Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

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メディア/イアソン

メディア/イアソン

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2024/03/12 (火) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

「オイディプス」などより知名度は劣る話だが、常軌を逸した怨念と血まみれの復讐で、ギリシア悲劇のすさまじさを堪能した。前半のギリシアのイアソンが「金羊皮」を獲るために東の最果ての国で冒険し、王女メディアと恋する話は、どうってことはない。獰猛な牡牛を手名付け、巨人を倒し、金羊皮を守る大蛇をメディアが子守唄で眠らせというあたりは獅子舞のような牡牛や、長崎くんちのような大蛇など見て楽しめる。

逃げる二人が、父王の追っ手をかわすために、メディアが自分の弟を切り刻んで海にまく。彼女の尋常ならざる性格が垣間見え、これが後半の「悲劇」の予告となる。

後半、新しい女を作ったイアソンに対するメディアの怒りと復讐のすさまじさ。奸計に落とすための偽りの和解の演技も含め、まさに鬼気せまる迫力で、圧倒された。こんな南沢奈央は見たことがない。女優として大きな飛躍を遂げたと思う。その点では、井上芳雄も食われそうだった。しかし、井上も負けてはおらず、いつもの甘い歌声とは別人の、野太い声で南沢と渡り合う。

とにかく後半は圧巻の舞台。さかまく波の山と谷を、いくつも超えていく長旅のような話なのに、終わってみれば2時間ぴったりと、濃縮した時間だった。

千と千尋の神隠し

千と千尋の神隠し

東宝

帝国劇場(東京都)

2024/03/11 (月) ~ 2024/03/30 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2年ぶり2度目の観劇。宮崎駿のちょっと変な映画を、人力とパペットで徹底的に舞台に再現する(映像の使用は冒頭の森と、銭婆のもとへいく電車が通る海のみ)、その正攻法はやはり称賛されるべきだろう。元が映画なので、セリフでの表現が少ない分、音楽が感情や状況を示すために大きな役割を果たす。全編に音楽が鳴っていると言っていい。すべて生のオーケストラの演奏。カーテンコールでオーケストラが舞台背後にいるとわかって、ぜいたくなつくりにびっくりした。

豚になった両親の話は、映画では途中で振り返らないと思ったが、舞台では2度、豚舎へ行く場面と、夢とで出てくる。そこが大きな違いのように思うが、映画もあったかもしれない。
千尋とハクが手をつないで、名前を取り戻す場面は、映画そのものだのだが、舞台で見てもよかった。
テーマパークのような、おもちゃ箱をひっくり返したような舞台なので、俳優の演技がどうこうということはあまりないのだが、そのなかで朴路美の湯婆婆の迫力あるドスのきいた声と、坊を猫かわいがりする甘えた声は素晴らしかった。

3月11日の初日は、くしくも宮崎駿が「君たちはどう生きるか」でアカデミー賞を受賞した日と重なった。

ネタバレBOX

ロンドンの大劇場で、日本キャストで(つまり日本語で)1ヶ月も講演するというのは、日本演劇史上初めてではないだろうか。宮崎アニメの海外での人気があったればこその快挙である。少女の成長物語、ボーイ・ミーツ・ガールというベースがあり、無秩序な開発、河川の汚染への批判、拝金主義への批判が土台を支えている。そのうえで、異形の神様や竜や魔女やを、見て楽しめるエンターテインメント。世界に通用する日本発のコンテンツとして、今後各国に持っていくまでに成功してほしい。
う蝕

う蝕

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2024/02/10 (土) ~ 2024/03/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

僕の好きな横山ワールドはリアルな会話劇だったので、架空の島の架空の災害という話は意外だった。しかも今回は不条理劇。ちょっと戸惑った。それでも横山らしい会話で展開するのだが、その中でからグッと引きつける ドラマ が立ち上がってこない 恨みがある。後輩役の坂東龍沙汰がうぶな好青年をはつらつと演じてよかった。

冒頭で舞台幕代わりの封筒が開いて、荒野が現れるという舞台装置は驚いた。演出は頑張っていたと思う。途中一度、時間がさかのぼるのだけれど、その場面が過去だったことは、後でわかる。その場ではぼんやり、違う時らしいなと、舞台の地面の変化で示す程度。

そういえば「粛々と運針」はファンタジーだった。が、あれも最初からずっと、ホームドラマのような会話劇で、二組の登場人物の片方の真実がわかるのは終盤。その意外性に感動があった。

「悲劇喜劇」3月号に戯曲掲載
1時間45分

ネタバレBOX

主要な登場人物が実は死人だったとか、役所の人間と思われたのが 実は囚人だったという、意外な 真実というのが物語の終盤にある。そこが意外性や、新しい発見になってこないのが残念。
掟

TRASHMASTERS

駅前劇場(東京都)

