蛇ヲ産ム
日本のラジオ
ギャラリーLE DECO(東京都)
2010/12/22 (水) ~ 2010/12/26 (日)公演終了
満足度★★★
不思議な面白さ
ギリシャ悲劇はあまり読んだり観たりしたことがないのですが、分かり易い演出で楽しめました。シリアスさと緩さの加減もちょうど良かったと思います。激しい展開で目を見張るようなシーンはないのですが、何か惹かれるところのある、不思議な面白さのある作品でした。
テーブルと椅子、壁には登場人物の相関図だけの素っ気ないセットに照明も音響の効果もなし、衣装も一人を除いて現代の若者の普段着というセッティングでしたが、熱過ぎず冷め過ぎずな温度感の演技とちょっとの小道具だけで、演劇としての空気感が醸し出されていました。
登場人物の共通する異なる年代の2つの物語が交互に演じられる形式で、出捌けなしで何の要素も変化しないで物語が切り替わってもちゃんとどちらの物語かわかる演出が見事でした。
若者言葉で喋る男性2人のキャラクターが妙に気弱な性格だったり、クリュタイメストラやその娘たちの普通の会話っぷりが、ギリシャ悲劇を身近なホームドラマ風にしていて親近感を持てました。
狂言回し役として演技されるときはもう少し登場人物としての演技とスタイルを変えるとメリハリがついて良くなったと思います。
スイッチ【公演終了】
東京アシンメトリー舘【閉舘】
渋谷 夜カフェLAX(東京都)
2010/12/17 (金) ~ 2010/12/29 (水)公演終了
満足度★★
ちょっと期待はずれ
渋谷のカフェでの公演で、カフェの店員や常連客の織りなすコミカルでハートフルな物語でした。自然光の入る開放的な空間の中、ゆったりとした座席で鑑賞できて気持ち良かったです。
こりっちでの評判がとても良いので期待していたのですが、個人的にはそれほどまでの作品には感じられませんでした。
同時に多くの人が話しているシーンをフォーカスを変えて3回演じたり、人形劇があったり、突然解説役が出て来たりと、色々な演出手法を盛り込んで客を楽しませようとする意欲を強く感じましたが、いまいち効果が上がってないように感じました。ゴチャゴチャしていて逆に物語の流れを阻害しているような印象を受けました。
ストーリーに関しても、宇宙人と喫茶店オーナーについてはオチが付いていましたが、他の登場人物たちはどうなったのかが見えて来ず、残念でした。少し苦みが残る、完全なハッピーエンドとは言えない終わり方は好みだったので、もっとその苦みを強調しても良かったと思います。
生の舞台ならではの手法を使ってエンターテインメント作品を作ろう姿勢は共感できるので、脚本と手法がより密接に繋がった作品を期待します。
ボーナストーク
ホチキス
王子小劇場(東京都)
2010/12/24 (金) ~ 2010/12/31 (金)公演終了
満足度★★★
脱力ギャグと熱い心
下っ端のヤクザのもとに魔界から悪魔がやって来て起こる騒動を描いた物語で、前半の脱力感のある笑いと、後半の熱い感情の対比が鮮やかでした。
出だしはギャグも滑っていて大丈夫かなと思わせられましたが、魔界の女王が出て来て芝居に対する自己言及的なメタな台詞を言う辺りから、わざと滑った笑いを狙っていることが分かって来て、客席の反応も良くなって楽しめました。本当に微妙なギャグのときは客席も沈黙だったのが可笑しかったです。後半は友情や愛情がクローズアップされて素直に泣ける物語になっていました。
日替わりゲストは小林タクシーさんでしたが、日替わりゲストの登場するシーン(物語の展開とは直接関係ないシーンでした)は大まかな展開だけ決めてあとはアドリブでやっているらしく、みなさんの素なのか演技のなのかよく分からないグダグダっぷりが素敵でした。
セットは病院内の一室を表したものですが、他の場所のシーンを演じるときは舞台前方と下手の少し高くなったところを使っていて、そのシーンの間、病室にいるキャストがそのまま佇んでいる様子もシュールで笑えました。
