きゃるの観てきた!クチコミ一覧

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そんなの俺の朝じゃない!

そんなの俺の朝じゃない!

ライオン・パーマ

王子小劇場(東京都)

2010/11/18 (木) ~ 2010/11/21 (日)公演終了

満足度★★★★

理屈ぬきにとにかく面白い!
初見です。登場人物が個性的で、ありえないようなアッと驚く場面の連続で、どうなることかとハラハラしながら見入ってしまいました。
久々すごく楽しめるコメディー劇団に出会いました。
ドタバタではなく、俳優が意識してウケようとはせずに役になりきっていて、こういう笑いが私にはツボで大好きです。でも、人によっては笑いの好みは分かれるかもしれません。
作りこんだ芝居で、コメディーながら隙のない台詞が多いだけに、俳優のトチリが多かったのが残念。千秋楽なのだから噛まないでほしかったですね。

ネタバレBOX

「定年退職」を迎えた一家の主をめぐるジェットコースター喜劇。
長男の回想から始まって、ラストの長男の定年の日の描写で締めくくるのが心憎い。これは3組の夫婦愛の物語でもある。
「切り火」で夫を送り出す妻、というのがよい。
長女タエコのぶっとびオスカルが素晴しい。いかにもオスカルの言いそうな台詞で笑わせてくれる。
三男だけがサントスなんて奇妙な名前!タエコが兄たちをアンドレ、フェルゼンなどベルばらの勝手な登場人物名で呼ぶ中、「黙れ!サントス!」と言う場面には大笑い。近所の牧場から借りた馬に乗ってタエコが列車を追うなど、口アングリの想定外の展開。
オスカルと雪村夫人の「仮面の女」の衣裳が本格的なのがよい。こういう衣裳はちゃんとしたものを着ないと芝居まで安っぽく見えてしまうからだ。
しかも、さわだまきさんのオスカルは長身で、立ち居振舞い、宝塚そのもので美しいこと!素晴しかった。
何があっても動じない父親を中心に団結する火山ファミリーと、どこか憎めない雪村父子と美人のお母さん、火山同様律儀な志賀さん、愛すべき人たちでした。
花たち女たち

花たち女たち

花組芝居

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2010/11/04 (木) ~ 2010/11/14 (日)公演終了

満足度★★★★

「恋たち」チーム拝見
「夢たち」チームとはだいぶ違う印象をもった。こちらのほうが古風で新派の味わいがあった。主役・正子役の堀越涼の達者さに舌を巻く。何でこんなに美しく巧いのだ。恐るべし。聞くところによれば女形初主演だという。「恋」チームの植本が「初日に堀越くんにサポートに付いてもらったが完璧にこなしてくれた」と語っていたが、芝居用語で言うところの「役が手に入って」いたのだろう。楽しみなスターが出てきたものだ。
脚本が正子と蔦代を善人に描きすぎ、底にある花柳界の澱や女の嫉妬心、競争心が薄まって、きれいごとの友情物語になっているのが物足りないが、花組芝居のファン層向けにそうしたのだろう。
舞台美術の花札屏風は安待合みたいで、「この店はけばけばしくなくていいですねぇ」という劇中の台詞と合わないのが困りもの。

ネタバレBOX

新派と言ったが、花組芝居はお笑いの要素も濃く、女形が素に戻ってしゃべるシーンもあるので、演じるほうも女形にドップリ漬かるわけにいかないのが難しいところだろう。堀越は出の場面の仕込みのころの声の美しさにまず驚いたが、おどけた地声が真面目な場面に切り替えたときも残ってしまうのが難点。終始三枚目に徹した谷山知宏の蔦代にはやりすぎの感があり、疑問も残った。正子・蔦代はいずれ劣らぬ器量良しという設定なのに、谷山の蔦代は正子の引き立て役になっており、オカマそのものだ。蔦代役は八代のほうに軍配を上げたい。正子・蔦代の踊りの場面、蔦代が手をはずす前の揃うべき場面もずれてしまうのが気になった。踊りの修練ですな。蔦代の母・ふじは北沢洋は老け役が巧く、「夢たち」の江藤役の人とは思えない。
歌舞伎役者仙七の桂憲一にそれらしい色気があり、正子との見初めの場面の2人の美しいこと。加納幸和の阿や八は新派の名女形だった先代の英太郎を思わせて上出来。延二郎の秋葉陽司は「お鹿でない・・・お紺」と言われるように太りじしで笑わせる。彼の伊勢音頭って(笑)。秋葉は後年の河村屋の番頭も兼ねるが、主従の役が同一俳優というのはややこしい。
堀越は終幕、愛する男を次々失って子供のように号泣するところに女の哀れさがよく出た。この若さでこれがやりおおせるとは。歌舞伎の門閥以外の女形としては若手のころの坂東玉三郎以来の驚愕。大根で閉口した市川笑也の新人時代と比べると堀越のほうが技量は数段上。
若いころに違和感との指摘もあったが、堀越が20代では子役を使うしかなくなる。役者は70でも小娘を演じなければならない。新派の重鎮・花柳章太郎は50代でも15に見えた。演技力でカバーするべきだ。




図書館的人生 vol.3 食べもの連鎖

図書館的人生 vol.3 食べもの連鎖

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2010/10/29 (金) ~ 2010/11/07 (日)公演終了

満足度★★★★

洗練された魅力
初見です。人気が高い理由がわかる気がしました。
構成の巧さ、舞台装置もシンプルでセンスのよさを感じるし。
不思議な世界に迷い込んだような・・・・。
劇の密度が高いせいか、途中、ちょっとシンドかったです。周囲にもウトウトしてた人が何人かいたし。

ネタバレBOX

板垣さんの俳優としての底力を感じた。もう少しシュールな笑いを誘う台詞があるのかと思ったけど。お料理の場面のみ、板垣さんのしたり顔でなにげない一言がいかにも料理番組でありそうで、クスッとした。
安井順平さんはあとでキャスト表を確認するまであの安井さんだとは気づかないほど巧かった。本来はお笑いのかたなんですよね?

