マリンバの観てきた!クチコミ一覧

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ヤスミン・ゴデール「Singular Sensation」

ヤスミン・ゴデール「Singular Sensation」

ダンストリエンナーレトーキョー

青山円形劇場(東京都)

2009/09/23 (水) ~ 2009/09/24 (木)公演終了

満足度★★★★

汁気と色気
3年前の2つの来日公演がどちらも面白くて、期待していた今回。やっぱりヤスミン・ゴデールは凄かった。このフェスティバルはまだ始まったばかりだけど、一つだけ見るとすればこれで決まり、といってもいいくらい。
色彩的にも、ダンスの動きの面でも、記憶の容量をオーバーするくらいの情報と刺激が観客に向かって押し寄せてくる。

ネタバレBOX

舞台の床は真っ白で、両端が1メートルくらいの高さにめくれあがっている。奥には黒っぽい壁が立つ。
白い床というのはその上にあるもの、小道具から衣裳まで、その色彩を浮き上がらせる効果がある。作り手はそのことを充分承知しているにちがいない、スパゲッティの黄色、ゼリーの赤、絵の具の黄緑などが非常に鮮やかだった。会場がこどもの城だということまで意識したとは思えないが、原色が際立つ色使いはきっと子供の目も引き付けただろう。ただし女性ダンサーの赤や黒の下着の色まで目に飛び込んでくるので、子供向けとはいえない内容かもしれない。

音楽は振動音などノイズ系だったが、単に効果音というよりも、振付とかなりマッチしているように思えた。

ダンサーは男が2人、女が3人。青いシャツを着た男1人を除いて、他の4人は途中で衣裳を替えた。だからたぶん、ドラマ的な設定としては青シャツの男が主人公で、他の4人は衣裳を替えた時点で別のキャラクターになっているのだと思う。チラシを見ると、コンセプト・演出・振付がヤスミン・ゴデールで、ドラマツゥルグというのが別にいる。どういう役割なのかはわからないが、この作品全体がドラマ仕立てだと考えていい証拠ではないだろうか。

ゴデールの振付では顔の表情も非常に重要。舌を出したり、舌で頬を膨らませたり、泣いたり笑ったりもする。体の動きや仕草にも意味が含まれていると感じるのだが、通常のマイムに比べると、人物の性格や感情や気分を表現するという面が強いようだ。具体的な状況はわかりにくくても、相手との力関係などはよく伝わってくる。

女3人を背の高い順に1、2、3、男は髭面と青シャツということにして、自分なりにドラマの流れを考えてみる。

最初に登場する女たちはちょっと不良っぽい3人組。女1がリーダーで、女2は男好き、女3は下っ端。女2が青シャツを誘惑したのが女1にばれて、女1の知り合いの髭面が青シャツに制裁を加える。ここで青シャツは黄緑の絵の具を顔に浴びせられる。しかしそのまま引き下がることはなく、青シャツが反撃して髭面を倒し、さらに女1をも押し倒してしまう。

青シャツは次に別の男女に出会う。ここでは女性優位が目立っていて、髭面は女3にストッキングを頭からかぶせられ、二人の関係にはSMっぽさが感じられる。さらに青シャツが筋肉マンに仕立て上げられてからの場面では、全員が乱交パーティーをやっているように思えた。

要するに、青シャツがいろんな形の性体験を重ねていく、という展開ではなかったのだろうか。そして最後に、サングラスにコート姿の女2が実は露出狂だったというオチ。人が感じるいろんな形の性的な刺激、それがタイトルの「singular sensation」の意味ではないだろうか。

出だしはけっこうおしゃれな空間なのだが、終盤になると汁気でいっぱいになる。ヤン・ファーブルの「主役の男が女である時」やゴキブリコンビナートの作品を連想させる湿り気だった。


エーヴァ・ムイル「Sold Out」 / 森下真樹「独楽犬イルツキー」

エーヴァ・ムイル「Sold Out」 / 森下真樹「独楽犬イルツキー」

ダンストリエンナーレトーキョー

スパイラルホール(東京都)

2009/09/21 (月) ~ 2009/09/22 (火)公演終了

おしゃべりダンス
ようやく始まったコンテンポラリーダンスのお祭り、ダンストリエンナーレトーキョー2009。その第一弾。会場はスパイラルホール。うっかり青山円形劇場へ行きそうになる。
フィンランドと日本の女性2人の作品を上演。本来は無言のはずのダンスでどちらも言葉をたくさん使っているのは企画者側が意図的に並べたものだろう。

ネタバレBOX

1本目はエーヴァ・ムイルの「sold out」というソロ作品。ダンスというよりも一人芝居に近い。言葉は英語で、舞台奥には日本語の字幕が出た。前半は「愛」「メディア」「パフォーマー」をそれぞれ、ぬいぐるみ、ダンボール箱、本人という形で三角形に配置して、現代は「愛」が「メディア」、この場合はテレビ、の中にあるといって、実際にぬいぐるみをダンボールの中へ入れる。そして本人はそのテレビの前に座って、一方通行の愛を受け取るだけになる。テーマ自体は珍しいものではないが、表現のアイデアに工夫があって、可愛らしい感じがした。後半は舞台奥のスクリーンの裏側に移動して、横向きのシルエットが見える状態で、奥にあるらしいカメラが捉えた本人の正面画像がスクリーンにデカデカと映る。最初はインタビューアーのようにしゃべっているが、答える側の人物も実は本人が演じている。こちらの映像はライブではなく、あらかじめ撮影したものを使っているようだ。一種の自問自答を映像によって客観化する試みなのかもしれない。昔からつけているという日記の一部を読むあたりでは、空想癖の強い多感な少女像が浮かんできて、ちょっぴり痛々しさも感じさせた。
作者は1980年生まれ。日常の個人的な思いを表現しているぶん、フィンランドの今どきの若い女性はこんなことを考えているのか、という親しみを覚える内容だった。母国語を使わず英語でこれだけの表現をするのは大したものだと思う。

2本目は森下真樹の「独楽犬イルツキー」。出演は本人ともう一人、まことクラブの遠田誠。これは去年、青山円形劇場でやった「うず巻」のデュオバージョン。基本的にはネタ中心のコミカルな内容。伊藤潤二のホラー漫画「うずまき」のように、実際に渦を巻くということをモチーフにしてネタを構成すればかなり面白くなると思うが、アイデア的にまだ不足している感じ。ただし今回は独楽犬(狛犬?)とタイトルにあるので、うずまきは関係ないのかもしれない。一本にまとめた髪の毛がぐ~んと伸びて天井まで届いているという出だしの場面は今回も同じだが、前回はその場でゆっくりと回転していたのに対して、今回は正面を向いて客席にしゃべりかけていた。狛犬との絡みでいえば、神社の鈴についている長太い紐のようだった。
創作・人魚姫/オーロラ姫の結婚

