いかちょーの観てきた!クチコミ一覧

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風を継ぐ者

風を継ぐ者

演劇集団キャラメルボックス

サンシャイン劇場(東京都)

2009/07/11 (土) ~ 2009/08/09 (日)公演終了

満足度★★★★

ラストシーンで風を感じて
ブログライター枠で演劇集団キャラメルボックスの「風を継ぐ者」を観て来ました.事前情報は新撰組の話らしいということと左東広之さんが主演をはるということぐらい.再々演ということで,キャラメルボックス三度目の「風を継ぐ者」らしいですが,キャラメル歴も短いですし,事前情報を入れるのが好きではないので,ほとんど白紙の状態で観劇してきました.

キャスト:
立川迅助...左東広之
小金井兵庫...大内厚雄
沖田総司...畑中智行
土方歳三...三浦剛
三鷹銀太夫...阿部丈二
桃山鳩斎...西川浩幸
つぐみ...實川貴美子
たか子...岡田さつき
その...渡邊安理
美祢...岡内美喜子
秋吉剣作...石原善暢
小野田鉄馬...小多田直樹
宇部鋼四郎...粟野史浩(文学座)

歴史に疎いので,誰が実在の人物だか良くわからない.沖田総司と土方歳三は知ってる.「立川」,「(武蔵)小金井」,「三鷹」というと,JR中央線沿いの地名(駅名)でした.と思って調べてみれば,「美祢」,「秋吉」,「小野田」,「宇部」は山口県道339号線の地名.なるほどです.(地理にも疎いんです,ハイ)

新撰組というと,池田屋事件がやはり有名ですが,この芝居にはちょこっときっかけとして出てくるだけで,その後の顛末がメインになっていました.今更池田屋事件だったらいやだなぁと思っていたのですが,それはいい意味で裏切られました.よかった.

中学生以下くらいの年齢だと,芝居が伝えようとしているものが何なのか,わかりづらいかもしれません.高校生以上の大人向けの芝居です.時代が変わろうとしているときに現れた新撰組の微妙な人間関係やそこに生じる軋轢,そういったものが風となって通り過ぎていく,そんな感じです.

おそらく,「風」には二つの意味が込められていると思います.ひとつは立川迅助そのものを象徴する風,もうひとつは新撰組が時代を駆け抜ける風.それらが相まってラストのシーンへと繋がっていきます.

左東さんはかなりハマリ役じゃないでしょうか.頭の中では,この人しか考えられない状態になってしまいました.畑中さんもいい男ですからね.沖田総司にぴったり.他の皆さんも好演でしたが,粟野さんがすごい.文学座からの客演の役者さんだったんですね.キャラメルボックスの役者さんを食っちゃった感じがします.

左東広之さん演じる立川迅助が「主役」と思って観ていたのですが,畑中智之さん演じる沖田総司が単なるサブキャラで終わるわけもなく,ダブル主役かと思いきや,さらにさらに...と,ここのところが演出意図なのか,周りのキャラが立ちすぎているのか,あるいは,立川を中心とした演出があったのか,気になったので,そこのところを脚本・演出の成井豊さんに聞いてきました.

成井さん(要約): 僕のほとんどの作品にはサイドストーリーがあるんです.若い頃に作った作品には誰が主人公かわからないものまであります.ただ,この芝居では群像劇にしたかった.

ということで,この舞台も一応,立川迅助が主役ではあるものの,群像劇として新撰組全体が主役,ということのようです.

新撰組の5人が,ネタバレしない範囲で見所を教えてくれました.

阿部丈二(三鷹銀太夫): 飛んだキャラ.現代の自分と置き換え易い.笑いを楽しむだけじゃなく,銀太夫なりの侍としての在り方.

三浦剛(土方歳三): 土方と沖田の関係性や,土方と宇部の対立を観てほしい.(「土方 対 宇部」は,「ゴジラ対メカゴジラ」らしい.どっちがどっちかわかりませんが(笑))

左東広之(立川迅助): 芝居の最初と最後,2時間の間でも成長している.そこを観てほしい.

大内厚雄(小金井兵庫): お客と新撰組の中間にいる.兵庫も成長している.生きてて良かったという部分.

畑中智行(沖田総司): 沖田総司には二面性がある.一番隊隊長としての面とさわやかな面.殺陣のジャンプも(2m飛ぶとか,空中に5秒とか,空中で止まるとか...(笑)).

