舞台芸術まつり!2019春

劇団あはひ

劇団あはひ(東京都)

作品タイトル「流れる

平均合計点:25.0
川添史子
河野桃子
鈴木理映子
古澤 健
堀切克洋

川添史子

満足度★★★

月のように見える時計、揺らめくタバコの煙、自在に変容する空間は時間を伸縮させるよう。松尾芭蕉と河合曾良を軸にし、そこに「鉄腕アトム」の(息子を事故で亡くした)天馬博士、その息子のカタチを映したアトムが入ってくるのは大胆な発想。ジャズの音色も心地よい(生演奏だったらとってもカッコ良さそう)。能の要素を現代に置き換える色々なアイデア豊富で楽しかったです。

ネタバレBOX

古典の新解釈が目的の劇団ではないのですが…数ある謡曲から「隅田川」を選んだ理由/こだわり/今上演したい理由がもっと作品から見えてきてほしいと思いました。原作にある普遍的なテーマ、狂おしく子供を思う心…我々が人に抱く「思い」をきちんとすくっていて、そこには胸を打たれました。演技のトーンや役者の動きについては、これが正解なのか疑問が残りましたが、好みの問題かもしれません。

河野桃子

満足度★★★★

「隅田川」は好きな作品だけど古典にはそこまで詳しくない……そんな私には心地よい脚色でした(古典好きな方などはまた感想が違うのでしょう)。
俳優さんが良くて、長さもちょうど良くて、この作風と演じ方でもうちょっと長かったらとたんに苦痛になっていただろうから、「ちょうど」のところにおさめるセンスもいいなと思いました。個人的にはもっとカタルシスがあってもいいけれど、チケット代金を考えると十分。

鈴木理映子

満足度★★★★

能の「隅田川」の世界と、現在の東京の隅田川の眺めが、劇場空間を通じて重ねられるのを目撃できました。隅田川の風景を切り取る目線として「俳句」を配置したり、漫画を引用したキャラクターを登場させるなど、独自のアップデートも施されてはいますが、そうした工夫自体を楽しむというよりは、それを通して古典を読む/体験することができるつくりになっているのに好感を持ちました。シンプルな空間設計を通じ、翻案でも再解釈でもなく、現代の小劇場に古典(能)を呼び出し、立ち上げようとする面白い取り組みだったと思います。

古澤 健

満足度★★★★★

観た。

ネタバレBOX

現代口語でやりとりする松尾芭蕉と曽良。しかし、それがパロディとして漫画的に描かれるのではなく、リアルな人として立ち現れていた。書かれた言葉からはこぼれ落ちてしまう、ノイズまみれの歴史上の出来事。仮に芭蕉の生きた時代にカメラがあったら、こんな風に芭蕉は喋ったのではないか、という感触があった。あるいは江戸時代がその後終わっていなかったとしたら、21世紀はこんな風景だったのかもしれない。可能世界は単なる思考実験ではなく実在することが、演劇であるからこそ証明されたと思った。
母親を探す息子、なぜ父親を探さないのだろう、というところに個人的には強く興味がひかれた。名もなき母親と、著名な科学者。おそらくふたりが行方不明になったとき、世間には父親の行方に関する情報・噂などは多く流通するだろう。が、名もなき母親は煙のようにあとを残さず、その行方を追うことは困難だろう。だからこそ、子の母を思う気持ちの強さが感じられる。そして逆説的に、父親の存在が煙のような軽さに転換してしまう。それゆえ、父は母のような格好をしていたのではないか? あまりに軽い父は、髪を伸ばして母のような外観を纏うことでようやく息子のことを語れたのではないか?

堀切克洋

満足度★★★★★

物語のアレンジに独自性がありながら、能のように、ジャズのように、水のように、心地よく流れていく時間。

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