人工的なパースを効かせたセットや、悪魔のいかにもな衣装&メイクも安っぽさギリギリのラインを狙っていて良かったです。脚本はもう少し丁寧な方が良いと思いました。
黴菌(ばいきん)
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2010/12/04 (土) ~ 2010/12/26 (日)公演終了
満足度★★★
控えめ
『昭和三部作』第一弾の去年の『東京月光魔曲』が良かったので、今年もコクーンへ赴きました。去年は回転舞台を使った大掛かりな美術が強烈だったのですが、今回は一室空間ものということでビジュアル的には控えめに感じました(それでもコクーンなので、かなり立派なセットですが)。
ビジュアルのインパクトがない分、物語と演技に集中して観ることが出来ました。多くの人が登場しますが、いかにも主人公という役はなく、2人または3人の会話が続く構成の群像劇でした。全体を貫く大きなストーリーよりかは、会話からあぶり出されてくる各キャラクターの心の動きを味わう作品だったと思います。
時代は第2次世界大戦が終わる頃、ある富豪の家の中で3人兄弟を中心に物語が進み、チェーホフの作品を彷彿とさせる雰囲気で、途中にはチェーホフの『かもめ』の有名なシーンが引用されていました(引用元と違って、コミカルなシーンになっていました)。チラシのビジュアルやタイトルからはサスペンス的なものを予想していたのですが、あまりそういった感じはなく、むしろホームドラマ的なないようでした。
ケラさんの作品にしてはあまりブラックな感じがなく、ナイロン常連メンバー同士の絡みがあまりないせいか大爆笑のシーンもあまり多くなく、全体的に控えめに感ました。毎回趣向を凝らしているオープニングの映像も今回はセットと関係しない内容で、驚きを感じられず残念でした。後半の照明の演出は物語の展開上の必然性が感じられず、雰囲気作りのためだけに入れた演出に感じられて気になりました。
出演者の方々はみな個性的で良かったです。特に高橋恵子さんの品のある美しさと、池谷のぶえさんの健気さが印象に残りました。仲村トオルさんが普通ならナイロンの劇団員か常連の役者が担当するような、コミカルな暴走気味のキャラクターを演じていたのが意外で面白かったです。
会話劇中心の作品だったので、もう少し狭い劇場で役者たちを近い距離で観てみたく思いました。
来年の第3弾はまた違うタイプの作品になることでしょうから、どうなるか楽しみです。
作品自体の評価は☆4ですが、チケットの値段を考えると☆3が妥当かと思いました。
原野のささめき
NPO法人 魁文舎
スパイラルホール(東京都)
2010/12/21 (火) ~ 2010/12/23 (木)公演終了
満足度★★★★
死者たちの儀式
オペラと題されていますが、歌手は歌詞のある歌はほとんど歌わず、テキストは録音された台詞と字幕で出されるという特殊な上演形態の作品でした。
物語は断片的に提示され、明確には表現されないのですが、父を訪ねて行った土地で死者たちのこだまを聞くという内容で、孤独感や倦怠感を強く感じさせるものでした。
奏者もただ演奏するだけでなく、役が割り当てられていてボディペインティングとボロボロの衣装を纏い、客席内に入ってきて演奏することもあり、舞台を観ているというよりかは儀式に参加しているような感じでした。
ギターやコントラバスは普通に演奏されることはなく擦ったり叩いたりしてパーカッションと共にノイズを奏で、荒涼とした雰囲気をかもし出していました。
トロンボーンは権力者の役を担っていて、それにふさわしい破壊的でかつ滑稽な響きが、この作品の中で唯一活動的であるのが印象的でした。
田中泯さんの死の苦しみを表すようなダンスと子供たちのイノセントな佇まいの対比が美しかったです。
音楽的には新鮮でかつ心のに突き刺さる繊細な音響構成(いわゆる「音楽」とは全然異なるタイプの音です)で素晴らしかったのですが、劇作品として観ると弱く感じました。今回は作曲家自身の演出だったのですが、他の演出家によるプロダクションを観てみたいです。