あの助手が奥さんのようにこの先、「変心」することはないのだろうか。ちょっと心配になった。
あの料理研究家は実際に自分では野菜料理を食べられないんでしょう?
そうして見ると、調理場面でのアドバイスが滑稽に見えた。
夏の夜の夢

夏の夜の夢

明治大学シェイクスピアプロジェクト

アカデミーホール(明治大学駿河台キャンパス)(東京都)

2010/11/12 (金) ~ 2010/11/14 (日)公演終了

満足度★★★★

原典の魅力
明治大学文化プロジェクト略して文プロ。広く豪華なホールで満席の中、演じられる学生は本当に幸せ。
昨年、かなり詳しいレビューを書いたら、「知ってたら行きたかった。来年はぜったい観たい」とコメントくださったユーザーもおられたが、早めに情報はupされたのにどうやら今年も行かれなかったらしい。
演劇としては今年もレベルが高く、シェイクスピアの原典の魅力が味わえて満足できました。
ただ、昨年のようなロビーパフォーマンスもなく、高層エスカレーターの途中階も「関係者以外立ち入り禁止」の表示があるだけで味気ない感じでした。
「学習の一環なので商業演劇ではない」という考えが今年は浸透したのかもしれません。
役者と観客がロビーでも一体化していた昨年がたまらなく懐かしいです。
今年前半に、これまで指揮をとってきた原田大二郎さんの選挙出馬もあり、監修という立場で現場からは距離を置かれたようで、その分、イベントとしても淡白になった感があります。
文プロは来年からリニューアルされ、さらに雰囲気も変わっていくのかもしれません。

ネタバレBOX

割愛されることの多い「森での芝居」が観られたことが収穫。何年ぶりかで。
この劇中劇に「ロミオとジュリエット」の要素が濃く、公爵夫婦と妖精夫婦を同一俳優が演じ、劇中の観客が悲劇をドタバタ喜劇として笑って観ることが「身分差別」や「悲恋」の諷刺にもなっている。
妖精たちのダンス場面も美しかった。
恋する4人の若者。本の挿絵はアテネということでギリシャ風になっているのをよく見るが、なぜか今回はヘレナだけがジュートサンダルにノースリーブドレスのギリシャ風で、あとの3人はメルヘン調。ハーミアはブーツだし。ちょっと違和感があった。デザイン共通で色違いの衣裳のほうが良かったと思う。
女優2人の容姿のアテガキ以外、昨年ほど意訳もなく、おとなしめの脚色。
まとまり過ぎたのが物足りなく感じた。
事務局はあまりキャストの個人名を挙げてほしくないらしいがあえて書く。
オーベロンの正木拓也とボトムの薄平広樹が図抜けて巧い。
この2人、学内劇団でも活動しているので、今後も演劇を続けるのだろう。
期待しています。
職人パートの演出も担当した薄平はギターを弾いて「サボテンの花」の曲で歌をサービス。魅力的だった。
五反田団『迷子になるわ』

五反田団『迷子になるわ』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2010/11/05 (金) ~ 2010/11/14 (日)公演終了

満足度★★★

独特の空気感
たくさん並べられた椅子。そのどこにも居場所はなく、時空観念を超えて東京を彷徨する女。F/Tトーキョーの演目としても合っていたと思う。
落語的なおかしみもある。
前田司郎さんが俳優としても面白い持ち味の人なんだなーと認識できた。
だが、外部に書き下ろした作品のほうが私は好み。
もっと笑いたかったので。

ネタバレBOX


「東京にずっと住んでて、うち、親が医者で看護婦のお母さんと結婚したの」と女性が言うが、「東京タワーは修学旅行で来て以来」など、辻褄が合わない。
すべてが彼女の心象風景で、現実の話ではないととらえるにしては引っかかる。
現代の話なので「看護婦」という呼称も気になった。
「目黒は品川区」と解説する割に、「中央区有楽町」なんて台詞が出てきて違和感が。
前田さんはあまり細かいことにこだわらない人なのだろうか。
【終了!】B4 paper books【ご来場ありがとうございました!】

【終了!】B4 paper books【ご来場ありがとうございました!】

劇団パラノワール(旧Voyantroupe)

サンモールスタジオ(東京都)

2010/11/03 (水) ~ 2010/11/09 (火)公演終了

満足度★★★★★

「白」の章拝見
順番から言うと、「白」から観たほうがよかったのでしょうか。
でも、「黒」→「白」で私は満足しました。
「黒」より「白」が好みだったかもしれません。
フィクションとノンフィクションの狭間の演劇。
ダニエル・シュミットの映画にも似た魅力。
海賊ハイジャック、もう完全に大好きな劇団になりました。

ネタバレBOX

「シュルレアリスム宣言」が「黒」とは違った構成で面白かった。俳優の滑舌の悪さや台詞の未消化な部分は目立ったけど、それさえも興味深く眺められた。

あとの2作品が「黒」で狂言回し的なロベスピエール(加治慶三)とサン=ジュスト(堀口武弘)の素顔を描いているので、2人の演技に引き込まれた。

「H+」は官能的。朝日望の侍女=魔女と、橋本慎司のエゴン・シーレの描く永遠の少年が面白い。川越美和の少女はフランスより、明治の浅草の奥山の見世物小屋あたりにいそうな感じ。西洋的な演技を狙わない劇団だからこれでよいのだが。加治は苦悩するロベスピエールを熱演。

「ニヒリズムの肖像」は貴族をめぐる身分差別を描く。本公演の劇として一番、好きな作品。アヴリルの川越、元囚人のメイドの伊達が良かった。終幕、サン=ジュストとの会話の場面が素晴しい。断頭台に送られたという点ではマリー・アントワネットとは真逆の立場ながら、最後の後悔に共通したものを感じ、胸打たれる。











【公演終了!ご声援ありがとうございました!】マウンテンみるく、波打つ

【公演終了!ご声援ありがとうございました!】マウンテンみるく、波打つ

市ヶ谷アウトレットスクウェア

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2010/11/12 (金) ~ 2010/11/14 (日)公演終了

満足度★★

うーん・・・・
環境破壊や食物連鎖のテーマを扱っていたのでしょうが、セリフで設定を説明するばかりで、正直ピンときませんでした。アニメ風で若い人は楽しめるのかもしれないけど。コスチュームの珍妙なショボさとおおげさな演技が目につき、狭い会場で目のやり場に困ってしまいました。視覚効果とか工夫がみられたが、ロール・プレイングのように同じような場面の繰り返しなので、途中から飽きてしまい、70分が長く感じられました。
これがこの劇団の特徴なのでしょうか?高校の文化祭の劇みたいで、「難解な芝居でとても面白い」という評価を下す人もいるようですが、私にはそれほどの作品には思えませんでした。