創作・人魚姫/オーロラ姫の結婚

関内ホール

横浜関内ホール(神奈川県)

2009/09/20 (日) ~ 2009/09/21 (月)公演終了

満足度★★★★

人魚姫、横浜に現る
横浜開港150周年記念のバレエ公演。お気に入りのダンサー島田衣子が出ているので見てきた。
プロデュース公演なので、あちこちの団体からゲストを迎えている。個別のバレエ団の公演ではなかなか見られない組合せがあるのも魅力。

横浜でダンス公演を見るといえばたいがい県民ホールだったので、今回もそのつもりで出かけたら、ロビーが閑散としていてどうも様子がおかしい。チケットを見てみると、公演場所は関内ホールだった。早めに出かけたので開演に遅れることはなかったものの、こういうのは精神衛生によくない。神奈川県民ホール、横浜関内ホール、神奈川県立音楽堂。もうちょっと個性的で奇抜な、間違えにくい名前をつけてもいいのではないか、と八つ当たり。

ネタバレBOX

演目は2本立て。一つは「オーロラ姫の結婚」。これは「眠れる森の美女」の終幕部分。ドラマがハッピーエンドを迎えたあとの賑やかな祝福場面なので、ストーリーを気にせずにダンサーの踊りだけを見ていればいい。群舞はそれほどでもなかったが、オーロラ姫の下村由理恵、フロリナ王女の大滝よう、リラの精の友利知可子らはいい踊りだった。この日は2日間公演の2日目。この3人の演じた役は前日には別のダンサーが踊っている。デジレ王子の逸見智彦とフロリナ姫のパートナーである青い鳥の今勇也は両日とも出演。二人ともこの作品の監修をしている牧阿佐美のバレエ団に所属。男性ダンサーにはあまり興味がないけれど、この二人、イケメンだし、踊りの雰囲気もよかった気がする。
二つ目は「創作・横浜の人魚姫」。東京バレエグループという団体を主宰する横井茂という人の作。「人魚姫」はすでにバレエ化もされている作品だが、物語の舞台を横浜に置き換えたところがユニーク。前半、人魚姫に救われる青年はボードセイリングをする現代の若者として登場するし、後半では横浜の街並みを映像で流しながら、実在の病院やホテルを舞台にして話が展開する。
主演は島田衣子。前半は赤い鱗模様の入ったユニタードを着用。踊りの振付はけっこうコンテンポラリーな感じだった。舞台奥の壁際に波をかたどった横長のオブジェが吊るしてあり、これを上下させて海岸と海底との場面転換に使っていた。後半は大勢の子供たちが登場。陸に上がった人魚姫が助けた若者と再会するまでの話を軸にしながらも、開港150周年に湧く横浜のお祭り風景かと思うような群舞がたびたび挿入される。若者役は東京シティ・バレエ団の小林洋壱。島田とともになぜか上着を脱いで白い衣裳になり、前半に比べるとかなりクラシックバレエな感じのパ・ド・ドゥを踊った。

2本とも上演時間は1時間ほど。座席は8列目。音楽は録音でオケピなし。いいダンサーの踊りを間近で見るのはやはりいい。
ただちに犬 Deluxe

ただちに犬 Deluxe

劇団どくんご

埼玉高速鉄道「浦和美園」駅前空き地(埼玉県)

2009/09/20 (日) ~ 2009/09/21 (月)公演終了

満足度★★★★

旅芸人
半年かけて、全国津々浦々を旅して回る、本当の意味での旅回りの劇団。地元と交渉して場所を確保してテントを設営。公演日数はせいぜい2日。そしてまたテントをたたんで移動。
芸能の原点というと大袈裟だけど、同じテント芝居でも都内を中心にやっている唐組や新宿梁山泊とは一味違う。フェリーニの映画「道」に出てくる3人だけの旅の一座を思い出したくらい、どこか素朴さを感じさせる上演形態。まあさすがに、あの映画ほどわびしくはない。全体にこぢんまりとした作りだが、赤を多用した飾りつけや、ラテン音楽を中心にした陽気な音楽、それに役者も少数精鋭の芸達者が揃っている感じ。

ネタバレBOX

サッカーにはそれほど興味がないので、埼玉高速鉄道の終点、浦和美園駅に降りるのはこれが初めて。駅前広場が会場と聞いていたのですぐに見つかるだろうとタカをくくって正確な場所を確認しておかなかった。そしたら案内の張り紙もなく、それとわかるノボリなども見えなかったので最初はちょっと心細くなったが、よく見ると広い空き地の隅にそれらしき建造物を発見。
予想したよりも小さなテント。木造の舞台の広さは6畳か8畳くらいだろう。開演前は白い蚊帳や垂れ幕のほか、赤い派手な飾りがいくつも吊るしてある。風の強い日でそれらが盛んになびく。芝居が進むにつれて徐々にそれらは取っ払われていき、最後には短い草の茂る空き地と、その向こうにある大型スーパー、イオンの建物が舞台の背後に現われた。

役者は5人。いずれもコミカルな扮装をしている。
始めと終わりに音楽の演奏があり、そこでは全員が楽器を持つ。下手で音響操作をしているスタッフ二人もこのときは舞台に上がった。
そして肝心の芝居のほう。チラシを見ると、構成・演出を担当する人はいるが、脚本家というのはいないようだ。構成は5人が全員で演じる場面と、5人が一人ずつ登場して演じる場面に分かれている。全体を通しての大きなストーリーはない。
5人が全員で演じる場面は、ある設定のもとでエチュードをやりながら作ったのではないだろうか。具体的には、大きな犬のぬいぐるみを死体に見立てて、刑事が事件を推理して、最後に「犯人はお前だ」と誰かを指差す。ドラマの見せ場といっていいこの短いシーンだけを切り取って、犯人と刑事の役を次々に入れ替えながら、いろんなヴァリエーションをどんどん重ねていく。ストーリーを追おうとするとわけがわからなくなるので、早めに頭を切り替えて、役者たちのノリのいいパフォーマンスを楽しむ方向で眺めたほうがいい。
5人の役者が単独で演じる場面は、いわばそれぞれが単独ライブをやるような心意気で、たぶん演目も役者自らが考えて作ったのではないだろうか。

この劇団にいれば役者は鍛えられるだろうなあと思う。楽器も演奏しなきゃならないし、一人で舞台に出て一定の時間を持たさなきゃならないし、本番でも即興が入るみたいだし、踊ったり歌ったりも求められる。