また,成井さんはこんなことも仰ってました.

「この舞台ではラストのビジュアル構図を作りたかったんです.舞台から風を伝えたかった.」

芝居を観たあとにこれを聞いたのですが,確かにラストの構図は素敵でした.先に聞いていたら風を感じられたかもしれないのに,ちょっと残念.これから観に行く方はそこのところも意識して観ると良いでしょう.

注: レコーダーを忘れて行ったので,ご本人たちの言はすべて私のメモから興したものです.要約されていますので,表現が正確ではないかもしれません.間違いの文責は私にあります.

鬼桃伝  -oni-momo-den-

鬼桃伝 -oni-momo-den-

おぼんろ

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2009/04/09 (木) ~ 2009/04/12 (日)公演終了

満足度★★★

カタルシスが欲しかった
桃太郎が鬼退治に行くのは当たり前。犬、猿、雉が鬼退治に行ってみたら桃太郎だった、というのはなかなか面白い設定。
しかし、話の途中でオチがわかっちゃうのが難点。もう少し捻ると良かったと思う。

勧善懲悪的なカタルシスがなかったのが残念。解決していない部分があって、もやもやとした後味が残る。すっきりした話になっていると良かったと思う。

お目当てだったハナ役の柴田薫さんは、バナナの時とはまた違った雰囲気でなかなか可愛かった。印象が全然違いました。

桃太郎役の阿久澤菜々さんがとてもきれい。黒木メイサに雰囲気が似ていて、目がひきつけられました。演技も良かった。

ガキゲジ役の正岡美麻さんが好演。「猿っ!」って雰囲気がにじみ出てていい感じ。注目株です。

全体に「これは芝居です」と主張しているようで、舞台ならではの演出。舞台が好きな人は面白いと感じると思います。舞台慣れしていない私にとっては、ちょっと過剰演出にも感じましたが、とりあえず、許容範囲でした。

先にも書いたようにもうひと捻り欲しいストーリーでしたが、結構楽しめました。

設定が面白くて役者の演技も良かったので★4つ。でも、ストーリーがちょっと物足りなかったのと後味がすっきりしなかったので、★2つ。総合で★3つというところです。

ネタバレBOX

ハナの最後はどうなったの?というのが一番気になったところ。ご想像にお任せします、ということなのでしょうけれど、「いい男」になったズタボロを引き立てる意味でも、ちゃんと助けてズタボロに寄り添って欲しかった。

ウィルスとお面が出てきたところで、桃太郎がなぜ鬼になったのかが読めてしまうのが弱い。ウィルスの登場はもう少し後ろに引っ張っても良かったと思う。

桃鬼が生きているのに、ウィルスに感染した人たちを殺そうとするという設定はあまり納得できない。「100年以内に死ぬ」というギャグと合わせても、設定のすり合わせは必要。「鬼になる」という部分を強調して、ハナが鬼になりかけるという話でも良かったと思う。

チビ桃たちとズタボロたちの最後の戦闘シーンはなんだったのか。二つの時代の人物たちが闘うということにはファンタジー性があって良いのだけれど、物語として余計な気がする。闘うことではなく、二つの時代が同期して問題を解決するというストーリー展開に持っていければ、傑作になったと思う。
刻め、我ガ肌ニ君ノ息吹ヲ

刻め、我ガ肌ニ君ノ息吹ヲ

ACTOR’S TRASH ASSH

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2009/04/01 (水) ~ 2009/04/05 (日)公演終了

満足度★★★★

趣向を凝らした構成
「我」を観ました。

入場時にいただいたパンフレット(の後半)を読まずに舞台を観たのでストーリーの構成に驚きました。

静(しずか)役の永田杏也子さんがとっても可愛らしくて引きこまれました。メグミ役の竹村奈津さんも元気いっぱいで声がきれいだなと思って見ていたら、プロフィールをみると、声優もなさっているんですね。納得です。
クシダ杏沙さんからはコメントをいただいたりしたので、気になって見ていましたが、遊女の役円(まどか)を色っぽく演じていました。

記憶障害の静の刹那的な愛を白い鬼白狐丸がいかにして繋ぎとめていたのか。記憶障害が故に純粋な愛を白狐丸にぶつける静。鬼の伝説というベースに人としての純粋な愛の形を見せてくれています。

