裸足で散歩
シーエイティプロデュース
自由劇場(東京都)
2022/09/17 (土) ~ 2022/09/29 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
生真面目な弁護士の夫ポール(加藤和樹)と、細かいことは気にしない明るい妻コリー(高田夏帆)の新婚家庭。コリーが決めた、階段でのぼる最上階5階の新居に引っ越してきた。まだ家具は届かず、天窓のガラスは破れて、すこぶる居心地悪い。務めて陽気にふるまうコリーに振り回されて、ポールは少々疲れ気味。コリーの母バンクス夫人(戸田恵子)が、新居をのぞきにやってくる。コリーの不安は杞憂におわり、母も新居を気に入った。さらに上の屋根裏部屋に住む、ちょっとおかしなヴェラスコ(松尾貴史)があらわれる。コリーは母とヴェラスコの二人をお見合いさせようと、金曜(翌日?)のホームパーティーに呼ぶ。
全3幕で、2回休憩(15分と10分)。休憩込み2時間45分
初舞台という高田夏帆の、かわいくて天真爛漫だけどちょっと度がすぎる過剰な若さがよかった。舞台を明るくする。なれないアルメニア料理店から帰って、加藤和樹と戸田恵子が倒れこむ滑稽さも最高。このなかでは松尾貴史が普通の人に見えるからおかしい。
夜の女たち【9月3日~8日公演中止】
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2022/09/03 (土) ~ 2022/09/19 (月)公演終了
実演鑑賞
原作映画は70分、この舞台は休憩込み2時間45分。映画のストーリーを忠実に辿りながら要所要所に歌を折り込み、群唱ともいうべきフィナーレを4回入れた分、膨らんだ。リプライズするフィナーレの「夜の女たち」のコーラス場面が良かった。
エル・スール
トム・プロジェクト
俳優座劇場(東京都)
2022/09/21 (水) ~ 2022/09/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
昭和33年の西鉄ライオンズの、日本シリーズ対巨人戦、3連敗後の4連勝の奇跡の3連覇の実況中継から始まる。当時の西鉄ナインを懐かしむキヨシ老人(たかお鷹)の周りに、昔懐かしい人びとが次々現れ、一気に昭和32年へ。目隠しの壁が吊り上げられると、そこはアサガオが一面に咲く長屋裏の一角。西鉄と映画と赤線(売春禁止法施行直前)の活気に満ちた博多の長屋住まいの人々の、けなしあいながらいたわりあう人情の濃い世界が立ち現れる。
キップのいい姉御肌で熱烈西鉄ファンのスズエ(藤吉久美子)、映画監督にいつかなると言いながらケチな盗みを繰り返すトモ(清水伸)、トンボをいつも担いでいる朝鮮人の中学生のヒロコ(斉藤美友季)。そしてヒロポンをやめられないパンパン(娼婦)だけど、キヨシを「小僧!」とよんで可愛がってくれる、根は明るくて優しいユカリ(森川由樹)。彼らに囲まれるキヨシだけが、64年後の老人の格好をしたたかお鷹のまま、小学5年を演じるギャップが笑いとペーソスをうむ。
出会いがあれば別れがある。手製の布製グローブ、「ローマの休日」の名シーン、映画のロハ見、消えゆく赤線、おとなのフーセン等々、時代のアイテムを散りばめて笑いに変える。開発で壊される前の博多の長屋街を舞台にしたシンプルで切ない人情喜劇だった。
マニラ瑞穂記
文学座
文学座アトリエ(東京都)
2022/09/06 (火) ~ 2022/09/20 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
高崎領事役の浅野雅博はじめ、いい俳優がそろっている。明治末期のマニラという特殊な場面を、そこに確かに生きた人の存在感と歴史の厚みを持って現出させた。昨年、新国立劇場演劇研修所の修了公演で見て、それはそれでよかったが、文学座はやはり格が違う(いまさらな感想を失礼!)。
それぞれの人物がしっかりしていた。特に女たちは同じような境遇でいて、全然違って5人5様。もん(鈴木結里)は無邪気な恋心が可愛く切ない。はま(鬼頭典子)は姉御肌。いち(下地沙知)は酒におぼれて、自暴自棄から平穏を引っ掻き回す厄介者。タキ(鹿野真央)は男にもてるのに、男に持たれず凛としている。くに(増岡裕子)はおせっかいもの。最初の顔中すすだらけの海賊のようなぼろ姿から、着替えた後のきれいどころへの変身が鮮やかだった。
「南洋の海をコップでくむような、キリもないことを人間は繰り返している。」
「あの人は若い。理想がある…わたしもむかしはそうだった」
