満足度★★★★
行き過ぎた利己主義・個人主義・資本主義へのアンチテーゼ
当劇団初見。
ギリシャ神話風の設定をかりた寓話。
意見結びつきそうもないメッセージだからこそ、印象に残る舞台であった。
ネタバレBOX
キーワードは「ヨダレ」。
破壊と創造の女神は、地球上にはびこる、行き過ぎた利己主義、個人主義、資本主義を一掃し、地球をリセットすべく、巨人が流す「ヨダレ」で人間世界をすべて押し流そうと画策する。
それを食い止めようとすべく立ち上がる一部の人間の対立と和解を寓話として見せるのが本作。
アングラ感満載の舞台セット、見世物色の強い開演前の口上、ちんけな登場人物たちからはそうぞうもできないような、上記の寓話へと発展するストーリーには興味を覚えた。
利己主義、個人主義、資本主義の象徴として、ロナルド(元アメリカ大統領レーガン、アメリカの象徴)などを登場させるなど、巧妙に張られた伏線が面白い。
もう少し全体を整理し、わかりやすい舞台となれば、より共感を得ることができるのではなかろうか?
満足度★★★
目の前の光景は夢か?現実か?
当劇団初見。
余命半年を宣告された20代後半の男性が遭遇する夢と現実のはざまを描く。
ネタバレBOX
主人公波男は頭部に腫瘍がみつかり、医師から余命半年を宣告される。
そんなある日、とある公園で、幼馴染みの凛子と再会する。
波男は自分の病気を凛子に告白するとともに、かつて実家があった場所に、一緒に行ってほしいと誘う。
波男の実家は、民宿を営んでいたが、女主の母親が死んだのをきっかけに、民宿をたたんでいたのだが、残された余命をその民宿再建にささげ、生きた証を残すのが波男の目的であった。
ところが、凛子とともに足を踏み入れた民宿跡地で、波男は数々の不可思議な経験をする。
死んだはずの母親が生きていたり、いないはずの妹弟が存在したり、幼馴染の凛子が
波男には、死んだ母親のほか、幼いころに死に別れた妹と弟がいたが、余命半年は自分ではなく、フィアンセであったり。はたまた、自分のフィアンセが凛子であったり。そして最大の謎は、「心の声」が目に見える存在として、彼の目の前に現れたことであった。
しかし、それらはすべて波男が「こうあってほしい」と願ったことであった。
ラスト、波男が黄泉の国に旅立って十数年後、凛子と波男が結ばれたこと、そして、凛子と波男の間に、ソラという女の子が生まれていることが明らかとなる。
SFの設定を使い、不思議な空気感につつまれた舞台であった。
話が混乱しがちであったため、もっと整理されればわかりやすくなるのではないだろうか。
満足度★★★★
どこにでもありそうな物語を丹念に見せる
少女から大人の女性へと成長する主人公の10年を友情と恋を主軸に描いた秀作。
ネタバレBOX
どこにでも、どの時代にもありそうな設定ながら、成長とともに変化する主人公の人情の機微を丹念に描き、唯一無二の作品に仕上げている。
題材がありふれたものである分、縁者にかかるプレッシャーは大きいが、女優陣の落ち着いた演技によって舞台は引き締まったものとなっている。
特に、主人公の美月を演じた大川翔子が出色。物事を常に深く考えてから言葉を発する主人公を見事に体現していた。
時間堂「月並みなはなし」で見せた彼女のつかみどころのない演技もよかったが、本作の演技はそれを大きく上回っていたように思う。
当劇団初見ながら、作品ごとに、作風が変わるようで、今後に大きな期待を持たせる。
満足度★★★★★
感染。。。
これは怪作!