2024/02/15 (木) ~ 2024/02/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

改革派の若い市長と、古い議員たちとの対立を描いた。腐敗の温床だったなれ合い市政を変えるという市長の姿勢はいいが、議員に前もって予算案の説明や根回しは一切しないというかたくなさには首をかしげた。しかし、「調整、というのは、結局、議員へのご機嫌伺ですよね」という市長の言葉になるほどとも思った。

さらに財政改革として公共施設の3割削減を打ち出して進める。これは住民サービスの切り捨てにならないか? 議会からも「失業者が出るのに、当事者に視聴は直接会おうともしない」とつかれる。これは議会に理があるように見える。
つまり、議会もかたくなだが、市長もワンマンすぎる。どちらかが一方的に悪いとはなっていないところが、この芝居の最大の長所である。

新聞記者(目黒省吾)が、自分の小5の息子の不登校を打ち明けて、子どもの未来のために、議員たちに副市長人事に賛成してほしいと訴える場面は心に響いた。人を動かすのは、大声ではなく、静かな声だと感じた。議長(葛西和雄=青年劇場)が、支援者の息子が農業を継ぐ気になってくれたんだ、だから「無印企画」との提携のため、議員に一言説明してくれと、市長に土下座する場面もよかった。互いに、対照的な関係になっているが、この舞台の二大ハイライトである。

青年座の山本龍二をはじめ、新劇系劇団から、5人のベテラン俳優が参加したことで、議会の古参議員たちに説得力があった。このキャスティングが素晴らしい。葛西だけでなく、それぞれの見せ場をもう少し練りこめば、さらに良かった。

ネタバレBOX

モデルは安芸高田市の石丸伸二市長だということだ。石丸市長のことは全然知らなかった。私は明石市の泉房穂前市長や、杉並視聴なども少し入っているのかと思ったら、そうではなかった。調べてみると、居眠り恫喝問題も、副市長人事案否決も、無印良品の出店却下も、公共施設削減も、石丸市政でおきたこと。モデルにつきすぎているのは、舞台の寿命を短くする弱点があるが、事実という強みがある。

石丸市長の「財政報告」をユーチューブで見たが、舞台でわからなかった、公共施設削減の深い背景が分かった。簡単に反対できないと思った。今の市は箱モノを作りすぎ、持ちすぎているのである。借入金では、市町村合併時の合併特例公債の比重が大きい。年120億円の財政で、30億円が借金の返済に充てられている。借金のしすぎなのである(国も同様だが)。

今更遅いが、後世への教訓とするために、合併特例公債はじめ公債を何に使ったのかの検証が必要だ。これは総務省の誘導あってのことなので安芸高田市だけの問題ではない。全国的な問題である。現に、山梨県の市川三郷町は、赤字財政で7年後に基金が底をつくと、財政緊急事態宣言をしている。同町も公共施設の削減を財政健全化のカギとしている。
​骨と軽蔑

​骨と軽蔑

KERA CROSS

シアタークリエ(東京都)

2024/02/23 (金) ~ 2024/03/23 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ケラの頭の上にウクライナとガザの戦争が、重くのしかかっていることがわかる稀有な作品。ケラのような、一見、浮世離れした別世界を舞台上で追求する演劇人でさえ、これほど時代の動きに強く反応するとは意外だった。

もちろんストレートな反戦ではないし、ブラックなユーモアで一貫している。しかし、開幕から最後まで、周辺で砲声が鳴り響き、西と東に分かれて内戦が長く続いている設定である。若い男たちは死んでほとんど残っておらず、女性と子供が戦場で戦っている。「戦争のおかげで食べている」軍需工場を経営する一家の物語となれば、戦争にどう向き合うかは避けて通れない。ときおりつけるラジオから、「本日の死亡確定者数」が知らされ、「○○はいなくなってしまった」が延々続く投書や、DJ自身の「墓森の父が職を失った。墓地を兵器工場にするからだ」という 告発が、家の外では何が起きているかを思い出させる。そのうえで、ラストのどんでん返しと急展開は見事だった。

誤解のないように書いておけば、堅苦しい社会派ではない。基本は、ナンセンスとすれ違いの笑いに満ちた、俗物ブルジョア一家のホームコメディである。作家の姉マーゴ(宮沢りえ)と妹(鈴木杏)の、欲しいもののとりあい(真剣だが笑える)、テンションの高い居候ナッツ(小池栄子)、アル中の母グルカ(峯村リエ)、家の財産を狙う、父の秘書のソフィー(水川あさみ)、登場は一番遅いが、重要な舞台回しの編集者ミロンガ(堀内敬子)、そしてナレーターでもあるおしゃべりなメイドのネネ(犬山イヌコ)。花も芸もある女優陣は、期待にたがわない。宮沢りえと小池栄子の、呼び捨てで呼び合って心が通じ合うダンスシーンなど、見ているだけで幸せな気分になる(二階では父が危篤だというコントラストもいい)。
徴兵忌避で家出した夫から、何通も届く手紙が道糸になり、戦争と直接つながってもいる。
上演時間3時間(20分休憩こみ)