姫子と7人のマモル
ネルケプランニング
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2010/12/18 (土) ~ 2010/12/26 (日)公演終了
満足度★★★
イケメン娯楽作
若手俳優7人と小劇場系の中堅4人によるコメディーで、客席は9割以上が女性でした。
同じマモルという名の7人がヒロイン・姫子の危機を助けるという話で、歌あり踊りありの分かりやすいエンターテインメントに仕上がっていました。少女時代やKARAのパロディや、ポプラ社の文学賞2000万円ネタ(個人的には一番ウケたギャグでしたが、笑っている人がほとんどいませんでした…)など時事ネタを所々に入れていて、深く考えずに楽しめました。
物語としては他愛のないものですが、若手のイキイキとした演技と中堅勢の臨機応変さで2時間20分の間、飽きることもなく観ることが出来ました。
振付がBATIKの黒田育世さんなので観に行ったのですが、黒田さんらしさが感じられるダンスがあまりなかったのが残念でした。
愉快犯
柿喰う客
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2011/01/07 (金) ~ 2011/01/16 (日)公演終了
満足度★★★
ワークインプログレス鑑賞
スタジオにて、衣装・美術・照明なしの状態での通し稽古でした。ハイテンションな演技に必然性が感じられて楽しめました。
これからどのような変化があるのか、本番が楽しみです。
演技をしていない素の状態の劇団員の人たちの様子が見られたのも良かったです。
森山開次展『ハコ・ヒト・ハコ』 ダンスパフォーマンス2 森山開次×ひびのこづえ×川瀬浩介
森山開次
ギャラリー・エー・クワッド(東陽町 竹中工務店東京本店1F)(東京都)
2010/12/18 (土) ~ 2010/12/18 (土)公演終了
満足度★★★
コミュニケートするダンス
竹中工務店の本社ビル内で美術展を行っている森山開次さんが、ビルのエントランスホールにて行ったパフォーマンスで、全体の構成はあらかじめ決めていて、細かい動きについては即興でやっていたように見えました。音響も即興的な部分があって、ダンスと音楽が主導権を握ろうとしたり、相手のタイミングを窺い合ったりとユーモアのある駆け引きが面白かったです。最後に使うアクリル製の箱がセッティング中に倒れるアクシデントがありましたが、それすらもパフォーマンスの中に取り込み、笑いを誘っていました。
骨をモチーフにした音楽と衣装を使って骨の名称を説明する、角張った動きのダンスから始まり、その次は「骨抜き」と歌われる音楽に合わせて、軟体動物のような動きを対比させていました。
最後のシーンはアクリルの箱の中に入り込み、骨壺に骨を入れる行為を比喩的に描き、同時に箱の中で胎児の様なポーズをして、繋がる命を想像させるもので、とても美しかったです。
観客に衣装を脱がさせたり、曲に合わせて拳を突き上げるように煽るといった、観客との積極的な関わりが上手く行っていて和やかな雰囲気に包まれていました。
この公演の翌日が森山さんの誕生日だったそうで、カーテンコールは花束の贈呈があったりして無料のミニイベントらしからぬ盛り上がり方で、楽しかったです。
獣従承知(じゅうじゅうしょうち)
角角ストロガのフ
王子小劇場(東京都)
2010/12/16 (木) ~ 2010/12/20 (月)公演終了
満足度★
色々と残念
「マイナスイメージ撤去法」という法律によってネガティブなことを口にしてはいけない状況の中、敢えてネガティブ発言をした男が、ある施設で聞かされるアラビアンナイト風の物語を描いた作品でした。
開場・開演が20分押したことからも、形になる前に初日を迎えてしまった印象を持ちました。自分の体調があまり良くなかったせいもあるかもしれませんが、話の内容も表現したいテーマも全然伝わってきませんでした。笑いを狙ったわけでも涙を狙ったわけでもなく、かといって前衛的な作風でもなくて、どのように観れば良いのか悩みました。役者の演技も硬いように感じました。