「日本人は夢が好きだ。理想が好きだ。しかしわれわれ日本人には、理想とか主義とかを、本気で最後までやり通す能力があるんだろうか」「日本人は夢を持つのが好きだ、その夢に熱狂して酔うのが好きだ」
などなど、いいセリフがちりばめられている。
ヘンリー八世
彩の国さいたま芸術劇場
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)
2022/09/16 (金) ~ 2022/09/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、見応え、聴き応えのある芝居だった。なんといっても吉田鋼太郎演じる枢機卿の欲望、陰謀と王への追従ぶり、それをすべて失う失脚のおそれと、哀れと絶望の生々しさが素晴らしい。失脚の場面では阿部寛のヘンリー8世と互角に対していた。宮本裕子のキャサリン王妃の裁判を拒否する威厳と苛立ち、離婚されて死んでいく最後の悲しみも良かった。このように、場面場面がくっきり描きこまれて、その人物の喜怒哀楽が舞台上に現出するのは、さすがシェークスピアだ。吉田鋼太郎の演出もメリハリがはっきりしている。(2年前の初演は「わかりやすくしすぎた」と、キャサリン派と枢機卿派の色分けなど表に見せないものも今回は多かったが)
阿部寛は、そこにいるだけで舞台を圧する存在なので、絶対君主ヘンリー8世として文句ない。ただ誠実なキャサリン王妃を見捨てて、アン・ブリンに乗り換えるのが、「我が良心の痛みのため」と切々と訴えるのが、本心なのか、演技なのか。王の威厳の裏の本心はなかなか見えづらかった。王とはそういうものかもしれない。(これも初演のときは、もっと苦悩する王として演じたらしい)
音楽、美術、衣装も素晴らしい。この舞台でしか味わえない特別の空間を作ってくれた。3時間5分(休憩15分込み)。初日だったこともあり、客席も早くから、惜しみないスタンディング・オベーションだった
豚と真珠湾
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2022/09/09 (金) ~ 2022/09/18 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
敗戦直後の1945年11月から1950年の朝鮮戦争激化までの、石垣島の群像を描く。登場人物は13人だが、一人一人が背負っているものが違い、かなり濃い存在なので、非常に多く感じる。元転向の傷を持つ八重山のインテリ、比嘉長輝を演じた矢野貴大が存在感があった。若いのに見事な老けメイクで好演。駐在巡査演じた船津基は、虎の威を借る小心ぶりが笑いを誘った。
最初は八重山言葉が目立って分かりにくいが、次第に方言は減っていく(ように感じた)。八重山が、沖縄の中でもまた状況が違っており、知らないことばかりだった。米軍軍政がウチナーグチの教科書作りを命じたが、長輝が「方言は文化だが、共通語は文明」と、反対したのは、言葉を巡る複雑さを考えさせる。
小作人組合を作るための芝居が成功して、小作人が「団結」して地主と交渉し、小作料を三分の一にする要求が通ったというのも小気味良い。日本から切り離された沖縄で、農地改革がなく、地主制がのこったというのも盲点だった。
舞台の背景に、南北を逆にして石垣島を中心にした東シナ地域の地図がずっと掲げられていた。いかに東京は遠く、台湾、中国上海はすぐそこか、一目でわかる。そういう場所での歴史と人間たちということで、東京からでは見えないものがある。
劇の後半、日本や政府、日本人に問いかけるセリフを、相手役ではなく、あえて客席に向けて語っていた。どきりとする演出だが、論点が多く、残念ながら覚えていない。
2時間半(休憩15分込み)
青ひげ公の城
Project Nyx
ザ・スズナリ(東京都)
2022/09/08 (木) ~ 2022/09/19 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
芝居は虚構だ、ごっこ遊びだということを前面に、おもちゃ箱をひっくり返した(そういうセリフもある)ような芝居。「台本を人生でけがすな」のセリフも。この美しい(そして儚い)ウソに現実の塵埃など持ち込むなということだ。女性の脚線美と、あらわな姿もたっぷり見せて、芝居を使って遊び倒した寺山修司の満足げにニヤリとする顔が浮かぶ。
