実演鑑賞
満足度★★★★
山本周五郎の最後の長編小説「ながい坂」を劇化。江戸時代の某藩(信州か飛騨あたりのイメージ)の平侍の少年(将来の三浦主水正=武藤広岳)が、16歳にして、その才覚を藩主‣昌治(=志村東吾)に見込まれ、若くして藩政の立て直しと治水工事の責任者に抜擢される。と同時に、藩の世継ぎをめぐるお家騒動が先々代から続いており、三浦は23、24歳で、なぜか治水工事は中止を命じられ、反藩主派に命を狙われる窮地に立たされる。
8歳で入門を願い出た恩師谷宗岳(武田光太郎)との絆、同じ門下の三羽烏の衝突と友情、城代家老の娘つるの嫁入り、幼馴染の娘ななえとの思いやりなど、20年近い人間模様の軌跡を3時間を超える舞台に仕上げた。場所も時間も異なる場面が次々展開し、テレビドラマか時代劇映画のような起伏ある物語である。時代劇では欠かせない力強い殺陣シーンもいくつもあり、主人公たちの刀さばきが見ごたえあった。
菅原道真が民の貧窮を詠んだ「寒草十首」の「何人に寒気早き」をひいて、貧しい民を大事にする政治の理想を語る。これは山本周五郎の原作にはなく、劇作家平石耕一の工夫だが、話の内容に大変マッチし、主題を深めていてよかった。主人公が、城代家老の息子(木村徹)に、「すべてをあたえられて育ったあんたと、みずから獲得した俺では、見えているものが違う」というくだりは、弱い者、貧しいものの目線から書き続けた山本周五郎らしいせりふだった。
チェロとオカリナの音楽(寺田テツオ担当)が、喜怒哀楽に寄り添って芝居を盛り上げて大変よかった。音楽が、その場その場の芝居の基調、色合いを決定するというほど重要な役割を果たしていた。