理不尽な法律かアラビアンナイトのどちらかに的を絞って90分程度にまとめた方が魅力的な作品になると思いました。
開場が遅れたのは仕方がないにしても、寒い屋外で待っている人たちに何も説明がなかったのは良くないと思います。観る前から悪いイメージを持ってしまって素直に楽しむことが出来ず残念でした。立体的なセットは色々仕掛けがあって良かったです。
あなたの部品 リライト
北京蝶々
ギャラリーLE DECO(東京都)
2010/12/14 (火) ~ 2010/12/19 (日)公演終了
満足度★★★★
書き換えること
義肢製作者のアトリエを舞台に、障害者、戦争、性、アイデンティティなどのテーマを描いた作品でした。体の一部を人工物と交換する行為を通じてそれらのテーマをまとめ、物語としても予想外の展開で驚かさせてくれる脚本が素晴らしかったです。
身体障害者を扱っていますが、安易に感動に持って行かず、ブラックジョーク的な台詞も沢山出てくるバランス感覚が良かったです。
舞台袖もないルデコの狭い空間を逆手に取った、役者の出捌けの空間的な処理も、作品のモチーフや主人公の心情の表現に関係させていて効果的でした。
BGMなし、照明も舞台全体の明暗の変化程度の簡素な設えでしたが、それが逆に作品にリアリティを与えていたと思います。
はっきりと結論を提示せず、観客に倫理や差別について考えさせる作品でしたが、堅い感じではなくユーモアもあって楽しめました。
繋がらない世界の話【終演しました!たくさんのご来場ありがとうございました】
ソテツトンネル
RAFT(東京都)
2010/12/14 (火) ~ 2010/12/19 (日)公演終了
満足度★★
不思議な空気感
ソテツトンネルとロスリスバーガーの合同公演で、共通の設定やテーマはないように見えましたが、脱力系とはまた異なる、奇妙な温度の低さが共通して感じられました。
ロスリスバーガー『谷間!やわらかい!お願い!触らせて!』
母親の癌の手術が終わるのを病院で待つ3姉妹のところに三女の友達がやって来て繰り広げられる会話が描かれていました。沈黙が多い、独特なテンポの会話が気まずい雰囲気を醸し出していました。
終盤でタイトルに関わる流れになるのですが、それぞれの人物の心境が読めず、唐突に感じました。
ソテツトンネル『2010年家族の旅』
詳しいことは明かされませんが、世の中で唯一生きて残った家族の物語でした。父親が作った奇妙なルールに従って暮らすことに疑問を持ち始めた子供2人が重大な事実を知るという話で、オチは途中で読めてしまいましたが、家族の奇妙な距離感が魅力的でした。とっ散らかった美術も内容に合っていたと思います。
とりわけ悪い点があったわけではないのですが、観劇後にあまり満足感を感じませんでした。時間がそれぞれ30分程度と展開を作るには短く、どちらも似た空気感でメリハリに欠けたからでしょうか。
TIC-TAC 終了いたしました。御観劇くださった方々、出演者、スタッフに心から感謝しています。アリガトウゴザイマシタ。
anarchy film
新宿歌舞伎町特設劇場(東京都)
2010/12/08 (水) ~ 2010/12/19 (日)公演終了
満足度★★★
真面目なアングラ
代名詞ではない「自分」とは何か、というアイデンティティを巡る話が、奥行きに対して異様に広い間口のステージ上で狂気的な独特の世界観を通じて表現されていて、迫力のある舞台でした。140分程度の上演時間がそれほど長く感じませんでした。
白塗り、車椅子、鎖、柱時計、ピエロ、精神病など、アングラ的要素満載の演出でしたが、エログロ的な表現がないので、案外さっぱりとしたテイストに感じられました。
役者たちの演技は一般的な意味での上手さはあまりなかったのですが、極端にデフォルメされた役作りが作品に適していたと思います。
回想シーンなどの時間軸の扱い方や主人公が掛けるゴーグルが、この舞台の表現の仕方とは全く逆で、静謐な印象のある、クリス・マルケルのSF映画『ラ・ジュテ』を思い起こさせました。