素敵な感動の物語。いい話...舞台でした。

ネタバレBOX

舞台を観劇後にパンフレットに目を通したのですが、現代の<平成>と二十年後の<永正四年>の二重の回想という構成に驚きました。回想が絡まって複雑になりそうなところをうまくまとめたストーリー展開になっています。

静(しずか)の直截的な愛の表現には微笑ましささえ感じました。青春というか。若かりし頃、そういう気持ちになったこともあったなぁと懐かしさも感じました。それは自分がだいぶ歳をとったという証拠でもあるのですが。

次の日になると記憶をなくしてしまう静の愛をつなぎとめるために白狐丸がとった行動は自分の体に静の言葉を書かせること。それは自分のところにくれば必ずそれまでの行動を振り返ることができるというトリック。紙でもなく、物でもなく、自分の白い体に文字を刻ませるというその想いの強さに感動しました。

そして、本当のハッピーエンドではないけれど、ちょっと素敵なエンディング。あっという間の一時間半でした。
アタシだけ楽しいの

アタシだけ楽しいの

バナナ学園純情乙女組

王子小劇場(東京都)

2009/03/11 (水) ~ 2009/03/15 (日)公演終了

満足度★★★

おはぎライブもオススメ!
ストーリーは正直、よくわからなかった。けれど、つまらなかったかというと、そんなことはなく、よくわからないなりに、楽しかった。何より、役者たちが楽しんでいるように思えた。それが客席にも伝わってきて、心がうきうきした。

芝居は1時間。飽きている暇はなく、次から次へと怒涛の台詞の嵐。欲を言えば、もう少し「間」を大切にしてもいいかなという感じ。若さ溢れる舞台でした。

歳のせいか、声のトーンが高い役者の台詞が聞き取りづらく、ちょっと残念。かつ舌が悪い訳ではなくて、高音域がそもそも聞き取りづらいので、少しゆっくり目に発声してくれるとよかったなぁと。それでも、雰囲気は楽しめます。

劇のあとの「おはぎライブ」が面白い。これは正直、劇よりも楽しめました。このライブだけで1時間くらいやってくれたら、それだけでもお金出してもいいかも。いっそ、劇のほうもこのライブに合わせてミュージカル仕立てにすると面白いかもなぁとか思いました。

主宰の二階堂瞳子さんはやはり一番目立ってましたが、他の注目株は加藤真砂美さん、前園あかりさん、あと名前がわからないのですが蛇の目傘を持っていた女優さん(どなたか、名前教えて!)。

おはぎライブで良かったのは甘粕阿紗子さん。動きも良かったし、表情もとても良かった。

「バナナ学園純情乙女組」という名前から女優ばっかりかと思ってたら、女装の男性が何人も...いやー、それだけで笑えました。

そうそう、客出しで役者さんとお話できたのですが、みなさん、とても感じが良くて、それだけでも好感度アップ。また観に行こうという気になります。

うん、次の公演の案内もらったら、たぶん、おそらく、ほぼ確実に、観に行くと思います。

ネタバレBOX

4回目の公演ということらしいですが、ひょっとしたら前の3回とつながりがあるのでしょうか。話の始まりが少し唐突でした。まずこれが一つ目の壁。

次の壁が、ストーリー展開。「アタシだけが楽しいの」に至る部分が今ひとつよくわからない。なんとなく、頭で考えちゃいけないストーリーのような気もするけど、ちょっと強引な感じ。どうせならもうすこし不条理性を高めて、ハチャメチャにしてしまった方がいいかな。ぶっ壊れ具合が中途半端でした。

プロッターというらしいのですが、浅川千絵さんが舞台でうろうろするのがちょっと気になりました。うろうろすること自体はいいのですが、本流の芝居の邪魔になることがあったりして、前に出すぎた感じがします。うまく後ろでごにょごにょできるといいんですが。

おはぎライブはツボでした。大好きなケロロ軍曹の歌もちょっとあったりして、お気に入り。AKB48 に対抗して BNA21 というあたりから、すでに笑えます。ピンクレディーで育った世代としては、その辺りもかなりいいとこ突いていると思いました。

お芝居の方が★二つ半、ライブの方が★四つ、総合★三つという感じですね。
ラストナンバー2009

ラストナンバー2009

ナルペクト

恵比寿・エコー劇場(東京都)