ネタバレBOX

風神・雷神が牛乳で作った鯛焼きの皮でできていて、やたら「タイ、タイ」と言ったり、ナンセンスギャグが「精神年齢、いくつ?」という感じで(笑)。
八重柏泰士(ピーチャム・カンパニー)の海神がセーラームーン風で、竹内尚文(少年社中)の牛がなぜか美川憲一風(笑)。
海神と牛という取り合わせも、唐突な感じ。
竹内、八重柏ともに演技力のある人だけに、なんか余興を見せられているようで、実際、何時間も稽古したろうにと思うと、もったいないというか・・・。
霜月狂と私

霜月狂と私

賛否両論

エビス駅前バー(東京都)

2010/11/08 (月) ~ 2010/11/12 (金)公演終了

満足度★★★

バー公演は難しい
共同作・演ということですが、脚本は石戸さんが担当されたとのこと。
石戸さんの脚本としては、前回のル・デコのほうが数段よかったです。大人の男女の話ということで、もっとうならせるものを期待したんですが、イマイチ人物像や話が魅力的ではなかった。
バー公演はいろいろ観てますが、本当に難しいと思います。
毎度、どのバー公演にも感じることですが、「至近距離」で俳優の芝居を観られるということ以外の魅力がほしいし、身内の客がほとんどのなか、「やりたい芝居作った」ということだけでは、作・演の自己満足の域を出ない気がするのです。そうではないバー公演は心に残っていますが。
今回、男2人と女1人というのは題材としてはとてもよいのに残念な感じ。
古山憲太郎ファンですが、正直に書かせていただきました。
笑いとしては、古山さんの前説が一番面白かった(苦笑)。

ネタバレBOX

俳優さんたちの演技には満足しています。特にヒロインの西入美咲さんはキラキラして魅力的な女優さん。
煮え切らないダメ男2人と女の話。これが隣の客の話みたいで、自然といえば聞こえがよいが、ストーリーがありきたりで面白くない。フジで昔やっていたオムニバスのショートドラマくらいの面白さはないとね。
まず、人物に好感が持てない。主人公の青年ユウヤが女性を妊娠させ、両親にも会っていながら、「強引にね。会わせられた」なんて言う。
要領が良く、妻子もちのモテ男のタキも、チャランポランでどこがよいのか、魅力を感じない。ユウヤの彼女も何を考えてるんだか。10年も付き合ってきたのでしょう?もう少し相手の性格見極めて、結婚したいならしたいでアプローチ考えたら・・・と言いたくなる。不器用ではすまされないトシなのでは。結局2人は痴話ゲンカから別れてしまう結末。後味が悪い。
2人の男の性格の違いを対応で表すため、町内の劇団員が「チラシ置かせて」と登場するが、この会話や劇中劇が安っぽくて面白くない。
バーという設定だが、短時間に衣裳の着替えも頻繁だし、人の出入りがバタバタしすぎて、まるで居酒屋の話のようで観ていて落ち着かなかった。
劇団ブログも読んだが、内容を決めるのに、緻密さが足りなかったように感じた。最初は前回公演のプロローグ的作品のようなことを書いていたが、実際には違っていたし。
どういう客をターゲットに、何を見せたいのかという点を考えて、この劇団にはもう少しじっくり練った大人のドラマを期待します。
花たち女たち

花たち女たち

花組芝居

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2010/11/04 (木) ~ 2010/11/14 (日)公演終了

満足度★★★★

初日、「夢たち」チーム拝見
フライヤーを見ると、イラストが少女マンガみたいで、夢、恋、花と書いてあると、
夢ゆめしい舞台を想像するが、イラストのような美少女はもちろん登場しない。花組芝居だから(笑)。
花組芝居を何十年ぶりかで観劇したが、全然変わっていなかった。にぎやかである意味泥くさい。そして、客層も40代後半の女性で占められ、普段行く小劇場の客層とはだいぶ違う。つまりあの当時の若いOLたちがそのまま年を経ても応援してるということになる。
昭和のある時期、40代の女性客が新派や東宝系の商業演劇を支えていたのだが、平成のいまは花組芝居はその線ということになるだろうか。
原作となった「芝桜」も「木瓜の花」も、新派や東宝系商業演劇で何度も上演されてきた昭和の名作だ。花柳界の事情に通じ、女の業を描くのが得意だった有吉さんだからこそ書けた小説。ただただ、ヒロインの正子と蔦代が、見ていて懐かしく、いとおしかった。泣かせて笑わせて、よくできた芝居である。
有吉さんがご存命でこの花組芝居版をご覧になったらどんな感想を持たれただろうか、と思いながら舞台を見つめていた。

ネタバレBOX

花札みたいな趣味の良くない柄の屏風がパテーションになって、舞台がどんどん進行されていく。休憩込みで2時間40分。長いといえば長いが、時代の変遷が面白い。現代の女性にとっては古めかしく思えるかもしれない。
「夢たち」チームは正子が植本潤で蔦代が八代進一。植本はいくつになっても色香の失せぬ色っぽい正子。所作も美しいが、どうしても私には彼のふだんのツルツルあたまが消し去れない(笑)。八代は化粧がケバいし、美しい女形とは言いがたく、女装にしか見えない。ゲイバーのママみたいで、違和感がある。
私にとってのベストは杉村春子の正子に、山田五十鈴の蔦代である。やはり、この2人の名人芸が目に焼きついているので、悪いが比較にならない。
だから、終始、有吉作品のパロディーとして楽しむしかなかった。
宴席の場面に新派の雰囲気があったのは救いである。
ロビーで初日乾杯があり、ここにいるオバサマたちがこの劇団を育ててきたのだなということが伝わってきた。座長の加納さんは昔と変わらず、お客に対して腰が低い。


【終了!】B4 paper books【ご来場ありがとうございました!】

【終了!】B4 paper books【ご来場ありがとうございました!】

劇団パラノワール(旧Voyantroupe)