ネタバレBOX

「骨と軽蔑」とは、マーゴが書く小説のタイトル。少女の耳から、頭の骨がいくつも出てきて、それで作った人形と少女は仲良しになるが、ある日、喧嘩して、人形を投げ捨ててしまう。そして…という物語。イメージの鮮やかな話である。マーゴが書く小説がどういうタイプの物かもわかる。(もう一つ、マーゴのデビュー作の内容も少し話していたが、忘れてしまった。とにかくブラックだった。夫はデビュー作担当の編集者だった)

中盤、どくろの死神が直接登場するのも愉快。
最後、身内にも徴兵がきて、出征前に恐怖に震える。敵の爆撃機の大編隊が現れ、生死不明の夫から手紙が届く(その前のはナッツのなりすましだったが、これは本物)。戦争が一家を押しつぶす。戦争で儲けていた一家に対する、天罰ともいうべき結末である。
ぼっちりばぁの世界

ぼっちりばぁの世界

劇団青年座

ザ・ポケット(東京都)

2024/02/15 (木) ~ 2024/02/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

冒頭の、キャンプ場の受付の杓子定規すぎてシュールなオーナー(綱島郷太郎)の受け答えから笑える。面白い方言だなあと聞いていると、これが高知の幡多弁らしい。若手の角田萌果が演じる、引きこもり系女子の、殻に閉じこもったくら―い感じがとってもよかった。若いよそ者のアドバイザーの男(伊東潤)の天然系いい男ぶりはトクなキャラ。彼の「ショートコントのつもりでやれば? おれもそう。ショートコント社会人と思って、もう5年やってる」という、明るく社会人を演じていくという発想が根底にあって、明るい舞台にしている。髪をまだらに赤く染めた、破天荒に明るい女性も、尾島春香の髪までキャラに合わせた役作りが光る。尾身美詞が、角田の対極にある、やる気で引っ張るキャラを好演していた。

ネタバレBOX

「ルールを教えてよ。年休とった翌日は、みんなにお菓子を配んなきゃいけないなんて。それもポッキーひと箱ずつ配ったら、やりすぎって言われて…」「全部紙に書いてよ」「そんなの学校で教えてくれないじゃん」というのは、アスペっぽい言い分。なるほど、そういうこともあるよなあ、と思った。
ワークショップから生まれた演劇 「マクベス」

ワークショップから生まれた演劇 「マクベス」

彩の国さいたま芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/02/17 (土) ~ 2024/02/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

上演時間100分のマクベスなので、何よりテンポがいい。だが、それだけではない。暗殺決行前、マクベスが空中の剣の幻を追う独白シーンを、3人の魔女たちが剣をマクベスに渡さないように投げ合って、マクベスをいたぶるなど、見せ場の独白を立体的重層的に見せる工夫が光る。スピーディーで斬新なシェークスピアだった。

暗殺決行後のマクベスの「この手の血は七つの海の水でも落ちない」と、自身の悪行におののくシーン、実際に黒い塗料を手に塗りながら演じ、その塗料はマクベス夫人の手にも…。忠臣マクダフの妻子が刺客に殺される場面では、殺された子に母が語る独白を「あなたに言い忘れていたことがある命は一つだけ。死んで勇気をたたえられるより、逃げて生きて」と、子守歌にして、演者たちも場悪ダンスで支える。マクダフの子が「裏切者は、約束を守らな方人たち。世の中は、そういう人が正直者よりずっと多いんだから、みんなで正直者を殺せばいいのに」と、野蛮な王への反逆を進め李せりふも印象に残った。

音楽も、フォーク調の歓喜の歌や、ビートルズの「ラブ・イズ・フィーリング」、だるまのラップなどおもしろい。既成曲もすべて編曲し独自録音したオリジナルアレンジ。舞台上に於いた64脚(数えた)の木の椅子を組み合させて、寝台、玉座、宴会場、城を作る。

中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~

中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~

ホリプロ

東京建物 Brillia HALL(東京都)

2024/02/06 (火) ~ 2024/02/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

どん底から這い上がった稀代の歌舞伎役者・中村仲蔵に、藤原竜也がよくはまっていた。藤原は激しい喜怒哀楽と大ぶりの演技なので、ちまちました芝居では臭くなってしまう。今回は、この藤原の特徴を存分に生かせた。二幕の外郎売の蝶早口の膨大なセリフは見ものであった。井上ひさし「薮原検校」の芸の見せ場のようだった。久しぶりにいいものを見た。
もう一つ、「50両」しかせりふのない、「忠臣蔵」五段目の斧定九郎が見せ場。ただ、セリフはないので、歌舞伎とは何が見どころなのかを考えさせられる。戯曲中心の「会話劇」である新劇では、セリフのない見せ場は考えにくい。

