『すべての風景の中にあなたがいます』『光の帝国』 公演情報 演劇集団キャラメルボックス「『すべての風景の中にあなたがいます』『光の帝国』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    キャラメルボックスらしいお勧めの二本
    『光の帝国』感想
    ■脚本・演出
    成井豊
    真柴あずき

    ■CAST
    春田光紀: 畑中智行
    春田記実子: 岡内美喜子
    猪狩悠介: 大内厚雄
    猪狩義正: 阿部丈二
    春田里子: 坂口理恵
    春田貴世誌: 小多田直樹
    寺崎美千代: 小林千恵
    猪狩康介: 鍜治本大樹
    今枝日菜子: 井上麻美子

    全体的にゆるやかな雰囲気のなかで話が流れて行きました。原作を読んでいない方も十分に楽しめる内容だったと思いますが、原作を先に読んでいた方がより楽しめるものになっていたように思います。

    回想という手法を使うことは予想できましたが、想像していたものとは違っていました。この構成によって、主題が原作とは微妙に違う内容になってます。もう少し原作のテイストを残してもよかったのではないかと感じました。

    「しまう」とは何か、「響く」とはどういうことなのか、原作を読んでいない人には少し説明が足りないのではないかと思いました。雰囲気でなんとなくわかるとは思うのですが、単に「記憶する」ということとはどうちがうのかという部分の説明に時間を割いてもよかったと思います。

    「遠目」「遠耳」などが会話の中に出てきますが、これもさらっと使われていて、原作を読んでいない人にはうまく伝わっていない気がします。

    逆に原作を読んでこの芝居を見ると、短編「おおきな引き出し」以外の部分からのエピソードが使われていて、ああ、これはあそこの話だなと楽しむことが出来ました。

    笑いが比較的少なかったかなというのが実感。もともと少し切ない話なので、あまり笑いとは馴染まなかったのかもしれません。

    記実子と光紀の姉弟の両親にまつわるエピソードをみて、「七瀬ふたたび」を思い出しました。そこだけ七瀬の世界に飛び込んだよう。そういえば、脚本の真柴あずきさんは昨年NHKで放映された「七瀬ふたたび」の脚本もやっていらしたんですよね。そんな影響もあったのかもしれません。

    春田家の家族はとてもいい雰囲気でした。両親を演じる小多田直樹さん、坂口理恵さんが長年連れ添った夫婦の仲をうまく表現し、そこに記実子役の岡内美喜子さん、光紀役の畑中智行さんが入り込んで、仲の良い家族ができあがっています。うちもこんな家族になりたい。

    一時間は短いです。もっと「常野」の話をキャラメルボックスでやって欲しい。もっと「常野」を舞台で見ていたい。そんな余韻が残りました。短編もいいですが、次は『蒲公英草紙』をフルタイムでやってもらえないでしょうか。

    ハーフタイムシアター2009のもう一つの公演『すべての風景の中にあなたがいます』の原作者「梶尾」(梶尾真治)の名前がこの芝居の中に登場します。これから見る方はどこに登場するのか見つけてみるのも楽しいでしょう。

    忙しい方にも気軽に観に行けるハーフタイムシアター。
    『光の帝国』はお勧めの一本です。



    『すべての風景の中にあなたがいます』感想
    ■脚本・演出
    成井豊
    真柴あずき

    ■CAST
    瀧水浩一: 岡田達也
    藤枝沙穂流: 温井摩耶
    加塩伸二: 細見大輔
    藤枝沙知夫: 佐東広之
    藤枝詩波流: 岡田さつき
    今村芽里: 久保田晶子
    長者原元: 多田直人
    天草志路美: 稲野杏那

    キャラメルボックスと梶尾作品は定評があり、その期待に応えてくれました。純粋な二人の愛をキャラメルボックスらしさで表現しています。

    加塩伸二というキャラクターを前面に出すことで、物語が面白おかしく展開しています。原作者の梶尾真治さんの分身で、難解なタイムトラベルやそのパラドックスについて優しい言葉で解説するという役割を担っています。

    加塩を演じる細見大輔さんがカミカミ王子になってました(笑) カミカミ王子はファンの間では有名だそうで、それがまた楽しめる細見さんの魅力だったりするようです。舞台の前面で行われている芝居の後ろでいろんなことをしている加塩伸二こと細見大輔さんにも注目です。なんでここでそんなことを?みたいなことをやってくれてました(爆

    タイムマシンの説明で「光よりも速く移動する必要がある」という説明があったのですが、これはタキオン粒子のことを指していたのでしょうか。ブラックホールを光速で移動させるなどの理論的なタイムトラベルの可能性とか、なんとなくツッコミを入れたくなりました。

    白鳥山や山芍薬のシーンで、もう少し光などの効果を使ってもよかったかなと思います。さらっと流されている感じがして物足りませんでした。物足りないといえば、コーヒー。え~、それはないだろうという展開。山好きだったらシェラカップを使って淹れてほしかったと思いました。