2009/02/18 (水) ~ 2009/02/22 (日)公演終了

満足度★★★★

楽しかった~
若尾桂子ちゃん目当てで観劇。楽しかった~。

前説は「TOKYO無鉄砲」の三人組。初めて見ました。ギャグはすべりまくっていましたが、なんかアットホームな感じで好感が持てました。

前説で「岸田健作さんへの『無茶ぶり』のコーナーがあるのでそこも気にしながら見て下さい」という説明がありました。このコーナー、こう言っては何ですが、今回の舞台の中で一番大笑いしました。あまりの無茶ぶりに岸田健作さんが芝居を忘れて「ナルさん」とか呼んじゃうし(笑) 毎回、振るネタが違うようなので、何度見に行っても新鮮な部分だと思います。

笑いがすべるシーンもありますが、随所にちりばめられた笑いで楽しませてくれました。

ピアノの生演奏でのBGMも雰囲気がとてもよく、いい感じです。

タイトルの「ラストナンバー」が一体どういうものなのか、それがこの芝居のキーになるのですが、最後はちょっとほろっとさせてくれます。

菊地健一さんの演技がとても自然な感じでハマってました。

2時間越えの舞台が長く感じないほど面白いお芝居でした。でもね、若尾桂子ちゃんの出番が少なかったので、ちょっと残念。若尾桂子をもっと出せ!というのが本音です(笑)

これで観劇料3000円というのはちょうど良い価格設定だと思います。

ネタバレBOX

「謎の死をとげたロックミュージシャンの真相に迫るためひとりの男が立ち上がった。その結末とは…?」とあるように、「フレディ・小早川」(NARU)という一人の男の死について謎を追うストーリー。謎を解くために立ち上がった男は三流雑誌の記者、伊藤(影山憲男)。伊藤がフレディ・小早川の死の謎を追うきっかけを作った編集者・小松みゆき役に若尾桂子ちゃん。

伊藤がインタビューなどで話を聞くたびに過去の回想シーンに場面転換という手法で話が進みます。

これが「ロック」なのか?という疑問はあるものの、フレディが持っていた心意気は「ロック」だったんでしょうね。最後に富士山へ登って「ラストナンバー」を歌うシーンでは、ちょっとほろっときました。謎を解明してやっとたどり着く「しおり」を演じる伊藤愛さんがとても可憐で、もうちょっと彼女のお芝居を観たかった気もします。

岸田健作さんの歌もあり、おおっ、なかなかうまいじゃん、と思って見ていました。

無茶ぶりコーナーでは、「田舎のおかあさんみたいに叱る」とか、「デコトラで来る」とか、もう勘弁して~状態の岸田健作さんが笑えました。正直、一番大笑いしたのがこのコーナーです。芝居というより、完全にお笑いコントでした。

丹羽紋子さん演じるストーカーは、もっともっと病的な感じでも良かったかなと思います。最後は結局人間的になってましたから、最後の最後までストーカーらしく終わらせた方がむしろ気持ちが良かったかも。ストーカーだということを前提にして考えると、喫茶店での登場シーンでは、もう少し視線の動きなどを菊地さんの方にちらちら向ける、なんて演出があってもいいのかなと思いました。

若尾桂子ちゃんは編集者の小松みゆき役でしたが、全くギャグに絡むこともなかったので、今ひとつ不満。伊藤と一緒になって謎を解き明かすという感じで絡んできても良かったんじゃないかなと思いました。
『すべての風景の中にあなたがいます』『光の帝国』

『すべての風景の中にあなたがいます』『光の帝国』

演劇集団キャラメルボックス

新宿FACE(東京都)

2009/03/05 (木) ~ 2009/03/29 (日)公演終了

満足度★★★★

キャラメルボックスらしいお勧めの二本
『光の帝国』感想
■脚本・演出
成井豊
真柴あずき

■CAST
春田光紀: 畑中智行
春田記実子: 岡内美喜子
猪狩悠介: 大内厚雄
猪狩義正: 阿部丈二
春田里子: 坂口理恵
春田貴世誌: 小多田直樹
寺崎美千代: 小林千恵
猪狩康介: 鍜治本大樹
今枝日菜子: 井上麻美子

全体的にゆるやかな雰囲気のなかで話が流れて行きました。原作を読んでいない方も十分に楽しめる内容だったと思いますが、原作を先に読んでいた方がより楽しめるものになっていたように思います。