上を目指すギラギラした歌舞伎役者を演じる座組の中に、お稲荷さんのコン太夫役の池田成志がトリックスターとしてうまく合っていた。自然体のユーモアと、緊張を和らげるほっとした時間を担っていた。
二役の市原隼人も、肉体派の彼の特性を生かして、荒事をきわめた市川八百蔵と、身投げした仲蔵を助けた新之助にぴったり。

場面が多いらしい(「赤旗」評によれば二幕二十六場)が、舞台に3階建ての芝居の楽屋セットを組み立て、それぞれの階でスピーディーに場面転換して、まったく転換の多さを感じさせない。しかもこのセットは下は稲荷町(大部屋)から、名題(スター)役者までの役者のヒエラルキーも示していて一石二鳥である。

「抗えないことには逆らうな」「俺には抗えないことなんてないと思える」等々、決め台詞も随所に光る。「一本の道がみえる。その先には何があるのか」「お前の中の化け物を引き出してくれる人がかならずいる」「分け前をもらう子分じゃない、獲物を狙う一匹狼」そして、「役者のさが」にいたる。

スターリン

スターリン

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2024/02/09 (金) ~ 2024/02/16 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

村雲隆一演出を拝見。全5場構成。1場はスターリン(小田伸泰)とユダヤ人俳優のサーゲリ(斉藤淳)の初対面。リア王を絡ませながら、互いにどこまで踏み込めるかの腹の探り合いという感じ。二人とも神学校出身。スターリンも威圧的でなく、あまり怖くない。そこがちょっと物足りない。

2場で二人は互いに裏切りの経験を持つことを告白する。スターリンは帝政内務省の密偵に誘われ、サーゲリはスパイとして、刑務所で危険分子のユダヤ人と同じ房に送り込まれた。サーゲリは「俺は裏切ってない、房に入ってすぐに、自分の目的を相手に伝えた」というが、スターリンは「俺は密偵だ」と。サーゲリの息子ユーリがシオニストとして取り調べを受ける。スターリンは「もう家に帰った」というが。

3場 30年代の農業集団化と大粛清を振り返る。スターリンはジノビエフ、カーメネフ、ブハーリンのライバルを出し抜いたこと、レーニンが(右手はマヒしたため)慣れない左手で書いたスターリン排斥の遺言を。うまく切り抜けたことを自慢する。サーゲリはウクライナへ赴き、みずから富農撲滅の先頭に立っていた。飢餓で1000万人が死んだ等々と、スターリンに面と向かって告発。だんだん話が核心に迫っていく。スターリンの2番目の妻は自殺した。労働者と農民の殺人者になったみずからの姿に絶望して。「一人が死ねば悲劇だが、100万人の死は統計だ」とうそぶくスターリン。チャップリンのモジリである。ユーリは拘束されたまま、父のサーゲリは会わせてもらえない。ユーリはジョイントの一味だと、スターリンは疑う。

4場(短め)戦後、フルシチョフたち「新しい人」が自分に服従しないことにいら立つスターリン。戦争。サーゲリは何百の赤軍将校を処刑したとスターリンをなじる。戦後、スターリンはユダヤ人の強制移住を提案するが、フルシチョフ達は先送りにする。「医師団陰謀事件」がおきる。新たな「敵」として反ユダヤ主義が強調されると、なぜ作者がスターリンの相手役をユダヤ人にしたかが見えてくる。ドイツ語で書いた芝居なので、当然ヒットラーを重ねたのではないか。
トルストイのように不死を目指し?放浪するスターリン。「いくつもある部屋を、次から次へと変える」といわれて、暗転ごとに、窓や机を示すセットを配置換えしていた理由が分かった。
スターリンも多くの人を殺してきたせいか、得体のしれない恐怖におびえる。人間スターリンの「良心」を想像するのが、スターリンにふさわしいのかどうか。全く後悔もしないのでは、芝居が成り立たないが、独裁者の内心の苦しみというのは安易な想像であり、通俗的な慰めになってしまうのは注意を要する。

5場は悲劇的な、しかし厳粛なラストとなる。2時間10分

勉強になる芝居であった。それにしても「若き日のスターリンは皇帝権力の二重スパイだった」(亀山郁夫)とは本当なのか。この芝居もそう書いているが、それがスターリン生存中、公に知られなかったのはなぜだろう。

ネタバレBOX

5場はサーゲリが捕らえられた独房での対話。かつてサーゲリが刑務所でユダヤ人とかわした神をめぐる対話。スターリンは自分をネタにしたジョークを教えてくれとせがみ、サーゲリはそれにこたえる。「このジョークは傑作だ」「教えてくれ」「だめだ。それをしゃべったために、5年間収容所に入って出てきたばかりなんだ」等。スターリンが朝、排尿し、排便し、それから起床するというジョーク。自分の衰えが知れ渡っていて驚くスターリン。ユーリの死。サーゲリは低い、力の抜けた声で、淡々とリア王がコーディリアの死を嘆くかのようなセリフを語る(そんな場面はシェイクスピアにないが)。悲劇を見つめる人々が背後から現れて、幕。
夜は昼の母

