寒花 公演情報 寒花」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.8
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  • 満足度★★★

    ハツビロコウ版とはずいぶん違うなあというのが第一の感想である。医者一人をとっても今作の医者は酒を飲んでもしっかりした態度であった。ハツビロコウ版では「酒に飲まれている/世の中に斜に構えている」度合いが強く駄目な人間と私は感じた。

    2つの版を観た結論は、「寒花」という作品は、良く言っても安重根の収監と死刑執行という事実からインスパイアされたファンタジーであり、悪く言えば注目度の高い安重根を客寄せに使い実際は自分の好きなことを描いただけのものである。これを観て安重根について何かを語ることは止めた方が良いだろう。

    歴史的事実により近いことを知りたいと思ったらウィキペディアの「安重根」の項目を読んだ方が1,000倍もためになる。そこには弟たちが面会に来たことが書かれている。「寒花」では家族の面会はなかったことになっていたがどうしてそんな嘘の設定にしたのか理解不能である。演劇なんてそんなものなのさとつい斜に構えてみたくなるキョウコノゴロデアル。まあこの作品も「リチャード3世」なんかと同じ態度で観るべきなのだろう。歴史的事実は別にして、演劇としては長時間にもかかわらず飽きずに観ることができた。

  • 満足度★★★★

    昨年ハツビロコウがやった緊迫の同舞台を観た際、既に文学座の速報が折込に入っており、とても楽しみにしていた。が、会場がサザンシアターと知って躊躇した。文学座はアトリエ公演は大変良いが(「寒花」の初演もアトリエだった)、ホールに出ると途端に「新劇」の典型のような舞台になる。今回もその範疇になった。
    もっともハツビロコウのが全てにおいて優れていた訳ではなく、旅順の監獄での日本人同士の対立の中でも、若い外務官僚が日本の侵略の正当性を激しく訴える場面は文学座は「正しく」(皮相的に)作っていたのに対し、ハツビロコウでは「彼の主張こそ真実」と見えかねない響きを持った(反論が台詞で書かれていないし)。激しい議論の格好良さ・熱さを追求した結果だろうが、トゥルースを脇へ置いたわけである(それにより両論併記が成立し、事実性を疑う主張が両論併記で同格扱いになればどんな事実も事実の座を奪われて行く)。
    文学座のほうは台詞をヒロイックに吐かせたりはしないが、「そうしない」だけで長所と言えるかどうか・・。演技態が全体にコメディ向きで、この戯曲にこの形では(本人達の主観はともかく)表現者として高飛車に見えてしまう。演出の西川氏がパンフに書いていた初演時の(鐘下氏に執筆依頼した際の)懸念通りの舞台に、サザンシアターという会場向けの舞台にした時点で、恐らくなった。
    テキストを受け止める観劇にはなっただろうが、私が描く鐘下戯曲の世界には遠くなった。

    ネタバレBOX

    見た形の違和感の筆頭は、安重根の舞台上の扱い。唯一韓国語を話せる(そのために招ばれた)若い通訳者と安の対話シーンでは、二人の間に生じた閉じた世界が見えたいところ、椅子に座る位置もオープン(客席側、センター寄りに傾けた斜め)で、芸が無い感じだ。これも大会場を考慮した結果か。
    紅一点となる通訳者の精神を病んだ母親が、トーンの高い声で騒ぎ立て、劇的盛り上がりだけが目指されていてリアルでない(記号的に理解するのみ)。
    音響も私にはいまいちだった。吹雪の音の高まった暗転からの開幕後、音がぐっと落ちて「閉塞性」を出したいが音が落ちきらない。聴こえる者だけに聴こえる、コン、コン、コン・・という音(キリストがゴルゴダの丘で礫刑になる時に手足に楔が打ち込まれる音)が脚光を浴びるシーンでも、演劇的盛り上がりを演出しようとしたのだろう、それまで使っていた音のボリュームを上げるとかでなく、それまで全く使われなかった金属的な「キーン、キーン、キーン」と別な音を聞かせる。ああ、劇的に演出しようとしたんだな、という「意味」として捉えたが、もちろん感興は湧いてこない。せめて元の音を加工したくらいにしてほしかった。
    音楽もチェロ主体で悪くないが、音頼みに場面を閉じ繰るところに「役者だけで表現しきれなかった断念」を感じさせる。極めつきは最後、通訳者の母親が安を見て、亡くした長男だと誤解した事で瞬間訪れた平安を、安が受け止める不思議なシーンで終幕となるが、ここで音楽にオルガン曲を使う。選曲にも注文があるが、それは置いても、形が決まる前から聞こえていて場面の意味合いを押し付けられる。役者が表現したものを補助的に、うっすらと流す程度にしてほしかった。オペが粗い印象だが、これも「大会場」という事情から来るものか。
    諸々残念だったが奮闘した場面もあって、それらは断片的だが良いものを残してくれた。作品が持つトーンは好きである。
  • 満足度★★★★

    俳優たちは優れた演技を見せてくれるが、この作品にしては劇場がちょっと広すぎて監獄の閉鎖的な雰囲気が今一つだった。あの二人が同級生というには・・・。

  • 満足度★★★★

    鑑賞日2019/03/04 (月) 18:30

    座席1階

    タイトルの寒花とは、極寒の地に舞う雪という。文学座がアトリエで上演したものをサザンシアターという比較的大きい劇場で再演、その初日を拝見した。
    初代韓国統監伊藤博文を暗殺した安重根が処刑前に収監された旅順の監獄が舞台。信念を持って殺害を実行した安が毅然と、泰然と死刑を受け入れようとしているのに対し、監獄の看守長や通訳など日本人たちはそれぞれの思いや背景を抱え、落ち着かない。日本はアジアの盟主として君臨しようと体裁を維持するのに腐心しているのが情けない。それはともあれ、死に向かう人間の心理、心の動きを少し斜めから見つめている舞台といえる。
    今の時代の価値観から言えば、どんな理由があれ暗殺は許されない。その観点では安を英雄的に描いていて落ち着かない感じも。今の日韓関係には寒花が舞っていて、歴史の教訓を考えるのも、なんだかタイミングがよくない気も。舞台を見た後、かなりの重みを体に感じたのは、そんな今の政治状況があるからかもしれない。

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