満足度★★★
『第九』で踊る
笠井叡さん率いる天使館と麿赤兒さん率いる大駱駝艦というベテラン舞踏カンパニーの合同公演で、ベートーヴェンの交響曲第9番を丸々1曲踊る中に醜さや滑稽さから美しさや崇高さまで、様々な情感が表現されていました。
無音の中、明かりが入るとアンサンブルが円形に並んでいる印象的なプロローグの後、第一楽章では舞台前面を底辺、奥中央を頂点にした三角形に照らされた床の中を激しく踊り続ける笠井さんと静かに歩く麿さんを中心にして展開しました。第二楽章では長方形に照らされた床面の中で、スケルツォの楽想にマッチしたリズミカルな動きが天使館と大駱駝艦それぞれ4人によって繰り広げられダイナミックでした。第三楽章では女装姿の麿さんと笠井さんの滑稽なやりとりが続き、次第に醜さの中に美しさが感じられました。第四楽章では合唱のパートに合わせて大勢のアンサンブルも加わり、祝祭性に富んでいて壮観でした。
第三楽章のクライマックスの転調したところで初めて青い照明が使われたときの美しさが印象に残りました。
金髪に上半身裸の天使館メンバーとスキンヘッドに全身白塗りの大駱駝艦メンバーのビジュアル上の対比だけでなく、同じ動きをしても腕や腰の使い方が全然異なっていたのが興味深かったです。
魅力的なシーンが沢山ありましたが(激しく動くときより静かなときにそう感じることが多かったです)、音楽が偉大過ぎて、踊りが負けているように感じました。
曲想やリズムに合った、ある意味分かり易い振付で様々な雰囲気が描かれていて楽しめましたが、個人的には第四楽章冒頭でのそれ以前の楽章の回想で、それぞれの楽章の照明に変化させる等、もっと音楽の構造・形式と関わりを持った演出・振付のものが観たかったです。