炎 アンサンディ
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2017/03/04 (土) ~ 2017/03/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
初演を見逃して残念に思っていたので、再演と聞いて喜んで観に行った。
レバノンでの内戦を背景に、母を亡くした男女の双子が、自らの家族のルーツを解き明かしていく物語だ。
麻実れいさんがその母として、1人の女性の10代から60代までを演じる。
カナダで暮らしていた年老いた女性。彼女は5年前のある日、突然心を閉ざし、言葉を失ったまま生きて死んだ。いや、5年の間に一度だけ、言葉を発したことがあった。その言葉の意味もあとになってからわかるのだけれど。
公証人から彼女の奇妙な遺言を聞かされた娘と息子は、反発や不本意な気持ちを抱きつつ母の言葉に従い、会ったこともない父と兄の消息を求めて母の母国を訪れる。
その国で双子は多くの人と出会い、話を聞く。双子はそれぞれに母の生涯を見出していく。そこで出会った真実。
世界はこんなにも残酷なのか。生きることはこんなにも過酷なのか。誰かを断罪して済むのなら、その方がよっぽど楽だと思えるのだけれど。
それでも。
知ることは残酷だ。しかし彼女はそれを乗り越えて、彼女自身に戻ったのだ。双子もまた真実を知り、真実を乗り越え、彼女をも乗り越えて、生きるだろう。
観終わったあと、胸の痛みとともにある種のカタルシスを感じたのは、そのためかもしれない。
赤い金魚と鈴木さん~そして、飯島くんはいなくなった~
九十九ジャンクション
王子小劇場(東京都)
2017/03/01 (水) ~ 2017/03/05 (日)公演終了
満足度★★★★★
うんざりするほど平凡な風景に、混じり始める不協和音。過去の連続殺人事件。残虐な連続殺人鬼はどういう人物だったのか。そして殺人犯の家族であるということはどういうことか。
急速に緊張感が高まり、観る側も身じろぎすらできなくなっていった。
いくつもの重い課題を抱えつつ迎えたラストシーンでの殺人犯の弟と、知らずに結婚したその妻の会話が鮮やかだった。
怒っても迷っても投げ出すのではなく、やるせない現実に眼を背けず、逃げ出しもせず、現状を見つめ考えようとする。平凡な人間の中の強さが描かれて、観る者の胸にある種の安堵感を与えた。
中盤の展開からは予想外の後味のよさがうれしく、同時に重い課題も忘れることなく抱えたまま、劇場をあとにした。
LoveLoveLove20
劇団扉座
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2017/02/14 (火) ~ 2017/02/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
扉座研究生の卒業公演として上演された作品であり、芝居もダンスも歌も必ずしもうまい人ばかりとは言えない。
しかし、未熟であることや必死であることすら、観客が目撃する枠組みの中にある。たとえ間違ってもヘタクソでも声を枯らしても、それでもいい、いや、いっそその方がいい、と言ってしまったら語弊があるかもしれないが、彼らのがんばりこそが、この公演の最大の見せ場のように思えるのだ。
その汗や息づかいを魅力的に見せようとする演出や振付、そして照明や音響もある。
公演の最後は『スクラム』という演目だ。ラガーシャツに身を包んだ彼らが、それぞれ最大の愛の言葉を叫びながら体当たりをする。
準備から公演までたくさんの汗を流し、その日の公演でも力を振り絞って、スクラムの頃にはもう、叫ぶ言葉もほとんど聞き取れない。
それでも、これも演劇なのかもしれない、と毎年思う。……というか、実はこの辺りはもう毎年泣きながら観ているのだ。
ほとんどが初めて拝見する役者さん(のタマゴ)ばかり20人、序盤のタップからラストのスクラムまで、彼らが踏みしめる劇場の振動に共鳴し、彼らの「愛」と喜怒哀楽に寄り添い、2時間10分の上演時間が終わる頃には、いつの間にか彼らに親しみを感じるようになっている。