サンモールスタジオ(東京都)

2010/11/03 (水) ~ 2010/11/09 (火)公演終了

満足度★★★★★

「黒」の章を拝見しました
とにかく強烈な印象を与える作品で、好みは分かれると思います。ヨーロッパの映画に出てきそうで、私も映画なら観にいかないジャンルだと思うが、この劇団の作品は個性的で好きです。思想史や犯罪史が一緒になったような独特の雰囲気。大人向けのこういう小劇場芝居があることを多くの人に知ってもらいたいと思います。

ネタバレBOX

「バートリ・エルジェービト」の官能的描写にはドッキリ。ポーズをとるタイミングが多少ずれてズッコケた感じに見えてしまう人がいたのは残念。終始クールな伊達由佳里(ドルコ)が印象に残る。服を着ているドルコは赤い下着姿の娘たちよりある意味なまめかしく見えた。闇で発するセリフの時から邸木ユカ(バートリ)にはひきつけられた。答える夫の渡辺一人もよい。
「ロマノヴィチ」のロマノヴィチ役、太田守信はこういう役をやらせたらハマる人。海賊ハイジャックには合ってる俳優だ。
「シャウクロス」は殺戮場面の連続で、殺戮からは何も生まれない虚しさを痛感させられた。この作品が一番、演劇的場面が多く、わかりやすく感じた。
マーカス大尉の山崎敬史の雰囲気やしゃべりかたが、泉谷しげるみたいで面白い。てっぺいと伊達のサッカウェイ夫妻が印象に残った。
ラストに「シュルレアリスム宣言」。陰惨な場面が続いた後なので、「大喜利」的様相でほほえましくみえ、楽しめた。
全編通して登場するロベスピエール(加治敬三)とサン=ジュスト(堀口武弘)もそれらしい風貌で好演。
サンモールスタジオの階段から見える坪庭の装飾もこの劇団の楽しみのひとつ。真紅の花びらが血しぶきのように散っていた。
感じ方の違いなのか、陰惨な場面で、一部の中高年男性からのみ、笑いが漏れていたのが意外だった。
俺の屍を越えていけ【無事に終了しました】

俺の屍を越えていけ【無事に終了しました】

七里ガ浜オールスターズ

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2010/11/01 (月) ~ 2010/11/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

今回も素晴しい仕上がり
パンフによると、高評価の口コミはほしいけどネタバレはNGということらしいので、「とても面白かった」とだけ書けばいいんでしょうか?(笑)
これは戯曲自体がよくできているので、配役がよければ悪くなるはずがない作品で、何度観ても、そのつど面白いのです。
私、今回でこの作品を観るのは4回目ですが、配役がとてもよかったと思います。
本荘と東根がネックなので、この2人の役者がよければ、かなりよくなるわけで。今回の2人はパーフェクトだと思いました。
女優としての葛木さんを見るのも楽しみだったけど、この役は私がいままで観たなかでも葛木さんが一番合ってる気がした。
この戯曲、4度ともニュアンスが違っていた場面はラストシーンで、演出家の個性を出しやすい場面なのでしょうか。
今回のラストも素直でよかったと思います。

劇団としては初見なので、今後、この劇団のオリジナル作品も観てみたいです。

ネタバレはNGコードに無関係の意見を書かせていただきます。

ネタバレBOX

作品自体に文句はないのですが、公演で気づいたことをあえて書かせていただきます。

①挨拶文に「本当に、本当にありがとうございます。お客様の顔を全員覚えて、握手をして、お礼を言いたいのですがそれが叶わないので・・・(後略)」とありましたが、もし本当にそう思うなら、顔を覚えるとか、握手をするというのは、記憶力や手も痛くなるという理由から無理でも、大劇場ではなく、少人数の客席の会場なので、せめて主宰が出口に立ち、お見送りはできるんじゃないでしょうか。
階段を上がったところで、主宰が一俳優として友人との話に夢中、一般客が傍を通っても知らん顔の光景を目の当たりにすると、この挨拶文との距離を感じてしまいました。実際、お話し中であっても、一般客にはきちんと挨拶する俳優兼主宰もいますので。

②ネタバレNGのお願いについて

本作は畑澤聖悟さんの出世作なので、比較的知られている作品。そんなにネタバレに神経質になる必要はないのでは?
現に過去3度の公演では、パンフにそういうお願いは載ってませんでしたし、すべて知って観た私でも、別にマイナス要因にはなりませんでした。
もっと自分の演出に自信を持ってほしいと思います。

③パンフには作・演出の名前のクレジットがないのも気になりました。一応載せるべきではないでしょうか。

本作は書き下ろし新作ではないですが、最近、新作でもネタバレを気にする若い作家がいます。芝居は見せたら客のもので、「人の口に戸は立てられない」というのは世の常だと私は思います。
明らかに興をそぐような露骨なネタバレは程度の問題もあるでしょうが、若い人たちにはもっとドーンと構えていてほしいものです。
2WEEK コンタクト~まだ使えると思ふ~

2WEEK コンタクト~まだ使えると思ふ~

山田ジャパン

サンモールスタジオ(東京都)

2010/10/23 (土) ~ 2010/11/01 (月)公演終了

満足度★★★★

笑えるけど、ビター
いやー、噂どおり凄い・・・打ちのめされたというか、自分にとってコメディーのカルチャーショックかもしれません。
面白いし、笑えるところはきっちり笑えるけれど、ただのコメディーじゃないんですね。甘くない。怖い。
「子供からお年寄りまで」を対象にしたコメディーではないけれど、コメディー劇団の人にはぜひ観ることをオススメしたい凄腕の劇団です。