青ひげ公の7人目の妻になるために、やってきた少女ユディット(今川宇宙)、舞台監督(小谷佳加)の指図で、まずは出番を待つ。それは、6人の妻が殺されるのを待つこと。浴室ので全裸の第一の妻(日下由美)、太ってギラついた第二の妻(のぐち和美)…空中の輪に宙吊りになって新体操のような妙技を見せる第四の妻(若林美保)、「ひばり」のジャンヌダルクを演じ、古今東西の芝生についての名セリフを披露する第5の妻(水嶋カンナ)などなど。アリスとテレスの双子や、アコーディオンとバイオリンで音楽を添える二人。そして何より、見事なマジックで舞台回しを務める奇術師の渋谷駿。
羅列的な紹介になってしまうけれど、マジック、ダンスレビュー、歌、エアリアル芸、半裸ショー(人魚姫も)、大仕掛けのマジック、地下からの花吹雪と、グロくて華やかなパフォーマンス次々繰り出す。見事な演出、サービス精神だった。スズナリの狭い舞台を目一杯に広く使うスペクタクル(見世物小屋)だった。
COLOR
ホリプロ
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2022/09/05 (月) ~ 2022/09/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
交通事故で記憶喪失になった青年の混乱と回復、新たな生きる道の発見の物語。シンプルで淡彩のパステルカラーで描いたような舞台だった。舞台上の右から上部にかけてを覆う白い壁が、木のようにも、波のようにも、繭のようにも見える。そこに映像を映すことで、作品を視覚的にも膨らませる。
青年(成河)と母(濱田めぐみ)、父、編集者、友人(浦井健治)の回を見た。全編に歌がたっぷりあって、85分と短いが、濃密な音楽劇になっているピアノとパカッションの生演奏。。最初のうち、青年の歌が音程を外したような、稚拙な旋律になっているのが、記憶喪失の戸惑いをよく示している。母の嘆き、喜び、青年の右往左往も歌があることで、情景の積み重ねや説明抜きに、観客に伝わってくる。
ユーフォ―キャッチャーにつめこまれた動物のぬいぐるみたちが、記憶のない世界に閉じ込められた自分に重なる場面が面白かった。
豪華キャスト(母は、柚希礼音とのWキャスト)からすれば新国立の小劇場という小さい空間でやったのはぜいたく。でも新国立の小劇場でもまだこの芝居には大きく感じた。100-200人の劇場で、俳優の息吹をもっと近く感じれば、母子の悩み、父の強さが一層濃密に迫ったと思う。
Show me Shoot me
やみ・あがりシアター
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2022/09/02 (金) ~ 2022/09/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
冒頭の夫婦漫才(「三鷹はいい街ですよね。××もあるし、△△もある」「それ吉祥寺のことだよ」)からはじまって、コントを次々とつなげたような芝居。隣に越してきた関西弁乗りの夫婦、会社の喫煙室での会話、OL二人のランチ風景、社宅に住む兄とヴォーカロイド作曲家の妹、性格の悪い彼女と「一日一善」がモットーの彼氏、読み聞かせ会の子どもたち。
関西弁夫婦に押されて、自信をなくした根暗の漫才夫婦の危機を軸に、いい年したOLのカブトムシ取りや、おじさんの早朝ランニング風景なども織り交ぜていく。ばかばかしい話なのだが、俳優たちがそれぞれ個性的なキャラを熱演していた。その中にあって、根暗の漫才夫婦が、終始どよーんとした雰囲気をまとわせていたのが、コントラストをつけるともいえるし、足を引っ張るともいえる。関西弁妻のさんなぎの迫力が目立つが、おとなしいけれど漫才の妻役の加藤睦望の天然ボケの感じもよかった。
『Q』:A Night At The Kabuki【7月29日~31日公演中止】
NODA・MAP
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2022/07/29 (金) ~ 2022/09/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
初演で2度見たので、3度目の観劇。それからのロミオ(上川隆也)が言う「戦争が終わった日に、戦争は終わらない」の科白が、今回は響いた。Queenの曲に三味線ヴァージョンがあったり、ラストにはボヘミアン・ラプソディのインスツルメンツ版が流れたり、相当この芝居のためにアレンジしてある。たいしたものである。
加担者
オフィスコットーネ
駅前劇場(東京都)
