土反の観てきた!クチコミ一覧

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ベジャールの「くるみ割り人形」

ベジャールの「くるみ割り人形」

公益財団法人日本舞台芸術振興会

東京文化会館 大ホール(東京都)

2012/12/15 (土) ~ 2012/12/16 (日)公演終了

満足度★★★★

MとB
クララがお菓子の国に行くという物語ではなく、少年が夢の中で亡くなった母親に会うという物語に置き換えた、ベジャールの自伝的要素が強い演出で、愛情とユーモアに満ちた作品でした。

ベジャールがたどたどしい日本語で自らの少年時代を語る映像が流れ、それと関連したシーンが踊られる形で進行し、オリジナルのプティパ版とは異なるストーリーながら、所々でプティパ版と対応しているのが楽しく、プティパ版よりも物語や動きがチャイコフスキーの音楽と合っている箇所もありました。
第2幕の世界各国の踊りの場面ではスペインの踊りでは牛の頭の作り物、中国の踊りでは自転車と共に踊っていてユーモラスでした。原曲ではフランスの踊りがないからと、ミュゼットを流して踊るのが洒落ていました。
クライマックスのグラン・パ・ド・ドゥは敢えてプティパ版の振付で踊りますとのアナウンスがあり、伝統に対しての敬意が感じられました。

モーリス・ベジャールのイニシャルである「M」あるいは「B」を頭文字に持つ、マウリス・プティパ、メフィスト、母(Mère)、バレエ、美(Beauté)に対する愛情が感じられ、特にドラマチックな表現をしているわけではないのに深く心を打ちました。
有名な花のワルツの場面では黒スーツ姿の男性達が白いバラを持って母の周りで踊り、母の死(Mort)を象徴していたのが印象に残りました。

ベジャールらしい力強さを感じる動きとコミカルな動きの対比が鮮やかでした。「M…」役を踊った木村和夫さんの存在感と技術が素晴らしかったです。
回転する巨大な聖母像や、ドラァグクイーンやショーガールのようなキラキラ輝く衣装等、インパクトのあるビジュアルが素敵でした。

15みうっちMade

15みうっちMade

Mrs.fictions

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2012/12/13 (木) ~ 2012/12/16 (日)公演終了

満足度★★★

安定したクオリティーの6本
小規模の劇団にしては珍しく、団内に複数の作家・演出家が在籍する劇団の15分の短編作品6本の公演で、いずれも大袈裟な所のないさらっとした作風で、気持良く観ることが出来ました。

『とりあえず先は見えない』
ある引っ越し作業の様子が淡々と描かれ、あっけなく終わったかと思いきや、暗闇の中を全裸で再度同様に演じる構成となっていて、1回目と2回目で違った意味に聞こえる台詞が楽しかったです。

『秋にまたない』
ナレーション的なモノローグと普通の会話がシームレスに連続する実験的な文体でありながら難解さがなく、5年前の作品とは感じさせない新鮮な雰囲気がありました。

『だらしなく人生は確かに続く』
死を決意したものの失敗し、生への希望を持ち始める内容の4つエピソードが続けて描かれましたが、各エピソードがあまり絡まないまま終わってしまって物足りなさを感じました。

『うちの屋根がでかい鳥に持ってかれた。』
告白して失敗するシーンが反復するというループ物ですが、同じ人が繰り返すのではなく、4人に増殖した主人公が順に告白するという趣向が喜劇性を高めていて良かったです。

『男達だけで踊ろうぜ』
ヤクザの町の高校の野球部の話で、前半で笑わせながら終盤では意外な事実が明らかになり泣かせるという、エンターテインメントの王道を行くような作品でした。個性豊かな登場人物が楽しかったです。

『ミセスフィクションズのメリークリスマス(仮)』
いわゆるバックステージ物ですが、自分達とは正反対の上流階級の淑女達を登場人物にして、反語的な表現にしていたのが面白かったです。静かな終わり方が印象的でした。