前作、「暗黒地帯」に続いての観劇となったが、前作同様、きわめて質の高い舞台であった。
「次から次へと感染する悪意」、「真のサイコパスは誰か?」、「誰の中にもある殺意」など、たいへん深いテーマ性を有していた。
ネタバレBOX
舞台はとある観光地にあるホテルのテラス。
不仲の父親と17歳と思われる娘。
30代半ばのわけありのカップル。
カップルの彼を執拗に追いかける男。
興信所勤務の男。
以上の6人が繰り広げる、悪意の連鎖と、それを断ち切ろうとする善意の攻防。
親子の父親は、自分の不注意で、娘と双子であったもう一人の娘を、パチンコ中に熱中症で失ってしまう。そのことが原因で妻に逃げられ、男手ひとつで娘を育てるが、娘は父親に強い嫌悪感を抱く。また、娘は猫を殺したことをきっかけに、殺人に強い興味を抱く。
カップルの彼は、十数年前に、バスジャックを起こし、乗客6人を次々とかけた次々の惨殺犯。
彼女は、ボランティアをつうじて、彼と知りあい、彼の更正を信じて付き合う。
バスジャック事件で、妻を殺された男はその後の全人生をかけて、彼を執拗に追いかけ、彼のすべてを否定する。
興信所勤務の男は、日々のつまらない生活に満足できず、盗聴を趣味とする。
これら、普通でない人々が出会ったときに起こる惨事を見事に描く。
バスジャック犯の彼は、サイコパス気質で、自らの起こした罪に罪悪感を感じることなく、かつ、何事にも興味を持つことができず、惰性だけで生きる。
そんな彼のことを知った娘は、彼に異様な興味を示し、神格化する。娘は、バスジャック犯の彼と出合ったことで、サイコパス気質を開花させてしまう。
一方、興信所勤務の男は、バスジャック犯の男に、もう一度、世の中を騒然とさせる犯罪を二人で起こそうと持ちかける。自分は人殺しはできないので、プロデューサー役に徹するとの条件で。一見、普通そうに見える、この男にも、サイコパス気質が透けて見える。
しかし、バスジャック犯の男は、この申し出を無碍もなく跳ね除ける。
そんななか、ちょっと絡まれたという理由だけでいとも簡単に、娘はストーカーの男を殺す。
その様子を見た、興信所勤務の男は、バスジャック犯の代わりに、娘を殺人鬼として育てようと決意。
また、娘も、快楽殺人の魅力に取り付かれ、男ととも、行動を共にすることを決意。
バスジャック犯の男は、こうした悪意が次々に感染することを防ぐために、娘を殺そうと試みるが、十数年経過したことで、昔のように無意味に人を殺すことができなくなっていた。
この日をきっかけに、興信所の男と娘、バスジャック犯の男は、姿を消す。。。
そして、1年後、残された父親と、バスジャック犯の恋人は何者かに呼び出される。
そして、現場に現れたのは、興信所の男で、巷で話題の連続殺人は、自分とその協力者がプロデューサーとなり、実行犯は娘である。また、バスジャック犯の男は、その犯罪をやめさせることが目的なのだろうか、協力者を次々に殺し回っている厄介者だと、二人に告げる。
そのことを聞いた二人は、これ以上の連鎖を断ち切るために、興信所の男を殺すことを決意。一見、殺意から最も遠いところにいた二人が殺人を犯すという悪意の連鎖はやはり感染を繰り返し。。。
以上のように、悪意は次から次への疫病のように感染を繰り返す。しかし、悪意には、それぞれ意味があり、善意から発出されるものもあることが提示される。
また、登場人物6人の行動の必然性を作家はうまく表現することで、単なるスプラッター作品に終わらせることなく、人間の罪と罰を我々に問うている。
本作は紛れもなく、名作と言えよう。
満足度★★
う~ん
話題の劇団だと期待しての観劇。
が、予想に反して、一般的な演劇とは程遠いきわめて実験的な舞台であったように思う。
ネタバレBOX
舞台は、とある病院の手術室を再現したかのよう。
そこに、ストーリー(!?)テラーとなる怪優・マメ山田と、手術を受ける患者、手術を施すスタッフが現れ、患者の体を切り刻み、すべての内臓を取り出すまでをショートしてみせる。
あくまでもショーとのことだが、内臓をすべて取り出す手術とはどのようなものなのだろうか?
一切の必然を感じさせることのないものであった。
テラヤマ的な、見世物小屋をめざしたのだろうか?