役者たちは汗をかいていたようだが、この日は本当に風が冷たくて、ひざ掛けの毛布が配られたものの、これからの季節、テント公演なので、防寒対策はして出かけたほうがいい。
TRACE / MENNONO

TRACE / MENNONO

セッションハウス

神楽坂セッションハウス(東京都)

2009/09/19 (土) ~ 2009/09/20 (日)公演終了

水棲人現る
パル・フレナックという1957年ブダペスト生まれのダンス振付家によるソロ作品集。東京での公演は初めてらしく、もちろん私も初めて見る。
チラシの紹介文に、両親が聴覚障害者だったと書いてあり、そういう環境が作品にも神秘的なオーラというか、something specialなものを付与しているのではないかと期待してしまうのは、もちろん単なる妄想だと重々承知はしているが、この公演を見てみようと思うきっかけになったこともまた確か。
似たようなケースで思い出すのは、ジャック・ニコルソンが主演した「カッコーの巣の上で」という映画で、精神病院の看護婦長を演じて、ニコルソンとともにアカデミー賞を獲得したルイーズ・フレッチャーという女優。彼女も両親が聴覚障害者だったそうだ。病院内で悪ふざけをやめないニコルソンをガラスの窓越しににらみつける彼女の憤怒の表情が今も記憶に残っている。

ネタバレBOX

演目はまず、「MENNONO」という15分ほどのソロ作品をクリシュトーフ・ヴァルナージュとパル・フレナックという親子ほど歳の違う二人が順番に演じる。段取りなどはほぼ同じだが、動きが違っているということはつまり即興が入っているということだろうか。いでたちはキャップ、ゴーグル、海パンという競泳選手のスタイル。前半は奥の壁に照射される三角形の照明の中で、手足が胴体にからみつくような独特の動きを見せる。本人の意志で動かしているときもあれば、手足が別の生き物のように体を這い回ることもある。後半は舞台中央に進み出て、床一面に広がっている布の中央部分に立ち、そこに体を通す穴が開いていて、その縁を腰に巻きつけるとまるで床全体に裾が広がる巨大なスカートを穿いたようになる。そして前半と同様の体にまとわりつくような手と腕の動きを見せる。
若いヴァルナージュは体の柔軟さを生かして、ちょっとアクロバティックな感じもあった。一方、体形的にはそれほど変わらないフレナックは、マイムを思わせる手の細かい動きに特徴があった。

休憩なしで次に上演されたのが「TRACE」という30分ほどの作品。最初に登場したヴァルナージュが演じた。前半でフレナックが同じ作品を演じたのは、後半にも出演するヴァルナージュの休憩時間を作るためでもあったのだろうと思う。この作品でも水着はそのまま。ゴーグルとキャップの替わりに水掻きのフィンを足にはめて登場。床には四角を描いて細い光があたっている。前半と大きく違うのは、床に転がる場面が多いこと。飛び込んだり泳いだりという動きもあったから、照明で区切られた四角い部分はプールなのかもしれない。途中でキャップをかぶったりパンツを脱いだりまた穿いたりの大熱演だった。

作り手はいろいろと深い意味を作品にこめているのだろうと思うが、見る側からすると、水着の男の異様な動きをひたすら眺めていたということになる。深い海から現われた謎の水棲人。そんなSF的な状況を想像してみるのもいいかもしれない。
吾妻橋ダンスクロッシング

吾妻橋ダンスクロッシング

吾妻橋ダンスクロッシング実行委員会

アサヒ・アートスクエア(東京都)

2009/09/11 (金) ~ 2009/09/13 (日)公演終了

皆勤賞
2004年から始まったコンテンポラリーダンス中心のこのお祭り、今回で何度目になるのだろう。最近では年末に開催されるHARAJUKU PERFORMANCEや富士山アネットのEKKYOUなど、似た企画も増えているが、これはその先駆的な存在。いつも大満足というわけではないが、それでもとりあえず初回から欠かさずに見ている。

ネタバレBOX

今回の出演は10組。インスタレーションのChim↑Pomだけは舞台ではなく、トイレで作品を発表。会場であるアサヒ・アートスクエアのトイレはもともと遊び心に溢れているので、そこへさらにちょっかいを出した形。男湯女湯なら色気もあるが、男女トイレの「交流」というのはちょっと・・・

出演順(だと思うが記憶があいまい)にざっと感想を書いておく。

ハイテク・ボクデス「無機ランド」はタイトルが示す通り、人間は登場せず。動きのあるインスタレーション、あるいはほとんど美術作品といったほうがいい。プログラムには出演の順番が書いてないので、最初はこれがChim↑Pomか飴屋法水の作品かと思った。動く仕掛けがいろいろ。マネキンのカツラが浮き上がって落ちる。ダッチワイフにコスプレをさせたような空気人形が2体、奥の壁沿いを垂直に上昇。下手の壁に白黒まだらの照明が当たり、三つの鯉のぼりがこれも縦に上昇。その右手で回転する鉄棒大車輪人形。舞台中央では柱状に盛り上がるシャボン。扇風機を使ったバッティングマシーン。人がいなくてもダンスは成立するのか否か。そんなことをふと思う。

contact Gonzo「(non title)」は初見。男4人による寸止めの喧嘩。ダンスでコンタクトといえばダンサー同士が体を接触させることを指すが、そのいちばん過激な形を追究しているのかもしれない。ときにはビンタの交換もある。しかし決して怒りという感情に流されてしまうことはない。激しく相手にぶつかりながらも、冷静に相手の動きを見定めている。服装は普段着だし、4人のうちの2人は坊主頭で一見ガラが悪そうだが、レスリングのようなスポーツ感覚が漂っている。もう少しマイルドな形では身体表現サークルとも通じるところがあるような気がする。

チェルフィッチュ「ホットペッパー」は、過去にやった「クーラー」と似たタイプ。OL二人が派遣社員3人に変わっている。その意味ではあまり新鮮味がなかった。左右の女性は団扇を持ち、中央の男が持っているのが「ホットペッパー」という雑誌。台詞の内容は日常のありふれたものよりも、もっと面白さを追求してもいいのではないかと思う。伊東沙保が「フリータイム」に続いての出演。

ほうほう堂「あ、犬」は今回、久々に活動再開した女性デュオの作品。以前はコンタクト中心だったような気がするが、今回はほとんど接触せず、むしろユニゾンで動くことが多い。正座で対面という形からスタート。動きというか仕草には康本雅子っぽいものをちらっと感じた。メンバーの一人、新鋪美佳はそういえば康本の「チビルダミチルダ」に出ていたし。

