実演鑑賞
満足度★★★
期待の劇作家・演出家による、ゾルゲ事件の劇化だったが、不完全燃焼に終わった。ゾルゲや尾崎など、直接の当事者でなく、事件を末端で協力していた(らしい)4人の男と、それを取り調べる2人の男。終始暗い舞台で、腹の探り合いのようなやり取りが多い。思想犯なのに、独房でなく、簡易ベッド付き(!)の隔離部屋。ベッドを使う回想場面の為にこういう作りにしたのだろうが、戦前の拘留施設にベッドはおかしい。そこは作者も分かっていて、特高を快くなく思っている憲兵隊が貸してくれた傷病兵の隔離部屋、ということになっている。なんと回りくどい。
警察の一部が、特高に反発し、対抗して取り調べるという設定も違和感が大きい。自宅や職場で逮捕した人間の顔と名前が一致しないというのも、ありそうにない。
アカの動向を探るためにキリスト教会に潜伏という設定も首をかしげる。戦前戦中、共産主義者は宗教を嫌い、普通は教会にいったりしない(と思う)。
一番の問題は、ゾルゲ事件の本体がよくわからないうえに、登場人物たちのゾルゲ一団での役割もほのめかし程度でぼんやりしていること。事件は共産主義を信じる者たちが、ソ連防衛のために結束したスパイ活動だったし、尾崎は戦争回避も願っていたと思う。にもかかわらず、木下順二がゾルゲ事件を描いた「オットーと呼ばれた日本人」のような思想的葛藤や強い信念がないのも残念。