評判の高い劇団だけに、次回は、普通のストーリーのある物語をみたい。
満足度★★★★
ジェットコースター・コメディ
きわめて、複雑な設定をシンプルなセットですっきりと見せる野坂の技量に感服。
ネタバレBOX
埼玉県某所、最寄り駅まで徒歩30分という決して良くはない場所に立てられた新築の構想マンション2棟にある同じ25階の億ションが舞台。
たまたま同時刻に、結婚を前提に、家族の顔合わせをすることになっていた2組のカップル。
しかし、諸事情によって、それぞれ離別することとなってしまった。
ところがそのことを、家族に言い出せずにいた男性・女性は、奇策を仕掛ける。
別れたカップルのそれぞれ一方の男女が、お互いを当初、紹介する予定だったと相手であるとして、家族顔合わせを断行する。
うそがうそを呼び、当初の設定は破綻し、場当たり的に次々と設定を変えざるを得ない一同。
なんとも複雑な人間模様をかもし出すが、その人間模様こそが、本作の肝。
そのシチュエーションを理解できた者の満足度は高かろうが、変幻自在に人物設定が変わるがゆえに、そのことを理解できないものにとっての評価は厳しいものとなろう。
2棟の建物を行き来する役者の芝居のうまさ、それを支える微妙な証明の違い、舞台セットのちょっとした変化など、設定を最大限生かせるよう、細かい配慮がされており、舞台の完成度を感じさせる。
特段、何かが残るような種の舞台ではないが、十分楽しめる舞台であった。
満足度★★★★
高IQ演劇
当劇団初見。
またまた、新しい可能性に出会うことができた。
「知恵」を手に入れたことで、神から「命の終わり」を与えられた人間の自分探しの旅を縦軸に、横軸にそのことを論理的に説明するために組み込まれたロジックコントの組み合わせ。
極めて論理的であるがゆえに、その構造の妙味を理解する者とそうでない者でぜんぜん評価が分かれる作品であろう。
もちろん個人的にはたいへん楽しめる舞台であった。
ネタバレBOX
「人間は(神)の操り人形である」か否かという哲学的寓話を主題として、そのことを説明するがために、いくつものコントが展開される。
哲学的寓話に焦点を当てて理解しようとするか、アンジャッシュ、ラーメンズかのようなコントに焦点を当てるかと楽しみ方も全く異なったものとなろう。
私は哲学的寓話に焦点を当てて観劇した。
その結果、論理的コントが、単体ではそれぞれすばらしかったものの、寓話の証明として使う観点からは少々饒舌に感じられた。
どちらに焦点を当てるかは観客が選ぶべきとの作演の考え方かもしれないが、もう少しどちらかに焦点を当てて構成すればより完成度の高い作人となるのではないだろうか。
もちろん、私は寓話を主軸にしてほしいと願う。
演者では、客演の小玉久仁子が良くも悪くも「ホチキスの小玉」のままであり、安心してみていることができた。
石井千里もまた、いつもの中性的な雰囲気が素敵だった。
満足度★★★
証明は完結したのか?
当劇団初見。
あらたしい数学の定理を発見した気鋭の数学者。
彼と彼の友人の愛読書は「ハチミツとクローバー」であるという。
ふとしたことから、その数学者は、「ハチミツとクローバー」の世界観を証明すると言い出し。。。
役者陣では、バグちゃんを演じた南部久美子の怪演と、それと対照的な振る舞いを見せた岩出茉莉のコントラストが面白かった。
ネタバレBOX
そこに絡むのが11年受験に失敗している浪人生(「ハグ」ちゃんならに、「バグ」ちゃん)。
数学者とその友達、浪人生とその友達がハチクロの世界を体現すると言うストーリー。
名前こそ聞いたことがあるものの、ハチクロの内容を知らない私にとっては主題を十分に理解するにはいたらなかった。
少なくとも、ハチクロの世界観を私に証明することができなかった。
もう少し内容を整理し、一般受けするように改定することができないだろうか?
その一方で、会話はウィットに富んでおり(本編と関係のないギャグではなく、あくまでも本編上の会話)、クスクスと小さな笑いをこらえるのに苦労するほどであった。
脚本の緻密さは十分に理解できたので、もっと分かりやすい、かつ、主題のはっきりした会話劇を組み立ててはどうか?