快快は演出の篠田千明が現在、ドイツにいるらしい。で、作品というよりも余興的な催しを二つ。「ジャークチキン~それはジャマイカの食べ物」はタイトル通りに、料理を実演で作ってみせた。工事現場で使う排気装置で客席にかぐわしい香りを送ってから、続く休憩時間にジャークチキンのサンドイッチを500円で販売。私は買わなかったが、なかなかの売れ行きだった模様。もう一つの「GutenTag,Azumabashi!!!」は篠田のいるベルリンのようすを映像で紹介したもの。

25分の休憩のあと、

鉄割アルバトロスケットは5本の小ネタを連続で上演。音楽的なパロディが多かった。歌舞伎ネタでは拍子木や囃子を実演して、様式化された役者の動きをおちょくってみせた。シャンソン歌手のネタではシャレたステージの雰囲気を再現しつつ歌詞でボケをかまし、寝取られ亭主と間男のやりとりでは、台詞を徐々にミュージカル化していった。そのほか焼き鳥ネタでは有名タレントの麻薬騒ぎも串でチクリと。

Line京急「吉行和子(ダブバージョン)」は初見。出演はチェルフィッチュでもなじみのある山縣太一と松村翔子、これに音楽担当の大谷能生が加わる。役者二人はそれぞれ客席に向かってしゃべりかけるというチェルフィッチュ・スタイル。だけど、前半に登場した本家に比べると、より音楽的だったし、動きも自由度が高そうだった。個人的にはこちらのほうがチェルフィッチュの進化形というか、よりアヴァンギャルドな感じがして本家よりも面白かった。

いとうせいこうfeat.康本雅子「Voices」はEGO-WRAPPIN'の森雅樹によるギターその他の演奏をバックにして、いとうが9・11同時多発テロにまつわる詩を朗読し、康本がそれに合わせて踊るというもの。政治的な枠組みの中でおよそ政治的ではない康本のダンスが展開するというのがとにかく奇妙な味わいだった。ヘンな例えだが、説教をたれる伝道師の横で巫女が神を讃えて踊るという場面を想像した。

飴屋法水の「顔に味噌」は、国籍もさまざまな20名近くの人物が出演。舞台奥にたくさんの椅子がずらっと横一列。そこに座った一団がときに並んだままで進み出て、それぞれの身の上やら思いやら、あまり意味のない断片的な台詞をしゃべったりする。宮沢賢治のヨタカの星とシェイクスピアのロミオとジュリエットのテキストも断片的に使用された。それ以外にはフェンシングのユニフォームを来た二人、もっぱらダンスをする女、舞台の前面に腰をおろして顔に味噌を塗る女などがいた。最後は見るからに舞台慣れしていない老人がマイクの前でカンペを見ながら台詞を読み上げて終わり。出演者の一人で、まだ来日してまもないという韓国の女性が、韓国人だからってみんなキムチが好きとはかぎらない、といっていたのが印象に残る。韓国人は気の短い人ばかりじゃないとも(笑)。飴屋法水の演出は「転校生」、「三人いる」、そしてこの作品と、いずれも素人を起用しているのが特徴的だ。フェスティバル/トーキョーに来日したリミニ・プロトコルとの共通点を思ったりする。

悪趣味

悪趣味

柿喰う客

シアタートラム(東京都)

2009/09/04 (金) ~ 2009/09/13 (日)公演終了

満足度★★★

いちばん怖いのは場内アナウンスかも
9月5日の本編と、9月7日のスクランブルキャスト(配役総入れ替え)を見てきた。

本編ではどういうわけかいつもの魅力がいまひとつ感じられず、どうしてだろうとあれこれ考えたが結論は出なかった。続いて配役総入れ替えの公演を見たのだが、これが予想外に面白くて、どうやら本編での不満は配役によるところが大きかったようだ。

大部分の役者が入替によって本編よりも良くなっていると感じた。入替はちょっとどうかと思ったのは高見靖二のメイド役ぐらい(笑)。片桐はずきはどちらの役でも光っていた。中屋敷法仁の家庭教師役がなくなっていたのも正解かも。本編ではかなり滑舌が悪かったから。

ただし、本編を見たのは公演開始の2日目だし、スクランブルキャストの公演でもすでに内容の一部が修正されていたので、公演が進むにつれて本編もどんどん良くなっていく可能性がある。

ネタバレBOX

参考までに両方の配役を書いておきます。
本編(役)スクランブルキャストの順で、

永島敬三(大学教授)須貝英
七味まゆ味(女子大生)片桐はずき
村上誠基(自殺未遂女)渡邊安理

コロ(綾町家・母)深谷由梨香
深谷由梨香(綾町家・長女)玉置玲央
本郷剛史(綾町家・長男)國重直也
國重直也(綾町家・次男)本郷剛史

梨澤慧以子(メイド)高見靖二
須貝英(河童)永島敬三
片桐はずき(子供・キュリー夫人)高木エルム
中屋敷法仁(家庭教師) ・・・・

齊藤陽介(不良・金属バット)コロ
佐野功(不良・猟銃 ほか)浅見臣樹
瀬尾卓也(不良・斧 ほか)出来本泰史
佐賀モトキ(不良・鎌 ほか)熊谷有芳

高見靖二(霜田村青年団長)齊藤陽介
野元準也(青年団員)柳沢尚美

渡邊安理(車椅子ババア)梨澤慧以子
高木エルム(ゾンビ村長)七味まゆ味

伊藤淳二(警部)野元準也
浅見臣樹(巡査)伊藤淳二

川口聡(不良・鎌の母 ほか)佐賀モトキ
柳沢尚美(看護婦 ほか)佐野功
熊谷有芳(駄犬 ほか)川口聡
出来本泰史(マスクの男)瀬尾卓也

玉置玲央(町医者)村上誠基
PRIFIX3

PRIFIX3

PRIFIX3実行委員会

王子小劇場(東京都)

2009/08/29 (土) ~ 2009/08/30 (日)公演終了

投票を終えて
若手劇団のショウケース。4時間余りかけて見る。衆議院選挙の投票には観劇前にちゃんと行きました。

ネタバレBOX

劇団競泳水着は2年前からちょくちょく見ている。作者の上野友之には恋愛伝道師の称号を授けたい。何組かのカップルを並べて描くという作風なので、上演時間が1時間と短くなってもあまり影響はなさそうだ。脇役で、恋の応援団的な存在を演じることの多い大川翔子が、今回は渦中の人をきっちりと演じていたのが印象的。

ナカゴーは今年に入って1本見ている。超能力を持つ生徒だけのクラスが舞台のSFもの。元ネタがあるのだろうか、バタくさい外国人ふうの演技を強調したパロディ調の作品。上演時間が20分と短いせいか、ヒーローたちと悪役が対決するいちばん肝心のクライマックス場面が省略されていた。あるいはそれもネライなのか?