頻繁にある暗転と、大袈裟な映画音楽風のBGMの使用はもう少し控えて欲しかったです。
元キャバレーの怪しげな雰囲気とアングラ的作風が合っていたと思いますが、同じビル内にあるライブハウスからバンドの演奏する音が絶えず漏れ聞こえていて、作品に集中しにくかったのが残念です。
Parade3 「X=2のn乗-n-1」
インプロ・ワークス
小劇場 楽園(東京都)
2010/12/10 (金) ~ 2010/12/12 (日)公演終了
満足度★★★★
即興の楽しみ
初めてちゃんとしたインプロ劇を観ましたが、役者、照明、音楽が駆け引きしながら展開して行く様がとても楽しかったです。
「1212」というお題以外は何も決まっておらず、役者5人それぞれの12月12日の朝についての報告が同時多発的に語られるところから始まり、大根おろしの作り方、マザコン男の就職活動、コンビニでトレーニングする男のボクシングの初試合、山手線内での露出狂、影絵による竹取物語と桃太郎、スポーツ用品社員の不倫、ゼウスとエンジェルなどのエピソードが次々に現れ、音楽(これもキーボードによる即興演奏)に合わせてミュージカル風なシーンになったり、シリアスな雰囲気になったりと変幻自在のアンサンブルを堪能しました。
それぞれのエピソードが投げっぱなしにならず、終盤に半ば強引ながらもそれぞれを関連付けて、ちゃんとオチを付ける技量には感服しました。言葉が途切れたり、舞台上で本当にくしゃみをしてしまってもすぐさまそれをネタにして話を展開して行く機転の利かせ方もユーモアに満ちていて良かったです。
ここ最近観た舞台の中で一番笑えて気持ち良かったです。と同時に舞台作品として作り込む内に鮮度が落ちて行きがちな、演劇における笑いの扱いの難しさを感じさせられました。
オンナの平和
劇団あおきりみかん
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2010/12/10 (金) ~ 2010/12/12 (日)公演終了
満足度★★★
面白い演出
モテたいと願いつつ、受け身でなかなか自分から動き出せない女性がもがくさまを、ちょっと変わった演出でエネルギッシュに描いた作品でした。
開場すると、開演まで十数人の人たちが舞台両袖間を歩いて往復し、舞台後方には様々なサイズの何十個ものグレーに塗られた木枠が立て掛けられていて印象的でした。「モテたい!」との絶叫で物語が始まりますが、歩行者立ちは絶えず歩き続けていて、孤立感がポップに表現されていました。
木枠だけを使って携帯電話から車、カフェ、オフィスまで表現するアイディアが、頻繁な場面転換をスムーズに接続していて素晴らしかったです。クライマックスの水の扱いも主人公の心情にマッチしていつて、心に残るシーンでした。
美術や役者の動きに関する演出は良かったのですが、役者たちが台詞を絶叫して何を言っているのか聞き取れないところがたくさんあって、ストレスを感じました。後半の静かなシーンとの対比を考えてのことだとは思いますが、やり過ぎで逆効果になっていると思いました。
面白くないギャグが何度も繰り返されるのも辛かったです。冒頭のシーンであった、歩きながら話していて舞台袖に入ると台詞の途中でもスパッと途切れて、また舞台に出てくると中断したところから再開するといった、構造的なユーモアをもっと見たかったです。
脚本や演出はとても楽しめたので、もう少し落ち着いたトーンの演技で観てみたいと思いました。
ゼロイチ
劇団K助
恵比寿・エコー劇場(東京都)
2010/12/09 (木) ~ 2010/12/12 (日)公演終了
満足度★★★
「数」ではありませんでした
笑える話と泣ける話の2本立ての構成になっていて、分かり易い脚本と演出で、ウェルメイドな作品に仕上がっていました。
1本目は中学の体育教員室を舞台に、シェイクスピアの喜劇のような勘違いが連鎖するドタバタ劇でした。最初のちょっとした嘘が何重もの勘違いに繋がって大混乱になる脚本が見事でした。構成上の笑い以外の小ネタもなかなか良かったです。