次回作に期待したい。
満足度★★★
裏切りの果てに
当劇団初見。
イスカリオテのユダのキリスト裏切りに着想を得た本作。
気鋭の演出家の元に、次回公演のオーディションに集まった12人+2人の「役者」。
しかし、演出家にはある思惑が。。。
ネタバレBOX
演出家はスポンサーが下りてしまったことで資金繰りに困り、公演を中止せざるを得ない状況に追い込まれる。
しかし、売り出し中のかれは、自分の名前に傷をつけたくない。
そのため、かれはオーディション参加者の中に、自分の意向を反映して動く裏切り者(ユダ)を送り込む。
その裏切り者は、参加者が相互に不信感を抱くように悪巧みの仕掛けをする。
そして、その悪巧みが完結しようとしたそのとき。
良心の呵責にさいなまれた裏切り者が実はオーディション参加者に事の顛末を伝えており、演出家は逆裏切りを受けることとなるというストーリー。
コメディーなのか、トラジェディーなのか、はたと迷ってしまった。
ストーリー自体はトラジェディーなのだが、ところどころ(というか相当)本編と関係のない、笑いがちりばめられる。
しかし、その笑いがまた独特のもので、爆笑する観客が一部入る一方で、多くの者は沈黙。。。
ストーリー自体は悪くないので、もっとトラジェディーとしての精度をあげてはどうか?
次回作に期待したい。
満足度★★★
ほのぼの系
前作「twelve-天国の待合室」に続いて、2度目の観劇。
前作と打って変ってのほのぼの系のコメディー。
あー、なるほど、と思わせる謎解きが待っていて十分楽しめる作品である。
しかし、前作の問いかけがすばらしかったがばかりに、それと比べると。。。
劇場内の物販では、DVDが売られていたが、「twelve-天国の待合室」だけが完売しており、前作の質の高さを雄弁に物語っていた。
ネタバレBOX
鱗街(うろこまち)に闊歩する犯罪組織「エンゼルフィッシュ」を検挙すべく奮闘する警察および市長の活躍を描く(「街」なのに、町長ではなく、市長が登場するのはなぜだろう?)。
エンゼルフィッシュは抽象的な犯罪予告を行うが、その抽象性がゆえに、警察は混乱し、なかなか検挙できずにいる。
犯罪組織なのになぜか憎めないエンゼルフィッシュ。
それは彼らが鱗街の人々に愛されているから。
記念すべき100件目の犯罪も、鱗街の市民の協力を得て、無事に成立。
めでたしめでたしのエンディングを迎える。
コメディーが主体の劇団とのことであるが、前作「twelve-天国の待合室」のすばらしさが忘れられない。
今後もシリアス系のストーリーにも力を入れてもらいたいものである。
満足度★★★
翻訳ものの難しさ
オフブロードウェイで上演された、芥川作品をインスパイアした原作を、本邦初上演。
上演の意図、主題は理解できたものの、一方で、翻訳ものの難しさを感じる結果となった。
ネタバレBOX
芥川の「袈裟と盛遠」とした『袈裟と盛遠』、「龍」を素材とした『救いの日』、「藪の中」を素材とした『R SHOMON』の三本のオムニバスから構成。
主題は、「自分の目で見たものがすべてなのか」ということであろう。
『R SHOMON』では、タクシー会社経営者の殺人事件を題材に、事件にかかわっているであろう3者(タクシー経営者自身は自殺であると主張)がそれぞれ自分が経営者を殺したと主張する。
果たして、真実はいかに。。。
『救いの日』では、ニューヨークに住む牧師が、同時爆破テロを経験し、神を疑い、ふとした心の迷いから、3日後に奇跡が起こると「うそ」をついたことから救いを求める群衆がセントラル・パークに集まる。
果たして、奇跡は起こるのか?