ロロもつい最近、初めて見たばかり。同じやりとりを演じ手を替えながら繰り返すという場面からは、チェルフィッチュの影響をちらっと感じた。前回の公演では快快のスタッフが参加していたし、快快にもチェルフィッチュの影響を感じることがあるので、やはりロロと快快、意外と近いのかも、という前回の印象を新たにしたのだった。

あとの4組は名前は聞いていたが見るのはこれが初めて。

マーク義理人情の作品では水産高校のボディービル部の男子3人が登場する。体育会系男子の暑苦しい生態を描くところは、一度だけ見たことのある田上パルの芝居にちょっと似た味わい。実際にこういう部活があって、役者も実際にそれを経験しているのではないかと思わせる、ディテールに妙な説得力とリアリティがあった。「シコふんじゃった」で大学の相撲部を描いた周防正之監督に、この題材で映画を作ってほしいと思うくらい。男優3人は個性的で悪くなかったが、体形の面で残念なのは、ブタ野郎と骨野郎の中間的な存在として、正統派ボディビルダーのマッチョな奴がバランスとして必要なのに、かなり骨野郎に近い体だったこと。ここはロバート・デ・ニーロ並の役作りで、たっぷりと筋肉をつけてほしかった(笑)。

自己批判ショーはヤクザ映画の設定を下敷きにして、その上でおバカをやるというパロディあるいはおちゃらけのコメディ。ヤクザ映画の演出・演技をきちんとやればやるほどおバカが生きてくると思うのだけど、全体におふざけムードが漂って、メリハリが足りなかった。

Mrs.fictionsは宇宙人のいる異常さを日常感覚で描くという、ちょっととぼけた感じの芝居。これも元ネタがあるのだろうか。高橋留美子の「うる星やつら」というのも台詞に出てきたが、私はこの漫画の内容を知らないのでなんともいえない。

バナナ学園純情乙女組はとにかく騒々しかった。彼らこそ「うる星やつら」だ。
ドラムストラック drumstruck(再来日)

ドラムストラック drumstruck(再来日)

ホリプロ

天王洲 銀河劇場(東京都)

2009/08/18 (火) ~ 2009/08/31 (月)公演終了

満足度★★★★

太鼓を叩いた
ヘタなりに思いっきり叩いてきた。子供連れの家族も目立つなか、左右には年配の夫婦と黒人の親子がすわっていて、どちらもそれなりにテンションを上げて叩いていた。上演時間は1時間20分。

ネタバレBOX

720席にそれぞれアフリカの太鼓(ジェンベ)が置いてあり、パフォーマーの指示を受けながら観客全員が演奏に加わる。ほかにも手拍子や歌でも参加するし、終盤には一部の観客にシンバルやトライアングルやシェイカーなどを配って、これも演奏の一部になる。
「STOMP」という同じくパーカッションの音楽ショーでも、客を巻き込む演出はあったが、こっちのほうが参加の頻度がはるかに高い。能で使う鼓のように、紐で強く張った皮を両手で目一杯叩くので、すぐに体が温まってくるし、うっすらと汗もかく。
クラシックのコンサートのように、咳払いの一つもはばかられるような張り詰めた雰囲気で音楽を聞くのも嫌いではないが、演奏の上手い下手を気にせずに、少々リズム感が悪かろうが、ノリだけで押し切ってしまうこういう観客参加型の演奏会も悪くない。夏バテと日ごろのストレス解消にはもってこいだ。
観客のそういう素人丸出しの演奏をしっかりと受け止める、演奏者たちはもちろん腕利きが揃っている。黒人の女性が3名、男性が5~6名。白人の男性が3名。そのうちの一人は一般客になりすまして客席から登場。徐々にその実力と正体を明かしていった。アフリカの民族楽器を使った民族舞踊的な演目が主体だが、楽器はYAMAHAのマークのある普通のドラムセットも使っていた。

チラシの写真では、装飾をほどこしたきれいな太鼓が客席に並んでいるが、実際に置いてあるのは全体が黒塗りでそれほど高価ではない、生徒が練習に使うようなタイプのもの。素人が叩くのだからそれで充分。工芸品のようなものを渡して壊されたらシャレにならない。ロビーでは1個3000円で販売もしていた。
"Are You Experienced?"

"Are You Experienced?"

CASTAYA PROJECT

こまばアゴラ劇場(東京都)

2009/08/10 (月) ~ 2009/08/25 (火)公演終了

my Castaya experience
終わってみれば、演劇的な企みにあふれる公演だったこのCASTAYA PROJECT。私のCASTAYA体験を記しておくと。

今回は8月10日と11日、2週間おいて24日と25日という変則的な4回公演だった。
内容に関する情報が極端に乏しかったので、チラシに載っている前回公演の内容説明を頼りに見てみることにした。
最初は4公演とも同じ内容だろうと思ったから、11日の回に予約を入れてそれを見た。
このときは他の日も同じ内容だろうと思っていたから、ここへの書き込みにはなるべく出演者や作品内容は明かさないようにと気をつかった。
ところがそのあと、ネットの情報から、4日間の公演内容がぜんぶ違うらしいということがわかったので、2週間後の24日と25日にも予約を入れた。
24日はたしかに11日とは内容が違っていた。
翌日もたぶん違う内容だろうから出かけるつもりだったのだが、仕事の疲れもあって結局は行かなかった。
見た人の報告を読むと、最終日がいちばん実験的で、かつ問題作だったようだ。その場に居合わせたかった気もするし、逆に話を聞くだけで充分な気もする。
4公演とも内容が違うということは、前半終了後の長い休演期間だと思った2週間が、実は後半のための稽古期間だったわけだ。

ネタバレBOX

11日の公演を見ているうちに、ある重大な疑惑が浮かんできた、と以前にも書いた。これについてはすでに気づいている人もいるようだし、たぶんまだ気づいていない人もいるのではないかと思う。
そのことに触れないままで、作品の感想を書くのはかなりむずかしい。というのも、作品の特徴に気づくことでその疑惑が浮かんできたからだ。
CASTAYA PROJECTはまた次があるかもしれないし、しかるべき筋からの公表がないかぎり、私からそれをばらすのは控えたいと思う。