この先彼らがどんな道に進んでいくのかはわからない。扉座に残る方もいるだろうし、他で役者や舞台に関わる仕事をなさる方もいるだろう。あるいは、もう2度とステージに上がることのない方もいるかもしれない。
淵、そこで立ち止まり、またあるいは引き返すための具体的な方策について
カムヰヤッセン
ワテラスコモンホール(東京都)
2017/02/16 (木) ~ 2017/02/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
誰も観たことのない犬の鳴き声。困窮しつつ借金のない暮らし。要介護度の軽さ。
そういういくつかの違和感と3人の刑事の取り調べの様子が、本当は何があったのか、ということへの興味をそらさず、それが解かれていく時間の生々しい痛みだけでなく、物語としての(こう言ってよければ)面白さ感じさせた。
ナイフで人を殺すより、借金を重ねて踏み倒す方が容易だろう、という意味のことを一人の刑事が言った。
それができなかった母と息子の繊細なやり取りを、3人が交互に語る終盤の場面。痛みと優しさが胸にしみた。
どうしようもない現実。それでも、その淵を渡らずに済むためには……。
答えを出すのではなく、あなたもそして私自身もそれぞれに立ち止まり引き返せますように、という祈りのような何か。
身につまされる、などという安易な共感ではなく、もう少し丁寧に考えてみたい気がする舞台であった。
口々(くちぐち)
サンボン
サンモールスタジオ(東京都)
2017/02/08 (水) ~ 2017/02/12 (日)公演終了
満足度★★★★
家族だからこそ言えない言葉。ウソだと知りつつ交わす約束。
身勝手さも優しさも親しいからこそ、なのだろう。愛情などと簡単には言えない。けれど、気がつけば同じ曲を聴き、同じものを食べたりしていたように、切り離せないつながりを感じる。
見応えのあるキャストが揃う中、父の愛人と弟の恋人の2役を丁寧に演じ分けた井端珠里さんの演技が特に印象的だった。
観ていて、(ああ、わかるわぁ……)と思う台詞がたくさんあって、台本買ってきてよかったなぁ、と帰りの電車の中で思った。
アトレウス
演劇集団 砂地
吉祥寺シアター(東京都)
2017/02/09 (木) ~ 2017/02/13 (月)公演終了
満足度★★★★
壮大なギリシャ悲劇をひとつの家族の物語として再構築した舞台。その壮絶な喜怒哀楽は、我々現代人の感情とは一線を画す神話的な激しさを見せる。
暴力、愛欲、拘束、殺人。罪と罰。
大義や信仰のためではない、家族という狭い関係の中の愛と憎しみは、エッジの効いた光と音と相まって、スタイリッシュといってしまうには荒々し過ぎる、ざらつく手触りを感じさせた。
我々よりずっと神々に近いところで暮らしながら、その信仰は禍々しく、予言は不吉であった。
女性だけのコロスを民衆の声として、舞台だけでなく客席通路や舞台上のバルコニーなど様々な場所に配し、家族の悲劇を揺さぶり続ける。
それぞれに印象的な登場人物の中で、アガメムノンの妻 クリュタイムネストラの母としての顔と女の顔、そして、愛人とともに夫を手にかけた後の迷いのない佇まいが印象に残った。
ダークマスター東京公演
庭劇団ペニノ
こまばアゴラ劇場(東京都)
2017/02/01 (水) ~ 2017/02/12 (日)公演終了
満足度★★★★★
マスターと若者の奇妙な融合、中国資本の台頭、暴力、セックス、循環構造をにおわせるラスト……などなど、寓意を読み取ろうと思えば膨大な情報量があって、でもそれはそれとして巻き込まれた奇妙なシチュエーションにゾクゾクしながら腹を減らす……というのが、まずはこの作品の味わい方であろうという気もした。
さまざまな仕掛けと刺激と隠喩に満ちた3.5次元くらいの観劇体験。不穏な空気に背筋がざわつく、油断のならない2時間20分であった。
オペラ『想稿・銀河鉄道の夜』
オペラシアターこんにゃく座
世田谷パブリックシアター(東京都)
2017/02/03 (金) ~ 2017/02/05 (日)公演終了
満足度★★★★★
繊細ないくつものパーツを、音楽が1枚の大きなタペストリーへと織り上げていく。生の楽器の音色が耳よりも先に肌と共鳴し、澄んだ歌声が胸に響く。