ネタバレBOX

ベッドルームの舞台。「ここで2週間の出来事を見せるのか?」と思いきや、冒頭の場面転換にまずビックリ!銀色の黒子、銀子?(笑)たちが登場して、ちゃんと芝居しながら場面転換するんですね。ラブホのベッドルームからお茶の間へと、実に手際よく。
独身女性・鳥子(横内亜弓)が叔父に借りて住む大きな家に同級生やその不良仲間が押しかけてきて、強引に2週間限定の私娼窟にしてしまう。命賭けの深刻な状況なのだが、風俗未経験jの素人たちゆえのてんやわんやの騒動はお色気と笑いが満載。
彼らが恐れるボス役の尾形雅宏はここでもコワモテのキレたら怖い男なのだが、「地元」にこだわり、小市民的な一面も持ち合わせているのが可笑しい。冷えたメンチカツを「おうちでチンして食べるんだい!」と言うギャップのあるセリフには笑った。
隣家の熟女・いとうあさこと、その夫、太田恭輔の愛妻家=恐妻家ぶり、勝手に棲み着いている謎の男(ただのあさのぶ)、見るからにヘンテコリンな客・道井良樹ら、達者な俳優が揃って、贅沢である。
呆れつつも傍観していた鳥子が仲間の彼女のことを「あんただけ体を汚さないつもり?」と非難し、「20万円出すつもりだから」との言い訳をガンとして聞き入れず、結局、客をとらせることになる場面が観ていて痛々しかった。ここは笑えない。非常にビターだ。次元は違うけど、湾岸戦争のとき、「金だけ出して一滴も血を流さなかった」と非難された国のことを思い出してしまった。
組織の持つ矛盾やひずみを、部外者が抉り出してしまう皮肉がここにはある。
細かい点では、いとうあさこの衣裳の和服が、身幅が合っていないためか、上前の裾が前下がりの着付けになって、所作の邪魔になっていたのが気になった。また、チンピラの尾形たちが家に乗り込んでくる際、地元の場面ではなかった刺青があるのだが、この刺青は偽物という意味?
どうじょう

どうじょう

コマツ企画

OFF OFFシアター(東京都)

2010/10/23 (土) ~ 2010/10/31 (日)公演終了

満足度★★★★

男のさが、女のさが
登場人物が個性的で、しかも俳優の演技も自然で観ていて飽きなかったです。

「性」を扱った作品で、男女の対比がよく出ていてリアルで面白い。シチュエーションコメディーのような楽しさもあり、ジメッとしていないのが良かった。

ネタバレBOX

俗に言うデートクラブの斡旋所みたいな事務所が舞台。
女性はお金を求めていて、男は金がないくせに女と遊びたくて通ってくる。
そのせめぎあいが面白い。
事務所のバイトの女性がしっかりしているようでも、ロマンチックに楽しそうな夢を語られるとフラッときてしまう。その彼女を口説くほうの男を演じる小林タクシーも、一見、誠実でカッコよいことを言ってるようでも、所詮は妻子がある男の下心を見せる、その綻び具合が可笑しい。
常連ぶってしゃしゃり出てくる花屋のダメ親父を演じる政岡泰志が、いかにもいそうな男に思え、とても巧い。橋爪功の若いころを思わせる。彼は男性会員の特徴を「医師、弁護士・・・」とか説明しているのに、ここにはそんな客は来ない(笑)。何より、彼は一家離散状態で、経営も火の車なのだから胡散臭いわけだ。
宍戸香那恵演じるブランドバッグを持つ女は、乾いた表情が情事のときに見せるという大胆な性癖とのギャップを感じさせて面白い。
この芝居に登場する女たちはみな乾いている。
女たちの中で唯一、お金を求めない女を小松自身が演じ、その切羽詰った言動で笑わせる(客席の最前列から立ち上がった演出にはビックリした)。

小劇場ならでは味わえる楽しさだった。


起て、飢えたる者よ

起て、飢えたる者よ

劇団チョコレートケーキ

ギャラリーLE DECO(東京都)

2010/10/27 (水) ~ 2010/10/31 (日)公演終了

満足度★★★★★

鎮魂歌たりうる力作
ギャラリーなどでの番外公演は、一般的に本公演よりライトな感じの企画が多いのだけれど、チョコレートケーキの本作は違う。本公演と遜色ない1時間40分の力作。会場の特色を味方につけ、緊迫感に満ちていた。
作品のモデルになった事件と同時代に生きた者として、これは彼らへの鎮魂歌たりうる作品だと瞑目した。
あの時代を知らない若者にも観てほしい作品です。
俳優の演技、脚本、演出、どれをとっても素晴しい。
今回も古川・日澤コンビにしてやられました。
紅一点の客演に蒻崎今日子を起用するなんて、心憎くてもう泣くしかありません(笑)。

ネタバレBOX

「自己批判、総括、ナンセンス」は当時、あの時代を代表する3大流行語の感があった。
自分は、連合赤軍側の視点で映像化された作品は怖くて観ていない。
今回の劇中で起こった惨劇は、実際のあさま山荘事件の史実とは異なるもので、全くのフィクションなのだが、彼らの会話を通して、彼らがめざし、見失ったこと、焦燥感、挫折感がひしひしと伝わってきた。演劇ならではの効果が感じられ、観終わって身震いするような感動が残った。
出演者の演技は全員鬼気迫るものだったが、岡本篤演じる坂上弘という人物の深さが忘れがたい。
また、山荘の管理人の妻が最初は恐怖心から萎縮し、戸惑っているのに、だんだん同化し、彼らの同志のリーダー的存在だった永山寛子(モデルはあの永田洋子)が憑依したかのように変貌していくさまを演じ切った蒻崎が素晴しい。
以前、TVの報道番組「ニュース23」であったか、筑紫哲也があさま山荘事件で当時最年少だった元活動家・加藤倫教にインタビューしたのを見たことがあるが、本作の江藤兄弟(西尾友樹、菊池豪)の姿に、思わずあのときの加藤氏の述懐の様子を重ね合わせて胸が締め付けられたほど、真に迫っていた。
脚本・演出をそれぞれ担当しながら、古川健、日澤雄介は俳優としても重い役を演じているのだから凄い。
劇団チョコレートケーキはいったいどこまで登り詰めていくのか、末恐ろしくも楽しみである。

はい、すたーと。

はい、すたーと。

THE♥フォービーズ

Geki地下Liberty(東京都)

2010/10/27 (水) ~ 2010/10/31 (日)公演終了

満足度

ヒドイ!の一語に尽きる
開演前、スタッフが「途中で退出される場合、段差があり足元が大変危険なので、暗転の間に席を立つのはご遠慮ください」と再三説明していたので、ずいぶん親切なんだなぁと感心した。しかし・・・その理由が観劇してみてわかった。
本当に「転ばぬ先の杖」だったのだな、と。
半世紀以上、芝居を観て来たけれど、おそらくいままででワースト1だと思う。かなりのショックでした。
しかも20回記念公演。「これを演劇と呼べるのか」。開いた口がふさがらない。ここはお笑い芸人の集まりではなく、演劇集団のはずだが、お笑いよりもつまらなくて薄っぺらな内容だった。