盛り上がるシーンでも劇場のサイズに合わせて必要以上に大声にならないのが良かったのですが、いくつかの作品では音楽が大き過ぎて台詞を掻き消していたのが勿体なかったです。

ちいさなブリ・ミロの大きな冒険

ちいさなブリ・ミロの大きな冒険

庭劇団ペニノ

あうるすぽっと(東京都)

2012/12/13 (木) ~ 2012/12/15 (土)公演終了

満足度★★

良くも悪くもフランス的
フランスの作家による、少年の成長を描いた物語で、タニノクロウさんならではのエログロ感のある演出が魅力的でしたが、全体としては主題がハッキリせず、ぼやけた印象がありました。

太っていることをコンプレックスにしていた男が母を圧死させかけたことを機にダイエットに励み、その痩せっぷりから有名人になるものの、幼馴染みとの愛情を優先して大人の世界から抜け出ようとするというストーリーでしたが、少年の言動に共感できず、ドラマとしての盛り上がりも弱く感じられました。多用される比喩も日本語だとあまりしっくりと来ない感じがありました。
世界に拡がるアメリカ大衆文化に対しての皮肉が感じられるエピソードがいくつかあったのがいかにもフランス人の作品らしかったのですが、物語の流れに対して唐突な感じがあって違和感を覚えました。

青少年向けの戯曲とのことでしたが変に子供に媚びた感じの演出ではなかったのが良かったです。
臍の緒や電話のコードがどこまでも伸びたり、父親が彫刻家になったことを人の背中に刺青を彫ることで表現したりといったナンセンスな表現が楽しかったです。終盤にセットの壁越しに見える、多くの動物達の絵が美しく、ノアの方舟を想起させて印象的でした。

鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)

鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)

国立劇場

国立劇場 小劇場(東京都)

2012/12/02 (日) ~ 2012/12/25 (火)公演終了

満足度★★★

「偽り」の物語
長い作品の中の一場だけが単独で上演されることが多い(とのことです)義太夫狂言の内の4つの場の上演で、一繋がりの作品の割にはそれぞれの場の繋がりが感じられず、まとまりのない印象を受けましたが、各場ごとに見せ場があり楽しめました。

六波羅清盛館の場は30分程度と短く、ウォーミングアップといった感があり、あまり盛り上がりを感じませんでした。
今出川鬼一法眼館菊畑の場は名を偽って奉公している男とその周囲の人々とのコミカルなやりとりで笑わせつつ、最後は3人で見栄を切って終わり、格好良かったです。
檜垣茶屋の場〜大蔵館奥殿の場は、頭の弱い公家の一條大蔵卿が実は平家の陣営を欺く為に阿呆を演じていたという物語で、一條大蔵卿を演じた中村吉右衛門さんの阿呆モードと真面目モードのギャップが見事でした。特に阿呆を演じている時のだらしない表情が素晴らしかったです。

大仕掛けや早替わり、大立ち回りのようなケレンを効かせた演出はほとんどなくて地味な雰囲気がありましたが、役者の演技をじっくりと堪能出来ました。竹本と役者の台詞の受け継ぎが印象に残りました。

上演中に喋ったり、ガサガサと物音を立てる人が多くて観劇に集中しにくい環境だったのが残念でした。

マイサンシャイン

マイサンシャイン

Utervision Company Japan

世田谷ものづくり学校(東京都)

2012/12/12 (水) ~ 2012/12/16 (日)公演終了

満足度★★★

両バージョン鑑賞
ノゾエ征爾さんが書き下ろした不条理で寓話性のある脚本を色々な演出家が演出するという興味深い企画の第3弾で、パパ・タラフマラを主宰していた小池博史さんのバージョンと、サルとピストルの三浦佑介さんのバージョンを続けて観ました。

小池博史版
台詞の大半がカットされ、身体表現に重点を置いた演出で、物語性は薄まっていましたが、不思議な感情を喚起するユニークな雰囲気とスケールの大きさがあり、魅力的でした。
かなり原作を削ぎ落としていて抽象的な内容になっていましたが、台詞を歌ったり、工夫を凝らした美術や衣装を用いたりしていて、変に難解な感じになっていなくて楽しめました。
敢えて見せないことによって想像力を刺激させる手法が効果的でした。