半円形の会場と舞台の奥の大きな輪を生かした美術が銀河系や時間を象徴し、その中で少年たちが探す「ほんとうのこと」「ほんとうのさいわい」は孤独と自己犠牲を経て、永遠へと変わる。
若々しい顔ぶれのキャスト陣にベテランがそれぞれの味わいを加えた座組は、少年たちが主人公となる作品によく似合っていた。
天使の心臓
しゅうくりー夢
「劇」小劇場(東京都)
2017/01/25 (水) ~ 2017/01/25 (水)公演終了
満足度★★★
昨年3月に上演した『爆裂!GR7』のメインキャラクターたちを別の世界観の物語に登場させたアナザーワールド。
元の作品のアクションコメディ的なテイストからぐっとダークな印象となり、4人のキャラクターもシリアス度を増していた。
ハラハラドキドキの展開やダンスやアクションも素敵だったけど、何より登場人物の魅力にときめく作品となった。
マクベス
Theatre Company カクシンハン/株式会社トゥービー
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2017/01/26 (木) ~ 2017/01/29 (日)公演終了
満足度★★★★
とにかく人々が動き回る。それに連れて舞台は躍動し、脈打つように進んでいく。動的で、遊びや見立てたっぷりの演出で、笑いも多めだったが、同時にヒリヒリするような緊張感に満ちていた。
後半、舞台上の人々のやり取りが聞こえないかのように、舞台の下を行き来するマクベス夫人が痛ましい。そして追い詰められていく中でのマクベスの独白に圧倒された。
虚仮威
柿喰う客
本多劇場(東京都)
2016/12/28 (水) ~ 2017/01/09 (月)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/01/07 (土)
観始めてすぐ、舞台の上を縦横無尽に走り回る俳優の身体と声に圧倒される。そうだった、そういう人たちだった、と改めて思い知る。
平成と大正の12月25日に起きた出来事を軸に、人の求めるものと信じるものについて描く。
土着性とスタイリッシュさが同居する中で、奇妙な痛みと切実さを感じさせた約100分。
夜組
The end of company ジエン社
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2017/01/13 (金) ~ 2017/01/23 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/01/20 (金)
ラジオの深夜放送。
電波を求めて夜出歩く人々。
奇妙な関係の男女。
重なりすれ違う会話はしだいにほぐれて、人々の関係を示していく。
5年前から続く計画停電と巨大な墓地は、あの震災と丁重に地続きで、大きな川の向こうの明かりとは微妙にズレた世界のようだ。
好きとか嫌いとか面白いとか面白くないとかそういう次元とは別に、じんわりと染み込むような言葉と想いがあった。
カミサマの恋
ことのはbox
シアター風姿花伝(東京都)
2017/01/18 (水) ~ 2017/01/23 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/01/20 (金)
カミサマと呼ばれ長年人々の「苦」を受け止めてきた道子を軸に、当たり前の人々の当たり前の悩みや苦しみを丁重に描く。
土地の方言や風習が物語の確かさを支え、登場人物一人ひとりに親しみを感じさせた。
音楽劇 メカニズム作戦
公益社団法人日本劇団協議会
Space早稲田(東京都)
2017/01/13 (金) ~ 2017/01/29 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/01/14 (土)
半世紀以上前の岸田國士戯曲賞受賞作を、パワフルな音楽劇として魅力的によみがえらせていた。
初演当時には今より身近だったはずの労働運動に、たまたま関わることとなった音楽好きの4人の若者。