ネタバレBOX

今回、チケットプレゼントのご招待による観劇で心苦しいのだが、嘘は書きたくない。何とか途中退席の衝動に耐えたが、お金を払って観ていたら、もう怒りが収まらないと思う。
冒頭、俳優たちの芝居があまりにヒドイと思っていたら、作・演出家役の俳優が出てきて、「芝居がこんな状態では公演を続けられません。すみませんでした」と客に頭を下げ、劇団員たちも全員出てきて頭を下げる。
これが芝居上の演出ではなく、本当に正味の内容なのだから洒落にもならないし、救われない。劇中劇ではなく、本当に謝るべきでは?
主演女優が、一人芝居の下手糞なパントマイムをしたり、音響係のオッサンに扮した女優が寒いギャグを連発するが場内はシーンとしている。
いつ、まともな芝居が始まるのかと思って辛抱強く待っていたら、劇中カーテンコールとなり、作・演出家役がはしゃいで原稿を舞台にばらまき、俳優たちが全員メチャクチャなバカ踊りをして終わった。
客をなめてるのだろうか。いったい、何を伝えたいのだ。
ダメ劇団が蘇生する話かと思いきや、最後までダメなまま終わる。自分たちの劇団をモデルにしたようだが、「そのまんま」で「芸」がなく、脚本が酷すぎる。学芸会のほうがずっとマシである。
20回公演でふだんやりたかったものを書いたそうだが、やりたいことがこれだとは、呆然とする。
こんな芝居をお金をとって見せるべきではない。本当に。
お得意のアクロバットを見せるしかない明樂哲典、必死にコメディアンたらんと芝居をする添野豪ら、客演俳優が気の毒で正視できなかった。
配役表がない理由もわかった気がする。役作りも何もあったものではないのだ。
極彩色の色紙をパッチワークのように貼った舞台美術のゴチャゴチャしたセンスの悪さがまさにこの芝居を象徴していた。
神保町花月は隣のホールでの名画特集しか私は利用したことがないのだが、ロビーでみかけるよしもとの女性ファン層らしき一団が最前列に陣取っていた。
神保町花月でやっている芝居も、おそらくこのレベルだとしたら、私にはこの先も縁がなさそうだ。
エコロジー庭国

エコロジー庭国

NYS

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2010/10/22 (金) ~ 2010/10/24 (日)公演終了

満足度★★★★

真摯に問いかける問題作
中国が消滅して大量に世界各国へ移住し、流入人口が増加。地球温暖化により北極が消滅し、海面が上昇。海洋に面した国々の人口過密問題が深刻になったという近未来の設定の日本。
政府は国民方舟計画を前提に国民の要・不要の選別を決定。人口の増加によるフリーターの抑制を考え、アルバイト禁止法案を施行。
それに関連して国内各地に「国民資格村」が政府主導で設置され、フリーターは村に送り込まれる。これはその村のひとつの生活を描いている。
少子化が問題になる現況では、人口増加は考えにくいが、SF的ホラー、サスペンス、心理劇がミックスしたようなストーリーにひきこまれる。
小規模のユニット公演ながら、真摯で、演劇でこそ表現できる問題作に挑んだ意欲を高く評価したい。

ネタバレBOX

国民資格村の在村期限は最長3年間。途中、試験を受け、成績がよければもっと早く村を出られるという。「いずれにせよ、3年たてば、自由になれる」ことを希望に、若者たちは食糧の乏しい村で、恋バナに花を咲かせたりしながら、比較的のんきに暮らしている。
しかし、真相は3年以内に村を出られない者は能力が劣っているとみなされ、村を出ても国によって殺されるのであった。
国民資格村の実態調査の名目で矢部(松村慎也)が人事異動の左遷によりニートという身分で村に潜入・派遣されてくる。
最初は疎外されていたが、矢部もみんなと打ち解けていく。矢部は在日朝鮮人だという田中(河南由良)にだけ、真相を告げる。動揺する田中。田中の恋人だった鈴木も便りが来なくなって久しく、既に殺されたらしい。矢部も政府に再三、調査報告を送るのだが、返事が来ない。彼もまた、政府に切り捨てたらしいことを悟る。
村の古参、佐々木(村山新)もまた、元調査員であったことを矢部と田中に告白する。佐々木の妻も既に亡くなっていた。絶対に真相を口外しないように佐々木は言い残し、3年の期間を終え、出て行く。
「だれかに引き継がなければいけないから・・・」秘密を守りぬいた田中もまた、村を出る日、真相を仲間に託すことを決意する。
河南の凛とした美しさに胸うたれる。松村は自然な語り口の中にも、男の誠実さと哀歓をしのばせて心に残る。絶望の中で、思わず田中を抱きしめるところの演技がとてもよかった。村山は妻を失い、何の希望もなく死を待つに等しい日々のなか、苦衷を決して表に出さず、飄々と生きているように見せかけているという複雑な役どころを演じきった。
中軸になるのは「心理劇」であり、物語の背景にある政府の「昭和初期化計画」の具体性や必然性はよくわからないまま。もう少し、描き方に丁寧さがほしかった。


星の王子さま

星の王子さま

Project Nyx

吉祥寺シアター(東京都)

2010/10/13 (水) ~ 2010/10/20 (水)公演終了

満足度★★★★

楽しめた“寺山祭り”
出演者のブログにこの芝居を指して“寺山祭り”と評した一文があったがそのとおり。
所縁の人たちをゲストに迎え、寺山を偲ぶ公演という色彩が強い。
千秋楽所見。大好きな『星の王子さま』の世界がそこにはあったし、人気イラストレーターだった宇野亜喜良の絵に憧れた世代、あの時代のことも思い出し、じゅうぶん満喫した。うーん、しかし、やはり上演時間が休憩込みで2時間50分はいかにも長すぎる。構成の問題でもあったと思うのだが。