三浦佑介版
オーソドックスな会話劇として作られていて、台詞の面白さがストレートに伝わって来る演出でした。客席を対面配置にし、セットを回転させることによって、様々なアングルを見せる趣向が楽しかったです。
会場の大きさに対して役者の声が大き過ぎてうるさく感じられ、またオーバーな演技に見えてしまって残念でした。

小池版→三浦版の順で観たのですが、両バージョンを観るのであれば、逆の順番で観た方が「基礎編→応用編」のような流れになって両演出家の持ち味が楽しめると思います。

十二月大歌舞伎

十二月大歌舞伎

松竹

新橋演舞場(東京都)

2012/12/01 (土) ~ 2012/12/25 (火)公演終了

満足度★★★

夜の部鑑賞
世話物と舞踊の2本立てで、歌舞伎の様々な魅力を楽しむことが出来る公演でした。

『籠釣瓶花街酔醒』
佐野の商人が吉原の花魁と恋仲になるものの、金を貸してもらえなかった男の策略によって縁を切ることになり、破滅的な結末を迎える物語で、前半の艶やかな華やかさと終盤の怒りと悲しみの対比が印象的でした。
主役を演じた尾上菊五郎さんの最初のとぼけた雰囲気から最後の凄味までの変わり様が良かったです。

『奴道成寺』
有名な『道成寺』をアレンジした作品で、男の狂言師が女主人公・白拍子に変装していたという設定となっていて、滑稽味が増していました。途中、3つの面を取っ替え引っ替えして1人3役をしながら踊る場面があり、楽しかったです。
坂東三津五郎さんの舞はダイナミックさはあまり感じられませんでしたが、顔や手の表情が豊かで魅力的でした。立唄の声の調子が良くなかったのか、何回も音を外していて不安定だったのが残念でした。

皆のためのピザ

皆のためのピザ

十六夜吉田町スタジオ

十六夜吉田町スタジオ(神奈川県)

2012/12/06 (木) ~ 2012/12/09 (日)公演終了

満足度★★★

社会的アートプロジェクト
映像上映が主体ながらもライブならではの趣向も盛り込み、社会的な内容をユーモアを交えて表現した作品で、アートを介して政治的な問題に関わろうとする意志が強く感じられました。

北朝鮮製の映画に偽装して海外の文化を紹介する映画のDVD500枚を北朝鮮に密輸して流通させるプロジェクトの、(1)DVDに納められた4本の短編映画の上映、(2)映画製作のドキュメント映像の上映、(3)映画を観た北朝鮮の人からの手紙や、脱北した家族へ宛てた手紙の朗読(映画の出演者による)の三部構成で、北朝鮮の人々の生活や文化的環境について色々と考えさせられる内容でした。

第3部の最後にアコーディオンを演奏する姿を収めたビデオレターが流され、そのまま舞台上手に座っていたアコーディオン奏者が引き継いで演奏するシーンが印象的でした。
本編終了後に、映画内で紹介されたレシピで作ったピザが振る舞われ、それを食べながらのアフタートークがあり、北朝鮮で作れるように考案されたレシピなので、チーズの代わりに豆腐、スパイスはコチュジャン、オリーブオイルは使わずで、正直美味しくなかったのですが、その美味しくなさも作品の要素として機能していて、興味深かったです。

全事経験恋歌(ゼンジ.ケイケン.エレジー)

全事経験恋歌(ゼンジ.ケイケン.エレジー)

アジア舞台芸術祭制作オフィス

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2012/12/01 (土) ~ 2012/12/02 (日)公演終了