2022/08/26 (金) ~ 2022/09/05 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
デュレンマットの戯曲は政治的寓話劇である。硬派で政治的なドイツ演劇の系譜に位置すると言っていいだろう。本作で面白かったのは、ボス(外山誠二)の「インテリは自分も現実を生きているくせに、理想の国から批判する。罪を感じているのに、自分は無罪だと主張する」という、手厳しいインテリ批判。しかしそれは作者自身の姿でもある。絶世の美女アン(月船さらら)が、なぜ何の魅力も感じられないドク(小須田康人)を好きになるのか、それが説得力がないのが残念。
寓意や作者の世界観が前面に出て、すべてはそうあるように展開し、驚きや謎がない。ドラマより思想優先の作劇は、やたら独白(観客に直接語る独白。傍白ではない)が多いことにも表れている。そういえば、冒頭からドクの長い独白だった。独白、独白、独白。
主要登場人物の3人の名がドク、ボス、コップと役割から来たニックネームでしかないところにも、この作品の抽象的性格が表れている。「大統領は殺しても遺体は残す、「国葬」の楽しみを国民から奪わないため」というセリフはあるが、それが安倍元首相の国葬とリンクするから現代的というわけではないだろう。
帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)
劇団チョコレートケーキ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2022/08/17 (水) ~ 2022/09/04 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
沖縄戦の構図は、最近発掘された護郷隊の少年たちのことも取り入れて、アップデートされている。暗いガマの中ですべての劇が進む(たまに入り口から外に出るくらい)。そこに日本軍対沖縄県民、皇民化教育、ひめゆり部隊の悲劇から「命どぅ宝」の生きる思想に行きつく。満席の客席で、クライマックスではあちこちですすり泣きの声が漏れていた。
紅一点、ひめゆりの一人(清水緑)がこの芝居のかなめだ。「日本人として立派に死ぬ」ことにしがみつき続ける姿に、沖縄の悲劇の深さが凝縮されていた。性急に美しい死にあこがれるのは若さ故でもある(『戦争は女の顔をしていない』の元女性兵士たちもほとんど10代だった)。しかし、なぜそれほど日本人になりたいのか。そこには、沖縄を卑下する気持ちがあるだろう。すべての事大主義の根底にあるコンプレックスである。セリフには直接語られていないが、そういうことを思った。
ウチナンチュのおじい=防衛隊員を演じた大和田獏がよかった。ひょうひょうとした沖縄県民の実直さをよくしめしていた。扮装のせいもあり、大和田獏とわからずに見て、沖縄出身者かと思ったくらい。沖縄一中の教師(西尾友樹)が、熱血皇国教師だったのが今はつきものが落ちて戦争に批判的になっている。その変化が(なんとなくだが)軽いのが難点か。2時間(休憩なし)
ギラギラの月【8月26日~29日公演中止】
劇団テアトル・エコー
恵比寿・エコー劇場(東京都)
2022/08/26 (金) ~ 2022/09/05 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
竹〇惠子、萩〇望都ら「花の24年組」と呼ばれた少女漫画家たちの青春群像と、三億円事件をからめた発想がまず面白い。コメディーの得意なテアトル・エコーらしい、笑いに満ちた元気のある芝居だった。
舞台いっぱいに二階建て木造アパートを再現したセットに、まわりは練馬名物キャベツというのがユーモラス。デビューめざして一緒に漫画家修行する女性たちの、それぞれの個性もかき分け、演じ分けている。とくになんでも花びらをしょわせる少女趣味全開の大〇弓×(渡邊くらら)が可愛げがあって面白い。さらに時代に取り越された元貸本漫画家の山本(重田千穂子)が、舞台を活気づける異分子=トリックスターとしてしょっちゅう騒動と笑いを起こす。
夢と不安でいっぱいの昭和の青春群像劇としてなによりおもしろい。大手編集部の気に入られるような漫画を描こうと四苦八苦するメンバーに、クールな新人編集者が「もっとハッとさせてほしいんですよね。3億円事件は日本中をハッとさせたじゃないですか」と「かたにはまらないで」と注文するのが、一番のメッセージになっている。