ネタバレBOX

小劇場公演には珍しく、少しも遅れず定刻どおりの開演。第1幕のあと、幕間ライヴが終わる1時間50分まで休憩がないせいか、休憩表示が出たとたん、女性客たちが凄い勢いでお手洗いにダッシュ!(笑)
何人かの客がライヴの途中で席を立っていった。日ごろ休憩なし2時間の芝居だってあるのだが、それほど長く感じた人が多かったのだろうか(笑)。
すっかり太めになった「黒い天使」カルメン・マキの歌を聴きながら、日本でのベトナム反戦運動の熱気を思い出し、筑紫哲也の顔が浮かんできた。
「時には母のない子のように」。やはり、あのころの歌詞には心の奥深くしみるものがあったと思う。
手拍子のテンポが若い世代とリアルタイムで聴いていたオジサン世代でははっきり違っていて、まったく揃わずに平行線のまま続いていくのにはふき出してしまったが。
立派なライヴになっていて、ぜいたくな企画なのだが、カルメンや中山ラビの歌が素晴しいのは否定しないとしても、1人何曲も歌うので長くなる。前夜祭にありそうな企画で、芝居とは直接関係なく遊離しているのが気になった。
芝居は芝居として完結させたほうがよかったかも。歌のコーナーを入れるにしても、作品と絡めたかたちならよかったかもしれない。
サン・テグジュペリ(倉田知美)が王子さまと語る夜間飛行の場面が美しい。倉田が先日のPP1のキュートなブリっ子とは別人の凛々しい飛行士姿。星の王子さまとバラの人形も幻想的で美しかった。
キツネ役は石井くに子。これがあの映画「初恋地獄篇」の鮮烈ヌードの少女かと思うと、歳月を実感した。
ヒロインの少女、今村美乃が好演。お人形のように可愛らしくて魅力的だ。今村とともに青果鹿公演に出演していた村田弘美(演劇実験室万有引力)も活躍。
野口和美のデッカイ「アリス」やお洒落な「ゾウ」も面白かった。
吉祥寺シアターにふさわしく、全編“お洒落で美しいアングラ”だが、点灯士(川上史津子)とパパに化けた殺人者の女(遠藤好)の場面はレズビアン・ショーを思わせる淫靡さで、60年代の寺山ワールドを垣間見せた。
モヒカン刈りと肉襦袢ですぐには川上だとは気づかなかったほど。力演である。遠藤も身のこなしが宝塚の男役のようにきれいでダンスのような動きも流麗でよかった。
有料パンフレットがあの内容で1部800円は高いと感じた。配役表だけでも無料で添えてほしかった。
8:2(ハチニー)の男

8:2(ハチニー)の男

東京パチプロデュース

劇場MOMO(東京都)

2010/10/19 (火) ~ 2010/10/24 (日)公演終了

満足度★★★

題材は興味深かったが
「自己イメージは、内面からではなく、他人によって外側から形成されていく」という心理学における「自己知覚理論」を題材にしたようなコメディー。ただのドタバタ・ストーリーではない点が評価できる。上演時間も1時間20分で、いたずらに長い昨今の小劇場芝居の悪弊がないのも好感がもてる。ただ、体感時間はもっと長く感じられた。

ネタバレBOX

紙芝居屋(高橋ゆうこ)が狂言回し役となって、1人の内科医の日常を見せていく。
人には誰でも二面性があり、簡単に善人と悪人の区別はできないという前提を踏まえ、善人と悪人の割合が8:2のときと、2:8のとき、ジキルとハイドのような2つの人格をそれぞれ小林大輔、竹内健史の2人の俳優が演じるという趣向。
他人から「善人」と決め付けられている「ハチニー」が鬱屈して爆発し、遊離して生まれたもうひとつの悪人的人格「ニハチ」が大暴れ。2人は外見がまったく違うため、誰も同一人物と気づかない。ニハチのおかげで益々ハチニーの株が上がったのもつかのま、今度はニハチのほうの評価が高まり、ハチニーの分が悪くなる。元カノまでニハチに惹かれていって・・・というストーリー。
3つのドアを使ったシンプルな舞台装置。登場人物の出入りするドアが最初のうちは一定しているが、途中から不定になってくる。こういう場合、やはりドアは決まっていたほうがよいと思う。特に、元カノ(東さや香)の部屋のドアに見立てたドアに他人が入っていくのは気になった。
前半は、劇というよりコントのような印象。2人の俳優が大汗かいて熱演するので、一層コントめいて見えた。
また、同じような場面が繰り返されるため単調に感じ、「これからどうなっていくのだろう」という興をそがれ、終盤には飽きてきて眠気に襲われた。
「ウケ」を狙うコントのテンポと喜劇のテンポはやはり微妙に違うと思うのだ。
いまからおよそ半世紀前、往年の喜劇俳優、益田喜頓が主役で、このような二重人格の男が騒動を巻き起こす秀逸なコメディーを観たことがあるのだが、1人2役の熱演なので、別人格でも演技に一貫性があり、大笑いした記憶がいまでも鮮明に残っている。どうしてもそれと比較してしまい、あまり面白く感じなかった。違う俳優が演じているから違いが歴然としすぎて、二重人格の真実味が迫ってこないのだ。
関西弁のホステス役の岡田さやかは商業演劇の舞台経験も豊富なだけに、演技にも一日の長があり、とにかく巧い。演技の「間」が抜群に良く、上沼恵美子のような面白さだ。彼女のような実力派を客演させたことが最大の収穫といえよう。
紙芝居屋の高橋も表情が豊かで語り口も良く、物語の中の人になりきっていて観客を引きこむ力があった。
美人の元カノ、東はとにかく美しいがそのまんまで表情が乏しい。ノーブルでも自然な喜劇味がほしいところ。
老女の患者と外科医の2役を演じた山田宗和は外科医の演技がとても良く、老女は作りすぎで不自然さを感じた。
友人の水島義人は、芝居の運びが巧く、台詞のないところでも芝居の緊張感がとぎれないのがよい。
昭和の話ではないので「看護婦」より「看護士」の呼称がふさわしい。また、ホステスが「ご入場」と言っていたが、「ご入店」か「ご来店」のほうがふさわしい。言葉にも気を遣って欲しい。
口笛を吹けば嵐

口笛を吹けば嵐

ピーチャム・カンパニー

イワト劇場(東京都)