今回の公演では事前の情報を極端に制限していた。集客ということを度外視した行為のようでもあり、逆に秘密主義によって観客の興味をあおるという宣伝の高等テクニックともいえそうだ。いずれにせよ、ネットなどの口コミ情報も手伝って、客席はそれなりに埋まっていた。
何の予備知識もなく芝居を見てもらいたい、というのがたぶん、こういう形の公演を選んだ作り手の意図だろう。
昔、深夜にテレビをつけたら、たまたま映画が始まったところで、なにげなく見ているうちに、そのまま内容にどんどん引きずり込まれていったことがある。監督名もわからず、出演しているのも素人っぽい役者ばかりだった。あとでわかったのだが、それはホラー映画の傑作といわれる、トビー・フーパー監督の「悪魔のいけにえ」だった。怖い映画はほかにもいろいろとあるが、ああいう無防備な形で映画に引き込まれた経験はその後も記憶にない。

茶の間と劇場という違いもあるから、テレビのスイッチを入れるような気軽さで芝居を見るのはさすがに無理だろうと思うが、その試みと心意気は評価したい。
サマーゴーサマー

サマーゴーサマー

あひるなんちゃら

OFF OFFシアター(東京都)

2009/08/19 (水) ~ 2009/08/24 (月)公演終了

満足度★★★

サマータイム
劇団の芝居を長く見ていると、脚本や役者の演技にはそれなりに波があるけれど、惚れた弱みというか、一作ごとの出来不出来にはあまり一喜一憂しなくなる。
そんなことを書くと今回は不出来だったのかといわれそうだが、まあ出来としては並の部類ではないでしょうか。

ネタバレBOX

女優が二人しか出ていないというのは珍しいケース。黒岩三佳はほぼヒロインで、場末の映画館の支配人を演じる。もう一人はそんな映画館に唯一熱心に通う映画好きの篠本美帆。

あひるなんちゃらの芝居では、エキセントリックな人が大勢いて、まともな人は少数派、しかも劣勢に立たされるというのが基本的なパターン。今回、男優が8人出ているけれど、まとも派の黒岩を翻弄するような強烈なヘンテコさを持ったキャラが比較的少ないように感じた。黒岩自身が翻弄されるよりも翻弄するほうのキャラだから、翻弄しにくいという面もある。

永山智啓は映画を見ないくせにヒマが出来るとやってきて黒岩とおしゃべりをする人。江見昭嘉は映画といえば英語でしゃべるものだと思い込んでいる勘違い男。澤唯は映画館の入ったビルの再開発を勧める人。佐藤達は映画館へアダルトビデオを借りにくる勘違い学生。小林タクシーは自主制作の映画を上映してくれと頼みに来る人。根津茂尚と関村俊介は学習意欲に目覚めた江見の教育係。石田順一郎は黒岩に子供の宿題を催促する彼女の兄。

芝居の設定としてヘンテコなのは、黒岩が甥や姪の夏休みの宿題を懸命に片付けようとしていること。それが彼女の家の代々の伝統だという。彼女がこのまま夏が終わらなければいいのに、とつぶやいたのが原因かどうかはともかく、そのあと夏がずっと定着して、彼女の宿題も延々と続くという、不条理劇のような、あるいはシュールなファンタジーのような状況になる。



「夢+夜~ゆめたすよる~」

「夢+夜~ゆめたすよる~」

少年王者舘

ザ・スズナリ(東京都)

2009/08/19 (水) ~ 2009/08/25 (火)公演終了

偉大なるマンネリ
天野天街の作品は最初に見た「真夜中の弥次さん喜多さん」の印象が強烈すぎて、その後に見る作品はどれも物足りなさを感じてしまう。
同じやりとりを執拗に変奏するというのがほぼ毎回のお約束だが、観客のみならず、作り手としてもいいかげん飽きないのだろうかと不思議に思うことがある。
美術の世界を見ると、たとえばクリスチャン・ラッセンという画家はいつも海をモチーフにしたメルヘンぽい画風が特徴的だし、現代美術の草間彌生といえば水玉模様がいわばトレードマークになっている。需要があるから続けるのか、それとも他にアイデアがないからなのかは知らないが、同じようなモチーフで作品を作り続けるのは珍しいことではない。
天野天街の作品も、そういうふうに美術作品だと思うことで似たような作風の繰り返しを受け入れることは出来るけれど、やはり演劇としてみると不満を感じてしまう。
弥次喜多は二人芝居なのでわからなかったが、他の作品では台詞を群唱でしゃべることが多い。あの元気のよさが逆に単調で、没個性的だと思えてしまうのは、まあ好みの問題だからしかたがない。

ネタバレBOX

映像の使い方や音響には独特のものがあるのだから、ファンタジー色のあるストーリーに活かしたら面白いと思うのだけど、なんだかアングラ演劇がよく描く、郷愁の中の昭和、みたいな世界にとどまっているのがちょっともったいない気がする。
捩子ぴじんソロ公演

捩子ぴじんソロ公演

捩子ぴじん

こまばアゴラ劇場(東京都)

2009/08/21 (金) ~ 2009/08/23 (日)公演終了

氷と炎
捩子ぴじんという名前のダンサー。チラシによると大駱駝鑑にかつて所属。見るのは今回がほぼ初めて。ジョセフ・ナジの「遊*ASOBU」に出ていたのをかろうじて覚えている。

ネタバレBOX

最初に出てきて氷の塊をノコギリでひくのは当人ではない。ソロ公演を手助けする黒子だろうと思うが、それにしてはやけに目立っていた。頭を丸刈りにした山下洋輔ふうの顔立ち。

しばらくして登場のぴじんは黒いビキニのブリーフ姿。細身で均整のとれた体は、アフリカの若者を彷彿。頭はスキンヘッド。尖った耳、間隔の広い両目がどことなく宇宙人めいている。体全体に金粉か銀粉を塗れば室伏鴻に似たスタイルだが、室伏のような迫力は感じなかった。

床はむきだしのコンクリート。ダンス公演でこれはどうなのだろう。
床には転がりません、倒れ込みません、うずくまるかもしれないけれど基本的には立ったままで踊ります、回転もスピードをつけて何回もやることはありません。
踊る前からそういったことを宣言しているようなもので、あまり見る側の期待をあおるものではなかったし、実際の踊りのほうも探りさぐりやっている感じがした。
ダンスがあらかじめ振付けたものかそれとも即興かは見ていてもなかなかわかりにくいのだけど、今回のダンスは全体的に即興の部分が大きかったのではないかと思う。
照明が一定の効果をねらってというよりも、かなり恣意的に変化していたというのも、即興のためのヒントに思えたし、天井から吊られてときどき気流の関係でゆっくりと動くオブジェや、解け方や割れ方があらかじめ予想できない氷を使うのも、ダンスが即興ではないかと思わせる要因だった。バケツで燃える火もしかり。