    稲野杏那さんの初舞台。可愛らしい役者さんですね。とても生き生きと演技していたようです。歳を経た役柄にも挑戦しているのですが、こちらはまだちょっと歳の重みが感じられないというか、若さが出てしまっているように感じました。それでも躍動感溢れる演技で、今後が期待できます。

    タイトルの「すべての風景の中にあなたがいます」という滝水の想いがちょっと伝わりづらかったのではないでしょうか。稲野杏那さん演じる天草志路美の台詞回しで、さらっと流れてしまっているような気がしました。ここはもっと重点を置くポイントだったと思います。

    ストーリーの顛末はおそらく途中で想像がつくでしょう。梶尾真治はハッピーエンドを得意とする作家ですので、そういう意味でも結末が想像できると思います。しかしそれがわかっていてさえ、どんな風に見せてくれるのかという期待が湧き、舞台はそれを裏切らずに見せてくれました。

    白鳥山つながりということで、次は『インナーネットの香保里』をフルタイムで舞台化してほしいです。

    ハーフタイムシアター2009のもう一つの公演『光の帝国』の原作者「恩田」(恩田陸)の名前がこの芝居の中に登場します。どこに登場するのか見つけてみるのも楽しいでしょう。

    時を越えたラブロマンス。成井豊さんが直球勝負で挑んだというこの作品。
    お勧めです。

    ネタバレBOX

    『光の帝国』感想
    原作の「大きな引き出し」では、それまで「しまう」(物事を記憶する)ことしかできなかった主人公の少年光紀が、死に直面した老人の生涯に触れて初めて「響く」(記憶した事柄の意味を感じ取る)ことによって大人への一歩を踏み出す、というストーリーでした。これがキャラメルボックスの舞台では、光紀の成長よりもむしろ猪狩悠介の心の葛藤がテーマとなり、原作とはかなり異なる視点で描かれていました。


    舞台は春田記実子とその弟、春田光紀が映画監督の猪狩悠介の家を訪ねるところから始まります。猪狩悠介は不思議な力を持つ「常野」の人々を映画にしようとしていて、記実子はそれを阻止したいと考えています。悠介が「常野」を映画で公表しようと思いついたのは15年前のある出来事がきっかけでした。

    原作「大きな引き出し」のエピソードが15年前の出来事としてここで展開されます。その中でさらに原作の短編「光の帝国」の挿話が語られています。

    そして、現在に戻り、猪狩悠介に「常野」の映画化を止めさせようとする姉弟。二人の両親は、その力を利用しようとする何物かに追われて車で逃走中に事故にあって亡くなった事を、光紀が力を使って悠介に伝えます。それによって、悠介は「常野」のことを公開することで、平和に暮らしている「常野」の人々を危険にさらすことになることを知るのです。二人が去った後、悠介は書き上げた脚本を破り捨てるのでした。


    「大きな引き出し」のエピソードを回想にし、その外側に「常野」を世間に知らしめることによって「常野」の人々の安寧を破壊することになるという現在の問題を加える、という構成になっています。二つのテーマが同時進行することにより、物語の中心が散逸になった感がありました。

    冒頭にスクリーンで映される「僕らは光の子供だ」という文字。そして終盤でも光紀によって改めて「僕らは光の子供だ」という台詞が語られます。これが本来のテーマだと思うのですが、「常野」の映画を作るという猪狩祐介の葛藤のシーンにかき消され、薄れてしまっていました。「僕は忘れないんです」という台詞を光紀に二度吐かせることで、また、「光の子」ということを強調することで、光紀が主人公だということはわかるのですが、全体を通してみたとき、猪狩悠介が主人公であるようにも思え、どこが主題なのかぼやけてしまっているように感じます。

    原作では老人の名前すら出てきません。老人の職業に関する記述もなく、生涯は十数行という短い記述しかありませんでした。これをどう舞台化するのかというのがポイントだったと思います。ベッドに伏す老人の周りに入れ替わり立ち替わり人が現れて老人に語りかけます。それによって、老人の生涯を表すと共に、息子である悠介との確執がうまく表現されていると思いました。

    「平家物語」を暗誦するシーンがいくつか出てきます。結構な長台詞を一気に口にしているのを見て、拍手を送りたくなりました。役者も「しまって」「響かせて」いるんですね。

    原作にある「虫干し」には全く触れられていませんでした。「常野」の能力の話がメインではなかったので、一時間に話をまとめる上では必要なかったのだと思います。

    一時間は短いです。もっと「常野」の話をキャラメルボックスでやって欲しい。もっと「常野」を舞台で見ていたい。そんな余韻が残りました。短編もいいですが、次は『蒲公英草紙』をフルタイムでやってもらえないでしょうか。