彼らの奮闘を中心に、社会や組織における希望の在り処を探す人々の姿を、ある種の寓話として描く様子が面白った。
「江戸系 諏訪御寮」「ゲイシャパラソル」
あやめ十八番
サンモールスタジオ(東京都)
2016/05/27 (金) ~ 2016/06/05 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2016/05/29 (日)
『江戸系 諏訪御寮』
このユニット初の再演。ある地方の伝説と風習を背景に描く、奇妙で切実な恋物語。そして同時に家族の物語でもあった。
多重構造の物語が浮かび上がらせる人の想いが愛おしい。
『ゲイシャパラソル』
印象的な設定と和のテイストを生かした物語の面白さはもちろん、人物の描き方にも厚みがあって、役者が映える舞台となっていた。
盛りだくさんな印象ながら、さまざまなモチーフや手法や音楽がスタイリッシュにまとまって、あっという間の125分となった。
治天ノ君【次回公演は来年5月!】
劇団チョコレートケーキ
シアタートラム(東京都)
2016/10/27 (木) ~ 2016/11/06 (日)公演終了
満足度★★★★★
時代のうねりや歴史の必然にもまれ、翻弄されながら生きていく個人の想い。いや、個人と言ってしまうには重過ぎる定めを背負って生まれ、生きて、そして亡くなったその人の想い。
自由で優しい気性のその人が、一国の器とも言うべき役割をどう受け止め、どう果たそうとしたか。2時間半休憩なしの会話劇が静かな緊張感に満ちたまま、観る側の集中も途切れずに、気が付けばカーテンコールとなっていた。
初演の評判に違わぬ、見応えのある作品だった。
悪巧みの夜
同級生演劇部
梅ヶ丘BOX(東京都)
2016/11/01 (火) ~ 2016/11/06 (日)公演終了
満足度★★★★★
劇中の3人の個性や背景が物語が進むに従ってしだいに鮮やかになり、第一印象から変わっていく様子が印象的だった。それぞれの心の揺らぎがささいな仕草や表情から伝わってきた。
脚本や演出の細やかさ、こだわりを感じさせる美術、音や光の確かさなど、観客にとって繊細で濃密な時間となっていた。
燦々
てがみ座
座・高円寺1(東京都)
2016/11/03 (木) ~ 2016/11/13 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2016/11/05 (土)
江戸の絵師の話である……というか、葛飾北斎の娘 お栄を軸に描く、父と娘、師匠と弟子、妻と夫、女と男、そして人間の話であった。シンプルな舞台の上で、竹竿と白く透ける不織布を使って江戸の人々の暮らしを生き生きと描き出していく。町に生きる人間の息遣いが聞こえる。
長田育恵さんの脚本の確かさはもちろん、それを立体的に立ち上げていく扇田拓也さんの演出がまたとても好みだった。いま私が観たかったのは、こういう芝居かもしれない……観終わると同時にそんなことを思った。
嫌われ松子の一生
ネルケプランニング
クラブeX(東京都)
2016/09/29 (木) ~ 2016/10/10 (月)公演終了
満足度★★★★
舞台化するに当たって、原作に登場するさまざまなエピソードや登場人物を思いきって省略したに違いない。たとえば、松子と家族との確執はほとんど描かれていない。ただ台詞の端々などから察することができるだけだ。それは残念な気もするが、その分、いくつかの人物と場面をじっくりと描いていく。
あのとき別の道を選んでいれば幸せになれたかもしれないのに。そんな歯痒さを感じながら、嵐のような松子の生涯を追体験する時間となった。
ムーア
日本のラジオ
RAFT(東京都)
2016/10/06 (木) ~ 2016/10/10 (月)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2016/10/09 (日)
観ている間だけでなく観終わってからもじんわりいろいろ思ったりしてしまう感じがものすごく面白かった。
表現に抑制と諧謔が効いて、こんな題材(児童連続殺害犯を描いた絵本)なのに後味もけっして悪くない。
緻密さとしんと張り詰めた濃密な緊張感が印象的だった。