カラスの楽園 公演情報 Trigger Line「カラスの楽園」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    圧倒する演説
    あまりにも有名な「ケネディ大統領暗殺事件」を
    フィクション・ノンフィクション織り交ぜての作品。
    巧みな構成と役者の熱演で、誰もが知る結末ながら
    最期まで緊張の糸が途切れることがない。
    ラスト崩れ落ちるレナードの姿が脳裏に焼き付いて離れない。

    ネタバレBOX

    ジョン・F・ケンドリック(ケネディ)大統領には信頼できる側近たちがいる。
    司法長官は弟のレナード・F・ケンドリック(ロバート)、
    レナードの親友でもある補佐官のジミー、スピーチライターのハリー、
    そして大統領の妻ジェシカ(ジャクリーン)。

    対立する副大統領のランドリー・ジャクソン(ジョンソン)には
    側近のエル・クレイトンがついて悪知恵を働かせている。

    この人間関係がとても分かりやすくて良かった。
    人物像が誇張され気味ではあるが、逆にリアルなだけだったら
    ここまで権力にしがみつき欲望に翻弄される孤独な姿が描かれなかっただろうと思う。

    楽園の舞台を活かしたスピーディーな人物の出ハケ、
    歴史を踏まえた細かい事実の積み重ねもさることながら
    何と言っても、そこに至る人間の腹の底から出て来る台詞が素晴らしい。

    レナード役の林田一高さん、最初は端正なたたずまいだったが
    兄を死なせたという罪の意識から立ち直って大統領選に出馬するまでの
    変化の過程がとてもよかった。

    特に演説、黒人執事デボラをかばってデモの群衆に呼びかけるところ
    そして最期の大統領候補予備選挙での演説が素晴らしい。
    客席に背を向け、聴衆に語りかける背中が雄弁で自信にあふれている。
    マイクが彼の言葉にエコーをかけて会場の臨場感Max。
    この後暗殺されると判っているのに、撃たれた瞬間は息が止まるほどの衝撃だ。
    混乱する周囲が右往左往する中、しばらく棒立ちで取り残されたようなレナードが
    崩れるように膝から落ちるラスト。
    照明のドラマチックな効果もあって忘れられないシーンだ。

    対する副大統領を演じた経塚よしひろさん、
    権力が無ければ誰も寄って来ないような男を
    まばたきしない誇張した描写で、その孤独な人生まで描いて見せた。
    「大統領にしてもらった男」の慟哭が聴こえて来る圧倒的な存在感。

    副大統領に仕えながら常に「俺がお前を大統領にしてやった」と思っている
    側近のエル・クレイトン役のヨシケンさん、
    悪役ながらたっぷりした台詞が心地よくて聴き惚れてしまう。

    暗殺者の大道芸人を演じた三上正晃さん、
    最初登場した時に見せるジャグリングの手さばきがスゴかったので
    この人何者?と思ったが即興演劇集団インプロモーティブというところの方だった。
    このほとんど台詞の無い暗殺者がこんなにも似合う役者さんは少ないのではないか。
    ピエロのようなメイクで正体を隠す大道芸人という設定がはまりすぎ。
    エル・クレイトンと自爆するシーンは圧巻で音響・照明ともとても良かった。

    少し気になったのは音量のこと。
    客入れの時のBGM、選曲はとても良かったのだが音量が大きかったように思う。
    私のすぐそばに立っている前説の方の声が聴きとれないほど。
    銃声や爆発音が際立つのは良いが、音楽は控えめが効果的な気がした。

    撃たれて崩れ落ちたレナードの姿で暗転した後、
    客を見送る林田さんの顔が青白く、まだレナードの面影が
    色濃く残っていたのが印象的だった。
    「カラスの楽園」の答えを、私は今も考えている。

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    2012/11/24 15:43

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