即興かどうかはともかく、ダンサーから伝わってくる集中力とか熱っぽさというものがちょっと希薄な気がして、その点で物足りないと感じる60分だった。
挑発スタア

挑発スタア

イデビアン・クルー

にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)

2009/08/20 (木) ~ 2009/08/25 (火)公演終了

満足度★★★★

家族の肖像
初日に見る。期待通りというか、期待以上に面白かった。
かつては学校の体育館だった会場。バスケのゴールが一つ残っているのがご愛嬌。誰かが途中でシュートを打つかと思ったが、それは考えすぎだった。
演劇の場合は、客席を二手に分け、その間のスペースで演技を行うというのはときどき見るが、ダンス公演でそういう形のものを見たのはたぶんこれが初めてだ。そしてそれが非常に面白い効果をあげていた。舞台中央には長方形の大きなテーブル。出演者14人が並んですわっても充分な余裕がある。このテーブルを中心にダンサーたちが回りながら移動すると、ちょうどスタジアムのフェンス際の席にいて、スポーツ選手が間近に来たときのような臨場感、ワクワク感が味わえる。その意味では今回特に、最前列の席がおすすめ。

またカンパニーのツートップといっていいかもしれない井手茂太と斉藤美音子のパ・ド・ドゥも見もの。いままで意外とあるようでなかった気がする。

ネタバレBOX

このカンパニーのダンス作品は、人物や場所の設定がけっこうはっきりしていて、コンテンポラリーダンスの中では親しみやすい雰囲気を持っている。以前、「排気口」という日本旅館が舞台のダンス作品をやったときには、登場人物たちの相関図をパンフに載せていたくらい。
今回もそういうドラマ的な要素が強く感じられるので、ダンサーの衣裳や振る舞いから受ける印象にもとづいて、状況設定を自分なりに想定してみた。
登場人物にいちいち名前を考えるのは面倒なので、ダンサーの名前をそのまま使わせてもらう。

時代は日本の戦前。根拠は舞台の端の2箇所に立っている古めかしい街灯。場所は富豪の邸宅の食堂。大きな食卓が鎮座している。
屋敷の当主は小山達也。裸一貫から出発して一代で現在の富を築いた。近頃はいくぶんボケも見られるがまだまだ見くびったものではない。彼には病没した前妻との間に3人の娘がいる。上から、美音子、朋子、なぎさ。次女の朋子は新婚で、夫は松之木。また後妻である今日子との間にも幼い2児がある。名前は亮介と奈実。そしてもう一人、達也が妾との間に設けた子供で、現在は成人して軍人になっている達哉。
そのほか、小山家に出入りする人物としては、達也の妹で出もどりの留美子、書生の原田、達也の秘書の金子、メイドの東、執事の井手がいる。

事件というほどのものは何も起こらないのだが、3組の恋愛模様がダンスに花を添えている。一つは新婚の朋子と松之木で、そのラブラブさ加減は周りの者にとっていささか暑苦しいほど。あとの二つには執事の井手が絡んでいる。この男がなかなかの女たらしで、結婚を餌にメイドの東をたぶらかす。傷心の彼女の前に現われるのが軍服姿もりりしい達哉。二つめはこの二人の純愛。そして三つめは、長女でオールドミスの美音子と執事井手との背徳感あふれる関係。良家の令嬢と使用人の色模様とくれば、先日見たばかりのバレエ作品「令嬢ジュリー」がいやでも浮かんでくる。

わが世の春とばかりに、食堂の端に設けられた舞台で当家の主が踊り、丸山圭子の「どうぞこのまま」に乗って、全員が食卓で踊るラスト。だが彼らのそんな希望をあざ笑うように、軍国主義の流れが小山家全体を飲み込んでいくのだった。

"Are You Experienced?"

"Are You Experienced?"

CASTAYA PROJECT

こまばアゴラ劇場(東京都)

2009/08/10 (月) ~ 2009/08/25 (火)公演終了

それは秘密です
去年、リトルモア地下で上演された東京デスロックの3本立て公演の一つとして、日本に初登場したCASTAYA project。聞く所によれば、韓国人俳優を起用して、しかも前半の40分は無言で立ったまま、そのあとは韓国語が飛び交うという観客泣かせの内容だったらしい。

演出家Enric Castaya(エンリク・カスターヤ)のプロフィールから、出演者の顔ぶれ、そしてもちろん作品の内容まで、徹底した秘密主義のもとで上演されるその公演は今回が第2弾。噂を頼りに、どんなものだろうという好奇心だけで見に出かけた。

公演日程がかなり変則的で、8月10、11日にやったあと、2週間後の24日、25日にやってそれで終わり。実際に作品を見てみると、この長い休演期間もある程度納得がいく。

出演者の顔ぶれは開演すればもちろんわかることだが、せっかく秘密主義にしているのだから、それを尊重して公演期間中は書かない。作品の内容とともに、公演終了後にまだ記憶に残っていれば書くかもしれない。

実はこの作品を見ている途中で、ある重大な疑惑が浮かんできたのだが、それについては公演終了後もあえて触れないでおこうと思う。

[リゾーム的]なM

[リゾーム的]なM

Dance Company BABY-Q

吉祥寺シアター(東京都)

2009/08/07 (金) ~ 2009/08/09 (日)公演終了

満足度★★★

早出の余禄
開場してすぐに入ったら、開演までまだ30分近くあるというのに、カジワラトシオともう一人、JON(犬)という人の演奏で、東野祥子がすでに踊っていて、結局それは開演間際まで続いた。あとでわかったのだが、今回、東野は本編には出演しておらず、開演前のこのパフォーマンスは、一種のファンサービスだったようだ。6月にやったソロ公演「メス」の続きを見ているようで、これだけでもけっこうおなかが膨れた。

おなかが膨れるといえば、本編では妊婦たちのダンスがあり、風船のような巨乳の女性も登場した。どちらも実際は詰め物。それから後半になると男性3人が女装で現われ、女性陣の激しい群舞とは対照的に優雅な振るまいを見せる。映像では昆虫の交尾シーンが舞台奥に大写しされたが、これはなかなかグロテスクだった。

このへんの表現は、ジェンダーとかフェミニズムを扱ったものだと、パンフに載っている文章の中で、作者がわざわざ解説している。今回はたぶん作り手に徹したせいだろう、批評家的な言説というか、けっこうむずかしい理屈が並んでいるのが意外だった。タイトルに使われているリゾームなんて言葉は、恥ずかしながら拙者、今回の公演で初めて知ったでござる。