突然の豪雨によって、群集が退避するなか、牧師は一人、その奇跡を目の当たりにする。
牧師の見た奇跡は果たして、真実なのか。。。
ストーリーとしてはたいへん興味深いものであるが、それが翻訳台本によるミュージカルで十分に伝わったかというと、厳しいものがあろう。
何分、音楽に乗せる台詞の量が多すぎる上、音響の関係で、台詞がところどころ聞きづらい。
俳優陣では、「妻」を演じた千行星の歌声が圧倒的である。
劇団の意図することは十分に伝わってきた。
今後の本劇団に大いに期待したい。
満足度★★★★
前作と同様のレシピエント編
当劇団は前作の「ブロークン・セッション」に引き続いて2回目の観劇。
いい意味でも悪い意味でも、前作とよく似た構造の作品であった。
臓器移植法の改正により、ドナーは自由にレシピエントを選べる時代となる。
その結果、生まれる悲劇を描く。
ORGANとは、、、
ネタバレBOX
英語で「臓器」の意味。
前作同様、登場人物はどこか精神を病んでいるかのよう。
ドナーの親族は、レシピエントに対して、年1回、移植手術が行われた日に開催される食事会への参加を強要する。
レシピエントは年々、食事会への参加が重荷になりつつも、なかなか不参加を言い出せずに来た。
ところが、今年の食事会は違った。
移植を受けた3人のうち、2人が次年度以降の参加が確約できないと言う。
一方、自らの不注意で、ドナーを植物状態にしてしまった友人は、ドナーの親族の下僕のように仕えている。
ドナーの遺族は、レシピエントたちを引きとめようと、説得を試みようとするも、それがかなわないと知ると、下僕であるドナーの友人を使って、レシピエントからドナーが提供した臓器を取り返そうと・・・
前作、同様のグロさ、満載の舞台であった。
テーマ、着眼点は面白く、もう少しメッセージ性があるとより楽しめる舞台となったのではないか。
是非、ドナー編も見てみたい。
満足度★★★★
家族の血
地区再開発計画が持ち上がり、立ち退きを迫られる姉妹を軸に、そこに集う一風変わった人々を描く。
当劇団初見。
ホームドラマ風でありながら、個々の登場人物の背景を丁寧に描写し、会話劇としてなかなかの出来。
時間が2時間15分と長く、途中、中だるみの感有り。
もう少し、コンパクトなるとより一層良くなるのではないか。
次回作に期待が持てる。
役者陣では、小林タクシーが出色。
ネタバレBOX
主人公の姉妹の姉は、ストレスが高ずると、ところ構わず、急に睡魔に襲われるという奇病を患う。
母の死、立ち退きなどの問題によって、頻繁に睡魔に襲われる主人公。
生まれ育ったその地を離れたくないとの思いから、立ち退き反対運動の先頭に立つことに。
そのことによって、自分の居場所を見つけた主人公は、睡魔に襲われる回数もめっきり減り。。。
と縦軸は、立ち退き問題であるものの、横軸として描かれるのは、家族の血。
姉妹はそれぞれ父親が違うと言う。
亡くなった母親は、男性が放っておくことができない色香漂う女性だった様子。
そんな血を色濃く引き継いだ妹は、そんな母親を嫌悪し、似ているといわれていることに立腹する。
一方の姉は、恋人の一度の過ちを許すことが出来ずに、男性不振の様子。
しかし、血は争えず。
終盤、主人公の姉も魔性の本性を現す。
「家族の血」を主軸におきながらも、人間の弱さ、エゴを描いた作品と受け取った。
満足度★★★★★
刹那すぎる啄木の晩年
啄木の晩年3年間を描いた井上ひさしの戯曲を原作に沿って上演。
井上戯曲の真髄を見事に表現。
前作「華々しき一族/お婿さんの学校」に引き続いての観劇となったが、質の高さの脱帽。
ハイリンドの底力を感じさせる秀作であった。
ネタバレBOX
啄木のはかない人生を、彼を取り巻くあまりにも人間くさい家族をからめつつし進行。
家族の存在こそが彼の寿命を縮めさせたのであるが、終幕直前、啄木、妻、啄木の母、三者がそれぞれ結核に犯されながらも、お互いをいたわりあうシーンは涙を誘う。
笑いと刹那さの微妙なバランスによって成り立つ井上作品。笑い、刹那さ、どちらかが多少でも多くなるとそのバランスは音を立てて崩れ去る。
本作は、「笑いにつつまれるからこそ、浮かび上がる刹那さ」を余すとこなく表現。
こまつ座以外で、これほどまでに井上作品を見事に演じた舞台はなかなかお目にかかれないのではないだろうか。
満足度★★★★★
極上の臨場感!