満足度★★

恋と鯉
日本と台湾の演出家・役者の共同製作作品で、台湾の小説(?)をモチーフに切迫した思いが独特の表現で描かれていて、不思議な雰囲気が漂っていました。

池に立つ婦人と人形遣いの悲恋を描いた物語を中国語で演じ、図書館の司書であり、物語中の人形でもある日本人の女性がその煮え切らなさに突っ込みを入れていくというプロットと、その女性が台湾にある祖父の墓を探すというドキュメンタリータッチなプロットが絡まりながら展開する構成でした。
台湾でのプライベートな時間の映像/舞台上での姿/劇中劇での役柄、の3つの階層を行ったり来たりするメタ演劇的な構造の中で、大量の台詞と激しい動きがエネルギッシュに繰り広げられ、インパクトがありました。

舞台奥に設置されたパネルに映像が投影され、時にはわざと字幕を役者に投射したり、役者とシンクロしているように動いたりと、多彩な映像表現がされていて印象的でした。

フィクションとの微妙な距離の取り方を含め、個人的に好みなタイプの作風だったにも関わらず、テーマ・メッセージを感じ取ることが出来なくて、なかなか作品の世界観に入り込めず、退屈に感じることが多かったです。

Waiting for Something

Waiting for Something

アジア舞台芸術祭制作オフィス

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2012/12/01 (土) ~ 2012/12/02 (日)公演終了

満足度★★★★

絶妙な字幕の使い方
『ゴドーを待ちながら』をベースにして、言葉が通じない人とのコミュニケーションによって起こるおかしさを描きつつ、「待つ」という行為について考えさせられる、興味深い作品でした。

携帯電話の充電をさせてもらおうとする日本人の男性が韓国人の女性と出会い、お互いの言葉が分からないまま2年間一緒に暮らしていたところに元妻が現れるという物語で、女2人に攻められているところに突然通訳者が現れて、修羅場の台詞を逐一訳しながら展開するシュールな状況が面白かったです。

異なる言語で会話しているときに敢えて訳を表示しなかったり、状況を説明する英文が表示されたりと、字幕がただの訳文ではなく、作品の構成要素として大きな役割を果たすというアイディアが素晴らしかったです。

ゴドー(GODOT)を神(GOD)になぞらえるのはしばしば目にしますが、さらに鱈(COD)と絡めたり、幕間劇として挿入された、「フェイク」の歌舞伎、ジュラシック・パーク、スター・ウォーズ等、ナンセンスな馬鹿馬鹿しさが楽しかったです。

アジア舞台芸術祭2012ワークショップEXT上演会

アジア舞台芸術祭2012ワークショップEXT上演会

アジア舞台芸術祭制作オフィス

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2012/12/01 (土) ~ 2012/12/01 (土)公演終了

満足度★★★

新鮮な味わいの短編2本
アジア各国の演出家や役者が入り混じった2チームが短期間のワークショップで作り上げたそれぞれ10分程度の作品で、どちらもはっきりとした物語のない実験的な内容でしたが、勢いのある新鮮な魅力がありました。

『手紙のタイトル、部分的に隠された内容あり』
インドのズレイカ・チャウダリーさんが日本と台湾の役者と作った作品で、舞台上ではなく、ロビーに敷かれた大きなボール紙の上で上演されました。
「暴露を抱えた手紙」、「見積もりと会計の手紙」、というような手紙のタイトルだけが延々と読みあげられる中、紙や測量器具を用いたパフォーマンスが行われ、最後には敷いてあるボール紙を折って船にする構成でした。
抽象的で断片的な言葉と動きの連なりから時間と空間そして戦争について考えさせられました。

『An Intrusive Question』
広田淳一がさん日本と台湾の役者と作った作品で、言葉が通じない状況の中、相手のことを知ろうと様々な質問をする様子を描いていました。
リズミカルなクラッピングと足踏みを模倣し合うシーンから始まり、行き先の分からないバスの中で噛み合わない会話が続き、端々しい浮遊感が印象に残りました。終盤にあった、時間のスケールの拡がりが感じられる台詞が良かったです。

お母さんの十八番

お母さんの十八番

アジア舞台芸術祭制作オフィス

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2012/12/01 (土) ~ 2012/12/02 (日)公演終了