回想という手法を使うことは予想できましたが、想像していたものとは違っていました。この構成によって、主題が原作とは微妙に違う内容になってます。もう少し原作のテイストを残してもよかったのではないかと感じました。

「しまう」とは何か、「響く」とはどういうことなのか、原作を読んでいない人には少し説明が足りないのではないかと思いました。雰囲気でなんとなくわかるとは思うのですが、単に「記憶する」ということとはどうちがうのかという部分の説明に時間を割いてもよかったと思います。

「遠目」「遠耳」などが会話の中に出てきますが、これもさらっと使われていて、原作を読んでいない人にはうまく伝わっていない気がします。

逆に原作を読んでこの芝居を見ると、短編「おおきな引き出し」以外の部分からのエピソードが使われていて、ああ、これはあそこの話だなと楽しむことが出来ました。

笑いが比較的少なかったかなというのが実感。もともと少し切ない話なので、あまり笑いとは馴染まなかったのかもしれません。

記実子と光紀の姉弟の両親にまつわるエピソードをみて、「七瀬ふたたび」を思い出しました。そこだけ七瀬の世界に飛び込んだよう。そういえば、脚本の真柴あずきさんは昨年NHKで放映された「七瀬ふたたび」の脚本もやっていらしたんですよね。そんな影響もあったのかもしれません。

春田家の家族はとてもいい雰囲気でした。両親を演じる小多田直樹さん、坂口理恵さんが長年連れ添った夫婦の仲をうまく表現し、そこに記実子役の岡内美喜子さん、光紀役の畑中智行さんが入り込んで、仲の良い家族ができあがっています。うちもこんな家族になりたい。

一時間は短いです。もっと「常野」の話をキャラメルボックスでやって欲しい。もっと「常野」を舞台で見ていたい。そんな余韻が残りました。短編もいいですが、次は『蒲公英草紙』をフルタイムでやってもらえないでしょうか。

ハーフタイムシアター2009のもう一つの公演『すべての風景の中にあなたがいます』の原作者「梶尾」(梶尾真治)の名前がこの芝居の中に登場します。これから見る方はどこに登場するのか見つけてみるのも楽しいでしょう。

忙しい方にも気軽に観に行けるハーフタイムシアター。
『光の帝国』はお勧めの一本です。



『すべての風景の中にあなたがいます』感想
■脚本・演出
成井豊
真柴あずき

■CAST
瀧水浩一: 岡田達也
藤枝沙穂流: 温井摩耶
加塩伸二: 細見大輔
藤枝沙知夫: 佐東広之
藤枝詩波流: 岡田さつき
今村芽里: 久保田晶子
長者原元: 多田直人
天草志路美: 稲野杏那

キャラメルボックスと梶尾作品は定評があり、その期待に応えてくれました。純粋な二人の愛をキャラメルボックスらしさで表現しています。

加塩伸二というキャラクターを前面に出すことで、物語が面白おかしく展開しています。原作者の梶尾真治さんの分身で、難解なタイムトラベルやそのパラドックスについて優しい言葉で解説するという役割を担っています。

加塩を演じる細見大輔さんがカミカミ王子になってました(笑) カミカミ王子はファンの間では有名だそうで、それがまた楽しめる細見さんの魅力だったりするようです。舞台の前面で行われている芝居の後ろでいろんなことをしている加塩伸二こと細見大輔さんにも注目です。なんでここでそんなことを?みたいなことをやってくれてました(爆

タイムマシンの説明で「光よりも速く移動する必要がある」という説明があったのですが、これはタキオン粒子のことを指していたのでしょうか。ブラックホールを光速で移動させるなどの理論的なタイムトラベルの可能性とか、なんとなくツッコミを入れたくなりました。

白鳥山や山芍薬のシーンで、もう少し光などの効果を使ってもよかったかなと思います。さらっと流されている感じがして物足りませんでした。物足りないといえば、コーヒー。え~、それはないだろうという展開。山好きだったらシェラカップを使って淹れてほしかったと思いました。

稲野杏那さんの初舞台。可愛らしい役者さんですね。とても生き生きと演技していたようです。歳を経た役柄にも挑戦しているのですが、こちらはまだちょっと歳の重みが感じられないというか、若さが出てしまっているように感じました。それでも躍動感溢れる演技で、今後が期待できます。