中東のとある国の(元)首都にあるユースホステルに集う日本人バックパッカーたちの一夜。
前半、後半とまるで趣の異なる展開となるが、時間の経過とともに、自分が縁者の一人になったかのような錯覚を起こしそうなほど、臨場感あふれる舞台であった。
たいへん出来の良い舞台である。
またひとつ、目が離せない劇団を見つけた!
ネタバレBOX
地球の歩き方に紹介されているがゆえに、日本人のバックパッカーが多く集まるユースホステル。
前半はどこの国での見かけるユースホステルののんびりとした雰囲気が舞台全体をつつむ。
そこで繰り広げられるのは、日本を離れ遠い国で羽を伸ばすことに生きがいを感じる同志たちの他愛のない会話。
ところが、徐々に舞台はきな臭さを帯びてくる。
どうやら、戦争が始まったらしい。
兵士に戦車、発砲音、さらには砲撃音。
砲撃音は次第に大きくなり、バックパッカーたちはついに自分の死を予感するほど追いつめられていく。
誰もが死を覚悟したものの、やがて夜明けとともに訪れる静寂。
どうやら一時、戦火がおさまったようである。
とここで種明かし。
実は昨夜のそれは戦争ではなく、国王の祝賀イベントであった。
砲撃音は花火にすぎなかったという結末である。
しかし、本当にその砲撃音は花火であったのか、祝賀イベントこそが夢なのではないか、とそんなことを感じさせるほど、臨場感あふれる舞台作りとなっていた。
満足度★★★★★
第一四半期No.1
2010年1月~3月期は二十数本の演劇を鑑賞しているが、その中でも本作は私の中でナンバーワンである。
内容は、劇中劇の形式をとっているものの、とてもわかりやすく、脚本、演出、俳優、どれをとっても完成度の高い芝居であった。
俳小のような老舗劇団がこのような気鋭の作家の作品を上演するのは冒険かもしれないが、その結果、大きな成果を上げた。
それにしても、ハルメリの黒川陽子といい、劇団劇作家の劇作家から目が離せない。
ネタバレBOX
アスペルガー症候群の人たちが集うサークルが、アマチュア劇団と共同でさ演劇の公演を打つこととなる。
劇中劇の内容はずばりアスペルガー症候群の女性がたどる数奇な運命。その脚本は、アスペルガー症候群の人たちの体験をもとに完成されていく。
入れ子構造のその内側、外側で描かれるのはアスペルガー症候群の人たちがいかに生きにくい世界で暮らしているかという実態。
芝居が進行するにつけ、かれらの苦痛が手に取るように分かり、胸が締め付けられるように痛かった。
緻密の取材を重ねたであろう台本は本当に素晴らしかった。
満足度★★★★
ぐらつく足元
とあるシステムのなかで繰り広げられる愛憎劇。
台詞は混沌としており、もっと整理が必要であるが、なかなかおもしろい着想を持った舞台である。
田川は、前作同様、病んだ人を描かせたら、ぴか一である。どのような精神構造を持っているのだろうか。登場人物は彼の分身なのではないかと感じた。
ネタバレBOX
男女ともに次から次へと結婚、離婚を繰り返すことが常態となっている状況下の日本。
「父親」と呼ばれる男性は、新しい妻とすべく女性をナンパし、情交を交わす。その男性は女性の区別をつけることができないらしく、「前妻」と今しがたナンパしてきたばかりの女性さえ、すぐに区別がつかなくなる。
しかし、その男性の包容力によって、血縁関係のない「息子」、「前妻」、新しくナンパされた女性など、ほかで自分の居場所を見つけることができない者はその男性の下を離れることができない。まるで、男性の下こそが自分にとっての楽園であるかのように。
一方で、血縁関係のない「息子」の実の姉と名乗る人物、前妻のファンである名乗るストーカー、ナンパされた女性を自分の分身であると確信している親友など、彼らを狂信的に必要とする人々が登場し、彼らは、自分の必要とする人を「父親」の元から引き離そうと試みる。
