満足度★★★★★
愛と暴力のみっしりと詰まった、濃密で切実な85分と35分。
いや、「愛と暴力」とひと口に言ってしまったけれど、愛にも暴力にもさまざまな形があった。
『ラクエンノミチ』
ファッションヘルスの待合室で交わされる、奇妙な人々の奇妙なやり取り。
軸になるのはタケの愛。十年経っても二十年経っても変わらない初恋。報われることを求めない、ただかたわらを歩き続けるだけで幸福だった。
彼だけでなく、彼ら彼女らはそれぞれそういう道を歩いていたはずなのに。いつのまに落ちてしまっている奈落の底。死ぬことも殺すこともそれ自体が悲劇なのではない、すがってきたものを失ったとき世界はこんなにも虚ろになってしまうのだ、と思った。
女たちの抱く孤独や閉塞感がじんわりと切なかった。
それと、村上さんが演じた篠原がものすごく怖かった。最初に登場した場面の温厚そうな見た目を裏切る突然の暴力。人を傷つけることをまったくためらわない人間がこんなに恐ろしいんだと思った。
ホントは痛そうなのとか見るのもイヤだし、観てる間はずっと手を握りしめていたけど、それでも観てよかった、と思う。
『ボディ』
愛することがそのまま殺すこととなってしまう不幸な男。劇中には登場しない父親の庇護のもとで、死体は処理され彼の行為は隠蔽されてきたけれど、罪の意識がない彼は何度も同じことを繰り返してしまう。
生きている人間とは思いを交わすことができず、死体に寄り添い語りかけるときだけ人を愛することができる。
彼の見せるある種の無垢と一途、そしてその終わり。底の見えない亀裂をのぞきこむような、ごく短い物語。