夜は昼の母

風姿花伝プロデュース

シアター風姿花伝(東京都)

2024/02/02 (金) ~ 2024/02/29 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

アル中の父親(山崎一)をもつ4人家族の話である。場所はデンマーク。最初は兄(樫山隼太)が弟ダヴィド(岡本健一)のセクシャリティ(女装、女性へのあこがれ?トランス?)を攻撃するところから始まり、朝、父、母(那須佐代子)も食堂におりてくる。母のしつこい咳や、食材費の工面の父の悩みと続く。父が酒で失敗したこと、施設に入っていたことが語られ、そして…父がついに隠れて酒を飲む。ここまでの過程が長い。ここから父のごまかしがおかしくて、家族同士の本気の肉弾戦になり、舞台が面白くなる。葛藤の原動力は父の酒への執着だけなのだが、その執着がとにかく半端ない。山崎一の独擅場だ。
3時間20分(15分休憩)

ネタバレBOX

後半の、父と他の三人とのくんずほぐれつの「闘争」は生々しい。現場を押さえられても、隠していた酒瓶をダヴィドに床下から掘り出されても、「俺は一滴も飲んでない」と白を切る父親が面白い。人間、あんな開き直って嘘がつけるのだ。妻に「また飲んだら別れる」と迫られ、「もう絶対飲まない。信じてくれ」と約束したのも、全部その場しのぎに過ぎなかった。しかし妻に縋り付いて約束するときは、本当に改心したとしか見えない真剣さなのである。こうした家族のせめぎあいが見どころである。ただし芝居を通して、さまざまな表情を見せるのは父親だけ。他は、16歳!の上目遣いの弟、なぜかいつもいら立っている兄、疲れ切った母親、という表情があまり変わらない。最後に父は酒に酔ってすべてを超越し、心も崩れてしまい、いつまでも不気味に笑い続ける。この山崎一の演技がすごい。

父親がなぜアルコールにおぼれたのかが描かれないので、家族の葛藤は肉体的衝突より深くならない。ユージン・オニールの「夜への長い旅路」は、母が麻薬におぼれたのは、かつて赤ん坊を死なせたからであり、父はその時浮気(か仕事か?)で家にいなかった負い目があるために強く出られない。今作は、家族のこれまでの歴史、状況の必然性が透けて見えないところが、決定的に違っている。父が「護送船団に乗っていた」というから、戦争のPTSDか?と思ったら(もしそうなら、芝居の見え方がだいぶん変わる)その話もでたらめらしい。

途中、母親が急にダヴィッドに船に乗れと言い出して衝突する。このように兄と弟、母と弟も互いにうまくいっていない。(兄は弟にサックスを「ちゃんと断れば貸してやる」と優しいところも見せるが)。でも、父親に対しては、3人が団結する。ただし父を見捨てて憎み切れないため、葛藤はずるずると続くのだ。

ダヴィドがナイフで母ののどをかき切る黙劇、父ののどを切る黙劇がインサートされる。ダヴィドの妄想と見える。これらのシーン、セリフはないが、戯曲にあるのだろうか? 
自転車の6日間レースとか、アメリカの死刑になりそうな作家についてのラジオニュースとか、あまり意味のない話があれこれある。作者の体験から取り込んだものだろうか?アメリカの処刑方法が青酸ガスというがカリフォルニア州でそんな方法をとっていたのか?ホロコーストのガス室を示唆しているのか?
ウィキッド

ウィキッド

劇団四季

JR東日本四季劇場[秋](東京都)

2023/10/19 (木) ~ 2024/01/27 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

オズの魔法使いの前日譚ということだが、途中からオズ本編の裏話になっていく。そしてすべてが最後はつながる。すべての伏線を回収して見せるストーリーが非常に巧み。西の「悪い」魔女の親友だった、南の良い魔女が、けんか別れや憎しみもないのに、なぜ西の悪い魔女の「死」を祝福しているのだろう?と、見ながらずっと疑問だったが、その疑問も最後にはほどけた。

オデッサ

オデッサ

ホリプロ

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2024/01/08 (月) ~ 2024/01/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

笑いに次ぐ笑いのうえに、ミステリーは意外な展開を見せる。それで終わったかと思うと、最後にどんでん返し。100分、十分に楽しめる。ただ三谷幸喜は今回もメッセージをこめることには非常に禁欲的である。ニール・サイモンのように。