2本目は生きる目的を感じられない売れっ子小説家が自分の知らなかった過去を知って、前向きに生きて行こうとする話でした。ありがちなお涙頂戴要素で物語を進めている感じがあり、1本目に比べて脚本が平凡に感じられました。子役の演技が自然な感じで良かったです。
チラシに書いてある「あなたが消費した数字」や、「0」、「1」といった数字がほとんど関係ないように感じられたのが残念でしたが、オーソドックスな作りなので、万人向けな作品だと思います。
マイルド・セブンティーンズ・スター
椿組
ザ・ポケット(東京都)
2010/12/08 (水) ~ 2010/12/12 (日)公演終了
満足度★★★
管理と抵抗
高校の校舎内にある教員用の喫煙所の是非を巡る騒動を通じて、潔癖症的な正義感を皮肉ったコメディで、色々と小ネタを散りばめた緩い雰囲気が楽しかったです。
文化祭を直前に控える中、歌おうとしていた尾崎豊の曲の歌詞に物言いがついたり、生徒の喫煙が発覚&その母親(モンスターペアレント)が学校にクレームを付けに来たり、密室での「不純異性行為」があったりとバタバタ事件が起こり、それらに関する議論を通じて、正しいとされていること以外を徹底的に排除しようとすることが果たして本当に良いことなのかを考えさせる内容でした。
AKBや尖角諸島の船追突などの時事ネタや、舞台奥を通り過ぎる人たちが出す小技など、ベタではありましたがクスッと笑えて退屈させませんでした。
シリアスにも扱えるテーマを高校時代のノスタルジーを織り混ぜながら軽妙に調理していて、気張らずに楽しめる2時間弱でした。
ラスコーリニコフとスヴィドリガイロフ
Conclave
ワーサルシアター(東京都)
2010/12/08 (水) ~ 2010/12/19 (日)公演終了
満足度★★
色々と勿体ない…
『罪と罰』を100分弱に凝縮した作品でしたが、『罪と罰』を演劇化した必然性が感じられず、惹かれるところがあまりありませんでした。
初日だったせいもあるとは思いますが、役者間あるいは音楽や照明との間やタイミングが悪く、決めの部分が決まらず、緊張感がないままダラダラ進んでいるように感じました。
せっかくミュージシャンやダンサーも参加しているのにあまり活かされていなかったのが勿体なく思いました。振付にコンテンポラリーダンスの原田みのるさんの名前がクレジットされていて期待していたのですが、役者に対しての振付はおそらくなくて、原田さん自身の動きも躍動感を見せる場面がほとんどなくて、残念でした。
ミュージシャンとダンサーの見せ場がない演出になってしまった代わりにか、本編の前に余興と称したプレパフォーマンスがあったのが逆に痛々しかったです。
演出した中嶋しゅうさんも少し出演していて、ベテランの演技を見せてくれていましたが、他の役者はいまいち感情が伝わって来ませんでした。実力がありそうに感じられる瞬間もあっただけに残念です。
光子の裁判 ★ご来場ありがとうございました。
青年団若手自主企画 渡辺企画
アトリエ春風舎(東京都)
2010/11/30 (火) ~ 2010/12/07 (火)公演終了
満足度★★★
科学的不条理劇
科学と社会や倫理の関係を描いた作品はたまにありますが、学術的な内容そのものを扱った作品は珍しいと思います。想像していたよりも、ちゃんと演劇作品になっていました。
粒子であり波でもあるという特徴を持つ光子を擬人化し、不条理劇的な話になっていました。
登場する5人の役者一応役があるのですが、完全には固定されておらず、1人の役の台詞が少しいびつなイントネーションを伴って次々に受け渡されながら、または同時に語られ、不確定性とリンクしたような表現になっていました。
ポストパフォーマンストークの島田先生の話も興味深く、普段使わない頭の部分が刺激されて、楽しかったです。
床に固定された箱が35個だったのは、「光子→みつこ→35」の言葉遊びだったのでしょうか?