面白い場面、いまいちな場面とあれこれあったが、以前、東野のインタビューの中で、寺山修司が好きだといっていたことを、今回の作品を見ているうちに思い出した。彼女の作品に感じるある種の不気味さ、特に異形のものへのこだわりが、寺山作品と繋がっているような気がしたのだ。



玉響(たまゆら)に… <能「班女」を原作として>

玉響(たまゆら)に… <能「班女」を原作として>

香瑠鼓

恵比寿・エコー劇場(東京都)

2009/08/06 (木) ~ 2009/08/09 (日)公演終了

満足度★★★

ポッキー
香瑠鼓(かおるこ)というダンス振付家によるプロデュース公演。彼女のことを知ったのは、テレビで見た江崎グリコのお菓子ポッキーのCMで、忽那汐里(くつなしおり)というタレントの踊りがすごく気に入って、ネットのホームページをチェックしたのがきっかけ。

CMや映画など商業ベースで活躍しているという。コンテンポラリーダンスに比べると、この手の振付家の作品をステージで見ることは少ない。過去に思い浮かぶのは、劇団☆新感線で振付を担当している川崎悦子の公演くらい。たしか「LOVE CHAIN」というタイトルだった。

で、今回はポッキーのCMみたいなダンスを期待して見に行ったのだが、内容はそれとは相当かけはなれていた。多面性を感じさせる盛りだくさんな3部構成。

第一部は能の「班女」をベースにした、香瑠鼓の主演による、あくまでも和風テイストの舞踊劇。後半のトークでの解説によると、即興の部分もけっこうあったとのこと。

第二部は日本舞踊と現代舞踊のコラボレーションと題して、TheStylez(すたいるず)というデュオが出演した。花柳輔蔵は日舞、古賀崚暉はHIPHOP。日舞の振りはそれぞれが意味を帯びているし、ヒップホップにもマイムの要素があるので、意外とシンクロしやすいのかもしれない。初めて見たけど、これはかなり可笑しかった。

第三部は日替わりゲストを交えての即興ライブ。振付のほか、香瑠鼓は障害者を積極的に受け入れるバリアフリーワークショップというものにも力を入れていて、その独特のメソッドの一端がうかがえた。

商業ベースで活躍している賜物なのか、客席には小堺一機とウド鈴木の姿があり、第一部の終了後、二人は香瑠鼓に感想を求められ、苦しげに答えていた(笑)。

五人の執事

五人の執事

パラドックス定数

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2009/07/31 (金) ~ 2009/08/09 (日)公演終了

満足度★★★

シツジが1匹、シツジが2匹・・・
執事というものを実際に見たことのある日本人はかなり少数派だろう。映画や小説から、イギリスのお屋敷で働く男性の使用人というのをイメージするのがせいぜいではないだろうか。
私自身は、カズオ・イシグロの小説を原作にした映画「日の名残り」で、アンソニー・ホプキンズの演じた執事がいちばん印象に残っている。
映画を見て感じたのは、執事というのが単に屋敷の使用人の一人ではなく、何人かいる使用人を監督する、いわゆる召使い頭だということだった。
そう考えると、この芝居のタイトルが示すような、一つの屋敷に執事が5人もいるという状況はそもそもありえないのではないか。
序盤からそういう状況設定への疑問を感じたので、なかなか話の内容にすんなりと入っていけなかった。
ただ、話が進むにつれて、執事が5人いるということの疑問は解けていく。
しかし、執事とは何かということに前半で神経を使ったために、込み入ったストーリーを充分に消化できないまま終盤を迎えてしまった、というのが正直なところ。
終演後、作者の野木萌葱が言っていたように、脚本を読めばストーリーの疑問点はそれなりに解消するのかもしれない。しかし、いまいち脚本を買おうという衝動は起きなかった。

ネタバレBOX

結局、最後に残った二人は何だったのだろう。主人と執事の亡霊なのか。それとも一人の執事の記憶なのか。あるいは歴代の執事の残留思念か?
キョウトノマトペ

キョウトノマトペ

青年団国際演劇交流プロジェクト

アトリエ春風舎(東京都)

2009/07/16 (木) ~ 2009/07/26 (日)公演終了

キョウノマトメ
譜面台が3本、横一列に並んでいる。

青年団の役者トリオ(鈴木智香子、二反田幸平、古屋隆太)が登場して、発狂したハイファイセットの如く、前衛的なパフォーマンスを繰りひろげる約60分。

ボイス・パフォーマンスといわれるものでこれまでに見聞きしたことがあるのは、巻上公一と足立智美の公演だ。この二人のは基本的に音楽作品だったけれど、今回のはそれに比べると演劇的な要素がかなり入っている。

また演劇でボイス・パフォーマンスの要素を強く感じるのは、地点の三浦基の演出作品だが、今回のはそれに比べるとダンス的な要素がかなり入っている。

そんな比較をあれこれと思い浮かべるのは見終わったあとのことで、上演中は役者たちのクレイジーなパフォーマンスをニヤニヤしながら眺めていた。

青年団の3人の熱演に拍手。

音楽と演劇とダンスをグジャグジャに混ぜ合わせたような、名状しがたいユニークな作品だということはまちがいない。

いつだっておかしいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校

いつだっておかしいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校

ロロ

新宿眼科画廊(東京都)

2009/07/18 (土) ~ 2009/07/22 (水)公演終了

満足度★★★

前売り/当日¥1500
ネットでの口コミ評価につられての初観劇。新宿眼科画廊というヘンな名前の場所にも惹かれたし、上演時間が約60分というのもふらっと立ち寄るには手頃だった。
若手の劇団で、内容はシュールというかナンセンス系のコメディだった。

終演後の挨拶で、今回は宣伝が遅れて客の入りがよくないので、気に入った方はコリッチやブログで宣伝してくださいと言っていたので、宣伝します。

けっこう面白いですよ、他愛のない内容だけど。

ネタバレBOX

卒業を控えた小学生たちの物語。一人だけテンションの高い女教師と、体から8×4(エイトフォー)を噴霧する謎のペットも登場する。
ギター好きの主人公を演じた役者は亀島一徳だろうか。配役表がないのではっきりしないが、窮地に立たされて焦るまくるというキャラは、ちょっぴり三浦俊輔に似た演技だった。主役だけあっていちばん上手い。
衣裳担当の藤谷香子が快快のスタッフだからというわけではないが、場面転換に踊りを入れたり、照明を極端に変化させたり、衣裳に台詞めいた文字を漫画の吹き出しっぽくあしらってあるところなどがちょっと快快っぽいかなと思ったりもした。

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