タイトルの「すべての風景の中にあなたがいます」という滝水の想いがちょっと伝わりづらかったのではないでしょうか。稲野杏那さん演じる天草志路美の台詞回しで、さらっと流れてしまっているような気がしました。ここはもっと重点を置くポイントだったと思います。

ストーリーの顛末はおそらく途中で想像がつくでしょう。梶尾真治はハッピーエンドを得意とする作家ですので、そういう意味でも結末が想像できると思います。しかしそれがわかっていてさえ、どんな風に見せてくれるのかという期待が湧き、舞台はそれを裏切らずに見せてくれました。

白鳥山つながりということで、次は『インナーネットの香保里』をフルタイムで舞台化してほしいです。

ハーフタイムシアター2009のもう一つの公演『光の帝国』の原作者「恩田」(恩田陸)の名前がこの芝居の中に登場します。どこに登場するのか見つけてみるのも楽しいでしょう。

時を越えたラブロマンス。成井豊さんが直球勝負で挑んだというこの作品。
お勧めです。

ネタバレBOX

『光の帝国』感想
原作の「大きな引き出し」では、それまで「しまう」(物事を記憶する)ことしかできなかった主人公の少年光紀が、死に直面した老人の生涯に触れて初めて「響く」(記憶した事柄の意味を感じ取る)ことによって大人への一歩を踏み出す、というストーリーでした。これがキャラメルボックスの舞台では、光紀の成長よりもむしろ猪狩悠介の心の葛藤がテーマとなり、原作とはかなり異なる視点で描かれていました。


舞台は春田記実子とその弟、春田光紀が映画監督の猪狩悠介の家を訪ねるところから始まります。猪狩悠介は不思議な力を持つ「常野」の人々を映画にしようとしていて、記実子はそれを阻止したいと考えています。悠介が「常野」を映画で公表しようと思いついたのは15年前のある出来事がきっかけでした。

原作「大きな引き出し」のエピソードが15年前の出来事としてここで展開されます。その中でさらに原作の短編「光の帝国」の挿話が語られています。

そして、現在に戻り、猪狩悠介に「常野」の映画化を止めさせようとする姉弟。二人の両親は、その力を利用しようとする何物かに追われて車で逃走中に事故にあって亡くなった事を、光紀が力を使って悠介に伝えます。それによって、悠介は「常野」のことを公開することで、平和に暮らしている「常野」の人々を危険にさらすことになることを知るのです。二人が去った後、悠介は書き上げた脚本を破り捨てるのでした。


「大きな引き出し」のエピソードを回想にし、その外側に「常野」を世間に知らしめることによって「常野」の人々の安寧を破壊することになるという現在の問題を加える、という構成になっています。二つのテーマが同時進行することにより、物語の中心が散逸になった感がありました。

冒頭にスクリーンで映される「僕らは光の子供だ」という文字。そして終盤でも光紀によって改めて「僕らは光の子供だ」という台詞が語られます。これが本来のテーマだと思うのですが、「常野」の映画を作るという猪狩祐介の葛藤のシーンにかき消され、薄れてしまっていました。「僕は忘れないんです」という台詞を光紀に二度吐かせることで、また、「光の子」ということを強調することで、光紀が主人公だということはわかるのですが、全体を通してみたとき、猪狩悠介が主人公であるようにも思え、どこが主題なのかぼやけてしまっているように感じます。

原作では老人の名前すら出てきません。老人の職業に関する記述もなく、生涯は十数行という短い記述しかありませんでした。これをどう舞台化するのかというのがポイントだったと思います。ベッドに伏す老人の周りに入れ替わり立ち替わり人が現れて老人に語りかけます。それによって、老人の生涯を表すと共に、息子である悠介との確執がうまく表現されていると思いました。

「平家物語」を暗誦するシーンがいくつか出てきます。結構な長台詞を一気に口にしているのを見て、拍手を送りたくなりました。役者も「しまって」「響かせて」いるんですね。

原作にある「虫干し」には全く触れられていませんでした。「常野」の能力の話がメインではなかったので、一時間に話をまとめる上では必要なかったのだと思います。

一時間は短いです。もっと「常野」の話をキャラメルボックスでやって欲しい。もっと「常野」を舞台で見ていたい。そんな余韻が残りました。短編もいいですが、次は『蒲公英草紙』をフルタイムでやってもらえないでしょうか。