満足度★★★

丁寧に作られた家族劇
韓国の脚本家・演出家と日本の役者が組んで作った作品で、ドラマや映画でありそうな分かりやすいベタな内容でしたが、味わいのある演技に引き込まれました。

鉄アレイに頭をぶつけて死んでしまった母の通夜が終わった後の、父と2人の娘のぶつかり合うやりとりを幽霊となった母が眺めている様子が描かれる間に母の回想シーンが差し込まれる構成で、笑いあり涙ありの少々ビターなテイストの物語でした。
基本的にはストレートな演技の中に時折羽目を外した場面もあり、とてもバランスが良かったです。

冒頭の同時多発的なシーンで多くの伏線を張っておき、その後に丁寧に回収して行く展開が快かったです。
母の亡くなる日の朝の日常的な風景をスローモーションで描いていたのが幻想的で新鮮でしたが、そのシーンが長過ぎるように感じました。

あるシーンでの小道具の出し入れでスタッフの出入りが見えていたのがスマートではなくて残念でした。

父を演じた下総源太朗さんと母を演じた那須佐代子さんの暖かみのある演技が素敵でした。

ドン・ジュアン

ドン・ジュアン

(有)パン・プランニング

シアター1010稽古場1(ミニシアター)(東京都)

2012/11/21 (水) ~ 2012/12/02 (日)公演終了

満足度

趣向が活かされず
希代の女たらしとして有名なドン・ジュアン(ドン・ファン、ドン・ジョバンニ)の物語をミュージカル化した作品で、全員がクラウンの赤鼻を着けていましたが、その設定が活かされてないように感じました。

客入れ時から役者が舞台上にいて、観客にちょっかいを出したりしている内に、バニーガール姿の狂言回しが登場して始まり、身を滅ぼす男の物語が歌やダンスを伴ってコミカルに描かれていました。

アンサンブルは出番がない時も舞台奥で待機していて、ステージ上で起こることに対して歓声をあげたり、必要性が感じられない小芝居をする学芸会的な演出が煩わしく感じました。
印象に残る曲がなく、歌もピアノ演奏もレベルが低くて、ミュージカル仕立てにした意味がないように感じました。

公演期間の前半と後半で異なる座組で上演され、さらに同じ組の中でも公演毎にメインキャストとアンサンブルが入れ替わっていて(そのことはチラシや公式サイトにも書かれていませんでした)、十分に稽古が出来ていないのではと感じました。
観客も知り合いや家族が出ているから来ている人が多かったようで、上演中に頻繁に話し声が聞えて来ました。
一般の観客の為ではなく、出演者や身内の為の公演に感じられて残念でした。

ユニット・キミホ「美女と野獣 Beauties and Beasts」

ユニット・キミホ「美女と野獣 Beauties and Beasts」

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2012/11/29 (木) ~ 2012/12/01 (土)公演終了

満足度★★★

小細工のない、端正なダンス
キミホ・ハルバートさん振付作品のトリプルビルで、いずれの作品も確かな技術をベースに、笑いや台詞を用いない、純粋な身体表現による正当派なダンスでした。

『Skin to Skin』
男と女の出会いとすれ違いを描いたデュオで、様々なリフトのテクニックが用いられるものの、アクロバティックな要素を強調せずに自然な流れの中に組み込まれていました。ほとんど踊らない様々な情景が暗転で区切られて展開する後半の構成が印象に残りました。

『MANON』よりLast Duo
新国立バレエ団のプリンシパルによって踊られ、端正な美しさが際立っていました。長い作品のラストの部分の抜粋の為か、いきなり感情が高ぶった感じで始まるので、最初の方は少々入り込み難かったです。ダンスだけで十分な表現力があったので、叙情的な音楽は過剰に思えました。

『Beauties and Beasts』
『美女と野獣』の物語をラヴェル作曲の『マ・メール・ロワ』に乗せて踊る作品で、タイトルが複数形になっているように、単純明快ではない内容になっていました。非バレエ的なムーブメントが多めで多彩な動きを楽しめましたが、前半の2作に比べて上演時間の長さに対して密度が低く感じられました。