すると、舞台監督を名乗る人物(まなざし)が突然現れ、”システム”を混乱させるなという。
愛情はすれ違うことを前提とするものであり、かみ合うことはシステムを破綻させると主張しているかのようである。
満足度★★★
TrackBackSystem。。。
前作、リフラブレインがとても良かったので、一気にファンになった。
フライヤーを見て、MCRのもうひとつの側面を見れるかと期待して、あえて、
「TrackBackSystem」を観劇。
しかし。。。
う~ん、見る作品を間違えたかも。
次回は切なさあふれるMCRを見ようと思う。
ネタバレBOX
デパートのヒーローショーのバックステージを描く。
ヒーローに扮する人物は、アルバイト生活を送っており、それぞれに背負う人生があって。。。悲哀が描かれ、大人の哀愁が漂う。
ところどころに笑いがちりばめられており、それほど、退屈させられる舞台腕はないものの、自分の思い描いていたMCRのイメージとはあまりにかけ離れていて、大きな戸惑いを感じた。
いつものMCRを期待する方は、是非、もう一本の「マシュマロ・ホイップ・パンク・ロック」を。
満足度★★★★★
月並みでないはなし
10日のプレビュー公演を観劇。
地球温暖化などの影響により、今よりも若干地球環境が悪化した近未来が舞台。
月への移住計画に応募した6人+部外者3人、計9名が繰り広げる悲喜こもごも。
ネタバレBOX
月への移住計画に応募しながら、落選した6人が「残念会」と称して、当局よりレストランに呼び出される。
そこで当局より知らされる驚愕の事実。「当選者のなかに欠員が生じたため、6人のうち、1人だけが月移住を果たすことができる。60分で全員の総意として1人を選出してほしい」。
そこから始まる、6人+部外者1人により選考会の様子をほぼリアルタイムで演じる。
そこで示されるのは、恥も外聞も投げ捨てた欲望むき出しの人間性のぶつかりあい。
夫婦1組、恋人ありの男性を軸に物語は展開する。果たして選出されるのは誰か?
本音のぶつかり合いの末、最終的に、1名を無事に!?選出する。
しかし、当局から告げられたのはまたしても彼らを出し抜くものであった。
つまり、選出された1名を除く、5名を当選者とするという理不尽な結論だったのだ。
6名の応募者が月を目指す理由はそれぞれ異なる。生まれも育ちも経歴も異なる人々の本音でのバトルに観客はいやおうなく引き込まれる。
物語が進むにしたがって、目指す理由が明らかにされ、個々人への共感が広がる演出は出色。
ありそうな物語でありながらも、丁寧なストーリーテリングで1級のエンターテイメントに仕上がっている。
すべての演者が役を理解し、十分な演技を見せてくれたが、特にユリコを演じた百花亜希が、前作「掘出者」とは違った顔を見せ、素敵だった。
満足度★★★★
食の「常識」は違えど
小さなマーケティング会社で繰り広げられる「食」のやり取り。
生まれも育ちも異なれば、食に対するそれぞれの「常識」は当然のように一様ではなく。
前作「飯綱おろし」があまりに完成度が高かったことから、それと比べるとまだまだ荒削りではあるものの、十分に楽しめる作品となっていた。
演者の中では、主役の社長を演じる勝俣美秋と、パート社員を演じる横澤有紀が出色。
ネタバレBOX
しかし、常識が違うからこそ、食をコミュニケーションツールとしてお互いを理解しようとする機運も生まれる。
「決して好きではない人とずっと一緒にテーブルを囲むことはできない」と言う言葉が本舞台を端的に表している。
三大欲のひとつだからこそ、楽しく過ごしたいとの思いも至極当然に共有できる。
日本人同士の食の常識の違いだけでなく、フィリピンを比較対象として登場させることで、他国との違いも際立たせるなど、工夫も見られた。