中島淳彦の戯曲。3年前に58歳で亡くなったが、80本以上の戯曲をのこしたらしい。年4,5本を書いていた。生前は彼のことを知らなかった。去年あたりから、急に中島の名前を見るようになり、今回その戯曲による舞台を初めて見た。人間関係のくみたて、人物の個性の描き方が巧みで、とにかくセリフがうまい。笑いもあり、熱もある。これからまだ公演があるので、できるだけ足を運びたいと思った。
毛皮のヴィーナス
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2022/08/20 (土) ~ 2022/09/04 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
男と女、演出家と女優という前者優位の社会関係を、マゾヒズムはひっくり返す。女主人に奴隷として使えることを喜びとする男。高岡早紀と溝端淳平がこれらの役割にのめりこみ、時に入れ替わりながら、支配と服従、上位と下位のパワーゲームを繰り広げる。二人のち密なやり取り、水面下の主導権争いから目の離せない、知的でスリリングでエンターテインメントの舞台だった。しかも意外に笑いが多かった。高岡の高飛車ぶりや、現代の蓮っ葉女と19世紀の高貴な女性を一人で演じ分ける落差、溝端の当惑ぶりが笑いのツボをくすぐる。アメリカの作者はコメディーと言っているらしいが、それが日本の舞台でも実現することは珍しい成果だ。
高岡早紀のまさに体を張った演技、コントラストと落差が素晴らしかった。溝端も後半のマゾぶりがなまめかしい。女性から男性への復讐劇なのか、あるいは男性が自らの妄想の罠に落ちた自業自得の劇なのか。あるいは女性賛美という美名の裏にマッチョイムズを隠した男性優位劇なのか。一筋縄ではいかない芝居である。
世界は笑う【8月7日~8月11日昼まで公演中止】
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2022/08/07 (日) ~ 2022/08/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
前半は正攻法のリアリズムに徹した、わらいの絶えない人情喜劇だった。新宿の街角での、袖振り合うも他生の縁ともいえる、人々の人生のちょっとした交差(川端康成や、万引きした男=どちらも廣川三徳、傷痍軍人のアコーディオン引き=山内圭哉)。
セット変って、落ち目の喜劇劇団三角座の舞台へ。結核療養から帰った看板役者(大倉孝二)の、光の当たらない憤懣からのやさぐれぶり。緒川たまきのコメディエンヌぶりと、戦争未亡人(松雪泰子)に片思いの新人裏方の兄(瀬戸康史)のかけあい。ヒロポン中毒から脱出したコント作家志望の俳優の弟(千葉雄大)と恋人(伊藤沙里)。周囲も芸達者ぞろいで面白い。「どう台本おもしろい?」ときかれて、上の空の感じで「おう」と答える間合いだけで笑わせる(これは山内圭哉)。正統派リアリズムはケラにしては珍しいが、これはこれで見事で、前半だけでなんと2時間を飽きさせない。
20分休憩入れて3時間45分。特別な興行でもないのに、これだけ長い芝居は珍しい。しかし、最後まで充実した時間を過ごせる、たっぷりとした豊かな芝居だった。
スカラムーシュ・ジョーンズ あるいは or 七つの白い仮面
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2022/08/18 (木) ~ 2022/08/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
1899年の大みそかにカリブ海の島でジプシーの売春婦から生まれた「透き通るように白い肌」の男の100年の生涯を、一人芝居で語る。一人芝居というのは単調になりやすいが、さすが加藤健一、緩急自在に様々な登場人物を演じ分け、1時間40分を飽きさせない。舞台美術と照明、映像も効果的に使い、アフリカ、ベニス、ナチス時代、ロンドンなどの時代と背景を示す。舞台上の円形の台がパカっと割れて、ナチスのカギ十字とムッソリーニのイタリアの国旗がずらーーっと並ぶ趣向は工夫である。
ベニスでジプシーの一団の仲間になって、憲兵に捕まった娘を奪いに行く役を義侠心から引き受ける。憲兵隊で袋叩きに合いながら、目的を達するシーンはまず、第一のヤマ。床に這いつくばりながらの熱演。
そして、なんといっても最大のヤマは、クロアチアのナチスの強制収容所での、ユダヤ人犠牲者たちの墓穴掘りの道化。戦犯容疑を晴らす裁判での判事役とスカラムーシュのパントマイムは、この舞台の白眉だった。
コロナ禍が続くが、後半の初日の夜の客席は、8割5分の入り。大した人気である。芝居と言えば女性客が多いものだが、加藤健一の芝居は男性客も多い。