ハヤサスラヒメ 速佐須良姫

ハヤサスラヒメ 速佐須良姫

天使館

世田谷パブリックシアター(東京都)

2012/11/29 (木) ~ 2012/12/02 (日)公演終了

満足度★★★

『第九』で踊る
笠井叡さん率いる天使館と麿赤兒さん率いる大駱駝艦というベテラン舞踏カンパニーの合同公演で、ベートーヴェンの交響曲第9番を丸々1曲踊る中に醜さや滑稽さから美しさや崇高さまで、様々な情感が表現されていました。

無音の中、明かりが入るとアンサンブルが円形に並んでいる印象的なプロローグの後、第一楽章では舞台前面を底辺、奥中央を頂点にした三角形に照らされた床の中を激しく踊り続ける笠井さんと静かに歩く麿さんを中心にして展開しました。第二楽章では長方形に照らされた床面の中で、スケルツォの楽想にマッチしたリズミカルな動きが天使館と大駱駝艦それぞれ4人によって繰り広げられダイナミックでした。第三楽章では女装姿の麿さんと笠井さんの滑稽なやりとりが続き、次第に醜さの中に美しさが感じられました。第四楽章では合唱のパートに合わせて大勢のアンサンブルも加わり、祝祭性に富んでいて壮観でした。
第三楽章のクライマックスの転調したところで初めて青い照明が使われたときの美しさが印象に残りました。

金髪に上半身裸の天使館メンバーとスキンヘッドに全身白塗りの大駱駝艦メンバーのビジュアル上の対比だけでなく、同じ動きをしても腕や腰の使い方が全然異なっていたのが興味深かったです。

魅力的なシーンが沢山ありましたが(激しく動くときより静かなときにそう感じることが多かったです)、音楽が偉大過ぎて、踊りが負けているように感じました。
曲想やリズムに合った、ある意味分かり易い振付で様々な雰囲気が描かれていて楽しめましたが、個人的には第四楽章冒頭でのそれ以前の楽章の回想で、それぞれの楽章の照明に変化させる等、もっと音楽の構造・形式と関わりを持った演出・振付のものが観たかったです。

ポツドール『夢の城 -Castle of Dreams』

ポツドール『夢の城 -Castle of Dreams』

ポツドール

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2012/11/15 (木) ~ 2012/11/25 (日)公演終了

満足度★★★

生態観察
1つの部屋に一緒に暮らす荒んだ若者達の酷い生活のある1日を台詞無しで描いた作品で、過激な性表現が多いながらもユーモラスな場面も多く、想像していた程には殺伐としていなくて、意外と楽しんで観ることが出来ました。

ゴミや衣服が散乱する中でテレビを見たりゲームをし、食べ、セックスをし、寝るだけの生活が大きな出来事も起こらずに描かれていましたが、次第にこの人物達もこのような人生を望んでいたわけではないように感じられて来て、少し共感しました。

だらしない姿勢や緩慢な動きといったリアリズムではないデフォルメされた演技と、ダイジェスト的に進行する時間の流れから、生々しさが中和されていて、描かれる対象との客観的な距離感を保っているように見えました。
冒頭からタイトル映像が流れるまでは、舞台と客席の間にベランダと窓があり、外から人間ではない動物の生態を覗き見るかのようでした。最後にまた同じ設えとなり、舞台上を暗くすることによって、観客達の姿が窓に反射して見える演出が居心地の悪さを感じさせて印象的でした。

音楽付きコメディ《病は気から》

音楽付きコメディ《病は気から》

北区文化振興財団 北とぴあ

北とぴあ さくらホール(東京都)

2012/11/23 (金) ~ 2012/11/25 (日)公演終了

満足度★★★

楽しい歌と芝居
モリエールの戯曲をノゾエ征爾さんが現代の日本人でも楽しめるように脚色した台本を、1673年の初演の時に近い形の、役者と歌手とオーケストラによる編成で上演し、300年以上前の作品にも関わらず、普通に笑える喜劇となっていました。