殺人事件の取り調べ。互いに話の通じないアメリカ人警部(宮澤エマ)と日本人容疑者(迫田孝也)、日英両語ができる青年(柿澤勇人)が、日本人を救おうと間に立って悪戦苦闘する。数十年前の最初の思い付きは、日中戦争中の中国での、日本人と中国人の話だったそうだ。間に立った通訳が、戦闘を避けようと嘘の通訳を繰り広げて、爆笑コメディーになる。この設定なら、笑いだけではなく、戦争回避という大きな目的を背景にした、奥行きのある話になったと思うのだが。「笑いの大学」のように。

ネタバレBOX

開幕10分後、取り調べが始まるや否や、日本人旅行者(迫田孝也)は米国人警部(宮澤エマ)に「私が殺しました」と突然告白する。客席はびっくり。通訳の日本人青年(柿澤勇人)もそれ以前の彼とのやり取りで、無実を確信しているから、思わず「He says he didn't kill him」と、嘘の通訳をしてしまう。ここから、旅行者が演じる殺人の状況の再現を、そば打ちの様子に変えて訳したり、あの手この手の爆笑場面が続く。最後のどんでん返しの伏線が、最初からはっきり示されているのはさすがである。まさか、そうなるとは。観客も騙されても腹が立たない。
みえないくに

みえないくに

公益社団法人日本劇団協議会

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/01/18 (木) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ケストナーやスターリンなどの評伝劇で、近年急速に頭角を現した鈴木アツト氏が、評伝劇とは違う、現代の世界と翻訳の問題に切り込んだ。日本の敵どころか「世界の敵」になった国の言葉を広める辞書を作ることは、日本国民を敵に回し、会社もつぶれるのではないか。ロシア語・ロシア文学をめぐる現在のジレンマを、架空の小国の話に置き換えて、敵とみなしたら、その国に関わる全てが否定されてしまう現代の極端な風潮を見つめ直させる。なかなか難しい課題に取り組んだ意欲作である。グラゴニアが隣国に侵攻した、というところで、舞台三方の大きな本棚が倒れて、どばーッと本が散乱する演出は、ダイナミックだった。

架空のグラゴニア語をいろいろ肉付けして、舞台に乗せたのは面白かった。日本語は、雨に関する言葉がたくさんあるが、グラゴニア語は物のにおいについての単語が豊富なのが特徴とか。「ムルケアス」ということばは、「老木の香おり」の意味で、同時に「老人の生きた時間」という意味があるとか。このマイナーな言語を学ぼうと、べてらん編集者(土居裕子)が、家じゅうの物に、グラゴニア語を買いたポストイットをつけていた、というのは「なるほど!」と思った。モノになりそうな学習法だ。

一方ストレートな議論中心で、遊びというか、芝居にゆとりがないのが残念。人物の生活と感情にもう少し厚みが欲しかった。

ネタバレBOX

いろいろ、突っ込みたいところはある。グラゴニアは人口60万の認知度の低い小国という設定だが、そういう国の話題が急にニュースになったら、グラゴニア関連書は売れるのではないか? 今こそ出版しようとなっておかしくない。大国ロシアへのバッシングをそのまま小国に当てはめたためにズレを感じた。それをいえば、そもそも小国は、戦争を仕掛けたりしない。反撃されて、負けるのは自分たちと分かっているから。実際、グラゴニアは、空爆を受けて国連?に占領統治される。独裁政権で人権抑圧をしている、世界の孤児(北朝鮮やミャンマーのような)という設定がよかったのではないか?
パートタイマー・秋子【石川公演中止】

パートタイマー・秋子【石川公演中止】

ニ兎社

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/01/12 (金) ~ 2024/02/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

つぶれそうな下町スーパーで、わけあってバイトを始めた山の手の奥様・樋野秋子(沢口靖子)。さえない店長派と、ぐーたらバイトの反店長派の対立の余波を受け、頭がくらくらしてくる。そんな世間知らずの奥様に、沢口靖子がうまくはまっていた。
生瀬勝久の「焼肉ヨーデル」のスイス風の節回しは傑作で、客席が大いに沸いた。ロッカーから突然飛び出してくる意表を突く場面と言い、生瀬氏の喜劇度は非常に高かった。
2時間45分(休憩15分込み)

ネタバレBOX

バイトのボスの春日(土井ケイト)たちは、レジを通さないで店の物を持ち帰ってずるしている。店長は、賞味期限切れの肉を「リパック」して再び店頭に並べ、その片棒を担ぐ精肉担当には特別手当を出している。担当が辞めたため、秋子が8万で引き受けるが、前の精肉担当の手当は10万だったことが分る。こういうせこさが、いじましい。どちらにも正義のない店長派とバイト派のかけひきが、日本社会の縮図のように見える。

そこに「新店長赤っ恥セール」が絡むのだが、豆腐や牛、豚のシャッポをかぶったり、調子っぱずれの替え歌(「夏の扉」を「店の扉」にしたり)を歌ったりと、浮世離れしたセールス。反店長派ならずとも、とてもついていけない気がする。