夢・桃中軒牛右衛門の【8月16日~17日公演中止】
流山児★事務所
小劇場B1(東京都)
2022/08/10 (水) ~ 2022/08/17 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
新劇合同プロジェクト「美しきものの伝説」に続く宮本研戯曲の観劇。こちらは対話に妙味少なく、出来事をなぞっていくようなつくり。最後の中国人学生(毛沢東)との会話が一番面白かった。とはいえ、これも宮崎滔天が学生の中国革命への考えを聞く、という形で、対話としてのぶつかりや発展はない。
もう一つの見どころは浪曲の師匠、桃中軒の病床での妻への愛と後悔を語る場面。これは、死んだ妻も三味線を持って再度現れる。師匠役の名演技だった。
歌を派手に使った場面で盛り上げるのが、長い展開の芝居を飽きさせないで見られた。「草枕」の那美モデルが、宮崎滔天妻の姉で、主要人物の一人として男まさりのキップの良さを振りまく。那美役の女優も、啖呵を切った威勢のいい演技で舞台を引っ張った。
HEISENBERG【Aキャスト全公演中止】
conSept
ザ・ポケット(東京都)
2022/07/29 (金) ~ 2022/08/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
孤独な魂の切ない触れ合いを描く。前半は小島聖の、恥隠しを秘めたハイテンションに引っ張られ、後半は平田満のいぶし銀の優しさに心動かされた。後味のいい芝居だった。
ロンドンの地下鉄駅で女(小島聖)が、ベンチの初老の男(平田満)に突然話しかける。しかも首筋にキスして。とにかく喋り続ける女と訝しむ男。女は男の店(肉屋)探し当ててデートに誘い出し、レストランではセックスを持ちかける。事後、「たまってたの?」という女に。「いや。おれはマスターベーションの達人だから」といなす男。そして女は、男にある要件を持ち出す。最初から狙いはそれだった。女には別れた恋人との間に19歳?の一人息子がいて、家を出て今米ニュージャージー州にいる。男は芽吹いた恋心が砕けるのを感じつつ、男の思いがけない提案が女の心を開く。
セットは簡素ながらも、ベンチやベッド、肉屋のカウンターなどを用いて、場面のリアリティを助ける。俳優が舞台奥で着替えるのも悪くない。
男のセリフ「個性や人格なんてものはない。人は自分のしてきたことの集まりにすぎない」「人は自分が何かを気にしすぎだ。何をするかを考えたほうがいい」が、人生論として広がりがある。思わずメモしたいいセリフだった。平野啓一郎の分人主義にも通じる。
りょうと上條恒彦のAパートを見る予定だったが、コロナでまさかの全部中止。急遽、当日券でBパートを見た。客席が6割の入りだったのは勿体なかった。
ひとつオノレのツルハシで
MyrtleArts
ザムザ阿佐谷(東京都)
2022/08/18 (木) ~ 2022/08/22 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
漱石と妻の夫婦喧嘩の最中に、突然転がり込んできたボロだらけの浮浪者風の青年。青年がエキセントリックに漱石の「坑夫」に食いつき、「他人の話ででっち上げただけ、己を掘れ」とツルハシを置いていく(らしい。少しうとうとしたので不正確)。
4年後、彼岸過迄を書いている漱石のもとに、再び青年がやってくる。「己を掘ってきた」という漱石に、青年は「狭苦しい話」「妻の本心とか、友だちとの仲違いとかどうでもいい」と、もっと深くて広い話を書けと批判する。青年は田中正造を尊敬し、この4年、行動を共にしてきたという。「谷中村には紫の炎がある、文学がある」。その正造が死んだと、臨終の言葉「鉱毒問題の本質からすれば、(正造の臨終の席に人々が集まった)ここもまた敵地」を繰り返し、その言葉に受けた衝撃を広げる…。
身の入らない支援者たち、言葉だけの同情者への「ここもまた敵地」の正造の言葉の刃を、漱石に突きつける作劇のポイント。青年が幻視する「紫の炎」に、たった一人でも自分の道を突き進む生き方、情熱、真実の人間の心を託す。
言葉は理屈っぽくて、核心になかなか触れずに仄めかしが多い。その分、消化しにくいが、要は書斎対現場、文学対行動の対立ということになる。1時間35分
頭痛肩こり樋口一葉
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2022/08/05 (金) ~ 2022/08/28 (日)公演終了