本筋とは関係ない、ルイ14世を讃えるプロローグが、医学部受験の予備校でのシーンに置き換えられていて、元々の歌詞ともあまり合っていなくて意図が分からなかったのですが、実は最終場面の医者達の形式的な儀式のシーンと重なり合うようになっているという伏線の張り方が洒落ていて面白かったです。

第2幕間劇ではシックな赤いドレスにサングラスを掛けた6人の女性(1人は背の高い男性アルト歌手が女装)が青い帯を持って妖艶に動くシーンは、いかにも宮城聰さんらしい演出で独特の美しさがありました。
役者が指揮者や演奏家にちょっかいを出したり、演奏家が役者の動きに合わせて楽器で効果音を出したりと、オーケストラピットを設けず、同じステージ上で演奏と演技が行われるという条件を上手く使っていて楽しかったです。

SPACで上演されたストレートプレイ版の『病は気から』をベースにしたとのことで、オペラ版としては初日でありながらも役者達のコミカルな演技が冴えていて楽しかったです。
歌手の人達の演技も達者で、特にエミリアーノ・ゴンザレス=トロさんがユーモラスに何役も演じ分けていて見事でした。

現代のピッチより1音低いチューニングによる演奏は古風で優雅な響きで美しかったです。時には調子外れに演奏したり、ノイジーな特殊奏法を用いたりと、古楽器オーケストラながらも柔軟性に飛んでいて、芝居を盛り立てていました。

F/T12イェリネク三作連続上演 『光のない。』

F/T12イェリネク三作連続上演 『光のない。』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2012/11/16 (金) ~ 2012/11/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

圧倒的表現
東日本大震災と福島の原発事故に触発されて書かれた戯曲が、独特の台詞回しと動きによる演技と、斬新な音楽・美術・照明で具現化され、圧倒的なクオリティーの舞台となっていました。

明るいままの客席内を通って登場した5人の役者が執拗に「あなた」、「わたし」、「わたしたち」と繰り返して観客も当事者であることを思わせて始まり、金属製の大きな緞帳が上がり、音楽、原子力、水をモチーフにしたテクストや、3.11以降の不安な日々を思い出させるようなテクストが、会話の形になっていない断片的で詩的な表現で連想ゲームのように続き、最後に緞帳がゆっくりと降りてきて劇場内が暗闇になって終わる、緊張感に満ちた105分間でした。

イェリネクさんの文体と地点のスタイルの相性がとても良く、様々な声の表現が豊かに展開していました。内容はあまり理解出来なかったにも関わらず、様々な場面で心を揺さぶられるという不思議な感覚がありました。
役者4人の体に電流を流すことによってを動きを同期させるシーンは、社会とエネルギーの関係を考えさせられました。

最初から最後まで頭を下にして足の甲から先だけが見えるという、まるで遺体が並ぶ様を思わせる状態で歌った12人の合唱も素晴らしかったです。ヴァイオリンの開放弦の音で構成された曲や、羊(昔は腸がヴァイオリンの弦に使われていました)の鳴き声のように歌う曲によって、登場人物である第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンを暗示させていたのも良かったです。
羊の鳴き声は立ち入り禁止区域に残された動物達のことも連想させ、何とも言えない気持になりました。

奥に向かって絞られた形状のセットが斬新で、急勾配の床の上で役者達が並んだり寝たりする姿がとても美しかったです。床ではなく塞がれた天井面に長く伸びた役者の影が、世界が反転したみたいで強く印象に残りました。
照明器具がどこにも見えないのに多彩な変化を見せる照明や、客席の上空をヘリコプターが飛んでいるように感じさせる立体感のある音響等、スタッフワークも素晴らしかったです。

表現は前衛的ですが、地震と原発事故を体験した人なら何かしら感じる所のあるであろう作品で、これだけの完成度なのにたった3公演しか行われなかったのが勿体なく、是非とも再演や海外公演を行って欲しく思いました。

大行進

大行進

山下残

横浜市民ギャラリーあざみ野(神奈川県)