ハーフタイムシアター2009のもう一つの公演『すべての風景の中にあなたがいます』の原作者「梶尾」(梶尾真治)の名前がこの芝居の中に登場します。これから見る方はどこに登場するのか見つけてみるのも楽しいでしょう。

忙しい方にも気軽に観に行けるハーフタイムシアター。
『光の帝国』はお勧めの一本です。



『すべての風景の中にあなたがいます』感想
梶尾真治さんの中篇『未来(あした)のおもいで』の雰囲気を損なわずに、回想という手法をうまく使って舞台化しています。小説をそのまま舞台化したのでは手紙のやり取りに終始してしまいそうなところを、作家加塩伸二を介在させることで面白おかしく展開することに成功しています。


12時を知らせる時計の鐘の音。話はSF作家加塩伸二の部屋に滝水浩一がやってくるところから始まります。今を遡ること8ヶ月前。4月に熊本県の県境にある白鳥山に滝水が登ったときの出来事が語られます。

霧を抜けて、例年は5月に咲くはずのヤマシャクヤクの花が一面に咲いているのを滝水は見つけます。晴れていた天気は一転、激しい雷雨に。そこで一人の美しい女性に会います。一緒に洞穴で雨宿りをするのですが、そこで滝水のコーヒーをおいしいおいしいと飲むその女性に滝水はひとめぼれするのです。彼女には自分の住所の書いてあるザックカバーを渡し、滝水は彼女が去った後に彼女の手帳を見つけます。

手帳を返そうとそこに書かれた住所を訪れてみるが、そこにいたのは同じ藤枝でも名前の違う夫婦だけ。沙穂流はまだ生まれておらず、彼女は2033年に生きている事を知ることになります。

滝水と沙穂流のやりとりは白鳥山の洞穴に現れる手紙だけ。やがて、滝水は沙穂流を書いた絵で大賞をとり、沙穂流は未来でそれを知ります。二人は決して出会うことなく手紙のやり取りだけで愛をはぐくみます。

そして、沙穂流は滝水が2006年12月30日に白鳥山で遭難して消息を絶った事を知り、その事実を手紙に託します。それを知った滝水は加塩の元を訪ねたのです。

時計の鐘が夜の12時を打ち、12月30日に日が変わります。滝水はどうするのか。止める加塩を残し、滝水は白鳥山に向かいました。

そして。沙穂流が白鳥山を訪れると、一転にわかにかき曇り、雪と霧が出てきます。そしてその向こうからコーヒーをザックに詰めた瀧水浩一が現れるのでした。


2033年には手に入らなくなっている「コーヒー」が重要なアイテムなのですが、加塩伸二の部屋で「加塩特製インスタントコーヒー」が出てきたときにはちょっとがっかり。うそでもいいからレギュラーコーヒーにして欲しかったところ。滝水と沙穂流が出会ったところのコーヒーも、ポットからコーヒーを注いでいるのも残念。形ばかりでもストーブとコッヘル、シェラカップを出してほしかった。

最後のシーンでもバッグが小さい。原作に書かれているように大きなリュックを背負って滝水には登場してほしかったと思います。リュックの大きさが沙穂流への想いの大きさでもあったはずなのですから。

「夢を夢で終わらせなかった奴だけが歴史を変えてきた」という滝水の台詞。心に染み入ります。夢を夢だとあきらめていては、何も変えられないし何も得られないのです。滝水の想いの強さこそが歴史を変える力になるのです。

劇中でジャック・フィニィの『ゲイルズ・バーグの春を愛す』や『ふりだしに戻る』とリチャード・マシスンの『ある日どこかで』の話が登場します。『ゲイルズバーグの春を愛す』に所収の短編「愛の手紙」は主人公が手に入れた古い机の引き出しを通して、過去の女性と手紙のやり取りをする話。『ある日どこかで』は身に付けるものをすべて古いものにし、自分が行きたい年代にいるのだと強く念じることで過去にタイムトラベル話。『ふりだしに戻る』も思いによって過去にタイムトラベルできるとする話です。タイムマシンを使わずに時間流を移動する方法としてこうした「想い」によるタイムトラベルの例を加塩伸二が説明しています。

原作ではちょい役として登場する原作者の分身加塩伸二がこの劇では最初から重要な役どころを与えられています。加塩がひょうきんな役になっているので、舞台全体がとても明るいものになっていました。