2010/10/14 (木) ~ 2010/10/20 (水)公演終了

満足度★★★

斬新な演出
私はメンバーが大学生のころからずっと観てきた辛口ファンなので、少し、観る目は厳しいかもしれません。
今回の脚本(清末浩平)、かなり努力して改稿をして仕上げたと聞く。斬新な演出(川口典成)で、暗くなりすぎず、サーカス劇場・地上3mm時代に比べれば、劇としての見せ方はずいぶん進歩したと思う。
ただ、プロデューサーがブログでしきりに「休憩込み150分の必然性」とやらを説いていたが、私にはそこまでの必然性を感じなかった。せめて2時間以内に収めれば、手腕が感じられたのだが。
お尻が痛くならないように、シートを重ねてくれた配慮は有難かった。
2時間20分も遣ってるのに、雑な描き方や不必要と感じる場面も私にはあり、不満が残った。詳しくはネタバレで。

※役者面会は喫煙者以外は会場内でさせたほうがよいのでは。全員、外で話していたが、歩道に張り出し、通行人の迷惑になっていたようなので気をつけてほしい。

ネタバレBOX

「三文オペラ」のパクリみたいな場面もあるが、やはり、作者・清末の好みであるアングラ調がのぞく。
さんざん焦らせて、ケンが登場するところなど、唐十郎の「ジョン・シルバー」みたいだ。
東大の駒場小空間でも、清末は崇拝する唐十郎の影響からか、撤収口の舞台後方を開放して、屋外へ俳優を出す演出をよく行ったが、今回はさらに、劇場入り口のシャッターを何度も開閉する(シャッターを開けたままの大音響の音楽は近所から苦情は出なかったのだろうか、と心配したが)。
冒頭から「演劇、演劇、演劇は楽しいよ」と押し付けられ、正直辟易した。
タイトルに冠こそないが音楽劇らしい。俳優は歌いまくる。
離婚式の場面(「離婚式」の場合、新郎・新婦という表現はふさわしくない。「元」or「旧」が付くのでは?)。ワダ・タワーの「乾杯」が聴けたのはファンとしては得した気分だが、カラオケ場面がいかんせん長すぎる。
こういう演出は大劇場で歌の得意なスターの見せ場を作るとき以外、あまり長く引っ張るのはいかがなものか。慣れていないらしい客は唖然としていた。
むしろ、カラオケは続いていても、紗幕でさえぎって、幕前でケンたちの対決場面こそ丁寧に見せてほしかった。歌の場面をもう少し削っても、ケンを刺すに至った王の葛藤、金山のケンへの思いを描かなければ本末転倒の気がする。肝心の終盤にそのへんがぼやけてしまった感がある。
金山役の八重柏は若手ながら演技が巧い注目株だが、声質のせいもあり、チンピラにしては印象がさわやかすぎた。
手配師夫婦の羽田真、宍倉暁子がとてもいい。安心して観ていられた。若手で固めず、こういう俳優の招聘は重要なこと。
名物化したワダの力石は不思議な役で、客演ならでは。
坂本スミ子と唐十郎を足して2で割ったような顔のミヤコ役・小野千鶴も面白い。
ダニースミス・プロジェクトのオリジナル曲はよかったと思う。歌詞の件。散文詩と歌詞は別物だが、歌詞の文章が字余り気味で長いせいもあり、耳に残らない。曲がよいので、口ずさめるほど主題歌の印象を残して欲しかった。
通常は専門家による補作詞が行われてようやく歌詞が整うのであり、清末浩平は岩谷時子さんほど作詞の才能はなさそうなので、歌の多用はやめておいたほうが無難だと思う。
ラストの場面が二段構えで、道具を撤収したあと、いったん幕を引いてからもさらに劇が続くので、いささかクドさを感じた。
清末は昔から時系列的な描き方が不得手な傾向があり、アングラのときはそれでもよかったが、現代劇の場合は時間の経過をしっかり示してほしい。
ケンを刺殺した王青年が突然出てきて、旅巡業に加わるが、あれから何年たっているのだろうか。スクリーンを使っているなら、有効活用して歳月を出してほしかった。
スナックの若い酌婦が占い師の老婆に化けて街頭に立つ場面もアングラ風味だが、唐突で取ってつけたように感じた。
音響が会場に比して大きすぎるようで、会場を出ると耳鳴りがして不快だった。
演出では、食べかけのバナナをハケる俳優からいきなり渡された通路際の客が、連れにバナナを見せて困惑していた。花ならともかく、こういう生物は処理に困るだろう。配慮が欲しい。


葬送の教室

葬送の教室

風琴工房

ザ・スズナリ(東京都)

2010/10/06 (水) ~ 2010/10/13 (水)公演終了

満足度★★★★★

期待どおりの力作でした
出版物、映像などを通してもこの事件については関心を持ってきただけに、今回の舞台化には強くひかれた。
演劇ならではの魅力を実感。
場内の嗚咽と、終演後の鳴り止まない拍手が印象に残った。
演技ということを忘れるほど、俳優がすばらしかった。特に佐藤、根津、岡森さん。
1時間40分という上演時間内に見事に凝縮している点を高く評価したい。こういうテーマだと、いくらでも長く書きたくなるものだと思うが、さすが詩森ろばさんだ。「秘すれば花」といった矜持さえ感じた。
演劇愛好家で観劇なれしている人はあまり気にならないかもしれないが、関係者との付き合いで観にいく知人・友人など一般客の間では、昨今の小劇場の長時間作品への風当たりはけっこう強いのだ。


ネタバレBOX

事故直後、本作のモデルとなった事故機の航空会社の社員のかたから、社内の空気や、殺到した苦情電話の対応マニュアルをめぐり、社員間の人間関係もギクシャクしたことなどを伺っていたので、いっそう、うなずけるものがあった。
1人旅させた9歳の息子を失った夫婦と、妻を失い、子供のいない鉄工所経営者、娘を失い、遺族会のイニシアチブをとる技術者の紳士たちの、あえて互いの反発を語る場面に胸えぐられる思いだった。
劇化するにあたり、短絡的な誤解や批判も出るのは百も承知のうえだと思うだけに、詩森さんの挨拶文には、毅然とした崇高な姿勢の中にも深い哀切と愛情を感じた。

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