    ハーフタイムシアター2009のもう一つの公演『すべての風景の中にあなたがいます』の原作者「梶尾」(梶尾真治)の名前がこの芝居の中に登場します。これから見る方はどこに登場するのか見つけてみるのも楽しいでしょう。

    忙しい方にも気軽に観に行けるハーフタイムシアター。
    『光の帝国』はお勧めの一本です。



    『すべての風景の中にあなたがいます』感想
    梶尾真治さんの中篇『未来(あした)のおもいで』の雰囲気を損なわずに、回想という手法をうまく使って舞台化しています。小説をそのまま舞台化したのでは手紙のやり取りに終始してしまいそうなところを、作家加塩伸二を介在させることで面白おかしく展開することに成功しています。


    12時を知らせる時計の鐘の音。話はSF作家加塩伸二の部屋に滝水浩一がやってくるところから始まります。今を遡ること8ヶ月前。4月に熊本県の県境にある白鳥山に滝水が登ったときの出来事が語られます。

    霧を抜けて、例年は5月に咲くはずのヤマシャクヤクの花が一面に咲いているのを滝水は見つけます。晴れていた天気は一転、激しい雷雨に。そこで一人の美しい女性に会います。一緒に洞穴で雨宿りをするのですが、そこで滝水のコーヒーをおいしいおいしいと飲むその女性に滝水はひとめぼれするのです。彼女には自分の住所の書いてあるザックカバーを渡し、滝水は彼女が去った後に彼女の手帳を見つけます。

    手帳を返そうとそこに書かれた住所を訪れてみるが、そこにいたのは同じ藤枝でも名前の違う夫婦だけ。沙穂流はまだ生まれておらず、彼女は2033年に生きている事を知ることになります。

    滝水と沙穂流のやりとりは白鳥山の洞穴に現れる手紙だけ。やがて、滝水は沙穂流を書いた絵で大賞をとり、沙穂流は未来でそれを知ります。二人は決して出会うことなく手紙のやり取りだけで愛をはぐくみます。

    そして、沙穂流は滝水が2006年12月30日に白鳥山で遭難して消息を絶った事を知り、その事実を手紙に託します。それを知った滝水は加塩の元を訪ねたのです。

    時計の鐘が夜の12時を打ち、12月30日に日が変わります。滝水はどうするのか。止める加塩を残し、滝水は白鳥山に向かいました。

    そして。沙穂流が白鳥山を訪れると、一転にわかにかき曇り、雪と霧が出てきます。そしてその向こうからコーヒーをザックに詰めた瀧水浩一が現れるのでした。


    2033年には手に入らなくなっている「コーヒー」が重要なアイテムなのですが、加塩伸二の部屋で「加塩特製インスタントコーヒー」が出てきたときにはちょっとがっかり。うそでもいいからレギュラーコーヒーにして欲しかったところ。滝水と沙穂流が出会ったところのコーヒーも、ポットからコーヒーを注いでいるのも残念。形ばかりでもストーブとコッヘル、シェラカップを出してほしかった。

    最後のシーンでもバッグが小さい。原作に書かれているように大きなリュックを背負って滝水には登場してほしかったと思います。リュックの大きさが沙穂流への想いの大きさでもあったはずなのですから。

    「夢を夢で終わらせなかった奴だけが歴史を変えてきた」という滝水の台詞。心に染み入ります。夢を夢だとあきらめていては、何も変えられないし何も得られないのです。滝水の想いの強さこそが歴史を変える力になるのです。

    劇中でジャック・フィニィの『ゲイルズ・バーグの春を愛す』や『ふりだしに戻る』とリチャード・マシスンの『ある日どこかで』の話が登場します。『ゲイルズバーグの春を愛す』に所収の短編「愛の手紙」は主人公が手に入れた古い机の引き出しを通して、過去の女性と手紙のやり取りをする話。『ある日どこかで』は身に付けるものをすべて古いものにし、自分が行きたい年代にいるのだと強く念じることで過去にタイムトラベル話。『ふりだしに戻る』も思いによって過去にタイムトラベルできるとする話です。タイムマシンを使わずに時間流を移動する方法としてこうした「想い」によるタイムトラベルの例を加塩伸二が説明しています。

    原作ではちょい役として登場する原作者の分身加塩伸二がこの劇では最初から重要な役どころを与えられています。加塩がひょうきんな役になっているので、舞台全体がとても明るいものになっていました。

    「左手はそえるだけ」というギャグがありました。「ケロロ軍曹」が元ネタ(ドロロ兵長の得意技)だと思っていたら、「スラムダンク」が元ネタでした。客席は爆笑でしたが、元ネタをわかって笑っている人がどれだけいたのか、ちょっと聞いてみたいところです。

    時を越えたラブロマンス。成井豊さんが直球勝負で挑んだというこの作品。お勧めです。

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    2009/03/08 18:58

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