2012/10/20 (土) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★

言葉と状況
カミイケタクヤさんによる、廃材を集めて作った災害の後の廃墟のような美術の中で、黒いツナギを着た山下残さんが言葉と動きを物語性もなく続ける、実験的な作品でした。

空間を対角線に通る線路 や木彫の熊の置物、チェーン、タヌキの剥製等を指したり、手に取ったりして、その名を言うシークエンスが続き、「大火災、大洪水、大震災、逃げてください」と切迫した調子で巻くし立て、本当に移動しないと駄目なのか一瞬戸惑いを感じました。
終盤に朝、雨、夕方、雪の4つの単語を高速で言いながら踊った後、前半で名前を呼んだ物達をもう一度読み上げてあっさりと終わりました。

ところどころに瓢々としたユーモアを感じさせながらも基本的に不穏な雰囲気が支配的で、分かり易いエンターテインメント性もメッセージ性もなくて退屈しそうなのに、観ていると引き込まれる不思議な魅力がありました。
発せられる言葉の意味より、言葉が発せられた時の状況を大事にしている感じがスリリングで興味深かったです。

2010年に初演を行った作品ではあるものの、今上演するとどうしても3.11を連想させる内容でしたが、殊更にそれを強調していで淡々としていたのが良かったです。

はじめまして

はじめまして

スタジオアーキタンツ

スタジオ アーキタンツ(東京都)

2012/11/10 (土) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★

豪華な組み合わせでしたが…
コンテンポラリーダンス界において十分な実績がある人達が組んだ興味深い企画でしたが、それぞれの過去作品のクオリティーを考えると、どの作品も完成形に至っていないスタディー段階に感じられました。

振付:白井剛、出演:松島誠
白井さんの旧作『静物画』の体の様々な部分にスプーンやナイフを乗せてバランスを取りながら踊るシーンを発展させたような作品で、落とさないようにバランスを取るために動きを制限されながらも踊ろうとする姿がユーモラスでした。

振付:井手茂太、出演:森下真樹
眼鏡を掛けた学校の先生風な格好の森下さんが部屋を間違って入って来たかのように始まり、無音の中を手摺と戯れ、音楽が鳴り始めるとダイナミックに踊り、流れているBGMをピアノで真似して演奏し、最後は『蛍の光』を弾いて終わるコミカルな作品でした。

演出・出演:松島誠、森下真樹
無音で行われる、即興性が強く見える作品でした。会場の隣の階段室の大きな窓の向こうで踊ったり、上部のバルコニーで踊ったりと会場の空間構成を利用していたのが楽しかったです。終盤の変な声や動きを競うような展開が安直に面白さを狙っているように感じられて残念でした。

バラバラな生体のバイオナレーション!

バラバラな生体のバイオナレーション!

シアタースタジオ・インドネシア

池袋西口公園(東京都)

2012/11/09 (金) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★

竹尽くしのパフォーマンス
インドネシアのカンパニーよる、竹を全面的に用いた野外パフォーマンスで、素朴な宗教儀式を連想させるおおらかな雰囲気がありました。

白っぽい衣装の男性がろうそくに火を灯し、竹を束ねて作ったオブジェを被ったの黒い衣装で6人が入場するところから始まり、最初は単体だった竹の棒が三角形に組み合わされ、さらにそれらが円形に繋ぎ合わされて巨大な構造体になっていき、最後にそれをひっくり返して大きな衝撃音を響かせて終わる構成でした。最終形に近付くにつれて、組み立て作業がアクロバティックになっていくのが印象的でした。
17時の時報(ふるさとのメロディー)が流れている間、パフォーマー達が困惑するように動きを止めて固まっているユーモラスな演出があったり、丁度日没前後の時間に合わせた公演時間となっていて、次第に暗くなって行く中、組み上がって行く構造体が照明で照らし出されたりと、外部環境を取り込んだ趣向が楽しかったです。

独特の雰囲気は楽しめましたが、動きや見せ方が洗練されていなくて、作風に先鋭的なものが感じられず、なぜこの作品がF/T公募で選ばれたのかが良く分かりませんでした。

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