横断歩道で鳴る「ぴっぽっぴっぽ・・・」という音が終始小さく流れて
目の前の上下関係が間もなく逆転するのをカウントダウンしているようだ。
次はあの坊主が宗教法人としてこの豪邸を買い取って、いつか脱税で捕まって・・・
みたいな展開もありかもしれないと想像させる。
海老根理さんの素直な表現が、涼太の激変ぶりを“性善説”として訴えてくる。
コンサルタントの谷仲恵輔さん、少し前に芝居屋風雷坊の「今夜此処での一と殷盛り」で
探偵を演じてとても印象的だったが、
「サラリーマンの自信」が時として「想像力の欠如」から来るものだと言うことを
ブレない演技でまたまた強烈に印象付けた。
涼太の渡す小さなキャンドルが、そのまま
変わろうとする人々への小さなエールに見えた。
「人が変わる」とは、それ程に難しく苦しいものなのだ。