二兎社には珍しく出演者が多い。12人。ちょっと多い気がする。誰が誰かを理解するのに少々かかった。21年前に上演した青年座では、これぐらいがちょうどいいのだろうか。
開演時間を間違えて、30分遅れてしまったせいもあるので、仕方がないかもしれない。
ひばり

ひばり

劇団四季

自由劇場(東京都)

2023/12/24 (日) ~ 2024/01/20 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ジャンヌ・ダルク役の小柄な五所真理子が、無邪気なほど無垢でりりしくて、声もよく響いて素晴らしかった。舞台装置は簡素ながらも紋章や林立する槍で歴史を感じさせる。なんといっても素晴らしいのは衣装。甲冑や、貴族の豪華な服、司祭たちの赤いビロードのような服など、見た目にもゴージャスだった。

前半の神の声を聴いてから、ボードリクール隊長を説得して隊を整え、シモンで皇太子を起ち上らせるまでは、ジャンヌの知恵と純真さに心現れる。すがすがしい。
後半の宗教裁判は、審問官とジャンヌの対決がなかなか重い。そのなかでも、最初の方の「人間こそが神の奇跡」「人間が自ら選択し、実現することができることこそが奇跡」というジャンヌの言葉は、きらめく輝きを感じた。(井上ひさし「きらめく星座」を連想させる。もちろんアヌイの方が先だが)

ネタバレBOX

宗教裁判の中盤はついていけなくて、少々眠くなった。
史実を知らなかったので、ジャンヌが一度「改悛」をして、「はい」とうなずきサインするくだりはもどかしいし、「あれっ?」思った。入牢してから、再度自分を取り戻して、改悛撤回、火あぶりになる。第二次戦争直後に書かれたここの下りをどう解釈するか、私は混乱した。生き延びるより自分らしく死ぬことを選ぶのは、戦争中は勇敢な行為だが、平和になった後では、戦後社会への順応の拒否にならないか。
火あぶりのさなかに、「戴冠式がまだ演じていない。ジャンヌの物語の最後は、戴冠式でなければ!」ととボードリクールが客席後方から駆けつけて、「この芝居はハッピーエンドだ」と、場面は火あぶりから一転、戴冠式へ。なるほど(平和の時代の芝居らしい)と思う一方、あわただしいバタバタに少々唖然とさせられた
「アンチゴーヌ」が最高傑作。「ひばり」はそれに次ぐ傑作である。
こうもり

こうもり

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2023/12/06 (水) ~ 2023/12/12 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

おもしろかった。「ウインの森の物語」の曲を、中心のワルツに使っている気がする。屋敷と舞踏会と留置場と、3幕がそれぞれ全く違う話で、そこが面白い。でも何度も見てきて多少あきた感はある。新国立劇場にはそろそろ別のプロダクションを作ってほしい。

モモンバのくくり罠

モモンバのくくり罠

iaku

シアタートラム(東京都)

2023/11/24 (金) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

横山拓也らしい安心して楽しめる、アットホームで深みのある芝居だった。真澄(枝元萌)と夫(永滝元太郎)と娘(祷キララ)の、別居はしているが仲の良い家族かと思っていると、意外な裏が次々出てくる。夫がスナックを任せている沙良(橋爪未萠里)と実は…と。でもまた、そうおもわせておいて、沙良はその気がなくて、夫の片思いとか。

話の手が込んでいて、少し落ち着くと、また新しい情報でざわつかせ、最後まであきさせない。真澄が足が悪いのは、実は過去に事故があったせいで、それに隣人の俊介(八頭司悠友)が絡んでいるとか。

ネタバレBOX

後半は、そこまで父母の仲介役だった娘が、自分の母への恨みをぶちまける。ヤマ暮らしをしたい母が、自分に生き方を押し付けてきた。そのせいで自分は普通でなくなってしまった。町で普通の暮らしがしたいのに、できなくなったと。そこに、ヤマ暮らしを見学に来ていた健治(緒方晋)が、宗教二世の子の話をもちだす。なるほど隠しテーマがここにあったかと、感心した。

母子に、母の男(ここでは夫)、不倫?相手が絡むという人間関係は「あつい胸さわぎ」と共通する。不倫は、「あつい」では娘のボーイフレンドを奪うという形だが、どちらもコケットリーな女性を橋爪が演じてぴったりの雰囲気を出してくれる。家族と、過去のトラウマという作劇法でいえば「逢いに行くの、雨だけど」とも共通点がある。この二作は横山拓也の代表作だと思うので、彼の作劇の特色がよく出ている。
海をゆくもの

海をゆくもの

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2023/12/07 (木) ~ 2023/12/27 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

おもしろかった。小日向文世の悪魔役がすばらしい。他のうらぶれたガサツな労働者たちと違い、嫌みなスマートぶりが絶品。弟役の平田満と二人っきりになったとき、正体を現して魂を懸けた勝負を挑む。ぞっとするような怖さがあった。
上演3時間(休憩20分)