想い出パレット~ぬぷぬぷ高田馬場編~【旗上げ公演無事に終幕致しました!ご来場まことにありがとうございました♪】
タマコロ
高田馬場ラビネスト(東京都)
2010/12/02 (木) ~ 2010/12/05 (日)公演終了
満足度★★★
女の子パワー
ゲキバカの柿ノ木さんを作・演出に迎えた旗揚げ公演はエネルギッシュな中にも涙を誘う要素もあるストレートな作品でした。なかなか作品が掲載されない駆け出しの漫画家の女性が久々に実家に戻って小学生の頃を回想し、やる気を取り戻すという物語で、個性豊かなキャラクターたちが賑やかに小学生時代を描いていて楽しかったです。
ストーリーはありきたりで、演技に関してももう少し表現力が欲しいところですが、ダンスや大雨のシーンの躍動感のある演出で魅力的なものになっていました。個人的には芝居の中に出てくるダンスシーンや大声の台詞は苦手なのですが、この作品ではそのような要素に必然性が感じられてあまり気になりませんでした。水着や生着替えといった男性向けサービスシーン(?)はそれなりに話の流れに沿う形で出て来て、過度に媚を売る様な感じになっていなくて爽やかで良かったです。途中の映像シーンのところでスクリーン代わりのボードを役者の手で支えていたような、生の舞台ならではの演出をもっと見たかったです。
柿ノ木さんとの相性は良かったと思いますが、今後、他の脚本家や演出家とも組んで異なる魅力を見せて欲しく思いました。
『「春独丸」「俊寛さん」「愛の鼓動」』
日本大学芸術学部演劇学科 平成22年度舞台総合実習ⅣA
日本大学藝術学部 江古田キャンパス(東京都)
2010/12/02 (木) ~ 2010/12/04 (土)公演終了
満足度★★★
日芸版とトラム版
先月公演があったばかりの新作を学生が脚本家自身の演出で上演するという興味深い公演で、シアタートラム版(倉持裕さん演出)と日芸版(川村毅さん演出)の違いを楽しみながら鑑賞しました。
日芸版はほぼ同い年の役者しか出演していないので、親子関係を描いた『春独丸』や『愛の鼓動』は親子に見えないという難点がありましたが、トラム版と異なりビジュアル的に派手な演出がほとんどないので、登場人物の心情が良く表現されていたと思います。
『春独丸』はトラム版より緊張感のある雰囲気でした。舞台上に現れる黒子2人が能における後見の役割を果たしていたのが面白かったです。
『俊寛さん』は台詞の間が洗練されればもっとコミカルになったと思います。トラム版と違って、タコやウミガメ(の作り物)が出て来たのは客席の笑いを誘っていましたが、役者の動きだけで想像させるトラム版の方が好みです。
『愛の鼓動』は能的な動きのダンスシーンが女囚と男の娘が日舞をやっていたというエピソードに結びついていて効果的でした。女囚役の役の雰囲気は素敵でしたが、影のある感じが出るともっと良くなると思います。
日芸版は演技はもう少しという所も見受けられましたが、個性的な役者と豪華なスタッフワークによる華々しい感じだったトラム版とは異なる魅力がありました。
新作戯曲を用いたプロと学生の競作は、学生にとっては勉強になりますし、相乗的な集客効果もあるでしょうから、今後も行って欲しいです。