「左手はそえるだけ」というギャグがありました。「ケロロ軍曹」が元ネタ(ドロロ兵長の得意技)だと思っていたら、「スラムダンク」が元ネタでした。客席は爆笑でしたが、元ネタをわかって笑っている人がどれだけいたのか、ちょっと聞いてみたいところです。

時を越えたラブロマンス。成井豊さんが直球勝負で挑んだというこの作品。お勧めです。
蒼の残光

蒼の残光

ACファクトリー

シアターサンモール(東京都)

2008/12/10 (水) ~ 2008/12/14 (日)公演終了

満足度★★★★

アクションすげーっ!
初めて AC ファクトリーの舞台を観劇しました。
とにかくアクションがすごかった。それに光の使い方がとても印象的でした。

詳細な感想は下のリンク先をご覧ください(ネタバレあり)。

アクションすげーっ!:「蒼の残光 ~BLUE AFTERGLOW~」(ACファクトリー)
http://ncc-1701.air-nifty.com/vsa/2008/12/blue-afterglow-.html

冷静になってみると
http://ncc-1701.air-nifty.com/vsa/2008/12/post-24aa.html

「ハックルベリーにさよならを」「水平線の歩き方」

「ハックルベリーにさよならを」「水平線の歩き方」

演劇集団キャラメルボックス

シアターアプル(東京都)

2008/06/08 (日) ~ 2008/06/29 (日)公演終了

満足度★★★

ファンタジーです(『ハックルベリーにさよならを』)
娘と二人で表題のキャラメルボックスの芝居を観て来ました。

何回も繰り返し公演されている演題らしいですが、観るのはこれが初めて。

ファンタジーっぽいストーリーでした。少年の大人への成長がテーマ。

ツッコミどころはありますが、なかなか楽しめました。

ケンジを演じる實川貴美子さんが少年にしか見えなくて、スゴイと思いました。

娘は大声出して笑ってましたし、舞台にあったアレがあんなことに使われて驚いていました。

きみがいた時間 ぼくのいく時間

きみがいた時間 ぼくのいく時間

演劇集団キャラメルボックス

サンシャイン劇場(東京都)

2008/02/28 (木) ~ 2008/04/07 (月)公演終了

満足度★★★★★

初めての観劇
演劇集団キャラメルボックスの舞台芝居の公演『きみがいた時間 ぼくのいく時間』 を観てきました。友人と、我が小6の娘とともに。

私も娘も原作の同名小説を二回ずつ読んでいるので、ストーリーはすっかり頭に入っていました。それを舞台でどう見せてくれるのか。これが今回のポイントでした。

物心ついてから芝居を観るのはこれが初めて。舞台の芝居をどうやって観ればいいやら、さっぱりわからないまま公演が始まりました。

正直、芝居慣れしていないので、最初はお芝居お芝居した台詞回しと演技に、ふっと引いてしまう自分がいましたが、話に引きこまれていき、最後には何の違和感もなく見入っていました。

あそこはどうするんだろう、と思っていた箇所が二箇所あったのですが、さすがにそこは脚本家がうまくするりと交わしてくれました。そうか、そういう風になっていたのか。なーるほど。インド人もびっくり。

原作とはこういうところが違ったねぇと娘と二人で話しながら帰ってきましたが、芝居のストーリーもしっかりと構成されていて見所満点でした。

笑いあり涙あり、感動の物語、あっと驚くタメゴロウです。ああ、書きたいけど書けない...

途中でキャラメルボックス始まって以来という「休憩」が入ります。

主役秋沢里志を演じる上川隆也もさることながら梨田紘未を演じる西山繭子(http://www.flamme.co.jp/MayukoNishiyama/flm_profmn.html)がよかった。
この女優はどこかで見たことがあると思ったら、ギャルサーとか探偵学園Qに出ていたんですね。

オレが覚えているくらいだからなんか特撮に出ていたのではないかと思いましたが、ケータイ刑事銭形泪は見てなかったし...いずれにしても、スタイル抜群の素敵な女優さんでした。写真より実物の方がずっときれい。まぁ、女優さんて、えてしてそういうもんですが。

ストーリーを見るばかりでなく、そういうところもかなり気になりました。

舞台にはカーテンコールなんてものがあるのも全然知りませんでした。

娘もかなり感動して興奮気味。楽しかったと顔を紅潮させていました。

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