ネタバレBOX

最後のどんでん返しも素晴らしい。浅野和之が登場してからずっと探していた眼鏡を、ひょいと見つけることで、勝負の結果をガラッと変えてしまう。見間違いには爆笑だった。この舞台の笑いは浅野の細かい所作が多くを担っており、素晴らしい喜劇訳者だ。捨て台詞して去る悪魔に、悪魔とは知らない兄が「ナンダ未練たらたらじゃないか」と毒づくのも笑えた。

神の恩寵で、最後は悪魔が負ける展開は「ファウスト」だと思った。パンフを見ると、ポーカーに悪魔が参加して最後は負けるというアイルランドの「ヘルファイア・クラブ」の民話がある。それを作者はもとにしたそうだ。でも「ファウスト」も似ている。
東京ローズ

東京ローズ

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2023/12/07 (木) ~ 2023/12/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

アイバ・郁子・トグリは、戦争中、米軍向け「戦意喪失」放送でDJをつとめたアメリカ生まれの日系二世。UCLAを卒業し、医学部の大学院への進学が決まっていたという、当時としては超がつく才媛である。ちょうど叔母の見舞いのために日本に来ていて、日米開戦で帰国できなくなった。戦争中も特高の圧迫に抵抗してアメリカ市民権を手放さなかったのに、それが災いして、戦後米国で国家反逆罪に問われ、禁固10年、市民権はく奪の判決を受ける。なんという悲劇、なんという不条理。この人生だけでも最高のドラマの素材だ。

米穀からの来日、叔母の家、帰国失敗、同盟通信勤め、ラジオ東京勤めときて、戦後はDJ「東京ローズ」を探す米週刊誌記者の誘いに乗って、2000ドル(3万円=日本円で3年分の給料)という報酬と引き換えに「自分は東京ローズ」という契約書にサインし、インタビューを受ける。記事でも、そして裁判でも「真実はわかってもらえる」という甘い考えが裏目に出て、米国の裏切り者探しのスケープゴートにされてしまう。

6人の女優たちの芝居。主人公のアイバを、6人がバトンリレーのようにして交代で演じる。シルビア・グラブの演技がぴピカイチである。ドラマの一番のかなめである戦後、「東京ローズ」とみなされ、米国で有罪判決を受け、刑期短縮で6年で出所するまでを担っている。孤立無援のたたかいを歌う「クロスファイヤー」の重苦しいうめきのような歌も迫力があった。
70年代になって、全米日系人協会が支援を決め、フォード大統領の恩赦が出る。どん底からの逆転勝利の喜びは、歌も大いに盛り上がり、涙が出た。

他の女優は名前は知らないが、パンフを見ると、私が見た舞台にも出ている人が多い。いわば隠れた実力派ぞろい。叔母を演じた飯野めぐみが、拘留中のアイバに面会に来た時の歌がよかった。弁護士コリンズと最後のアイバを演じた森加織も、苦しくてもあきらめない正義派の感じがよく出ていた。最初のアイバと、平ラジオ局員を演じた山本咲希は小柄なのが目立ったが、まだ現役の学生とは驚いた。
2時間半、休憩15分込み

ネタバレBOX

舞台の感想を書こうとして、どうしても概説的なことが先に立ってしまう。ここにこの芝居の難しさがある。救いは全編ミュージカルになっていること。出来事の説明の場面が続くので、音楽がなければトグリ人生のエトキのような芝居になっただろう(民藝、俳優座、文学座など老舗劇団でもこういう芝居はあった)。

先日の青年座「同盟通信」(作・古川健)で、アメリカに帰国できなくなった女性タイピストが出ていた。あれがアイバ・トグリか!と、予想もしなかった二つの芝居のつながりに驚いた。(アイバのほかにも、同じ境遇の二世の女性はいたのかもしれないが)
「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」

「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」

名取事務所

「劇」小劇場(東京都)

2023/11/17 (金) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

屠殺人ブッチャーを拝見。 かつて ラビニア (架空の国、もとソ連の一国か)で残虐な拷問を行った男(高山春夫)に対して、 若い女(万里紗)が 復讐を始める。 その冷酷さが怖い。 最初は何も関係なく見えた若い男(西尾友樹)が、実は意外な関係があって事態に巻き込まれる。その過程がスリリング。最後に どんでん返しもあり、息をつかせない。
100分とコンパクトだが、最後まで緊張感に満ちた 芝居だった。

ネタバレBOX

高山春夫は最後までラビニア語しかしゃべらない。スラブ系の響きがあるが架空の国の言葉なので、いわば出鱈目ことば。結構な分量のセリフだが、こういう出鱈目を覚えるのは極めて大変だ。台本通りに覚えていたのか、適当にアドリブなのか。余計な世話だが少々気になる。

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